ステレオでカセットから音楽を聞かせる者

作者:塩田多弾砲

 ポータブルカセットプレーヤー。
 カセットテープという、旧式の方法で音楽媒体を再生させる、携帯式のオーディオ機器。『ウォークマン』という商品名が有名で、80年代には大流行した。
 そして、とある場所には。故障したカセットプレーヤーが詰められた箱が、いくつか放置されていた。
 それに小さなダモクレスが、かさこそと這いより、内部に入り込む。
「……さてと」
 その直後に入って来たのは、真っ黒なプロレス用マスクをした男、部亜九朗。
 ここは、『倉庫』。部亜は内部の埃っぽい空気をなるべく吸わないようにと、コーホーと静かに呼吸し、内部に積まれていたガラクタをかき回し始めた。
「やれやれ、まさかレスラー引退してから、牛丼屋受け継ぐとは思いもよらんかったよ。……カルビ丼もいいよなあ」
 などと言いつつ、
「……あ、あったあった。牛丼用の杓子。それとその他、業務用の道具諸々。残っててよかった……ん?」
 目当てのものを見つけた部亜は、突如現れた巨大なイヤホンに襲い掛かられた。
「なっ……!?」
 それは、倉庫の隅に立っていた、巨大なウォークマンから伸びていた。
 いや、それはただのウォークマンではない。一昔前の玩具のブリキロボのような頭部と、太いコード状の手足を持ち、胸部はカセットテープのデッキになっている。背中には、大量のカセットテープが入ったバックパック。巨大な触手状のイヤホンが複数、脚部からは伸びている。
 そしてそのイヤホンの一組は、部亜の両の耳に、頭蓋に、ぴったりと吸い付いていた。否、形はイヤホンであっても、一つの大きさが人の頭以上。スピーカーを直接耳に当てているかのようだ。
 進み出た巨大プレーヤーは、『すばらしい音楽を聞かせてやる』と言わんばかりに、自身のボディについたスイッチを、自身の手で入れた。
「ゲエーッ!」
 途端に、百万ホーンもかくやの大音響の音楽が、イヤホンからステレオで響いた。それはまるでシンフォニーを、地獄で聞かされているかのよう。
 そのまま頭部を破裂させ、倒れ動かなくなった部亜からイヤホンを回収した巨大プレーヤーは、
『カセ、カセ……』
 そんな言葉を呟きつつ、倉庫から出て行った。

「みなさん、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)さんが戦った、オークのプロレスラーの件は、覚えておいでッスか?」
 ダンテが言っているのは、少し前の事。閉鎖されたプロレス道場にて、プロレスラーのオークと戦った事件。
 今回の被害者、部亜九朗は、その道場の関係者らしい。現役時代はマスクマンレスラーとしてそれなりに活躍したが、加齢と体を壊したために引退。
「んで、牛丼屋を受け継いだッスが、前オーナーの倉庫の中に積まれていた、ポータブルカセットプレーヤーがダモクレス化し……ってな事のようッス」
 前オーナーもまた、若い頃にはレスラーだった(あまり知名度は高くはなかったが)。その後に電器屋や雑貨屋を経て、牛丼屋に。
 子供がいなかった前オーナーは、老齢に差し掛かり、そこそこ繁盛している牛丼屋の経営も引退。部亜に店の権利その他全てを譲り、そのまま他界。現在に至る。
 その前オーナーが放置していた倉庫に、今回のダモクレスが現れたのだ。
 故に、こいつを倒さねばならない。
「こいつは、ステレオ音をがなり立てるカセットプレーヤーが素体なので、『ステレオカセッター』、略称ステカセと呼ぶッス。で、脚部にイヤホンが内蔵されており……」
 それを犠牲者の耳に伸ばし、無理やり付け大音響の音を聞かせる……という攻撃を行う。
『音』は強烈な振動波と化して鼓膜を破り、脳そのもの、頭蓋すらも破壊してしまう。
 なので、このイヤホンを耳に装着されないようにせねばならない。
 が、イヤホンは生物の『耳』に当てずとも構わない。物体に直接当てて音を流せば……破壊できずともダメージを与えられる。
「ですが、音楽を放つためには、カセットテープが必要ッス」
 その音を放つには、一度につきカセット一つが必要。そして使うごとに、胸部デッキから取り出し、背部から新たなカセットを入れる必要がある。
「見たところ、カセットテープは数百本以上はあるっぽいス。カセット一巻を使い切るのは三分から五分くらいッスが、オートリバース機能で一度A面とB面をひっくり返すんで、トータルで六分から十分かかるッス」
 テープの入れ替えも、三秒程度。なので、テープ交換の隙を突いたり、テープを使い切るなどの戦法は避けた方が良いかもしれない。
 イヤホンは三人分、つまり六つのスピーカーがある。それらを避けて攻撃するしかないが、イヤホンの動きは素早く、接近戦をしかけるのはかなり困難。ボディも固く、射撃・砲撃も効果的ではない。
「ただ……こいつはカセットテープが無かったら、音攻撃は出来なくなるッス。なので、カセットをどうにかすると良いかもッス」
 ただし、格子状のバックパック自体も強固。
 であるから、むしろカセットテープの弱点を利用すべきかもしれない。
 すなわち……、

『カセットテープは磁気で録音しているため、強力な磁力や電磁波・電撃を当てると録音が消える(磁力や電磁波、または電撃や雷撃を放つグラビティで攻撃する)』
『高温多湿・直射日光の当たる場所に放置すると、テープが伸び歪むため、正確な再生ができにくくなる(大量の水を浴びせかけ、火炎系のグラビティで熱し湿気を)』
『テープに『カビ』や『埃』が付くと、デッキのヘッドが詰まって再生しにくくなる(微細な粉末・粉塵を大量に用意し、それを浴びせかける)』
『もちろん物理的な破壊もよい(テープを引っ張り出し切ってしまう、テープ自体を燃やしたり電撃で焼いたりなど)』

 といった戦法が有用になるだろう。
「とにかく……」
 このステレオカセット野郎を、なんとかしてくださいッス。ダンテは君たちにそう頼み、頭を下げた。
 君たちも、カセットテープやウォークマンといった一昔前の機械や媒体を用いての破壊や殺人など、許したくはない。このダモクレスを破壊するための算段を、頭の中で考え始めた。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)

■リプレイ

●サウンドのウェーブが響き始める
「へえ。あんたも、レスラー目指してるのかい?」
 マスク越しにコーホーと呼吸しつつ、部亜九朗は獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)に言葉をかけた。
「はい! それに、『ウォーベアー』選手の事は一番好きでした! 必殺技の『バロン・スペシャル』は、自分もリスペクトしてます!」
「それは光栄だ、ありがとう」
「あと、『ファイティングロボット』『バトルコンピューター』『冷酷凶器』『精密なる残虐レスラー』の異名通り、時に冷静で冷徹、時にパワフルで豪快なファイトスタイルは、今も覚えてます!」
「懐かしいな、その二つ名。忘れてたよ」
 少しばかり引いているが、嬉しそうでもある……と、銀子は感じていた。
 銀子自身もレスラーであり、同時にプロレス自体を愛するマニア。それゆえ、つい熱心に早口に語ってしまうが……、
(「……おっと、いけないいけない」)
 本来の目的を果たさねばと、思い直す。
 今、部亜は倉庫の入り口の前。そこで銀子が話しかけ、入るのを阻止している状況。
 銀子はファンを装い(実際ファンなのだが)語り掛け、気を引いて、倉庫に入れないように試みていた。
 それが無理ならば、強引にでも手伝いを申し出て一緒に入り込む。でなければ……、
『ステレオカセッター』、ダモクレスが彼を襲い、殺害してしまう。
 と、部亜が倉庫内に入りかけるのを見て、銀子は、
「あの、手伝います!」
「いや、いいよ。そこまで大変じゃないし……」
「でも、手伝いたいんです!」
「いや、大丈夫だよ。引退したとしてもそこまで非力じゃないし……」
「でも、手が多ければそれだけ早く済みます! お願いします、どうか手伝わせて下さい!」
「その気持ちだけで十分だよ。悪いが、遠慮してくれないか?」
「……あの、それでしたら。サインと、写真をお願いします!」
 できるだけ時間を稼ぎ、そして、強引にでも倉庫内に一緒に入り込み、彼を一人にさせないようにしなければ。
 サインを手帳とシャツとにしてもらい、写真も携帯に数枚撮り……、
「じゃあ、もういいかな」
 と、倉庫に入ろうとした、その時。
『……カセ……カセ……』
 倉庫内から、異様な声が聞こえて来た。

「……? なんだ?」
 部亜は『何かあったのか?』と、倉庫の内部へ目を凝らした。
 そして、銀子はすぐに……部亜の肩を後ろから掴み、引き戻した。
「なっ……? 何をする!」
「私たちはケルベロスです! 逃げて下さい!」
 そう言い放ち、部亜の前に立ち、倉庫内の『敵』へ身構える銀子。
 そして、銀子の言葉とともに、
「んうー……まちにまってた、でばんがきた、か?」
 小柄な少女のレプリカント、伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)と、
「おうさ! ここは任せな! 一発でぶっとばしてやるぜ!」
 色黒な肌と、不敵な笑みの凛々しき青年、ウォーレン・エルチェティン(砂塵の死霊術士・e03147)とが、銀子とともに敵の前に立つ。
「……あなたを助けたい。下がって、逃げてくれないか?」
 そして、戸惑っている部亜には、空鳴・熾彩(ドラゴニアンのブラックウィザード・e45238)が。
「……部亜さん、私は本当に、あなたのファンです。なので……下がっててください!」
 銀子の言葉に、
「……わ、わかった」
 ようやく状況を理解した部亜は、下がり、離れていった。
(「これで良し。あとは……」)
 敵を倒すだけ。うまくいけばいいがと、熾彩は逃げる部亜の姿を見つつ思った。

●ツインのキャストが立ち向かう
 倉庫内に入り込んだ四人は、『ステレオカセッター』を見据えていた。
 まさにそいつは、四角いだけの単純でシンプルなデザイン。箱を積み重ねただけの、ブリキのロボットのように見える。
 が、漂わせる『禍々しさ』は、尋常ではない。
 両腕は太いコードそのまま、両足はイヤホンのコードが絡まって構成されているかのよう。
 胴体にはカセットデッキと、そのスイッチらしきもの。
『カセ……カセ……』
 そいつ……『ステレオカセッター』こと『ステカセ』は、背中に手を伸ばし、カセットテープを取り出すと、素早く胸にセットした。
「あれか! ……よっし、勇名、銀子、打ち合わせ通りにいくぜ! 熾彩、サポート頼む!」
「おー、ウォーレン、獅子谷、まかせろー」
「ええ!」
「了解だ!」
 まずは、熾彩の持つガネーシャパズルから、光の蝶が飛び出し舞った。
 ヒーリングパピヨンが、仲間の第六感を呼び覚まし、仲間たちの感覚を鋭くさせていく。
「まずは、俺からだ! ……吹けよ、砂嵐! 来い、野郎ども!」
 倉庫内の埃っぽい空気が、ウォーレンの周囲で動き始めた。
 外の空気とも混ざり合い、澱んでいた内部の空気とともに、その場に『風』が生じる。
『ステカセ』は、いきなり吹き付けた『風』に、戸惑う様に立ち止まった。足からイヤホン……巨大な有線式スピーカーにしか見えないが……を伸ばそうとするも、『風』がそれを伸ばす事を許さない。
『風』は次第に『嵐』となり、『嵐』は倉庫内の塵や埃、外の土埃や砂塵、その他様々な、粒子の細かい土砂をも巻き込み……『砂嵐』と化していた。
『砂嵐』が、イヤホンに、『ステカセ』の本体に、直撃する。金属やプラスチックで構成されたその身体にも、砂が食い込み、浸食していくかのよう。
『カセ……! カセ……!』
 心なしか、焦燥しているような声をあげる『ステカセ』。
「……『子供たち』が、『理不尽に死なずに済む世界』を創るために……」
 砂嵐の中心で、携えていたドッグタグの鎖を持ち、小さなその金属片を掲げるウォーレン。さながらそれは、吸血鬼に十字架を掲げ、戦いを挑む聖職者のよう。
「……行くぜェ、野郎どもォッ!」
 ウォーレンの叫びに応え、亡霊めいた姿が多数、彼の周囲に出現した。
 それはまるで、死してもなお胸に秘めた、『理想』を実現せんとする覇王の軍勢がごとき佇まい。
 志半ばに倒れた同じ夢、同じ理想を語った同胞たちの想いを、今再びこの世に顕現させた、ウォーレン自身のグラビティ。その名も、
「『砂塵潤す硝煙弾雨(デザート・クルセイダー)』ッ! てめえらッ! 一斉射撃だ!」
 亡霊たちが構える『武器』。今回の得物は『放水銃』。
 ダモクレスを囲んだ彼らは、その発射口から一斉に『放水』を開始した。
「……水鉄砲と思ってたら大間違い、だぜぇ? 本来の『放水銃』ってのは『兵器』! 非致死性だが、消防車や巡視船に搭載されるくらい……『威力』も、『反動』も、桁違いの段違いだ!」
 まさに然り。放水銃の威力は非常に高く、火災の消火のみならず、暴徒鎮圧にも使用される。その水流は、人間に直撃すれば転倒のみならず、打撲を負わせ無力化させる事も可能。
 それは、ダモクレスも例外ではない。強烈な水流の一撃は、その身体を濡らすのみならず、『水』をも機械のボディに叩き付け、内部に浸食させていく。
『砂嵐』の『砂』と、『放水銃』の『水』! どちらも精密機械にとっては鬼門。
「オラ、このガラクタ野郎! テープ再生できるもんならしてみやがれ!」
 ウォーレンの煽りを受け、再生ボタンを押す『ステカセ』だが、胴体から響くはキュルキュルという故障めいた作動音。
 すぐにデッキを開くが、取り出したテープは、ごちゃごちゃ絡まっていた。
 それを投げ捨て、背中に手をまわし新たなテープを取り出す『ステカセ』。しかし、ほとんどが濡れていた。
 それでも入れて、スイッチを押すが、やはり再生は出来ない様子。
「ほんじゃ、つぎはぼくがいくよー」
 その隙に、勇名が駆け出した。
 頭部に装着した『ネジ』……エレメンタルボルトから、宿したその『力』を呼び覚まさせた彼女は、
 その『力』……宿した『電気属性』の力を、己の拳で握りしめる。
「……だっーしゅ。そして……」
 全身のバネを用い、一気に接近し、
「……びりびりーで……」
 強烈な電撃を纏わせた、小さな拳で、ストレートパンチを叩きこんだ。
 それは、
「……どかーん」
 大きな威力で、『ステカセ』の胸部に直撃し、固いボディをへこませ……、『ステカセ』の背中に背負った『カセットテープ』に、容赦なく電流を走らせていく。
『ボルトストライク』。
 勇名の放った電撃と拳撃を受け、『ステカセ』は後ろざまに吹き飛び、回転しつつ宙を舞い、床に転がった。
 カセットテープがばらけ、床に散らばる。
『カセ……カセ……』
 立ち上がるダモクレスだが、その姿には力強さはなかった。
「……これは……勝てる!」
 銀子は、自分が用意したペットボトルやスプリンクラーは、もう必要なさそうだと感じていた。
(「テープを破壊するのは、もったいないし残念だけど……ダモクレスの破壊はできそうね!」)
 勝ちが見え、止めを差さんと突撃した銀子。
 だが、『ステカセ』は、
 胸部デッキを開いてテープを投げ捨てると、
 近くの箱からまだ濡れていないテープを一本取り出し、素早くセットした。
「!?」
 そして、銀子が戸惑うより早く。
 足のイヤホンを、放つようにして伸ばした!

●ノイズのメイズに迷う
「あぶないっ!」
 ぎりぎりで、イヤホンにからめとられずに済んだ銀子。後方へとのけ反り、イヤホンの魔手から逃れる。
「……ちっ、死にぞこないのガラクタが」
「まだこわれてなかった? むかしの機械、こわれにくい。むい」
 ウォーレンと勇名が、再び攻撃しようとしたその時。
『ステカセ』は、イヤホンを伸ばし、それぞれを『倉庫内の柱』へと押し付け、
 再生スイッチを入れた。
「「「「!?」」」」
 その場にいる全員に、『足』から、『空気』から、
 身体と耳に響く『振動』が感じられた。
「……ま、まさかっ? イヤホンからの『音』を聞かせて攻撃、じゃなくて……直接破壊する手段にした、というのっ!?」
 思わず、少女らしい素が出た熾彩。
 そして、次の瞬間。
 倉庫内の柱が砕け散り、屋根が落ち、
『ステカセ』とケルベロスらを巻き込み、容赦なく押しつぶしていった。

「……っ! はあっ!」
 熾彩は、倉庫の屋根の残骸から抜け出し、粉塵まみれになりつつ外の空気を吸い込んだ。
 後方にいたため、崩れて来た屋根の直撃を免れたのだが……、
 仲間たち三人は、完全に埋もれてしまっている。そして……這い出てくる気配はない。
「……待ってて、今助ける!」
 目前の、潰れた倉庫に駆け寄った熾彩。しかし、
 瓦礫を跳ね飛ばし、『ステカセ』がその姿を現した。
「……そんなっ、まだ動いているなんて!」
 しかし、動いているとはいえ……ボディのあちこちが凹み、腕も片方がもげてしまっている。
 これが人間ならば、瀕死の重傷といった状況だろう。しかし……、
 目前のダモクレスは、まだ動ける。まだ立ち上がり、破壊と殺戮を継続せんと向かってくる。
 熾彩は、恐怖に捕らわれ、そこから動けるようになるまで時間を要した。二秒もかかったのだ。
 更に一秒を使い、ガネーシャパズルを構え……、
「……ならば、動けなくなるまで焼き斬る! 『ドラゴンサンダー』!」
 パズルより、竜を象った稲妻を顕現させ、解き放ち、叩き付けた。
 咆哮する雷竜の、熾烈なる雷撃が、ダモクレスのボディへとぶち当たる。全身を痙攣させ、関節部から火花と黒い煙とを発生させた『ステカセ』だが……、
『カセ……カセェェェッ!』
 まるで『死ぬときはお前も道連れだ』とばかりに、足から黒焦げになったイヤホンを伸ばした。毒蛇が噛みつかんとするように、壊れかけたイヤホンを熾彩に襲い掛かからせる『ステカセ』。
「くっ……」
 熾彩は、それをかわしきれなかった。
 そして、
「……この程度で、私たちを倒したつもり!?」
 瓦礫を跳ね飛ばし現れた銀子が、『ステカセ』の腰に組み付いた。
『カ、セェェェッ!?』
 明らかに、狼狽した様子を見せる『ステカセ』。銀子はそのまま、
「オラあっっ!」
 敵の腰に手を回し、固め、
 真後ろへとのけ反りつつ、投げ飛ばした。
 いわゆる『ジャーマンスープレックス』。その強烈な一撃に、『ステカセ』はふらふらになるも、まだ立ち上がる。
「獅子の力をこの身に宿し……以下略! さあ、ぶっ飛べっ!!『術紋・獅子心重撃(ジュモン・レオンハートインパクト)』」
 が、銀子の攻撃は止まらない。『ステカセ』に止めを食らわさんと、全身に紋を刻み付け、拳と蹴りの連打を放つ。
 しばしの打撃音が響き続け、『ステカセ』の外装、その直線や平面に全て、無数の凹みが穿たれた。胸部のカセットデッキも、完全に破壊され……壊れた内部機構が、内蔵のようにはみ出る。
 しかし、それを受けてもなお……、ゾンビか何かのように、ふらふらと立ち上がる『ステカセ』。
「はあっ……本当に、しぶといわね!」
 銀子、そして熾彩は、そのしぶとさに辟易しかけたが、
「うごくなー、ずどーん」
 いつしか瓦礫から這い出ていた、勇名の声を聞いた。
 そして、地面すれすれに勇名から放たれた『小型ミサイル』が、『ステカセ』に命中。カラフルな火花とともに、ダモクレスの身体を完全に吹き飛ばし、もげた首を地面に転がした。
「……いきうめ、ちょっとあせった。むい」
『ポッピングボンバー』を放った勇名は、炎上する『ステカセ』を見つつ、大きくため息を。
「……どうやら、ガラクタの始末はついたみたい、だな」
 そして、瓦礫から這い出てきたウォーレンは、事態が終了した事を悟るのだった。

●勝利をゲットし敵をブラスト
 倉庫をヒールし、終わった事を部亜に伝えたケルベロス達。
「んうー、おわった」
 勇名は、後始末を終えていた。
「やれやれ、まさか倉庫自体をぶっ壊し、俺たちを生き埋めにするたぁな。ま、後は牛丼屋の道具……だっけか? そいつを持ってくだけ、だな」
 ウォーレンもまた、倉庫内の片づけを終え、一息ついていた。
「これで、全部ですか? お店まで運ぶのを手伝います!」
 そして、銀子は『ウォーベアー』こと部亜に対し、手伝いを申し出ていた。彼の探していた道具類は全て、ダンボールに詰められ、運ばれるのを待っている。が、一人で運ぶにはやや大変な数ではあった。
「じゃあ、ついでだからお願いするかな。皆さん、助けてくれたお礼というには何ですが、もしよかったらウチで牛丼食べてってください。おごりますよ」
 部亜の申し出に、
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「んうー、ぎゅうどん?」
「相伴にあずかるか! ゴチになるぜ」
 他の三人も、それを承諾。
「ありがとうございます! いただきます!」
 もちろん、銀子もそれを承諾。
 カセットを用いた悪魔は倒した。今後も、このような悪魔的なダモクレスが襲ってくるだろう。
 しかし、倒れるたび傷つくたび、自分たちも強くなる。自分たちは炎のごとく、何度でも燃え上がってみせる。
 牛丼への機体とともに、そんな想いを改めて誓う銀子だった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月18日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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