漢たちが征く

作者:星垣えん

●漢たるもの
「諸君、漢たれ」
『押忍!!』
 辺りに木々と岩しか見えぬような、山深い秘境。
 そこに、屈強な男たちを従える1羽のビルシャナがいた。青々と晴れた空の下に分厚い胸板を晒しながら、ビルシャナは野太い声を張る。
「男と生まれたからには、我々は漢を目指さねばならない。そういうのは時代に合ってないとか腑抜けたことを言う連中もいるだろう……だが! そんな奴らの戯言には何の価値もないのだ!!」
「はい! わかっています!」
「俺たちは……師範についていきます!」
 一切の曇りなき眼差しを、師範ことビルシャナに集める信者たち。
 筋骨隆々な彼らの澄んだ瞳を見たビルシャナは頷いた。そして足元に置いといたでかい段ボール箱から女物の衣服を取り出し、「はいこれ」と順番に手渡していった。
 ガチで、女物の服。
 しかも信者たちは動揺ひとつ見せずにそれらを着た。
 ガチムチボディにミニスカートやタイトワンピを合わせたその姿は、きっと誰が見ても恐れおののいて震えることだろう。ぱっつぱつやもん。
 男たちを女装させた鳥さんは、ぐっと親指を立てました。
「いいか! 漢たる者……女人の裸を見るためにこーっそりと覗くだなんて卑劣な真似をしてはいけない! 盗撮とかはもってのほか! 漢であれば正面突破以外の選択肢などないと心得よォォ!!!」
『押ーー忍!!!』
「よぉーし、いい返事だぁ!」
 直立不動で答える信者たちの姿に安心感すら覚えた鳥さんが、くるっと後ろへ振り返る。
 その先にあるのは麓の町だ。
 そこには銭湯があり、つまりは……女湯がある。
「さあ行くぞ諸君! 我々は漢! 正面から堂々と女湯に入ろう!」
「押忍! ……でも大丈夫なんですかね? 秒で通報されたりしません?」
「大丈夫大丈夫! 自分が思ってるほど他人はこっちを見てないものだ! だからこう女物の服さえ着とけば……我々は女と認識される!!」
「す、すげぇ……!」
「確かに普通の女性と比べれば我々はでかいが……実際はそれほど見られてるわけではないのだから『女湯に入るのが当然ですけど』って顔しとけば向こうも『あの人おっきいなー』ぐらいの反応になる! むしろ下手に怖じるほうが事態は悪化するものだ!」
「なるほどぉ!」
「さすが師範……勉強になります!!」
「わかればいい! では出発だ、漢たちよ!!」
『うおーー!!』
 鳥さんの自信に満ち溢れたトーク術により、意気揚々と歩き出す信者たち。
 こうして、彼らは堂々と女湯をのぞきに行きました。

●せめて温泉ぐらい浸かれないと
「…………」
「アリャリァリャさん! 気をしっかり持って下さいっす!」
 あんまりな予知に声も出ねえ感じのアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)を、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はゆさゆさ揺さぶった。
 食事とかぶっ飛んでるアリャリァリャとて、1人の少女なのだ。
 むちむちぱっつぱつの筋肉メンを想像すれば、そりゃ無理もなかろうよ。
 なのでダンテは、それ以上は彼女をどうにかしようとは思わなかった。時間が心を癒すのに任せて、改めて猟犬たちへ顔を向ける。
「もちろん、皆さんに頼みたいのはこのビルシャナの討伐っす。こいつの『覗くときは堂々と女湯に入るべし』って教えがひろまったら一大事っすからね……その前に倒しといてくださいっす!」
 しゅばっ、と腰を90度曲げるダンテ。
 鳥さんが信者たちと一緒にいるのは、山奥の秘境のような場所だ。そこから麓の銭湯に向かって女湯に突入することを企てているようなので、何とか阻止しなくてはなるまい。
「ちなみに信者の数は10人。みんな下心に正直すぎたおかげでビルシャナの教えを受け入れてしまったっす……でも大丈夫っすよ、彼らを正気に戻すための有効な策があるっす!」
「策……どんなダ?」
 ハッ、と我に返ったアリャリァリャが訊くと、ダンテはにやりと笑った。
「ビルシャナたちが麓の銭湯に向かう途中にっすね……実は天然の温泉が湧いてるっす。そこに皆さんが入って待機して、奴らが来た途端に手ひどい歓迎をしてやれば、たぶん正面突破は無理って気づいて正気に戻るっす!」
 なるほど信者たちは覗きをしたいがために鳥さんにくっついている。しかしそれがどうあがいても叶わぬと知れば自然と手を切るだろう。誰だって通報は嫌ですもの。
「温泉カ……変態ドモが来ると思ウト気が進まネー……」
「そこは我慢してくださいっす! 信者たちの目を覚ますためっすよ!」
 もうげんなりしてるアリャリァリャの両肩に、ぐっと手を置くダンテ。
 かくして、猟犬たちは山奥の秘湯に向かうことになるのだった。


参加者
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
霏・小獅(カンフー零式忍者・e67468)
火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)

■リプレイ

●現実がちゅらい
「楽しみっすね! 女湯!」
「オラわくわくしてきたぞ!」
 口々から下心を溢れさせ、揚々と山中を行軍する筋肉女装集団。
 そんな彼らの前に、1つの人影が立ちはだかった。
「よう、ご機嫌だな……まさか女湯にでも突入するつもりか?」
 道の脇の木に、男がもたれかかっていた。羽織った外套は大きくはだけて、立派な腹筋や胸板が覗いている。
 鳥さんは、ハッとなった。
「おまえも女湯を覗きに……」
「いや全然違う。全然」
「あ、はい」
 ハッとなったけど冴えてはいなかった。
 男は衣装ぱっつぱつの鳥と信者たちを見て、苦笑いを浮かべる。
「バレたら覗きの比じゃねーぞ? 後、多分バレる。やめとけ」
「バレる……だと? バレる道理がどこにある!」
「俺たちはどう見ても女だろうが!」
 男の忠告を一蹴した鳥の後ろから、信者たちもブーイング。
「師範! こんな奴は放っといて進みましょう!」
「うむ、そうだな! 行くぞ諸君!」
 捨て台詞を残して、女装マッスルたちは男の前を通り過ぎてゆく。
 進んでいくその先で、厳しい現実を知らされるとも知らずに。
「清々しい『バカ』だな……嫌いじゃねーぜ」
 男は――火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)は、彼らの勇ましき背中を見送った。

 一方。
 鳥さんの通過予定地には、すでに入浴を楽しんでる猟犬たちがいた。
「いやー極楽っすねー。ひっく」
 湧き出る白濁湯にどっぷり浸かりながら、お猪口をちょびっと呷るシルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。横には徳利が乗った盆がぷかぷかしている。
 まさにおっさん。
 魔法少女と呼ぶにはあまりに枯れている。
 霏・小獅(カンフー零式忍者・e67468)は眉間を指で押さえた。
「なんでオレンジジュースで酔ってるんだよ……」
「霏様、頭は動かさずにお願いしますわ」
「あ、悪ぃ」
 後ろに立って髪を結ってくれているルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)に謝り、背筋を正す小獅。ただでさえ女のように長い髪はルーシィドの手で弄られ、カンフー少年の後ろ姿はもう完全に『女』である。
「しかし今回のも……無茶な奴らだよなぁ」
「ええ。全裸で堂々と入っていくだけならともかく……女装して入ろうとするのは疚しさがあるように見えて駄目ですね」
「いやそこじゃねえよ……ていうか何で仁王立ちなんだよ……」
 見さらせとばかりに湯の中に突っ立ってるシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)へ、顔を逸らしながらツッコむ小獅。
 説明しよう! シフカさんは露出する人である!
 女湯覗きを奨励していた鳥に「正面から堂々と来なさい」と言ったことすらある!
 だから今回ちょっと鳥を否定しづらいと思ってるのは内緒だ!
「まぁ、どうにか手を考えますか」
「大丈夫だよ。変態はリリがやっつけるから」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が巨大な水鉄砲(バスターライフル)を持ち上げる。たぶんまともに当てたら人死にが出る。そんなサイズ。
「これでばんばん脅かしちゃうよ」
「頑張りましょうね、リリちゃん。リリちゃんはわたくしが守り……」
 ふりふり水鉄砲をスイングするリリエッタに微笑みかけたルーシィド(マイクロビキニ着用)が、はたと止まって息を呑む。
 リリエッタはバスタオルを巻いていた。
 水着姿で囮になるなんて心配、と思っていたのに水着も着てなかった。
「リ、リリちゃん……!?」
「? どうしたの、ルー?」
 はわわ、となんか鼻息荒いルーシィドに首を傾げるリリエッタである。
 アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)は湯から顔だけ出して、寒空を見上げていた。
「ヘンタイっテ書いテビルシャナ。今日のお仕事はビルシャナ11体の殲滅。終わったラ温泉でほっこり……ワア、絶好の温泉日和ダナ! アッ、あの雲ソフトクリームみたーイ!」
 現実逃避もしていた。

●即バレ
「むむっ、ここは温泉!!」
 茂みを抜けた先で温泉を見るなり、鳥たちは昂った。
 下山せずとも覗きポイントに遭遇できるとは。しかもちらほら見える人影はどれも女っぽい。髪を結いあげた少女の背中を見て鳥さんはガッツポした。
「間違いない……女湯だ!」
「ヤッタゼェェ!」
 うおおお、と雄叫びをあげる女装信者たち。
 その興奮ぶりを背中越しに聞いた少女は――いやさ見事に少女に扮した小獅は、笑いをこらえて肩を震わせていた。
(「……すっかり信じてやがるぜ!」)
「行くぞぉ諸君! 我々も入浴だぁ!」
「いえっさぁぁぁ!!」
 小獅に欺かれてるとか知る由もなく、勇んで白濁湯にエントリーする鳥たち。
 ――しかし。
「あれ? 貴方達……男の人ですよね?」
『…………』
 ゆったり浸かっていたシフカが、さも今気づいたかのように信者たちに声をかける。その一言で女装メンズの脚はぴたりと止まった。
「……えー、男とかわかんなーい……」
「なに言ってるんですかぁー……?」
「歩き方や仕草からすぐわかりますよ。言葉遣いも完全に男でしたし」
「ダメだバレてる!!」
 全身全霊の高音ボイスを捻りだすものの、即バレだった。
 動くに動けず固まった男たちを見て、シフカはかぶりを振る。
「女性の気持ちになって、女性らしい振る舞いを身につけてからじゃないと、すぐバレてしまいますよ? そうなったら、男性なのに女湯に入ろうとした罪および女性の裸を見た罪で……社会的に即死でしょうね」
「はうっ!?」
「詰み……!?」
 待ち受ける未来に震えあがる男たち。
 だが彼らが戦略的撤退を選択する前に、鳥さんがシフカに噛みついた。
「いや、我々は女だ」
『し……師範!!』
「確かに女らしくはない。しかし我々は女だ! 女だから女湯に入る!」
「そこまで言いきりますか……」
 頑として譲らぬ鳥さんに感心さえ覚えるシフカ。ともすれば『こっちが間違ってる?』とか思っちゃいそうな気迫にシフカは返す言葉もない。
 勝った。
 確信した鳥さんは前に進もうとした。
 しかしそこで気づく。
 なんか横からめっちゃ視線を感じることに!
「……」
 リリエッタが無言でじーーーーっと見つめてきていた。鳥が試しに前後に動いたりしてみるとそれを追ってリリエッタの首も扇風機よろしく左右にスイーッ。
 ガン見すげぇ。
「バレてません!? これバレてません!?」
「落ち着け、動揺したら負けだ! 敵はこちらが崩れるのを狙っている!」
 ひそひそ、と声を交わす信者と鳥。
「あの、温泉に入るのでしたら、まずはその服を脱いでくれませんか?」
『!!?』
 信者たちをびくりとさせる一言を放ったのは、リリエッタの隣でしっかり肩まで浸かっているルーシィドだ。
 そう、信者たちは服を着ている。
 女であることを主張するために女物の服を着たままなのである。裾とかびしょ濡れなのである。
「い、いや私たちはー……」
「まさか湯船を眺めるために温泉に来たわけじゃないですよね? 着替えはそこのカゴの中にどうぞ」
「えーでも誰に盗まれるかわからないじゃないですかー……」
「いいから早く脱いだほうがいいよ」
「ぎゃああーー!?」
 巨大水鉄砲(破壊力566)の照準を向け、信者たちの足元へ水弾をぶちまけるリリエッタ。轟音とともに立ち昇る水柱の中を信者たちは逃げ惑った。
「お湯に入るなら脱がなきゃだよ」
「いやそれはー!」
「着衣入浴法とかもあるかとー!」
 リリエッタは当たりそうで当たらない絶妙な威嚇射撃を続けた。だが信者たちはそれでも脱がない。脱げば終わると考えずともわかるからだ。
 しかし相手はケルベロス。
 逃げつづけられる道理もなかった。
「お風呂に入るのに服なんて着てたら駄目っすよ。早く脱いでハリーハリー」
「あぁーーっ!?」
「やーーめーーてーー!?」
 シルフィリアスが伸ばした異形なる紫髪に脚を掴まれ、逆さまに吊り上げられる男たち! ぴろーんと重力でめくられるスカート! 露になる太い太腿!
 シフカとアリャリァリャは、声もねえっす。
「誰も得しない光景じゃないですか?」
「記憶を消せルグラビティとかねーのカナ……」
「いやー! 服を剥がないでー!」
「何言ってるっすか。マナー違反は許さないっす。さっさと脱ぐっす」
 2人のやるせない視線が突き刺さる中、あれよあれよとシルフィリアスの髪で脱がされる信者たち。30秒もすればスッポンポン男祭りになっていた。
「くっ……ここまでか!」
「馬鹿な! 諦めて……たまるかぁぁ!!」
 数人の信者が股間を隠して蹲る中、しかし鳥は、残った信者は立ち上がる。
 だって近いのだ。
 数m先には湯に浸かるシルフィリアスが、女子の裸があるのだ。
 肌色を求めて男たちは湯煙を振り払った。
 が。
「……なっ!!?」
「人から見られる可能性がある温泉では水着を着るのが常識っすよ」
 そう言ってのけるシルフィリアスは、当然のように水着を着ていた。水着が見えないよう立ち回り、裸っぽく見せていただけだった!
「なんてこった……」
「温泉で水着とか……ねーよ! ねーよォォォ!!」
 絶望に崩れ、湯を殴りつける男たち。
 その目元から垂れ落ちる水滴は跳ねあがった湯かそれとも涙か……。
 だが皆が着実に戦意を失ってゆく中、1人の信者だけは力強く直立していた。
「水着を着るのが常識なら、マイクロビキニを着た私は何の問題も」
「変態はご遠慮くださいだよ」
「アァーーッ!!?」
 きわどいビキニを着ていた信者が、リリエッタの射撃で追い返されたー!

●あれ? 8人いるはずなのにまだ7人しか……。
 ぱちぱち、と弾ける油の音。漂う香ばしさ。
 それらをまざまざと五感で感じながら、鳥と信者たちは正座していた。
「女装しテウチら騙そうトカそういう根性がもうダメダメ。いっそ全裸土下座デモ――」
「そう仰るなら今一度……」
「イヤ、脱ぐナ。脱ぐナ」
「は、はい……」
 しゅんとしてる女装メンに説教ぶちかましているのはアリャリァリャだ。水着を着たまま業務用フライヤーでドーナツを揚げているさまはどこから何をツッコめばいいか皆目見当もつかない。
 当然ながら信者もフライヤーには『?』だった。
 そんな彼らの反応を見て、アリャリァリャはサッとドーナツを取り上げた。
「そこで! その腑抜けた根性を叩き直スのにイイものを用意しタゾ! このドーナツみてーニ熱湯風呂(160度)に全員で合計300秒浸かれたラ……脱いでもイイ」
「ただの死刑宣告!!」
「それ脱いでも見られないやつだよね!? お亡くなりになるやつだよね!?」
「失敗しテモ安心すルがイイ。女湯に入っテもまあまあ違和感ネー体に改造すルゾ!」
「ひぃぃぃぃ!!?」
 ぶぃーん、とチェーンソー剣でドーナツをぱくっと両断するアリャリァリャ。それでナニをどう改造するというのか。
 しかし、鳥さんは武力に屈しなかった。
「さっきから聞いていれば勝手なことを……別に我々がどうしようとおまえには関係ないだろう! そもそもおまえのことは見たいと思っとらんからな!」
「ナッ! 女子に失レ――」
「馬鹿なこと言ってんじゃねー! 呆れてものも言えねーぞ!」
 アリャリァリャが言い返そうとしたその前に、怒声が割りこむ。
 陽大だ。いつの間にか温泉に合流していた陽大がガチで鳥を睨んでいた。
「まったく。こんな可憐な子を捕まえて何言ってやがんだ」
「いや可憐ってどこが……」
「ホラこういうトコダゾ! イケメンとヘンタイの差ッ! バーカバーカ! ヘンタイ! ビルシャナ!」
「ぐぬぬっ……!」
 陽大の陰からわーわー言ってくるアリャリァリャに、あからさまに苛立つ鳥。『ビルシャナ』が地味に悪口扱いされてるのも効いてるんすかね?
「くっ、師範が言われ放題!」
「こうなったら俺たちであいつを黙らせて――」
「……おめぇさんらのようなむさ苦しいハゲマッチョが、お嬢様方に何をするって?」
「「ん?」」
 不意に背後から聞こえた声に、反抗の隙をうかがっていた信者たちが振り返る。
 そこにいたのは――暗色の衣服で身を包んだ仮面の男。茂みの暗がりから染み出すように出てきたその男は明らかに異質な空気をまとっていた。
「絶対カタギじゃない!」
「びっくりするほどヤーさんだよ! 何人も殺ってる顔だよ!」
「え? ヤーさん? どこど――」
「おっと鳥を見るとつい足が」
「ヘブァッ!!?」
「師範んんーー!!」
 野次馬根性を発動させた鳥さんが、仮面の男――キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)のケンカキックで豪快に蹴っ飛ばされる。信者が手を伸ばすなか近くの岩にめりこんだ師範はそのままお眠りに。
「貴様よくも師範を!」
「ただじゃおかな――」
「誰が喋ることを許可した!!」(シャンプーをぶちまける)
「「ぐああああああっ!!?」」
 キルロイが放ったシャンプーボトルからの一撃が、的確に信者たちの目を捉える。そのまま地獄の痛みでゴロゴロする彼らを睥睨して、キルロイは残りの信者たちへ静かに話しはじめた。
「よく聞け。あの鳥は偉大な指導者なんかじゃない。屈強な男がただ大恥をかくのを見たいだけのサディストの変態だ!」
「な、何ぃ!?」
「なぜそう言いきれる!」
「考える必要もない。現におめぇさんらはそうなっているだろう。服を変えたぐらいで女になれるわけがあるまい。あの鳥はおめぇさんらが滑稽さらすのを見て心のうちで笑ってたに違いねぇのさ」
「や、野郎ォ!?」
「なんて陰湿な奴だ……!」
「俺たちの気持ちを利用しやがったのか!」
 岩に頭つっこんでる鳥を指差すキルロイを見て、奥歯を噛みしめる信者たち。
 そのうちの1人の頭にポンと手を乗せると、キルロイは温泉のほうを見るよう促した。
「いい加減に目ぇ覚ましな。おめぇさんらが求めるものはここにはないんだよ」
「ここ……には……」
 失意の表情で、湯煙の向こうに目を凝らす信者。
 その視線の先には、長い茶髪を結いあげた少女の背中がある。この温泉にやってきたときに最初に目についた、あの少女の背中だ。
 ――だがいや、待てよ?
 なんだか女にしては肩回りとか、骨格がたくましい気が……。
「にひひ。いやあんたたち、もっと注意深く見るようにしたほうがいいぜ?」
「あぁぁーーっ!!」
「男じゃねぇかァーー!!」
 ざばっと立ち上がって振り返った少女もとい小獅の姿を見て、吃驚の声をあげる信者たち。麗しい少女と思っていたのが男だったという衝撃はでかかった。
「女湯では、なかった……!」
「混浴すら突破できないようでは……女湯など夢のまた夢!」
 夢、破れたり。
 信者たちは悲しみを背中に乗せて、1人また1人と温泉から去っていった。
 小さくなる背中を見送ると、陽大は仲間たちに振り返った。
 なんか卵がめっちゃ入った籠を持って。
「皆が説得してる間にちょっと温泉卵つくってたんだが、食べるか?」

 わーい、と猟犬たちが手を挙げたのは、説明するまでもないだろう。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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