買い換えていた複合機

作者:baron

『ふく、ごー、きー!』
 ガーと音を立てて、郊外の事務所が破壊された。
 正確には『元』と但し書きが付くので、空きテナントと言うべきか。
『グラビティ収集活動を開始します。検索開始……』
 そいつはウイーンと音を立てて、周囲の様子を探った。
 シャッターの降りた周囲の建物に人が居ないことを理解すると、即座に行動を起こした。
『集積地に向かい、収集を行います。転送開始』
 今度はガラガラガラと音を立てて、町の中心部へと向かった。


「郊外の空きテナントに放置されていた機械が、ダモクレス化してしまうようです」
 セリカ・リュミーエルが地図と広告を手に説明を始める。
 その広告は同じ家電量販店の物で、数年の差があった。
「この敵が元にしたのは、安価な複合機です。コピーと印刷機とスキャナが同一した存在と言いますか」
「インクを売るために、そこそこの性能を持った本体が出る奴だよな」
「これは大型のだから、むしろ業務用じゃない? 業者が整備に来る奴」
 広告には数年の差があるのだが、型番が少し違うだけで、ほぼ同じ商品が並んでいる。
 最新式を出すというよりは、どうやら商法の一種として新しいのがドンドン出るらしい。
「攻撃方法は車輪を使っての移動格闘、写し取ったデータをそのまま光線として放ったり、プリントして手裏剣の様に飛ばすようですね」
「その辺は定番ねー。ダモクレスが良く使う攻撃なんでしょ~」
 ヒールで変異修復しただけなので、あくまでダモクレスが持っていた武器の延長なのだろう。古株のケルベロスたちは特に疑問なく頷き、新人たちに説明している者も居る。
「幸いにもというか、周囲に人は住んでいませんので間に合います。今の内に対処をお願いしますね」
「まかせとけー……しかし、人が居ないのはさみしいなー」
「今回は幸いと思っておきましょう。郊外の町が寂れるのは悲しいですがね」
 セリカの言葉にケルベロスは相談を始めた。


参加者
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
香月・渚(群青聖女・e35380)

■リプレイ


 予知されたエリアは人通りが少ない。
 駅に程近いにもかかわらず、シャッターが下りたままだ。
「犠牲は出さずに済みそうだけどー……。シャッター下りた光景って、衰退をすごく感じちゃうなぁ」
 その光景を眺めて颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)がなんとも言えない表情を浮かべた。
(「今晩のおつまみ買えるとこまで寄ってくの、面倒だなぁ。ちふゆちゃんにあとでお使いお任せしよ……」)
 ちはるはビールの自販機を見ながら、なんで御つまみの自販機はないのかと小一時間くらい問い糾したかった。
 あ、寂しいと思った感想も本当ですよ? 面倒なのも本当なだけで。
「誰も居ないみたいだよ~。手伝うねー」
「そうですね。大丈夫だとは思いますが、念のために封鎖しましょうか」
 天司・桜子(桜花絢爛・e20368)の申し出に感謝しながら、ルピナス・ミラ(黒星と闇花・e07184)はテープを張って道を封鎖し始めた。
「じゃあこっちも手早くやっちゃおうか。ドラちゃんこれくわえて」
 香月・渚(群青聖女・e35380)もまた封鎖するために、箱竜のドラちゃんにテープの端を任せた。
 元もと道も狭いし、みんなでやれば作業も直ぐに終わるだろう。

「しかしコピーはともかくスキャン……紙の内容を読み込んで印刷するのですか……? スマホやタブレットで写したものをそのまま印刷すれば良い気がするのですが……」
「ぱぱっと操作できちゃうから、なんやかんやで使い勝手がいいのよー」
 敵を待ち受ける中で、地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が首を傾げる。
 心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が教えてくれるところによると、夏雪が逝った作業を一気にこなせるからこそ便利なのだという。
「昔と違って今は撮影できる小型機器や3Dで出力できる機器まで普及しているけど、何だかんだで複合機はよく見かけるわよー」
 ケルベロスで最前線にいるとあんまり見かけないかもしれないが、事務では必要な物だ。
 括が知る限りでも、スキャン型とFAX型に分かれるくらいで、色々なタイプの複合機が存在するという。
「そんなに種類があるのですか? そこから一番便利な物を目指すとなると、大変ですね……」
 夏雪は付いていけない世界だと思いつつ、自分はいつごろ大人になるのだろうと電柱の明かりを見上げた。
「でも今回の複合機も、ちゃんと修理すれば動くんじゃないかなぁ? 捨てられるなんて勿体ないね」
「そんなのがあったんだね、色々な機能が搭載されていて便利そうだけど、やっぱりパソコンとかに比べると見劣りしたのかな?」
 ふと渚が漏らした言葉に桜子が首を傾げる。
 いつも思うのだが、どうして機械を修理して使わないのだろう。
「置くスペースが少なくていいんだろうけど、こういう無駄に多機能な機械って、性能向上の為にどんどんバージョンアップが求められるよね」
「複合機はその名の通り機能が複合してコンパクトで便利というのが売りですが、壊れ易さも複合しちゃうのが難点ですよね」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)の言葉を北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が補足する。
 なるほど。とりあえず多くの事が成せるように多機能にしてみた。だがしかし、それは良い事ばかりではないのだ。
「……しかも一つの機能が壊れたら他の機能も使えなくなるという二重苦です」
「修理の手間と費用ですか、それは切実な問題でもありますけど。それが原因で破棄されたのは、複合機も可哀そうではありますね」
 計都がそう締めくくるとルピナスは頭では理解はした。
 感情論ではかわいそうだと思わなくもない。
 だがそんな悲しいさだめを背負ったこのダモクレスに同情しつつも、無辜の人々を傷付けるのは絶対に止めなければならない!
「来たみたいだね……。時代のニーズや修理費用の犠牲になった複合機は可哀想だけど、犠牲が出る前に止めないと」
 そんな会話が行われる中、瑠璃が敵が来たと声を発した。
 ケルベロス達はその言葉に頷き、気合を引き締め直して陣形を整え始める。


 轟音がしたかと思うとシャッターが破れる音がそれに続く。
 現れたのは、蓋が開き中から光の漏れる大きな四角だ。手押し車よりよほど大きい。
『ふく、ごー、きー!』
「……本当に色々付いてるんだ。攻撃もスキャンと紙を利用してるみたいだね」
 ダモクレスは自分の能力でも把握しているつもりなのか、各部を揺らしたり周囲を破壊しながら街の繁華街を目指してくる。
 瑠璃はその姿に驚きつつも、仲間たちと共に立ち塞がった。
「ここは結界や防壁を築きながらまずは侵攻を止めようか」
「そうだね! さぁ、行くよドラちゃん。サポートは任せたからね!」
 瑠璃が結界を作ろうとエクトプラズムを加工し始めると、渚は箱竜のドラちゃんに声をかけて歌を唄い始める。
「さぁ、皆。元気を出すんだよ! ボクたちの戦いはこれからだ!」
 戦いは始まったばかり。
 ケルベロス達は道を塞ぎながらダモクレスの進軍を止めに掛かった。
「では守りをお任せしますね。無限の剣よ、我が意思に従い、敵を切り刻みなさい!」
 ルピナスは腕をさっと振るい、エナジーを無数の剣の形状に固めていった。
 そして号令を掛けると、彼女の指示に従い暗黒の剣がダモクレスに飛んでいく。
 回避しようとしたところへ、剣の集中砲火が次々と飛びこんでいった。
「絵っと動きを止めればいいのかな。竜砲弾よ、敵の動きを止めてしまえー!」
 桜子はピンク色のハンマーを握り締め、まるで魔法少女の様に振りかざした。
 すると衝撃波が敵の頭上ではじけ、蓋がバタンバタンと閉じたり開いたりを繰り返す。
「あの子がまだ動いていないなら、回復の必要は無いし、こんなところねー」
 括は胸元から包帯を取り出すと、新体操のリボンの様に空へ舞わせた。
 その誘導に従ってグラビティが周囲を覆う結界となるのだ。
「複合機だから平均的なのかな? 攻撃力は高くないけどやれることが多くて、タフなタイプかも」
「ええと、な、ならみんな先に動けるのかな? 僕も頑張りま……頑張ります!」
 計都が分析すると夏雪は気合を入れ直して、周囲にエネルギーを迸らせる。
 それは粉雪の様に降り積もり、少しずつ連携して仲間たちの盾となる!
「それじゃあこっちは動きを止めるとしようか」
「巨大ダモクレスじゃないから時間制限はないけど、外れるとストレスたまるしねー。肌寒いし早く帰ってお酒呑みたい」
 計都は腕部装甲に格納した槌を取り出すと、ガコンガコンと炸裂用の弾丸を放り込む。
 衝撃波による援護射撃が飛ぶ中、ちはるも駆け出して、電柱を足場に高く飛んだ。
 蹴りが直撃する過程で、キャリバーのちふゆや翼猫のソウたちが何かをしているのが見えた。そして……。
「ちふゆちゃ~ん。着地まかせたっ! あとカバーも!」
『戦闘行動を開始します。スキャニング・オン』
 その足元を狙って、ダモクレスはひき逃げ攻撃をかけて来た。
 いや、それだけではない、怪しい光が彼女を写し取ろうとして……。
 代わりに割って入った、二台のキャリバー。そのうちの一台を足場にちはるは再ジャンプを掛けた。
「ナイス・カバー! しかし……こがらす丸が挟まれたら敵の攻撃でこがらす丸がそのまま飛んでくるのか……?」
 計都はカバーリングが間に合ったことにホっとしつつも、相手が複合機と聞いて思わず首を傾げた。
 ちなみにその予感は的中し、彼に直撃することはなかったが、コピーされた仲間たちの姿が空を飛び交うことになったという。
 ……待てよ、ケルベロスは飛び蹴りを多用するし、キャリバーが空飛ぶのが珍しいくらいかな!?


 時間が経ち攻防が進み、牽制攻撃や防壁構築にひと段落が付いたころ。
 戦いへ徐々に変化が見受けられ始めた。
『しゅーんしゅーん、しゅーんしゅーん!』
「やらせないんだよ!」
 無数に飛んでくるペーパー手裏剣。
 その弾幕に渚はサーヴァントたちを引き連れて飛びこんでいく。
「援護するよ。反撃だ」
「この飛び蹴りを、食らえー!」
 瑠璃が霊力を固めた弾丸を飛ばして態勢を整える時間を稼ぐ。
 その間に翼をはためかせ、渚はクルンと回転しつつ飛び蹴りを掛けた。
「動きを縛り付けてあげるつもりでしたが、もう良いようですね。その傷口を、更に広げてあげましょう」
 ルピナスは縄状に束ねたエナジーを開放し、代わりにナイフを握り締めた。
 そして射出口を一堂に向けたままのダモクレスに挑み、星の様な煌きを残しながらステップと共に舞うような動きで切り刻んだのである。
「チャンスだね~。桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 桜子が放ったエナジーは、桜の花びらの様に散り始める。
 その花びらがダモクレスを覆うと、触れた場所から炎となって燃やしていった。火種はいつしか紅蓮の炎になるだろう。
「ダメージはともかく、残っている負荷はなんとかしないとですね……」
 夏雪は周囲を見渡してダメージが危険水域ではない事を確認すると、キャリバーに乗っかられてるキャリバーというシュールな光景に目を止めた。
「大丈夫……。何ともない、です……」
「ありがとー。ちふゆちゃんの事だからちょっとやそっとじゃ壊れないと思うけど、可哀そうだったからねー」
 夏雪が粉雪をその姿にまぶすと、コピーされたもう一台が消えていく。
 妹分への負荷が消えたことに、ちはるはお礼を言うことにした。あれではまるで、高速道だか横断歩道でクラッシュした事故である。
「それじゃあ、もう片方の子にはソウちゃんと私で対応しようかしら―。治療のお時間ですよー」
 翼猫のソウだけでは消しきれないこともあり、括は包帯をもう一台のキャリバーである、こがらす丸に巻いていった。

 これまでも負荷をかけられた仲間は優先的にキュアを掛けてきたが、相手が妨害の専門家とあって消しきれなかった。
 だが、こちらの結界が機能し始めたおかげか途中から増え難くなり、ようやく消しきれて戦場が整理されてみえる。
「ありがとうございます。これでようやく、心置きなく戦える!」
 計都は空を乱舞するこがらす丸に奇妙な感覚を覚えていた。
 だが仲間の治療で消え去ったことに安堵し、そして相手の動きが鈍った事で戦い方をダメージ重視に切り替えることにした。
「これでも食らえ!」
 計都は殴りつけると同時に巧みに装甲を冷やすための冷却液を浴びせ、ダモクレスを凍り付かせたのである。
「よーし、反撃だー!」
 緑色の光線でキャリバーが再び空を飛ぶ。
 だがその向きは逆であり、その画像はこがらす丸ではなく……ちふゆであった。
「――すぐ終わるよ。痛みも、命も」
 ちはるは十分い接近した段階で、幻影の画像を脱ぎ捨てながら短剣で滅多刺しにしたのである。
 こうして戦いは徐々にケルベロス側に傾いていった。


 一度態勢が整うとあ、そこからの展開は早かった。
「さぁ、貴方のトラウマを想起させてあげますよ」
 特に攻撃役であるルピナスの攻撃が問題なく当たるようになったのが大きい。
 見せているトラウマは相手にしか見えないが、外れたのではなく十分なダメージを与えているのだと安心してみていられた。
「もうちょっと炎を増やしてあげようか!」
「永劫桜花よ、敵を絡み捕りなさい!」
 渚のケリが敵の蓋に炎の足跡を付けると、桜子が延ばす神聖な力を持った蔦がそのまま固定し始めた。
「回復は私がやっておくから、なーくんは攻撃して良いわよー」
「は、はい。いきます!」
 括がクラッカーを鳴らして爆風を吹かせると、夏雪が一生懸命に何もない場所を蹴った。
 小さな子が頑張る微笑ましい姿の後、雪玉がサッカーボールの様に飛んでいく。
「いまだ、合体するぞ! これが! 俺達の精一杯だッ!!」
 こがらす丸を鴉の足の様に変形させると、計都は空中ドッキングを行った。
 自らの足に接続し、ブースターを吹かせながら強烈な蹴りを浴びせる!
「もっと凍っちゃってくれても良いよー。できれば倒れて欲しいんだけどね」
 ちはるは彼の脱出を援護しようと、凍気で作られた手裏剣を投げつける。
 あたった所から凍り出すが、さすがにその一撃では倒しきれなかった。
『ピーン!』
「くっ。これが……最後の一撃だ!」
 瑠璃は危いところで緑色の光線を避けて仲間に防御を任せる。
「力を借りるよ!! グリフォン、その武威を示せ!!」
 そして伝説の霊獣を召喚し、太古の名訳に基づき力を借りた。その大いなる力の前にダモクレスは滅びさったのである。

「終わったねー。おつかれさまー」
 敵が動かなくなったことを確認し桜子が仲間たちを労った。
「それではヒールを始めましょうか」
「複合機、もう直す事は難しいかなぁ?」
 ルピナスが音頭を取って修復を始め、渚は転がって居るダモクレスを持ち上げる。
「ケルベロスの子達もデウスエクス相手に大変だけど、そうじゃ無い子達だって毎日お仕事で忙しくて大変なんだから!」
「写真で1つ1つ撮っていると間に合わないお仕事の世界……? 一般の大人の方々も、僕達ケルベロスとはまた違った厳しい戦場(お仕事)と戦っているのですね……」
 括の説明では、戦いとは別に裏方でも色々な苦労があるという。
 夏雪にはいまいちピンと来ない仕事だが、僕も負けない様に頑張ります。と判からないなりに頷くのであった。
「お、今の画像はスキャンされたちふゆちゃんかな? どれどれどんな感じに……ああー」
 ヒールの最中、ちはるは分身に修復を任せてコピー用紙を拾っていた。
 そこには戦いで使用された画像などが映っているのだが……。
「ダメだよ、ちふゆちゃんだって女の子なんだから……。こんな大胆な構図は、ね……」
「こがらす丸ー!?」
 そこにはスキャンされたキャリバーたちの光線が、どちらも映っている。
 計都は後部から激突した(雲煙用語では、おかまを掘られたともいう)キャリバーの姿に涙した。
 そして仲間たちに頼んでヒールしてもらう。
「返ったら磨いてやるからな」
 と声をかけるのであった。なお、ちはるもちゃんとちふゆちゃんを磨いてあげるとか。
 この辺りはキャリバー使いに共通するところであろう。
「これで終わりですね」
「仮にもテナントだった所だから、ヒールしたとはいえ……。専門の人に任せるのがいいね。連絡しとこうか」
 ルピナスが最期の残骸を持ち上げ瑠璃のエクトプラズムで修復すればヒール作業も終了。
 あとは業者に後処理を依頼すればその日の事件も無事に終了した。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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