古き良き時代のコーヒーミル

作者:baron

 峠の一本道に数件の店があった。
 特に集落という程ではなく、むしろその中間にある場所だ。
 その不便さゆえにお客も少ないのか、すっかり寂れて今は誰も住んでいないようだった。
 だが、そこからナニカが飛び出して来たのだ。
『ゴゴゴゴー!』
 中から現れたのは茶色の粉を振りまくナニカだった。
 元喫茶店らしき場所から現れて、ゴリゴリと壁を破壊しながら出現する。
『グラビティ収集活動、GO!!』
 そして峠の一本道を転がりながら、麓の町へと向かったのである。


「山間にある峠の一本道にある店付近で、廃棄家電型のダモクレスが出現します」
「なんでまたそんなところに? いや、まあ誰かが捨てたならわかるんだけど」
「結構多いらしいよ? トラックの運ちゃんとか、車で遊ぶ人向けに」
 セリカ・リュミエールの説明にケルベロス達が興味を示し始めた。
「近年は周囲での開発も終わり、使われなくなって寂れたようですね。場所が場所だけに人は居ませんが、放置すると危険なことになるでしょう」
 幸いにもまだ被害は出ていないが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
 その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいとセリカは告げた。
「敵は電動のコーヒーミルを元にしているようです。相手を巻き込む格闘攻撃や、すり潰したコーヒーなり壁を周囲にまきつつグラビティで補強して攻撃に変えるようですね」
 専門的な物ではないので故障を契機に、倉庫にでもしまわれたのだろう。
 あるいは飾りとしてどこかに置いたのかもしれないが、ダモクレスにとっては同じことである。
「その辺はいつも通りってことかな?」
「だろうけど、すり潰されたくはないなあ」
 ケルベロス達は相手の攻撃を予測しつつ簡単に相談し始める。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。被害が出ないうちにお願いしますね」
 セリカは相談を邪魔しないように、資料を置くとそっと出発の準備に向かうのであった。


参加者
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
ルージュ・エイジア(黒き使者・e56446)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)

■リプレイ


 峠の一本道に目的の場所で、チェーンを巻くために止まる場所があるが基本的に狭い。
「戦うならこの辺かなあ」
 氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)は離合帯が収束し、再び一本道になる場所を眺めた。
 例の店がある場所までずっと狭くなり、ここで後方に抜けさせなければ町に行かれることもない。
「そうね。この道ならば囲んでしまえば逃げられることはないはずよ」
 笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)はそういって、周囲の山や森を確認する。
 そちらから降りれないことはないが、町に向かうにはかえって遠回りだ。やはりこの周辺で迎撃するか、それとも店まで探しに行くかのどちらかが良いだろう。
「どうします? 待ちますか、それとも探しに行きますか?」
「個人的には別口を探される前に見つけに行きたいところだが……。その必要は無いようだぞ」
 兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)がみなに方針を尋ねるとルージュ・エイジア(黒き使者・e56446)が苦笑した。
 何しろ探しに行こうと提案しようとしたら、相手の方からやって来たのである。
「あらあら。ナイスタイミングーというやつからしら。私の世代だと噂をすれば影とか言うんだけど」
「今でも変わらないと思うが……。いずれにせよ手間が省けた」
 心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)を自分の代わりにキャリバーの魂現拳に乗せていたヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)だが、敵の姿を見つけて戦闘態勢に入ることを促した。
 括も魂現拳も盾役なので、ヒエルと共に陣形を築いて皆の盾になる。
「しかし……あの形は。なるほど。そういう事か。ようやく理解できた」
「知ってるのか? コーヒーミル……たしかコーヒー豆を粉砕する機械だっただろうか」
 小柳・玲央(剣扇・e26293)がポムっと手を叩いたことでヒエルは尋ねる。
「聞いていた情報で一つだけコーヒーミルっぽくないなあとは思っていたんだけれど……。形がトロフィーに似ているよ」
 玲央の声は不思議と弾んでいた。
 笑顔という程ではないが、何かしらの親近感を感じているらしい。
(「きっと一位になった人が美味しいコーヒーをおごってもらったとかだろう」)
 元の形状的に玲央は親近感を覚えていた。
 だからといって手を抜くことなどないが、せめて苦しまないようにしてやればと思う。

 ケルベロス達は敵の姿を見つけたことで、徐々に陣形を整える。
「持って帰れば、本格的なコーヒーが飲めそうですね。ですが、今はそういう事は言っていられませんか」
「私はあまりコーヒーは飲まないですね。どちらかと言えば、紅茶派です」
 美音の言葉に紅葉は答えながら肩を並べて様子を伺った。
 仲間同士で連携しながら道を塞いで、まずは街への進軍を確実に止める算段だ。
「コーヒーは私も好物だな。魔術の研究をする際に、眠気覚ましには丁度良い」
 ルージュは二人とは少し離れた位置に移動して、隙間を埋めながらいつでも攻撃に移れるように身構えた。
「私は使ったことが無いかな。コーヒーなら、インスタントのものしか飲まないし」
「最近のインスタントコーヒーはかなり美味しくなったんじゃないかしらー? でも豆を挽いた方が美味しいし、なんだか優雅なひとときを過ごしている感じがするわね!」
 氷花は括たち盾役の間に位置して、攻撃に専念できる場所を占める。
 ここならば誰かが守ってくれるだろうし、安心して戦えるはずだ。
 そう思った時、近くで鼻歌が聞こえて来た。
「切って刻んで磨り潰すーぅ♪ 切って刻んで磨り潰すーぅ♪ それが役割とはいえ、見境無しなのはいけませんねーぇ……」
 みなが軽口を叩きながら陣形を整える中、人首・ツグミ(絶対正義・e37943)は笑っていた。
「コーヒー豆にだけ向かうのならば見逃しても良かったものの。人を襲うというならこれはもう、悪ですぅ!」
 なので貴方を、潰しますよーぅ♪
 そう口にしながらツグミは、断罪のための戦いを始めるのであった。


 ダモクレスは徐々に道を下り、ゴロゴロと転がることで急加速を掛けたのだが……。
『戦闘行動開……』
「自分、コーヒーは嫌いじゃないんですよーぅ。でも、貴方はだめですーぅ」
 途中で止まってコーヒーを放とうとしたことで、一瞬速くツグミの力が間に合った。
 躓いたかのようにダモクレスは突如バウンドし、まるでダメージを受けたかのようだ。
「石化か。今の内に仕掛けるぞ!」
 ヒエルは何が起きたかを理解しつつ、仲間たちに攻撃を促した。
 今ならば容易に包囲し、戦えることを告げて自らは攻撃を防ぐために前に出る!
『ゴゴゴゴー!』
「こっちもゴーゴー! って昔の踊りを思い出すわねー」
 括はディスコがあった時代を思い出しながら爆風を吹かせる。
 そういえばその後のマハラジャとかいう時代には扇子を持った若い子が沢山いたものだが、別に風は吹いてなかったよねと昔の思い出に浸る。
「コーヒーらしいコーヒーと言えばブラックですが、そんなに呑まないですが、微糖ならちょくちょくと! 苦さと甘さのバランス、美味しいですよねーぇ♪」
 ツグミは戦闘意欲を丸出しにしたことで、ようやく落ち着いて軽口の列に加わった。
 しかし既に話題の流行は去っており仕方なく自分でオチを付ける。
「まぁつまりは、この! 壁やらと撒かれたコーヒー! これじゃ飲めないじゃないですかーぁ! これは大悪ですよーぅ! 許すまじ、ですぅ!」
 と周囲に振りまかれた粉塵の中で、仲間たちに守られながらツグミは抗議していた。
 確かにダメージはないのだが、埃っぽいしコーヒーとしては飲めないし散々である。
「仕方ないわね。あはは♪ 貴方を買えりうちにして、コーヒー色に染め上げてあげるよ!」
 氷花は夜を思わせる漆黒の刃を引き抜き、コーヒーの香りが舞う空気の中で踊る様に切り刻んでいった。
 今はまだ装甲を切り裂くくらいだが、そのうち本当に中身を切り裂き、コーヒーの色と香りで周囲を染め上げるだろう。
「防御には成功したようだけど、範囲攻撃は面倒だな。ここは防壁を張っておこうか」
 玲央は元ダモクレスであり、コーヒーに関連する。
 元仲間と戦う悲しさは踏み越えて来た道だ。
 そして相手の得意技を知るからこそ、星剣を掲げて周囲に光の結界を築いていく。
「傷は残ってるけど……急ぐほどじゃないでしょうか? エネルギーの盾よ、仲間を護る力となって下さい!」
 治療役である美音は他の仲間が回復したことで、それほど急ぐ必要は無いと判断。
 ならばまだ負荷を受けてない仲間を中心に、万全の態勢を築こうと結界を付与していく。
 氷花の周囲にグラビティの幕を張り、コーヒーを吸い込まないようにしたのである。
「闇に染まるが良い、そして自身の行為を悔いる事だな!」
 ルージュは天に向けて魔力を解き放った。
 漆黒の雨が降り始め、周囲に展開するコーヒーの粉を洗い流した。
 まさに道路はコーヒーと雨の色で、アスファルトよりも黒くそまったという。
「さぁ、この飛び蹴りを、見切れますか……!?」
 そして紅葉は黒い雨の中を貫く流星の様に飛び出した。
 ダモクレスの上に飛び乗りながら蹴りを放ち、見事に直撃させたのである。


 数分も戦えば相手の動きにも慣れ、ケルベロスたちは連携することで動きを鋭くした。
 仲間たちが互いに指示して、隙を付きながら相手の動きを制限しつつ削り取っていく。
「こんな感じでどーですかねーぇ」
 ツグミはダモクレスの機先を制すると、回り込みながら後ろ回し蹴りを放った。
 そして仲間たちの方向に押し込んでいく。
「余裕ありそうだし、援護しておくわねー」
 ここで括は再び爆風を吹かせて仲間たちの支援に充てる。
 風に乗ってケルベロス達が殺到しながら、四方からダモクレスに襲い掛かる。
「そろそろ援護も不要か。ならばいくぞ!」
 ヒエルはキャリバーの魂現拳と共に疾走し、鉄拳を浴びせて攻撃する。
 そこへ魂現拳が体当たりを掛けて、動きを止めることで仲間が割り込む隙を与えた。
「ナイスレシーブ。というわけでトスだよ」
「了解。その傷口を、更に広げてあげるからね!」
 玲央は大剣の重さを利用して、ワザと回避させた後で本命の手刀を放った。
 その時にグっと力強く押し込み、バランスを崩したところへ玲央が突っ込んで来る。
 漆黒のナイフを閃かせるところまでは同じだが、死角に移りながらザクザクと刃を突き立てていくのだ。
「傷はともかく負荷が心配になるのはこれが最期でしょうかね? 薬液の雨よ、皆を助けてあげて下さい!」
「かなり結界も重ねられたからな、もう負荷をあそこまで受けることはないだろう」
 美音は負荷が累積した仲間を癒すために薬剤の雨を降らせていく。
 既に前衛陣には十分な数の結界が施されており、問題ないだろうとルージュは助言した。
「……古代語の魔法だ、その身を石化させる光を受けるが良い」
 そして慣れた調子で本を指先だけで開き、石化を示すページを開いてその魔力を開放していく。
 特に足元を石化させることで、ダモクレスが攻撃に移るまでのわずかな隙を稼いだ。
「私でも、やれば出来るのです! あ……そろそろ動きます」
「は~い。みんなー気を付けるんですよー」
 紅葉は限界まで貯めておいた体力と気力を爆発させながら、強烈な鉄拳を叩き込む。
 その時にみた状況を伝えることで、括たち盾役がダモクレスの攻撃に割り込んだ。
『ゴリゴリゴリ……』
 コーヒーミル型のダモクレスは内部にアる刃を駆使してケルベロスを摺り潰そうとする。
「止めるわよ、ヒーくん!」
「了解した。絶対にここで止める!」
 しかし盾役たちが共同で攻撃を阻み、ダメージを与えることには成功するが致命的な負傷を与えさせない!
「さあて。もっかい行きますよー。準備は良いですかーぁ?」
「ちょっと休ませて欲しいかな? でも倒しちゃう方が早いわよね」
 もう走り出しているツグミに苦笑しながら氷花もそれに続いていった。


 このダモクレスは負荷を与える力こそ大きいが、火力が高いわけでも防御力が高いわけでもない。
 ならば結界や防壁が整い、連携体制まで組みあがればもはや風前の灯火だろう。
「雪さえも退く凍気を、食らえー!」
 氷花は杭を打ち込みながら凍気を内部に侵入させていく。
 直接撃ち込むことでダイレクトに反応させて内側から凍らせていくのだ。
「最後にダメ押しというか、最後の攻撃に備えておきますね」
 美音は自分の周辺に結界を張って、万が一にも攻撃される可能性を減らしておいた。
 他の後衛にも暇な時に張っていたので、最後の最後で念を押したことになる。
「まあ倒してしまうまであと少しと言ったところだが、我々ではまだ無理だろうからな」
「微妙に足りないかもですね。でも攻撃される前に倒せると良いなとは思います」
 ルージュと紅葉は現実と理想を見据え、攻撃役ではない二人に治療役である美音が加わっても微妙に倒せないだろうと結論を付けた。
 逆に言えば攻撃役であるクラッシャー陣の火力が、それだけ大きいという事でもあるが。
「さぁ、お前に映るトラウマと言うものはどんな感じだ?」
 ルージュは禍々しき装飾のナイフに敵の姿を映し、かつでの惨劇を呼び起こした。
 それはどんな光景なのだろうか? この道に多い話でも落ちて来たか、それとも峠で行われたレースの途中で事故でも起きたか。
「熱々のコーヒーをお願いしますね」
 紅葉は滑り込みながら蹴りを浴びせ、炎を宿した足でスライディングキック。
 装甲の溶け始めたダモクレスを見送る炎を灯した。
『グルグ……ルグル!』
「来い! 痛みを終わらせてやる!」
 高速で体当たりを掛けるダモクレスをヒエルは正面から受け止める。
 両腕をクロスして衝撃を殺すと、腰を落としてその反動で後ろに下がった。
「これで終わりですねーぃ。良い夢を見れましたかーぁ?」
 最後にツグミのナイフが敵の姿を映すと夢現の中で戦闘は終了。
 過去の記憶と共にダモクレスは滅び去ったのである。

「丁寧に集めてますけど、修理するんです? 変異しないようにするのは手間だと思いますけど」」
「この場所で珈琲を楽しんだ人たちを偲ぶほどならさ、後でこの子を私が偲んだっていいだろう? それにこの子達がいるから大丈夫♪」
 紅葉がヒールしていると玲央がダモクレスの残骸から、元の部分らしきパーツを集めているのに気が付いた。
 青い炎が蝶の様になり、それでそっと二つパーツを焙ると一つにくっついていく。
「そろそろ修復作業も終わりですが……。んんー、コーヒ…ー…飲みたくなりましたねーぇ……」
「確かにな。まあ探せば帰り道の途中にでもあるだろう」
 それを見ていたツグミは喫茶店かさもなければ自販機でもないかと呟いた。
 ルージュは適当に探せばあるだろうと言ったが、問題なのはここは山の中ということだ。
「そういえばインスタントなら偶に飲むが、豆から淹れるとそんなにも違うものなのだろうか? 戦う前に言っていたよな?」
「インスタントカレーとかと同じで薫りや風味は全然違うわよー? 気になるなら帰りにコーヒーショップでも寄ってみるー? もちろんヒーくんの奢りで!」
 同じようにヒエルが気になっていたことを尋ねると、括はインスタントにも質の差があるし、豆を挽くともっと凄いのだと教えてくれた。
「インスタントはインスタントだと思うのだけどね」
「でも、そこまで違うとなると気になりません?」
 氷花はティーパック型のインシタントがあるのに驚きながらも、そこまで違うのかは疑問だった。
 一方で美音の方は本格的なコーヒーに好意的である。
「やはりそーですねーぃ。どこかにないか探してみましょうかーぁ」
「せっかくだし、私が淹れようか? ここで呑まれていた豆もだいたい想像がつくし、近い味を淹れてみよう」
 ツグミの言葉に玲央は作業を中断して、パズルのような作業を持ち返る事にした。
 怪しい部分は全て持ち返り、後でやれば良いだろう。
 古き良きコーヒー偲びながら、あきらかに元のパーツではない部分はまとめてゴミ処理に出す。
「ほう。そこまで特定できる物ならば飲んでみたいものだな」
「選定とか確かに気になるな。そっちはどうする?」
「シフォンケーキとかありますかね? それなら……」
 ヒエルの言葉にルージュが頷き、促された紅葉も甘いものが出るならばと頷いた。
「産地によって酸味の強さとか違うのよねー。深煎りか浅煎りはさっきのコーヒーを探れば直ぐに判るものー」
「そこまで言うなら試してみるのも良いかもですね」
「でも帰りに掛かる時間次第じゃない?」
 括の話も美音は分かるというが、時間が掛かるならその気はないと氷花は告げた。
 そういう訳で一同は、帰り道でコーヒー豆が売っていれば良いなと思いながら帰還するのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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