板子一枚の下に蠢くもの

作者:椎名遥


 大阪の地下の奥深く、光のささない土の中で『それ』は蠢く。
 巨体をくねらせ、触腕を振るい。
 行く手を阻む土石の壁を、喰らい、溶かし、抉り取り。
 それは――『プラントワーム・ツーテール』は、土の中を掘り進む。
 無数の護衛を従えて、ゆっくりと、しかし止まることなく。
 もっと先へ、もっと遠くへ。
 今よりも、もっと広い土地を得るために。
 ――攻性植物の根を、世界の全てへ広げるために。


「大阪城を拠点としている攻性植物勢力の動きが判明しました」
 集まったケルベロス達に一礼すると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は資料を示して説明を始める。
「ご存じの通り、現在、大阪城周辺は攻性植物勢力が実効支配している状況にあります」
 無論、その地域を占拠しただけで攻性植物が満足するはずも無く、ケルベロスとしてもその状況を放置しておけるわけもない。
 支配地域を拡大しようとする攻性植物勢力と、それを阻止しようとするケルベロスが拮抗することで、その地を取り戻すことはできずともそれ以上の勢力拡大は防ぐことができている――と、思われていた。
「ですが……攻性植物は、これまでと異なる手段で地下から侵略を進めようとしているということが判明しました」
 それは、地下を掘り進める事に特化した巨大攻性植物『プラントワーム・ツーテール』を使い、支配領域の地下にユグドラシルの根を伸ばす事で、戦力の増強を図るというもの。
 ケルベロスに気付かれないよう入念に進められてきた地下からの侵略は、大阪周辺の地下鉄を厳重に監視していた君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の目が無ければ、あるいは誰にも気づかれることのないまま手遅れになるほどに進行していた恐れすらあった。
「現在、攻性植物の拠点は地下鉄『大阪ビジネスパーク駅』の線路のすぐ下まで拡張されています」
 気付かない間にそこまで侵攻が進んでいたことに、改めてセリカは小さく息をつく。
 だが、それは、相手が手の届く場所まで近づいてきているということでもある。
「ですので、皆さんには線路を爆破して拠点に突入し、拡充作業を行っているデウスエクスの撃破を行ってもらいます」
 すぐそばまで近づいた拠点の壁は、こちらから崩すことも難しくなく、タイミングを計れば奇襲をかける入り口にすることもできる。
 故に、予定された地点でタイミングを計ってTNT爆薬を爆発させることで、拠点を掘り進める敵に奇襲をかけ、その後は速やかに離脱するというのが作戦の流れとなる。
「この時、皆さんが戦うことになるのは、巨大攻性植物『プラントワーム・ツーテール』と、護衛のデウスエクス『スロウン』になります」
 プラントワーム・ツーテールは全長20mという巨体を誇る巨大攻性植物ではあるが、その能力は掘削作業に特化しているために知能も戦力も大したものでは無い。
 同時に、それだけ特化させた存在はそうそう量産できるものでもなく、撃破することができれば攻性植物の目論見に大打撃を与えることができるだろう。
 だが、その護衛を務めているスロウンは別だ。
「人型の植物とでもいうべき姿をしているスロウンですが、侵入者を察知すると腕を剣のような形に変化させて迎撃に向かってきます」
 かつてはエインへリアルが鹵獲、使役していたという攻性植物『スロウン』。
 これまで姿を見せていなかったその存在が表に出てきたのは、大阪攻性植物勢力にハールが合流したことによるのか、それとも別の要因があるのかはわからない。
 今わかっているのは、その実力が決して侮ることができないものであるということのみ。
「スロウン一体の戦闘力は、皆さんたち一人と同程度と思ってください」
 剣に変わった腕はゾディアックソードを模したような力を宿し、二人一組で攻め手と守り手を担当する戦い方は単純だからこそ堅実な力を発揮する。
 無策でぶつかれば、苦戦は避けられないだろう。
「そして、目標撃破後は長くとどまらずに速やかに撤退をお願いします」
 拡張作業中の先端部とはいえ、その地はれっきとした攻性植物の本拠地。
 長くとどまっていれば、何が起こるか予想できないのだから。
 そう語ると、セリカは一度目を閉じて息を吸う。
「今回の一件、事前に気付くことができたのは幸運でした」
 気付かないままに攻性植物が勢力を拡大し、そしていつか動きを見せた時に出る被害は、想像すらしたくないほどに大きいものとなっただろう。
 だからこそ、
「この幸運を無駄にするわけにはいきません。皆さん、行きましょう!」


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
奏真・一十(無風徒行・e03433)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
清水・湖満(氷雨・e25983)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)

■リプレイ

「ふむ……」
 眼鏡を光らせ周囲を見回し、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は小さく呟く。
 攻性植物の勢力下にあることもあって、周囲に人の気配はないけれど……だからと言って、静寂に満ちているというわけでもない。
 かさり、と聞こえた物音に視線を向ければ、小さな影が瓦礫の隙間へと逃げてゆく。
「そういや聞いた事があるな……大阪の地下って虫が少ない代わりに異様にデカいネズミが多いって」
「ほほう」
 苦笑しつつ周囲に視線を走らせる月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)の言葉に、テレサは興味深げに頷いて。
「それらしい気配はいくつかあったのですが……」
「これ、とまで絞り込めなかったのは、そのせいかしら……?」
 少し離れて気配を探っていた肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)とルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)も、軽く首を振って合流する。
 振動やその他の気配を頼りに相手の動きを探ってみたものの、隠密作業を得意とする相手を察知するのは、それと意識した上でも難しい。
 ――だからこそ、見つけられたこの幸運を逃すわけにはいかない。
「そろそろ時間ですね……」
「穴は塞ぐもの。てことで、ほなちゃちゃっと片付けにいこか」
 時計を確認する死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)に、清水・湖満(氷雨・e25983)は笑みを返し。
 構内図と周囲の配置を再確認すると、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)設置した爆薬のスイッチに指をかけて一度息を吸い込む。
 これを押し込めば、始まるのは攻性植物との戦い。
 それに緊張する部分はあるけれど――。
「敵の頭上で爆破して突入! わくわくするね!」
「――ああ。いくぞ!」
 薬品の化学反応と、そこから起きる大爆発。
 工学に関わる者として、昂る気持ちもまた確か。
 楽しそうに手を合わせる湖満に頷きを返すと、道弘はスイッチを押し込む。
 直後、巻き起こる轟音と爆風が周囲を満たし――。
「――ふっ」
 それが収まるよりも早く、奏真・一十(無風徒行・e03433)は地を蹴る。
 身を低くして土煙を突っ切り、空いた大穴に身を躍らせれば、その下にあるのは広大な地下空間。
(「なんと、大工事ではないか。精の出ることだ」)
 デウスエクス『ユグドラシル』。
 その名の通り世界樹たらんとする動きに感嘆の息を漏らしながらも、一十は空中で周囲に視線を走らせる。
 視界に映るのは、爆発に反応して動きを見せている無数の人影『スロウン』と、その奥で蠢く巨大な影『プラントワーム・ツーテール』。
(「人型8体、巨影1体――現場監督は不在か?」)
 いずれも指揮を執る動きではないことにわずかに眉をひそめながらも、その動きは止まることは無く。
「つまらぬものを見せてやろう」
 着地と同時、一十を中心に四方に湧き出ずるのは刃金の峻嶺、縫い留め貫く針の山。
 地より現れる、絶え間なき灼熱の如き激痛を与える剣山が、スロウンの群れを飲み込み――閃く銀光が剣山を薙ぎ払った後に残るのは、いまだ健在なスロウンの姿。
 範囲攻撃の狙いも効果も、相手の数が多すぎれば本来の力を発揮することは難しくなる。
「まあ、そうなるだろうが――」
 だが、狙いが鈍ろうが、効果が弱くなろうが、巻き込む数が多くなれば総合的には十分な効果は得られている。
 それに、
「見えとるね」
「たとえ地の底を行こうとも、私の眼鏡を誤魔化すことはできません。暗くても眼鏡はすべてを見通します――テレーゼ!」
 ルベウスが放る魔力触媒の宝石が放つ光の中。
 鎖を操り守護の魔法陣を描き出す朔耶の声にテレサも頷き、別段暗視効果などついていない眼鏡を光らせライドキャリバー『テレーゼ』を走らせる。
 攻性植物『スロウン』。
 同じ姿、同じ得物。一見するならば個体の違いは見えないけれど――動きを見れば違いは瞭然。
 一十の攻撃に対して庇う動きを見せた者こそが、優先して倒すと決めていたディフェンダー。
「まずは、そいつらからだな!」
 道弘が吐き出す炎の息が迎撃に動くスロウンの群れを飲み込み、その足を止め。
 ――直後、炎を切り裂いて突撃するスロウンの刃を鬼灯の漆黒の剣が受け止める。
 互いの力はほぼ同じ。
 刃を押し込むスロウンと、押し返す鬼灯の間に一瞬の拮抗が生まれ、
「――っ!」
 腕に力を込めると共に、至近距離から鬼灯の放つサイコフォースの爆発がスロウンの体を押し返し。
「行きなさい、混世魔王」
 弾かれ、押し返されて開いた隙間を縫って走るのは、ルベウスの操る呪力を帯びた無数の角銭――呪銭『混世魔王』。
 猟犬の如き動きで敵を締め上げんと疾駆する鎖と、スロウンの刃が火花を散らしてぶつかり合い。
「こそこそ行動ご苦労さまね。それもぜーんぶ、水の泡てことやけど、どうかな?」
 からり、と高下駄の音を鳴らし、歌うように踊るように湖満が放つ混沌の波が回り込もうとする別のスロウンを凍てつかせて、その足を鈍らせ。
 相手の足並みが乱れた隙を突いて、巨大な双円刀を呼び出しつつテレサが踏み込む――その寸前で、一歩横へとサイドステップ。
 直後、その場にツーテールの溶解液が降り注ぐ。
「今日はクールなメイドのテレサちゃん、しっかりツーテールも見てますよ、えっへん」
「危ない、危ない……」
 胸を張るテレサの放つ双円刀と刃蓙理のドラゴニックスマッシュが一体のスロウンに続けざまに打ち込まれ、跳ね飛ばし。
「無駄に数は多いし、意外と強いし……」
 即座に身を起こすその個体を、湖満は油断なく見据える。
 数も実力も、自分達と相手の戦力はほぼ同じ。
 自分達ならこれくらいじゃ倒れないと思えるからこそ、相手もこれくらいで倒れてくれるはずもない。
 決して楽観できるような相手ではないけれど――。
 ふ、と口の端を上げて笑みを浮かべて得物を握りなおす。
「ま、でも私らには敵わんよ。覚悟しとき」


「そこですっ!」
 鬼灯の声に応え、撃ち出される漆黒の鎖。
 神殺しの毒を宿して降り注ぐ鎖が、スロウンを貫き、穿ち。
 されど、豪雨の如き鎖の雨をかわして弾き、前へと踏み込む無数のスロウンが重力を宿した二刀を構え――。
「リキ!」
「テレーゼ!」
 その刃が振るわれるよりも早く。
 朔耶のオルトロス『リキ』が。テレサのライドキャリバー『テレーゼ』が。
 そして、白い斧槍を携えた一十が、前へと踏み込み刃を受け止める。
「ふっ」
 武器越しに伝わる威力に、一十の口から息が漏れる。
 だが、それでも押し切られることなく斧槍を操り受け流し。
 自身のボクスドラゴンである『サキミ』の注入する力と、朔耶の呼び出す魔法の木の葉の支援を受けて、振り上げる斧槍は逃すことなくスロウンをとらえて跳ね上げる。
「合わせてください」
「任せろ!」
 その機を逃すことなく、撃ち込まれるテレサと道弘のフォートレスキャノン。
 宙に浮かされ、体勢を崩した状態では避けることもかなわず、二連の砲撃がスロウンを地面へと叩きつけ。
「頑張るけど、そこまでさね。あんたらは私らに潰される運命てことよ。だから――名誉ある死を」
 なおも立ち上がろうとするスロウンへと、湖満が斬撃を飛ばす。
 不規則な軌道を描き、飛来する無数の斬撃。
 回避されても尚対象を追い取り囲む斬撃は、蝶の羽をそぎ落とすかのような動きでもってスロウンを切り裂き、その動きを牽制し。
「轍のように芽出生せ……彼者誰の黄金、誰彼の紅……」
 孤立したスロウンへ止めを刺すべく、ルベウスは魔術を組み上げる。
 触媒とする魔力を込めた無数の宝石が熱を宿して光を放ち。
 黄金色の光の中から生まれるのは、光とも金属ともつかない巨大な槍状の魔法生物。
「やらせはしない……」
「長じて年輪を嵩塗るもの……転じて光陰を蝕むるもの……櫟の許に刺し貫け」
 割り込もうとするスロウンを刃蓙理が超重力を宿した掌底で迎撃し、確保された射線を縫って光槍は疾走する。
 赤の瞳で獲物を見据え、光の粒子を残して走り抜けたその後に残るのは、胴を貫かれ、崩れ落ちる残骸のみ。
「まず一体、か」
 崩れ去るスロウンの姿に小さく息をつきつつも、朔耶の表情に余裕の色は薄い。
 まず一体。まだ一体。
 一体倒れたとはいえ、相手の戦力の大半は健在。
 戦いの流れは、いまだ決まってはいないのだから。
「まだまだこれから」
「ああ」
 そうして、朔耶が振りまく魔法の木の葉に包まれながら、一十は再度地獄の針山を顕現させる。
 再び湧き出ずる剣山は、スロウンの数が減ったこともあってより高い精度をもって貫き立ち上がり。
 それらを受けつつ凌ぎつつ踏み込むスロウンをルベウスの暗黒縛鎖が迎撃し、足が止まった相手をテレサのフォートレスキャノンが退ける。
 それに続け、溶解液を相殺しながら撃ち込まれる道弘のファイアーボールを切り裂き、降り注ぐライジングダークより早く飛び掛かるスロウンの刃を一十が受け止めて。
 動きが止まった隙を突いて湖満の気咬弾が撃ち込まれると同時に、一十の背を借りて飛び上がった刃蓙理の呪怨斬月がスロウンの体を両断する。
 これで二体。
 ――だが、
「――!」
 崩れ落ちる残骸もろともに振るわれるスロウンの刃が、リキを捉えて跳ね飛ばし、
「この!」
 追撃こそテレーゼの攻撃で阻むも、跳ね飛ばされたリキはそのまま起き上がることなく消滅する。
 サキミと力を分け合っている一十、サーヴァントであるリキとテレーゼ。
 守りに長けたディフェンダーとしての立ち位置にあっても、いずれも体力は高いとは言えず。
 攻撃を受け続ければ、そう遠くないうちに限界を迎えるのは避けられない。
 ――だが、それは今ではない。
 気を張り得物を握り、薄笑を浮かべて一十は相手を見据える。
 負担は重くとも、その分だけ仲間達は攻撃に専念できている。
 健在なスロウンも、重なる範囲攻撃によって少なくないダメージを負っている。
 ならば後はとは、どこまで耐えられるか。
「来るがいい。たやすく倒れてはやらんぞ」


「――そらよっと!」
 湖満の創世衝波とスロウンのミラージュが相殺し合う中、仲間を盾に衝撃を凌いで距離を詰めようとするスロウンへと、道弘は無数の小塊を投げ放つ。
 握りつぶした石灰から生み出された多数の不揃いな小塊は、弧を描き、地面に跳弾し、様々な軌道を描いてスロウンへと走り、その関節を撃ち抜いて。
 手足を射抜かれ、狙いの甘くなった刃を一十が受け止めスカルブレイカーで跳ね飛ばし。直後、ルベウスのクリスタライズシュートの追撃が貫き砕く。
 同時に、他方から回り込もうとするスロウンの刃と鬼灯の戦術超鋼拳がぶつかり合い、弾かれ。
 体勢を立て直すより早く振るわれる刃が鬼灯を切り裂き跳ね飛ばすも――テレサのフォートレスキャノンが相手の腕を撃ち抜いて追撃を阻み、鬼灯と入れ替わりに踏み込む刃蓙理のドラゴニックスマッシュが、守りを抜けて胴を捉え打ち砕く。
 その一方で、跳ね飛ばされた鬼灯を受け止めた朔耶にツーテールが振りまく溶解液が降り注ぎ――、
「開放……ポテさん、お願いします!」
 手にする杖を梟の姿へと戻し、それを通して朔耶が放つ魔法弾が溶解液を打ち払うと同時に、送り込むオーラが鬼灯の傷を癒し。
 回復を受けて立ち上がり、視線を鋭くして鬼灯は相手を見据える。
 すでにディフェンダーは全て倒し、残るスロウンは半数を切っている。
 こちらの体力にも余裕はないけれど――。
(「強い……でも、負けられません!」)
 相手の強さは、そのまま侵攻した時に戦えない一般人への脅威となる。
 そして、そうなった時……自分達が助けられるのは全てではない。
 ならばせめて、助けが必要とされないように。
「ずっとずっと聞こえる。あの日、あの時、あの惨状」
 思い起こすのは、デウスエクスの襲撃によって家族を失った日の光景。
 もう誰にもこんな悲惨な結末を迎えてほしくないから、侵攻は今ここで食い止める。
 スロウンを見据えて鬼灯が放つ力が相手を包み込み、軋ませ、ヒビを入れ、崩れさせ。
 ひび割れながらも左右から振るわれる刃を一十が受け止めて、
「そろそろ終わりとしよう」
「ええ」
「おう!」
 一息に振り抜く斧に押し返され、たたらを踏んだ二体を、同時に撃ち込むルベウスの氷結輪と道弘のシルバーポインタが粉砕する。
「あと一息です――ティーシャさん、決めますよ!」
 最後の一体となったスロウンを見据えて、テレサは地を蹴る。
 呼びかけに応えてワイルドスペースから現れるのは、この場にいない盟友ティーシャの残霊。
 テレサの制御を受けたジャイロフラフ―プがティーシャへと搭載され、その姿を特殊形態『斬環の末妹』モードへと変化させ。
 その形態から放つのは神喰の双円刀。
「「切り裂け!!デウスエクリプス!!」」
 放たれる刃は、スロウンを避けることも許さず幾度も追尾し切り刻み、崩壊させる。
 ――これで、残るはツーテールのみ。
 阻む者の無くなった空間を、湖満と刃蓙理が駆ける。
 巨大攻性植物『プラントワーム・ツーテール』。
 逃げる素振りも見せなかったのは、それだけの知性も持っていないのか。
 振り下ろされる触腕を軽くかわして距離を詰め、刃蓙理は小さく息を吸う。
(「わざと食べられて中から爆散できんものでしょうか……」)
 見上げた巨体に、ふとそんなことを思いつつも、流石に岩をたやすく喰らう牙に捕らわれるのはぞっとしないな、と首を振り。
 両手に集めた超重力の奔流を、触れた掌からツーテールの巨体へと送り込む。
「破壊なくして……創造なし……!」
「あんたらは私らに潰される運命てことよ。おやすみ」
 同時に、湖満の電光石火の蹴撃がツーテールを貫いて。
 地下で人知れず進められていた攻性植物の野望は、ここに打ち砕かれるのだった。


「ふう……」
「お疲れさまです。きゅっきゅっきゅ~なのです。……?」
 崩れ去ってゆく巨体を見つつ、刃蓙理はふっと息を吐き。
 応急セットをとりだした鬼灯の額に、こつんと小石が当たる。
 あたりを見回せば、戦いの余波か、そこかしこで小石や土が落ちてきている。
「もうすこし探検を――などと言えた状況ではないかあ」
「あんまりのんびりもできないね」
 見上げる一十に湖満も肩をすくめて頷いて。
「なら、ちゃっちゃと撤退だ」
「うん……腹も減った」
 道弘のとりだすロープを受け取って、軽やかに上ってゆく朔耶を先頭にケルベロス達は通路から外の世界へと戻ってゆく。
 最後に、振り返ったテレサがテレーゼと共に銃砲火器の斉射を撃ち込めば、脆くなっていた通路はたやすく崩れ落ち。
「大阪城も、こんな具合に穴だらけにされているのかしら……」
 消えゆく通路とその先にある相手の本拠地に、ルベウスはわずかに思いを馳せ――そして、振り返ると仲間達と共に外へと歩き出す。
「はやく、取り戻さなくては、ね……」

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。