太陽に憧れる錦鯉の死神

作者:なちゅい


 デウスエクスは徐々にケルベロスによって討伐されており、それぞれの勢力の勢いが衰えてきている感もある。
 そんな中、今なお死神はあちらこちらで確認されており、暗躍を続けている。
 様々な勢力を自分達の手駒として取り込もうとする死神。
 そのうちの1体が、とあるオウガの青年に狙いを定めていて……。

 現状、ケルベロスとして活動していないときはパン屋で働く武蔵野・大和(大魔神・e50884)。
 職業柄、朝は早い為、彼は仕事が終わればすぐ帰宅することも多い。
 宵の口に家路を目指していたはずの大和だったが、気づかぬうちに袋小路へと誘い込まれてしまっていて。
「これは……デウスエクス……!」
 まさか、このタイミングで自分が狙われるとは。
 大和は警戒しながらも、周囲に視線を巡らせる。
 いつの間にか人払いがなされた小路に現れたのは、下半身が錦鯉の尾となった綺麗な和装を纏う女性だった。
「うち、太陽の手を持つあんたのことが気になっとったんどす」
 小柄なその女性は麗しさを感じさせるが、独特の匂いを持つそいつが死神であることを、大和はすぐ看破する。
「僕が……狙い?」
「そうどす。あんた、うちんものになってもらえやしまへんやろか」
 怪しく微笑む死神は炎を飛ばすが、その炎には温かさは全くなく、むしろ周囲の熱を奪っていく冷たい炎。
 その死神……ウィーローサは太陽の手を持つ大和のぬくもりを奪おうと、複数の炎を飛ばしてくるのである。


 また1人、デウスエクスによってケルベロスが襲われる事件が予知された。
「襲撃されるのは、武蔵野・大和だね」
 ヘリポートに集まるケルベロス達へ、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)がその事件について説明する。
 この場には大和の姿はなく、連絡も取れない状況となってしまっている。
 すでにデウスエクスに襲撃されている可能性すらあり、出来る限りすぐに彼の安否を確認したい状況だ。

「襲撃してくる相手は、ウィーローサという名の死神だよ」
 しばらく前から、この死神は彼を自分のものにしようと大和を付け狙っていたと思われる。
 ある日の宵の口、死神は人払いした袋小路へと大和を誘い込み、彼へとグラビティを使って襲ってくるようだ。
 相手はジャマーとして体温を奪う炎を使ってくる他、怨霊弾、尻尾の叩きつけを行い、さらに空中を泳いで自らの態勢を立て直すこともある。
 相手はデウスエクスであり、侮れぬ敵だが、戦いの邪魔が入らないようにと襲撃地点となる小路周辺を人払いしてくれているのは、ケルベロスにとっても好都合だ。
「一般人への被害を考えることないから、大和と協力して全力で死神を討伐に当たってほしい」

 説明後、ヘリオンの離陸準備が整うまでの間、大和の救援に向かうケルベロス達は顔合わせ行い、作戦について語り合う。
「死神に狙われるとは……ゾッとしない話だな」
 サポートに当たろうと考えて参戦を決めた雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)だが、今回の話にそんな本音を漏らす。
 死神に狙われる……それは、死してなお相手の傀儡とされてしまうことではないのか。
 やすらかな眠りすら与えられず、半永久的に相手に操られるなど、考えるだけでも恐ろしい。
「うん、だからこそ、皆の手で彼を助けてあげてほしい」
 そこで、丁度準備が終わったリーゼリットが声をかけ、救援に向かうケルベロス達にヘリオンに乗るよう促すのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
トート・アメン(神王・e44510)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)

■リプレイ


 とある町の中を、ケルベロス一団が足早に急ぐ。
 なんでも、太陽の手を持つケルベロスが死神に狙われるのだそうだ。
「その死神は大和の事が気になってたのか……」
 右目を地獄化させた熱血漢、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)はそのケルベロスと面識はないが、同じケルベロスとして見過ごしてはおけず、参戦を決めていた。
「でも、すごい強引というか、上から目線告白だな!」
 襲撃してくる死神の主張に、レヴィンは怒りというよりも呆れを覚えていた。
 なんでも、その死神は自分のものになれと宿敵主へと主張するのだそうだ。
「太陽の手、か。デウスエクスにとってはなんなんだろうね?」
 白熊のウェアライダー、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)は宿敵種の持つその手について推察する。
 それは恵みの光か、はたまた焼き尽くす炎か……。
「太陽神アメン・ラーの輝きは全てに等しく届かねばならん」
 自らが死神にも等しい存在だと自称するトート・アメン(神王・e44510)は依頼参加には乗り気でなかったが、どうやら心変わりしたらしい。
「だが……、デスバレスの海は冷たく寒い。太陽の暖かさを望む事は解るとも」
 トート曰く、『王たる者は戦いにおいても戦略を見出さねばな』とのこと。
 やるからにはしっかりと結果を出すべく、彼は戦いの舞台となる路地周辺の見取り図、逃走経路などをチェックしていた。
 勝色に光る鱗の竜派ドラゴニアン、ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)の助言もあり、できるだけヘリオン内で準備を進めていた一行は迷うことなく、現場へと急行していくのである。


 現場となる路地。袋小路となったその場所では、オウガの青年が和装に身を包む錦鯉の女死神と対していた。
 パン屋の従業員である武蔵野・大和(大魔神・e50884)が死神に襲われるのは4度目ということもあり、襲撃には慣れている。
「あんた、うちんものになってもらえやしまへんやろか」
 しかしながら、京言葉らしき言い回しで自身を求めるその死神ウィーローサに、彼は今までに感じたことのない底冷えのする空気を感じていた。
「……断ると言ったら?」
 大和は身構えながらも質問で返すと、死神は自身の周囲に浮かび上がらせた炎を解き放つ。
「せやったら……、容赦はしまへんで」
 品のいい口調に対し、飛ばしてくる炎はひどく冷たさを感じさせる。
 とにかく、この場は耐えねばならない。
 大和は飛んでくる炎に体温を奪われ、体を所々凍らせながらも、鮮烈な回し蹴りを叩き込んでいく。
 続いて、敵は鯉の尾ビレを叩きつけてくるが、凍った体もあってダメージは大きい。
 大和は降魔の拳で殴り掛かって体力を吸収しながら耐えるが、長くはもちそうにない。
 しかしながら、さすがに4度目ともなれば、彼も駆けつけてくれる仲間の存在を意識せざるを得ない。
 実際、次なるウィーローサの攻撃の前に、2人の人影が同時に割り込んできたのだ。
 飄々と穏やかさを感じさせる右目にゴーグルを装着したゼレフ・スティガル(雲・e00179)が手にしたナイフ「冬浪」でその背を刻む。
 続けて、鷹揚さを感じさせる藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)が眼鏡を外し、瞳を淡い藤色に光らせながら銀に煌めく刀「此咲」に雷を纏わせて死神の体を突き刺す。
「――ああ、失礼。お邪魔をしてしまいましたか?」
「コソコソ狙うなんて狡いんじゃないかい」
 攻撃順とは別に、今度は景臣、ゼレフの順に死神へと言葉をかけていく。
 割り込むケルベロスはまだいる。
 物陰から徐に、春宵にロングコートを着た男が怪しげな笑みを浮かべながら現れて。
「この辺で、『鯉のお茶漬け』を出してる飯屋はあるかね?」
 答えようとしない死神に対し、黒い短髪の瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)がロングコートをガバッと開くと、そこには数々の重火器が。
「挨拶代わりだ」
 燐太郎は左手の地獄の炎と右手の混沌の水の両方を死神へと見舞っていく。
「もう嗅ぎつけてきたんどすか」
 次々現れるケルベロスから、ウィーローサは距離を取ろうとするが、頭上から強襲するトートが流星の蹴りを、続いてすでにゴーグルを着用していたレヴィンが炎を纏わせた一蹴を浴びせかけた。
「思ったより早く駆けつけられて何よりだ」
 戦闘音が思ったよりも路地に響いていたことで発見できたとレヴィンが説明する間、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が緊急手術で大和の傷を塞ぐ。
「なんというか……大和殿は災難だったな」
 ビーツーも後方へと下がる大和の手に興味を示しながら、避雷針……フィニクスロッドを手にして雷の壁を前方へと張り巡らす。
 その大和の目を、鐐は一瞥してから敵へと呼び掛ける。
「貴女が求める手は彼のものだけなのかな。まあ、易々と譲ってやるわけにもいかないが」
 箱竜の明燦を大和の回復に向かわせ、鐐がウィーローサへと組みつく。
 だが、相手も大柄な鐐から逃れるように立ち回り、怨念が込められた黒い弾丸をケルベロス達へと発してくる。
「のんびり語り合える相手なら、敵対などしないか」
 鐐も納得するかのようにそう告げると、死神は彼へと強く意識を向けていた。
「死神に利用されるなど、実現させるわけにはいかない」
 ひとまず、手当を終えたビーツーは前線に出て身構える。
「不埒な輩には迅速にお引き取り願わねばなるまいな」
「せやったら、丁重にお相手しまひょか」
「――錦鯉。水に住む魚も大陽に焦がれたりするんだね」
 そんな死神の姿に、ゼレフは立ち回りながら淡々と子供に言い聞かせるように語り掛ける。
「憧れを憧れの侭にしておけないなんて、意外と人間っぽいんだね」
「残念ですが、何も奪わせは致しません。強欲な己を恥じつつ御退場願いましょう」
 過去、死神に大切な妻を殺された過去を持つ景臣。
 その際の記憶を地獄で補う彼だが、死神に対して良い感情を抱いておらず、初対面のウィーローサにも鋭い視線を向けていた。
「別に、お前には何の恨みもないが、人に害を及ぼすからには……」
 ――情状酌量の余地はない。
 燐太郎もまた目の前のデウスエクスへと敵意を差し向ける。
「太陽に焦がれし者よ。その願いを叶えよう」
 そして、先程は強襲したトートはエアシューズを燃え上がらせて。
「そなたは余が……太陽神アメン・ラーが御許へと送ってやる」
 直接、その身に燃え上がる一撃を叩き込んでいくのである。


 援軍という形で、大和と死神ウィーローサとの交戦に駆けつけたケルベロス達。
 余談だが、この場の女性はその死神唯一人。
 対するはサポーターのリュエンを含めて、平均年齢が30歳というアダルティーな男性ケルベロス陣である。
 さて、さすがに大和1人では、デウスエクス1体を相手にするのはあまりも部が悪い状況だったが、ここに8人のケルベロスと2体のサーヴァントが駆けつければ形勢は大きく変わる。
「これで引き取ってもらえたなら、うちも楽なのやけど」
 しかし、ウィーローサはこれだけのケルベロスを相手にまるで臆する素振りを見せず、尾ビレを叩きつけてくる。
 それに対し、ビーツーはアイコンタクトで箱竜ボクスと共に抑えに当たり、鐐と共に盾役として前線を支える。
 大和の太陽の手は皆に希望を与える為のものと捉えるビーツーにとって、その悪用を試みる死神には嫌悪感しかない。
 ボクスが自らの火山属性……白橙色の炎を後衛メンバーに注入して支援強化に当たる間に、ビーツーは傷つく前線の仲間に気力を撃ち出して回復に当たる。
 相手は武蔵野氏の因縁の敵だという認識の燐太郎は、前線メンバーに意識が向く死神の攪乱を試みていて。
「その辺で泳いでろ」
 構えた「ヴェントリキュラー/T-X Mod2」から、燐太郎は魔法光線を発射して死神にプレッシャーを与えていく。
「改めて、宜しく頼むよ」
 間髪入れずに、レヴィンが流星の蹴りを叩き込み、死神の動きを制しようとする。
 そこで黒色の魔力弾を投げ込むトート。
 動きを止めた死神が悪夢を見たのであれば幸いだが、多少のことでは相手もうろたえすらしてくれず、しばらくは彼も淡々と攻め立てていく形だ。
 立ち止まらず戦い続ける者達を弾き語りして仲間を鼓舞するリュエンと同じ位置で、箱竜の明燦も属性注入による支援強化を続ける間、主である鐐がメインとなってウィーローサへと殴り掛かる。
「太陽じゃなくて悪いね!」
 一見すれば鐐のにくきうぱんちは気持ち良さそうにも見えるが、そこはグラビティ。かなりの衝撃を死神へと叩き込んでいく。
 なお、その太陽の手は大和自身へと向けられていて。
「僕の心の『太陽』よ。今こそ、もっと輝け!」
 仲間達のヒールグラビティに合わせて自らを癒す。
「おお、なんちゅう温かい光……」
 じっと太陽の手を注視してくる死神ウィーローサ。
「さすがに太陽にゃ敵わないけど、僕らの炎も悪くないと思うよ」
 そいつに大和がとどめの一撃を食わられるようにと、ゼレフは攻撃を加えるべく朧に揺らぐ薄青の炎の腕で敵をつかむ。
「さあ、奪いきれるかどうか試してみてよ」
 相棒ゼレフが掴んだ敵目がけ、景臣がまるで呼吸をするかのようにタイミングを合わせ、燃え上がらせた紅き地獄を死神へと撃ち込む。
「僕達の炎でこんがり丸焼きにしてさしあげましょう」
 刹那、錦鯉の死神の身体が燃え上がる。
「ぬ、くうぅっ……」
 息の合った2人の連撃に、ウィーローサは思わず苦悶の呻きを上げてしまうのである。


 太陽の手を求め、大和を襲撃してきた錦鯉の死神、ウィーローサ。
 しかしながら、彼女がいくらその手を伸ばし、熱を奪う炎を飛ばしてもそのぬくもりは手に入らない。
 死神の前に立ちはだかるのは、主に鐐だ。
 箱竜の明燦に回復サポートしてもらいつつ、彼はいつものように仲間の為、ふわふわの毛皮の巨体を盾とする。
 前線が持たせている間に、中後衛のメンバーが死神の体力を徐々に減らす。
 燐太郎は先程見せつけた重火器を片っ端から撃ち放つ。
 まず、燐太郎はガトリングガン「ヴェントリキュラー/FⅢ」から爆炎の魔力を持つ大量の弾丸を浴びせかけ、さらにその体へと風穴を穿たんとなお弾丸を連射する。
「これならどうだ!」
 足止めは十分と判断したレヴィンもガネーシャパズルを手にして、竜を象った稲妻を放ってウィーローサの身体に痺れを駆け巡らせる。
 完全に動きを止めたと判断したが、それでも前線メンバーに怨霊弾を撃ち込んで来る死神の姿に、レヴィンは驚きを隠せず。
「なにぃ!?」
 ならばと景臣が即座に空の霊力を込めた刃で切りかかり、ゼレフも燃え上がる大剣「随」で重い一撃を打ち込む。
「大陽に近付こうとした者の末路はいつだって悲惨だ」
 そんなゼレフの意見に、前線で死神を抑え続けるビーツーが同意して。
「あの炎熱は万人のもの。我欲で占有などできはしないし、させもせん」
 確固たる信念の元、ビーツーは自身の臙脂の炎を抑えつつ、避雷針の雷で仲間達の支援に当たり続ける。
 その時、チームメンバー最年少のトートが自らの中性的な美貌をウィーローサへと見せつけ、強い呪いで束縛してしまう。
 そこで、後方にてオウガ粒子を飛ばし、仲間達の回復に当たっていた大和が動き出す。
「トドメは大和に任せるぜ、その太陽の手でやってやれー!」
 レヴィンが叫び、リュエンが電気ショックを放つと、ビーツーもまたボクスが属性ブレスを吐き掛けた死神がもう倒れると判断し、トドメを譲り、ロッドを振るって大和への賦活を重ねる。
「いっておいで、どうか悔い無きように」
「さあ、貴方の因縁に終止符を」
 ゼレフ、景臣が前線を明け渡す間に、敵を抑え込んでいた鐐が相手を抱き込める。
「は、放しておくれやす……!」
 熱を奪う炎で死神は応戦するが、鐐はその両腕を離さない。
「せめてもの慈悲だ。望みのうちに、優しき微睡みの中に墜ちるがいい……!」
 微睡みかけるウィーローサが見る甘い夢は、大和が彼女の手を取るものかもしれない。
 だが、現実は……。
「彼女が折れぬ限り、共存は出来ない。武蔵野殿、せめて貴方の手で送ってやってくれ」
 鐐もまた身を引き、大和がその手を輝かせる。
「太陽を求めし死神よ。デスバレスの海は冷たかろう。炎さえ凍てつくほどにな」
 その前に、トートがタイミングを合わせて超小型の太陽の如き火の玉を召喚していた。
 ――余はトート・アメン。太陽が神子よ。
 太陽に焦がれし死神へ、トートは太陽の御業を持ってして、熱き世界に送らんとする。
「そなたが逝く先は凍てついた海ではなく、輝く太陽が御許と知るが良い」
 大和の一撃に合わせてトートがその火の玉を撃ち込んだ直後、大和は直接ウィーローサの身体へと触れて。
(「僕からの手向けです。そのぬくもりを持って、あるべき場所へ還れ!」)
 接触テレパスで自らの意思を伝えた大和は、陽の如き光熱で死神の体を焼き尽くしていく。
「このぬくもりは……なんと……こ、ここち、よ……」
 全身を燃え上がらせたウィーローサはすぐにその姿をかき消してしまう。
 その跡にぽとりと地面に落ちたのは、彼女が付けていた椿の花飾り。
 拾い上げた大和は死神独特の匂いを放つことに気付くが、その反面温かなぬくもりも感じていた。
 そんな死神を最後に、トートはずっと凍てついたデスバレスへと戻っていったことを察して。
「……いつかその世界を、温かな輝きで満たしたい。余の……神の願いはそれだけだ」
 彼は少し寂しげにそう呟いたのだった。


 死神の消滅を確認し、大和は駆けつけてきたケルベロス達へと向き直って礼を告げる。
「皆さん、今回はありがとうございました。それと迷惑をかけて申し訳ありません」
 そこで、早くもトートが静かに踵を返して。
「太陽は夜が来れば去るもの。何……すぐに戻るとも」
 彼は一足先に去っていく。『太陽は必ず上る』と言い残して。

 その後、メンバー達は日が沈んで冷えてきた路地にて、自販機で温かい缶飲料を飲みながらしばし語らう。
 なお、ケルベロスとなってから代謝効率が異常亢進したという燐太郎は「殺神グルメ」という二つ名を持つほどのひどい飢餓状態に陥ったこともあり、リュエンが付き添う形で近場のスーパーまで買い出しに出かけていたようだ。
 さて、死神に襲撃された大和が終始落ち着いた態度を見せていた。
 それはただの慣れだろうと本人は告げたが、それだけ狙われている証左だろうとメンバー達は推し量る。
「太陽の手、冷えたら大変だもんな。大切にしてくれよな」
 その手を温めるように、レヴィンが大和へとホット缶を差し出す。
 自分の太陽の手がどれだけ死神に魅力的なのかは大和本人にも分からないが、自分の手を注視しながら彼は語る。
「僕が欲しかったか……。死んだら、ぬくもりさえも無くなるのに……」
 この先、何度死神が狙ってくるのかは分からない。そんな言葉は、景臣にも響く。
(「……死者を弄び、死を辱める存在」)
 死神のことを考える度、温かな缶を持つ手に力が籠る。
 それはきっと、自身にとって度し難い敵に他ならないのだろうと景臣は自分の信条について考える。
 すると、そんな景臣の心を読んだのか、ゼレフがコーヒーを傾けてきて。
「……奴等に対抗し得るのが僕ら番犬だからね」
 また同じことがあったら、しっかり目にもの見せてやろう。
 そんな信置くゼレフの言葉に景臣は首肯して。
「ええ、その時はやり返さねば気が済みません」
 そこに、大量の袋を下げてきた燐太郎とリュエン。
 その全てを燐太郎が食べると聞き、メンバー達は彼の食べっぷりに驚きつつほっこりと心を、そして、温かいコーヒーで冷えた体を温めるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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