ふわふわテディベア

作者:犬塚ひなこ

●テディベアの魅力
 ふんわりとした抱き心地。
 触り心地のよい毛並みに、まんまるな瞳。お手々や足もふわふわ。
 ぎゅっと抱きしめれば心が落ち着く。何だか寂しいときにはそっと笑いかけてくれる気がする。名前をつけてリボンを結んであげれば、今日からその子はあなたのおともだち。
 いつでも、いつまでも友達でいてくれる。それが、テディベア!

●クマチャン日和
「みんなはテディベアって好き? あたしはね、すっごく好き!」
 彩羽・アヤ(絢色・en0276)は集まった仲間たちに笑いかけ、実は良い店があって、と話しながら或る雑貨ショップのリーフレットを取り出した。
 其処に書いてあったのは『テディベア・ワークショップ』という文字。
「あのね、自分の好きなぬいぐるみが作れるんだって」
 その雑貨店では定期的に様々なワークショップ、つまりは手作り教室を行っている。そして今日、二月二十二日に開催されるのがテディベア作りというわけだ。
「でもでも、ぬいぐるみから作るわけじゃないよ。作家さんが作ってくれたいろんなテディベアに造花やリボンなんかの飾りをつけていくんだって」
 テディベアはそれぞれに微妙に顔が違う。
 毛並みもブラウンやブラック、ホワイトやグレーなど色々でサイズも選べる。
 掌に乗るもの。ちいさくて可愛らしいもの。ぎゅっと抱き締めるのに最適なもの。
 そして、飾りのリボンは耳元や尻尾に。様々な種類がある造花は首元へ。その他にも瞳をビジューにしてみたり、足の裏にイニシャルを刺繍して貰ったり、または自分でペイントしてみたりとアレンジの幅は広い。
「花を飾って、その花言葉の意味を込めてもいいよね。誰かを思って、そのひとをイメージしたクマチャンを作ってみたりとか、考えるだけでも楽しいよ!」
 そういって嬉しげに笑ったアヤ。その表情は彼女がケルベロスとして仲間に加わった時と比べると少し大人びている。
「というわけで、どうかなあ? みんなが一緒に来てくれるとあたしも嬉しいな!」
 ね、と微笑む少女の瞳は輝いている。
 しかしアヤは敢えて仲間達に伝えていないことがある。実は去年と同じ手口ではあるのだが、それは――今日という日が、自分の誕生日であること。


■リプレイ

●夜天と碧海
 花と飾りと色鮮やかなリボン。
 そして、棚に並ぶのは様々な毛並みのテディベア達。
 その中からティアンが選んだのはぎゅっと出来るサイズのショコラブラウンのくま。アイヴォリーが抱いたのは、掌に乗る大きさの真白な子。
 互いに似た色を宿すベアを手に取った二人は作業台にそれぞれの材料を集めていく。
「これは、こう」
 ティアンはまず蝶結びの白いリボンを背中へ飾った。羽のような白をふわりと広げ、苺の花を冠にして、くまの耳に引っ掛けていく。
「ふふ、わたくしにそっくりですねえ」
 その様子を見ていたアイヴォリーはちいさく笑む。そんな彼女が飾っていくのはしっとりなめらかに光る長い毛足が印象的な子。
 眸は煙る灰色の硝子玉。静けさを抱く様はまるで誰かさんに――そう、ティアンによく似ている。きっとこれがお似合いですよ、と微笑んだアイヴォリーは凛とした紺碧の庇の水兵帽をくまに被せ、セーラー襟の上着を羽織らせる。
 飾りはどうしようか。少し悩んでいると、艶めく深い夜色のリボンを持ったティアンの手が差し出された。
「これはアイヴォリーが好きなところに結んでほしい」
「それでは、ここに」
「そう、腕なの」
 それを受け取った彼女は枷や命綱のように腕に結ぶ。確かにこれは自分だとひそやかに微笑うアイヴォリーを見て、ティアンは微かに眦を緩めた。
「この仔の仕上げはこうしましょう。どうか、結んであげてくれますか」
 アイヴォリーは碧い海の色をしたリボンをティアンに渡す。白い水兵くまはきっと、ティアンの船の乗組員になってくれる。
 首元にエメラルドブルーのそれを結わえたティアンはふたつのくまを並べる。
「今度はおまえも一緒に見に行こう、あの慕わしい碧い海を」
「それから、いとおしい夜天も一緒に、ですね」
 そして――互いに贈りあったテディベアにはちいさな思いが籠められた。

●友の姿
「俺、くまの縫いぐるみ好きなんです」
「テディベア、もこもこ可愛いし強いよね」
 以前守りに行った幼稚園の子供達のヒーロー。見守るくまに掛けられた願いは、誰かを守りたい心だと思ったから。恭志郎とウォーレンはそんな話に花を咲かせながら、『ともだち』をお題にしたテディベアを作ろうと決めていく。
 そうして、ウォーレンが選んだのは茶色いテディベア。サイズは小さな物から抱けるサイズに取り替え、そっと笑む。
 初めて会った時は高校生だった。ついまだこどものように思えるが、今はすっかり強くなって頼もしいと思える。そんな心の現れだ。
 対する恭志郎は目の前にいるウォーレンを眺めながらクマを選ぶ。
 白い毛並み。それからつるりとした橙の瞳。抱えやすいサイズの少し大きめのテディベアは何だか凛としている。
「このリボンが似合うかな」
 ミントのリボンと白いレースのリボンを重ねて結べば愛らしさが増す。更に恭志郎は水色の滴型チャームをテディベアの首元に掛け、エプロンを着せていった。最後に小さな造花の花束を持たせれば完成。
「こっちはこうだね」
 その間にウォーレンは緑を基調としたチェックのスカーフをクマに巻き、カントリー調のバッグの中に南瓜の形のサシェを詰め込んでいった。
 カモミールの香りを纏うクマ。その額にヘアピンを付ければ完璧に仕上がる。
「ウォーレンさん、もしかしてそれって俺ですか?」
「うん、恭志郎さんだよ。似てるかな? 恭志郎さんの子は誰かに似て……いや、僕だ。ふふ、ともだちだからかな。嬉しいよ」
「俺も嬉しいなぁ。その子、俺が貰っても良いですか?」
「うん、それじゃ交換しようー」
 二人の間に笑みが咲く。
 そうして、ともだちを模ったテディベア達は暫し仲良く机の上に並んでいた。

●相棒と一緒に
 祝福と感謝の気持ちを抱き、イッパイアッテナは賑わう店内を見渡す。
 ぬいぐるみは愛でるのも作るのも好きだ。そう思える彼だからこそ店に並ぶテディベア達をつくった作家の労力や思いが分かる。
 此処に集った皆がどのようにテディベアを彩るのか。それが楽しみでならない。
 彼の隣には相棒のミミック、相箱のザラキも一緒にいる。そして、彼らはテディベアを作ってゆく。
「艶々した目が気に入りました。この子にしましょう」
 イッパイアッテナが選んだのは黒い瞳の子。キャメルでウェービーな毛並みが印象的なテディベアだ。その間に相棒が選んだのは様々な装飾。
「これは良いですね」
 ザラキが集めたカラフルな材料でイッパイアッテナは首飾りを編んでいく。そして、耳には柔らかな星を飾った。更にレースを首飾りの下に添えて豪華な襟にする。そうして最後に大きなリボンを結べば完成。
 世界にひとつだけのテディベア。その子は彼らの前でふわりと笑っていた。

●大切な記念
 可愛らしい子、凛々しい子、綺麗な子。
 目の前に並ぶテディベアに瞳を輝かせ、ルティエは棚に手を伸ばす。
「この子で作りたいかな」
 直感で手に取ったのは青みがかった黒のふわふわな子。瞳のビジューは隣に立つクレーエと同じ青色だ。
「テディベアって色々あるねー。猫もいいけど熊も可愛いな」
 けれどきょろきょろしている奥さまが一番可愛いと思ったのはちょっとした秘密。クレーエは彼女が選んだ子よりも少しだけ小さなサイズのテディベアを選ぶ。ほんのりピンクがかった白のテディベアはとても愛らしい。
「それじゃあ飾っていこう」
 本来は銀にすべきなのだろうが、一緒にいる時の幸せ色の方が似合うと思えた。そんな熊の瞳は勿論、彼女と同じ藍色だ。
 ルティエは淡く笑み、テディベアの左手に藍色のリボンを結んでいく。そうして桜のループタイを着ければ、すっかりおしゃれさんなクマになる。
 対するクレーエは耳にルティエが付けている物と似たピアスとカフスを飾っていった。それから金色の飾り紐を手に結び、そっとテディベアの頭を撫でる。
 こうして互いの色を纏った子達が出来上がった。完成一歩手前のテディベアを見て、満足げに尻尾をぱたぱたするルティエ。
「クレーエ見てー♪ あの、さ? 記念日の日付を刺繍して貰うのは、どうかな?」
 彼女はテディベアをもふもふしながら、そっと提案してみる。
「いいアイデアだね、いれよ! いれよ!」
 するとクレーエは笑みを浮かべて答えた。
 気持ちは同じ。
 二人の視線が重なり、幸せな笑みが浮かべられていく。そうして其々のテディベアの片足の裏に大切な日を示した刺繍が施されていった。
 ――12.24、と。

●これからも仲良く
「テディベアとはなんとも可愛らしいものよのぅ」
 ゼーは尻尾をゆらりと楽しげに揺らし、金糸雀色の生地のぬいぐるみを手に取る。材料の造花を見つめているリィーンリィーンはどうやら、自分も掛けて貰う心算でゼーの横で待っていた。微笑んだゼーは匣竜用の花飾りをもう一つ作っていく。
「ゼーおじいちゃん、見てみて!」
 匣竜を挟む形で隣にアヤが座り、出来上がったテディベアを見せる。
 白生地にカラフルなペイントが施されたクマを披露しに来たらしい。ゼーがこうやって戻ってきてくれた事が嬉しいと告げたアヤは笑顔を向ける。
「可愛らしいのぅ」
「あのね、これはおかえりのお祝い!」
 そしてアヤはゼーと匣竜に自分が塗ったテディベア用のボタンを手渡す。
 それは二人の瞳の色で彩られていた。ゼーは喜んでそれを受け取り、少女や仲間と過ごせる時間を嬉しく思う。
 この一年が彩り多き年になることを祈って――。
 この思いを、言祝ぎとしよう。

●君のように大切に
 テディベアのように愛される一年であるように。
 少女を祝った後、環とアンセルムは穏やかな店内を見渡した。棚に並ぶ様々なクマ達を眺めれば、楽しい気持ちが巡っていく。
 選ぶ前の段階ですでにかわいい子ばかりで目移りしてしまう。
「さて、どの子にしようかな」
「これは迷いますね」
 家でどんな風に飾るか、どう可愛がるか。どうせだから思いきり抱きしめられる大きな子にするのもいいかもしれない。
「ああ早く完成させたい。家で可愛がりたい……!」
「ってアンちゃんは相変わらずぅ」
 いつもと変わらぬアンセルムの様子に環が肩を竦める。しかしすぐに気を取り直した彼女は机の上に置ける小さめのクマを選び取った。
「この白い子にします!」
「色はシンプルに、明るめのブラウンにしようかな。装飾はどうするかな……ああ、こうしようか」
 すると彼が不意にちらりと環を見つめた。そして、クマの首に向日葵の造花を飾る。首を傾げた環だが、飾りに良い物を見つけて手を伸ばした。蔦が刺繍された茶色のリボンをクマの首元に巻いた環は笑みを浮かべる。
「ちょっとシックな感じですけど、なんか気に入っちゃって」
「なかなか良いと思うよ。あとは……瑠璃色の目がいいな」
 環のセンスを褒めたアンセルムは親友の姿を思い浮かべながら、瞳をビジューに交換していく。その様子を楽しげに眺めた環は更にアレンジを加えようと決めた。
「ついでに『番犬部』と書かれた腕章も作りたいです!」
 試行錯誤を重ねながら二人のテディベアは完成した。自分の思うままに飾ったので二人はとても満足気だ。
「ふふ、今日からずっと一緒です!」
「環に可愛いお友達が出来たようで何より。ボクの方は……気が変わってね。べたべた触るのは止めにするよ」
「心変わりなんて珍しいですね。でも、きっと幸せにできますよー」
「そうだね。この子はボクの部屋で飾って、ずっと大事にするんだ」
 互いに作り上げた自分だけのテディベア。
 それはきっと、その子は世界でひとつきりの特別な子になっていく。

●ふわふわのお友達
 お祝いの言葉を述べてから、リリエッタはぬいぐるみを選んでいく。
 たくさんのクマの中からふと目に留まったのは真っ赤な瞳の子。それはなんとなく親友のサキュバスに似た雰囲気だ。
「結構大きい。リリの半分くらいありそうだよ」
 きっと抱き締めるのに丁度良い。
 リリエッタは思うままにこの子を飾ろうと決めた。真ん丸な眼鏡を掛けてみたり、黒いドレスに緑のリボンをつけてみたりしていると、想像以上に親友に似てきた。
 そうして、最後に角飾りをつけて完成。
「むぅ、お前もリリのともだちになってくれる?」
 出来上がったテディベアをぎゅっと抱きしめたリリエッタ。するとサキュバスベアがふんわりと頷いた気がした。
 そうしてまたひとり、リリエッタの友達が増えた。

●お揃いの色
 少し子供っぽいかもしれない。
 それでも、とクラリスは棚に並んでいたテディベアに手を伸ばす。
「私ね、おっきなサイズの子が欲しいの。それで思いきりぎゅってしたいんだ」
 だって、私の特別になる子なんだもの。
 そんな風に語った彼女は仄かに赤みを帯びたブラウンのテディベアを選び取った。ヨハンはもふもふした『彼』が少し羨ましくも感じたが、男の余裕を抱いて見守る。
「良いですね。では、僕はこちらの小さな子を」
 ヨハンが選んだのは白い毛並みのテディベアだ。その子は元より毛足が仄かなピンク色になっており、彼女によく似た色合いだった。
 考えることは同じ。
 二人は恋人をイメージしたテディベア作りを行おうと思っていた。
 嬉しげに微笑んだクラリスは、濃いピンク色のリボンをスカーフのように飾っていくヨハンを暫し見つめていた。
 そして、自分も素材を選んでいく。
 これが良いと感じたのは真赤なチューリップ。その一輪を赤茶のクマの片手に持たせたクラリスは態とらしくとぼけてみせる。
「花言葉……何だったっけ?」
 その声にはたとしたヨハンは大きなクマが真っ赤なチューリップを持っている様に気付き、軽く頭を振った。嗚呼、照れる。そんな言葉が零れ落ちたのはチューリップが宿す花言葉が思い浮かんだからだ。
 店内に置かれた造花の束の傍にはそれぞれの花の言葉が記されていたのだ。
 照れた気持ちを押さえつつ、ヨハンは或る提案を彼女に投げかける。
「目の色はいっそ赤とピンクの間はどうでしょう?」
 お互いの瞳の中間の色だ。
「それ名案!」
 燃え立つようだけど華やかな色。それが素敵だと答えたクラリスはヨハンと一緒に店内に置かれたボタンを吟味していった。
 自分に似たちいさな子はきっと何時でも彼の傍にいられる。テディベアが羨ましいと思っていたのは彼女も同じで、やっぱり気持ちは一緒だった。
 赤い桃花色の目。
 それを其々のテディベアに入れ、彼らは自分達に似たクマを隣に並べていく。
「ふふ、お揃いですね」
「うん、かわいい」
 ささやかなお揃いの彩。並ぶ心地。
 今このときに噛み締めるのは、二人でいられるという確かなしあわせ。

●新しい家族
 命を吹き込まれる前のテディベア達。
 ウルズラはこの中の誰かが新しい自分の家族になるのだと感じて、ゆっくりとひとつずつを眺めていく。どの子も可愛くて迷ってしまう。気になった子を撫で、抱き上げてみたりしていると、ふと或る子と目が合った気がした。
「あなた、うちに来る?」
 それは耳や足裏にあしらわれた薄紫地の小花柄が印象的な黒毛の子。
 決まりね、と頷いたウルズラは何だかちいさな運命を感じた。そうしてその子を飾り付けていく時間が始まってゆく。
 幅広のレースリボンを首に巻いてみるがどこか物足りない。それなら、と木製の花型ボタンを添えてリボンを結び直せばとてもしっくり来た。
「うん、かわいい。次は似合う名前を決めなくちゃね」
 できあがりを確かめたウルズラは淡く笑み、テディベアを抱きあげる。
 名前はゆっくり考えよう。
 これからよろしくね、と告げた彼女の言葉にその子が頷いてくれた気がした。

●勿忘草と蒲公英
 保護者と少女。
 傍から見ればそんな雰囲気の千梨とルイーゼは今、テディベアを選んでいた。
 何故に自分がこの場所に呼ばれたのかは判らないが、ルイーゼもきっと一人では不安なのかもしれない。そう思う千梨は抱えるのがやっとなほどのぬいぐるみを持っているルイーゼに目を向けた。
「随分とでかいな」
「折角なのだから所長どのも自分で作ってみればよいのに。乙女にはかわいいぬいぐるみを贈られたいときもあるのだぞ」
「いいや、まず手伝う」
 ルイーゼは力はあるだろうが器用さは歳相応だろう。そう感じた千梨は赤茶の毛並みのテディベアを広いスペースに置き、ルイーゼの横につく。
「黒い目がいいのだが、折角ならもう少し透けるような色の石がいいな」
「それならこれはどうだ?」
 悩むルイーゼに千梨が選んだのはスモーキークォーツ。それは良いな、と受け取った彼女は慣れぬ手付きで瞳の交換作業に入っていく。
 その間に千梨はクマを支え、影から「ぐわー」と棒読みの悲鳴をアテレコしていった。
「……もう少し我慢してくれ」
 本当のクマの悲鳴ではないが、眼を抉っているようでルイーゼの心がやや痛む。しかし無事に交換は終わり、更に左手に勿忘草の花飾りが結わえられていった。
「良い出来ではないか」
「彼女のような勿忘草が似合いだろうと、思ったんだ」
 癪だな、と。躊躇ってしまう己は随分と狭量であるとルイーゼは感じていた。すると千梨はクマの頭にぼふりと手を置く。
「何故だか少々殴りたくなる面構えな気もするが」
「折角作ったのだから殴られるのは御免被りたいな。それで、その子は?」
「ああ、これはさちこ2号だ」
 ルイーゼはクマを庇い、千梨の手の中にある小さなテディベアを見遣る。どうやら手伝う間にちゃっかり作っていたらしい。
 1号はかつて買った物であり、残念ながら成人男性にくれてやったのだと話した彼は勿忘草のテディベアから手を離す。
「ま、今回は遠慮しておこう。このクマに花を持たせてやってくれ」
 物理的にもな、と告げた千梨はテディベアの左手に綿毛の蒲公英を持たせてやった。ルイーゼも頷き、大きなテディベアをそっと抱き締める。
 ふわふわとした感触はとても良く、不思議な心地が巡っていった。

●絢に願いを
 ふわふわで丸くて、あたたかくて可愛い。
 アラタは店内の棚に並んだテディベアを眺めて穏やかな気持ちを覚える。自分だけの可愛い子を作ろうと意気込むアラタ。その瞳に或るクマが映った。
「これは可愛いな」
 直感で選んだのは微かに紫を含んだレイニーブルーの子。
 大きさは掌に乗るくらい。ほわほわとした毛並みはさわり心地が良い。白の瞳とちょこんとした鼻のパーツで表情をつければ、勇敢な雰囲気になった。
 首には花のビーズを縫い付けた薄いピンクのリボンを巻く。どうだ、と改めて見つめた雨蒼のテディベアは少しだけ誰かに似ている。
「わあ、すごく素敵な雰囲気!」
「アヤ! そっちの子はアヤが塗ったのか?」
「そうだよ、自信作!」
 其処に現れたのはアヤだ。アラタのテディベアと一緒に並べられたクマは白い毛にペイントが施されている。互いの子を見せあった二人は楽しげに笑いあった。
 そしてアラタはテディベアの小さな手で贈り物を差し出す。
「これは?」
「おめでとう、アヤ」
「ありがとう! 皆にもお祝いを貰ってすごく嬉しかったんだ。えへへー」
 そう言ってアヤはアラタに此処に集った者から贈られた品々を見せていく。本当にありがとう、と告げられた言葉は心からのものだった。
 世界に満ちる彩はこんなにも優しい。
 ――この一年がまた、色とりどりの笑顔で溢れますように。
 カラフルなジェリービーンズに託した願いのように、少女達に微笑みが宿った。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月6日
難度:易しい
参加:17人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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