邪眼を持つ鞭使いと戦う者たち

作者:塩田多弾砲

「それじゃ、合同練習試合……開始します!」
 その日、その武道館の道場では。
 異なる女子大同士の、交流を兼ねた剣道部同士の練習試合が行われていた。
 先鋒、次鋒、中堅、副将戦までが行われ、互いの勝者は二対二。
「聖ラファエル女子大『総合剣道部』部長、後藤姫香!」
「今日はわたし……本気で行くよ!」
 そして、
「聖ウリエル女子大『剣道研究部』部長、九条奏美!」
「わたくしも、全力で……参ります!」
 大将が二人、相対する。
 親友にしてライバル、互角の腕前を持つ二人。
 試合開始する直前。いきなり正面玄関から、大柄な何者かが乱入した。
 それは、大柄な女性。腰に下げているのは、剣らしき長物。
 そいつはそれを振るうと、刀身がまるで……鞭のようにしなり、伸びた。
「君! 試合中だ、すぐに出て行きなさい」
「試合をしたいのなら、ちゃんとした申し込みをしてからにすべき! そうでないと……」
 互いの大学の顧問の教師が、歩み寄るも、
 いきなり、吹っ飛ばされた。
「!?」
「な……なに……!?」
 鞭の一撃が、二人を打ち据えたのだ。
「……はい、ご主人様」
「……貴女様に、従います」
 そして、ただ一撃を受けただけなのに。その眼差しを見ただけで、
 顧問二人はまるで……『主人のお叱りを受けた下僕』のように、服従の意を見せていた。
「一体……」
「なん、ですの……?」
 その『異常さ』を怪しんだ姫香と奏美だったが……次の瞬間、二人まとめて『鞭』の打撃が襲ってきた。
「きゃああっ!」
「くっ! ああっ!」
 竹刀や面が弾き飛ばされ、防御すらできない。あまりに素早く、あまりに激しい攻撃に、対処のしようがなかったのだ。
 道場内はパニックに。そして、
「……ご主人……様?」
「……はい……従い、ます」
 二人にも変化が。
 奏美と姫香はなぜか、鞭を振るう目前の大女に、自分から首を垂れていた。
 そして、パニックになっていた道場内は。エインヘリアルの術中にはまった生徒たちにより、そのパニックが収まっていた。
 エインヘリアルの前に、全員が首を垂れ、全員が下僕と化していた。

「……このエインヘリアルは『ウィップバンガー』と呼びますが……武器が鞭なだけに、皆さんでも少々てこずるかもしれません」
 セリカが君たちに、予見の詳細を述べる。
「前に、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)さんが戦った、快楽のツボを突くエインヘリアル『インキュバス』の案件がありましたけど。今度のは……『服従』を強いるエインヘリアルと言えます」
 場所は、『インキュバス』が出た武道館から、一区画離れた場所にあるスポーツセンター。その敷地内の武道館。
『インキュバス』の出た武道館と、広さはほぼ同じ。ただし今度の現場は、板張りの剣道場。
「急ぎ現場に向かい、この『ウィップバンガー』の撃破をお願いします!」
 こいつは、見た目は『海外ゲームに出てきそうな、女戦士や女バーバリアン』みたいな印象だという。いわゆる『ビキニ鎧』を着た身体は、筋肉質で青く丈夫そうな肌。
 逆立った髪に、兜と仮面で覆っている顔は、目元だけが露わに。その眼差しは血走り、憎悪の塊のよう。
 武器はゾディアックソード。しかし、その刀身には刃は無い。代わりに鞭となって巻きついて、打ち据えたりする事が可能。
「で、どうやらこの『鞭』と『視線』に、力があるようなのです」
 見たところ、この『ウィップバンガー』の『鞭』で打ち据えられた後、『視線』を見てしまったら。
 その対象は、エインヘリアルに対し自主的に『しもべとして服従の意を示す』、精神異常を発生させるというのだ。
 ただし、あくまでも『鞭で打たれ』『目を見る』という発動条件が必要。逆に言えば、目を見なければ鞭に打たれても服従しないし、鞭に打たれたとしても目を見なければいい。
「多分、『鞭』で打った時に相手の皮膚から情報を読み取り、その情報に準じた催眠術を目から放つのでは」と、セリカは仮説を述べた。
「常人ならば、この術にはまると逆らえないでしょう。ですが恐らく、グラビティを持つケルベロスの皆さんならば、多少は緩和されるとは思われます」
 とはいえ、無事ではすまないだろう。抗う事はできるだろうが、抵抗しきれず、命令されて味方のケルベロスを襲う事も十分考えられる。
 更に、この剣道場には、合計30名近くの部員がいる。彼女たちを避難させないと、鞭と視線で下僕にされ、君たちに襲い掛かって来る可能性もある(そうなってしまったら、手加減攻撃での無力化が必要だが。でなければ彼女らを殺害しかねない)。
 ただし、厄介なのはこの能力だけで、他の点は平均的なエインヘリアルのそれと同じ。鞭と視線に気を付けて、接近戦や格闘戦を挑むもよし。距離を取り、遠くから狙撃や砲撃するもよし。鞭を取り落させるとか、両目を潰して視線を使えなくしてから始末する方法もある。
「その方法はお任せします。ともかく、このエインヘリアルを放置したら、下僕を増やし、更なる混乱と破壊の災厄が起こるのは必至です。皆さん、この『ウィップバンガー』を確実に倒してください!」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
レイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)

■リプレイ

●悪魔の城の吸血鬼王がごとく
「今日はわたし……全力で行くよ!」後藤姫香と、
「わたくしも、全力で……参ります!」九条奏美。
 二人の少女剣士が、互いに互いを見据え、竹刀の剣先を向けている。
 道場の隅、スカウトマン……に扮した獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は、二人の様子を見つめていた。
 剣士としての実力は、二人ともほぼ互角。
「……プロレスとは異なるけど、これは……見入ってしまうわ」
 銀子自身も婦警であるため、柔道と剣道は警察にて、必須技能として学んでいる。
(「……っととと、いけないいけない。エインヘリアルの出現に警戒しないと」)
 思わず見入ってしまい、気持ちを新たにするが。
「「「!」」」
 次の瞬間、『そいつ』が現れた。

 今回の参加者は、四名。
 銀子の他のメンバーは、
「あいつが……」
 道場の裏口から現れた、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)と、
「『ウィップバンガー』……?」
 道場の隅で佇んでいた、燈家・陽葉(光響射て・e02459)。そして、
「……ずいぶんと、凶悪そうなやつじゃないの!」
 同じく、道場の隅で待機していたレイファ・ラース(シャドウエルフの螺旋忍者・e66524)。
 彼女らもまた、剣道場の正面玄関を開き現れた『そいつ』……エインヘリアル『ウィップバンガー』へと、視線を向けていた。
 見た目は確かに、『女戦士』や『女バーバリアン』。
 筋肉質の身体と青白い肌。胸元と腰部を覆うビキニ鎧の他、手甲と足甲も装着している。腰には剣を下げており……『ウィップバンガー』はその鞘を払うと、刀身が長く伸び、鞭と化した。
 頭部は、面頬に覆われた兜を被り、隙間から逆立った赤毛が突き出ている。が、目元は大きく開いており、覗くは血走った眼差し。
 エインヘリアルは、そのまま道場に上がり込んだ。
「君! 試合中だ……」
 片方の大学の顧問教師が声をかけるが、
「ケルベロスよ! 皆、下がって!」
 銀子が声を張り上げ、教師と、道場内の生徒たちを下がらせた。
 しかし、
「えー、ケルベロス? あれと戦うの?」
「見た目アレだけど、あたしらでも勝てそうじゃん?」
「てゆーか、相手ひとりだけ? 楽勝っぽいけど」
 数名の部員が……『ウィップバンガー』に戦いを挑まんとしている。
「………っ!」
 蒼眞はそこに、
『剣気解放』、殺気と剣気とを開放し、浴びせかけた。
「ひっ……!」
 途端に、すべての部員、および教師らは……、虚脱状態に。
「……命じる。立ち去れ」
 すかさず、蒼眞が命令する。それに従い彼女らは、のろのろとした足取りで……裏口へと向かっていった。
 しかし、『ウィップバンガー』はそれを見て、まるで『獲物を横取りさせない』と言いたげに、手の鞭を振り回し打ち据えんとした。
 が、
「待てっ! キミの相手は僕と……」
「私よ! さあ、かかってきなさい!」
 陽葉と銀子に対し、『ウィップバンガー』は一瞬躊躇したかのように動きを止めたが。すぐに鞭で打ちかかった。
「おおっと!」
「くっ!」
 蛇が飛びかかるように、鞭が宙を舞う。
(「これはっ……避けるだけでせいいっぱいっ……!」)
「……っ!」
 自分の髪の毛数本が、切りとばされたのを銀子は知った。
「くっ……早いね……!」
 陽葉もまた、鞭の切っ先に苦戦。距離を取っても、その足元を鞭の先端が叩き、中々狙いが定まらない。
 しかし、攻撃はできずとも、当座の目的は遂行できそうだ……と、蒼眞とレイファは感じ取っていた。
「……さあ、皆さん! 安全な場所へ避難してください!……きゃあっ!」
 レイファは背中に、鞭の先端で叩かれたのを知った。
「……ああっ、素敵な痛み……じゃなくって!」
 今は我慢。興奮するけど、その愉悦を愉しむのは後で。
「このまま、避難はうまくいきそうです……!」
 そう。当座の目的、それは、
 陽葉と銀子が囮になり足止め。その間に、蒼眞とレイファが皆を避難させる。
 剣気解放により、少なくとも常人である部員たちは避難に従ってくれている。
 視線を合わせないよう、注意しつつ……レイファは蒼眞とともに、避難を進めていた。

●ローズの鞭は妖狐のように可憐
「……くっ、私は……獅子よ! そんな事で、手なずけられると思わないでっ!」
 銀子の体中、露出している肌部分に、ピッ、ピッと、軽く浅い切り傷が刻まれ、軽くはたく程度に鞭で打たれる。
『ウィップバンガー』の鞭の切っ先が、銀子に打撃と切り傷を刻み付けているのだ。浅く弱く、ダメージとしては大したことはない。
 視線を顔に向けぬよう、相手のまなざしを見ないように注意しつつも……銀子はそいつを睨み付けたかった。
 だが、敵へと視線を向けない事がこれほどまで困難とは。必死に視線を逸らしたり、目を閉じたりして対処するが……うまく攻撃できない。
「……舐める、なっ!」
 陽葉が、オウガメタル『雪と星の導き』により和弓を作り出すと……、
「響け、大地の音色っ!」
 矢無き弓の一撃、『大地の弓』を放った。かき鳴らされた『鳴弦』の調べが、エインヘリアルの足下、道場の床を砕き崩し、たたらを踏ませる。
 その隙に……銀子は手にしたバスターライフルで、
「食らえっ!」
 バスタービームを放った。それは敵の胸部に命中。『ウィップバンガー』は床に伏し、そのまま動かない。
「……やった?」
「注意して! 今のうちに攻撃してとどめを!」
 陽葉が叫ぶ。敵はまだ鞭を握ったままだが……、
「ええ、そうね!」
 やや拍子抜けだが、倒せるならそれに越したことはない。
 倒れた相手に、今度は狙いをつけ……再びバスタービームを。
 脇腹に命中。そのまま床を巻き込み爆発が起こり、空中に舞った『ウィップバンガー』だが……動かず、仰向けになり床に落ちる。『目』は、閉じて開かない。
「念のため、もう一発!」
 鞭へとクイックドロウを放つ陽葉。エインヘリアルの手から、鞭が離れた。
「…………これ、拾われないようにしないと、ね」
 近くに転がって来たその鞭を拾い上げ、柄を握る銀子。
「あっけなく終わったね。でも、たまにはこういうのも……え?」
 陽葉は、銀子の起こした三つの『アクション』に、驚き、動きを止め、対処……できなかった。

 バスターライフルの一撃で、『ウィップバンガー』を吹き飛ばした銀子は、
 一瞬だが、空中に舞ったエインヘリアルの『視線』を見てしまった。
 すぐに視線を外す。大丈夫だ、何も変化は起こっていない。目をつぶり、自分が正気である事を確認する。
 あいつは敵、あいつは倒すべき対象。あいつは恐ろしいエインヘリアル。
 なぜ恐ろしいか? あの鞭で打ち据え、人を無理やり下僕にしてしまうから。
 自分はまだ支配下に置かれてない。視線を見たのも一瞬だけ。
 あの視線……血走り、恐ろしい憎悪の塊な視線……、
 待て。なぜ『恐ろしい』? なぜ『憎悪』した眼差しに?
 むしろ、『ひどく寂しそうで、怯えた眼差し』ではないか? 婦警の自分が捕まえた犯罪者の中にも……憎悪の眼差しを持つ者は多かった。が、その中には『追い詰められて』『怯えた』故に、そんな目になった者も少なくなかった。
 エインヘリアルとて、それは同じ。そう思うと、憐憫の情が湧く。
 加えて……もともとあの眼差しは『高貴で、優しい』それではないか? おそらく王族や貴人だったのが、何らかの理由で罪人にされ、味方もなく、孤独で心細い状況。なのに周囲が、殺そうと追い詰め狩り立てる。憎悪の眼差しになって当然じゃないか?
 奴は……いや、『あの方』は、助けを求めている。自分を支える従者を求めて『おられる』。だから鞭を振るう。そのどこに問題が? 追い詰められたら、誰だって味方を欲するものだ。
 自分は婦警で、ケルベロス。助けを求める人々のため、戦う者。
 目前のあの方も、助けを求めておられる。人一人助けられずして、何がケルベロスか。
 ご安心を。今、私が……参ります。
『アクション1』陽葉が弾き飛ばした鞭を拾い、駆け出した銀子は、
『アクション2』その鞭を『ウィップバンガー』へ手渡し、戸惑う陽葉へ接近すると、
『アクション3』彼女を抱え上げ、得意のプロレス技で……道場の板張りの床へと叩き付けた。
「ぎ、銀子さん! 何を……」
「……この方に、仕えるべき。さあ、陽葉さん。あなたも……」
 倒れた陽葉に、立ち上がった『ウィップバンガー』は、鞭で強打。
 その眼差しを見せるべく、銀子は彼女の頭を、顔を、無理やりエインヘリアルへと向けさせた。

●泰山の双鞭は結べても、百鞭には捕らわれる
「銀子さん! なにをしてるんですかっ!」
 部員たちを避難させ終え、戻ってきたレイファの声が響く。
「レイファさん? 銀子さんが敵の視線にっ!」
 必死に目をつぶりながら、陽葉が叫ぶ。
「……み、見てないっ! 見てませんからっ!」
 どうやら、敵の術中にはかからなかった様子。声を聞いて、陽葉はそれを悟った。
「……ちっ。一人やられちまったか」
 続き、戻って来た蒼眞の声が。
「……あなたたちも……この気の毒な方を助ける、従者になりましょう? ……ってか、なれってんだよ!」
 まるで『自分は徹頭徹尾正しいことしてるのに、周囲の無理解でそれを否定された』とでも言わんばかりに、陽葉を手放した銀子は、蒼眞に突進した。

 必死になり、銀子のタックルを受け止める蒼眞。
 そのまま、持ち上げられると……床へと投げ飛ばされた。
「いっ、痛えっ!」
 どうやら……鞭で打たれて、視線を見てしまったか。
(「鞭で打たれて、喜ぶ趣味は無いんだけどな……!」)
 ついでに、味方からも攻撃されるつもりもない。が、銀子は手加減して何とかなる程度の実力でもない。
「オラあっ! この無理解なくそダボどもがあっ! お前らがあの方を追い詰めてるんだってわかんねーのか!」
 そのまま、サバ折りを食らわされる。胸が苦しい、肺から空気が押し出され、呼吸も満足にできない。
「……頼む……効いて……くれよ……」
 組まれた状態で、蒼眞は。
 銀子へ手を伸ばした。

 ビシッ! ビシッ! と、陽葉はレイファとともに、鞭の攻撃の前に晒されていた。
(「まずいなこれ。今目を開けたら、僕も確実に……」)
 確実に、銀子と同様に『やられて』しまうだろう。変貌した彼女の様子を見ると、どんな強い精神力を持っていようが関係なく、ああなってしまう事は必至。
 必死に目をつぶり、手で目を覆い、鞭の攻撃に耐える。が、これはこれで危険でもあった。
 体中のあちこちに鞭による切り傷を受け、そこから血が噴き出してきたのだ。
 目を閉じたまま逃れようとしたが、
「!?」
 鞭でからめとられ、そのまま床に、先刻に自分が『大地の弓』で砕いた床に叩きつけられたのだ。
 薄目を開けると、床板が足を固く咥え込んでしまっている。
 逃げようとしても、動けない。
「ひっ! あっ! ひゃああっ!」
 レイファの声が響くが、その声には苦痛とともに愉悦のそれも入っていた。
 彼女は既に、避難誘導の際に後ろから打たれている。あの声の様子から、必死に目を閉じているに違いないが……、このままでは先に鞭で殺されかねない。
 もう、相手の目を見るしかないのか……。
「お待ちください、我が主。今、手助け致します」
 絶望を後押しする、銀子の声がそこに。鞭の連撃が止む。
 注意深く足下だけを見ると、二人して並び、立っている様子。
「……さあ、ぶっ飛べっ!! お前を地獄に送る手助けをしてやるっ!」
 次の瞬間、容赦無き打撃音が。
 獣の如き、肉弾のラッシュ。
『術紋・獅子心重撃(ジュモン・レオンハートインパクト)』。銀子の必殺の攻撃が、エインヘリアルへと放たれていた。
 それを受けた『ウィップバンガー』は、その鞭を取り落とし、地面に叩き付けられる。その時に、一瞬だけ……陽葉はそいつの眼差しを見た。
「おっと……今度はお前には返さない! 蒼眞さん、陽葉さんも助けて!」
「了解した!」
 レイファを助けた蒼眞は、陽葉にも駆け寄り、気力溜めを。
「大丈夫か?」
「う、うん。……銀子さんは?」
「組み付かれた時、俺が気力溜めを彼女にかけた。それが状態異常が解除し、正気に戻ってくれてな。で、奴を油断させるため……」
 やられたふりをして倒れ、彼女はそのまま『ウィップバンガー』に接近。隙を突いて攻撃したわけだ。
 説明した蒼眞は、やれやれと肩をすくめ、陽葉を咥えている床板を剥がした。
 陽葉の視線の先には、
「……あんたみたいなご主人様なんて、ごめんだわ!」
 とどめの一撃を食らわせた、銀子の姿。
 直撃を受けた『ウィップバンガー』は、痙攣していたが……、
 じきにそれも止み、今度こそ本当に、動きを止めた。

●男爵のドリル鞭みたく回転し貫け
 事態は解決。
 ケルベロスらはヒールをかけ、道場を修復。状況を終了させた。
「ううっ、あいつの術にかかるなんて……ごめんなさい、陽葉さん、蒼眞さん」と、銀子はややしょんぼり。
「でも、倒せて良かったよ。催眠術って言うより、認識障害を起こす能力みたいだったしね、あいつの視線は」
 だから、落ち込む事ないよと、銀子を慰める陽葉。
「あの、今回はありがとうございました」後藤姫香ら、聖ラファエル女子の総合剣道部一同と、
「わたくしたちを助けていただき、感謝の言葉もありませんわ。本当に……ありがとうございました」
 聖ウリエル女子の、剣道研究部一同が、揃って一礼する。
「……あ、あの……そういえば、ラファエル女子の『総合柔道部』からは、何か聞いてませんか……?」
 姫香に聞く銀子だが、
「『総合柔道部』? いや、別に何も。っていうか、あの子たちちょっと苦手なんだよねー。柔道の実力は高いけど、女の子同士でのイチャコラも多すぎるっていうか」
 と返された。
「ええ。噂には聞いてますが……まったく、ふ、ふしだらです!」
 憤慨しつつ、奏美は赤面。
「……股間の剣の使い方、知りたい人はいないんかな」
 ぼそっと蒼眞がつぶやくと、
「……きみきみ、それはセクハラだよー」
「なっ、なんて破廉恥な! 助けて頂いた事には感謝しますが……そのような発言は失礼でしてよ!」
 部員たちも、「マジ引くわー」と、やや引き気味。
「……こ、この火照った身体。なんとか……ならないわよね」
 レイファが興奮しつつ、お尻を突き出すが、
 同様に「マジ引くわー」と、女子大生たちからこれまた引かれてしまった。
 まあ、今回はそういうのは無いか。そう思った時、
「……あの、お二人とも。もしよかったらこちらに」
 ウリ女の部活の顧問から、そっと……名刺を渡された。
「親戚が経営している、女の子とそういう遊びができるお店です。もしご興味がありましたら……」
 再び、期待してしまう二人。
 そして、ほぼ期待に違わぬ思いをするとは、この時には思いもしていなかった。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月18日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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