バレンタインフェアと称して、バレンタインが過ぎたあとも、数週間は開催が続行される、とあるレストラン。
きらびやかなビュッフェ台に並ぶ、チョコレートがベースのスイーツ。
パンナコッタ、ガトーショコラ、ロールケーキ、ラズベリーチョコレート、シフォンケーキ、タルト、クッキー、プラリネ、カップケーキ、チョコレートケーキ……と、並んでいる。
チョコレートはホワイトやビターやミルク、をそれぞれ分けて使っており、甘いものが多少苦手な人でも、ビター系のスイーツを選べば楽しめるはずだ。
更に、旬のイチゴを使ったスイーツも有り、およそ10種類以上の数となっている。
一般人たちがビュッフェを堪能していると、異形の者が乗り込んで来た。
『バレンタインめ、許さん! どいつもこいつも浮かれやがってェーッ! バレンタインに関わる全て、絶対に許せない! チョコスイーツとか! 破壊してやるぜェーッ!!』
嫉妬の雰囲気を思いっきり出しつつ、ビルシャナは襲い掛かった。
「エヴァリーナ・ノーチェさんの推理により、予知出来ました。個人的な主義主張でビルシャナ化した人間が、個人的に許せない対象を襲撃する事件が起こりますので、解決をお願いします」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がエヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)に礼を言ってから、資料を手渡す。
「襲撃されるのは、このレストランです。チョコスイーツビュッフェが開催されているので、襲撃対象となったのでしょう。今回のビルシャナには、その主張に賛同している一般人……つまり、信者ですね。信者が10人居ます」
戦闘になると、ビルシャナが撃破されるまでの間、信者はサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加して来る。
人数が多ければ、ケルベロスたちが戦闘で不利になることは間違い無い。
何故なら信者は一般人。
もしも戦闘になってしまえば、殺したり傷つけたりしないよう、手加減や注意力が必要となるからだ。
「ビルシャナの主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、信者を無力化出来るでしょう。言動からして、バレンタインやチョコレートを嫌っている……というより、なんというか、嫉妬している気がしますね。そこを突いてみたりしてみると良いかも知れません」
セリカは説明を終えると、微笑む。
「当日は貸し切り状態となっています。討伐後、ビュッフェを楽しめると良いですね。どれも美味しいようですよ」
参加者 | |
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エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455) |
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322) |
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937) |
エステル・シェリル(幼き歌姫・e51474) |
白樺・学(永久不完全・e85715) |
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736) |
●
「いろんなチョコスイーツが食べられる依頼と聞いてやって来たよ! ビルシャナをのめしてからチョコスイーツを堪能する!」
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)が気合いを入れるかのように、拳を天に向ける。
「お店に被害を出さない場所で迎え撃つよ」
レストランに入らせまいと、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)は出入り口付近に立ちふさがる。
『チョコスイーツは破壊だ! ゆこう、同志達よ!』
丁度そこへ、信者を引き連れ、ビルシャナがやって来た。
(「チョコスイーツを破壊とか、甘いお菓子への冒涜だよね。そんな事は絶対に許しちゃいけないんだから」)
強く決意し、エステル・シェリル(幼き歌姫・e51474)が一歩前へ出た。
●
「チョコが貰えないバレンタインは、やっぱり寂しいよね。そんな貴方達に、私からの特製のチョコレートをプレゼントするよ」
購入しておいたチョコレートを、すっと差し出す、エステル。
ビルシャナは驚愕し、信者たちもどよめく。
震える手で受け取った信者の1名が、あまりの幸福感から我に返った。
『ツインテールの可愛い女子からチョコ貰えたから破壊とか、もうどうでも良いっす』
元信者1名はそう言い残し、貰ったチョコを大切そうに抱えながら去ってゆく。
「そも、バレンタインというと……この場のようなビュッフェとかは、関係がないように思うのだが。あれはチョコを相手に贈る文化なのだろう?」
エステルのプレゼント攻撃に頷きつつ、白樺・学(永久不完全・e85715)が核心を突く。
「例えば、このようにして……」
学は、上手くラッピングされた包みを取り出し、差し出す。
「一応僕自身で調べつつ作った、味は悪くないはずだ。……昨今では性別に関係なく贈ることもある、と聞いたものの、やはり、男からでは嬉しくないのだろうか」
『イタダキマァスッ! 可愛い子からの手作りチョコ……え? 男? この際どっちでも良いよ!』
ドキドキと緊張し、硬直している信者の中から、2人目が素早くチョコを受け取り、正気に戻った。
ビルシャナが注意しようとする前に、その者はチョコを持って早々に立ち去ってしまった。
『一度は信者になった癖に浮かれやがってぇーッ!』
ビルシャナは悔しそうに、地団太を踏む。
残った信者たちもそれを見て、気持ちを引き締め直した。
「浮かれるではなく、文化を理解したかったのだがな……受け取ってもらえるならば、残ったお前たちの分も、お前の分も揃えて用意はしてあるぞ」
学はビルシャナの分も用意していたが、ビルシャナは、かたくなに拒否。
「要らない、か?」
『あ、要ります! くださいっ!』
愛らしい表情にかげりを落とし、ちょっとしょげてしまった学を見て、胸を痛めた3人目の信者が挙手する。
「バレンタインは浮かれてる。本当に、そうかな……?」
眠たげな瞳を向け、オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)がビルシャナの気を引くようにして、問う。
「確かにカップルが増えて、浮かれちゃう人も、いるかも。でもその中には、バレンタインって日に背中を押してもらって、一生懸命チョコ用意して告白したけどダメだった人も居るはずだよ」
『なにが言いたい?』
オリヴンの言葉に耳を貸していたビルシャナは、怪訝そうに尋ねた。
「バレンタインは、沢山の人が勇気を出す日、なんだと思うの」
『感動した……俺、バレンタインを誤解してた。気付かせてくれてありがとう』
4人目の信者が涙を流しながら、オリヴンに礼を言う。
正気に戻った2人は、ビルシャナを見て恐れおののき、脱兎の如き勢いで逃げ去った。
『おのれぇー! 全てバレンタインの所為だ! 許せんッ』
猛烈に怒り出し、残る信者たちに釘を刺そうとするビルシャナを呼び、正面からじーっと目を見据える、エヴァリーナ。
「鳥さんはバレタンインに一人ぼっちな人達、略してバレぼっちなの?」
エヴァリーナは、ビルシャナの意識を引きつけるつもりで、グサリと突き刺さる問いを放つ。
「鳥さん、泣いちゃうかもだけどチョコスイーツを守るためだもんね。しょうがないよね」
「エヴァリーナ嬢、チョコレートスイーツのほうが大事なのだね」
ビルシャナたちに聞こえないよう、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)は小声で、ほんの少し楽しげに呟く。
「それにね、今やバレンタインは経済効果は千億円以上なんだって。つまり、バレンタインでチョコが売れれば売れるほど世界経済はまわるの、です!」
「そうだねぇ……今がシーズンだから、材料の良く出回るチョコレートフレーバーが推されているだけだ。ここはスイーツを楽しむ飲食店だから、旬が終われば春らしいフェアが始まるだろうよ」
オリヴンの力説に頷き、外壁に貼られた春の予告ポスターを指差す、ディミック。
「少しの間スルーすれば、バレンタインとは無関係のスイーツビュッフェに戻る店を滅ぼすのは……やりすぎではないのかね?」
ディミックは正論で、舌戦に挑む。
確かに滅ぼすのはやりすぎだと思っていたのか、5人目が恐る恐るビルシャナから距離を取った。
●
「それに……どちらかといえば客層は恋人たちよりも、友人同士や家族連れのほうが多いように思うがねぇ……バレンタインの何が妬ましいのか、よく考えてみたまえ」
ディミックの雄弁さに圧され、信者たちの困惑ぶりが見てとれる。
「丹精込めて作られた食べ物を粗末にするのはもったいないよ! されて嫌なことはしない! だから一旦落ち着こう」
反論は出来ず、しかし表情は険しいものに変わってゆくビルシャナを見て、信者たちがざわめきだす。
そこへ掛かるのは、クロウの声だ。
「そもそもなんでバレンタインデーが嫌いなの? チョコ自体が嫌い? それともチョコが貰えないから?」
もちろん後者だが、堂々と言えるものでは無く。
信者たちの目が泳ぎ、ビルシャナも沈黙する。
「チョコは美味しいしチョコに罪は無いんじゃないかなぁ。お口でとろける生チョコ……宝石みたいなチョコアソート……噴水のようにわき出すチョコファウンテンに色んなフルーツ付けて……とか考えるだけでワクワクしない?」
エヴァリーナの魅力的なチョコレート語りに、6人目と7人目が陥落した。
どうやらチョコレートが特に大好きな2人だったようだ。
「チョコが嫌いじゃなかったら、自分がチョコをあげるからそれで気を休めてほしいな。よーし、いくよー!」
それを見たクロウは、まだ居るだろうと判断し、やや離れた場所からチョコを全力で投げる。
「どうかな? 苦労して作ったスピナーチョコなんだけど……」
『ウオオオッ! スピナーチョコォオオ!』
飛び上がった8人目が、上手くキャッチ。解放感から、咆哮をあげている。
「わーい」
いつの間にかエヴァリーナも喜んで受け取り、美味しそうに食べていた。
「本当は貴方達も甘いものが食べたいのじゃないかな? 甘いものを食べると、幸せな気分になるらしいよ」
エステルの説得に応じ、9人目が正気に戻る。
「チョコはバレンタンインの為だけのものじゃないって証明するためにも、一緒にチョコスイーツ食べようよ。貰うんじゃなくって一緒に食べるの、いいと思うんだけどな」
エヴァリーナが、もっととチョコレートをクロウにねだりつつも、ちゃんと説得は行なっている。
「皆で一緒に、スイーツビュッフェを堪能しようよ!」
「ね、みんなも一緒にチョコ食べて、世界景気を……いえ。世界を、救いましょう……!」
『大勢で一緒に甘い物を食べるの、実は大好きなんだ』
エステルとオリヴンが畳みかけると、10人目が本心をさらけ出した。
信者全員を正気に戻すことに成功し、戦闘の影響が及ばない位置へ気さくに避難させる、ディミック。
「きら、きら。凍るよ」
オリヴンが迅速に繰り出す、透明度の高い氷の破片が敵を襲う。地デジは回復中心に立ち回っている。
「光の剣よ、私に力を貸して頂戴ね!」
指輪から光の剣を具現化し、敵を斬る、エステル。
避難している一般人たちへ被害が及ばぬよう気を付けながら、初老の紳士、ディミックは戦況を読む。
「おい待てそのメモはまだ記録中だ捨てるなァァ!!」
ヒールや攻撃や説得など、対象へ与える影響を観察し、逐一メモをとっていた学が、唐突に叫ぶ。
助手がメモを捨てようとしていたからだ。
「経験とは積み重ねるものだよ」
ディミックは柔らかく笑み、静かな口調で学に伝えながら、後光により放った光線が敵を貫く。
オウガメタルを鋼の鬼と化し、鋼の拳で敵を殴りつける、学。助手も攻撃に加わる。
「一気に攻めるよ!」
敵に攻撃をさせる瞬間すら与えない、怒涛の連携。
全員が、全員の感情を活性化させた為に成しえた好機。
クロウは煌めく飛び蹴りを打ち込み、ワカクサも攻撃に入る。
「チョコスイーツヘヴンするために、早く終わらせるんだよ。鳥さんはいい夢でも見てね」
深紅に輝く魔眼で敵を見据える、エヴァリーナ。
夢は夢でも、悪夢だった。
『ウウ……何故オマエは俺に毎年チョコの報告をする……そして何故、好きになった子が全員必ずアイツにチョコを……!?』
鮮鋭な攻撃に敵は力尽き、ぼそぼそと言い残したあと、完全に消滅した。
●
「戦場で荒らされた箇所をヒールで修復するね」
「正気に戻った元信者さんも、一緒に食べるかい?」
エステルと共にヒール作業を行ない、ディミックは残った一般人たちにも声を掛ける。
「女の子にチョコあげるのもいいと思うの」
エヴァリーナが、学のチョコをじっと食い入るように見つめている。
「チョコ……多少用意し過ぎたな。これからビュッフェだというのに、食うわけにも……ん、引き取り? 良いのか? では、任せようか」
学が余ったチョコをどうしようかと悩むも、エヴァリーナの視線に気づき、残りをまとめてどっさり渡す。
「ブッフェへGo……!」
エヴァリーナは学から貰ったチョコを嬉々として食べ、目をきらきらと輝かせながらレストラン内へ。
「エヴァはあの体のどこにあんなに沢山スイーツが入るんだろう……? 学から貰ったチョコの量も相当だったのに!」
並ぶスイーツ類やファウンテンに瞳を輝かせ、片端から全種制覇を始めたエヴァリーナを見て、クロウは驚かずにはいられない。
「端から端までいきます……!」
「オリヴンも!? よーし、自分たちも負けじと食べるよワカクサ!」
普段はおっとりとマイペースだが、スイーツを目の前にした時はテンションがアップする、オリヴン。
それに再度、驚くクロウだが、肩の上に乗せているワカクサへ意気込んで話し掛けると、ワカクサは小さくコクコクと頷いた。
「みんなで食べよう! せっかくだから持ってきたチョコの感想も聞きたいなー」
「うん、皆でチョコスイーツビュッフェを満喫したいな」
クロウの言葉に、エステルが頷く。
「ビュッフェを堪能しようか。味でも何でも、知らぬものを知れるというのは心地好いものだ」
学は仲間からオススメを聞いたりし、オリヴンの言葉に意識をかたむける。
「ベリーや果物沢山のチョコレートパフェは夢の宝石箱……フォンダンショコラは濃厚さを楽しんで……ビターもスイートも大歓迎です!」
オリヴンが仲良しの地デジを膝に乗せ、幸せそうにうっとりと告げた。
頷き、学は早速、チョコレートパフェやフォンダンショコラを仲間に見分けて貰ってから、食べ始める。
爽やかな果物と口どけが抜群の、濃厚なチョコレートパフェ。
フォークを入れると、中から温かいチョコが溢れる、外はさっくりとしていて中は濃厚でやわらかな、フォンダンショコラ。
食感とその美味しさに、学は驚きを隠せない。
「食事が不要といえど、その楽しみまで無いわけではないからね。私もこの星で暮らすことになった以上は、食の愉しみ方は心得ておきたいとも」
ケーキやパンナコッタなどの、持ち運びしにくくて現地で食べたほうが楽なメニューを選ぶ、ディミック。
濃厚でなめらかな口当たりのパンナコッタを、ディミックは優雅に愉しむ。
「わぁ、甘い食べ物が一杯あるなぁ。どれから食べるか迷っちゃいそう」
エステルは端から端までを見てゆき、甘い香りと共に、果物やクリームによる色合いも楽しめる。
「他の人達の分まで食べ尽くしちゃダメだけどチョコケーキはホールで丸かじりしたい……!」
間にビターやフルーティーなスイーツを挟み、味の変化を楽しみながら、エヴァリーナは葛藤していた。
頭の中はチョコスイーツでいっぱいだが、エヴァリーナは迷惑にならないギリギリの限界を見定めて、食べまくっている。
無尽蔵の大食いだが、マナーは心得ている、エヴァリーナ。
「……あっ大変だ、ワカクサがチョコの食べ過ぎで板チョコ属性に!」
チョコレート色に染まっているワカクサを見て、焦るクロウ。
「美味しくて栄養にもなる、大した発明だねぇ」
ザクザク食感のディアマンショコラクッキーを味わい、それに合う紅茶をたしなむ、ディミック。
時にはシェアしあったりし、ケルベロスたちは幸せそうにチョコスイーツを満喫した。
作者:芦原クロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年2月22日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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