河津桜とバーベキュー

作者:芦原クロ

 濃いピンク色が美しく、綺麗に咲いている河津桜。
 河津桜の下には水仙も咲いており、両者の色合いが映え、見応えがある。
 付近では屋台が数店並び、バーベキューのセットもレンタル可能なので、花見をしながら胃袋も満たせるという、ちょっとした贅沢が味わえる。
 楽しんでいる一般人の誰一人、漂って来た花粉のようなものに気づきはしなかった。
 花粉らしきものは河津桜の1本にとりつくと、瞬く間に攻性植物化して動き出してしまう。
 攻性植物は、呆然としている一般人へ襲い掛かった。

「攻性植物の発生が予知されました。なんらかの胞子を受け入れた河津桜が、攻性植物に変化したようです。美しい風景が荒らされるのを防ぐ為、それに何よりも死者を出さない為に、急ぎ現場に向かい、攻性植物を倒してください」
 張りつめた緊張感の有る声音で説明する、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)。
 警察などが一般人の避難誘導をおこなってくれるので、今回はケルベロスたちが避難誘導に手を貸す必要も無いとのことだ。

「攻性植物は1体のみで、配下はいません。攻性植物は、肉体の一部を変形させ、植物の特徴を生かしたグラビティを使います。【捕縛】、【催眠】、【炎】などのバッドステータスが有りますので、対策を考えておけば有利になりますね」
 戦闘能力の説明を終えると、セリカは緊張を解く。
「討伐後は、屋台やバーベキューを楽しんだり、綺麗な河津桜や水仙を眺めるのも良いですね」


参加者
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)
元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ


「まあ、河津桜! ピンク色で、しかも他の桜より早めに春を届けて下さって、可愛らしいですよね」
 並ぶ河津桜を見て、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)が感動の声を零す。
「本来はまだ咲く季節には早いのかい?」
 シアの声に反応したのは、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)だ。
「早咲きの桜で御座いマスネ」
「何か得してしまった気がするねぇ……」
 モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)が即座に答えると、ディミックは嬉しそうに微笑む。
 美しい河津桜に、視線が釘付けになりそうになる。
 が、まるで存在を主張するかのように、攻性植物が咆哮をあげた。
 誰も、その存在を忘れてはいない。
 ふんわりと穏やかな雰囲気を纏いつつも、シアに隙は無かった。
「その一本が寄生されてしまったのは残念だけれど……これ以上増やさない為にも、ここで止めなくては」
 激することは無いが、真面目な表情で攻性植物を見据える、シア。
「私達は、敵の注意を……こちらに、惹きつける様に、しますね……」
「うん、一般人の避難誘導は、警察の方々に任せて、僕達は攻性植物の撃破に集中しよう」
 基本的に無口な花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)の、呟きともとれる小声に、元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)が応じた。
 敵を一般人の方へ逃がさない様にする為、敵を囲んで布陣する。
「他の健全な植物には影響を与えないよう、なるべく気を付けて戦おう」
 ディミックが気さくに、仲間たちへ声を掛けた。


(「バーベキュー楽しみだなぁ、その為には、先ずは迷惑な攻性植物を倒してしまわないとね」)
 武器を手に、戦場を駆け回りながら敵の隙を探る、笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)。
 刹那、敵の体の一部が、地面に融合し始めていることに気づく。
「催眠が来るよ!」
「女の子は気を付けてね。男は、頑張れ的な?」
 氷花と柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)が仲間たちへ注意を促す。
 敵に侵食された大地は、まるで生き物のように蠢き、後衛陣を飲み込む。
 庇いとヒールを基本に、しっかりと働けよ。と、助手に前もって指示していた白樺・学(永久不完全・e85715)は、庇われたことで無事に、蠢く大地から逃れることが出来た。
 代わりに飲み込まれてゆく助手を見て、学は驚愕する。
「サボるか余計なことをするだけの助手が、命令通りに……」
 そんなに驚くことか、と。
 ツッコミを入れたい面々だが、今は戦況を把握するべきだろう。
 収納ケースは、丁度近くに居た倭を庇っていた。
「モヱちゃん庇ってくれてありがとねぇー。そんなにオレが好きだったなんてねぇー」
「柄倉氏は貴重な萌えですので、当然デス」
「萌え? そっちかー」
 チャラい口調で礼を言い、友人のモヱと少しやり取りを交わす、清春。
 モヱから敵へ眼差しを移せば、清春の瞳は一瞬で、戦闘への悦び――狂気にも近い光が宿る。
「回復優先で行動しておこう」
 ごく稀に味方や自分を攻撃してしまう催眠には、特に注意を置くべきだと判断していた学が、薬液の雨を戦場に降らせた。
 キュアで、仲間に掛かった催眠の解除に努める。
「BSが蓄積する前に、高火力のグラビティで短期決着を目指すよ」
 倭も同様にBSを重視し、抜刀の構えに入る。
「奥の手を使わせてもらうね。これで仕留めてあげるよ」
 倭が瞬時に放った居合い斬りは、敵の内部から破壊する衝撃波を生み、炸裂した。
「早く終われるように速攻を仕掛けマショウ」
 催眠が解除され、モヱの肘から先が、ドリルのように回転する。
 敵に肉薄したモヱは、えぐるように敵の幹を貫く。収納ケースは、敵の攻撃から仲間を庇おうと動き回っている。
 逆側に回り込んだ清春が竜の如き砲弾を撃ち込み、樹皮を吹き飛ばす。きゃり子もポルターガイストで敵を攻撃し、足止めを重ねた。
「さぁ、突撃、ですよ……!」
 背に持つ光の翼を暴走させ、光の粒子と化して敵に突撃する、綾奈。夢幻は清浄の翼を使い、BS耐性を付与。
「確実なダメージとBSを付与していきましょう」
 シアのブラックスライムが敵を丸呑みし、枝をへし折った。
「あはは♪ 貴方を、真っ赤に染め上げてあげるよ!」
 ステップを踏み、回って踊りながら手にした武器で敵を斬り裂く、氷花。
 花吹雪のように花びらが舞い落ち、裂かれた樹皮からは血のような黒い体液が溢れ出る。
 敵は苦しそうに、しかし苛立つように、唸りだす。
「味方の回復を信じて、ジャマーからの服破りをかけるよ」
 用心深く敵を観察していたディミックが、彗星の如く光を放ちながら敵の真横へ、その巨躯を活かした体当たりを仕掛けた。


 ミシミシと音を立て、横倒れになりつつある敵の、怒りに満ちた雄叫びが響く。
 敵から向けられていた殺意は、濃さを増し、全身を突き刺すような鋭いものに変わり始めていた。
 花びらがはらはら落ちてゆく中で、敵が幹をよじり、停止する。
 戦闘用のメモをとっていた学の手も、止まる。
 まだ残っていた、いくつかの花びらが光り、収束し、破壊光線となって学に放たれた。
 学に直撃する寸前、飛び込んだ収納ケースが学を庇い、吹き飛ぶ。
 どこまでも飛んで行きそうな収納ケースを、清春が片手で抱え込むように受けとめ、モヱと一瞬視線を交わす。
 ゆったりとモヱが頷いたのと同時に、清春は収納ケースを敵に向けて投げる。
 収納ケースは敵に喰らいつき、樹皮をガリガリと削ってダメージを与えてゆく。
 モヱが電撃杖の先端を敵へ向けると、雷撃がほとばしる。
「クハハっ、一気に行くかぁ!」
 口端を歪ませるように笑う、ワルメンの清春。
「順当に片付けて、残りの時間を満喫するとしようか」
 その声掛けに呼応した学が、回復よりも攻撃に回る。
 助手に祈りを捧げさせ、収納ケースの回復を任せた学は敵の幹目掛け、鋼の拳撃にてダメージを与えた。
「綺麗な花を汚して枯らす。禁じられた遊びほど心地いいもんだよなぁ」
 地を蹴って跳躍し、清春は残った枝をへし折るように、重力と体重を掛けた蹴撃を食らわせる。
 ほぼ同時に、きゃり子が敵の背後に出現し、攻撃を加えた。
 敵の機動力が奪われたのを好機とし、一斉に畳みかける。
「さて、ユグドラシルからの珍客は地獄へお送りしてしまおう」
 ディミックは氷の戦輪を飛翔させ、敵を切り裂き、強烈な冷気が敵を襲う。
「神速の突きを、見切れますか?」
 雷の如き、一瞬の突きを繰り出す綾奈。その間、夢幻は羽ばたきで邪気を祓った。
「さぁ、キミを身動きできない様にしてあげるよ」
 倭が伸ばした鎖が、敵を締め上げる。
「おやすみなさい。次、生まれ変わるのであれば、また春を呼ぶ花になってくださいね」
 敵の息も絶え絶えなのを見計らい、シアは予め決めていたグラビティを威力の高いものへ変更する。
 2本の藤枝の束が、まるで抱擁のように敵を両脇から押し潰す。
「それ、これで焼き尽くしてあげるよー」
 踊るように吹雪の舞踏で滑り、身をひねって回転すると同時に、炎を纏った激しい蹴りを叩き込む。
 燃え上がった敵は炎の中で消えてゆき、やがて完全に消滅した。


「花見を愉しみマショウ」
「一般人の避難勧告を解いて来るね。戻ったら、お楽しみのバーベキューを堪能したいな」
 戦闘の影響で景観を損ねた場所や、敵により侵食された大地をヒールで修復した後、モヱと氷花が仲間たちに声を掛ける。
 敵を一般人のほうへ向かわせないように、と努めていた甲斐も有り、みな無事に帰還し、賑やかさが取り戻された。
(「バーベキューに、お花見ですか。とても楽しみですね」)
 綾奈はバーベキューの準備を、手伝い始める。
 シアも、綾奈と一緒に、人数分の大きなテーブルと椅子を設置し終えた。
(「バーベキューに花見か、僕はどちらかと言えばのんびりと花見を楽しみたいな」)
 ヒール作業を終えた倭は、華やかな河津桜が、良く見える場所を探す。
「ここではどんな風に皆が楽しむのか、一通り見学して回りたいよ。屋台を楽しむ人々、花を愛でる人々、どれもが私にとっては新しい」
 ディミックは興味津々に、あっちを見たり、こっちを見たりと忙しい。
「さて、花を見るか食を楽しむか。どちらも満たせるならば、悩まなくて済むのは僥倖だ。ひとまずは屋台を巡ってみよう」
 学は助手を連れ、賑わう屋台を順番に見て回る。
「様々な料理、飲み物、未経験の味を試すにはちょうど良い。そのまま適当な場所で食べても良いが、そうだな……よし、いくらか買い込んでおくか。助手、荷物持ちを手伝え」
 助手が珍しく学の命に素直に従い、荷物を持つのを手伝う。
 行く先々で、屋台の店主からバーベキューをするなら、と。
 討伐のお礼に無料で、バーベキュー用の食材を、どんどん渡される学。
 そこへ合流したディミックが、荷物持ちを手伝った。

 一方、バーベキューの準備をしているメンバーは、というと。
「火起こしは下手なので……お願いできれば幸いデス」
「オレに任せてちょーだいな」
 モヱの願いを聞き入れ、木炭につけた着火剤に、慣れた手際で点火する清春。
 炭を追加したり扇いだりして火力を安定させ、着火作業を終える。
「にくにく野菜、にく野菜ーってね」
 常備した箱ティッシュとアルコールティッシュを、皆が使える位置に置き、牛肉や豚肉や鳥肉……と、肉が大好きな清春は、大量の肉を焼き始める。
「肉ばかりではカロリーが気になるので野菜類をお持ち致しマシタ。出始めの筍に新玉ねぎや春キャベツはワタシも好物デス」
 モヱが収納ケースから取り出すと、シアが穏やかに微笑む。
「エビ、イカ、ホタテ、ハマグリ等の魚介類は如何? お茶もありますわ!」
 シアも食材を並べ、いつも飲んでいるお茶類をテーブルに置く。
「わぁ、美味しそうだね。肉を頂きたいな! 後はバランスよく野菜も!」
「凄く美味しそうな香り、ですね。そろそろお腹も空いてきました」
 氷花と綾奈が期待を寄せる中、バーベキュー奉行と化した清春が、トングを使って火の通った食材を簡易皿に移す。
「わぁ、美味しい、です」
 早速食べ始めた綾奈は、無表情だが、声音から楽しそうな雰囲気が伝わって来る。
「花より団子な子はガンガン食っちゃってねぇ」
 バーベキューでも女性に贔屓目な、清春。
「この季節の花って、どれも綺麗だよね」
「あー? 花見もいいけど、もっと愛でる華があるんじゃねぇ?」
 花見をしている倭の呟きに対し、女性陣を眺めることで目の保養が出来るというように、清春は女性陣を視線で示す。
「そういう楽しみ方も有るんだね」
「花見とバーベキューにも大いに興味は有るけどねぇ。……ん? モヱちゃんはー?」
 会話の途中で、バーベキューを楽しんでいる女性陣の中に、友人の姿が無いことに気づく、清春。
 清春は、薄い河津桜のたもとにモヱの姿を見つけ、美しい彼女に、視線が釘付けになった。
 モヱの濃い桜色の髪が美しく、少し見惚れ、飲んでいた酒を思わず落としそうになって誤魔化すように笑う。
「桜っつーと新撰組だよねぇ。え、オレだけ?」
 酔いが回るのを楽しみながら、清春は桜を見て、ぽつりとそう呟いた。
「河津桜……どこを切り取っても絵になりそうで素敵デス。絵になるという事はつまり……使えマス」
 河津桜が早咲きなので、二次創作同人活動で春のイベントの新刊に間に合わせるには、好都合。と、高解像度のデジカメ写真を撮っている、モヱ。
「表紙用の素材として……、いえ何でも御座いマセン」
 モヱに懐いているきゃり子が近づいて来ると、モヱはもう少し、と待たせる。
 ほどほどに写真を撮り終え、きゃり子と共にバーベキュー組の元へ向かう。
「少し邪魔させてもらおう。屋台とバーベキュー、両共まとめて楽しむのも悪くないと思うのだが……どうだろうか?」
 学とディミックが、屋台料理と貰った食材とを、差し入れに来た。
 助手に持たせた屋台料理が、数個消えていることに気づく、学。
 些細な問題でしょう? というように、小首を傾げている、助手。その口元には、焼きそばのソースが付いている。
「――なわけあるか貴様ァァ!!」
 逃げる助手。追う学。
「仲良しですわね。……ああ、空に桜が映える事」
「仲良し!? どこがァァ!?」
 騒がしい光景を、シアは穏やかに見守り、バーベキューと花見を楽しむ。
 脂身が強くない肉を選び、甘くじっくり焼いた玉ねぎや、アスパラなどを好んで食べている、シア。
「花見を楽しむとしようかねぇ。しかし、ううむ、私ほどの身長になると花を見る邪魔になってしまうだろうか……?」
 身長255cm以上の巨躯の為、やや悩むディミック。
 オレンジジュースを飲みながら花見をしていた倭が、声を掛けた。
「寝転んで、空を見てみると良いよ」
「空を? どういう事だろう。……おお、この光景は……!」
 言われた通り仰向けになれば、視界に入る、青空に広がる美しい河津桜。
「やはり、自然の風流と言うものは素敵だね」
 空の青さに映える、河津桜や水仙の美しさに、倭は満足げだ。
 ケルベロスたちは花見やバーベキューを満喫したりと、幸福なひと時を過ごした。

作者:芦原クロ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。