静かなる侵食

作者:雷紋寺音弥

●揺れる大地
 光の射さない地下空洞。大阪の街の下に人知れず設けられたその場所を、採掘し続ける不気味な影。
「ギ……ギギ……」
 ひたすらに土を飲み込み、空洞を広げて行くそれは、二股に分かれた尾を持つ巨蟲だった。巨蟲は、その口から多数の触手を繰り出すと、それらを器用に振り回し、先端で土を飲み込んで行く。
 そんな作業を延々と続ける巨蟲の姿を、後ろから見守る者達があった。
 髑髏の身体を持った兵士。骸骨兵……否、この場合は竜牙兵と呼ぶべきなのだろう。もっとも、その身体は蔦や苔といった植物に覆われ、肉体の主導権は植物の方が握っているのは明白だったが。
 やがて、巨大な空間が開かれると、植物に侵食された竜牙兵達は、自らの体内に宿した種子を放出した。撒かれた種は瞬く間に根を張り、枝を伸ばし……大阪の地下は、着実に攻性植物の拠点と化していった。

●密やかに迫る脅威
「招集に応じてくれ、感謝する。既に知っている者もいるとは思うが、大阪城の攻性植物勢力が、大阪城の地下に巨大空洞を作り拠点を広げている事が判明した」
 事の発端は、大阪城周辺の地下鉄の状況を厳重に監視していた、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の発見によるものだ。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、今回の作戦についての説明を始めた。
「攻性植物達は、地下を掘り進める事に特化した巨大攻性植物……『プラントワーム・ツーテール』を使い、地下拠点の拡大を進めているようだな。既に、地下鉄の路線のすぐ下まで拡張されている。予断を許さない状況ではあるが……こちらの手の届く範囲まで掘り進んでくれたのは、考えようによっては好都合だったかもしれないぜ」
 少しばかり荒っぽい方法だが、地下鉄の路線を爆薬で爆破すれば、拠点を掘り進めている敵に奇襲をかける事も可能だ。爆破した路線は、作戦終了後にヒールで修復すれば問題ないので、今は敵の拠点の拡充を阻止することが優先である。
「お前達は目的の地点で路線を爆破後、敵拠点へ侵攻。作業中の『プラントワーム・ツーテール』と、護衛のデウスエクスを撃破して欲しい」
 プラントワーム・ツーテールは『全長20m』という巨体を誇る大型のデウスエクスだ。しかし、拠点工事に特化しているためか、不気味な見た目と巨大な体躯に反して知能や戦闘力はそこまで高くない。作業の邪魔をする者がいれば、巨体で押し潰したり触手で噛み付いたり、あるいは防具を溶かす溶解液を飛ばして攻撃してくるだろうが、そこまで威力が高くないのは幸いだ。
 その一方で、護衛のデウスエクスの方だが、むしろこちらが厄介かもしれない。出現するのは、ドラゴンの牙を苗床にして育てられた攻性植物。見た目は竜牙兵だが、しかし肉体の主導権は骸骨の身体に絡み付いた植物の方が握っており、触手状の蔦で敵を貫く、あるいは捕縛するといった攻撃に加え、大地を侵食して敵を錯乱させる術も持っている。
「攻性植物の苗床にされた竜牙兵……植性竜牙兵とでも呼べばいいのか? 作業中のプラントワーム・ツーテールは、こいつらに守られている。無視して本命の撃破に専念しても構わないが、全く相手にせずにプラントワーム・ツーテールだけを倒すのは難しいだろうな」
 植性竜牙兵の数は10体程度。幸い、こちらも個々の戦闘力はそこまで高くないので、迅速な排除を心掛けつつ、プラントワーム・ツーテールを撃破するのが望ましい。
「グランドロン城塞を破壊して、地上の動きが弱まってきたと思えば……連中は、地下から攻める準備をしていたようだな」
 だが、その企みも、これまでだ。この作戦の要であるプラントワーム・ツーテールを撃破すれば、敵は支配地域を大幅に拡大する術を失うはず。
 長きに渡る、攻性植物との戦い。大阪の地を、これ以上デウスエクスの好きにさせてなるものか。そう言って、クロートはケルベロス達を、敵の拠点へ続く地下鉄路線へと送り出した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)
影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●潜入
 爆風と共に天井が崩れ、地下空洞へと降り立つケルベロス達。突然の襲撃に慌てふためく植性竜牙兵達だったが、攻める側としては好都合だ。
「プラントワーム貴重な植物じゃて? 否、これは芋虫じゃな……」
「実際に間近でみると凄く大きいよね……」
 天井に届かんばかりの巨体を誇る攻性植物を前に、ステラ・ハート(ニンファエア・e11757)と影渡・リナ(シャドウフェンサー・e22244)は、思わずその体躯を見上げてしまった。
 動きは鈍そうだが、しかし巨体故の体力と、なによりも攻撃範囲の広さが恐ろしい。戦闘用ではないと聞いているが、それでも巨大な身体を生かした力任せの攻撃は、脅威と呼ぶに相応しいものだ。
「地下で拠点を広げているなんて、油断もスキもありゃしねえな」
「だが、穴掘りはここまでだ。これ以上、お前らの好きにはさせねえぜ」
 早速、群がって来る植性竜牙兵達を、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)とラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が牽制する。その間に、他の者達も準備を整えれば、臨戦態勢は万全だ。
「久しぶりの前線なので、少し緊張してしまいますけれど……」
「ルーは下がってて。後ろは任せるから……その代わり、アレはリリがやっつけるよ」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)を庇うようにして、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が自ら前に出た。普段は狙撃に特化した戦い方を好む彼女だが、今日は火力と殲滅性能の関係から、敢えて前に出るという選択をしている。
 正直、後ろで観ているルーシィドからすれば、あまり前に出過ぎて傷ついて欲しくないというのが心情だ。服破り的な役得を楽しめる余裕があれば良いのだが……残念ながら、今回の任務にそんな余力はなさそうで。
「さて……まずは、周辺の有象無象を片付けるか」
 相棒のボクスドラゴンであるボハテルを後ろに控えさせ、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)もまた前に出た。敵の数が多く、おまけにタフな相手を倒さねばならないため、全体的に今回の布陣は前のめりだ。
「化け物め……これ以上、大阪の地を好きにはさせんぞ!」
 戦斧を構え、ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が狙いを定める。群がる敵に臆することなく、彼は砲塔を展開すると、そこから放たれた可燃性のミサイル弾で、早々に敵の集団を焼き払った。

●激闘
 巨大な攻性植物と、それを守る異形化した竜牙兵達の群。個々の戦闘力はそれ程でもないが、しかし数が数だけに、戦場は混戦の様相を示していた。
「竜牙兵を見るのは久々だけど……攻性植物に乗っ取られたって感じだな。もしかしたら、ユグドラシルのとこに逃げたドラゴン達も、同じ事になってたりすんのかな?」
 火炎の息で敵を焼き払いつつ、ラルバがふと疑問を口にした。もっとも、その答えを探すよりも先に、巨大な触手が彼らを打ち据えんと迫って来るのだが。
「うねうね気持ち悪い触手は勘弁だよ……」
 間髪入れず、リリエッタが敵の触手に銃弾を撃ち込んで牽制する。体表は堅くとも、触手そのものは柔らかいのか、プラントワーム・ツーテールは奇声を発して触手の先を引っ込めた。
「それにしても、思った以上に面倒な連中だな。敵の布陣は、上手い具合にバラバラ……おまけに、デカブツは耐久重視とはな」
 爆弾を炸裂させて植性竜牙兵を牽制するカジミェシュだったが、やはり気に掛かるのはプラントワーム・ツーテールだ。思いの外、前に出て来てはいるが、その間合いは完全なる防御特化。故に、中途半端な攻撃では、なかなかダメージを与えられない。
「構うな! 今は、この骸骨モドキを殲滅するのが先だ!」
 敵の脳天に斧を叩き込みつつ、ジョルディが叫んだ。植物に侵食されたことで、防御力は却って低下しているのだろうか。植性竜牙兵の頭は薪のように割れてしまい、そのまま崩れ落ちて動かなくなる。当たり所が良ければ、集中攻撃で各個撃破するのは難しくなさそうだが。
「残りはいくつかな? もう、半分くらい倒して……きゃぁっ!!」
 敵の数を改めて数えようとしたところで、リナの肩を敵の蔦が貫いた。1本ずつでは大した力を持たない蔦でも、それらを束ねて鋭く収束させることで、槍のように変形させてきたのだ。
「迂闊に出過ぎない方がいいぜ。下がりな」
 傷を負ったリナに代わり、前に出たのはムギだ。元より、彼の役目は味方の盾。攻撃は全て自分が引き受けんとばかりに、敵の前で盛大に存在感をアピールし。
「存分にかかってこい、この筋肉が相手をしてやる」
 全身に蔦が絡みつき、果ては身体を貫かれても気にしない。この程度は掠り傷とばかりに不敵な笑みを浮かべ、続けて全身に霧を纏うと、気合で拘束を引き千切る。
「筋肉を舐めるなぁぁあああ!!!」
 こんな時のために、日頃から鍛え続けているのだと言わんばかり。そして、敵の攻撃がムギに集中したことで、ステラとルーシィドが態勢を立て直すべく癒しの力を解放する。
「大丈夫、みんなで力を合わせて行こうぞ」
「ご安心下さい。茨の棘に刺されても、あなたがたは決して死にません……ただ、眠り続けるだけ」
 黄金の果実が、緑の茨が、それぞれ敵の攻撃によって与えられた毒を除去し、破れた衣服を修復して行く。さすがに、蓄積疲労までは回復できないが、それでも今はこれで十分だ。
「行くよ……。風舞う刃があなたを切り裂く!」
 逃げ遅れた植性竜牙兵を、風を纏ったリナの刃が斬り捨てる。戦いは徐々にだが、ケルベロス達の方が優勢となっていた。

●誤算
 全ての竜牙兵を倒し、残すはプラントワーム・ツーテールのみ。だが、いくら戦闘用ではないとはいえ、やはり巨体故の耐久力は凄まじいものがあり、それだけ攻略には苦労させられる相手だった。
「この……しつこい!!」
 触手の合間を掻い潜り、リナが返す刀で斬り付ける。が、弾性の高い敵の身体は打撃や斬撃を吸収し、思ったように刃が通らない。
「敵の近くで立ち止まるな! 押し潰されるぞ!!」
 すかさず、ジョルディが続け様に敵の触手を切断して気を引いたが、それとて、ともすれば反撃を食らい兼ねない危険な行為だった。単に巨体に任せて暴れるだけで攻撃になるプラントワーム・ツーテールに接近戦を挑むのは、それだけリスクの高い行動だ。
「……思った以上にタフだね。こんなことなら、雑魚に時間を掛けない方が良かったかも……」
 一向に好転しない状況に、ここに来てリリエッタが初めて自分達の作戦の欠点に気づき、歯噛みした。
 邪魔な竜牙兵を退治し、その後に本命を撃破する。確かに、一見して理に適った作戦に思えるが、それはあくまでこちらの総戦力に余裕がある時の話である。
 数だけで考えれば、今回は敵の方が多かった。植性竜牙兵の個々の戦闘力が低いとはいえ、それでも10体も集まれば、強力なデウスエクス1体分の戦力に匹敵する。
 そんな集団を叩き潰し、その後に強靭な大型の攻性植物を撃破するともなれば、実質、休みなく2連戦をしているのも同じこと。しかも、後半に相手取る敵は耐久力に優れているとなれば、こちらが先にスタミナ切れを起こすのは当然だ。
 今回の目的は、あくまでプラントワーム・ツーテールの撃破だった。それさえ成功させれば、植性竜牙兵など捨て置いても構わない。彼らを倒したところで敵の戦力にそこまで大きな痛手はなく、個体数を減らすことは、今回の任務のオマケ程度でしかない。
 手段と目的を間違えた、あるいは欲張り過ぎたのだろうか。そのことに気が付いた時は、既に度重なる戦いのダメージで、傷を負っていない者を探す方が難しかった。
「ギ……ギィィィィッ!!」
 奇声を発し、触手の先端にある口を大きく開くプラントワーム・ツーテール。それが、溶解液を発射するための予備動作であると見切り、ムギはカジミェシュやラルバと共に前へと出た。
「来るぞ! ここが堪えどころだ!!」
「……ったく、冗談じゃないぜ。まあ、それでも誰かが死ぬよりゃマシか」
 身体を張って仲間を守らんとするムギに、苦笑しつつ頷くラルバ。二人とも、既に今までの戦いで味方を庇い過ぎて満身創痍だ。それは、同じく味方の盾として戦って来たカジミェシュもまた同じであり。
「これが敵を倒すための布石となるのであれば……遠慮なく、この身を差し出そう」
 彼もまた正面に立ったところで、プラントワーム・ツーテールが強力な溶解液を散布する。それらは岩盤をも溶かす強酸性の雨となり、3人の頭上に降り注ぎ。
「「「……っ!!」」」
 周囲の大地が白い煙を上げ、3人の身体もまた悲鳴を上げた。平時であれば余裕で受けられた攻撃だったが、今までの戦いで蓄積していた負傷を考えると、さすがに耐えられるものではなかった。
「あ……あぁ……な、なんということじゃ……」
 煙が晴れ、その中から倒れている3人の姿が現れたことで、ステラの指先が微かに震えた。
 これでは同じだ。自分の叔母がデウスエクスのせいで死に、そのせいで母親が悲しみの淵に叩き落とされた時と。自分は癒し手。仲間の傷を回復させるのが仕事だが、過酷な連戦は彼女の力を以てしても最前列で戦う者達の身体を全快させることを許さず、蓄積した疲労は着実に彼らの体力を奪い、今の溶解液が駄目押しの一撃となってしまった。
「だ、大丈夫ですか、リリちゃん?」
「うん……みんなが守ってくれたから。でも……」
 心配するルーシィドを余所に、リリエッタは視線を前へと向けた。見れば、倒れた主の顔を覗きこみ、ボハテルが不安そうな表情を浮かべていた。
 このままでは、遠からずチームは壊滅だ。あるいは、最後の最後で敵を取り逃がしてしまうかもしれない。
 そんなことになれば、今までの苦労は水の泡。最後まで壁として自分達を守ってくれた、ムギ達にも合わせる顔がない。
「……行くよ、ルー。もう、回復とか牽制なんてしている場合じゃない」
 リリエッタの視線が鋭さを増した。いつもの、粛々と任務を遂行するための視線ではない。かつて、この世の地獄を見て来た際に宿していたであろう、敵を徹底的に殲滅するための眼光を、彼女は再び瞳に宿した。
「わかりましたわ……。もう、形振り構っていられる余裕はありませんわね」
 リリエッタの変化に、ルーシィドも何かを悟ったようで、それ以上は何も言わなかった。言葉にせずとも、親友が何を考えているかぐらいは、彼女にも肌で感じられた。
「リリの打撃じゃ、こいつは倒せない……けど!」
 鈍重な敵を翻弄しつつ懐へ入り込み、リリエッタはその巨体を蹴り飛ばす。狙うべき場所は、先の攻撃でリナが傷つけた場所。いかに打撃を吸収する身体とはいえ、同じ個所を何度も狙われれば。
「今だよ! ルー、お願い!」
「はい! 伏せて下さい、リリちゃん!」
 敵の巨体が揺れた瞬間、リリエッタはすかさず離れ、身を屈める。その頭上を掠めて行くのは、ルーシィドの蹴り出した星型のオーラ。それは、リリエッタの蹴りで凹んでいた敵の胴体に炸裂し……ついに、数多の打撃と斬撃を受け流して来た巨体を斬り裂いた。
「ギァ……ァ……ァ……」
 傷口から青臭い汁を撒き散らし、プラントワーム・ツーテールは触手をうねらせ、悶絶している。まるで、破かれた巾着袋のようだ。後一撃、あそこへ攻撃を食らわせれば、あの化け物を仕留められる。
「後は任せた……ステラが決めて」
「なっ……余が、決めるじゃと!?」
 リリエッタからいきなり振られ、ステラがしばし戸惑った表情を見せる。確かに、この状況では、攻撃の手は多いに越したことはないが。
「あなた以外に、誰がいらっしゃいますの?」
 すかさず、ルーシィドが後押しする。後衛であるから牽制とか、癒し手であるから回復主体などと言っている場合ではない。
「仕留められる機会を見逃してまで、好機を他者に譲る理由もあるまい」
「心配しないで。どうしても仕留め損ねたら、後はわたし達でフォローするよ」
 ジョルディとリナも、続けてステラに促した。今、このタイミングであれば、彼女達が仕掛けるよりも、ステラが決めた方が早い。
「そうか……そうじゃな。元より、あやつは母様の姉上を襲ったかもしれぬ相手。故に、余が見逃す道理もない、か……」
 軽く溜息を吐いて目を瞑り、そして再び瞳を見開いた時、ステラの心は決まった。
「貴様が地上にでも現れたら、母様のような悲しみにくれる人が増えてしまう。それに、余は母様にも師匠にも、笑って過ごして欲しいのじゃ!」
 だから、ここは自分の手で決着を着ける。駆け出したステラが狙うのは、連携攻撃で破られた敵の傷口だ。
「これで……沈むのじゃ!!」
 鋭利な刃も、鍛え上げた肉体もない。ただ、その手にグラビティ・チェインの力を練り合わせただけの徒手空拳。しかし、頭に咲く睡蓮の花を揺らしながら、敵の傷口に攻撃を叩き込んだ瞬間……プラントワーム・ツーテールは、その巨体を今までになく激しく揺らし、そして木っ端微塵に弾け跳んだ。
「……余が……やった、のか?」
 破鎧衝。敵の弱点を瞬時に見切り、そこへ致命的な一撃を叩き込むという、鎧装騎兵の得意技。
 凄まじい消耗戦になってしまったが、それでも当初の目的を果たしたことで、地下空洞の戦いは、ケルベロス達の勝利に終わった。

●帰還
 戦いが終わってしまうと、地下空洞は思いの他に静かだった。
「イテテ……ったく、酷い目に遭ったぜ」
「やれやれ……これでは、また紺に泣かれてしまうな」
 意識を取り戻したラルバとムギが、互いに皮肉を込めて苦笑した。必至の覚悟も、鍛え上げた肉体も、作戦の甘さから限界を迎えてしまったとなれば、笑えない。
「……心配掛けたな。俺は大丈夫だ」
 カジミェシュもまた、相棒のボハテルに自身の無事を告げていた。あれだけ手酷くやられたのに重傷者を出さなかったのは不幸中の幸い。皆、それだけ鍛え方や、潜り抜けて来た修羅場の数が違うということか。
(「母様……余は、勝利したぞ……」)
 地下空洞の天井を見上げ、ステラは心の中で呟いた。これで全てのプラントワーム・ツーテールを殲滅出来たわけではないが、それでも人々の笑顔を守ることに、僅かばかりの貢献はできた。
「もう、ここに用はないね。……帰ろう」
 天井に開いた穴から垂れているロープを指差すリリエッタ。彼女の言う通り、もうこの場所に用はない。ならば、再び光射す地上へ帰還しよう。最愛の人が、親しき友が、そして守るべき人々が待ってくれている地上へと。
 攻性植物の侵攻が進む大阪の地。だが、その勢力図はケルベロス達の活躍によって、徐々にだが確実に変わりつつあった。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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