エアコンダモクレス

作者:大丁

 8畳ほどの部屋には家具がいっさいなく、荷物のたぐいも見当たらなかった。
 雨戸の隙間から挿し込む光で、薄暗いながらも、元の住民が残していった唯一のものがわかる。
 壁にかかったエアコンだ。
 ここは、取り壊しが決まっているアパート、その二階の一室である。
 放置された機械に、虫のような脚を生やした宝石が這いよっていく。ダモクレスのコギトエルゴスムだ。
 憑りつき誕生したエアコンロボは、まずは人間を求めて動きまわれるように、みずから室外機との連結パイプを外した。

「というわけで廃棄家電ダモクレス、エアコンロボを倒してほしいのね」
 軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、集まってくれたケルベロスたちに、予知と依頼の主旨を説明していた。
 この後すぐ出発するので、コギトエルゴスムがエアコンに憑りついた直後に、現場の部屋に到着できる。アパートにも周辺にも、一般人はいない。避難誘導などは考慮しなくていい、とのことだった。
 そこまでの調査を行ったのは、星乃宮・紫(スターパープル・e42472)だと、冬美は紹介する。
「本当に助かったわよぉ。住宅地ではあるから、もしダモクレスが移動を始めていたら、どんな被害になっていたか」
「いえ……そんな、私はちょっとお手伝いしただけで……」
 紫は、みんなの前に出されて、おどおどと答えた。冬美は微笑むと、席に帰してやる。
「エアコンロボは、ほぼ元の形状と大きさを保っているけど、室外機を必要とせず、壁を這うように移動する。送風口からの冷気で氷柱を作って飛ばしてくるから、『アイススパイク』とほぼ同じ攻撃ねぇ。遠方の1体を狙い、氷柱が当たれば服を破りとられるのよぉ」
 事前に察知できたと言っても、本番はこれから。依頼参加者たちは覚悟をきめたようだ。
「ブリーフィングは以上ぉ。ヘリオンに乗ってね。レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
除・神月(猛拳・e16846)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)
星乃宮・紫(スターパープル・e42472)
ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●空き部屋に蠢く
「パープルマスターズナックル!」
 星乃宮・紫(スターパープル・e42472)が、アパートのドアを殴り飛ばして入ってきた。お手製のヒーロースーツ、『スターパープル』に扮装済みだ。
 この時の彼女は、おどおどした様子のない、勇猛果敢なクラッシャーなのである。
 浴室への扉と手狭なキッチンに挟まれた、短い廊下から押し出されるように、8人のケルベロスは8畳間になだれ込んだ。
 チャイナドレス風武術着の裾を振り乱し、除・神月(猛拳・e16846)は獣拳撃を対面の壁に叩き込む。そこには、ダモクレス化した家電、エアコンロボが張り付いている、はずだった。
「なんダ、こいツ? はえーゾ!」
 パンダ化した腕が、外壁を破って軒下に突き出てしまう。
 猛拳を避けた廃棄家電は、薄暗い室内をガサガサと這って、一団の側面に回り込む。
 ガートルード・コロネーション(コロネじゃないもん・e45615)は、革製ドレスアーマーで両手を広げ、仲間を庇おうと横歩きするが、そのディフェンスを抜かれた。
 送風口に伸びた氷柱が、パキパキと折れて飛んでくる。スターパープルの衣装に刺さって、紫(ゆかり)の身体から剥ぎ取った。
「くぅ……! エアコンダモクレス、姿を確認した今でも信じられないわ!」
 ヒビの入ったゴーグルごしに、睨みつける。押し入れ扉の上あたりを行き来する動き。こんなものが、世の中に出てしまっては一大事。
 紫は、キックにいこうと構えて、そのまま腰砕けになった。
 冷える。アイススパイクをくらい、寒々とした部屋に、まるはだかなのだ。
 よろけた裸身を、ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)が支えた。
 床の真ん中は、ほぼ彼が占拠していた。2m半を越す鋼の身体は、アパートの天井につっかえている。屈んで、膝の間に紫を立たせると、黄金掌をかざして治療する。
「紫嬢のことは任せなさい。さあ、覚醒したばかりのダモクレスを、二度と起こさんようにな」
 ケルベロスらは、剣に刀にと、白い直方体を追い回した。機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の攻性植物が巻き付くが、捕まえておくには、まだ不十分だ。
 斬霊刀を振りつつ、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)はへきえきする。
「台所の悪魔、Gのような動き。……これが本当の白い悪魔か。うぉ!」
 蒼眞(そうま)に氷柱が繰り出された。
 今度こそディフェンダーが守る、と真理が蒼眞の頭を押さえた。突起が、フィルムスーツを細かく破いていく。
「もっと、くっつくです』
 矢面に立ち、彼を背後にかくまう。残ったアームドフォートの武装は、肌に直付けした。
 射撃した先に、敵影はもうない。後ろに回り込まれ、結局は蒼眞も下半身を晒す攻撃を被る。
 男性の局部は、ヴァルキュリアブラストを構えていたおかげで、雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)には光で遮られた。
「この季節に寒そうな敵だねっ」
 光ったまま、体当たりする。
 黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)は、詠唱のあいまにぼやいた。
「エアコンでも冷房なのよね? 勘弁してほしいわねぇ。『彼の者を束縛せよ』」
 外壁にあいた穴から『アースヴァイン』が侵入し、真理の植物と協力してロボの多足を封じようとする。
 ボクスドラゴンのナハトもブレスで、絡み合う蔓を援護した。にもかかわらず、巧みにかわしたダモクレスは、伸びた氷柱で紫織も剥いだ。
 ついで、藍奈(らな)を標的とし、アイススパイクはフィルムスーツをつつく。
 強度も防寒も十分ゆえ、下にサポーターなどを用いていないため、藍奈は即、すっぱだかだ。
 詠唱を続ける紫織は、どうということもない顔をしているが、藍奈は、涙目でパニック気味である。
「やだーっ! 見ないでーっ!」
 そう言われてしまうほど、蒼眞は凝視していたわけで、遅ればせながら目を逸らした。
 真理の尻に顔を埋めるかたちで。

●封じる決め手
 薄暗い天井付近にいる敵を狙うべく、真理はフォートレスキャノンを精密にしようと、しゃがみ撃ちの姿勢をとった。
 砲口の仰角を大きくつける。
 背中に、というかお尻の後ろに蒼眞を庇っていたのを、忘れている。体勢は安定したが、それは顔の上に座っていたからだ。
 ふたりを突き飛ばすかたちで、ガートルードが廃棄家電ダモクレスからの撃ち返しをかばった。バトルドレスは引き裂かれる。
「やっぱり、建物が古くなってて!?」
 床がアイススパイクで抜けた。
「うぐう! ガートルード、それは俺のッ!」
 とっさに掴んだのは、蒼眞の一部。ぎゅっと、温かな感触が、ガントレットごしの左手にも感じられた。
 冷気渦巻く戦場で、人肌の温もりである。
 そして、硬い。真理に鼻先をくっつけてたから、ヒートアップしてたんである。
 床に開いた穴からガートルードが落ちそうになり、引っ張られた蒼眞も、掴んだ。
 むぎゅっと、真理の尻肉を。
「きゃあ! ド、ドローン、攻撃支援陣形です!」
 真理は自分で射出した無人機にぶら下がる。
「助かりました、真理さん!」
 ガートルードの身体は、わずかに引き上げられるものの、すぐに止まった。蒼眞が彼女の裸体を見下ろして、掴まれてるモノを反り返らせただけだった。
 いや、かなりの頑強さだが。
「ええええ?!」
 状況をなんとかしようと、左手に隠されたワイルドスペースを、3人に浴びせる。
 そうこうする間にも、武術着から剥かれた神月(しぇんゆぇ)まで、落っこちてきて、床全体がほぼ抜けたような大穴になってしまう。
 神月も助けようと、ガートルードが足でカニばさみにしたら、その股間にも神月の鼻先が突っ込む形になる。
「ひんっ! ああ」
「おーイ。あたしの足がつくゼ。真理は踏ん張らなくていいかラ、手を離してみろヨ」
 階下から聞こえる指示に従い、ドローンを戻すと、4人肩車がひょろひょろと立っている。ガートルードの上下でリバース式だ。
「いーこと、考えたゼ。このまんま、一太刀を浴びせるんダー」
 神月がまた、無茶を言った。力ある文字が輝く。ルーンディバイドのごとく、割れるところに吸い寄せられると、ガートルードの身体は傾いていった。
「は、はい! 私は溜め斬りです」
 溜めた筋力で、絞るように柄を握る。それは、両手に余るほどのヒートアップした、蒼眞自身だ。
 ワイルドインベイジョンで、肉体の一部に、暴走時の特徴を与えるはずが、一部の肉体が暴発寸前になっている。
「うわー。俺は動かなきゃいいんだよな?」
 腹部にドローンが集まってきて、破壊力をアップさせた。
 真理が背部ユニットから出したチェーンソー剣を固定して、切っ先担当となる。
「アサルトフォーメーション、ワイルドディバイドです!」
 壁ごと、縦一文字に、エアコンロボの外装を切り裂いた。
 ギシギシと異音をたてて、機械は苦しむ。
 その様子を、紫は身を起こして視た。
「壁を……無くせば、動きを阻害できるはずよ!」
 応じて、ディミックが仲間に声をかける。
「梁や柱を残して攻撃するんだ。建物全体の倒壊は防げるぞ」
 勉強熱心ゆえ、地球の文化として、家屋に対して知見があった。
 肩車に支えながら、神月が下の部屋からも、叫ぶ。
「このアパートって取り壊し予定なんだロ?」
 握られたままで蒼眞は伝える。
「大家に確認してるぜ。解体したところは廃材も含めて放置でいいって」
「わかったわ。崩れやすさには気をつけましょう」
 紫織は、ペトリフィケイションの光線を連射する。敵本体に命中しなかったぶんが、壁や天井を削っていく。
 床の大穴を迂回するよう、上下に顔を向けながら、慎重に近づいていった。
 でも、自身の格好には頓着しない。サーヴァントのナハトも知らんぷりだ。
 胸と股を押さえたままの藍奈には、その大胆さが羨ましかったが、涙目なれどエアシューズで、穴のふちを紫織と逆回りに滑走し始めた。
 スターゲイザーの重力キックは、横壁にもヒビをいれた。
 蹴り抜けたさき、お隣さんの部屋に、紫織と藍奈はお邪魔する。
 紫の予想どおり、エアコンダモクレスは壁を壊され、残った梁にしがみついてるだけ。動きを封じたのだった。

●撃破への道筋
 浴槽もキッチンもぶち抜かれて、玄関戸口を広げながら、階段下へと放り出された。
 ディミックは、そこを通って、コンクリート地のアパート通路へと、紫を抱えて後退する。
 まだ、ガートルードは、握ったまま、振り回していた。
 蒼眞も、付き合いが良い。
「狭いアパートの一室で戦うなんて、互いの武器で同士討ちにならないか心配してたけど、自分がぶん回されるとは考えてなかったぜー」
「あたしを上にしてみねーカ?」
 神月の頼みを聞いて、真理はライドキャリバーのプライド・ワンに、4人を引っ張らせる。
「エアコンゴキ野郎~ウ。今度は、あたしらが縦横無尽になったナ。喰らい尽してやるヨ!」
 二階の天井の高さに昇ってきた神月は、両足で降魔真拳を放った。さらに『追式(ツイシキ)』に入り、むきだしの股間を誇るかのように、ガニ股で左右別々の蹴りを重ねる。
「はははハ!」
 仲間に支えられながら、心底楽しそうだ。
 グランドロンのディミックにとっては、驚き。
「先ほどから見させてもらっているが、ケルベロスも合体できるのだね」
「変身も、できるわよ!」
 スターパープルは、割れたゴーグルを予備にかけ直した。
 隣の部屋では、藍奈がまたモジモジし始める。
「し、紫織さん。あたし、もう限界かも……」
「気にすることはないわ」
 ことさら堂々とした裸で、紫織は言った。恥ずかしいであろう、藍奈を励ますつもりもあった。
「そうじゃなくて、漏れそう。寒いからお腹が冷えちゃったみたい」
「え」
 わずかでも驚いたような反応をみせるとは、紫織にしては珍しい。
「もしも、回転フルキックを使ったら、まき散らしちゃう」
 だが、ここで手を緩めるわけにはいかない。紫織は、氷結輪の投擲体勢をとる。
 藍奈も意を決して、梁を目掛けた。
「ヴァルキュリャー!」
 喰らわせた蹴り足は、床の穴を飛び越え、さらに隣の部屋との壁を破壊して、その床にたどり着く。
 背後では、クリスタライズシュートが命中した気配がした。冷気攻撃には、より低温度の冷気だ。
「ふむ。修復完了だよ」
 ディミックの黄金手が、紫に再びコスチュームを纏わせた。
「ありがとう。決着つけてくるわ」
 ムラサキ生地に、ゴールドのラインも追加されている。
「スターパープル二段変身!」
 ヒップアタックの姿勢で、エアコンへとぶつかる。全面パネルが割れて、エアフィルターがむき出しだ。
「パープルアッパー! パープルキィィック!」
 続く連撃で、シャフト型のファンがへし折れた。
 もう、なにも冷やすことはない。
 スターパープルが、下の部屋に着地するに続いて、エアコンロボは、バラバラの部品となって降り注いだ。

●住宅街の真ん中
「大事になるまえに敵を見つけてよかったです……」
 元の姿に着替えた紫は、静かに言った。後片付けは不要なので、ヘリオンとの合流地点に向かうつもりだ。
 蒼眞とガートルード、神月の3人は、アパートの解体を請け負った。ここまで壊したのなら、最後まで、というわけだ。
 ディミックは、柱と梁の処理順だけ助言した。
「鋼は冷気が良く通ってしまうから、ほどほどにして暖まりに行きたいねぇ」
「そう! 冷えちゃって、どうしようっ」
 藍奈は、はだかを隠すよりも、おなかを押さえている。アパートの水道が止まっているのは明白だ。
「ふむ。ヒールだけでもかけるかねぇ?」
 この辺りの生理機能は、ディミックはまだ勉強していなかった。
 紫織は、ナハトを封印箱に戻しながらも、自身は全裸のままだ。
「ヘリオンまで、走れば大丈夫よ。私も着替えは積んできてもらっているし」
「星乃宮さんには、先導をお願いしたいのです……!」
 真理は、いまさらながらに、戦闘中の所業で、真っ赤になっていた。プライド・ワンに跨って、エンジン以外の震えをみせている。
「そんじゃ、後は頼んだからね」
 ディミックが大きな腕を振ると、解体居残りの3人は、階段上から手を振り返した。
 彼と、先頭の紫以外は素っ裸で、住宅街を走っていくみんなの後ろ姿が、素抜けの二階からはよく見えた。
 ということは、周りからも丸見えの部屋で、蒼眞はガートルードの手を引いてくる。
「そんな、我慢できなくなっちゃったんですか?」
「あれだけ強い力でしごかれちゃあね。こっちも頼むよ」
 蒼眞は、そそり立ったシャフトを、誇示する。
「神月さんも、そのために残ったんでしょうか。だったら、お二人で……」
「ンー。隠れてやんのもいーけどヨ。せっかくだから、見晴らしいいーとこデ、なんてナー。でもヨ……」
 神月の指は、ガートルードのそこを、ディバイドした。
「一番は譲りたい気分なんだゼ」
 すっかり、濡れて準備ができている。蒼眞の両手が、豊満なふたりの胸を揉み始めた。
 青空をバックに、3人の影は重なりあう。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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