春の雫

作者:崎田航輝

 穏やかな雨が降っている。
 冬に比べて優しい温度を抱く雫は、膚に触れても冷たくなくて。仄かに温かくなり始めた風の中で、寧ろ心地よい程だった。
 そんな天気の下では、ぱしゃりと水たまりを踏んで游ぶ子供達の笑顔も明るく──傘が奏でる雨滴の音も、心なしか弾むような楽しさに聞こえる。
 仰ぐ空も、雨模様なのに不思議と明るく見えるのは──華やかな季節の幕開けが始まりつつあるからでもあろうか。
 まだまだ雨が上がる気配はない、なのに人々は何処か楽しげに、散歩をするように露濡れる花々の道を歩んでいた。
 と──そんな人々を高台から見下ろす巨躯の姿が一人。
「雨の降る景色も、麗しいものだね」
 それは笑みを浮かべて、掌で雫を受ける軽装鎧の罪人、エインヘリアル。
「燦めく雫に愉しげな音。一刻一刻が無二の景色──だからこそ、そこに血潮が混じれば尚、美しい」
 言葉と共に足元を蹴ると、飛沫を上げて道へ降り立って──抜き放った刃で人々を切り裂き始めていく。
 赤い雫が雨滴に混じり、悲嘆と絶望の声がこだまする。そこに真の愉悦を見出すように、罪人は刃を振るい続けていた。

「天気も少しずつ変わりやすくなって……早春らしい日が増えましたね」
 小雨のヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
 この日予知されたのは、エインヘリアルの出現だ。
「穏やかな雨の降る、綺麗な街があるのですが……その只中に現れて虐殺を狙うようです」
 やってくるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだろう。
「人々の命を守るために、撃破をお願いいたします」
 現場は市街の一角。
 多くの家並みがある場所で、敵は高台から現れるだろう。
「周囲には人通りもありますが……今回は事前に避難が勧告されるので、こちらが到着する頃には人々も丁度逃げ終わっているはずです」
 こちらは到着後、敵を討つことに専念すればいいと言った。
「街の景観も守れるはずです。なので無事勝利できましたら……皆さんも雨の散歩など、してみてもいいかも知れませんね」
 近くには公園があり、早春の花々の咲く散歩道が明媚だという。石畳の伸びる家並みも美しいので、景色を眺めながらゆったりと歩いたり、休憩がてらカフェなどに入ってもいいでしょうといった。
「そのためにも……ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
メリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●雨垂れの日
 淡く耀く雫が、街並みを透明な艶めきに覆っていく。
 ぱらぱらと響く音も小気味よくて──水をぱしゃんと踏みながら、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)はレインポンチョを翻していた。
「どうラーシュ? 似合ってる?」
 と、向けられた声にひと鳴きを返す匣竜も、またお揃いのポンチョ。その姿が可愛らしく、これで平気だね、とマイヤは笑んでいた。
 それから景色を見回す。
「雨の日って、わたしは嫌いじゃないな。雨音も好きだし」
「私も雨の音は好きです」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)も頷いて、優しい音色に耳を傾けていた。その感触も、温度も優しいものに感じられて。
「雨の日は心が落ち着きますね」
「……そうね」
 そっと応えるキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)も、レインコート姿で視線を巡らせながら。澄んだ瞳を留めるのは、近くに見える公園。
 長く続く遊歩道には花々が連なって、今からそれを見るのが楽しみに思える。
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)もそんな花を見やりながら滴を仰いでいた。
 機械の体では、あまり浴びると錆びてしまうけれど。それでも人がこの少しだけ特別な日を楽しむ心は判るから。
「花にも、ひとにも、時には雨の恵みも必要ということだねぇ」
「……ええ、きっと」
 キリクライシャは言いながら、だからこそと、その目線を高くに上げて──建物上に巨躯の姿を捉えていた。
 雨中の殺戮を目論む罪人、エインヘリアル。
 雨雲のおかげで逆光に視界を邪魔されず。キリクライシャはしかとその挙動を寸分違わず見取っている。
「……来るわ」
 直後、言葉通りに罪人が空から跳んできた。
 すると皆も頷き臨戦態勢。巨体が着地する前に、雨空に淡紅の光が舞う。
 それは天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が宙に手をのべて舞わす、無数の桜の花弁。
「桜の花々よ……」
 ──紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ。
 紡いだ声と共に、踊る花びらは紅蓮の焔へ昇華される。『紅蓮桜』──鮮麗に燃え滾る業炎が、罪人を烈しく迎撃してみせた。
「さあ、皆も」
「ええ、判りました」
 応えて飛沫と共に跳ぶのは麻亜弥。すらりと青い刃を抜き放つと、宙で巨体へ迫って。
「この卓越した技術を、味わってみますか」
 壁を蹴って懐へ入ると、鮮やかに剣閃を舞わせて膚を切り裂いていく。
 衝撃に煽られつつ着地した巨躯は、僅かに歯噛んで剣を握り締めていた。
「……番犬か。ご挨拶じゃないか」
 直後には剣風を刃にして雨と注がせてくる、が。
 無数に襲い掛かるその衝撃が、煌めきの壁に遮られて弾けていく。
「──望み通りにはなりません」
 それは真っ直ぐな声を返しながら、紫水晶の如く耀く盾を構えるフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。
 同時に明滅するのは、脳波稼動型のルビー・ドローンによる紅のフォトン・バリア。
 そこへ自律型ドローンの盾と己のアメジスト・シールドを重ねて展開することで、『紅紫防壁陣』が鉄壁の防御を成していた。
 輝く色彩が雨に反射し、紫と紅の光に周囲が染まる。その美しさに呑み込むように斬撃の雨の威力を削いでいけば──。
「今です!」
「任せて。ちょっと行ってくるよ」
 ふわりと羽撃き宙へ踊り出すのがメリルディ・ファーレン(陽だまりのふわふわ綿菓子・e00015)。
「ケルス、弾いて」
 白妙の髪を雨風に靡かせながら、手を伸ばして放つのは艷やかな蔓薔薇。
 声に応じて空中を奔ったその翠は、鋭く打ち据えるように巨体へ一撃を加え、剣を逸らして攻撃を止めさせていた。
 この間隙に、皆の頭上より光が舞い降りる。
 それはタキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)が掲げた雷杖に降ろす、癒やしの稲妻。
「──雷の障壁よ、仲間を護る盾となって下さい」
 その言葉が形となるように、迸る雷光は消え去ることもなく編まれて行き、いつしか強固な壁を形成していた。その眩さが苦痛を押し流すように皆を治癒していく。
「一先ず、前方の防護はこれで整ったはずです」
「では後方の守りも盤石にしてゆこう」
 と、ディミックが剣先に収束したエネルギーから星光を生み出して、後ろにも加護を広げていけば──。
「行こう、ラーシュ!」
 マイヤの声に飛び立つラーシュが属性の力を仲間へ。
 同時にキリクライシャのテレビウム、バーミリオンも治癒の光を照射することで前衛は万全となっていた。
 それを確認すれば、マイヤは攻勢に移り飛翔。くるりと廻って流星の蹴撃を叩き込む。
 傾いだ巨体へ、キリクライシャもまた柔らかく翔び立って。頭上から旋転して一撃、静やかながら痛烈な蹴りを打ち込んでいた。

●決着
 水たまりに膝を突き、罪人は苦渋の吐息を零す。
 既に体は深く傷つきつつある。故にだろう、震わす声音には深い憎しみも滲んでいた。
「……やってくれたね。君達も……美しい血潮の景色の中に、沈みたいらしい」
「血潮、かぁ」
 ふぅん、と。対する桜子は怯むでもなく、ただ空を仰ぐ。
「雨だけでは物足りず、血の雨を降らそうとでも言うのかな?」
 勿論そんなことは絶対にさせないけれど、と。
 桜子が言えば、メリルディも頷いて一振りのナイフを手にとっていた。
「雨は綺麗でも赤いものも悲鳴も似合わない。罪人には、ここから退場してもらうよ」
 ──コル、斬るよ。
 と、メリルディが呼べば、意思を持つ刃は己から喰いかかるように巨躯を抉っていく。
 よろめく罪人へ、桜子も靭やかな桜の枝を伸ばしていた。
「永劫桜花よ、敵を絡み取りなさい!」
 神聖なる花を生らすそれは、清らかな香りを振りまきながら撓って巨体を縛る。そこへ麻亜弥が浅く跳んでいた。
「雨に濡れた体さえも、焼き払ってあげますよ」
 刹那、縦に廻りながら脚に焔を宿し踵落とし。直撃させた炎で巨躯を灼いていく。
「この隙に、連撃を」
「うん!」
 応えたマイヤも拳に鋼を纏いながら翔んでいた。
 灼熱にふらつく罪人へ一息に迫り、真正面から一撃を見舞うように。加速して打突を加えて腹部を貫く。
 呻く罪人はそれでも剣を振り廻し連撃を放った、が。
 地を蹴ったフローネの合図に、素早く反応したバーミリオンとラーシュが壁となり防御。フローネ自身も光盾で刃を弾いて衝撃を軽減した。
 すぐ後には、ディミックが脚部機巧を噴射して疾駆。
 錆を気にしていた仕草も、今は開き直ったように収めて滴を豪快に振り払い──前面に出ると足を刺すように安定させ、エネルギーを直下に撃ち出していた。
 反作用で高く立ち上った輝きは、そのまま眩い壁となり。零れる光で皆を治癒していく。
「後は頼めるかねぇ」
「ええ、問題有りません」
 と、応えて軽く跳ぶのはタキオン。
 音もなく、それでいて機械の体は高々と空に昇る程の跳躍力を発揮して。皆を見下ろす位置から手を翳し、雨の中に仄かに輝く滴を交えていた。
 それは魔力を含んだ癒やしの慈雨。皆の体に触れて溶けてゆくと、傷を内外から跡形もなく濯い流してゆく。
 憎らしげな顔を見せる敵へ、ディミックは視線を向けていた。
「傷つけてもすぐに癒やしてみせるよ。尤も……私には赤い血潮は流れていないから、斬っても貴公にとっては残念だろうけれどねぇ」
「……それでも、斬るさ」
 罪人は忿怒のままに攻撃を狙う、が。
 そこへキリクライシャが天から舞い降りて。翼を折りたたんで速度を得ると、足先に魔力の光を棚引かせていた。
 そのまま雨天から陽光が顕れたような、眩き一撃。熱き蹴撃を叩き込みながら素早く飛び退いていく。
「……後は、お願い」
「うん。この一撃で、叩き潰してあげるよー!」
 頷く桜子も、ふわんと柔らかな長髪を棚引かせ。身の丈を超えるほどの桃色の槌を掲げ、強烈な殴打を見舞っていた。
 吹き飛ぶ罪人へ、麻亜弥も暗器【鮫の牙】。
 海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ、と。鋭き刃で体を抉り、引き裂いていく。
 そこへフローネが一刀を加えると、直後に視線を横に流して。
 頷くメリルディが鮮やかな蔓を波打たせていた。
「終わらせようか。……ケルス」
 声に応えた薔薇が見せるのは、『夜の静寂に揺蕩う夢』。縛り、穿ち、気力を奪い──罪人の命をその魂ごと千々に砕いた。

●雫を歩む
 さらさらと、雨が優しく注ぐ。
 戦闘後、周囲を癒やして人々へ無事を伝えることで、平和な時間が帰ってきていた。
 メリルディも公園の遊歩道をのんびり歩み始めている。
 雨のヴェールに覆われた、美しい花々を共に眺めるのは──隣を歩くフローネ。
「こうやって一緒にお花を見るのも久し振りですね」
 番傘を指して、仄かな雨の感触を手に覚えながら。フローネが言って微笑むと、メリルディもうんと頷いていた。
「そうだね。なんだか、懐かしい気分」
「蓮池の時以来でしょうか?」
「あれも、ずいぶん前なんだなぁ」
 春の色を帯びた雨の景色に、日々の時間を感じる。
 時は思うより速く過ぎるものだけれど。こんな穏やかな空気の中だと、それも悪い気分ではなくて。
 何しろ信頼できる人が隣にいれば、戦いでも心強かったし、今だってこんな楽しみに出会えているから。
 心地良い涼しさと、心を楽しませてくれる色彩の花々を眺めて──メリルディは呟く。
「こんな散歩も、いいね」
「そうですね。機会があればまた、来たいものです」
 フローネも言って穏やかに笑んだ。
 共に激戦を潜り抜けた戦友と、こうして緩やかな時間を共に送れることが嬉しくて。美しい花々を見れば、心までもが華やぐ気持ちになる。
 そうして暫し歩んだ後、メリルディは建物を見つけて指した。
「あっちのカフェにも行ってみない?」
「ええ、いいですね。行ってみましょうか」
 美味しいものを食べたら、また少し歩もうと。二人は和やかな視線を交わして、雨宿りに向かっていった。

「ね、折角だから散歩しよう!」
 マイヤはポンチョ姿のまま、公園へとやってきていた。
 相棒を肩に乗せ、くるくる跳ねるような足取りで。浅い水たまりも、游ぶように踏んでその音を楽しみながら歩み出す。
 ラーシュは反対しないけれど、マイヤが心配でもあるから……そんな視線に気づくマイヤは微笑みを返した。
「大丈夫、風邪引かないように気を付けるから。ちゃんとタオルも持ってきたよ!」
 そして長い散歩道をるんるんと歩み。咲き誇る花を見れば、わたし達みたいに元気だねと呟いては進んでいく。
 そうして時折空を仰ぎ、雨を見つめる。
「春の雨って優しい感じがするよね。実際は結構寒かったりもするけど……一雨ごとに暖かくなるんだって」
 明日は今日より暖かいかな、と。
 呟く途中でマイヤがくしゃみをするから──ラーシュはほら見ろと言わんばかり。
 えへへと笑ったマイヤは、タオルで自分とラーシュを拭いて公園の外へ。
「温かい飲み物が飲みたくなっちゃった。カフェに行ってみようか」
 それから一緒に暖かな建物へ向かい……優しいココアにほっと一息をついたのだった。

 キリクライシャはバーミリオンと共に花の道へ。
「……リオン、今度はゆっくり、行きましょう」
 今はそれが出来る時間だから、と。
 言えばバーミリオンも頷いて、隣り合って歩み出す。数え切れぬ程の花があると見れば、キリクライシャは見回しながら。
「……アネモネ、あるかも知れないわね。リオン、一緒に探してくれる?」
 するとバーミリオンはすぐにその赤い花を見つけるから──キリクライシャは自身の髪にそっと触れながら、暫し止まって眺めていた。
 それから、バスタオルで自身とバーミリオンの雫を拭ってからカフェへ。
 暖かな店内の席につき、アップルパイとアップルティーを注文。さっくりとしたきつね色の生地とたっぷりの果実、そして甘酸っぱさの薫る紅茶で一息ついた。
「……綺麗、ね」
 窓の外を仰げば、空に虹があるから。
 そんな美しい雨天の祝福を見つめつつ、レシピの幅も広げようと。キリクライシャは林檎のマフィンやクラフティも、ゆっくりと味わっていった。

 タキオンはレインコートに身を包み、散歩を始めている。
 ぴちゃりと水で輝く道を踏みながら、花に彩られた散歩道へ。美しい木蓮、鮮やかなフリージア、可憐なマーガレット──春の色を瞳に映していく。
「彩り豊かですね」
「わぁ、綺麗で可愛い花が沢山咲いているね」
 とととっ、と小走りにその横に並んでくるのは桜子。
 雨によって透明色の艶を帯びることで、色彩が一層強く強調されたように──春らしい色合いを見せるその道を、楽しげに見回していた。
「本当ですね。春の本番も、もうすぐそこということでしょうか」
 言って共に花を見つめるのは麻亜弥だ。
 静かな表情で、けれど綺麗な花々には確かに心動かされたように……海色の瞳を周囲に巡らせている。
 歩むに連れ、グラデーションを描くように様々な彩の花が垣間見えた。仄かな風が吹くと、その全てがさわさわと揺れて水気の煌めきを反射する。
 幾つもの眺めを旅するように、木立や花畑が交互する景色も飽きなくて。
「とっても素敵な公園だよ!」
「ええ。次は外も歩いてみましょうか」
 端までくると、タキオンはそのまま街並みへ。雨に濡れて水彩画のようになった家並みを楽しんだ。
 滴がコートを叩く音も、快くて。
「雨音はリズミカルに聞こえますし、幻想的ですね」
「ええ」
 麻亜弥も傘の雨音を感じつつこくりと頷く。
 公園も街並みも、雨が降っていなくても美しいだろう。
 けれど同時に、こんな景色は雨でなければ見られないから。
「雨の日の散歩って楽しいですね」
「うん!」
 次はカフェに寄っていこうよ、と。
 桜子が笑んで駆け出すと、二人もまた顔を見合わせてから頷いて。皆で温まりに、歩み始めていった。

 ディミックは雨宿りをしながらしっかりと滴を拭いていた。
 この雨空を、ひとのように楽しむことはできるだろう。けれど自分が散策しようと思えば、体躯を覆うだけの大きな傘が必要になってしまう。
 そうなれば、誰かの視界を遮ってしまうだろう。
「それは本意じゃないからねぇ」
 と、穏やかな遠慮の心で、向かうのはカフェ。
 雨景色を見られるのは何も屋外ばかりではないからと。窓際の席について、外を眺めることにしていた。
 飲み物はおすすめの珈琲を頂いて。
「……風情があるものだ」
 時折啜ってみながら、雨に化粧された街並みを見る。
 ぽつぽつと滴が叩く窓硝子は、水玉模様の透明なカーテン。それを通して見る景色は、澄明に煌めいているようで。
 壁や空、花。
 変哲のない色までが、特別に彩色され直したように潤って、美しい。
「成程ねぇ」
 だから自然も人々も、雨を愛すのだ。
 改めてそんな実感を得たように、ディミックはカップを手に持って。少しだけ冷えた体を、芳ばしい香りと味で温めていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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