古き時代のソーラー給湯器

作者:baron

 古い町並みの一角で突如、屋根が崩れた。
 別に廃屋という訳でもなかったはずだが、何かしらの原因でもあるのかもしれない。
 そう思っていると、街中へと向かう道が燃え上がった。
『そそそ、ソーラー!』
 熱閃がライト以上の光で空を貫き、間にあった標識やガードレールを溶かした。
 そして運悪く光が直撃した加工のビルの一部が壊れていく。
『グラビティ、グラビティ!』
 その事態を引き起こしたナニカは、ビルの中目掛けて大きな入り口に突っ込んでいった。


「使われなくなって久しいソーラー発電機付きの給湯器がダモクレス化します」
「あれってまだあったんだ。エコブームの時のソーラー発電機に給湯器を付けたんじゃなくて?」
 セリカ・リュミーエルの説明にそれなりの年齢のケルベロス達が声を上げた。
 ソーラーブームそのものは何度かあるが、火を焚く代わりに湯沸かし器を取り付けようというのが流行った時期の代物らしい。
 今の黒ッポイ板ではなく、銀色の板が屋根の上に乗っているものだと思えば判り易い。
「このダモクレスは元の形状か判りませんが、ビームや炎を駆使します」
「まあダモクレスが良く装備する中にはあるよな」
「その辺が得意なソーラーパネルに取りついたから使ってるだけだと思う」
 セリカの言葉にケルベロス達が推測を重ねる。
 ダモクレスそのものは武装込みで定番のグラビティがあるが、属性が変わったりすることはあっても似たような能力である場合が多い。
 ヒールによる変異はともかく、武装が取りついた本体に影響されているだけなのだろう。
「ともあれ罪もない人々を虐殺するデウスエクスは放置できません。多くの人が犠牲になる前に対処をお願いしますね」
 セリカの言葉に頷きながらケルベロス達は相談を始めるのであった。


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
武田・克己(雷凰・e02613)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ


 古い街並みや田舎道を歩くと、家屋の屋根に何かが載っている姿を偶に見かける。
 都会ではもう流行らなくなったり、技術の進歩で別のモノに置き換えられていった存在だ。
「太陽の力を利用するとは……」
 嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)は閉じた目をそのままに天を見上げた。
 あえて目を開かずとも、それだけで太陽の存在は判る。それほどまでの存在なのだ。
「魔法のようでいて、確かな技術なのだな。ひとの工夫というものは、どれも興味深い」
「ソーラー給湯器ですか、昔は色んな電化製品があったのですね」
 槐に続いてバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)が言葉を添える。
 太陽光発電というものは知っていても、は槍で無くなれば、なかなか目にすることはない物だ。
 ここならば大丈夫だろうという槐の言葉に頷いて、バジルは周囲を探り始める。
「つい先日までは、あの様に良く銀色の鏡のようなものが屋根にあるのを良くみたような気がしますが……時代の流れは早く、そして残酷ですね」
 仲間たちが残っている人が居ないか探し始めたところで、源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は殺意の結界を広げた。
 これで残った人が居たとしても、早々に立ち去ってくれるだろう。
「あ、あれが屋根に並ぶのってもう時代遅れなんだね。だからって無造作に不法廃棄していい理由にはならないけど」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)たちが街に出てきたころは、あの銀色の鏡の様なものを沢山見かけた時分だ。
 それまであまり町に出る習慣がなく、森に居たがゆえによく覚えている。
 いま槐が感じている様に、いつまでも眺めていたくなるような思いを抱いたことがあった。
「現代のハイテクの産物と思える物でも旧式と呼ばれる運命があるんですね。なんと厳しい」
「捨てた人間が悪いんであって、ダモクレス化した給湯器には罪はないんだけど、破壊行為は止めなければいけないからね」
 少し寂しそうな如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)を抱いて瑠璃が慰めた。
 もし野生生物になるレベルだったら放置や様子見もできたかもしれないが、ダモクレスになれば優先して人を襲うのだ。
 例え元の家電に罪はなくとも、放置などで着まい。
「そうですね。用無しと言って無残に捨てられてダモクレスになってしまった子に罪は無いんですが……人に害を及ぼすなら、心苦しいですが破壊せねば」
 沙耶はそういって瑠璃と並び立った。
 例え心苦しくとも、共に歩ける者がいれば耐えられる。
 そしてどうせ戦うのであれば、せめて苦しませずに終わらせてあげようと決意を固めるのであった。
「確かに、ダモクレス化して人に危害を加えようとするならば、放ってはおけませんね」
「廃棄されたソーラー給湯器は可哀想ですが、人を害すなら止めないとですね。……給湯器にはお世話になってる身ですし」
 バジルの言葉に頷きながら、那岐は弟たちに向けていた視線を天に向けなおした。

 ただし、ソーラー給湯器ではなく、空を飛んで色々仕掛けていた仲間に視点を移したのだ。
「そろそろ終わりかしらー?」
「……ええ、念のため……だし、ね」
 テープのの端を持って手伝っていた心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)が首を傾げると、封鎖していたキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が降りてくる。
 この周囲……大きなビルの周辺を、彼女はテープで封鎖していたのだ。
「……機械って、衝撃を与えると治ったり、壊れたり……気紛れな時があるわよね。あのダモクレスも元に戻ればいいのに」
「お、出番か」
 キリクライシャの言葉に静かに佇んでいた武田・克己(雷凰・e02613)は、刀の鯉口に指先を掛けた。
「カップ麺とか食べる時に重宝するが、ダモクレスになった以上壊すしかないだろう。少し勿体ない気もするが、一般人に被害が出てからじゃ遅いからな」
「……温度調整ができるなら、重宝しそうなのにね。……ティータイムの風習の有る土地なら、現役だったかもしれないわ……惜しいわね」
 克己とキリクライシャの会話を聞きながら、実情を知る括は苦笑した。
「あれって、お風呂専用の時代のなのよねー。でもなんやかんやでエコブームって度々来るわよねー。今のエコ機器って、昔に比べたらかなり環境に良いんじゃないかしらー?」
 括が最初に見たときは、お風呂用が精々だがそれだけで便利という代物だった。
 ホホースが汚れるのでとても飲めないのだが、最近の若い子たちは、ちゃんと飲食に使える給湯器の世代なのだろう。
 電気代も安くなっているらしいし、時代の流れを感じるお母さん世代なのであった。


 ダモクレスはまるで車が走り抜けるようにやって来た。
 だがそのままビルに突っ込むなど、いまどき『出入り』や『強盗』でもなければ珍しい。
『そそそ、ソーラー!』
「来やがったな。ここで確実にぶち壊す」
 彼方から突進して来るダモクレスに向けて、克己はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
 そして敵が攻撃動作に入るよりも先に、自分の方が先に仕掛けるk十が可能だと気が付いた。
「相手が何であろうと切って捨てるのみ。後は任せた!」
 克己は直刀を引き抜くと走り込んで刺突を掛けた。防御は行わずにそのまま走り抜け、ダモクレスと交差する形で抜けていく。
「その辺りは何とかお願いしますね。こちらも攻撃に出ますので」
「なんとか、かあ。まあ何とかしてみるかな」
 わずかに遅れて那岐も愛刀を抜いて走り込んでいるのを見て、瑠璃は苦笑しながら腕を振るった。
 突撃を掛ける前衛陣の周囲に、霊的な加護が発生し始める。
「こちらが先に動けるなら、まずは結界を張っていきましょうか」
 沙耶は連結する結界を起動。
 鎖がほどけ、もう一度組みあがる様に仲間たちを守るべ防壁となる。
「攻撃なら私たちで何とかしておくわね~」
「そうだな。洗車だと思ってあきらめてくれ。代わりに牽制攻撃はこちらでやっておこう」
 括と槐はお互いのサーヴァントを交換するかのように、位置を変えて行動した。
 翼猫のソウは槐が衝撃波を叩き込むのに協力して攻撃をかけ、キャリバーの蒐は括が蝶を呼びながら敵の前に立ち塞がるのに協力する。
「この飛び蹴りを、受けてみなさい!」
 バジルは果敢に飛び蹴りを掛けて相手の上に乗っかり、そのままビルの二階に移動した。
 そこで一旦、ケルベロス達の行動は終了。
 ダモクレスが攻撃態勢に入ったのだ。
「ちょっと待っててねー」
「……構わない。攻撃が来れば防御するのは当然だもの」
 括が先に出たことで、キリクライシャは足を止めて果実を取り出した。
 攻撃を食らって火傷しそうになったところで、黄金の光を灯して傷を癒し始める。
『グラビティ、グラビティ!』
「……季節も、随分春めいてきたけれど、暖房としても役立てそうだったわよね……? ……お茶が飲みたいわ」
 体当たりと共に熱湯をまき散らすダモクレスを眺めて、キリクライシャはもったいないとため息を漏らすのであった。


 ダモクレスの突入を阻みながら、ケルベロス達は徐々に陣形を整えた。
 時間を掛けてV字状の前衛、その後ろに後衛が付くことでW字状に移行していった。
「竜砲弾よ、敵の動きを止めなさい!」
 左翼後方から放ったバジルの砲弾は、はじけて周囲に風圧を浴びせた。
 そして直撃して暫く、その衝撃は足元にも伝わるほどだ。
「言の葉の重み、軽んじてはならぬ。……お前は今、『止まれ』という言葉に従ったのだから」
 右翼後方に居た槐は、バジルの言葉につなげてダモクレスの意識……この場合はサーキットに介入を掛けた。
 停止命令だと認識させて、相手の動きを止めに掛かる。
「ソウちゃんはそのまま援護よー。蒐ちゃんとリオンちゃんは一緒にお願いねー。またアレが来ると思うわー」
 括はサーヴァント二体を引き連れて壁役として、相手の攻撃を止めに掛かる。
 自身は攻撃役の仲間に援護の蝶を送りつつ、銀色のダモクレスが光を吸収している姿に備えた。
「……そういうことだから、お願いリオン。……私の攻撃は、火傷はしないかもしれないけれど……」
 キリクライシャはテレビウムのバーミリオンに声をかけながら走り出す。
 怪我もないのに時々地面に足を引きずって、摩擦で炎を起こしながら蹴りつけた!

 だがダモクレスはその程度では燃え尽きたりはしない、ケルベロス達に対し猛反撃に出る。
『ソソソ、ソーラーゆうたら。太陽SANじゃけー!』
「来たぞ、回避だ!」
 キラッン! と輝いた瞬間、周囲に猛烈な閃光が満ち溢れる。
 だがこれも何度目か、ケルベロスたちは散開しつつ壁役に任せて視線を遮った。
「木は火を産み火は土を産み土は金を産み金は水を産む! 護行活殺術! 森羅万象神威!!」
 克己は目線を刀の腹で守りつつ、壁役の仲間の後ろに回った。
 クルリとターンしながら周囲の気を集めていく。
 振り上げた時は集めた気を己の気と融合させ、横薙ぎに切りつけるや大上段から振り下ろして十文字に引き裂いたのである。
「いまだ。この隙に攻撃だね」
「そうですね。焦ることもないですが、この機を逃すこもないでしょう」
 瑠璃が空間を固定してダモクレスの周囲から熱量を奪いさると、那岐はそこに刀を突き入れて強引に時間を動かした。
 反動で周囲の空気が逆巻き、風が炎や氷を四方に発生させる。
「光には光で対抗します。邪な光よ、退いてください」
 ここで沙耶は翼を広げ、暖かな光で周辺を満たした。
 先ほどの眩しい光だけでなく、まだ仲間たちの一部で燃えている炎を包み込んで消し去っていく。
「傷や負荷は残っていますが、あえて治療に参加することもありませんか……」
「その辺りは他の者がやるであろう。我らは攻勢面での補助の方がやり易いからな」
 バジルの言葉に槐が頷いた。
 敵の攻撃は何とか防いでいる状態から、徐々にあまり効かなくなってきた。
 仲間たちが予め防壁や結界を敷いたからであろうし、治療役の沙耶だけではなく様子を見ているメンバーが傷に合わせて協力しているからだ。
「傷ならこっちで診るから大丈夫よー」
「それなら……もう一度、この蹴りでも食らいなさい!」
 括が気をまとわせた包帯でテレビウムのヒビ割れを直しているのを見て、バジルは再び飛び蹴りを放った。
「大丈夫よー。落ち着いたー? パーツやネジは出てないわよね。ソウちゃんはそっちの子を診ててねー」
 括は包帯でション賞を修復しつつ、翼猫のソウをキャリバーの修復に回した。
「……あともうちょっとかしらね?」
 負荷が邪魔にならなくなってきたのと同様、みんなの攻撃も外れる方が珍しくなってきた。
 キリクライシャはハンマーを握って衝撃波を放ちつつ、敵味方の様子を眺めて呟いたのである。


 やがてダモクレスは地面にどこかの部位を引きずりながら動くようになった。
 アスファルトに傷をつけ、あるいは名前に姿を傾けてキラリと光る。
「ソーラーパネルで省エネでも狙ったのかもしれないが、使われなくなったらそれまでか。ある意味、哀れだが、壊すしかない。恨むなよ」
 克己の刀は直刀だが、彼の技量ならば普通に斬ることも可能だ。
 そしてグラビティをまおうことで、空間すら斬ることもできる。
 動きの鈍くなった敵に向けて、哀悼の意こそ持つが躊躇なく切り捨てにかかった。
「すっかり温くなったでしょうし、そのお湯も、沸騰させてあげますよ」
 バジルの蹴りがダモクレスへ更に火を点けた。
 敵は既に避ける余裕などなく、体格さゆえにバウンドしないだけで、飛び蹴りだったら地面に縫い付けていたかもしれない。
 ブスブスと燃え尽きようとする中で、ケルベロスたちは逃がさぬよう、それでいて苦痛が早く終わる様に包囲する。
「もはや治療するよりも倒した方が早そうですね。貴方の運命は……『皇帝』の権限にて、命じます!! 止まれ」
 沙耶はタロットを数枚引き抜くと、そのうちの一枚である『皇帝』のカードを指し示す。
 他者に働きかけ、威厳を示すことで、命令系統を書き換えて彼女の意思でダモクレスの動きを止めに掛かった。
「さて披露するは我が戦舞の一つ。風よ、斬り裂け!!」
 那岐は戦舞いをふるまう事で、藍色の風を無数の風の刃に変えた。
 それらは彼女の湯先が指し示すままに、動きを止めたダモクレスを切り刻む。
「トドメはお願いするね。……意志を貫き通す為の力を!! 全力で行くよ!!」
 瑠璃が天に両手をかざすと、澄んだ光が刃となっていく。
 それをそのまま振り下ろすのだが、その長大な剣を瑠璃は力の奔流に惑わされることなく制御した。
 完全に力を制することで、地面のアスファルトすら切り裂くことなく、ダモクレスの本体のみを叩き割ったのである。
「では終焉をもたらすとしよう」
 槐が鉄槌を振り下ろすと全てに決着がついた。
 ガンという鈍い音ではなく、カーンという澄んだ音がする。
 それはもはやダモクレスの耐久性がほとんど残っていなかったということであり、人間でいえば肉が削げ落ちていたと言えよう。

「……終わった? ひとまず、おつかれさま」
 キリクライシャは念のためにハンマーを掲げていたが、敵が動かないのを確認して降ろした。
「おつかれさまです。修復を始めましょうか」
「……そうね。このままじゃあ、中の人も出れないから」
 バジルがヒールを呼びかけるとキリクライシャは頷いて果実を取り出した。
 黄金の輝きが広がると、バジルも破壊されたアスファルトなどを直していく。
「倒すのは別に困らないが、この手の作業は成れないな」
「それは仕方ない。手早く片つけるとしよう」
 ヒールを用意していない克己と槐は、ダモクレスの残骸を移動させたり壊れたガードレールなどを持ち上げる。
「みんなで手枠すればあっという間よー。……お台所に洗い物が溜まってそうだから、家に帰ってもうひと頑張りしないとかしらー?」
 括は持ち上げられたガードレールに包帯を巻きつつ、片つけられていく給湯器の残骸に目を向けた。
「はい、こんなものかしら。寒い時期がもう少し続くから、うちの給湯器にはまだまだ頑張ってもらわないとね!」
 括が癒しの気を込めた包帯で修復を終えるころにはおおよそ終わったようだ。
 ケルベロス達は帰還を始める。
「さあ、帰って夜ご飯とお風呂ですね」
「お風呂は僕が沸かすよ」
「じゃあ、味噌汁は私が作りますね」
 那岐が帰宅中にどこかで買い物に行こうかと声を掛けると、瑠璃と沙耶は頷いて何が良いかと話し始めた。
 お味噌なんかは買い置きがあるが、夕食は色々考えられる。
 今回は給湯器だったからか、帰りの道すがら自然と食事や風呂の話をしながら帰還したという事である。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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