守れおにぎり、滅ぼせ鬼斬!

作者:坂本ピエロギ

 店の厨房から漂う湯気は、乳色の朝霧を思わせた。
 炊いたばかりの白い米。そこに味噌汁とお漬物の香りが混じる。匂いにつられ湯気の出処へと足を向ければ、入口がすぐに見えるだろう。
 『おにぎり』。
 洗いさらした暖簾には、その四文字だけが誇らしげに躍る。
 ごま塩頭の主人に迎えられ、テーブルに腰を下ろしたら、抹茶などを啜りつつ、まずは壁を埋め尽くすように並んだ品書きの札を見てみよう。
 梅、昆布、たらこに海老天、鮭わさび。
 ツナに高菜に鶏そぼろ。なす味噌、きゃらぶき、豚キムチ。
 他にもジャコに柴漬けに蕗のとう味噌に、数え切れぬほどの品揃え。
 味噌汁の塩加減は良い塩梅に濃くしてあり、これと野菜を漬け込んだもの、そして抹茶をつけて朝餉のひと時を過ごすのだ。
 いつもの朝、いつもの喧騒。そしていつもの賑わいが、今日も店を満たすはずだった。
 招かれざる罪人が、店先の道路に降ってくるまでは――。
『地球人ども! この鬼斬サマの腹を満たして貰おうかぁ!!』
 そうして罪人エインヘリアルは大斧を手に、逃げ惑う客を斬り刻んでいくのだった。

「鬼斬……おに、ぎり……?」
「『キザン』っす。『鬼』のように『斬』る、から付いた名前だとか」
 首を傾げるオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)に、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は敵名の情報を補足すると、依頼の説明を開始した。
 アスガルドから放逐された罪人エインヘリアルによる襲撃事件。その一つが、オルティアの調査によって判明したのだという。
「このエインヘリアル――鬼斬を放置すれば、犠牲が大勢出てしまうっす。そうなる前に、皆さんに撃破を頼みたいっす!」
 鬼斬が現れるのは、とある商店街にある歩行者用の道路だ。
 道幅は広く、立回りに支障はない。現着する頃には周辺の避難誘導も完了している。
「つまりは、撃破に専念できる、状況。……分かった、必ず、排除する」
 オルティアの言葉にダンテは確りと頷くと、戦闘後の事へ話を変えた。
「鬼斬をブッ飛ばしたら、皆さんお腹も空くと思うっす。……実は現場の商店街に、美味いおにぎり専門店があるんすよ」
 順調に戦闘が終われば、おにぎり専門店のサービスタイムに間に合うだろう。
 店で供されるのは、具たっぷりのおにぎりだ。形状は三角から俵型まで、海苔はパリパリからしっとり、あるいは海苔ナシまで幅広い注文に応じてくれる。
 具の種類は数え切れぬ程で、品書きだけで迷ってしまうかもしれない。単品だけでなく、複数の種類――たとえば梅と昆布、高菜と明太子、納豆と卵黄など、好みの種類同士を組み合わせることも出来る。
 オプションには味噌汁と漬け物。無論どちらも、おかわり自由だ。
「実はちょっとしたツテで、店のサービスタイム無料券が手に入ったんす。期限が今日限りなんで、オルティアさんや皆さんでどうっすか?」
「食べ放題……無料……! これは、負けられない……!!」
 俄然やる気を見せるオルティアに、ダンテはグッと親指を立て、依頼の説明を終える。
「お腹一杯食べて来て下さいっす。それじゃ、事件の解決よろしく頼むっすね!」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)
シャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)

■リプレイ

●一
『地球人ども! この鬼斬にグラビティ・チェインをよこせ!』
 斧を担いだ怪物が、青空の下で吠える。
 時刻は早朝、天気は快晴、ところはとある商店街。無人となった目抜き通りを我が物顔で闊歩する罪人の前を、8つの影が立ち塞いだ。
『獲物か! 丁度いい、一人残らず斬って――』
「てめぇだな、鬼斬とかいうエインヘリアルは!」
 手甲型ナイフ『虎爪刃手甲』を装着し、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)はまっすぐに鬼斬(キザン)――巨漢の罪人めがけ突っ込んでいく。
 この街も、そこに暮らす人々も、デウスエクスの好きにはさせない。
 そんな思いをありったけ込めて、
「筋力流流星一直線蹴りーーーッ!!!」
 超高速の飛び蹴りが、戦いの火蓋を切った。
 巨体の腹にめり込む、鉄槌の如き蹴り。その一撃に鬼斬はふてぶてしく笑うと、ルーンで輝く斧を構えて中衛へ突進してきた。
『刻んでやるぞ、ケルベロス!』
 ぶん、と振り回されるルーンアックス。
 すかさずシャムロック・ラン(セントールのガジェッティア・e85456)が、横合いから割り込んで斬撃の身代わりとなる。
「うへぇ、朝っぱらから襲撃してくるなんて元気っすねぇ」
 シャムロックは苦笑しつつサークリットチェインを展開。手甲で鬼斬へ飛び掛かる泰地と息を合わせ、前衛を守護の魔法陣で包んでいく。
「篠葉さん。ケガ、ないっすか?」
「大丈夫! ガードありがとね♪」
 敵の猛攻を前に、遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)は落ち着いたものだ。
 バスターライフルをゼログラビトン発射モードに設定し、照準セット。周囲の建物を巻き込まないためにも、あの敵には退場してもらわねば。
「さて、それじゃ一仕事やっちゃいますか!」
 篠葉のライフルが発射する光弾が、鬼斬の胸板に命中。グラビティ中和作用で敵の火力を減じた篠葉を、小柳・玲央(剣扇・e26293)がスターサンクチュアリで保護していく。
「お見事。さあ、どんどんいこう」
 玲央の動きに気負いはない。彼女にとってこの戦いは、日課としている朝御飯前の鍛錬、その延長線上のようなものだからだ。
「けど、油断は禁物だよ。敵の火力はまだ死んでない」
「あっはっは! あんな奴ぶっ壊してやるわ!」
 ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)が、豊満なボディを晒して笑う。
 額にともすは地獄の炎。欠損部位たる『正気』を地獄化したインフェルノファクターが、ファレの全身を覆いつくす。その隣に立つリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)はルーンアックスを悠然と掲げ、告げた。
「ほかほかご飯にお味噌汁の香り……それは日本の朝の幸せな香り……」
 リュシエンヌにとって、朝のひと時は今日を頑張る人たちのもの。無粋な罪人などお呼びではない。負傷したシャムロックを破壊のルーンで癒すと、凛とした声で彼女は言う。
 必ず、朝のひと時を守ってみせると。そして――。
「ルルたちが、おにぎり(鬼斬り)になるのよ!」
『な、なんだと!?』
「なるほど。上手い事を言うね、ルル」
 ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は愉快そうに笑うと、ルル――妻のリュシエンヌと頷きを交し合い、面食らった鬼斬の間合いへ飛び込んだ。
「日常を守るのが俺たちの役割――そういう事なので、覚悟してもらおうか」
 ウリルが叩きつけるはグラインドファイアの一撃。華麗な技で連撃を浴びせるウリルに、鬼斬は歯ぎしりしながら斧を振るう。
 ちょうど同時、オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は破壊のルーンを宿し、今まさに攻撃準備を完了したところだった。
(「私たちは、負けない……ううん、もう勝ったも、同然……!」)
 なぜならここには、心強い仲間がいるのだ。
 そして、食べ放題が待っているのだ。
 おにぎりの、味噌汁の、漬物の食べ放題が。いくら食べても無料の食べ放題が!!
「食べ放題……それは、活力の響き。無料(タダ)……それは、希望の響き」
 凝骨斧セザルビルを振りかぶり、オルティアはセントールランの助走で高々と跳躍。
 渾身のスカルブレイカーを叩きつけ、鬼斬を重圧で縛っていった。

●二
『もっと斬らせろ、貴様らの体を!』
「食らえ、おらあっ!」
 大斧を振るう鬼斬へ、泰地は変形させた手甲の爪で斬りつける。
 ジグザグの斬撃は鬼斬の傷口を切り広げ、炎を全身に延焼させた。鬼斬は構わず両足に力を込めて跳躍、唐竹割りの一撃を振り下ろす。
『真っ二つにしてやる!』
「残念、そうはいかないよ」
 泰地を庇った玲央は、スカルブレイカーの重圧と闘いながら両腕の地獄炎を迸らせると、返す刃で鬼斬を包み込む。
「君の事を教えてもらうね♪」
 『炎照・開扉符号(オープンスペース)』。燃やした標的から、あらゆるものを探り出す炎に、鬼斬の守りはみるみる剥ぎ取られていった。
 火力を封じられ、守りを剥ぎ取られ、全身を炎上させ……敵がじわじわと追い詰められていく一方、ケルベロス側の損害は未だ軽微。序盤から守りを固め、敵の武器を封じたことが奏功した結果だった。
『まだだ、まだ斬ってやる!』
 悪あがきのように、ブレイクルーンで傷をふさぐ鬼斬。
 すかさずオルティアが叩き込む背蹄脚が、癒えた傷も、破剣の力も、全て吹き飛ばした。
「おにぎ……鬼斬。無料券の……違う、商店街の、平和のためにも――」
 ――ここで終わらせる。
 心の声を漏らしつつオルティアが告げた一言を合図に、総攻撃が開始された。
 最初に仕掛けたのはシャムロックだ。オルティアとのコンビネーションを発動した彼は、守りを剥がれた鬼斬へ『草原の走者<feroce>』の突撃を敢行する。
「この一撃で腹いっぱいにしてやるっすよ!」
 舗装されたアスファルトを縦横無尽に駆けるは、異形の蹄。獰猛な嵐と化したセントールの突撃は刃と化し、鬼斬をジグザグに切り裂いた。
「凍っちゃいなさい!」
 続けて篠葉が、フロストレーザーを放つ。
 凍結光線を浴びた鬼斬は、全身を氷と炎に蝕まれてなお反撃を試みるが、すぐさま横合いからファレが斬りかかり、出鼻をくじく。
 ファレが振るうは両手剣形態のマインドソード。ギロチンのごとく振り下ろす禍々しい刃に斬りつけられ、鬼斬の動きが鈍り始める。両手剣の重圧だけではない、積み重ねた負傷が限界に達しつつあるのだ。
「ムスターシュ! あんな敵、にぎにぎしてぽーい! なのよ!」
 リュシエンヌは翼猫を連れて、最後の仕上げにかかった。
 発動するは『Coin leger』。光の粒子が降り注ぎ、鬼斬の影を縫い留める。
 そうしてムスターシュの肉球ラッシュを浴びながら、最後の反撃を鬼斬が試みた刹那、その周囲がふいに暗闇に包まれた。
『ぬ、ぬぬ……!?』
「さあ、終わりだ――もう戻れない」
 そこで鬼斬はようやく気づく。自分がウリルの術中にはまったことに。
 『Aurore』――虚無の淵から伸びた手が鬼斬の魂を鷲掴み、闇へ引きずり込んでいく。
『う……うおおおぉぉ!!』
 断末魔を残して斃れた鬼斬は、そのまま溶けるように消滅。
 こうして商店街の虐殺は、ケルベロスの手によって未然に防がれたのだった。

●三
 修復を済ませ、泰地が討伐完了の連絡を終えると、再び商店街に日常が戻ってきた。
 戦いの緊張が解ければ、待っていたとばかり腹の虫も抗議の声を上げ始める。
「さあ、行こう……! 行こう……!!」
 そう言って仲間たちを振り返るオルティアに、仲間の全員が頷く。
 ケルベロスの目と鼻の先には『おにぎり』の暖簾。店の厨房からは、炊いた白米の湯気が朝霧のように噴き出すのが見えた。
「あー、お腹すいたー!」
「おにぎり、ください♪」
 宝物を扱うように無料券を握りしめ、篠葉とリュシエンヌは一番乗りで暖簾を潜る。
 店内ではちょうど、ごま塩頭の店主が朝の支度を終えたところだ。
「おお、これは美味そうだ」
 泰地は腰を下ろしたカウンターの向こう、年季の入った大釜に目を向ける。
 釜の中には、つやつやと光る白米。団扇のような大シャモジでかき混ぜるたび、真っ白な湯気が鼻腔をくすぐった。これは早速、注文せねばなるまい。
「まずは鮭とおかかだ、海苔も巻いてくれ。あと味噌汁もな。お新香はたくあんがいい」
「ふふっ。あの白米、とっても美味しそう」
 ファレは椅子でくねくねと身をしならせ、海老天むすを注文する。
 戦い終われば、破壊衝動は鳴りを潜め、代わって食欲がムクムクと首をもたげるのだ。
(「やっぱりボリューム感が欲しいもの。折角だし、白米も味わってみようかしら」)
 店の調理台には、おにぎりを作るための木枠があった。
 三角形に丸形、俵型……あそこに米を入れて均一に仕上げるのだろう。
「なるほど。あれを使って形とか重さを整えるんすね」
 椅子に二本足で腰掛けたシャムロックは、厨房でてきぱき動く店主の仕事を興味深そうに見つめている。頼んだ品は鮭、梅、おかかの俵型。後で店のお勧めを食べるため、サイズはどれも小さめだ。
「ご主人、今日のお勧めは……えっ、ジャコの焼きおにぎり? じゃあそれも追加で!」
「メニューが一杯で迷うわね。何から食べようかしら」
 篠葉はというと、壁の品書きを眺めるのに忙しい。
 海老天むす、鶏そぼろ、梅じゃこにナス味噌、さて他は何にしようか。ほぐした焼き鮭と刻みワサビを混ぜ込んだ鮭ワサビか、刷毛で醤油をまぶし、さっと炙った焼きおにぎりか。それとも、それとも……迷い始めれば果てしない。
「目移りしちゃうわ。一口サイズでも大丈夫かしら?」
 二つ返事で頷く店主に、さっそく篠葉は注文を出していく。
 対してオルティアは品書きを穴が開くほど見つめながら、眉間に皴を寄せて悩んでいる。一品目は特に重要ゆえ、間違いは許されない。
「形は、三角。海苔は、しっとり。具材は……具材は、ううん……」
 参考がてら、オルティアがちらと覗いたのは玲央の席だ。
「私は豚の角煮と、薄焼き卵で巻いたオムライス風にしよう。後は――」
 熱い抹茶をすすり、玲央は具材の組み合わせに興味を向ける。ここは鶏そぼろと味噌で行こうか。卵黄と納豆も良さそうだ。あるいは鮭とイクラでも……。
「ふふっ。何にしようかな」
(「組み合わせも、可能……!? ううん……うう、ん……」)
 ますます苦悩を深めるオルティアの横では、リュシエンヌとウリルが、仲睦まじく労いの言葉を交わし、ムスターシュと一緒に注文の品を選んでいた。
「うりるさんはもう決めた?」
「梅干と焼鮭が食べたいね。海苔をしっとり巻いた三角型のやつを」
 ウリルが注文したのは王道のレパートリー。妻の手作りも絶品だが、専門店の珍しい具材も楽しみだ――フォローを交えて語る一方で、リュシエンヌが頼んだ品はというと、
「おかかチーズと、めはりがいい。お味噌汁は赤味噌のなめこ汁♪」
 角切りチーズをおかかと混ぜた『おかかチーズ』。高菜の茎を刻んだものを握り、高菜の葉の浅漬けで包んだ『めはり』。ともに極上の味を約束してくれる逸品だ。
「素敵な時間が過ごせそうだね」
「うん、うりるさん。ルルも楽しみ♪」
 こうしてケルベロスたちの朝餉が、静かに幕を開ける。

●四
「いただきます!」
 泰地は早速、運ばれて来たおにぎりに手を伸ばし、豪快にかぶりついた。
 まずは鮭をペロリと平らげ、次はおかか。間に味噌汁と漬け物を挟むのも忘れない。
「やっぱ、沢庵があると嬉しいよな!」
 筋肉が活力を取り戻すのを感じ、ニッと笑みを浮かべる泰地。
 いっぽうウリルとリュシエンヌも、ムスターシュを交えて朝のひと時を楽しんでいる。
「やはり、米と味噌汁の香りは腹に効く。朝飯前に働いたからね」
「ムスターシュ、おかかチーズ分けてあげる♪」
 めはりを食しつつ、翼猫とおにぎりをシェアするリュシエンヌ。ウリルは味噌汁と漬物をお供に梅と鮭を食べ終えると、妻のお勧め――鮪の漬けを頬張った。
「うん、美味しい。どれも甲乙つけ難いね」
(「ふふっ、これは収穫……♪」)
 ウリルが舌鼓を打つ味付けを、リュシエンヌは忘れずメモしていく。のちのち機会が来た時には、存分に活用することにしよう――。
 ファレはというと、海老天むすを色っぽい仕草で美味しそうに食べている。ぷりっとした大ぶりの海老天と御飯の相性は抜群で、気づけば早くも胃袋に納まっていた。
「お次はこれね」
 そう言って手を伸ばしたのは、白米のおにぎり。
 さっと塩をした一品は、米の味がシンプルに味わえ、味噌汁とも漬物とも絶妙の塩梅だ。
「こういう美味しい朝食が食べられるなら、早起きも悪くないわ」
 遅寝遅起きのファレがそんなことを思う一方、玲央は豚の角煮とオムライスを早くも平らげて、お代わりの皿を受け取ったところだ。
「来た来た。美味しそうだね」
 注文したのはきゃらぶき。フキの茎を醤油で煮込み、飴色に仕上げた一品は、白米と丁度良い塩加減である。もう一つは梅ジャコだ。梅の酸味が引き立てる小魚の旨味に、玲央の頬がゆるりと綻む。
(「いい香り……あっちのも、いいな……」)
 オルティアは次なる注文を考えつつも、迷いに迷って注文したツナマヨを齧る。
 大ぶりにカットしたツナは実に頼もしい食感で、コクのある濃厚マヨが程よく絡んだ。
(「これは、他の味も、期待できそう……!」)
 普段のそっけなさもどこへやら、ちらと視線を向けた先では、篠葉が同じツナマヨを手に頬張っていた。こちらはパリパリの海苔で挟んだ、小ぶりの一品である。
「んー、最高ね!」
 白米とマヨとツナ、三位一体にして黄金の組み合わせを堪能したら、次に手を伸ばすのは肉巻き。甘辛たれにゴマ風味を利かせた、篠葉の最強ガッツリ系おにぎりだった。
 漬物はカラシ菜をお供に、パンチの効いた肉をじっくり咀嚼。
 味噌汁をすすり、いざ向かうは天かすと鰹節を混ぜた『悪魔のおにぎり』だ。軽く炙った御飯のおこげ、ふんわり油が滲む天かす、そして甘辛い鰹節。一度食べれば手が止まらないその味は、まさしく悪魔の名に相応しい。
「よーし、今日も一日頑張れるわ。気分もすっきり元気百倍!」
 ぐっ、と可愛らしい力こぶを作る篠葉。
 いっぽうシャムロックは、ちょうど俵型おにぎりを食べ終えたところだった。
 梅干は、少し濃いめの塩味と白米の組み合わせが絶妙。分厚い鮭はギュッと身が詰まり、おかかは甘塩辛い味付けの中にも濃厚な旨味が滲む。
「さて。お次はお勧め、ジャコ焼きにいくっす!」
「お勧め……その選択肢が、あった……!」
 しじみ汁をすすり、醤油の香り漂うジャコ焼きに手を伸ばすシャムロック。
 その横でオルティアは目を輝かせ、しずしずと主人に手を挙げた。
(「食べよう……胃袋が、心が満ちるまで……!」)
 笑顔で頷く主人の手が、大釜の白米をかき混ぜる。
 立ち昇る湯気。くうと鳴る胃袋。至福の朝餉は、まだまだこれからだ。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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