しだれ梅と温泉

作者:芦原クロ

 見ごろとなり、花をつけている梅の木々。
 白色やピンク色のシダレ梅が鮮やかな紅白を彩る。
 その近くには露天風呂が有り、水着を着用して混浴風呂も楽しめるという。
 男女分かれた温泉も有るが、しだれ梅が良く見え、花見に絶好なのは混浴風呂しかない。
『水着など要らないだろ? 大自然を堪能するのなら自らも生まれたままの姿で! そう、裸で! 男も女も全てさらけ出して混浴を楽しむべきだと思わないか!?』
 羽毛の生えた異形の姿の者が、温泉付近で教義を力説。
 10名の信者は同意を示すように拍手をした。
『うむ、そうことで、男も女も関係無く……服を剥ごうぜェーッ!』
 異形の者と10名の信者たちは、これから来る温泉客を襲おうとしていた。

「ビルシャナになってしまった人間が、信者と共に事件を起こそうとしています。事件が起こるのを阻止し、ビルシャナの撃破と、一般人の救出をお願いします」
 ビルシャナ化した人間が教義を唱え、配下を増やそうとしている所へ、乗り込む形になる。
 そう説明する、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。

 ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、このまま放っておくと一般人がどんどん配下になってしまう。
 ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、一般人が配下になる事を防ぐことができるかもしれない。
 仮に一般人が配下になったとしても、ビルシャナさえ倒せば元に戻るので、救出は可能だ。
 ただし、配下は弱いので倒すと死んでしまう為、攻撃しにくい面倒な敵となる。
 配下が多くなれば、戦闘で不利になってしまうだろう。

「10名の信者ですが、2人は女性、残りの8人は男性のようです。男性も女性も、異性の裸体が見たい……という、少しいけない気持ちを抱えているのかも知れません。そこを責めるか、諭すか、同調するか……皆さんのインパクトのある主張にお任せします」
 ケルベロスたちの主張が上手くゆけば、10名の信者は我に返り、配下化を阻止できる。
「討伐後は、温泉に入って一息つくのも良いかも知れませんね。温泉から見える景色も絶景ですが、ここの温泉には疲労回復や美肌効果も有るようですよ」


参加者
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)
白樺・学(永久不完全・e85715)
シーラ・グレアム(ダイナマイトお茶目さん・e85756)
 

■リプレイ


「温泉楽しみだよねぇマジで」
 タオル一枚だけ着用している信者たちに、教義を唱えているビルシャナをちらりと見て、柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)は呟く。
 だがその胸中はというと……。
(「たまにはいいことするじゃねぇか鳥野郎!」)
 スケベ心、満開である。
(「最近のビルシャナさんは、ちょっと変な教義を唱える方々が多いですね。まぁ、人々の迷惑になるなら、放ってはおけませんね」)
 半ば呆れつつも、一般人の為にと、覚悟を決める兎波・紅葉(まったり紅葉・e85566)。
『混浴に水着など要らない! 無理矢理にでも剥いで、男も女も全てさらけ出すべきだ!』
(「最近の鳥はなんかこんなのが多い気がする。事案なのだけど、思い切り事案なのだけど!」)
 心の中で叫ぶように主張する、婦警姿のローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)。
「全てさらけ出して、か……そうすると僕の場合、各関節部に格納されたケーブルがまとめて幾本も剥き出しになるのだが。これで温泉に入れ、ということか? いや、僕は別にいいが……そうだな、少し実演してみよう」
 白樺・学(永久不完全・e85715)は振り向き、シャーマンズゴーストの、助手を見た。


「助手、頼む。……で、こうだ」
 お湯の入った大きめのタライを、助手が持って来る。
 ケーブルがむき出しになった腕を湯の中へ浸す、学。
『い、いや、あの……俺たち、ロボ的なヤツは想定してなくてだな』
 オロオロと取り乱す、ビルシャナと信者たち。
「よし、それでは誰か、僕と同じように腕を浸けてみてくれ」
 学は構わず、促す。
 漏電し、バチバチと危険な音が喧々と響いている。
「なに、電気風呂の超強化版だ、命の保証は全く以てできないが……」
 学が説明している間、寒かったのか、助手が自らタライの中へダイブ。
 すさまじい音と助手の叫び声が重なり、感電の危険性と恐ろしさが、見えてしまった。
 図らずも良い実例になったな、と。学は助手の安否も気にしない。
「これでも全身浸かるよりは遥かにマシなはずだからな……耐えられそうか?」
 ぐったりしている助手を見て、ブンブンと首を横に大きく振る、ビルシャナと信者たち。
『男でも可愛い顔してるから良いって思ってたけど、感電死は嫌だ!』
『無理、入れないっ』
 2人の男性信者が、あっという間に逃げ去った。
「無理矢理剥いたら犯罪だし、猥褻なんたらでいろいろと人生終了するのよ!? あなた達その覚悟が出来てる上でやってるんでしょうね?」
 婦警のコスプレ姿で、婦警になりきり、ローレライが鋭く言い放つ。
 しかし一部の信者たちはギラついた目で、ローレライを見つめ返した。
『女性警官だ! 脱がしちまおう!』
『うおおお、婦警さんと混浴ぅーッ』
 婦警萌えの信者が、居たようだ。
「クク、欲望丸出しかよ。でもさぁそこの婦警さんに捕まったらフツーに困るじゃん?」
 清春が口角を上げ、ワルメンたっぷりの笑みを浮かべて、視線でローレライを示す。
「まあ、気持ちは分からなくもないわ。昔は混浴が当たり前だったし……でも、残念だけど今は色々と厳しくなってるからねぇ……風紀を乱せばすぐ取り締まり、そういうご時世よ?」
 朱桜院・梢子(葉桜・e56552)も、逮捕されるのは明白だと告げる。
「いくら混浴とはいえ、無理やり脱がしちゃダメなのです。温泉は楽しく仲良く入るのです」
 オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)はローレライの前に立ち、今にも襲い掛かって来そうなケダモノたちから、ガードする。
「自分たちだって好きでもない人に無理矢理脱がされたら嫌でしょう!?」
 自分が嫌な事は他人にもしない。という、当たり前の一般常識を、改めて説くオイナス。
「逮捕されたら、故郷のお母さんも暮らしにくくなってしまうだろうし」
 さめざめ泣く、演技派のローレライ。
『ううっ、母ちゃん!』
 3人目が正気に戻り、泣きながら走り去ってゆく。
「婦警さんの言う通り犯罪にもなりうるのです。逮捕されたら温泉にも来れなくなるけど良いんですか?」
 それを見送ってから、オイナスが正論をぶつける。
『温泉に来れないとか本末転倒じゃん!?』
 基本的なことを思い知った4人目が、はっと我に返った。そして居たたまれなさそうに、その場から急いで立ち去る。
 ビルシャナがなにか言い掛けるも、畳みかけるようにシーラ・グレアム(ダイナマイトお茶目さん・e85756)が、持参した等身大の鏡を向けた。
「自分達はどう? 異性に見せても平気? ムダ毛はどうなの!」
 鏡に映る、タオルを一枚巻いた姿の女性信者が、シーラの言動に大きなショックを受ける。
 ムダ毛を指摘され、5人目は急いで服を着直すと脱兎の如く逃げてしまった。
「その弛んだ腹!」
 更に二枚目の鏡を、他の男性信者に向けて指摘する、シーラ。
 男性信者は腰にタオルを一枚巻いただけの姿で、その腹がぽっこりと出ているのが、良く見える。
「特に若い人は警戒して温泉に来なくなるかもしれないわね~。そうなれば来るのはお爺さんお婆さんばかり」
「自信がないならご老人と混浴はどう? 異性でも目の保養にはならないけどね。おーほっほっほ!」
 梢子が言葉を挟むと、それを上手く用いて、悪女とも呼べる高笑いをする、シーラ。
「早く決断したらどう? ご老人を連れて来てあげるわよ! ご老人と混浴するなら、私も全裸で加わってあげてもいいわよ」
 究極の選択である。
 シーラの容赦無い言葉に打ちのめされ、意気消沈した6人目の信者は、涙目でその場を離れた。


「つーわけで、女の子はオレと合法的に裸のお付き合いしよっかねぇ! でもって美肌の湯でじゅーぶん楽しんじゃおーね」
 清春はタオル一枚の姿で、1人の女性信者を欲望のまま誘う。
『きゃ、ワルメンさん! カッコイイ! しかも筋肉質!』
「んー? オレみたいなのがタイプだったりー?」
『はい……理想のリバです』
 女性信者がもじもじと、けれど嬉々として答える。
『貴方みたいな人が全裸で! 他の男性と温泉に入っているのを見れる! 様々なシチュエーションが見れる! 最高の萌え!』
「うん? ん?」
『眼鏡男子と、も良いけど! 可愛い男の子も捨てがたい。愛が有れば感電死なんて怖くないですよね!?』
 唐突なホモォ……を女性信者から投げられ、展開についてゆけない、清春。
 眼鏡男子が、オイナス。可愛い男の子は、学のことだろう。というのは、把握出来た。男性メンバーは自分を含め、3人だから。
「感電死……は無理ってか、オレが好きなのは女の子なんだよ? 男はいらねーんだわ」
 ドン引き気味の清春だが、基本的に“顔の良い”女性が大好きなのが、あだとなった。
 女性信者をぞんざいに突き放すことも出来ず、優しく説明までしてしまう。
『男は要らないって、突っぱねるところがオイシイ! そんなワルメンさんに、強引に男の良さを教える年下攻めが……』
「ちょっと落ち着こうねぇ」
 女性信者を引き寄せて抱き締め、耳元で囁いてみる、清春。
 これで自分を意識してくれる筈だと、期待を込めて。
『あの……対象が自分だと萌えないので、そこの可愛い男の子に同じことしてくれませんか? あ、温泉に行ってから、2人とも全裸で』
 どこまでもホモォ……を求める、女性信者であった。
 苦戦している清春を、なんとか助けようと決意したのは、紅葉。
「人間はなぜ服を着る様になったのかお分かりでしょうか? 寒さを凌ぐため、とか色々とあるでしょうけど、一番の理由は裸を隠す為です」
 16歳の少女から真面目な話を、ストレートにぶつけられ、信者たちがどよめく。
「つまり人類歴史が物語っているのです、裸は隠すべきものである、と。自分の裸は易々と他人に見せてはいけません、此処には私みたいな子供もいますし、教育上よろしくないですよ」
 真っ直ぐに見上げて来る、紅葉の純粋な瞳。
「と、とにかく水着でも良いので、裸は隠して下さい」
 頬を赤く染め、気恥ずかしそうにお願いする、紅葉。
 純粋さを前にして自分たちのほうが恥ずかしくなり、清春から離れた女性信者がいそいそと服を着る。
 男性信者も帰る支度をし、7人目と8人目が信者をやめて逃亡。
「あー? 男は知らねえよ……と言いたいとこだが、特別サービスしてやんよ」
 残った男性信者たちに対し、ビハインドの、きゃり子を放り投げる清春。
「きゃり子剥いて混浴したら大人しく帰れよ」
『あんまりだ! この子が可哀相じゃないか!』
 粗雑な対応に驚き、正気を取り戻した9人目はきゃり子に哀れみの言葉を掛けてから、帰ってゆく。
「最悪の場合、客が減ったことで温泉は廃業……なんてね? でも大丈夫、春画なら勝ち絵と呼ばれたくらい縁起のいいものだし芸術として最近脚光を浴びてるくらいだから持ってても恥ずかしくないわ!」
 最後の信者は、梢子が説得中だった。
 こっそりと春画の画集を勧めると、信者は食い入るように見て、新たな扉を開いた。
『こっちのほうが芸術的だし美しくていいな!』
『ま、待てぇー!』
 ビルシャナの制止の声も届かず、10人目の信者は幸せそうに立ち去る。
「変態鳥に見せるほど、私のボディは安くないのよ」
 それまでビルシャナを押さえつけていたシーラが、ピンヒールでグリグリとビルシャナを踏みつけ、高笑いを響かせた。
「貴方も剥いてあげるわよ!」
「私でも、やれば出来るのです!」
 梢子と紅葉が、声を上げる。
 ケルベロスたちの猛攻により、ビルシャナは即、屍となり、やがて完全に消滅した。


「仕事が終わったところで、ゆっくりと休ませてもらおうか」
 学が仲間たちに声を掛け、メンバーは露天風呂へ移動する。
「ローと温泉……」
 温泉に入る前から、真っ赤になっている、オイナス。
「私のボディは完璧だけどそれ故に、タダで誰にでも見せる訳には行かないのよ。タダより高いものはないって言うでしょ!」
 男性を翻弄しそうなほど、見えそうで見えない際どい水着姿の、シーラ。
 梅には目もくれず、女性陣だけを見ていた清春は、鼻の下を伸ばしてシーラをガン見している。
「新しい水着とってもかわいいのです。ローに似合ってるのです」
 この日の為に、水着を新調したローレライ。
 大好きなオイナスに褒められ、嬉しそうに微笑む。
(「つるつる美肌になりますように!!」)
 オイナスと梅を見て、ゆっくり浸かりながら、真剣な願いを頭の中に浮かべる、ローレライ。
「水着を着て入る、っていうのもちょっと窮屈なのよねぇ……実際水着がきつくて」
 ワンピースタイプの水着姿で、梢子は軽い嘆息を吐く。悲しいことに、お腹まわりがきついようだ。
「しだれ梅が、とても綺麗ですよねー」
 ワンピース型の水着で湯に浸かりながら、しだれ梅を堪能している、紅葉。
「……ああ。花を目で楽しみ、湯を肌で楽しみ……悪くないな。とても悪くな……おい助手走り回るな鬱陶しい!!」
 学が深々と頷き、同意を示すも、いつも通り、助手の所為でじっくり休むことが出来ない。
 紅葉はふと、それぞれのサーヴァントに注目する。
 テレビウムのシュテルネと、オルトロスのプロイネンは仲良くじゃれあっており、ウイングキャットの、お玉はシーラの周りを愛らしく飛び回っている。
 ビハインド、葉介の姿が見えないことに気づくと、紅葉は湯に浸かりながら梢子の元へ向かう。
 どうやら葉介は、かなりシャイなので、温泉には入らないようだ。
 花見をしながらのんびりと過ごす、梢子。
 そんな中、近くにいた紅葉が、恥ずかしそうに口元まで湯に浸かりだし、ぶくぶくと泡を立てた。
 理由は、すぐに分かった。清春が、すけべな視線を送っていたのだ。
 混浴には割と抵抗も無く、異性に見られていても平気な梢子だが、花見を邪魔されるのが嫌だったのか、バシャっとお湯を清春に掛けた。
「熱っ! うっわ、目がぁー!」
 湯が目に入り、両目をごしごし擦っている、清春。
「お風呂上りはコーヒー牛乳で。ローはフルーツなのです?」
「お風呂上がりはやっぱりフルーツ牛乳が鉄板よね。えっと、足を肩幅に開いて腰に手を当てて……! いただきます!」
 オイナスから手渡された、フルーツ牛乳を豪快なポーズで飲む、ローレライ。
「皆もよかったらどうぞー」
 ローレライと共に、先に上がったオイナスは人数分の飲み物を置き、まだ露天風呂に残っているメンバーへ声を掛ける。
 まるで噴水のような美しい形状で、薄紅色と白色の花が降り注いでいる、しだれ梅の木々。
 見ているだけで心が休まり、心身共に温かくなりながら、温泉で一休みするのだった。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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