いくらでも失敗していいケーキ作り

作者:星垣えん

●ケーキを作ってみようじゃない
 甘い香りが漂って、息を吸えばそれだけでお腹が膨れてしまいそう。
 都内のとあるキッチンスタジオは、ケーキ作りを楽しむ人々で賑わっていた。
「あーやっちゃった。クリームめっちゃ硬い……」
「なんかちょっと味が違うかなぁ……?」
「オーブンに入れたら炭化して出てきた件」
 いくつもある調理台にはそれぞれの料理風景が繰りひろげられている。大体がぎこちない手つきで恐る恐る工程を進めているのは、この場にいるほとんどが菓子作りの経験がない者だからである。
 ケーキを作ってみたい人のための、料理レッスン。
 それが、このキッチンスタジオで行われている本日の催しだった。
 日取りを決めて参加者を募り、集まった受講生たちがプロのパティシエの指導の下で決められた一品を作る。形態としてはありふれたものである。
 だが少し違うのは、材料が大量に用意されている点だ。参加者の人数に対して、生クリームや砂糖、卵やバター、小麦粉やフルーツといった材料の量は明らかにオーバーしていた。
 なぜか。
「失敗してしまったら、また最初から作ってみましょう。ひとつひとつ気を付ければ必ず美味しくできあがりますから、焦らず少しずつ勉強していきましょう」
 失敗作の山を築く受講生たちへ先生は優しく微笑んだ。
 責める空気は微塵もない。だから集まった受講生たちはのびのびとケーキ作りに励むことができていた。
 そう、当レッスンは料理下手のためのレッスンなのである!
 失敗を前提にしているから、リトライ用に材料が用意されてるわけなのである!
 そのためもちろん相場と比べりゃ割高なのだが、それでも材料使い放題という点はでかい。どうせ作るなら満足できるものを作れるほうがよかろうってなわけで、この超初心者向けのレッスンは大人気だった。
 もちろん本日も、何十人という料理下手たちで定員は満員である。
 しかし、その盛り上がりはすぐに冷えっ冷えになった。
「ケーキなんて作ってんじゃねええええええええええええええええ!!!!!」
『きゃあああああーーーー!!!?』
 ばたーん、と扉を開け放ってスタジオに乱入する鳥さん!
 突然の異形襲来に驚き、調理具も放り出してしまう受講生たちに向かって、鳥さんは怒りに満ちた声で叫んだ!
「貴様らのような下手くそどもがケーキを作るな! 手作りケーキとか地雷だって気づけよ! 気持ちとかいらない! 美味しければいいだけだからマジ頼むから外で買ってきてくれよォォォォ!!!」
 おー、おー、と響く魂の声。
 これはアレなのかな。
 そういう苦い経験から、悟りをひらいちまったのかな……。

●いざキッチン
「えぇと、手作りケーキが許せないってことなのかしら……?」
「はい。おおよそはそうかと」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の返事に、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は大きなため息をこぼした。
「作る人の気持ちも考えられないなんて、度量が小さいわね! そんな鳥はささっと排除しちゃいましょう! そうしましょう!」
 意気込むローレライの足元で、彼女の精神に呼応するかのようにシュテルネ(テレビウム)が凶器をぶんぶんする。
 あぁ、これは瞬殺されるやつだな。
 猟犬たちは未来を予見できた気がした。
 ちょっとヘリオライダーの気持ちとかわかったかもしれへん。
「というわけで、皆さんにはビルシャナが現れるキッチンスタジオに向かっていただきたいと思います。今からだとビルシャナが駆けこんでくるタイミングにぎりぎり間に合うという感じですが、大きな問題はないかと思います。信者もいないですし」
 事前に中にいる人々を避難させる時間はないが、猟犬たちが鳥の相手をしていれば講師も受講生もしっかり外に避難することができるだろう。声かけなりで誘導できればなお盤石である。
「となると懸念すべきはただひとつね……」
 急に難しい顔をするローレライ。
 いったい何を憂いているというのか、猟犬たちは彼女の次の言葉を待った。
「私たちもそのケーキ作り放題のレッスンを受けられるかということよ!」
 どうでもいいことだった。
 食いしん坊しか心配しない類のことだった。
「せっかくだから作っていきたいわよね!」
「普通に考えれば、デウスエクスに襲われた直後にレッスンがひらかれるかは疑問ですが……もしかしたらケーキ作りぐらいはできるかもしれませんね」
「それで十分だわ!」
 俄然やる気になるローレライ。
 あぁ、これはケーキを作ってくるイベントだな。
 さすがに秒で理解する猟犬たちだったよね。
「では、すぐにヘリオンに乗ってください。到着が遅れたらビルシャナに材料をダメにされてしまうかもしれません」
 猟犬たちを促して、イマジネイターはヘリオンに向けて歩いていった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
輝島・華(夢見花・e11960)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)

■リプレイ

●気持ちはわかる
「俺の目が黒いうちは手作りケーキなんて許さんぞォ!」
「ひ、ひぃ……!」
 甘い空気に似合わぬ怒号。怯える人々。
 手作りケーキ絶許おじさんにより、現場は物々しい空気に包まれていた。
 しかし、そこへ『しゃくしゃく』という何かが。
「む?」
 辺りを探る鳥さん。
「……これは良い林檎ね」
 すぐ後ろのキッチン台で、キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が林檎を剥いていた。ついでにバーミリオン(テレビウム)も一緒になってしゃりしゃり皮むきしていた。
「……できた」
 飾り切りした林檎を塩水につけるキリクライシャ&バーミリオン。
 そして再び林檎を取り、皮むきを始める。
 鳥さんはしばらくその音に耳を傾けて――。
「……できたじゃないわァァァ!!!」
 飛びかからんばかりに怒鳴りましたよ。
「なにしれっと下準備してるんじゃあああ!!」
「よし! 食いついた!」
「今のうちに皆さんを誘導なのです!」
 激おこおじさんが注意を逸らした隙に、生徒たちの近くへひょこっと顔を出すシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)とオイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)。
 そして非常口で両手を振ってるエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)。
「ケルベロスでーす。こっちこっちー」
「皆さん、あちらの出口へお早くなのです!」
「大丈夫、変質者はわたし達がちゃちゃーいと片づけるからね」
「もしものときはブルームが守りますので、安心してください」
 オイナスとシルに送り出される生徒たち。輝島・華(夢見花・e11960)が配したブルーム(ライドキャリバー)に警備される形で彼女らは粛々と退避してゆく。
 安堵の息をつくヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)。
「あとは避難完了を待つだけだね」
「さすがビルシャナ、ちょろいわね!」
 明るく頷いたローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は、しかし次の瞬間には眉を吊り上げる。
「にしても人の気持ちがわからないなんて、なんなのかしら!!」
「確かにね。でも……」
 ちらりと鳥さんのほうを覗くヴィルフレッド。
「あのビルシャナ、なんて悲しい目をしているんだ……」
「……それはまあ、もしかしたら可哀想な経験をしたのかもしれないけど……」
 何も言えなくなるヴィルフレッドとローレライ。
「地獄を見たんだろうな……」
 しれっと2人の隣にいた瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)が目を細める。
「しかし作る側の気持ちもあるからなぁ」
「そ、そうよ! こめた気持ちがケーキを美味しくするのよ!!」
「手作りでも美味しいのは美味しいし、言ってしまえばお店のも手作りだしね。残念だけど退場願うしかなさそうだねー」
 灰の言葉にぶんぶんと首を縦に振るローレライ。ヴィルフレッドは大仰に肩を竦めると、未だキリクライシャに怒鳴りつづけてる(けどすべてスルーされている)鳥さんへ声をかけた。
「やあ。手作りケーキを押し付けられるくらい、さぞ名のあるイケメンとお見受けするけどなんかあったのかい!?」
「なんか……あったよ! あったとも!」
 ぐるん、と勢いよく振り返る鳥。
 そこからは長い話だった。大体はモテ期エピソードだったので割愛する。
「――つまり手作りはテロ……!」
「なんとなく分かるよ。僕も以前ぶいぶいモテモテ時代があったけど、そのときに貰った手作りお菓子に『恋するおまじない☆』ってヤバい物が入っててね……あれは人を信用できなくなるよ」
「同志よ!」
「同志よ!」
「大変だったのねー」
 がしっとハグする鳥とヴィルフレッド。ローレライが若干棒読みなのは、きっと2人の空気についていけないせいだろう。
「思いの込められすぎたプレゼントで苦労したみたいだな……だが、そのプレゼントが出来上がるまでにもかなりの苦労があるんだぞ」
「苦労……だと?」
「ああ」
 鳥の隣に座った灰が、遠い目で虚空を見つめる。
「味見に付き合わされる奴の気持ちが分かるか……ギリ食べられるかどうかじゃない、キッチンを占有されて他は何も作れないから食べるしかない状況……そんな苦労もあるってことを……!」
「ハッ……!」
 やだ、とばかりに口を覆う鳥&ヴィルフレッド。
「だから貰うだけで済んで有難いと思えよ」
「灰さん……」
「おまえも地獄を見たのか……」
「猫さんかわいいー」
 生温かい視線を送ってくれる2人に、灰は儚げな笑みを返した。そして灰の頭に陣取る夜朱(ウイングキャット)を撫でるローレライはたぶんもう飽きてる。
 鳥さんはしみじみ呟いた。
「ケーキは店で買うに限るで……」
「確かにケーキ屋さんのケーキなら間違いないですよね。私も美味しいと言って貰えるようなプロ級のケーキを作れる訳ではないので、耳が痛い話です……気持ちもちょっと分かります……」
 いつの間にか鳥さんの背後に回っていた華がしょんぼり。
 しょんぼり顔のまま得物を構える。
「が、大切な人の為に何かしたいという気持ちも分かりますので……」
「ギャアアーー!!」
 普通にグラビティブレイクをぶっこむ華ちゃん。
 ごくあくなふいうちをくらった鳥さんは、水揚げされた魚のように転がった。
「ひでぇ! 後ろから殴るなんて!」
「ひどい? 何を言ってるの!」
 ごろごろする鳥さんの前へ、どんっと床を踏んで現れるエヴァリーナ。
 鳥さんを見下ろす彼女は――口がもごもごしていた。
 わかりやすく頬にホイップクリームとかついていた。
「暴れて食材をダメにしかねないそっちのほうがひどいと思う!」
「いや明らかに俺がどうこう以前におまえが」
「ていっ!」
「アーーーッ!!」
 問答無用で簒奪者の鎌を刺される鳥さん。
 その後、彼はなんやかんやあって死んだ。

●パティシエたーいむ
 綺麗に整ったキッチン台。
 輝くステンレスに小麦粉やら生クリームやらをずらっと並べて、ローレライとシルは張りきってエプロンをつけた。
「さて、本番ね!」
「お菓子作りタイムだね!」
 泡だて器とボウルを装備している2人。
 気合十分である。感化されたのかシュテルネ(テレビウム)もぶんぶんとのし棒を振っているほどだ。地味に怖い。
「とはいえ、実は私もまだお料理勉強中なのよね……!」
「わたしも10回に7回くらいしか失敗しなくなったけど、まだ苦手かなぁ……」
 ちょっぴり恥ずかしげにするローレライに同調するシル。
 野球でもないのに打率3割はちょっと……。
「それでも前に比べたらうまくなったんだからねっ!」
 アッハイ。ソウデスカ。
「今日は折角だからホールケーキに挑戦しようかな……頑張るぞー!」
「私はそうね……オイナスさん、タルトって難しいかしら?」
「タルトですか? えぇと、たぶん難しくはないのです!」
 意気揚々と計量器を持ち出すシルを横目に、オイナスへ尋ねるローレライ。対してオイナスは暫しのアイズフォンによるレシピ検索を済ませてから親指を立てた。
「本当? クリームがうまくできなかったりしない? 大丈夫?」
「大丈夫、料理は化学なのです。手順や分量を間違えなければ平気なのです!」
「うーん、そっかぁ……じゃあやってみようかしら! いちごタルト!」
「ボクもお手伝いしますから頑張りましょう!」
 ローレライのやる気に握り拳で応じるオイナス。主の意思に応じたかのようにプロイネン(オルトロス)はいちごが詰まったパックを咥えてきている。
 その一方。
 華は講師の隣について、いちごショートケーキに挑戦していた。
「失敗してしまっても材料がたくさんあるというのは心強いですね。先生、クリームはこのぐらいの固さでいいでしょうか?」
「そうですね。デコレーションに使うものはもう少し立たせましょう」
「わかりました!」
 ちゃかちゃか、と泡だて器を回す華。
 言われたことをきっちり守れる出来の良い生徒である。
 講師のパティシエも思わず頬が綻んでしまった。
 極力見ないようにしている、向かいの女とは大違いだった。
「ねぇねぇ先生、おかしいよ。用意した材料が全部消えちゃうの」
「……」
 きょとんとした目を向けてくるのはエヴァリーナである。
 具体的に言うならば、自分で台の上に用意したケーキの材料を自分で食い尽くしたエヴァリーナである。
「エヴァリーナさん……そろそろつまみ食いをやめないと……」
「え。私つまみ食いしてた?」
 努めて冷静に諭そうとした講師に、首を傾げるエヴァリーナ。
「うーん。でも先生、考えてみて? 小麦粉は美味しい」
 むぐっ、と小麦粉を頬張るエヴァリーナ。
「卵は美味しい」
 卵を飲む。
「牛乳は美味しい」
 牛乳も飲む。
「砂糖は美味しい」
 砂糖もなめ尽くす。
「その混合物となれば言うまでもなく……!」
「あーやめてやめて! 食べるのをやめなさい!」
「つまみ食いが止まらなくなっちゃうのは、もうどうしようもない世界の理なんだよ……! あ、生クリームおいしー」
「やめろ言うてんねんコラァ!!」
 もう作る気ないよねってレベルで材料を口に放りこむエヴァリーナのおかげで、荒々しいツッコミまでしはじめる講師。
 食器を持って華の隣にやってきた灰は、2人のやりとりを見て唖然とした。
「なんかすごいな……褒めるわけじゃないが」
「きっとエヴァリーナ様はお腹が空いているんですの……あ、灰様のはロールケーキですか?」
「ああ、せっかくの材料使い放題ってことで大きいのを作ってみた。思う存分バターも卵も使えるのは気持ちいいな」
 横から強奪しようとしてくる夜朱の前脚を防ぎながら、きのこの原木サイズのロールケーキを大皿に乗せる灰。
「どれ、俺のはできたし、そっちのケーキ作りを手伝おう」
「お手を貸していただけるのですか? ありがとうございます!」
 灰の申し出に素直に喜ぶ華。その反応に灰もやはりクスッと笑う。
 一方、オーブンの前には棒立ちのシルが。
「あれ? これ、一体何だろ……??」
 皿に乗った黒炭を見て、シルは小首を傾げた。
 作りはじめて、かれこれ4回目である。
 きっちりポイントは押さえたはずだった。分量もしっかり守ったし、小麦粉なんかもしっかり篩にかけて細かくした。
 が、完成したのは謎物質だった。
「……でも、失敗しても、くじけないっ! 諦めたらそこでお終いだもんねっ!」
 気を取り直すシル。
 しかしさすがに堪えるものがないわけでもない。なのでシルはひとまず作業は休憩して、皆の様子を見て回ることにした。
 すると、である。
「わー、ヴィルフレッドさんのケーキおいしそう!」
「ふふっ、今の時期ならいちごだからね。ムースやロールケーキに使ってみたよ!」
「すごいなー」
 ヴィルフレッドがてきぱきと作って並べていたケーキ群に引き寄せられて、シルはきらきらと青い瞳を輝かせてしまう。根っからの甘党であるヴィルフレッドの腕前はちょっと素人離れしていた。
「こっちはいちごのレアチーズケーキタルト……うへへ、食べるの楽しみだなぁ」
「いいなあ。わたしもそんなふうに作りたいなぁ~」
「嬉しい言葉をありがとう! でも、向こうの情熱には負けるかもだね」
「向こう?」
「うん、向こう」
 ヴィルフレッドが指差したほうへ、顔を向けるシル。
 そこには――。
「……こんなところ、かしら」
 職人の顔で1枚のプレートにスイーツを盛りつける、キリクライシャの姿があった。
 くし切りの林檎コンポートを包んだアップルカスタードパイ。
 ホイップクリームと薄切りコンポートを重ねたミルクレープ。
 彩りとしてコンポートの煮汁で作った寒天も添えられたかと思えば、余ったホイップと林檎の飾り切りがプレートを豪華に飾る。
 林檎ガチ勢であるキリクライシャの情熱がこもった一皿だった。
「す、すごい……!」
「……まだ材料も時間もあるし、もう何皿かは作れそうね」
「2週目にとりかかってる!?」
 またまたバーミリオンと一緒に林檎を剥きはじめるキリクライシャ。気力が持つ限りは作りつづけるとすら言ってそうな彼女の表情にシルは正直圧倒された。
 だが次の瞬間には、シルは自分のキッチンに向かっていた。
「みんなのすごかったなー。わたしも頑張ろうっと!」

●甘い天国
 ぐでーん、と突っ伏す講師。
 そこへカップケーキを差し出して、エヴァリーナは頭を下げた。
「初めてケーキ作れた……! 先生、最後まで一緒に作ってくれてありがとうございました……!」
「ア、ハイ、ドーモ……」
 手だけを動かしてカップケーキを受け取る講師。
 何でもすぐ食っちまう生徒との長く苦しい戦いの末に、すっかり燃え尽きていた。しかしその甲斐あってエヴァリーナは初めての手作りカップケーキをその手にすることができたのだった。
 んなわけだから、当然ほかの皆も作れてるわけでして。
「わたしもできたーっ! ホールケーキ!」
「私もいちごのショートケーキ、できました……! これでケーキパーティーができますね!」
「……それもいいけど、まずは2人とも服を綺麗にね」
「あ、ありがとうキリクライシャさん……!」
 ケーキを掲げて喜びを露にするシルと華。そっと近づいてきてクリーニングしてくれたキリクライシャに礼を言いつつ、2人は我慢できずに互いのケーキをぱくっ。
「んー。いちごショートおいしい……」
「美味しいですか? 良かったです……ちょっとだけ自信がつきました。あ、シル様のホールケーキもとっても美味しいですの」
「やったー! ちゃんとできてるって! ほらローレさんも食べてー」
「んーどれどれ」
 そっとフォークを差し入れて、まぐっと食べるローレライ。
「確かに美味しいわ! シルさん!」
「えへへ、ありがとう。ほらオイナスさんもどうぞ?」
「あ、すみません。ローのいちごタルトをいただいたら……食べらせていただくのです」
 申し訳なさそうに頭を下げつつ、もぐもぐと口を動かすオイナス。
 恋人の作ったいちごタルト――それを食べるレプリカントの表情は傍目にもわかるほど幸せそうで、いちごムースを摘まんでいた灰はどこかこそばゆい感じがして身悶えしてしまった。
「これは、御馳走様ってやつか?」
「え、灰さんもう食べないの? ならそのロールケーキ食べてもいい?」
「そういう意味じゃないんだが……ま、構わないぞ」
 レアチーズケーキタルトで口を膨らませながら訊いてきたヴィルフレッドに、夜朱がかぶりついてるロールケーキを切り分けてやる灰。
 フルーツたっぷりのケーキをもぐっと口に入れると、ヴィルフレッドはじぃんと震えた。
「おいしい……ふふ、ふふふ……」
「変な笑い方するなよ……」
「あ、ロールケーキ! 私も食べていいかしら!」
「あー私も食べたーい」
 甘党少年の怪しい笑いに釣られ、すかさず寄ってくるローレライ、エヴァリーナ。
 賑やかなケーキパーティーが終わるのは、それから2時間ぐらい経った頃だった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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