春を待つ白椿

作者:四季乃

●Accident
 白と紅の斑模様の花が、まるで花筵のように続いている。
 頸から落ちたように花ごと地に転がるそれを無情にも踏み荒らしながら歩を進める男の身体は大きく、日本庭園の中に在ってはひときわ存在感を掻き立てた。口端に付着した返り血を舐める舌は分厚く、長く、そして真っ赤であった。それ以上に、赤さを通り越してどす黒く滲んでいるのは、左手に握られた一振りの刀。
「椿の花を愛でるなど、なんとも縁起が悪いことをするものよ」
 八重歯を覗かせて歪に笑んだ男は生垣から椿を鷲掴みにしてもぎ取ると、握り潰した花びらを空へと放る。はらはらと舞い上がる白い花びらは、地に伏した死屍累々の血を吸って静かに紅く彩っていった。

●Caution
「日本庭園で夜灯りのイベントが開催されているんです」
 屋敷の濡れ縁から望める庭の花々は白椿であるという。時刻は十八時半から二十二時までと比較的遅い時間にまで渡るため、会社帰りに立ち寄る者も多いのだとか。
 ケルベロスたちに向かって「ん」と両手を突き出すように庭園のパンフレットを掲げた款冬・冰(冬の兵士・e42446)を一瞥したセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、沈痛な面持ちで皆に向き合った。
「庭園に、エインヘリアルの出現が予知されました」
「椿の花々を朱に塗り潰すは、罪人振るいし凶刃」
 冰の言葉に、敵はアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者であることを悟る。

 出現するエインヘリアルは一体、武器は日本刀を愛用しているとのことで、配下も居ない。現れた先が庭園を取り囲む竹藪からと分かっており、最も人が集中している屋敷へと近付くなり一言二言他愛ない言葉を掛けて、そのまま斬り伏せたという。
「灯籠が置かれているので庭園を歩くことも出来るのですが、殆どの人は濡れ縁から眺めていたようです。ただ、小さなお子さんを連れた方もいるのが気掛かりですね……」
 一般人の数は二十名ほど。屋敷にはイベントのスタッフと警備員が居るので、避難誘導などは任せることが出来るだろう。
「屋敷への接近阻止。避難完了時まで行動を阻害」
「そうですね。屋敷の奥へと逃げてもらうまでは、皆さんを庇う必要がありそうです」
 美しく整えられた庭園で戦うのは心苦しいかもしれないが、敵が屋敷に乗りこんだら被害が拡大するのは間違いない。何とか庭園に押し止め、敵を食い止めてほしい。使い捨ての戦力として送り込まれている自覚はあるようなので、戦闘で不利な状況になっても撤退することはない。
「お仕事帰りで疲れた身体と心を癒す人が沢山いらっしゃると思うんです。それに、殆ど香りのない椿の花を血の匂いで染めてしまうのは大変胸が痛みます……どうか皆さん、お願いいたしますね」
「無事の戦闘終了後。夜灯りを鑑賞、推奨する」
 パンフレットの中で芽吹く白椿に視線を落としている冰の言葉に、セリカは柔和に微笑んだ。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
アイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ


 稈が撓む拍子に擦れた葉が微かに音を立てた。
 湾曲を耐えきれず折れた竹が道を描く。その暗がりの奥から、和装姿の巨体が現れたのを見止めて、太鼓橋から身を乗り出す五歳児の腹を抱えていた若い女性は絶句した。
 エインヘリアルは僅かに小首を傾げたまま口端を吊り上げて嗤った。鯉口を切るのは光の如し。脳裏に死が過ぎるより速く寄こされた抜刀が、無辜を刈り取るその間際、月光を鈍色に照り返す刃を弾き、返すものがあった。衝撃で跳ね上がる剣先が藪を裂き、葉時雨を散らす。視線のみを巡らせたエインヘリアルは、橋上からリボルバー銃の昏い銃口を突き付けるリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)を見つけ、器用に片眉を吊り上げた。
「こんな静かで落ち着く場所を荒らすだなんて許さないよ」
「縁起を気にする雅を持ちながら無益な殺しをやめないとは、困ったものだね」
 リリエッタの言葉に鷹揚として頷きながら、武骨な指先に蛍石を摘まむディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が幽かな幻を浮かび上がらせる。仄光る惑いをもたらす魔法に瞼を貫かれた巨体が斬撃を払うと、颯爽と現れた白樺・学(永久不完全・e85715)とその助手が罪人と親子の間に割り込む形で立ち塞がり、光の城壁を顕現。刹那襲い掛かってきた津波のようなひと薙ぎを辛くも受け止める。
「ふん、首が落ちる様を連想するから縁起が悪いとでも? 送り込まれる度に無駄死にを繰り返す、貴様等罪人共の方がよほど縁起悪い存在だと思うがな」
 学が敵の意識を引き付けている内に、アルティメットモードを発動したリリエッタ。目にも眩きその変身に励まされた親子が震える脚で立ち上がったとき、その背を優しく支える者が在った。
「ケルベロスですのよー。お母様ですわねぇー。お子様をお連れしてー、お屋敷の奥へー」
 潜伏から姿を現したフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)に驚愕を見せた女性であったが、しかしフラッタリーの視線に導かれるように避難を始めた屋敷の方へ脚を踏み出してゆく。
 逃げていく傍らを踊るようにすり抜けたアイリス・フォウン(金科玉条を求め・e27548)は、両の光翼で羽ばたき欄干に飛び移るなり、一気に蹴り上げ、
「さぁ、行くよ! 行くよ!」
 全身を光の粒子に変えながら、刀を構えようとするエインヘリアルの鳩尾目掛け、突進。
 急所を突かれ息を詰めた男の視界、その端で何かが動いたのを見つけた。無意識の反射で眼前のアイリスへと薙いだ刀を返し、左方より接近する”ソレ”を叩き斬る。しかし折紙型ナノマシン製の小型無人攻撃機群は男の四方八方を捉え、死角を含めた全方位から光線を発射。
 致命傷にはなり得ない攻撃力ではあったものの、敵の動きを束の間抑えるには十分であった。款冬・冰(冬の兵士・e42446)は自身の元に戻ってくる椿を模したドローンを掌に乗せると、感情が浮かばぬ双眸で巨体を仰いだ。
「あなたの、相手は、じゅーぞー達だ、よ」
 冰の傍らに並び立ち、殺気を放つ兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)の言が、敵の意識を引き寄せる。赤黒い刀身を持つ大太刀・妖刀【月喰い】をすらりと引き抜いた十三は、身の丈ほどもある大太刀を一閃。夜を飛ぶ美しい軌跡を描いた斬撃は真っ直ぐに。斜に構えた刀身で受け身の姿勢に入った巨体を、更に奥へと押し出すほどの苛烈さを放つ。
「縁起が悪い、か。さて、誰にとって縁起が悪いのだろうね? 落ちる首は君のじゃないかい?」
 月下に揺れる椿から視線を滑らせた七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)は、金色の視線で罪人を仰ぐ傍ら、負傷した前衛たちへ緋眼のメリーと金眼のリルの二人が齎す夢現輪廻転生の派生技を解放。
「赤く染めさせるつもりはないんだよ。花も、みんなも、ボク自身も、ね」
 現が夢を生み、夢が現を育む。大切な人たちが傷つく悪夢のような現実を改竄するための力が、肉体に負った傷を瞬く間に癒していく。至極面倒臭そうに怪我をした腹を撫でていた助手は、するりと消えていったそれにぱちくりと目を丸くすると、長い指先でちょんと宙を突いた。その仕草は原始の炎を喚び起こし、刀を振り上げていた罪人の空いた脇腹を強く焦がす。
 攻撃の連続にエインヘリアルの顔に仄暗い狂喜が滲み拡がっていくようで、だからこそフラッタリーは前頭葉の地獄が甘く疼くのを抑えることが出来なかった。
「こんばんはですのよー、凶相のお方ー。生憎とこの先にはー、行かせるわけには参りませんわねぇー。この白手にて遮らせて頂きますのよー」
 気配を放ちながら屋敷の方から戻ってきたフラッタリーのサークレットが展開する。瞬く間に金色瞳を開眼させ、狂笑を浮かべた彼女の額から隠した弾痕から地獄が迸った。
「我ヶ手ニ宿リsI煉獄ハ、神タル者トテ逃サ不」
 だん、と獣じみた動きで飛翔した身体が、まるで矢の如く真っ直ぐと罪人に向かっていく。狂喜して黒檀の巨腕を解き放ち、敵の首に狙いを定め撃ち砕く一撃は大気すらも裂くほど。
「椿もきれいだけどね、こっちを見て? よそ見する暇なんてあげないよ、あげないよ!」
 フラッタリーを押しのけるように刀を押し出した罪人が、少しでも意識を逸らさぬように、アイリスは男の大腿に凍気を纏ったパイルバンカーを打ち込んだ。
「小賢しい」
 喉の奥で笑った罪人は杭が肉から引き抜かれるより早く、空中で逆手に持ち直した刀をアイリスの肩口目掛けて振り下ろす。しかし左右から割り込んできたフラッタリーと学が、己のかいなと光の盾で一撃を阻止。後方から戦場を見極めていたディミックが砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出すと、巨体が大きく後ろへと仰け反った。
 だがエインヘリアルは得物で地面を突き、自重を支え崩れる体勢を止めようとする。
 そこへ。
「させない」
 パンッ、と光が弾けた。
 額を強かに撃ち抜かれた罪人は、短いスカートが翻るのも気にせず蹴撃を見舞ったリリエッタを見止め、歯を食い縛る。ちかちかと瞬く星の輝きが眦を射す。唇を歪めて笑ったエインヘリアルは、久々に味わう土の感触に笑い声を漏らした。
「幕末・明治以降の流言を耳にしたものと推定。見舞い花等の例外あれど、椿は古来より日本人に愛される花」
 その巨体を睥睨するように、ただ静かな視線で見下ろす冰は、月の光と見紛うような銀髪を彩る花飾りにそっと触れる。
「……それとも。散り様に、己の末路を幻視?」
「言うねぇ」
 ドラゴニックハンマー・NPW-01『Larsen』を即座に構え冰が轟竜砲を撃ち出すのと、エインヘリアルが下から天へと掬い上げるように切っ先を振り上げたのはほぼ同時であった。鼓膜を刺すような衝撃音、のちに膚が震えるほど張り詰めた緊張感の中を霊装を翻し駆け出した十三は、妖刀を水平に薙ぎ、冴え冴えとした一撃を叩き込んだ。
(「夜灯りの、庭園を、襲う、えいんへりあるの、罪人。……放って、置くことは、できない、ね」)
 念のために殺界形成は張ってある。一般人が紛れ込むことはないだろうが、静けさに揺蕩うこの静謐な庭園を、そして椿の花びらを血に染めるわけにはいかない。大きなウサミミを揺らし、小柄な身体で弩級の威力を放つ十三に、さしものエインヘリアルも舌を巻いたようだった。
 冰に向けられた凶刃を意図的に跳ね返したその斬撃によって、巨体に反動が圧し掛かる。フラッタリーがそこを突くように網状の霊力を放射した折、その躯体の周囲に浮遊する光盾があった。
 学は己が飛ばした光盾が彼女にどう影響を与えているのか、敵の方を意識しながらもその経過を観察し、メモに書き留めているようだった。戦闘中のため彼らはよく動き回る。そのため上着のポケットに押し込んだメモが、はらりと落ちた。敵へと非物質化した爪を突き立てるように攻撃を与えていた助手が、引く間際メモを見つけた。見つけて――燃やした。
「あっ、こら、貴様ッ!」
 原始の炎に燃える紙屑を見つけ声を荒げた学が、助手を小突く。たまたまその様子が見えた瑪璃瑠は、小さく微笑を漏らすと、すぐ表情を引き締めて前衛たちと互角にやりあう巨体を振り仰いだ。
「椿は魔除けの花としても扱われてるんだよ。花言葉だって『完全なる美しさ』『至上の愛らしさ』などなど、素敵なものがたくさんあるんだよ。悪く解釈してると災いを呼ぶんだよ」
 男はケルベロスたちが背にした椿の植木を見やり、夜の中に在っても白く浮き立つような花々を目にして、小さく笑ったようだった。
「験は担ぐもんなんでね」
 それは巨体がひと薙ぐ一閃から生まれた気迫であり、斬撃であった。至近に迫っていたアイリスたちをまとめて吹き飛ばした罪人が、続けざま刀を天へと掲げるのを見、瑪璃瑠は一瞬で優先順位を見出すと二律背反矛盾螺旋・夢・クリフォトを振り上げた。それは瑪璃瑠と、庭園の自然と、それから盾役であり最も体力が削れていた学を霊的に結び、受けていた傷を極限にまで癒す大自然の護り。
「すまない、助かった」
「どういたしましてだよ」
 こくり、と頷いた学は、それでも果敢に攻めていくアイリスと十三たちに迫る凶刃に向かって駆けだして行った。敵の酷烈な斬撃を喰らってもなお食い下がる盾役たちは、決して引かず、また最終防衛ラインである瑪璃瑠とディミックは屋敷へと突破されぬよう、何があっても食らいつく気概で敵への攻撃からなる衝撃に耐え忍ぶ。
「これで動きを止めるよ!」
 グラビティの力で雷を圧縮して弾丸を精製したリリエッタ。彼女が二丁拳銃から雷帯ビテ痺レル弾丸を撃ち出すと、解放された雷が罪人の腕に命中した。迸る雷が指先を麻痺させ得物を取りこぼしたのを見た瞬間。
「リリエッタに追随」
 冰は攻性植物・NHW-01『銀灰侘助』を男に向けて放出。
「侘助、捕食開始」
 大きく口を開けて迫る侘助を利き腕で受け止めた罪人は、すかさず拾った刀で切り落とそうと振り上げた。だがそこへ、フラッタリーが極限まで集中させた精神から解き放たれる咆哮を上げると、巨体が突如爆破を起こした。煙を吐き出した巨体が膝を突き、攻め時と見たアイリスがカタコトカタコト木の靴を鳴らす。
「桜もきれいだよ? でもね、でもね。椿はね、うつくしいまま突然ぽとりと落ちるんだよね。そこに粋があると思わない?」
 アナタにぴったりだと思うんだ。
 アイリスの音色に惑い、喉の奥で呻き声をあげる罪人に向けて、学は関節部よりケーブルを射出し遠方展開。対象へと突き立て、強制的に自身と接続させる。
「憶えているか。これはお前の経験であり、お前の智識より刻まれたものだ。今世のものであるとは限らんが、な」
 ケーブルより流れ込む『智』の魔力は対象の内側へと溶け、魂に刻まれた記憶を呼び起こす助けとなる。大地に刃を突き立て立ち上がろうとするも、立ち上がれずうなじを曝したまま吼える巨体へ、ディミックの俤偲ぶ蛍石が寄越された。
「こんな素敵な庭園で眠れるんだ。大人しく諦めなさい」
 渦巻く幻影に何を見ているのかは分からない。ディミックのやわらな呼び掛けに答える余裕も、もうないのだろう。けれど一瞬足りと油断できない。
「廻れ、廻れ、夢現よ廻れ」
 瑪璃瑠はリミッターを限界突破させると、夢と現が輪廻する。悪夢と現実が眼前で廻るのを霞んだ視界におさめたまま、罪人は――。
「言霊が導くは、落椿。……ジューゾー」
 冰の言葉にこくりと頷き、十三が妖刀を構え、
「……あなたの、その首、もらう、ね」
 刃が、落とされた。

「ああ、だから言ったろうに。縁起が悪い、と……」
 美しい花を見ることもなく、月を仰ぐこともなく。一人の罪人は地に伏して、息絶えた。亡骸が朽ちていくのを静かに見下ろした冰はただ一言。
「口は災いの元」


 白木蓮が見える濡れ縁にちょこんと座る一匹のうさぎ――瑪璃瑠は、密やかに談笑する声や夜風に揺れる葉の擦れる音、静かに侘び寂び感じ入り風流を楽しんでいた。
「地や池に落ちた花もまた、本当にキレイだね、だね!」
 聞こえてきた声に片目を開けると、太鼓橋の中央で身を乗り出すように月が映りこんだ水面を覗き込むアイリスが見えた。
「灯りに照らされて、別世界みたいだよ」
 きらきらとして輝かせる瞳が、なんだか眩しい。傍らに居たリリエッタはその表情を緩めることは無かったけれど、聊か青い瞳を細めて小さく頷いた。
 ――お姉ちゃんたちありがとう!
 救い出した幼子の言葉が、蘇る。小さいのに、頑張った。リリエッタに褒められて何だか誇らしげだった子どもが、今は庭先でディミックの脚にコアラのように抱き着いている。
 ケルベロスたちの助力もあって庭の修繕は必要最低限のヒールに抑えられた。破壊された竹藪は後日庭師によって手が加えられるそうだ。
「この景観を守れて良かったですわねー」
 おっとりとしたフラッタリーの言葉に、同意が重なる。
 まるで孫に振り回されるおじいちゃん、といった風に子どもにあれこれ身体の仕組みを聞かれ、正座の仕方を教わり、小さな湯飲みをしげしげと観察するディミックたちの様子に笑みを綻ばせ、そうして更けていく夜に束の間の平穏を知る。

「……夜に見る花、か。これが風情、というものか?」
 ダルそうに歩く助手を引きずり、濡れ縁の一角に腰を下ろした学は「ふむ」と仔細を眺めるように周囲を見渡し、気に留めたものを片端からメモしていく。
「まだしっかりとは分からんものの……そうだな、確かに悪くない」
 人々の穏やかな表情に嘘は見つけられなかった。
「どうだ、貴様もそう思……寝てるのか」
 こっくりこっくり船を漕ぐシャーマンズゴーストに聊か呆れを示した学であったが、一息つくと仕方ないとばかりに小さく肩を竦めて視線を滑らせる。
「……まぁ、今日は見逃してやろう、休んでおけ」
 修繕に付き合わせたのだ、少しくらいは労わってやらねば。その間に思う存分、メモが出来るのだから。学は余白を埋めるようにして、文字を書き連ねていった。

「完全なる美しさ。至上の愛らしさ。申し分のない魅力……花飾りとするには、冰は遠慮。だが、こうして観る分には眼福」
 十三と二人並んで座っていた冰は、突然、折紙を折り始めた。てきぱきと迷いのない指の動きに見とれていると、あっという間に出来た白椿を十三の頭に飾ったのだ。
「ん。ありがとう、こおり」
「うん、申し分ないと確信」
 なんだか面映ゆくて、こそばゆい。
「……こおり、この、白椿の、折り方、じゅーぞーにも、教えて、くれる? お返し、したい、から」」
「……ええ、勿論快諾。ジューゾーが納得の行く出来になるまで教授すると約束」
 小指を重ねた二人は、吐息が漏れるような柔らかさで、二人だけが分かる表情で微笑いあった。

作者:四季乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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