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静岡県某所。
現状、1月から雛祭りのイベントが行われている場所がある。
そこでは、なんと32段もの雛壇にずらりと1200体もの雛人形が並べられているのだという。これは日本でも最大級の規模なのだそうだ。
そこでは子供達……主に親に連れられた女の子が着物で拝観することができ、雛祭りスイーツを……桜餅や雛あられ、雛人形を模したケーキなどを堪能することもできるのだそうだ。
そんな場所に、空気を読まずに降り立ってくる大柄なの姿が……。
「我と勝負だ!」
柔道着を着用した黒髪短髪のエインヘリアルは両腕を上げてファイティングポーズを取り、この場の一般人へと襲い掛かり始める。
「「きゃあああああああっ!!」」
当然ながら、現場はその出現だけでイベント参加者が大騒ぎし、エインヘリアルから逃げ出していく。
ただ、イベント会場は子連れの参加者も多く、逃げられる者は少ない。
「どうした? かかってこい!!」
そいつは逃げ行く人々を捕まえ、嬉々として拳やオーラを叩きつけ、締め付け、投げ飛ばす。
笑いながら人々を痛めつけるそのエインヘリアルに、人々は恐怖しながらもなすすべなく意識を失い、倒れてしまうのだった。
ヘリポート。
現状、全国でウィッチドクターが病魔退治に奔走している状況ではあるが、デウスエクスが侵攻の手を止めてくれないのが厄介なところ。
「こんな状況だからこそ、ボク達も頑張らないとね」
リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は集まるケルベロス達へとそう告げ、デウスエクス討伐をと説明を始める。
「柔道家のエインヘリアルが現れると聞いたが」
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)の一言に、リーゼリットは頷いてから言葉を続ける。
現れるエインヘリアルは過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者らしい。
放置すると、多くの人々の命が奪われるだけでなく、起こった事件によって人々に恐怖と憎悪を振りまくことにも繋がる。
「その前に確実に倒しておきたい相手だね」
現れる罪人エインヘリアルは、ペーターという名の柔道家を自称する男だ。
どこかで柔道を目にしてはまったのではなどと憶測もあるが、彼が柔道を修めた経緯については分かっていない。
身長は3m強とエインヘリアルにしてもやや大柄なこともあり、かなりの圧迫感を感じさせる相手だ。
ディフェンダーとしてバトルオーラでその身を包んでこちらの攻撃に耐えつつ、柔道の技を使ってくる。
グラビティとして使う技もかなり幅広く、当身技、投げ技、固め技と駆使してくるので、対策しながら撃破に当たりたい。
現場は、静岡県のとある2階建ての和風建築だ。
会場は多数の雛人形が並べられている場所で、できれば敵を内部に入れぬようにして外で交戦、撃破を行いたい。
「皆の到着の直後、屋外に降り立ってくるはずだから、注意していれば見逃すことはないはずだよ」
後は、イベント参加者は屋内に閉じこもってもらえば、避難の手間も省け、交戦に専念できるだろう。
「ただ、避難勧告はエインヘリアルが出現してから始めてほしい」
エインヘリアルは人がいない場所から多数の人が集まる場所へと移動してから、大っぴらに活動する傾向がある。
その状況まで確認は難しい為、敵の出現後から屋内への避難を開始するとよいだろう。
「相手は使い捨ての戦力として送り込まれていることを自覚しているから、逃走せずに死力を尽くして戦うはずだよ」
この為、確実にこの場で撃破して後の憂いが無いようにしたい。
事後は現地周辺のヒールを済ませ、のんびりとイベント会場を見て回るといい。
「32段もある圧巻の雛壇もそうだけれど、雛祭りにちなんだスイーツも用意されているそうだよ」
子供向けメインではあるが、定番の桜餅、雛あられといった和菓子だけでなく、菱餅をイメージした3色ゼリーや雛人形を思わせる小さなケーキもある。
「折角だから、楽しんでいくとしようか」
雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も参加し、討伐後は会場を見て回るつもりらしい。
「うん、その前に参加している子供達を守ってあげてほしい」
トラウマが残ってしまわぬように、しっかりとここでエインヘリアルの討伐を。
リーゼリットは最後にそうケルベロス達へと願うのだった。
参加者 | |
---|---|
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
武田・克己(雷凰・e02613) |
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278) |
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384) |
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604) |
シーリン・デミュールギア(メモリアルブレイカー・e84504) |
●
静岡県某所のイベント会場に、ケルベロス達がヘリオンから降り立つ。
一行が臨むは、ひな祭りのイベントが行われるイベント会場に現れる罪人エインヘリアル討伐だ。
「宜しく頼むよ」
「ああ、宜しく頼む」
明るい笑いを浮かべ、レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)が仲間達へと改めて挨拶を交わすと、髪を纏めた美形の人派ドラゴニアン、ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)が応じる。
「この祭りは女の子の成長を願う晴れのお祭りです」
金髪のオラトリオ女性、如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)は幼少時の幸せな生活を思い出しつつ、力を込めて語ると。
「折角のイベントを台無しにしたくはないですね」
「子供の健やかな成長を願う日に、そんな凶行を許しはしない」
兎獣人のウェアライダー、カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が漏らす本音に、ヒエルが大きく頷いていた。
そんなケルベロス達の前に降り立ってきたのは、白い柔道着を纏った巨躯の男。
「地球人よ、柔道家である我と勝負だ!」
黒髪短髪のエインヘリアル、ペーターは両腕を上げ、ファイティングポーズを取ってこの場にいる者全てを威嚇してくる。
「なるほど……いくら肉塊と言えど、柔道着でも着こんだらなかなか様になるものね」
そいつの姿に、ガスマスク着用のシャドウエルフの女性、シーリン・デミュールギア(メモリアルブレイカー・e84504)が思うがままに毒を吐く。
「……こんなゴミ虫風情が柔道家を語るか」
そのシーリンとは懇意の仲らしいフードを被った人派ドラゴニアン、狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)が続けて、地獄となった声帯で呟く。
「世も末だな。良いだろう」
馬鹿の一つ覚えでも、勝てるなんて舐めていると死んで後悔する。
それを身に覚えさせてやろうと、ジグも前に出ていく。
一方で、イベント会場にやってきていた子連れの一般客はまさかのデウスエクスの強襲に大慌て。
「俺達はケルベロスだ。冷静に行動してほしい」
エインヘリアルの出現を受け、割り込みヴォイスを使うカロンが敵を抑えながらも呼びかける。
さらに、子連れの人々へ、レヴィンが隣人力を働かせながら優しく呼びかける。
「絶対に楽しいひな祭りが出来るように頑張るからさ。怖いかもしれないけど、信じて中で待ってて欲しいんだ」
「ケルベロス……」
「がんばえー、けうべおすー!」
ケルベロスの活躍は皆の知るところ。
希望を抱きながらも、人々は戦うメンバーに声援を送り、イベント会場である家屋内へと入っていく。
「どうか、会場内へと避難を……!」
同じタイミングで、沙耶もまた割り込みヴォイスを響かせ、建物内へと誘導を呼びかける。
それらの人々には、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が付き添って家屋内へと誘導していたようだ。
リュエンにその依頼を行ったのは、半裸で裸足の格闘家風スタイル、熱血漢で猪突猛進な相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)だ。
「虐殺を許すわけにはいかねえ、ここで奴を食い止めるぞ!」
泰地の呼びかけを受け、ヒエルがライドキャリバー「魂現拳」へと騎乗して敵の行く手を遮り、注意を引く。
「お前の相手は俺だ」
「来い。柔道家として全力で叩き潰してやる」
好戦的なエインヘリアルは向かい来るケルベロスの姿に喜んですらいた。
「柔道家ね。本当に柔道をやってるっていうんなら、もっと礼節を重んじると思うんだが」
柔道家を自称する敵に、古武術を修めた武田・克己(雷凰・e02613)は呆れを隠せない。
「まぁ、エインヘリアルにそんなの関係ねぇか」
克己は自分達が気を引く間に、一般人の避難状況を確認する。
外は警察が駆けつけて封鎖を行い、会場に向かっていた一般人はほぼほぼ家屋内へと誘導している状況だ。
あとは、イベント会場を守らねばならない。
「あんたのやってることは、柔道なんて立派らしいもんじゃない」
人命が最優先なのは間違いないが、中にあるという32段の雛壇や1200体の雛人形、イベント会場を傷つけたくないとカロンは考えながら、エインヘリアルへと言い放つ。
「女子供相手に無茶苦茶やろうとした奴が偉そうに柔道家を名乗るんじゃねえよ」
「ほう、柔道を修めた我に意見するか」
自身の有利と行動に何も疑いを抱かぬ敵に、ジグがこれ見よがしに嘆息して。
「なんだ、また達人気取りのゴミ虫か。ああそうか……猿真似しか脳が無かったんだったな。悪い悪い」
「殺すわ。……遠慮なく……」
挑発交じりに告げるジグに続き、後方にいたシーリンは殺気を放ち、一般人を遠ざけようとする。
避難が完了したと判断したタイミング、克己は日本刀を抜いて。
「本当の武術ってもんを教えてやるから、さっさと死ね」
彼は仲間と共に、目の前のエインヘリアルに対して攻勢へと転じていくのである。
●
柔道家を名乗るエインヘリアル、ペーターへと攻撃を仕掛けるケルベロス達だが、敵の動きは素早い。
「どうした? なら、こちらからいこうか!?」
バトルオーラを纏う敵は素早く近づき、泰地へと当身技を叩きつけてくる。
スポーツとしての柔道では禁じ手となっているが、彼は構うことなく拳や蹴りを急所目がけて叩き込んでくる。
「……おらっ!」
迎え撃つ泰地もそれを堪えながらも、ペーターの顔面を蹴りつけていく。
「やるじゃないか」
口元から飛び散った赤いものを拭い、敵はにやける。
相手の注意がこちらに向けば、泰地としては狙い通り。
避難自体はさほど時間もかからず済んではいるが、イベント会場内や警察の封鎖した外側に一般人が居続ける状況に変わりはない。
(「大事なイベントに崇高な精神を持つ柔道の名を汚す、粗暴なデウスエクスが乱入する……」)
沙耶は盾となる仲間の為、得意の占いによって「女帝」の愛の力を使って。
「未来ある女の子の行く道を不埒な手で遮る、そんな存在は許しません」
女の子の未来の夢、未来を守る為、沙耶は戦う仲間達を確固たる護りで包んでいく。
ともあれ、相手が動きの動きを止めるべく、克己は敵の出方を窺いながらもやや前のめりに攻め込み、刃に雷の霊力を籠めた日本刀「直刀・覇龍」を素早く突いていく。
魂現拳から降りたヒエルはサーヴァント共々、仲間の壁役と布陣する。
「お前達の攻撃は必ず当たる」
その上で、ヒエル自身は前線メンバーの「当てる」という意思を増幅させ、仲間達の照準補正を行う。
ライドキャリバーの魂現拳は主の分まで攻撃に出ており、機体を燃え上がらせて特攻し、ペーターへとぶつかってその体を焦がす。
さらに、カロンのミミック、フォーマルハウトも次なるペーターの攻撃に備えながらも、大きく口を開いてかぶりついていく。
カロン自身は少し距離をとって布陣し、タイミングを見てエアシューズで流星の蹴りを叩き込み、敵の動きを制していった。
ケルベロスの攻撃を堪え、なおも颯爽と近づいて掴みかかろうとしてくる敵。
そいつにレヴィンが妖精靴『花嵐の踊手』でステップを踏みつつ、星形のオーラを叩き込む。
「子供もいたんだぞ……、一方的に力を見せつけるのが楽しいのかよ?」
皆、屋内へ避難したこともあり、レヴィンは十分に屋内へと敵を入れぬよう立ち回るが、声をかけながらでも十分気は引けるはずだ。
「示さずして、何が力か!」
その物言いからも、すでにこの男のタガが外れていることがわかる。
エインヘリアルの中でも罪人とされたのは、こうした考えもあってのことだろう。
「斬らせずして斬り、撃たせずして撃つ。素手の相手には武具を用いて潰す。それが戦場だぜ?」
間を置かず、チェーンソー剣を唸らせたジグもまた相手の正面から仕掛けていく。
「文句はねぇよなぁ!」
力任せに切りかかる彼は、強引に相手の傷を切り広げようとしていく。
「……んじゃ、解体しようか」
距離を取りながら立ち回っていたシーリンもまた、ジグに合わせてペーターへと飛び掛かる。
「さあ、上げなさい……! 盛大な……血飛沫を!!」
鋭い視線と刃を敵に向け、シーリンは引き締まった筋肉を持つ敵の体を刻み、赤い血をぶちまけていく。
傷を負うペーターはなおも口元を吊り上げて。
「やっぱりいいな。戦いこそが我を奮い立たせるのだ……!」
目の色を変えるエインヘリアルは狂気ともとれる笑みを浮かべながらも、なおもケルベロス達へと技を仕掛けるべく迫っていくのである。
●
柔道家を自称するエインヘリアル、ペーターは基本的に単体攻撃を繰り出す。
一方、ケルベロスは避難した一般人を守ることも含め、盾役を多く布陣して敵のグラビティの受け止めに当たる。
それもあり、克己に攻撃が来ることは少ない状況だったが、彼は攻撃を仕掛ける際に相手の動きを見て反撃を食らわぬよう立ち回る。
しかしながら、ペーターは克己の動きを先読みして彼の体を掴みかかって。
「捉えたぞ……!」
敵は克己の体を投げ飛ばし、地面へと叩きつけた。
ペーターの破壊力はかなりのもの。だが、克己はすぐに身を起こし、獰猛な笑いを浮かべて。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ」
すぐさま反撃をと克己は刃に空の霊力を纏わせ、敵の身体の傷を着実に切り広げていく。
態勢を整える前に、カロンは細分化した魔力によって多数の魔術を行使してみせる。
科学魔法「近代術式のスタッカート」。
それらは幾多の魔弾を象ってペーターの体へと命中していき、回復技能を阻害していく。
とはいえ、まだ敵は余裕を見せており、ミミックのフォーマルハウトの体を掴み、力の限り締め付ける。
「我の力、存分に思い知れ……!」
その力を見せつけてくるエインヘリアルの攻撃から戦線を持たせてくれる仲間の為にと、避難誘導を切り上げて戦列に加わるリュエンが緊急手術で治療に当たっていく。
さらに、サポーターとして駆けつけた鬼灯はこの場で戦うケルベロスを守りたいと願う。
優しい心を持つ鬼灯の願いは奇跡をもたらし、この場で戦うメンバーに癒しの力を与えてくれた。
この場で最初から癒し手として立ち回る沙耶もまた、エインヘリアルに立ち向かう仲間に回復グラビティを行使し続ける。
普段、婚約者と共に依頼に参加することも多い沙耶だが、今回は個別の参戦。
以前、間接的に多くの命を奪った贖罪の為にと戦う彼女だが、この依頼においてはイベント参加の女の子が危険にさらされると知って、黙っていられなかったようだ。
(「柔道の名を騙って土足で踏み込み、力なき命を脅かす乱暴者を許してはおけません……!」)
敵のグラビティが個別に狙うだけに破壊力が大きいこともあり、1度の回復グラビティで傷を塞ぎきれないことも少なくない。
その為、沙耶は翼を広げてオーロラの光を発したり、力を高める狙いも合わせて電気ショックを飛ばしたりなど、仲間に癒しを与え続ける。
そうした後方メンバーの援護を受けながらも、ペーターに立ち向かう前衛陣。
激しいスピンで魂現拳がペーターの足を轢き潰さんとするが、敵はまたも当身で攻撃を仕掛けてくる。
次に、手足に氣を纏わせたヒエルがそれを受け止めて。
「どうした。この程度なのか、エインヘリアル……!」
正面から飛んでくる気をいなしたヒエルは、裂帛の気合を込めて叫ぶ。
彼は全身を巡る氣を活性化させ、治癒・精神力を高めて回復していたのだ。
仲間が抑える隙をつき、レヴィンが軽やかなステップを踏みながらリボルバーの銃口を向けて。
「華麗に、軽やかに、情熱的に!」
遊撃に当たるレヴィンはペーターを強く惑わせながらも弾丸を放ち、その体を穿つ。
「うう……」
グラビティの効果もあってか、気の迷いを覚えるペーターの動きが鈍り始める。
それまで、降魔の拳や加速する拳を自らの赤腕で叩き込んでいたジグ。
エインヘリアルから得たというその腕を振るい続けていたジグは確実に攻撃を命中できると判断し、敵の首に掴みかかって跳び上がる。
「てめえも、自分の快楽のためなら人の死も厭わないか。ならば、自分で死を実践して見せろ! なぁ!」
ジグは自らの怨念を籠め、その巨体を地面へと叩きつける。
衝撃と共にペーターの身体へと流れ込む恨みがそいつの体を内部から侵食していく。
そのエインヘリアルへとこれまで、暗黒魔法で具現化した黒い鎖で縛り付け、オーラを叩き込んで柔道着を破いていたシーリン。
彼女もまた好機と見て、惨殺ナイフの刃を鈍く煌めかせた。
「いよいよもって死ぬがいい………。そして……サヨウナラ……」
シーリンは敵についた傷をより深く、深く、抉るように切り刻む。
だが、エインヘリアル、ペーターはそれでも倒れず。
「まだだ……、もっとこいよ、ケルベロス……!」
全身が血まみれになっても、戦いを止めない敵の姿はある意味で修羅を思わせる。
そして、次なる攻撃対象を泰地と見定めた敵は彼へと掴みかかり、残り力を振り絞って絞め落とそうとしてきた。
「そうだ、その力を俺にぶつけてこい!」
泰地も気合を込めて叫び、その痛みに耐えてみせた。
しばらく力比べが続いていたが、それも程なく終わることとなる。
その隙に、克己が迫っていたからだ。
「お前も武道家だっていうなら、礼節をわきまえるんだな。ま、そんなこと言うだけ無駄か」
ケルベロスの意見を聞くような敵であれば、罪人ですらなかっただろう。
そんな敵へ、戦いによって気分を高揚させていた克己は刃に大地の気を集約し、連続して斬りかかっていく。
「本当の武術ってのを教えてやるから、それを駄賃にあの世に行け」
最後に、彼は互いの気と大地の気を融合させ、エインヘリアルの体を十字に切り裂いていった。
「がはっ……!」
抑えていた泰地から手を放し、地面へと倒れこむ巨躯の身体。
「強いな、お前達……」
力と強さに執着していた自称柔道家は、真っ赤に染まりながらも満足そうな笑みを浮かべたまま眠りに落ちていったのだった。
●
エインヘリアルを討伐し、平穏を取り戻したイベント会場。
とはいえ、戦場手前の会場手前には戦いの爪痕が残っていた為、ケルベロス達が手早く修復へと当たる。
「皆、怪我は大丈夫か」
ヒエルが自身を含めた仲間の傷の手当てにと気力を撃ち出すと、カロンも気力を発して地面に開いた穴や会場の看板、案内板などを修復していく。
また、残骸の運搬などは、ヒールグラビティを用意していなかったジグやシーリンが当たっていた。
広範囲には泰地がフットワークを活かした拳を会場内の人々に見せつけつつ、癒しの花びらを舞わせる。
なお、泰地はその最中、エインヘリアルが履いていた雪駄を回収していたようだ。
作業も終わり、イベントが再開されれば、レヴィンが張り切って会場内を歩く。
「フフフ……、ついにこの時間が来たな」
彼は一直線に会場に用意された休憩所へと向かう。
そこでは、ひな祭りにちなんだデザートを提供する店が設けられており、餅好きなレヴィンが早速注文したのは……。
「そう、桜餅だー!」
なお、静岡県ではロール状にした餅にあんこが入った長命寺餅が一般的である。
「うぅ……美味い……ありがとうお雛様」
拝みながらも夢中になって桜餅を頬張るレヴィンの姿を、近づく女の子が微笑ましげに見つめていた。
「今は和菓子だけでなく、スイーツもあるのだな」
メニューを見ていたヒエルが注目したのは、ひな祭り風に造られた洋菓子。
3色ゼリーや雛人形風ケーキに注目し、孤児院の子供達へのお土産にと考えていたようだ。
休憩所の隅、ミミックのフォーマルハウトと2人で甘味を食べていたカロンはリュエンの姿を見つけて。
「今回は協力ありがとうございました」
「ああ、お疲れ様だ」
カロンは他の仲間達にも一通り声をかけてから席に戻り、改めてのんびりとこの場の空気を楽しんでいたようだ。
沙耶はというと、このイベントのメインというべき、32段1200体ある圧巻の雛人形の数々を目にした後、それらを見て喜ぶ女の子達の姿に安堵する。
泰地もまた会場を見て回りながら、イベントを楽しむ親子を守ることができてよかったと満足げに会場を見守る。
こうした積み重ねがデウスエクスの企みを防ぎ、ケルベロスの力となっていく。
それを、泰地は改めて実感するのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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