脱がしにやって来る大女の戦輪!

作者:大丁

 日付が変わって3時間たった。
 若い男性店員は、ビニール掛けの包みにしゃがみ込み、ヒモ切りカッターをあてがう。
 コンビニエンスストアでの、客のいない時間帯。雑誌コーナーに新刊を並べる作業中だったのだ。
 入店のチャイムはなっていない。
 それなのに、人の気配を感じ、青年は顔をあげた。
 棚一本ぶん離れたところにある、イートインコーナーのテーブルに、大きな尻がのっている。
 水着のようなものを着て、容姿は欧米人のようだが、あまりにも背が高い。
 踵が床にべったりとつくほどなのだ。
 大女は、指輪のはまった左手をひらひらさせながら、青年に微笑みかけた。
「い、いらっしゃい……ま」
 何かが飛んできたのを、青年は認識できない。
 あまりに速く、あまりに鋭いために、制服も下着も細切れにしていった。
 ポロリ、と。
 ヒモ切りカッターが手から落ちる。

「女罪人のエインヘリアルね。戦ったことあるわよ」
 黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)が言い当てたので、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)も頷いた。
「そうなのぉ。女性も、罪人も、エインヘリアルでは珍しくなくなったよね」
 調査の結果から導かれた予知は、すぐさまケルベロスの集まっている場で発表された。
 過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者。放置すれば多くの人々の命が無残に奪われるばかりか、人々に恐怖と憎悪をもたらし、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせることも考えられる。
 冬美は、敵の武器はマインドリングだと説明した。
「明け方のコンビニエンスストアに出現する、女罪人エインヘリアルの使うマインドスラッシャーは、ケルベロスにも馴染みのあるもの。離れた複数の対象に、リングから光の戦輪を具現化し、飛ばしてくるアレね。被害者の店員は、服破りにはあったけれども、命に別状はない。脱がしたあと、なにかするつもりみたいだけど、どのみち殺されてしまう」
 そう聞いた者のなかから、ざわめきも起こったが、紫織はあくまで平静だ。
「間に合うのよね? 女罪人を倒せばいいと思うわ」
 冬美はまた頷く。
「もちろん! 駆け付けられるのは、青年が脱がされた後だけど、あいだに割って入る時間も空間も十分だから。レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)

■リプレイ

●来店者
 自動ドアが開いた。
 入店チャイムがけたたましく、連続で鳴る。
 机の天面に腰かけていた大女は、横切ったものの眩しさに、目を細めた。
 エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が、光の翼で雑誌コーナーへと飛び去る。
 専用コートのはためきに、デウスエクスも悟った。
「おまえたち、ケルベロスじゃないか!」
「そのとおりだ。女のエインヘリアルさん」
 火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)が通せんぼし、新刊の包みのわきでポロリしている男性店員を、エメラルドが抱え上げる隙を作った。
 ふたりの連携で、救助が成功したのを確認すると、黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)は楽しげに笑う。
「罪人の片づけに来たのよ」
 向けられた紫の瞳には、嘲笑さえ込められていた。
 だが、大女は挑発にのってこない。
 全裸の青年が、ヴァルキュリアの女性にしっかりと抱き留められて、飲料のガラス戸の前を通る。
 ご馳走をかっさらわれたのには驚いただけで、また捕まえればよい。
 と、指輪をかざして余裕ぶられ、そのテーブルをケルベロスたちは取り囲む。
「オトコ襲って何するつもりだったのやら」
 陽大(ようだい)は、呪紋を顔に浮かばせながら、なおも揺さぶりをかける。
「あんたで試してもいいんだよ? 味わってから殺すから」
 うひょう、と身震いする声が、日用品の棚の上からした。日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)が、乗っかっている。
「獲物を美味しく頂いた後にって、カマキリみたいだな……」
 ふたりの男性ケルベロスは、顔を見合わせる。除・神月(猛拳・e16846)は、タンクトップとホットパンツのいずれも浅めに着こなして。
「春だしそーゆー気になるのは分かっけド、あたしの相手もしてくれヨ♪」
 肩掛けカバンからルーンアックスが出てきた。
「服を破りたいのなら、僕たちからでもいいでしょ?」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)は、全身にオウガメタルを纏わせる。
「もちろん、オンナも大歓迎さ。薄着のようだけど、もっと恥ずかしい恰好にしてあげる」
 マインドリングからは、再びスラッシャーが出現する。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は、素で呟いた。
「恥ずかしさもある意味、憎悪に繋がるですし、服から狙うのもデウスエクスにとっては合理的なのですかね……?」
 フィルムスーツにアームドフォートは、戦闘モードオンだ。店外からは、エンジン音も近づいてくる。
「理屈は合ってますね、機理原さん。だとしても、ロクなものではないですが……」
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は、黒服の袖にチェーンを巻き付け、日本刀を抜く。
 店の隅を見たところ、エメラルドはストック場に青年をかくまうようだ。ぶらさがった男から、ぶらさがるモノが戸口に消えた。
「早く細切れにしないといけませんね。敵の身全てを……行きましょうか」
 7人は、いっせいに詰め寄った。

●脱がしにきたもの
 蒼眞(そうま)は、日用品棚の上から跳躍した。『太陽機蹴落顕現(ヘリオンダイブ・リライト)』だ。
 天井に映った残霊、白いレインコートの胸の膨らみにボインと反射して、エインヘリアル女のバストに飛び込む。
「むきゅう。飛んで火に入る夏の虫……俺が?!」
 戦輪が、蒼眞を全裸にする。
 回転する凶器は、陽葉(あきは)にも襲いかかる。
「狙い断つ!」
 前腕のオウガメタルが刃に変形して、はじき返した。続いて紫織を狙うが、真理が庇う。
 前衛4人への列型攻撃は、さすがだ。フィルムスーツは剥がれて、あまり膨らんでいない胸が、罪人の目に留まった。
「あら、可愛いじゃないのさ。アンタもキープね」
 真理のカラダも女エインヘリアルのブラジャーに突っ込まれてしまう。蒼眞とは上下互い違い。
「むきゅきゅう」
「これは……蒼眞さんのです?!」
 まさかの水着の使用法に、陽葉も声をあげた。
「コンビニになんでその恰好かと、不思議だったけれども」
「大地の精霊よ!」
 紫織が召喚した砂の蔦、アースヴァインはフロアタイルを浮かせ、テーブルを巻き込んで敵の脚を縛めた。
 雑誌棚の設置された大窓を突き破って、真理のライドキャリバー、プライド・ワンが入ってくる。動けない相手に体当たりだ。
 シフカと神月は、刀と斧で、ブラジャーを破きにかかる。
 雷刃突も、ルーンディバイドも有効だったが、捕らわれた二人を助け出すには至らない。水着という認識は、店員の男性から見たもので、星霊甲冑なのかもしれなかった。
 黒服とタンクトップは、レジを壊しながら、カウンターの奥に倒れ込む。
 魔人降臨を得て、上半身裸になった陽大は、もはや店舗への被害を抑えるのは、諦めた。
「うおらああ!」
 呪紋全開でヌンチャク型如意棒を振り回す。
 戦闘音が響いてくる狭いストック場。
 全裸の青年を前にして、エメラルドはコートを脱いだ。
 ビキニアーマーがあらわになる。
「お、お客さんも、痴女なんです……か?」
「痴女ではない! ……事態を飲み込めていないようだから、説明しよう」
 まずは、コートを掛けてやった。
 店のレジに飛んでくる、戦輪。
 女エインヘリアルは、座ったまま指先で弄ぶようにして操った。神月のホットパンツの、チャックにそって尻までまわる。
 シフカの絶空斬が、1枚は割る。背後からの1枚が迫ると、刀を振り抜いた姿勢で素っ裸だ。
 棒ヌンチャクをすり抜け、陽大も脱げると、大女は満足そうに舌なめずりする。
「どう? 憎悪した? それとも恐怖した?」
 タンクトップから両乳房をはみ出させて、カウンターを越えてきた神月は、呪紋に覆われた肉体に抱きついた。
「あたしらはナー。テメーみてーな、服破り使いは慣れっこなんだゼ」
 すでに起き上がりかけの陽大を掴んで、しごきだす。本人は、こういう人だからな、とされるに任せている。
「お前も月ニ、狂ってみるカ?」
 大女は怪しんだのに、目の色が変わると、蔦を払って尻をテーブルの端からずらしてきた。
 戦輪を操り、自分の水着を裂く。
 陽大は、ため息をついたあと、斉天截拳撃に劣らぬ激しさの棒でせめ始める。
「敵じゃなきゃな……オラオラオラァ!」
「アラぁ、スゴイじゃないの、あふう」
 催眠、神月の『ルナティックエナジー』が効いている。
 出されて、陽大を抜かれると、神月からはアックスの柄を突っ込まれた。
「エインヘリアルでも、ちゃんと女なんだナー?」
 大女が下半身に夢中になっている間にシフカは、大きいブラの裂けたところから、真理と蒼眞のくっついたのを引っ張りだした。
 抑えを失ってユサユサ揺れる、女エインヘリアルの巨乳。その、ハートを目掛け、商品棚の並びを斜めに横切って、矢が突き立つ。
 ストック場からの戸口に立つ、エメラルドの妖精弓から放たれたものだ。
「店員殿は安全だ。早期撃破を狙おう!」
 凛々しきビキニ型の鎧。陽葉は、どこか得心のいった顔で、攻め手側に並んだ。
「エメラルド……、キミも水着でコンビニに来てたんだもんね」
 メタルの礫を使ってのクイックドロウ。浮遊している戦輪を撃墜していく。
 胸をかきむしる大女に、紫織はペトリフィケイションの光線を放った。苦しむ指さえ、動きを無くしていく。
「けほっ、んん……濃いです」
 真理は口元を拭って、身を起こした。
 ケルベロスは攻勢に出ているようだが、今回の布陣には回復役を置いていない。戦闘序盤でのダメージは軽視できなかった。
「守り続ける事が、私の戦いなのです……!」
 『ヒールドローン近接防衛陣形(ヒールドローン・ディフェンドフォーメーション)』は、自律機を各自の状態に合わせて密集させる運用方法だ。
 まずは前衛へと派遣する。
 すぐそばで、しなびて横になっていた蒼眞には、赤と銀による、集中的な前後動がなされた。出力される前に解除する。
「おーい。寸止めとは辛い。……けど、おかげで立てるようになったぜ」
 蒼眞は、禁縄禁縛呪を放って、大女の上体を押さえる。新たな捕縛で、背中をテーブルの天面にべったりと付けさせた。
 のけぞった顔の側にまわると、あんぐりと開いた口が、ぱくぱくと動いて何かを伝えてきた。
 少し考えてから、蒼眞は応える。
「俺は、たとえ敵でも、女性の顔への攻撃は避ける。だから……」
 先ほど、エメラルドが胸に当てたのは、ハートクエイクアローだった。効果はこれも、催眠である。
 下半身の相手はまた、陽大に交代している。床に固定したテーブル脚がミシミシいうほど腰を動かしていた。
「だから、これは攻撃ではない!」
 今また口に、せがまれたのだ。ついうっかり真理に出してしまったものを。
 敵は堕ちたわけではないので、背を机に預けた姿勢でも、戦輪を操っている。店舗の各売り場で応戦と、遠距離砲撃がなされるなか、蒼眞は挿入した。
 味方がバッドステータス付与を重ねて、有利に立ち回った結果なのである。
「……何も間違ってはいない、よな……?」

●夜明けにはまだ
「あああ、もっと、もっとぅ」
 罪人の女は、抜かれたあとでも、独りでよがっていた。
「過去のなにかが、呼び覚まされたのね」
 紫織はそう言うが、特に踏み込んで知ろうとは思わない。
 無貌の従属、混沌なる粘菌を侵食させた、悪夢にすぎないからだ。
「とどめを刺してやろうぜ」
 陽大の声には呆れと、僅かな同情が感じられた。
 再び、8人でテーブルに詰め寄り、グラビティを加えると、星霊甲冑は細切れになり、デウスエクスは無に帰っていった。
 紫織の服は、陽葉らディフェンダー陣に守られて無事だったけれども、庇った陽葉はオウガメタルを解除したとたん、そうはいかない。
 慌てもせずに、シフカに手を出す。
 フフッと笑ってから、自分のものより先に、着替えを出してくれた。
 身支度を整えると、ストア周辺への見回りに、紫織と陽葉は出る。
 割れた大窓と、棚やカウンターは、真理のヒールドローンが修理している。
「結局、汚しちまったなぁ」
 床に飛び散ったドロドロに、陽大は頭をかいた。
 棚から崩れて、潰れた商品を前に、蒼眞が提案する。
「ケルベロスカードを渡して買い取るぜ。幻想化したものを元の値段で売るのは無理があるだろうからな……」
 真理やエメラルド、陽大に神月もいい考えだと頷く。
 相談している5人が、全員全裸でなきゃ、もっといい場面なのだが。
「では、店が片付いてからのつもりだったが、店員殿を連れてこよう」
「新しい商品の並べも手伝うです」
 ストック場からは、従業員の更衣室に通じており、店員男性はそこで通勤時の格好になっていた。
「ありがとうございます。……そちらのかたも、ケルベロスさんなんですよね?」
 エメラルドはコートを返してもらったが、真理は裸身のまま、男性に接していた。と、本人も声をかけられて気が付く。
「は、はいです。お店のことで、お話が……です」
 身をよじると、よけい恥ずかしい。青年も下着を失っており、直履きのジーンズの前が膨らんできていた。
「おいおい、貴殿ら、このような場所で……!」
 3人が売り場に戻ってくると、神月の前後に、陽大と蒼眞がアレコレしていた。
「オー。日用品とか、買い取ることにしたからナー。さっそく、ゴム製品を使ってんゼ♪」
「もう、汚さねぇから……ウッ!」
「あー。どんだけ出せるんだろ……俺」
 あたりに漂う、ルナティックヒール。店を直すに使ったのだろうが、一般人への影響は大きい。
「ここまで、大きくされたら、放置は申し訳ないのです」
「止むをえんな。真理殿、協力を求む」
「ええっ、やっぱり、あんたたちも、痴……!」
 脱がしにやって来る女たち。
「フフフ……」
 シフカは、元の黒服とほぼ同じ姿に戻っていた。
 早く脱げて、着るのは速い。皆の着替えは、テーブルに並べている。
 ひと段落がつくのを眺めて待った。大窓の外には、ライトをつけて走る車もちらほら見かける。
 闇から濃紺へと移っていく空。紫織は見上げて、ふと戦闘の最中に神月が言ったことを思い出した。
「慣れっこ……。服を破りたいエインヘリアル、増えてきたわね。どれだけいるのかしら?」
 心配してのつぶやきではない。陽葉も軽く首をふった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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