コンビニおでんは絶対許さない!

作者:神無月シュン

「何ができたて、あつあつだ? 完成品をただ温めているだけが何を言う! そんな物、俺は絶対に許さない!」
 コンビニの前で叫ぶ、羽毛の生えた異形――ビルシャナ。その後ろには6人の配下たちの姿がある。ビルシャナの主張に賛同する彼らは目の前の異形に違和感を持つこともない。
 コンビニを滅茶苦茶にする為、ビルシャナは配下たちを引き連れてコンビニの中へと入っていくのだった。


「いやー、また迷惑なのが出たっすねー」
 集まったケルベロスたちに説明をする黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の表情は心底面倒くさいといった様子。
「まあまあ、そんな事言わないでください。どんな内容でも事件にはかわりないでしょう?」
「まあ……そうなんっすけどね」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)の言葉に、気を取り直してダンテは説明を続けた。
「説明した通り、ビルシャナがコンビニを襲撃するっす」
 ビルシャナの側には、彼の主張に賛同している一般人が6人、配下となって行動を共にしている。
 その配下たちは、ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして無力化する事ができるかもしれない。
「配下になっている人間は、ビルシャナと一緒に戦闘にも参加してくるっすから注意して欲しいっす」
 ビルシャナさえ倒せば元に戻る為、救出することが可能だ。しかし戦闘に参加している配下たちを傷つけずに戦うとなると、中々に苦労しそうだ。

「別にコンビニのおでんが嫌なら、買わなければいいだけだと思うっすけどね」
 至極もっともな意見だが、そのような言葉が届くかどうかも怪しい。
 配下たちの反応を見るにビルシャナの主張の他に『誰でも触れる場所に置いてあるなんて不衛生だ』『おでんはやっぱり屋台で食うのが最高なんだよ』と言った意見も出ている。
「考え方は人それぞれ……ですね」
「そうっすね。ビルシャナ自体の戦闘力は高くないっすから、如何にして配下の人たちを無力化するかにかかってるっす」
 配下たちを無傷で救うためにも、説得は成功させたいところだ。

「コンビニのおでんが無くなるのは困るっす。何としてもビルシャナを止めて欲しいっす」


参加者
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
ファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)
九竜・紅風(血桜散華・e45405)
綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)
エステル・シェリル(幼き歌姫・e51474)
芳野・花音(花のメロディ・e56483)

■リプレイ


「まさか、私が危惧していた教義を広めようとするビルシャナが本当に現れるとは……」
 事件が起きるというコンビニへと向かう最中、湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)の呟きが空へと吸い込まれる。
「此処は責任取って、私が必ずビルシャナの暴走を止めてみせましょう」
 そう意気込み少しだけ歩く速度を上げる。
「おでんか、あまり食べたことが無いが、こういう寒い冬には無性に食べたくなってくるな。ともあれ、コンビニのおでんだからと好き嫌いは良くないと思うぞ」
「おでんって、私はコンビニのおでんしか食べたことが無いなぁ。屋台のおでんって、あまり食べる機会も無いし」
 歩きながらおでんの味を思い浮かべる九竜・紅風(血桜散華・e45405)とエステル・シェリル(幼き歌姫・e51474)の2人。
「コンビニのおでんが嫌いと言うビルシャナも居ますけど……要は、美味しければ良いのだと思います」
「コンビニのおでんも美味しいですのに、それが分からないとは勿体無いですね。これを機に、皆さんにもコンビニおでんに目覚めて貰いましょう」
 美味しければどこの物でもいいじゃないと芳野・花音(花のメロディ・e56483)。対して綾崎・玲奈(アヤカシの剣・e46163)は、しっかりとコンビニおでんの美味しさを教え込んであげますと笑みを浮かべていた。
「コンビニおでん、私は好きよ? 割と美味しいし、温まるし」
 そう語るファレ・ミィド(身も心もダイナマイト・e35653)。だが話しているうちに徐々に様子がおかしくなっていく。
「それを悪し様に言った上にお店を襲わせる鳥なんて、遠慮なくぶっ壊してもいいわよね」
 額に地獄の炎が灯り、ファレの破壊衝動が顔を出す。
「お、落ち着いて。まずは配下たちの説得が先だから、ね?」
 今にも突撃していきそうなファレをエステルが必死に宥める。
「ごめんなさい。取り乱したわ」
 落ち着いたのか、額の炎が消えるとファレは優しい笑顔を浮かべていた。
「あれが、そうでしょうか?」
 コンビニ前の人だかりを見つけ、先頭を歩いていた麻亜弥が声をあげる。その声を聞いた花音が麻亜弥の横へと並び目を凝らす。
「おそらくそうですね」
「よし、それじゃ行こうか!」
 紅風の言葉に一同頷くと、ビルシャナの元へと駆け出した。


 今まさにコンビニへと入っていこうとするビルシャナたち。
「ちょっと待ってぇ。不衛生って皆思うかも知れないけど、コンビニのおでんは常に高温を保たれていて、それで熱消毒されるから衛生面では問題ないんだよ」
 エステルが扉の前へと滑り込むと、入り口を塞ぎながらまくしたてる。
「他にも、コンビニによっては、おでんに蓋をしている所もありますので、一緒くたにすべきではないですよ」
 若干早口で喋るエステルに、配下たちは気圧されたのか後退る。
「屋台のおでんは、本格的でやはり美味しいですよね」
「ですが、屋台のおでんは、コンビニ程多くの場所には存在しません」
 後退る配下たちの背後には麻亜弥。
「特に田舎だと、屋台とかほとんどないですし、そういう方々にとって、おでんを気軽に食べる機会はコンビニおでんしかないのです」
 だから、と話を続ける。
「コンビニのおでん、それはどんな地域の人でも、気軽に手に入り、気軽に食べられる点が利点だと思いませんか?」
「まあ……確かに……」
「けどさぁ、味は負けるんじゃ」
 その言葉に反応したのは、紅風と花音の2人。
「コンビニのおでんが美味しくないだと? それは単なる偏見だとは思うがな」
「コンビニのおでんは、最高の物なのです」
「お、おう……」
 2人の勢いに押され怯む。
「屋台のおでん屋に行ったら、何となくお腹いっぱいになるまで、おでんを頼まないといけない、みたいな雰囲気がしてしまいませんか?」
「その点、コンビニのおでんなら、ちょっと小腹が空いたくらいの時に一品だけ頼む、そういう事も可能になります」
 その意見も偏見ではと、花音の自論についていけないとばかりに首をかしげる配下たち。
 話が脱線したと、紅風と花音は話を戻す。
「コンビニのおでんとは言え、店側としてはおでんを美味しく仕上げる為に最善の努力はしているんだ」
「味付けに関しても、コンビニで色々と研究されて作られた味ですので、屋台のおでん屋に負けず劣らずの味だと思いますよ」
「出汁が出る食材と、出汁を吸い取る食材の配置。そして最もおいしく感じる茹で時間や、温度」
「それらは、屋台のおでん屋と変わらない努力がなされている為、コンビニのおでんも一口食べてみればその素晴らしさを実感できると思うぞ」
 つまるところ、コンビニのおでんは美味しい。と熱く語る2人。

 寒い中説得は続き、皆の体が冷えてきた頃――。
「まだこの時期、外は冷えるわね」
「ですね。だからこそ熱いものが食べたくなるのでしょう」
 コンビニの中から姿を現すファレと玲奈。2人の手の上にはあつあつのおでんを入れたカップが湯気を立てていた。
「やっぱり温まるわね、おでんは」
 手ごろな場所に腰を下ろしたファレは、熱い具に息を吹きかけ頬張る。
「いい具合に味も染みてるわ……んっ」
 出汁をすする。そしてほんのり汗の滲んだ胸元をパタパタと扇ぐ。一つ一つの動作に色気が滲み出ていた。
 ゴクリ。配下たちが唾を飲む。それは美味しそうなおでんにか、それともファレの放つ色気にか……。
「寒そうだけど、皆も食べる? 温まるわよ?」
 視線を感じたファレはおでんのカップを配下たちの方へと差し出した。
「さぁ、皆さん。コンビニのおでんも食べず嫌いにならずに、ちょっと味見してみて下さい」
 玲奈はおでんを配下たちへと勧める。
「ただのおでんでは無いですよ、美味しくなるおまじないが掛けられた特別製です」
 ファレへと視線が集まっている間に、『おいしくなあれ』とおでんへ思いを込めていた玲奈。配下たちはおでんを口にしていく。
「う、美味い!」
「何だこれは! こんな美味しいおでん今まで食べたことない」
「コンビニのおでんも、食べてみたら美味しいと思いませんか? これからはコンビニのおでんも普段から食べてみて下さいね」
 あまりの美味しさに衝撃を受けた配下たちは、満足した顔でこの場を去っていく。
「情けない! 情けないぞ! こうなれば俺だけでもっ!」
「やらせると思いますか?」
「ここから先は通行止めだよう」
 コンビニの入り口前に立ち塞がる麻亜弥とエステル。
「さぁ行くぞ、疾風丸!」
 ビルシャナに向かっていく紅風に他のケルベロスたちも続いた。


「熱々のおでんの様に、焼いてあげますよ」
 麻亜弥の蹴りが炎を纏ってビルシャナに襲い掛かる。
「エクトプラズムよ、敵の動きを止めてしまって!」
 花音の放った大きな霊弾が、炎に包まれもがくビルシャナ目掛け真っ直ぐに飛んでいく。
 ビルシャナが攻撃に怯んでいる隙に、エステルと玲奈が距離を詰める。
「重い拳の一撃を、受けてみると良いわよ!」
「霊体よ、敵に憑依し、その身を汚染しなさい」
 エステルは獣化させた手に重力を集め、ビルシャナへと叩き込む。続けて無数の霊体を憑依させた喰霊刀を振るう玲奈。
「呪われた血の一撃を、食らうが良い!」
 血染めの包帯を伸ばし硬化させる紅風。硬化した包帯は血染めの槍の様に赤く鋭く、繰り出された突きはビルシャナを容赦なく刺し貫いた。
「ぐっ……これほどとは」
 苦しみながらも反撃を試みるビルシャナ。しかしその攻撃も空を切る。
「あっはっはっはっはっはっはっ!」
 戦闘に入ったファレの額には地獄の炎が灯り、破壊衝動のままにビルシャナに攻撃を繰り出す。

 戦闘が始まってから数分。回復を玲奈のボクスドラゴン『ネオン』と紅風のテレビウム『疾風丸』に任せ、ケルベロスたちの猛攻は続く。
「全てを痺れさせる針の嵐よ、飛んでいきなさい!」
 魔力によって生成された無数の針が、花音の合図と共にビルシャナに向かって一斉に飛んでいく。
「光の剣よ、邪悪なる者を切り裂く力となれ!」
 マインドリングから光の剣を具現化し切りかかるエステル。
「この呪詛の一閃を、受けてみなさい」
 玲奈はビルシャナを喰霊刀で突き刺すと呪詛を流し込んでいく。
 紅風が硬化させた爪を使い高速で突きを放つ。更にファレの放った地獄の炎弾がビルシャナに襲い掛かる。
「海の暴君よ、その牙で敵を食い散らせ……」
 麻亜弥は暗器を袖から引き出すと、ビルシャナ目掛けて振るう。その鮫の牙を思わせるギザギザの刃がビルシャナを喰らわんと食い込み、切り刻み鮮血が飛び散る。
 その一撃が致命傷となり、ビルシャナは息絶えた。


 戦いが終わり、配下になっていた者たちが去ったコンビニ前は静まり返っていた。
 麻亜弥と花音は戦いの傷跡をヒールする為、右へ左へと走り回っている。
 後始末は程なくして終わり、ケルベロスたちはコンビニの入り口前に集まった。
「折角コンビニに来たんだから、おでんとか買って帰りたいな」
「外はまだ寒いですね、皆さんもおでんを食べて、温まりませんか?」
「一通り終わったか、まだ外も寒いし、おでんを食べて帰りたいな」
 エステル、麻亜弥、紅風3人の言葉が重なる。皆考えていることは同じだったようで、顔を見合わせて笑う。散々説得でおでんの美味しさを語ったのだ。このままおでんを食べないで帰るという選択肢はない。
「私もおでん頂きたいですね、大根と玉子が好きですね」
「結構動いたし、また食べるのもいいわね」
 3人の提案に頷く花音とファレ。
 ケルベロスたちは揃ってコンビニへと入ると、各々好きな具を選んでいく。私はこれが好きだの、たまごの黄身を出汁に溶かすかどうかだの、定番の具はどれだのと、おでん鍋を囲ってケルベロスたちはおでん談議に花を咲かせる。
「やっぱり熱々のおでんは美味しいですよね」
 会計を終えコンビニの外へと出た玲奈は、早速おでんを頬張る。
 おでんを存分に堪能して、心も体も温まって帰還するケルベロスたちだった。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月1日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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