山より来る鋼の大蛇

作者:baron

 山から森の中を貫いて、一本の巨大な槍が立ったかのように見えた。
 だがそれは槍などではない。飛び跳ねた蛇の様で、直ぐに体をくねらせて森を飛び越えると県道に着地する。
『シャー!』
 そいつは道の上に上がり込むと、いっきにアスファルトの上を滑った。
 時折に体をくねらせ、まさしく蛇のような動きで街を目指す。
 当然ながら道よりも森や山の方が早ければ、その中を巧みに通り抜けて移動する。
 どれだけ急ごうと、どれだけ深い森であろうと、まるで人に惹きつけられているかのように街を目指すのであった。
『キシャー!!!』
 そいつは街に乗り込むと、毒液をまき散らして、あるいは超音波を放って人々を殺していく。
 そして最後に巨大なビルに巻き付くと、ボロボロに締め上げた後……どこかに消えてしまったのである。


「先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが、復活して暴れだすという予知があった」
 ザイフリート王子が地図を手に説明を始める。
「グラビティ枯渇で能力が落ちているが攻撃タイプだからか、その辺りは危険だな。体内に工場があることもあり、放置して力を取り戻させる訳にはいかん」
「それでなくとも、力を取り戻す方法ってのが虐殺じゃ見逃せねえよな」
「攻撃特価は厄介な相手だけど、特化タイプなら倒し易くもあるしね」
 王子の説明にケルベロスたちは頷きながら、説明の続きを促した。
「敵の能力は?」
「巨大な蛇の形状をしているな。締め上げる格闘攻撃に毒液、そして超音波による範囲攻撃だ」
「ガラガラ蛇みたいな感じね」
 見たままの姿というか、かなり高い攻撃力を持っているとか。
 細いからか耐久力は低そうだが、素早く命中力も高いので侮れない存在だという。
 その辺りは先ほどの説明通りだが、蛇の形状を考えると何処に工場があるのか不思議なものである。
「既に避難勧告は終えているから、町を足場に戦うことは可能だ」
 そういって王子は、強大な敵だがグラビティが枯渇しているので全力は一度しか出せない事を教えてくれる。
 問題なのは、7分もすれば撤退してしまう事の方だとも。
「奴を逃がすとダモクレスの戦力を強化させることになる。いまさらそんなことはさせられん。頼んだぞ」
「任せとけって」
「存分に蹴散らして見せますわ」
 ケルベロス達が相談を始めると、王子は資料を置いて足早に出発の準備に向かうのであった。


参加者
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ


 山から森の中を貫き巨大な槍が立った。
 だがそれは槍などではない!
「こんなのは見たことがないねぇ」
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)は思わず感嘆の声を上げた。
「あの動き。ダモクレスだし再検査という所かな。多種勢力が攻めてくるのは戦術の多様性を見るようで、こんなにも緊急性が高くなければ、もっと研究してみたいところだよ」
「まったくだ。しかし巨大さよりは合体と再結合の方が安定すると思うのだが」
 ディミックと白樺・学(永久不完全・e85715)はダモクレスとグランドロンを比較しながら興味深そうに話しをし始める。
 特に学などはアラームの設定を終えると、じっくりメモを取りながら観察していた。
「そーいえば、昔アニメの再放送でそんな敵が居たような気がするなあ。壊れたパーツは切り離してまた合体し直すの」
「なるほどな。考えることは皆同じという訳だ」
 颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)が言うには生まれたころのアニメらしいが、キャリバー型の戦艦など面白い敵がいたそうだ。
 その話を聞いて次々に学はメモを取っていく。
「さてとっと。みんな準備は良い? じゃあいこっか」
 ちはるたちはハンドサインや時計の確認をしながら敵が居る方向に移動を始めた。

 その頃、予測地点の反対側でも敵を見つけて移動を始める。
「……いま向かっている。予定通りだ」
 アイズフォンでの連絡を打ち切り、小柳・玲央(剣扇・e26293)は敵を眺めた。
 仲間たちやザイフリート王子と連絡を取り合い、ある程度は街への襲来地点を絞っていたのだ。
「元から移動工場だったのかは知らないけど、工場ごと帰らせるわけにはいかないよ!」
 現場に到着すると余裕のある内に地図と照らし合わせ、闘うのに向いた場所へと向かう。
「蛇も巨体になったら迫力があるね」
「実は苦手なんだよね。でも、町の危機が迫っている時にそんなことは言っていられないかな」
 シルフィア・フレイ(黒き閃光・e85488)の言葉にカシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)が頬をポリポリとこすった。
 恐ろしくはないが、ああいうのを見るとむずがゆくなる。
「そうだね、ここで怖気づく訳にはいかないよ」
 シルフィアはそういって時計を弄りながら仲間を確認。
 いつでも行けるというハンドサインを出しているのを見てアラームのスイッチを確認する。
「厄介な形状だな。だが特徴的な分、敵の動きを見切れば戦いようはある」
 ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)は敵の動きに脅威を感じた。
 ジャンプによってタイミングをずらしつつ、その体重で圧し掛かってくる。
「この手の大型のヘビダモクレスさんはパワーも時間制限もあるので大変ですが、人に被害が及ぶ前に何としても倒してしまわないとです……!」
「ああ。ここで押し負けるわけにも、万が一にも逃がすわけにもいかん。夏、やるぞ!」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)はヒエルおにーさんの言葉にコクコクと頷きました。
 小さいからと言って大きな蛇さんに負けてはいられません。
 お兄さんの後ろに隠れるのは恥ずかしいのですが、カバーしてもらうから仕方ありませんものね。
『キシャー!!!』
「急接近して来るよ! 多分、突入と同時に仕掛ける気だ!」
 後方で叫ぶカシスの緊張した声に、一同はいつでも走り出せるように身構えた。


 ダモクレスは街へ侵入した瞬間に一気に飛び掛かってきた。
「ぬ……うおお!」
「蛇は温度で相手を測るのだったな。こやつも特殊なセンサーは存在するのだろうか?」
 ヒエルが掌で押し返しながら、体を引き締めて巻き付こうとするダモクレスへ抵抗する。
 その後ろで学は冷静に観察しているのだが、シャーマンズゴーストの助手が首を傾げるのみだ。
 いかにも危険な光景ではあるが、後衛に格闘攻撃は届かないことを知っているので平然としたものである。
「ところでキュアは必要か?」
「無用! 援護のついでに回復してくれればいい!」
 ヒエルは引き締めた体を解き放ち、気と共に体を弾けさせる。
 敵は攻撃型ゆえ威力は高いが、拘束からは脱出できた。
「お前の攻撃は必ず当たる。これまで培ってきた経験が生きるはずだ……では、そろそろ、行くぞ!」
「はいっ……!」
 日頃に頑張ってることを出し切ればやれるとヒエルが教えてくれた。
 ならば少年はその背中に応えるだけである。
「行きます! あたってください……」
 夏雪は周囲に粉雪を振りまき、その流れで敵の動きを悟った。
 そして逃げる敵に必死で当てることに成功する。
「ちふゆちゃん。いっくよー」
 ちはるはキャリバーのちふゆに突撃させた後、自身は動かずに手裏剣だけ投げて済ませる。
 別にヘビがウネウネだから嫌いなわけではない、面倒くさいから……でもなくて、動きを観察するために動かなかったのだ。多分。
「そのリズムを崩す!」
 玲央は担いだ大剣を扇の様に片手で翻してバランスを取り、回転することで動きを変えた。
 クルリとターンを決めて刃ではなく空いた手刀で切りつける。
 その動きはまるで踊るかのようにであり、手刀はまるで刃の様であった。
「キュアは必要ないんだっけ? じゃあここはアレかな」
「そういって言たぞ。まあ二人掛かりで回復を兼ねた強化をすれば良かろう」
 カシスは仲間の容態を見ながらいろいろ思案中。
 先ほど聞いた話を学は告げながら、ケルベロスとして先輩の動きを観察しておく。
「さぁ、強力な一撃をお願いするよ」
 カシスが龍の角から削り出した杖を振るうと、仲間の体に雷電が奔る。
 神経電流が強化され、彼の心身を強化するのだ。できれば攻撃役に掛けたいところだが、無視できる傷ではないのでヒエルの強化に充てたのだ。
「まずはその素早い動きを、封じさせてもらうよー!」
 シルフィアは後方から道路の上を走り込むと、背の低い平屋の建物を足場に飛びあがった。
 屋根を砕くことを謝りつつ、そこからジャンプして一気にダモクレスに躍りかかる。
 四足装甲の勢いと全体重で押さえつけに掛かったのだ。
「まあこんなところだな。お前は攻撃して居ろ」
 残りの傷は微妙なところだったので、学は多少の傷が残るのを自覚しつつ爆風を吹かせて前衛陣を強化した。
 そんな気分を見抜いたのか、助手は攻撃ではなく回復することで向後の憂いを取り除いたのである。まあ面倒なのもあるけどね。
「攻撃や回復それぞれに個性が出ているから面白いね。種族由来なのか、それとも有効性なのか気になるところだけれど」
 ディミックは敵だけではなく仲間たちの様子を見ながら、この場だけでは例が少ないだろうという結論に達した。
 そして自身は仲間たちの行動に左右されることなく、予め定めておいた実利を求めて行動する。
「……在る人が恋しいか、無き人が悲しいか。消えては現れ、望む像はいずこかに」
 ディミックは街の至るところに光とグラビティの反応を残した。
 まるで人々が住んでいるかのように、ケルベロスが隠れて様子を伺うかのように。
 幻影の光でダモクレスにとっては餌、あるいは脅威を演出して注意を引き付けたのである。


 戦闘は一進一退で大きく変化していないように見えるが……その実、進展している。
 ダモクレスの動きが次第に鈍く成り、ケルベロスの攻撃が外れる事が減ってきた。
「さて。そろそろ一段落という所かな? 本命の出番という訳だ」
「そうですね……そろそろ当たるかと思います……」
 ディミックが尋ねると、夏雪は静電気で髪の毛を逆立てながら頷いた。
 今触ったらピリって来るんだろうなーという風情である。
「だから……安心して、全力を注ぐ事が出来ます……!」
「俺たちが必ず止めるから何があろうと任せろ! お前は攻撃に専念するがいい!」
 夏雪はヒエルとキャリバーの魂現拳に前面を任せ、防御に使っていた片方の刀をその場に突き立てる。
 そして振り被ると刃に舞い散る雪が刃にまとわりついて、その長さを延長してくれる! 体をくねらせて避けようとしたところまで雪で作られた刃が伸びていったのだ。
「よし! このまま追い込むぞ! こちらは態勢を立て直す」
 ヒエルは前衛陣の傷を癒しながら、魂現拳と共に大蛇型のダモクレスを抑え込んだ。
 接敵するというよりは、逃がさないためのフォーメーション。
 仲間を左右に入れて、Wの陣形で攻防一体で迫るのだ。
「戻っておいで、有象無象。お昼の時間だよ。五体剥離の術・大捨陣!」
 ちはるは相手のボディの中で召喚した虫たちを、一度外に集結させた。
 日の当たる場所に戻すことで、無数の虫が同じ場所を行き来する。気持ち悪いって? 大丈夫だいじょーぶ。
「ふぁいとー! ばくはーつ!」
 装甲表面で爆発させ、相手の態勢を揺るがしたり、装甲の隙間を大きく広げたのであった。
「ちょうどいい花火が……。釘付けにしてあげる♪」
 玲央は地獄の炎で作り上げた青い爆竹を振りまいた。
 それは鮮やな火花となり、目だけではなく聞き惚れる程の音で生き物の……いや機械の目や耳を引き付ける!

 ダモクレスはケルベロス達の猛攻を受け、グラリと傾き始めた。
 それは大蛇型だからうねっているのではなく、まさしく全身が振動やバランスの変化で崩れているのだ。
「傷はそこまではないけど、このタイプは全力攻撃があるからな……薬液の雨よ、仲間を清める力を与えよ」
 傷はそう多くないがカシスは念のために薬剤の雨を降らせておいた。
 ここのタイプは全力攻撃が厄介だ。早め早めで治療しておいて損はない。
「……あなたに届け、金縛りの歌声よ」
 シルフィアはグラビティを集めて呪いの歌を口ずさみ、ダモクレスを封じ込めた。
 それはダモクレスの体に逆振動を浴びせ金縛りを掛けるのだ。
「興味は尽きないが今は倒すことが先決だな。これをしまってお……。そういえば前衛だったか。自分で持っておこう」
 学は助手が前に居ることを思い出し、メモを自分でしまいながら爆風を吹かせた。
 これが功を奏し、ちゃんとメモを持ち返えれたという(なおその後は判らない)。
「そろそろ攻勢を掛ける時だと言った手前、私も参加しなければね」
 ディミックはドラゴニックハンマーを杖のように使い、トンと地面を小突いた。
 すると全身のグラビティが脈動し、一点に集中し始める。
「発射」
 今度はハンマーを敵の方に向けて、静かに呟くと光線が迸った。


 やがて六分目に差し掛かった時。
 最初のアラームと共に奇妙な変化が訪れた。
『ギギギギ……シャー!』
「む。妙だな。まだ六分目のはずだが……気を付けたほうが良かろう」
 敵が内側から振動するように、身もだえている。
 だがそれは仲間の攻撃によるものではないと悟って、学は仲間に注意を促した。
「やっぱりこうなったか。七分目とは言われてないし……。相手も特化型で耐久力が無いからね」
「なるほど。七分目まで待ったら保たないと判断したのだね」
 そういえばカシスも早い段階で治療していたなとディミックは思い出した。
 あのくらいならば攻撃してもよかろうと思ったのだが、今思えばこのことを予測していたのかもしれない。
 あるいは治療役に専念するつもりで、攻撃する気が無かったのかもしれないが。
「来い! どんな一撃であろうと……!?」
『ジャッ!!』
 ヒエルは最後まで口上を述べることができなかった。
 機械油か毒かも判らぬような、禍々しい色の液体が飛んできたのだ。
 それは彼を覆い尽くし、足元のビルなどは屋上部分の半ばが溶けかけていた。
「ひっ!? ヒエルおにーさーん!?」
 これには夏雪も大慌てで、思わず駆け寄ろうとした。
 だがしかし……。
「くっ、来るな! なつ、お……お前には果たすべき役割があるはずだ!!」
「俺が必ず治す。だから気にせずに……いや。気にならなくするためにも早く倒すんだ。大丈夫かな。すぐに緊急手術をするよ」
 ヒエルは皮膚が剥げ落ち筋肉が見えるほどの傷だが、自らの気で覆ってショック症状を免れた。
 その間にカシスは手術のために集中し始める。
「判りまし……。お姉さんお兄さん、協力してください」
「まっかせてー」
 夏雪は涙で目が溶けるかと思いながらも頑張って暴走を抑えた。
 雪が氷になるほどの力を浴びせ、ちはるはそれに合わせて氷の様に透き通った硬い杭で相手の中に凍気を撃ち込んだのである。
「これで終わりだよ!」
 最後に玲央が青い炎と幻想的な音の中でダモクレスを葬った。
 もし全力攻撃が無ければ、お祭りの花火かと思っただろう。

「どうにか治ったよ。変異はしてない筈だけど、違和感があったら温泉にでも浸かったらどうかな。……派手に町も壊れたね。綺麗にヒールしておかないと」
 ふう。とカシスは大きな息を吐いた。
 手術は無事に成功し大過なく治療できたらしい。
「夏、よく頑張ったな。以前と比べて見違えるように強くなった」
「あ、ありがとうございます……! いずれはこの敵を一人で倒せるように……いえ、それよりももっと強くなって皆さんを護れるようになります……!」
 ヒエルの言葉に夏雪は先ほどよりも沢山の涙を流す。
 でも不思議と気にならない涙であった。
「大型ダモクレスは工場内包って私、初耳なのだけど。常識なのか、それともこの個体だけなのかな」
「俺たちの力も強く成ってきてるから省略されることが多いんだ。全力攻撃が七分目だけど耐久力低い相手だと、ソレも省略されちゃうしね」
 玲央が残骸を漁りながら尋ねるとカシスが簡単に説明していく。
 7mの時点で脅威だし工場の事を言わなくても危険性は伝わりはする。玲央は戦歴のわりに大型ダモクレスと戦ったことが少ないので、封印が解け始めたころに聞かなかったのだろう。
「相手は封印されたままだから、相対的な力の差が変わって来ているという事かな」
「まあ、僕たちがエインヘリアルを大きいとは言わないようなものだな」
 ディミックと学は顔を合わせると、3mくらいは見習れているからなと論議が続く。
「いっぱい壊れたわね。話に夢中だったり疲れてるところ申し訳ないけど、もう一仕事ね」
 シルフィアが言うように怪我という意味でもヒールの分量という意味でも多変だ。
 しかしめげることなく楽しそうに唄い始める。
「ケルベロスも楽じゃないよね、ほんと。今日は自分へのご褒美に高いお酒開けちゃおっかなー。よーし、ちふゆちゃん今の内におつまみでも買ってきてー」
 ちはるは面倒そうに分身に作業を代行させた。
 ちゆふには買い物指令を出してGOGO!
 なお、学のサーヴァントである助手もいつの間にか、ちふゆに同行して買い物に行ってしまう。
 こうしてダモクレスとの戦いは賑やかなヒールと共に終わりを告げた。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。