開通予定、ユグドラシルルート

作者:七尾マサムネ


 地下鉄の路線を隔てた、向こう側。
 巨大なワーム状の生き物が、蠢いていた。牙のびっしりと生えた多数の触手が、競い合うようにして、土や岩を喰らっていく……そんな奇妙な光景が、大阪城の地下で繰り広げられていた。
 人の目に触れることもなく、ワームによる作業は、粛々と進行していく。
 そして、ワームの進行方向を指示するのは、骸骨だった。しかも、体の各所から蔦を生やしている。
「キリキリ、ハタラケ!」
 蔦のムチでワームを打つ骸骨に、別の骸骨からムチが飛んだ。
「『コイツ』ハ大事ナ労働力ダ! 丁重ニアツカエ!」
「ワ、ワカッタ……」
 内輪もめしている間にも、巨大ワームは、岩盤を掘削し続けるのだった。


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、ヘリポートにケルベロス達を招集した。
「大阪城の攻性植物勢力が、城の地下に巨大空洞を作成している事が判明しました」
 これは、大阪城周辺の地下鉄の状況を厳重警戒していた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)のお陰である。
 堅実にして地道な行動がなければ、この暗躍には気づく事ができなかっただろう。
「攻性植物達は、地下を掘り進める事に特化した巨大攻性植物『プラントワーム・ツーテール』を使い、地下拠点の拡大を進行中です」
 そしてこの地下拠点は、地下鉄の路線のすぐ下まで迫っている。
「これを逆手に取ることとします。すなわち、地下鉄の路線を爆薬で爆破するのです。そうすれば、拠点を掘り進めている敵を奇襲する事が出来るはずです」
 ケルベロスは、封鎖された地下鉄路線に赴き、セリカの指定したポイントに向かう。そして、用意されたTNT火薬で壁を爆破、敵拠点へと侵入するのだ。
「敵は、掘削作業を行うプラントワーム・ツーテールが1体。そして、その護衛についている植性竜牙兵が10体です」
 聞きなれぬ竜牙兵だが、ドラゴンの牙に、攻性植物の種子を埋め込んだものだ。
 今回の標的、プラントワーム・ツーテールは、全長20メートルにも及ぶ巨体だが、知性や戦闘能力は高くない。
 反面、拠点工事に特化した能力を持つ、希少な攻性植物らしい。ここで撃破できれば、攻性植物の拠点拡張作戦を滞らせる事もできるだろう。
 ツーテール撃破後は、速やかに帰投して欲しいと、セリカは付け加えた。
「地上でグランドロン城塞を失った分、地下に拠点を敷設するつもりのようですね。ですが、作戦を中途で察知できたのは大きなアドバンテージです。この機を逃さぬよう、よろしくお願いします」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ


 地下鉄、線路内、ケルベロス。
 大阪城地下に、そんな三拍子がそろっていた。
「……この更に下に、敵がいるのね」
 線路を行く人影は、突入作戦を決行するキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)とテレビウム・バーミリオンや、瀬部・燐太郎(殺神グルメ・e23218)達である。
 開戦前とあり、フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)は未だおっとりモード。塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)の腕には、ボクスドラゴン・シロの姿。
「地下の探検だなんて、なんだかわくわくしてしまいますが、敵の本拠地の近くですし、油断は禁物ですね」
 周辺地図を手に、アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)が、皆を指定ポイントへと導いていく。
 その後ろを注意深く進みながら、セーラー服に白衣を羽織った新条・あかり(点灯夫・e04291)は、ふと、疑問する。
「植物のワーム? こんな地下深くで動けるなんて、光合成どうなってるの? 解剖してみたいけど、そのためにはまずバラバラにしないとね」
 割と物騒である。だが、あかりが鹵獲術士であることを考えれば合点もいく……だろうか。
「誇り高き竜の眷属も今や現場監督か……いや、土木工事が恥ずべき仕事というわけではないよ。私も昔はアスガルドでそうやって働いたものだしねぇ」
 腕時計のライトで行く先を照らしながら、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が肩をすくめた。
「ただ、彼らにとって適材適所ではないよね、という話さ」
「そうかぁ、ドラゴンの配下も、すっかり攻性植物の手下って感じになっちまったのなぁ……」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が、骨身を植物のドレスで覆う事になった竜牙兵の現状を思い、ぼやく。
「おっと、感傷にひたっている場合じゃない。大阪を、人々の営みを取り戻すために重要な作戦なんだからな!」
 そうそう、と同意するように、相棒のチビ助が控えめに吠えた。
 相次いで噂をされた竜牙兵達は、くしゃみをしている頃だろうか。
 もっとも、骨と植物で作られた体に、そのための器官が備わっていれば、だが。


 爆破が起きた。
 TNT火薬が、地下鉄の線路を吹き飛ばしたのだ。
「ホウラク事故カ!?」
 予期せぬ出来事に、天井を見上げる竜牙兵達への回答は、飛来する炎塊だった。
「開通許可は出てませんのよー。違法工事はー、強制取り締まり対象ですのー」
 爆煙を突破してきたのは、フラッタリー。敵の姿は、己の地獄の炎が照らしてくれる。
「ケルベロス! 敵襲ダ!」
 仲間に声を飛ばす竜牙兵の意識を、フラッタリーの声が絡めとる。
「逃げてもどこまでも追いかけてー、燃やしちゃいますのよー」
 狂気を咲かせるフラッタリーから後退した竜牙兵の背に、別の気配がぶつけられた。『幽焔蘭華』を設置した燐太郎だ。
「よう。こんな所で庭いじりか? そりゃあ、随分と『骨』が折れるな」
 大阪は、粉もん文化の聖地。食事をこよなく愛する燐太郎にとって、最重要地域のひとつ。
 そんな場所を拠点にしている敵には、いい加減立ち去ってほしかったりする。
「オツトメゴクロウサマ。けどその苦労が報われてもらっちゃあ困るんだわ。すまないね」
 翔子も気安く話しかけた。患者にでも接するように。
 一見友好的……でもないが……な翔子だが、敵の退路を断つように位置取りしているあたり、抜け目はない。
 そんな敵味方のやりとりの隙をついて、着地したディミックは、使い捨ての光源を設置していた。
 キリクライシャとバーミリオンも、それぞれランプを点け現場の状況を確認。
 ハインツもライティングボールを辺りにまけば、万全だ。暗がりのままでは、感覚器を進化させているであろうワームの相手をするのは、厄介であろうから。
 すると闇の奥から巨体が、のっそりと姿を見せた。ワームだ。
「まるでミミズのような攻性植物ですね。もう少し小さければ、家の庭のガーデニングのお手伝いもしてもらいたいところですが……」
 爆風に紛れ敵を包囲したアリッサムが、ワームを見上げる。場所柄、生きた電車、という趣すら感じる。
「工事ノ邪魔ヲ、スルナ!」
 いきり立つ竜牙兵へ、あかりが攻撃の先陣を切る。もちろん、ワームをバラバラにするために。


 敵側の先鋒は、どの竜牙兵でもなかった。
 ワームである。
「下ガレ、ツーテール!」
「ダメダ、コイツハ頭ガ悪イ」
 やむを得ず、竜牙兵達は、ワームに合わせる形で布陣する。
「蔓巻ク地虫供一ツtO士テ残サヌ。硫黄ト鉄ノ灼熱ヲ浴bIテ滅ビヨ」
 金色の双眸が、竜牙兵を射すくめる。視線の主・フラッタリーは、異空間から地獄の奔流を吹き出し、竜牙兵とワーム諸共に浴びせかけた。
 炎にて、敵にマーキングを施すフラッタリー。先ほどまでのおっとりのんびりの拘束具を脱ぎ棄て、溢れ出るのは地獄と狂気。
 赤く燃ゆる敵群に、今度はあかりが氷撃を食らわせた。そのエネルギーは、竜と植物の合いの子である敵に作用し、それ以上の成長進化を止める程だ。
 大阪城地下での掃討戦は、あかりにとって二度目。苛烈な長期戦だった前回の記憶を胸に、積極的に前に出て、1分でも早く敵を駆逐する覚悟だ。
 作戦完遂に身を投げうつあかり達のため、ハインツが、鎖の加護を託して後押しとする。
 そんなハインツの背後から、小さな影……チビ助が神器をくわえて切りかかった。狙いはディフェンダー。見た目こそ茶色い子犬という癒し系だが、攻撃は俊敏で果敢だ。
 翔子の腕を離れ、シロが味方の耐性を高めている頃。ワームを守る竜牙兵ディフェンダーの前に、翔子が立ちはだかった。
「なに、少しちくっとするだけさ」
 無造作、ともいえる足運びで接近すると、『金針』を叩き込む。視認すら許さぬ速き施術は、相手を一瞬で凍てつかせる。
「オイ、そこのサラダ野郎動くんじゃあねえ! さっさと調理してやらあ」
 暗闇から突如現れた燐太郎から、電光のごとき眼差しを受けたディフェンダーは、瞬時にトラウマを植え付けられた。
 めんつゆ……という名のブラックスライムと狙撃銃、そして機関砲と三拍子。一般家庭にありふれたとは言い難い『調味料』を駆使して、敵を料理していく燐太郎。
 植物のしなやかさと牙の堅固さ。双の特徴を備えた竜牙兵の護りは、手ごわいものであった。
 後方からは、敵スナイパーがケルベロス達を狙う。
 だがディミックが、味方前衛に小型の城壁を構築し、敵の侵攻を阻んだ。元々、建築や整地を生業としてきたディミックだ。お手の物である。
 果実の黄金光で味方の耐性を高めながら、キリクライシャはバーミリオンを見た。敵の攻撃範囲や間合いを確めた上で、頷く。
 テレビウムの特徴とも言えるテレビフラッシュを使わせていない、というのは、本人にとって、結構なストレスなのではないかしらね? と常々思っていたのだ。
「……だから、思いきりやってしまいなさい、リオン」
 キリクライシャのその言葉を待ってました、とばかり。
「マブシイッ!?」
 バーミリオンのモニタからの発光が、地下世界を白く染め上げた。竜牙兵達は、突然の輝きに感情を逆なでされたようだ。
 だが、いかんせん距離があり、届くのは怒りの視線だけ。
 小型ランタンで敵味方の姿を把握しながら、アリッサムがケルベロスチェインで守りの陣を描いた。
 この場で最も好戦的なのは、ワームのようだ。自慢の触手を伸ばし、ケルベロスを縛り上げてくる。
 竜牙兵達も、ツタや剣を駆使するが、攻撃範囲は限定されている。
 ケルベロス達もそれを見越して、適正な陣形にて迎え撃っている状態だ。
 地面から噴出した焔が、火勢を強める。フラッタリーが『野干吼』を突き立てた地面から迸る炎が、骨と蔦を溶解させていく。
 フラッタリーの金色光は、絶える事が無い。炎で輪郭を浮かびあがらせるワーム達をしかと睨め付け、射竦める。
 今や戦場は、ケルベロスの炎や氷、毒に支配されていた。
 その頃、燐太郎は、後ろでメイドお手製ミートソースパスタを頬張っていた。グラビティ変換効率の低いその身体は、人並み以上に熱量を要求するのだ。
「『粉もん』で……GOだ」
 焔弾をばらまく燐太郎。自身の摂取した熱量を反映したかのように、その火勢は強い。
 そして、戦場に転機が訪れる。
 『Heiligtum:zwei』をかざし、味方への攻撃や火の粉を払いのけながら、ハインツがオウガ粒子を散布し、味方の猛攻を後押しする。
 チビ助に睨まれた敵ディフェンダーが、突如燃え上がった。蔦を燃料に体を焼かれ、崩れ落ちていく。
 遂に、敵の護りの一角が崩れた。
 翔子が掘削途中の壁を蹴って、ディフェンダーの後ろに回り込むと、背に回し蹴りを浴びせた。星型の紋章が刻まれた直後、骨身が爆発四散する。
「これで、守り手はいなくなったってわけだ」
 翔子に言葉として突きつけられた事実に、ざわめく竜牙兵群。
 それでも毒液を吐き続けるワームの視界を染めたのは、あかりの炎弾だった。ワームの周囲、炎熱に焼き尽くされた敵クラッシャー達は、相次いで塵に還っていく。
「さっきの攻撃のお返しだよ」
 泥の付着した白衣を翻すあかり。
 竜牙兵が体を蝕まれ続けるのに対し、ケルベロス達は、手厚い癒し態勢で応じていた。
 キリクライシャが、輝ける珠を飛ばす。光は柔らかくふんわりと広がると、絡みついていた蔦を溶かし、傷を消し去る。
 そして、アリッサムからは、ツワブキの花が届けられる。奥ゆかしい黄色は、ケルベロス達に癒しと、困難にくじけぬ心を与えてくれた。
 生物感剥き出しのワームへと、いかにも機械然としたディミックから、黒の鎖が放たれた。
 演算された軌道に、経験に裏打ちされた感覚的なフェイントが加えられ、ターゲットを逃す事はない。


 ワームを守るべく、蔦を振るう敵スナイパー達。だが、ケルベロスは構わずワームへと攻撃を集中する。
「その触手がどうもタコを連想してよろしくない。二、三本譲ってくれ」
 燐太郎の黒槍が、ワームの触手を斬り落とし、食材に変えていく。
 ワームから散る火の粉を払いのけ、ハンマーでブーストしたあかりが、ワームの頭上へと飛躍。絡みついて来る触手をくぐり抜け、痛烈な一打をお見舞いした。
 倒れこんでくるワームに、フラッタリーが愛剣を媒介として、純度の高い獄炎を叩きつけた。大半が炭化し黒ずんだ植物の体は、なおも炎を広げていく。
 キリクライシャのケルベロスチェインが、空中に紋を描き出す。そこから生成された弾丸がワームの表皮を打ち破り、内部で炸裂。
 時間すら止めるその効力が発揮されている間に、バーミリオンの凶器が襲い掛かる。
 不意に、ワームの妙な蠢きを察知したアリッサムが、味方に声を飛ばした。
「あっ、ワームが……逃げるつもりです!」
 アリッサムの降ろした御業が、のろのろと後退しようとするワームをとらえた。力が取り柄の巨体も、これにはびくともしない。
 ワームは虫の息。蔦を弾きながら盾を手放したハインツが、工事中の壁を蹴って跳び上がると、蹴りを繰りだした。打撃の瞬間、虹がかかり、直撃の証となる。
 翔子が片手で操作したパズルから、女神が招来された。その威容がワームを幻惑する間に、シロが体を丸めて、タックルを決めた。
 ワームが倒れ、舞う埃の中、ディミックのカメラアイが輝く。干渉した地面や壁が粒子化、紅き砂嵐がワームを飲み込んでいく。
 ディミックによって、破壊衝動をあふれさせたワームは、のたうちまわりながら、体液をまき散らした後……遂に活動を停止させた。
「ワ、ワームガ!」
 竜牙兵残党の判断は、早かった。戦闘を放棄し、慌てて逃げ去っていく。
「無理に追う必要はー、ありませんかねぇー」
 フラッタリーが目を伏せると地獄炎の迸りが収まり、狂気にもフタがなされる。
 燐太郎が丁寧に仲間の安否を確認すると、急ぎ、ヒールに取りかかった。
 そこにキリクライシャとバーミリオンも加われば、百人力だ。
「さて、長居は無用。とっととずらかるとしようか」
「了解!」
 翔子やハインツが、速やかに帰還へと転じた。
「せめて現場の様子はしっかりと記憶に残しておきましょう」
 工事現場の光景を脳裏で繰り返すアリッサム。ここが決戦の地となる際、何かの役に立つかも、と。
「みんなの力で、早く終わらせられた気がするよ」
「燃やせばよかろう作戦、成功ですな」
 周辺地図を頭に入れておいたあかりが導き、ディミックがしんがりを務める。
 作戦、完了。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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