邪神植物トソース誘引作戦~甘い香りは邪神を呼ぶ

作者:青葉桂都

●たこ焼きチョコは惨劇の香り
 大阪、市街地の一角にある公園で、一組の男女が会話を交わしていた。
「先輩、たこ焼き好きでしたよね。これ……たこ焼き型のチョコなんです。食べませんか?」
 制服を着ていないが、おそらくはまだ学生……高校生か大学生であろう女性が男性に袋を差し出す。
「え……たこ焼きの形してるけど、チョコなんだよな? 甘いものはあんまり……」
 微妙そうな表情で、先輩の方が応じる。
 後輩は少しの間うつむいて、それから改めて顔をあげた。
「あの……これ、バレンタインのチョコのつもりだったんです。それでも受け取ってもらえませんか?」
 頬を赤らめて告げた後輩を見て、先輩は面食らった顔をした。
「あ……そっか、今日はバレンタインデーか。すまん、お前がそういうのくれるとは思わなくて。そういうことなら、受け取っておくかな」
 差し出された袋を先輩が受け取ろうとした。
「だって私、本命の相手にしか……」
 後輩の声が途中で止まった。
 震える指で先輩の後ろを指差す。
 振り向いた男は、そこに奇妙な存在を発見していた。
 ねじくれた枝が絡み合った形の植物。枝の先には目玉がついていて、まるで悪夢から抜け出てきたような姿をしていた。
 邪神植物・トソースの枝が触手のように伸びて先輩に絡みつく。
 枝の間に男の大柄な姿が消え、断末魔の叫びと共に血が後輩の顔や服に飛び散る。
 先輩が持っていた袋は破けて地面に転がり、中身が地面に飛び散っていた。
「あ……ああ……」
 後輩はその場にへたりこんでしまっていた。
 トソースの枝が無慈悲の女性と伸びて、悲鳴がまた響く。
 2人を喰らったトソースは8体に分裂し、次なる犠牲者を求めて動き始めた。

●バレンタインの魔力を守れ
 大阪城の勢力に動きがあったと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「攻性植物がバレンタインの魔力を強奪するために、強力な敵を送り込んできました」
 バレンタインの魔力は、季節の魔力の1つだ。
「送り込まれるのは『邪神植物トソース』です。バレンタインのイベントを楽しむ男女を殺して魔力を奪い取り、8体に分裂する力を持ちます」
 分裂したトソースは次の犠牲者を求めて向かっていく。
 放置しておくとねずみ算式に犠牲者は増えていき、大阪の都市圏は壊滅してしまうだろう。
「邪神植物トソースは、バレンタインの魔力が高まった場所に転移して襲撃を行う性質があります」
 この性質を利用し、ケルベロスのカップルが囮となってバレンタインの魔力を高めれば、多くのトソースが集まってくるだろう。
 強敵と言ったが、トソースの1体1体が強いわけではない。
 ただ、魔力を得て分裂し、増殖する性質からその数が非常に多いのだ。
「ケルベロスがバレンタインの魔力を高めれば、数十体から百数十体のトソースが集まってくるでしょう」
 どの程度集まるかは、ケルベロスたちがどれだけバレンタインの魔力を高められるか……すなわち、バレンタインを楽しめるかによる。
 ちなみにトソースは敵を捕らえて毒を注入しつつ補食したり、触手のように動く枝で捕縛してきたり、目からビームを放って燃やしたりしてくる。
 数が多いのでその他のグラビティを使う個体もいるかもしれない。とはいえ、対処が非常に難しいような特殊なグラビティを使ってくる敵はおそらくいない。
「1体1体は弱いので、できる限り魔力を高めて薙ぎ払ってください」
 芹架はケルベロスたちに告げた。
 ちなみに囮を利用しない場合、大量のトソースが様々な場所に現れるので、完全に阻止するのは非常に難しかっただろう。
「邪神植物トソースは無限に近い旺盛な繁殖力で、ユグドラシルとアスガルドの国境警備を行っていたと言います」
 そんな生物が大阪で繁殖されるわけにはいかない。
 全力でバレンタインの魔力を高めて欲しいと芹架はケルベロスたちに告げた。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
パシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ

●これだけはすぐわかる
 大阪の市街地の一角にある公園の入り口に、露店ができていた。
 並んでいるのは様々な結晶をあしらったペンダントやイヤリングに、珍しい銘柄のチョコレート。
 学生を中心とした若い女性が集まっている。
「そこのお姉さんも、ちょっと見ていって欲しいんだぜ」
 公園に入ろうとした女性を呼び止めたのは、タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)だった。
 ムードを壊さぬようにしつつ、彼は人が公園に入らないように注意を払っていた。
 中にいるのは2組のカップルだ。もっとも一方は否定するかもしれないが。
(「デウスエクスをおびき出すために囮がいるんだから! 囮だから仕方ないわね!!」)
 内心の叫びは口に出さずに、千手・明子(火焔の天稟・e02471)は木製のテーブルにチョコを並べた。
 素直になるにはいい機会だとわかっていても、簡単に割りきれるなら苦労はない。
 並んで座っているのはドラゴニアンの男。威圧的な外見だが、実際には違うと明子はよく知っていた。
「バレンタインだからって、ずいぶんな数のチョコを用意してきたんだな、あきら」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が口を開いた。
「そりゃまあ、囮を引き受けた以上はしっかり盛り上げなきゃいけないからね。囮なんだから!」
 ことさらに強調する明子をアジサイは優しく――はたから見ると鋭く――見つめた。
 これでいい。明子は最愛の相手だが、だからといって性急に距離を詰めようとは思わない。
 咳払いを1つして、彼女は改めて話し始めた。
「それじゃ、今日はアジサイに利き酒ならぬ利きチョコをしてもらおうと思います! チョコって産地によって味が少しずつ違うのですって!」
「利きチョコ?」
「うん。目隠ししてチョコの産地を当ててもらうの」
 明子はそれぞれのチョコの産地を説明し始めた。
 タンザニア、ガーナ、ベネズエラ、エクアドル、マダガスカル……説明書きを読みながら、フルーティーだったりフローラルだったりローストナッツだったりするそれぞれの特徴を教えていく。
「それじゃ……まずは簡単なところからね」
 目隠しをしたアジサイの口に、明子は並んだチョコの1つを近づけて……それから、押し込んだ。アジサイは口の中で溶けていくそれを味わう。
「あー……ガーナ、とか?」
「すごい! よくわかったね」
「一応勉強したからな。さ、どんどん持ってこいよ」
 ちょっと得意気なアジサイだったが、当たったのはそれだけだった。
 美味しいと言いながらも産地は当たらない。
「なかなか当たらないわね。わたくしもちょっともーらおっと。分かる? アジサイ」
「……何? お前が食べてどうする。流石にお前が食べたチョコまで当てられ……いやまて、考えるから」
 当てずっぽうで言った国名は、皮肉なことに正解だった。
「今のが当たるなんて、すごいね。じゃ、次はこれね」
 乾いた笑いを漏らしたアジサイの口へと、明子は次のチョコを押し込む。
 アジサイが一瞬不思議そうな顔をした。
「ああ、これは簡単だ。あきらの手作りだな」
「えっ……なんでわかったの?」
「なんでって……そりゃ、手作りなら気づくだろ」
 事も無げに言うアジサイに、明子は耳まで真っ赤になってしまった。

●チョコを囲んでお茶会を
 公園の別の場所に、他のケルベロスたちも集まっていた。
「……あのお二人、まだ付き合ってはいらっしゃらないそうですね」
 用意したお茶をつぎながらパシャ・ドラゴネット(白露の虹橋・e66054)が言う。
 別に恋人がいないからといってバレンタインを楽しんではいけない理由はない。チョコレートはいつだっておいしいのだから。
 恋人がこの場にいない3人はお茶会を開いていた。
「大阪名物のケーキを用意してきたの。一緒に食べましょ♪」
 まるでたこ焼きのような形をしたケーキを出してきたのは、瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)だった。
「たこ焼き型なんて面白いね。ボクも面白そうなチョコ買ってきたから食べ比べてみようよ」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)も用意したチョコをお茶の横に並べた。
「面白いチョコが有ってねー、ピンク色してるの。着色料使わないでこの色なんだって! 食べてみよ!」
 非リア充である和にとっては、バレンタインとは面白い、あるいは珍しいチョコを食べる日だ。
 チョコレートを挟んで談笑する間に、パシャはお茶をいれる準備を始める。
「お2人ほど面白いものではありませんけど、僕が作ってきたスイーツもよかったら食べてくださいね。ちょっと作りすぎちゃったので」
 かわいいクマのココアマフィン。
 パリパリパイの生チョコサンド。
 バナナチョコエッグ。
 パシャが作ったスイーツにも、もちろん3人は手を伸ばしていた。
「面白くはなくても、手作りはやっぱり特別な感じがするよね」
 マグカップで紅茶を飲んで味覚をリセットし、和はパイにも手を伸ばす。
「ありがとうございます。どういったものが好きなのでしょう、気に入ってくれるでしょうか……想像して考えて作るのはとっても楽しかったです」
 パシャはそう言って微笑みを浮かべた。
 緑茶とほうじ茶のどちらがいいか聞いて、お茶をつぎ直した。
 それから、パシャがとある遊園地のゾンビを絡めたバレンタインイベントについて語り始めた。
 熱く語る少年の言葉を聞きながら、千紘はこの場にいない男のことを思い出していた。
「清士朗ちゃんへのチョコも買いましたし、早く帰って手渡したいですわ」
 別の場所でやはりデウスエクスの襲来に備えているはずの、青い瞳の青年。
 彼がそばにいてくれない時はいつも寂しさを感じるし、自分以外の誰かと一緒にいるのは嫌だと思う。
 そして、そんな気持ちになるくらい、彼との生活は楽しくて愛おしいのだ。
「チョコを渡したら、清士朗ちゃんはどんな反応をするかしら」
 それが今から楽しみだ。
「来年は手作りに挑戦したいわ」
 研究のために彼女はパシャが作ったスイーツに手を伸ばす。
 茶飲み友達である彼に、今度作り方を教わるのもいいかもしれない。

●果たされる約束
 そしてもう一組のカップルもまた、バレンタインの魔力を高めていた。
 仲睦まじくベンチに腰かけているのはオラトリオの女性と青年。
「バレンタインのチョコです。我ながら上手にできたと思いますから、味わって食べてくださいね、瑠璃」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)が、丁寧にラッピングした箱を開けて、婚約者へと作ってきたチョコを見せる。
「ありがとう、沙耶さん。とても美味しそうだね」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が微笑を浮かべる。
「そう言ってもらえると嬉しいです。はい、あーん」
 色白の指で箱に入ったチョコを1つ手に取り、沙耶は瑠璃へと差し出した。
 口を開けた瑠璃に食べさせてやる。
「ああ、本当に美味しい」
「愛情込めて作りましたからね」
 賞賛の言葉を漏らす彼に、少し得意げに沙耶は告げた。
 幼い頃からの婚約者である2人は、箱が空になるまで思い出話に花を咲かせた。
 笑みを深めていく沙耶だったが、中身が減っていくにつれ瑠璃が表情を固くしていることに気づいていた。
 箱が空になった。
 片付けようとした沙耶の手を……突然、しかし優しく、瑠璃がつかんだ。
「……沙耶さん」
 真剣な瞳で見つめられて、思わず沙耶は姿勢を正す。口の中が渇いている気がして、つばを飲み込む。
「僕、18歳になったんだ。ようやく沙耶さんと結婚出来る」
 瑠璃の藍色をした瞳から目を離せぬまま、彼女は赤い瞳を大きく見開いていた。
「正式にいうよ。僕の奥さんになってください」
 はっきりと言葉を聞いたその瞬間、目元がうるんだのを自分でも感じる。
 ゆっくりと息を吸い、沙耶は言葉を返した。
「ああ、幼い頃の約束がやっと現実になりますね。はい、喜んでプロポーズをお受けしますよ」
 力強い瑠璃の腕が沙耶を抱きしめる。まだ片付けていなかった箱がベンチに転がる。
 唇の柔らかな感触と共に、幸せな気持ちが沙耶の胸に広がっていった。

●邪魔者を駆除しろ!
「気をつけてください、瑠璃さん、沙耶さん!」
 パシャの声が公園に響いたのは、2人がキスを交わした直後だった。
 邪神植物トソースが高まったバレンタイン魔力を察知して2人の周囲へと転移してきたのだ。
 いや、2人だけではない。明子とアジサイの周りにも次の瞬間には敵がいた。
 さらにお茶会のテーブルの周囲にも。
「はっきり言って迷惑だよね。纏めて退治しちゃおうか」
「はい、迷惑千万ですね。根こそぎ駆除しましょうか」
 触手による攻撃をとっさに回避し、沙耶と瑠璃が頷きあう。
「これで店じまいだぜ! みんな、すぐに避難するんだぜ!」
 露店をながめていた人々に叫んでから、タクティはミミックと共に走る。
 彼が気をつけていたおかげで、公園内に一般人はほとんどいない。
「こちらケルベロスでっす! デウスエクス警報だよ! みんな逃げてー!」
 わずかにいた者たちも和のはっきりと通る声を聞いてすぐに走り去っていった。
 次々に現れるデウスエクスの数は、すでにケルベロスたちの数を上回っているようだ。
「ミミック、仲間と逃げ遅れた人たちを守るんだぜ!」
 サーヴァントに指示を出しつつ、タクティは激しいブレスをトソースの群れへと吐き出した。
 ブレスの中で触手の塊のうち何体かが溶けるように消えていく。
 そんな彼を含めた前衛を和が起こした爆発が彩り、鼓舞する。
「こっちは通行止めだよ!」
 爆破スイッチを手にしたまま、和はミミックよりも素早くトソースと逃げる人々の間に割り込んでいた。
 ミミックは財宝の幻影をばらまきながら別な方向の入口をふさぐ。
 その間に、身構えた他のケルベロスたちもトソースへと攻撃を加え始めていた。
「ゾンビみたいにチョコをくれるなら捕まってもいいけど、食べられるのは遠慮させてもらうね」
 パシャは敵から距離を取り、戦場の様子を確かめる。まだ回復が必要な状況ではない。
「迷える我らを救いたまえ」
 祈るような言葉と共に、雪の結晶を象った魔法陣を彼は空中に描き出した。
 白く輝く陣から現れたのは、雪と氷の妖精たち。楽しげな笑い声を響かせながらも、妖精たちはトソースの間を踊り、霜で足元を覆っていく。
 和やミミックとは別な方向の出入り口をふさいでいるのはアジサイの巨体だ。
 その背後では明子がキビキビとした動きで人々を素早く避難させている。
 迫ってくるトソースの前に立ちはだかったアジサイの手に、無数の手裏剣が現れた。
「行け!」
 合わせて60枚もの卍型をした刃が弧を描いて近くまで寄ってきた敵を一気に切り裂く。
 さすがに守りを固めながらの攻撃ではザコといえども倒れないが、後方でさらに明子が動いた。
「白鷺の足下に沈むがいいわ!」
 彼女の言葉と共に剣が天よりこぼれ落ちて降り注ぐ。
 傷ついたトソースたちを剣が貫き、敵が消え去っていく。
 倒しても倒しても、敵は次から次へと現れる。
「数は多いが手強いのはいなさそうだなだぜ」
 呟きながらタクティがガントレットから光の輪を放つ。倒しきれなかった敵をミミックが噛み砕く。
「こいつらの本名はチョコレートソースだとか。エンカウントするチョコなんて千紘は願い下げ……でも、意外性は彼が大喜びしそうなのです」
 千紘が破壊力抜群のガトリングガンを敵の群れへと構える。
「ここは、捕獲してプレゼント! 冗談なのですよ~♪」
 真紅のハート型弾丸を嵐のごとく放って、トソースたちを一気に砕く。
(「ちゃんと無事に帰りますから、清士朗ちゃんも、どうかご無事で」)
 願いながら、彼女は戦いを続ける。
 ……そうはいっても、敵はいっこうに尽きる様子を見せなかった。
 時間がしばし経過し、瑠璃と沙耶は敵の真ん中で背中合わせに戦っていた。
「瑠璃、何体倒しました?」
「数えきれないよ。20は超えてると思う」
 背中越しでも聞き逃すことのない声を2人は交わす。
 打撃役の2人は他より倒した数が多いだろうが、それでも全員で100以上倒しているだろう。
 少しずつ負傷も増えてきている。
 沙耶の召喚した氷河期の精霊が吹雪で敵を薙ぎ払い、氷漬けにしていく。
「意志を貫き通す為の力を!! 全力で行くよ!!」
 落としきれなかったうちの1体を、太古の月の力で作り出した剣で瑠璃が断ち切り、トドメを刺した。
 いかに弱い敵でも100を超す敵が相手では無傷とはいかない。
 だが、倒れるものがいないのは防衛役のおかげだろう。
 トソースの無数の目が輝きを放つ。
 その前に素早く和が割り込んだ。
「ボクも目からビームを使う者……お前達とは雌雄を決せざるを得ない! どっちがすごいか、いざ尋常に勝負……」
 閉じていた目を大きく見開く。
「目からビーム!」
 放たれた無数の輝線に、和の眼が放つ光線が激突して公園の中を照らす。
 これで幾度目かになる勝負に勝利し、和のビームが敵を焼く。
 自分たちを上回る威力のビームで打ち落とされて、生き延びたトソースたちが枝をこすり合わせてざわめく音を発した。
「敵の数、減ってきてます! がんばりましょう!」
 パシャの声と共に、癒しの風が戦場に吹きわたる。
 ケルベロスたちの傷がふさがっていく。
 徐々に蓄積していくダメージに、最初は攻撃に加わる余裕があったパシャが今は回復に専念している。
 やがて、敵の数が目に見えて減ってきた。
 和のビームが、瑠璃が広げた霜の領域が、沙耶の召喚した戦車が、アジサイの手裏剣が、明子の火球が……一気に敵を削り取っていく。
 パシャはダメ押しとばかりにオウガメタル粒子を放って支援をしている。
 敵の前衛が全滅した。
「これで終わりですわ。舞って散り逝け 彼岸の果てへ」
 神楽鈴を手にした千紘の姿が巫女服へと変わり、牙鳴らす狐火たちが敵の中衛を一気に焼き尽くす。
 残った後衛へタクティが拳を固めて一気に接近する。
「喰らうんだぜ! 碧晶ッ……龍牙ァ!」
 ハンマーガントレットで大地を叩くと衝撃波が巻き起こり、それが結晶化して敵を一気に貫く。
 200近かったであろう敵は、それですべて倒れた。
「片付いたんだぜ。みんな、お疲れさまだぜ」
「全員無事でよかったね」
「ええ。一般人にも被害は出ませんでしたし」
 タクティの言葉に、和やパシャが頷く。
「清士朗ちゃんも無事かしら。早く会いに行きたいわね」
 千紘はすでに遠くをながめている。
「片付けたら帰りましょうか。結婚式の話も進めなくてはいけませんし」
「そうだね。忙しくなりそうだ」
 視線を交わしあう沙耶と瑠璃。
 2人を見て、明子は一瞬だけアジサイを見た。そして真っ赤な顔でうつむく。
 アジサイはそんな彼女の背を優しく撫でた。
 バレンタインを守りきり、ケルベロスたちは帰還していった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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