博多で焼き鳥が待ってる

作者:星垣えん

●訪れて、博多
 暗がりを照らす間接照明。
 香ばしく焼きあがる鶏の匂い。
 そして、場を賑わす人々の話し声。
「うまッ……!」
「あー、鶏の味が出てるぅ……!」
「このジューシーな肉がたまらんなぁ……」
 夜の焼き鳥屋はひたすらに盛況だった。
 博多の街に潜むように在るその店は、黒を基調とした落ち着いた雰囲気と確かな焼き鳥の味で格別の人気を獲得していた。
 肉汁あふれるモモ、脂ののったぼんじり、こりこりした砂肝やさっぱりした手羽……。
 串に刺さったそれにかぶりつき、キンキンに冷えたビールを呷れば、その場を埋め尽くす客たちは深い吐息をつくしかなかった。
「これは人がダメになる美味さ……」
「いかん。もう10本は食わないと気が済まない!」
 度を越してはいけない、と知りつつも誘惑に負けた客たちが新たに何本も注文をしてしまう。そしてそれを平らげればまた何本も。焼き鳥の魔力だった。
 しかし、である。
 魅入られる者がいれば、認めない者もいるのが世の常だ。
 まして、焼き鳥なのである。
 となればやっぱり、店外からどったどったと足音が聞こえるのは必然で……。
「貴様らァ! 貴様らは食われる鳥さんの悲しみを考えたことがあるのかァァ!!」
 ええ、怒り心頭のビルシャナさんがご来店されましたよ。

●ちょっくら博多に足を伸ばそう
「美味しい焼き鳥が食べたい。いい店を知らないか?」
「ふふふ、今ちょうど美味しい焼き鳥屋さんの情報が入ったところです!」
 ヘリポートに到着するなり、猟犬たちは空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)と笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)のわざとらしい小芝居を見せつけられる羽目になった。
 モカもねむも満面の笑みである。
 暗い夜空に見合わないほどクッソ眩しい笑顔してやがる。
 猟犬たちは察しましたよ、それだけで。
 あぁ、今日は焼き鳥を食べに行くんですね――。
「博多の焼き鳥屋さんをビルシャナが襲撃するのです!」
「焼き鳥を楽しむ人々の時間を邪魔させるわけにはいかない。すぐに私たちの手でこいつを止めてこよう。そして焼き鳥を食べよう」
 いつもどおり元気に説明してくれるねむの横で、普通に欲望を隠さないモカ。
 完全にもう焼き鳥のことしか見えていない目をしていた。ビルシャナさんとかもう街路樹以下の存在になっているだろう。信者もいない鳥なんてそんなもんだろう。
「お店はとても人気な焼き鳥屋さんらしいですよ。提携した養鶏場から送られる厳選した鶏肉をじっくり炭火で焼き上げているとのことです……不味いわけがないのです!!」
「それはお酒が進みそうだ。くっ、財布が耐えられるだろうか……!」
 財布を握りしめたモカさんが、戦闘時でも見せなさそうな切迫した顔をする。
 やっぱりどう考えても焼き鳥のことしか見えていない目をしていた。もしかしたらビルシャナのことももう焼き鳥に見えているかもしれない。それぐらいモカさんお腹空いてるのかもしれない。
「じゃあみんな! すぐにヘリオンに乗ってください! 美味しい焼き鳥めざして、博多にひとっとびですよー!」
「ちなみに店ではテイクアウトもできるそうだ。くっ、やはり財布が厳しい……!」
 ヘリオンにてくてく歩いてくねむさんの後につきながら、財布の中身を覗いて歯噛みしているモカさん。
 かくして、猟犬たちは焼き鳥を食うために博多に発つのだった。


参加者
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
御手塚・秋子(夏白菊・e33779)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●わくてかしちゃうぜ
 そこに居るだけで、腹が減る。
 と思うしかないほど鶏の香ばしさが漂う店内で、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)は座敷に座して店員に微笑んでいた。
「まずは生ビール、それに豚バラとダルム(豚の腸)とヘルツ(心臓)を20本ずつお願いできるかな。あーあと焼き豚足もあるかい?」
「豚足ですねー。ございますよー」
「ならそれも」
 慣れた感じでオーダーを通し、酢醤油のかかったキャベツを齧るモカ。
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)と御手塚・秋子(夏白菊・e33779)はしげしげと見つめていた。
「ん? どうした?」
「キャベツ、頼んでないけど食べていいの?」
「ああ。福岡では常識だよ」
「常識、だと……」
 ごくりと喉を鳴らす秋子。
「私が住んでるとこはサイドメニューに入ってるくらい……福岡県恐るべし」
 もう福岡に足を向けて寝られないかもしれない。
 とかどーでもいい思考に陥る秋子ちゃんの横から、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)はキャベツの皿に手を伸ばした。
「さすがは福岡……もはや県民食ってところだな」
 ぱりぱり、と酢醤油キャベツを食う道弘。さっぱりした味わいは如何にも焼き鳥にマッチしそうで、ついつい手は2枚目を求めた。
 が、その手は空を切る。
 大皿の上から、大量のキャベツが忽然と消えていたのだ。
「このお店、どれだけ頼めるかなー」
 そしてエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)がむぐむぐと口を動かしていたのだ。
 秒で完食だった。
「なんつー速さだ……」
「おかわり自由とはいえ、さすがに少し気が引けるな……」
「え、みんなどうしたの?」(もぐもぐごくん)
 呆れ果てる道弘とモカに、きょとんとしやがるエヴァリーナ。
 東雲・憐(光翼の戦姫・e19275)はウコンをぐっと飲むと、居住まいを正した。
「よし、これで準備は万端だ。今日は羽目を外そう」
「おっ、いいねー。そういう姿勢は嫌いじゃないよ!」
「焼き鳥に臨むにあたって正しい態度です」
 とても良い笑顔を憐に向けてくる塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)とシデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)。
「焼き鳥食って、酒がのめるぞー!!」
「来る前にATMに寄ってきましたからね、お財布の準備は万全ですよ」
 ばんざーい、と盛り上がる酒のみアラフォーコンビ。
 と、そこへ。
「お待たせいたしましたー」
「きたー!」
「焼き鳥と生ビール、王道ですね。ええ」
 大量に運ばれてくる焼き鳥と生ビール。香ばしく焼きあがったモモやつくね、砂ずりを見て、翔子とシデルの手は無意識に冷えたジョッキへ導かれる。
 宴が始まる――。
 そんなときだった。
『やぁぁきぃぃとぉぉりぃぃめぇぇぇぇ!!!』
 なんか、聞こえてきたんすよね。

●いただきまー
「この極悪人どもめが! 鳥さんの気持ちを考えたことはないのか!!」
 怒鳴りこみながら、鳥さんは店先に急速ドリフトで姿を現した。
 鶏を喰らう者へ誅罰を下す――彼の眼差しにはそんな確固たる意志が垣間見えた。
 だが彼にはひとつの誤算があった。
「何を言う。鳥なんて食べてないぞ!」
「な、なん……だと……!!?」
 もぐもぐ、と口を動かすモカが掲げたのは豚バラ串。
 へちょんと膝を折る鳥さん。
「馬鹿な……お店を間違えてしまったとゆーのか……!」
「なんて迷惑な客なんだ。業務妨害で訴えてもいいんだぞ」
「本当に申し訳ない……」
 流れるままに説教を始めるモカに、鳥さんの頭は上がらない。
 その無防備な背中に憐はナパームミサイルを撃ちこんだ。
「ぎゃあああーーっ!!?」
「お前も焼き鳥になってしまうがいいさ、久しぶりの飲みなんだから邪魔しないでくれるか?」
「くそう! やっぱり貴様らは人間じゃ――」
「焼きたての焼き鳥が待ってますので早めに消えてください」
「あー痛い痛い痛い!」
 文句を言いかけた鳥を黙らすシデルのシャドウリッパー。
「ほら、シロも焼き鳥食べたいよな? 早くアレ片付けてきな」
「やめてー体当たりもやめてー!?」
「翔子さんもシロちゃんも回復は任せて! 焼き鳥楽しみだね!」
「台詞の文脈どうした!?」
 翔子のけしかけたシロ(ボクスドラゴン)にぶつかられ、後方で上の空してる秋子にツッコみ、いよいよ鳥さんは忙しくなってきた。
「くっ! だが私は貴様らのような非道の輩には絶対に屈しな――」
「食材の心情なんざ生徒の道徳教材でとうに過ぎた道だっつぅの」
「ぶべっ!?」
「リリも焼き鳥作れるかな?」
「ぎゃあーーーー!? 目がぁーー!!」
 道弘に痛烈にぶっ叩かれ、あげくリリエッタに目玉を串打ちされる鳥。
 あまりにもあんまりな仕打ちを受けた鳥さんは地面を豪快にローリング。
 ごつん、と何かにぶつかったところで止まった。
「鳥さん。人はね。食べられちゃう命の尊さと悲しさに感謝と敬意を込めて『いただきます』するんだよ」
 エヴァリーナだった。
 慈悲深く、神聖な笑顔を浮かべて両手を合わせるエヴァリーナだった。
「鳥さんは食べられない鳥さんだけども、お仕事の報酬となって私達の明日の食費になってくれるんだよね。だから……『いただきます』」
 あっ、と何かを察する鳥。

 そっから鳥さんをサクッと殺ると、猟犬たちはそそくさと店内に戻りました。

●鶏が溢れる食卓
「焼き鳥だー! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「さぁ飲むぞー!」
 ジョッキ掲げた秋子の音頭に、エヴァリーナが焼き鳥を振り上げ、翔子が待ってましたと豪快にビールを呷る。
 卓上から溢れんばかりの焼き鳥とジョッキ。
 ついさっきまでデウスエクスと戦ってたとは信じられまい。猟犬たちの宴モードは店の中でも群を抜いて賑やかであった。
「んー、ジューシーなモモ肉おいしぃ……」
「豚バラは豚さんのしっかりした歯ごたえと濃い脂がおいしー」
 串からぱくっと肉を咥えた秋子とエヴァリーナが、揃ってまったり顔を作る。だが続いてビールを飲む秋子とは違って、エヴァリーナが口に入れたのはジュースだ。
「エヴァリーナさんはお酒飲めないの?」
「うん、お味は嫌いじゃないけどふにゃふにゃーってなっちゃって……たくさん飲めないからちょっと苦手ー」
「へー」
「むしろ焼き鳥は飲み物だから焼き鳥で乾杯してもいいと思うの」
「そ、そうなんだ……」
 キリッ、と言いきるエヴァリーナに愛想笑いするしかねえ秋子。いつの間にかエヴァリーナの前からは豚バラ串が消えている。10本以上あったのが嘘のように。
「というわけでメニューの上から下まで50本ずつくっださいな♪」
「えぇっ!? 50ですか!?」
「…………」
 挙句に店員つかまえて悪戯じみた注文をかますエヴァリーナに、もう言葉も見つからねえ秋子でしたよ。
 一方、道弘や憐はじっくりと鶏を味わっていた。
「こいつは美味いな……手が止まらん」
「肉だけでなく葱も美味い。1本があっという間に片付いてしまうな」
 綺麗に平らげた串を置き、それぞれビールとカクテルを口に含む道弘と憐。次々に溜まってゆく串を見れば2人がいかにこの時間を楽しんでいるかは想像に難くない。
「このボンジリの歯応え、食べれば食べるほどまた食べたくなるような……」
「こっちのヤゲンも絶品だ」
「ナンコツってコリコリしてて、面白い感じだね」
 食べ進める憐と道弘の横で、黙々と初めての焼き鳥を体験していたリリエッタがそっと串を置く。
「モモも美味しかったし、ねぎまも美味しかった。ハラミ? も変な感じだったけど美味しかったよ」
「その歳で鶏ハラミとは、大物になる予感じゃねぇか」
「リリエッタは15歳だったか。5年後が楽しみだな」
「?」
 なんか暖かい視線を向けてくる2人に、烏龍茶のみながら首を傾げるリリエッタ。
 んな感じでうら若き少女が将来を嘱望されている横では、嘱望とかそんなんとは無縁のアラフォー女子が酒盛りをしている。
「よーし、ねぎまで野菜の摂取は完了だ。これで後は肉食っても大丈夫だな」
「ボンジリでがつんといきますか。セセリやハツをじっくり噛みしめるのも良さそうですね」
「レバーとか甘辛手羽もある。いやー肴に困らないね!」
「大変にビールに合います……おっとそう言っていたらビールが空に。すみませんビールおかわりお願いします」
 顔を突き合わせ、ぐびぐびと酒を飲む翔子とシデル。
 枯れている。完全に枯れている。2人の傍らにとぐろ巻いて黙々と焼き鳥を食っているシロの姿がなければ大変な画面になっていただろう。深夜の民放BSみたいになっていただろう。
「塩キャベツを大皿で用意したのは正解でしたね。野菜、肉、肉、肉、野菜と、正に無限ループです」
「よしそろそろ日本酒いこっか。すいませーん」
 ぽりぽりとキャベツを齧っては肉を喰らうシデル、もう本格的な呑みに移行しはじめてる翔子。2人のお手本のような焼き鳥の楽しみ方には、その隣で飲んでいたモカも唸るしかなかった。
「ああ、これぞ正しい博多の飲み方だな」
 ダルムをむぐっと食い、ぐいっと生ビールを呷るモカ。そうして口をスッキリさせれば今度は豚バラの脂を味わい、カリッと焼かれた豚足にも手を伸ばす。
 で、またキンキンに冷えたビールを流しこむ!
「……っと、いけない。飲みすぎないように気をつけなくてはな」
「むぅ、なんだかモカがいきいきしてるね」
「うんうん、わかるーそうなっちゃうー。これも全部お酒と焼き鳥が悪いんだよ……」
 どんどん表情が綻んでくモカを不思議そうに見るリリエッタに、秋子はしきりに頷きながら繰り言を零す。
 さっぱりしたハツを串から齧り取り、へにゃんと突っ伏す秋子。
「美味しい。もう死んでもい……だめだ、明日も食べたい。明日も食べたいから死んじゃったらだめだ」
「いやーセセリもいけるね。シデル、ナイスチョイス」(翔子)
「噛めば噛むほど旨味が溢れますよね」(シデル)
「そうだ、セセリも美味しいって聞いたんだ。食べねばならぬ」
 ぴくりと耳を動かした秋子が、むくっと起き上がる。
 壮絶な焼き鳥パーリィは、まだ始まったばかりなのだった。

●福岡ごいすー話
 串を通された、立派なつくね。
 幾重にも串に巻かれた、鶏皮。
 その2本をしばらく眺めていたリリエッタは、憐と道弘へ振り向いた。
「このつくねってヤツは焼き鳥屋さんの個性が出るんだっけ?」
「そう言われることもあるな」
「こっちの皮? は串にぐるぐる巻かれててちょっと変わってるね」
「あぁ、確かによくみりゃ変わった格好だよな」
 砂ずりの歯応えを口の中で遊ばせながら、リリエッタの素朴な疑問に答える憐と道弘。
 かれこれ小一時間は食べ続けている猟犬一同だったが、未だ賑わいは尽きていなかった。
 積みあがる串の山を見て、憐はすりすりと腹をさする。
「久しぶりに肉をこれだけ食べた感じがするな……」
「ほんとほんと。お金が飛んでったー」
 握る財布は軽いものの、落ち着き払っている秋子。
 決して冷静でいられる状況ではなかった。彼女の持つ財布は夫と共同で使っている財布なのだ。その中には今月の食費が収まっている。
 ええ、バレたらヤバいんですよ。
 けれど秋子は動じていない。なぜかというと――。
「うん、焼き鳥を口に突っ込んで黙らせれば良いや!」
 居直っているだけだった。
 美味しい焼き鳥を持って帰ればなんとかなる。そう思考停止して秋子はこの時間を全力で楽しんで、また追加で注文をするのだった。
「さすが若い。恐れ知らずだな」
 突っ走ってる秋子を見ながら、豚バラを口に入れる道弘。
「いやぁ、脂身は敬遠し始めてたけど、やっぱうんめえよなぁ。豚バラとかもはや鳥じゃねぇけど、旨けりゃ万事OKってな」
「確かに豚バラの焼き鳥、って独特だよね」
「七味が大変合いますね。すみませんビールのおかわりお願いします」
 同じく豚バラを味わっていた翔子とシデルが、道弘の言葉に頷く。
 そう、普通に食ってるけどここは焼き鳥屋なのである。ナチュラルに豚バラが出てくるのは福岡ローカルルールと言ってもいい。福岡の焼き鳥屋なんでも出しすぎ問題とも言えるかもしれない。
「そういや、モカの頼み方も変だったよな。ダルムとかヘルツとか……ありゃ福岡特有の呼び方だったのか?」
「いやぁ、あれは福岡というか久留米の頼み方かな。ちなみにどちらもドイツ語読みだ」
 道弘の疑問にさらりと答えたモカは、そのまま福岡蘊蓄コーナーへ。
「なぜドイツ語読みするのかについては、県南部筑後地方の街、久留米は大学医学部や大病院が多い医学の街だからと言われている」
「へぇー。モカさん物知り」
「ふふ、そうだろう」
 豚バラ串を咥えてぴょこぴょこさせる秋子に、くすりと笑うモカさん。
 そのままなんとなく2人がジョッキをかち合わせるのを見て、エヴァリーナは(焼き鳥を食う手は一切止めずに)ふと興味を持って手近な酒を味見してみた。
 が、飲んだそばからふにゃっとへたれる。
「んー……やっぱ私、ジュースでいいや。むしろ焼き鳥だけでも!」
「まー無理して飲むもんじゃないよね」
「ええ、楽しみ方はそれぞれですよ」
 再び焼き鳥を吸いこむマシーンになるエヴァリーナを、微笑ましく見やる翔子とシデル。
 しかしシデルは目の端に気になるものを見つけた。
「その卵かけごはんは何です?」
「あぁ、これ?」
 手元で黄金色を見せるTKGを、シデルへと向ける翔子。
「いや、これだけ鶏肉がウマいんだから卵も間違いは無いよねってことでね」
「なるほど」
 ニカッ、と嬉しそうに笑う翔子。
 ちなみにTKGは、やっぱり期待に違わず絶品だったとか。

 店の外に出た憐は、ぽいっとタブレットを口にして夜空を見上げた。
「今日はいい日だったな。本当に美味かった」
「ねー本当においしかったー」
「うんうん、また来たいなー」
 憐の言葉に頷く秋子とエヴァリーナは、山ほどの土産を抱えている。袋から香る焼き鳥の匂いを嗅ぐ2人は心底幸せそうである。
「テイクアウトできるってのは、2度美味しい感じがしていいよなぁ」
「うん。寮のみんなも美味しく食べてくれるといいな」
 道弘とリリエッタも、常識的な量を確保している。とはいえ軽く宴とかひらけそうなぐらいはあるから、帰ったあともかなり楽しめそうだ。
 かくして終わりに近づく博多の1日。
 ――しかし、シデルと翔子にとっては違った。
「さて、ではもう1軒といきますか」
「折角博多来たんだし屋台いっとくか」
 揚々と、仲間と分かれてゆく2人の背中。
 そう、酒飲みにしてみればまだ序の口なのだ。
 2軒目3軒目とハシゴ酒をせずに『酒を呑んだ』などと誰が言えようか。
 それを察したかのように、モカは颯爽と2人の前に現れた。
「やはり行くか。いいだろう、良い屋台を紹介するよ」
 にやりと笑うモカ。きらりと目を光らせる翔子とシデル。
 そうして、3人は夜の博多へと消えてゆくのだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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