チョコチョコっとファウンテン!

作者:星野ユキヒロ


●噴出チョコ噴水
 チョコレートファウンテン。直訳すれば「チョコレートの噴水」とでも言おうか。水の代わりにとろとろのかぐわしいチョコレートが噴出し、流れ落ち、果物やマシュマロなどのお菓子に絡めて食べていいという夢のようなデザート。
 今でこそ家庭用のおもちゃ程度のものすら探せばすぐ見つかるほどの気軽さであるが、世の中にその姿が見られ始めたころはそれはもう物珍しさの視線を集めたものだ。
 栃木のショッピングモールの一階にあるバイキング形式のレストランではかなり早い段階で導入していたため、最新型に買い替えたときにお役御免になったファウンテンマシンが倉庫でひっそりと眠りについていた。
 そんな古いファウンテンマシンの眠りを妨げるのは、小型ダモクレス!
 クモのような動きでかさかさと這いより、内部に入り込むと中枢機械に取りついた。
『ファウンテーーーーーン!!!』
 ファウンテンマシンは巨大化し足を生やすと、倉庫の扉をぶち抜いて歩きだした。

●ファウンテンマシンダモクレス討伐作戦!
 栃木県のショッピングモールでファウンテンマシンダモクレスの事件が起こることを鉄・千(空明・e03694)は懸念していたという。
「千サン、見事に的中ネ。皆サンにはファウンテンマシンのダモクレスを倒しに行ってもらうヨ」
 クロード・ウォン(シャドウエルフのヘリオライダー・en0291)が今回の事件の概要を話す。
「現場の倉庫はレストランのあるショッピングモールの駐車場に隣接しているネ。ショッピングモールを一時営業中止にしてもらって進入禁止にしてもらうカラ人払いは気にしなくていいケド、できるだけすばやく、事が起こる前に対処してもらいたいアルネ」

●ファウンテンマシンダモクレスのはなし
「このダモクレスは業務用ファウンテンマシンに二本足の生えたダモクレスで、チョコレート噴出部分がバスターライフルの役目を果たしているようね。チョコレートビームというわけカ。笑いきれない代物ネ。とろとろ流れるチョコレートでも高速で射出されたら十分な殺傷力が予想されるヨ。チョコレートとはいえ甘く見ないで向かって欲しいものアルネ」
 クロードは手持ちの端末で現場の航空写真を見せて戦闘区域を説明した。
「ここからここまで、警察に封鎖と警備をお願いしたアル。だから人払いは気にせず、純粋に戦闘頑張っチャイナ」

●クロードの所見
「チョコレートファウンテン、子供大喜び間違いなしの花型マシンアルネ。ウォンサンでもちょっと浮足だつレベルヨ。楽しい経験をみんなに与えるファウンテンマシンが人を傷つけることのないように、皆サンで止めて来てほしいネ」


参加者
ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
鉄・千(空明・e03694)
アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)
影守・吾連(影護・e38006)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●かぐわしき道
 ヘリオンから降り立ったケルベロス達は倉庫へと向かう駐車場への道を歩いていたが、あたりには非日常的な甘い香りが漂っていた。
「尽きないねぇ、ダモクレスも。人払いはしてるそうだけど、こういい匂いじゃ人を集めそうだ。被害が大きくなる前に片付けようか!」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は歩きながらも目視でだれも立ち入っていないか確認していた。サーヴァントのマギーも匂いにつられてふらふらしている。
「むむぅ、おいしそうな匂い……相手は手強いのだ! けど、甘党の皆さんに被害が及ぶ前に千達が止めるぞ。ふぁうてんてん、ゆっくり眠らせてあげるからな」
「チョコの噴水かぁ、確かにいい匂いだし、飯テロ的な意味で強敵だね。でも、しっかり眠らせてあげなくちゃ、頑張るよ!」
 鉄・千(空明・e03694)は鼻をひくひくさせながらやや怪しい発音で意気込みをあらわにした。影守・吾連(影護・e38006)も千と一緒にえいえいおーと盛り上がっている。
「大変です! においだけでこんなに強烈なのにこのマシンが解き放たれてしまったら、街中がチョコの海に……ぁ、いえ、別に美味しそうとか思ってません、よ? と、兎に角、ここで止めましょう!」
 チョコレート色のおっとりお姉さん、アリッサム・ウォーレス(花獄の巫竜・e36664)はややはにかみながらも匂いにつられているのを隠せていない。
「チョコレートの噴水……地球は食べ物を美味しく食べる為の創意工夫が、徹底してるのだな。……感心してる暇はなかった、被害をここで食い止めるぞ」
「恐らくは内部で循環しているのだろうか……限りなく注がれるヘイズルーンの蜜酒のようだ。このような技術が市井の飲食店に当たり前のようにあるというのはなかなか興味深いねぇ」
「高圧水流とは確かに脅威なのだが……いや、液体なら何でも良いと言われれば、そうだが……。死因がチョコレートでは流石に笑えんな。油断せずに臨むぞ、助手。助手? コラはしゃぐなはしゃぐな!」
 ジャスティン・アスピア(射手・e85776)、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)、そして白樺・学(永久不完全・e85715)の三人はチョコレートファウンテンという人間の文化と機械に興味津々だ。学の助手はマギーと一緒に走り回っている。
「ファウンテンダモクレス……子供たちの為に貴方のデータとそのボディ……回収させていただきたいですね」
 ユーリエル・レイマトゥス(知識求める無垢なるゼロ・e02403)はファウンテンを回収したいらしく、いろいろと考えているようだった」
 特に香りの強い方へ歩いていくとそこは事前に伝えられていた倉庫だった。
『ファウンテーーーーーン!』
 倉庫の前でこんこんとチョコレートを汲み上げ続けているファウンテンマシンが、一声高く啼いた。

●アツアツチョコレート
「ちょこふぁんてん! 見つけたのだ!!」
 尻尾と翼をあらわにした千が電光石火の蹴りを打ち込むと、鎮座してたファウンテンマシンは足を生やして立ち上がる。
「今回の俺は攻撃役、ガンガン殴ってくよ!」
 千に続いて吾連が食らいつくオーラを放つ。
『ファウンテーーーーーーン!!』
 攻撃に驚いたように角度を変えたファウンテンマシンがアツアツのチョコレートを噴射した!
「だーっ、チョコ掛け千なのだ!」
 吾連をかばってチョコを浴びた千が甘いにおいをさせてしまう。
「景気良くチョコレート出てるね」
 それを横目にピジョンが流星のきらめきと重力を乗せた蹴りでチョコの噴射を抑えた。マギーがチョコ掛け千応援動画でやけどした千を回復させる。
「ほんとにチョコが流れている……子供のころの私が見たら大喜びしそうな夢のマシンですね」
 アリッサムが地面にケルベロスチェインを展開し、前衛を守る魔方陣を描いた。
「そう、子供の夢でしょう、だからこそ止めなければなりませんね」
 アンダー・メタルと名付けられたオウガメタルを掲げたユーリエルは光り輝くオウガ粒子を放出し、前衛の超感覚を覚醒させる。
「行くぞ、助手よ」
 ローラーダッシュの摩擦を利用して、炎を纏った激しい蹴りを放つ学に、原子の炎を召喚する助手。が、助手の炎は見切られてしまう。
「案外素早いねえ」
 ディミックの光の城壁が前衛を守った。
「BS耐性は足りていないな……前衛を固めすぎな気もするが、最初はそれくらいでよさそうだ」
 ジャスティンは周りを確認しながら前衛に紙兵を散布。これでばっちりだ。
 戦いは始まったばかりなのに、すでにむせるほどのチョコレートのにおいがあたりいっぱいに充満していた。

●べたべたの奔流とアイスチョコ
「甘いにおいし過ぎなのだ、くらくらしてくるけど負けないのだ!」
 千の振り上げた斧が、光り輝く呪力とともに振り下ろされる。
「どこまでも匂いが飛んで行ってしまうね、急いで倒そう! うわ、ぬるぬるする!」
 吾連が超高速の爪さばきでファウンテンマシンを切り裂こうとするが、吹き出すチョコでぬめった。
『ファウンテーーーーーーーーー!!!!! ン!」
 ファウンテンマシンが叫ぶと、吹き出していたチョコレートがぴきぴきと凍りながら吾連に迫る!
「さあ縫い止めろ、銀の針よ」
 ピジョンの魔法で生まれた針と糸が、そのつめたいチョコレートを足元ごと縫い付け、吾連に届くのを防いだ!! マギーがフラッシュでファウンテンマシンを挑発しているが、それに応えるマシンの反応はやや鈍くなったように感じる。
「単純な形の割には思ったよりアクティブでテクニカルですね……後ろにもBS対策を!」
 氷の攻撃を見てアリッサムは後衛に紙兵を散布した。落ち着いた対応だ。
「では、捕まえてしまうまでです」
 ケルベロスチェイン、チェーンアームを精神操作で伸ばしたユーリエルがファウンテンマシンを捕縛する。
「そうだ、まだまだ序の口だからな」
 学が再び炎の蹴りを食らわせ、助手も爪で敵の魂を攻撃した。
「やれやれ、この山羊は誰のためにこの甘味を産み出しているのやら」
 ディミックは洒落た言い回しでぼやくと、手薄な中衛に再び光の城壁の守りを施す。
「罪のないみんなのためのはずさ、本来なら」
 ジャスティンはディミックの軽口を受け止め、自らも後衛に紙兵を散布した。
 戦いはまだ続く。

●勝敗は甘いか苦いか
 激しい攻防戦が続いた。
 殺風景なコンクリートの倉庫区画は茶色いチョコレートがあちこちに飛散し、甘いにおいでいっぱいになっている。ケルベロス達の血臭をかき消して、空気だけ嗅ぐと戦いが行われているのがウソのようだ。
「むふー、これ以上のたぷんたぷんチョコは、ごんたが全部たべちゃうぞ! いただきます!」
 千の呼び出した大きなわにのぬいぐるみ「ごんた」がファウンテンを丸ごとくわえ込み、眠そうにはむはむと咀嚼する。ちゅるちゅるとエネルギーが吸い取られる音がした。
「流石、ごんた。あれくらいの勢いで食べれば俺の身長もっと伸びるかな? ――撃ち祓え!」
 ごんたが消えるのと同時に吾連が利き腕に装填した雷属性の魔力を打撃に乗せて打ち込む。
『ファウンテーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!』
 連続で攻撃を受け続けたファウンテンマシンは大声で叫ぶと、がっちり固められた前衛を視野から外して後衛に噴射口を向ける。するとなんと吹き出したチョコレートが二つに割れた!!
「む、これはいけない。盾になれ助手! コラー!!!」
 後衛の三人とマギーに巨大なチョコの奔流が降り注ぎ、前衛のディフェンダー達は急いで身を挺した、が、学の助手は目測を誤って明後日のほうへスライディングしていき、守られきらなかった学とマギーはチョコフォンデュ状態になってしまう。学の全身にまとわりついたチョコレートが彼の皮膚をひどく焼いた。
「これは大変だ。マギー、回復を優先して」
 攻撃を受けたマギー自らに回復を任せ、ピジョンはさらにファウンテンマシンを縫い付けた。
「”可憐”な青は、幸福の兆し。困難を乗り越え、”どこでも成功”です」
 花言葉のおまじないを唇に、舞い踊るアリッサムの足元で光を浴びたネモフィラの花が咲き乱れ、学のやけどを癒していく。
「『キリング・エグゼス回路:起動』……。視えました、貴方の弱点は……『其処』です。『エグゼス・スナイプ』……」
 ユーリエルの片眼鏡がサーチモードに変化、ファウンテンマシンの一点を看過し、貫く。ひと房だけ黒く変色した髪が揺れた。
「ほう、弱いところはそこか。憶えているか。これはお前の経験であり、お前の智識より刻まれたものだ。今世のものであるとは限らんが、な」
 やけどから回復した学はメモを書きとると助手に持たせ、関節部から遠方展開したケーブルをファウンテンマシンに突き立てる。智の魔力が流れ込み、チョコを凍らせ固めていった。その固いチョコを爪で攻撃すると、助手は渡されたメモ書きをぺっ、と捨てた。
「在る人が恋しいか、無き人が悲しいか。消えては現れ、望む像はいずこかに――」
 ディミックが蛍石を媒介にした幽かな幻の魔法を光らせる。ファウンテンマシンの動きはさらに鈍くなった。
「チョコレートとライフルの撃ち合いは複雑だな……次でとどめを頼むぞ! そこだ!」
 ジャスティンの撃ち込んだ弾が今までの傷を広げて、敵の動きを止める!
「ちゃーーーーーーー!!!! ふぁうてんてんてん、おやすみまんてんなのだーーーーーーっ!!!!!」
『おやすみファウンテーーーーーーーーーン!!!!!!!』
 動きの止まったファウンテンマシンに千が突き入れた指が気脈を断ち、かちかちのチョコレートごとファウンテンマシンダモクレスを爆発四散させた!!
 頭上をキラキラと舞うチョコレートの破片は栃木の空を光の塵のように彩った……。
 戦いは終わった!

●みんなのためのチョコファウンテン
 戦いが済んで、ケルベロス達はチョコレートまみれの現場を修復しようとつとめた。
「甘いのは良いが、見た目は散々だねぇ」
「濡れタオル用意してきたから、必要な人は使ってほしい」
 指先についたチョコレートを振り落としながらディミックが見まわす。ジャスティンから受け取った濡れタオルで拭くと綺麗に落ちた。
「お洋服が汚れてしまいましたね……クリーニング、できますよ」
「マギーのサビ模様がチョコでより複雑に……手間かけてしまうけど僕もよろしく頼むよ。ありがとうね」
 アリッサムのクリーニングにピジョンをはじめ、汚れたケルベロス達がお世話になるために並ぶ。
「破片があちこちに……拾っておこう。あっこれはさっき助手に渡したメモではないか……チョコでまったく読めない」
「吾連、ふぁうてんててんにまんまんちゃんあするのだ」
「うん、お疲れさまでした」
 学が拾い集めた破片の山に、黙祷を捧げるどらごにあんず。
 ユーリエルは任務終了の報告を行うとともにファウンテンマシンを修復して回収したいと申し出たが、そのショッピングモールの決まりで問題の出た商品はメーカーに返却しなければならない契約になっているということで、直さずそのままにしてほしいと返答された。
「皆さん……皆さんのおかげで『彼』がまた働くことができればよかったのですが……」
「むむう、仕方ないのだ。ご飯食べて元気だしに行こうなのだ。新しいふぁうててん使いたいのだ」
「ショッピングモールもどうやら開店準備してるし、いいね! バイキングレストラン行こうよ!」
 心なしか残念そうなユーリエルにどらごにあんずが提案する。
「レストラン……そうですね、ご一緒しましょう」
 気を取り直したらしいユーリアルに安心して、ケルベロス達はショッピングモール一階のレストランに向かった。

「おい待て貴様、バイキングとはいえはしゃぎ過ぎた! 少し落ち着……更に追加を乗せようとするなァ!」
「うーん、天井の明かりが頭を擦りそうだねぇ」
「マギー、マシュマロは逃げないよ」
 果物を串に刺しておっかなびっくり歩くディミックの足元を学の助手とピジョンのマギーがマシュマロを投げ合いながらうろちょろしている。学とピジョンは果物をチョコに絡めながら、サーヴァントの動向に目を光らせた。
「とろとろチョコファウンテン……実は戦ってる間ずっと食べたかったです」
「食べる目的なら、なるほど。これは豪華な気分になる創意工夫だな」
 アリッサムとジャスティンもチョコレートファウンテンを堪能しているようだ。
「チョコに合うのは何だろな? 苺もいいし、マシュマロもつけてみたいのだ! ふぉ、バナナもウエハースもいいな!」
「バイキングだけあって食材の種類もたくさんだね。どれも気になるなぁ。千、順番に試していこうよ! ほら! ユーリエルさんも!」
「わかりました。目指すは全種類全組み合わせコンプリートです」
 はしゃぐ千と吾連に手を引かれ、席を立ったユーリエルの目の前に今日戦ったファウンテンマシンの後継機が立派にチョコを循環させている。
 きっと『彼』も新しく生まれ変わって働く日が来るに違いないのだ。そう思えた。

作者:星野ユキヒロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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