邪神植物トソース誘引作戦~貴女からの贈り物

作者:大丁

 表の看板には、『喫茶』とあった。
 大阪にある歓楽街、その中のビルのひとつで、地階にむけて案内が出ている。
 店内の照明は暗めだ。
 ソファの背もたれは高く、ふたり並んで座れるかわりに、テーブルをはさんだ対面には座席がない。
 あるのは、隣のソファの裏側なのである。
 バレンタインの今日、利用客は多かった。
 一組のカップルが席につくと、女性はさっそく用意してきたプレゼントを、男性に見せる。
「ねぇ、早く食べて♪」
「もちろんさ」
 上着を広げた首元に、赤いリボンが掛かっていた。男性が手を伸ばすと、なにやら別のところから、視線を感じる。
「んん……?」
「目? 草が生えて……あひいい!」
 蔓のような先に目玉のついたものが、天井からいくつも下がってきていたのだ。
「ぐぎゃあああッ!」
 男性はバレンタインのプレゼントを味わうことはできなかった。
 相手の女性もろとも、怪物に喰われてしまったからだ。
 邪神植物は、八つに分かれると、その増殖体がまた、残りの座席へと襲いかかる。
 バリボリと、不快な咀嚼音が、暗い店内に。

 ショッキングな結末を迎えるのは、予知の中だけでたくさん。軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、集まったケルベロスに依頼内容を説明する。
「大阪城の攻性植物に動きがあったのぉ。季節の魔力の一つである『バレンタインの魔力』を強奪しようと、強力な攻性植物が大阪都市部を無差別に襲撃するみたいね」
 襲撃してくるのは、『邪神植物トソース』。
 バレンタインを楽しむ男女を食い殺してバレンタインの魔力を強奪すると、その場で、分裂して繁殖し、さらなる犠牲者の元へ向かっていく。
 被害者が出てしまうと、ネズミ算式に数が増え、大阪都市圏は壊滅してしまうだろう。
「邪神植物トソースは、バレンタインの魔力が高まった場所に転移して襲撃を繰り返す性質があるの。予知にでてきたお店に協力を取り付けたから、ケルベロスのカップルだけで囮となって座席を利用し、バレンタインの魔力を高める作戦よぉ」
 がんばれば、100や200の邪神植物をおびき寄せる事が出来る。たいして強くはないから、大量に集めてすべて撃破して欲しい、とのことだった。
「目玉のついた蔓がたくさんあるような敵だから、ノゾキ趣味でもあるように思えたよ。だから……」
 冬美は、艶やかな視線をケルベロスたちに投げかける。
「バレンタインの魔力を高めるのは、恋人同士でなくても大丈夫だけど、本気を出さないと効果は充分にならないよぉ。レッツゴー! ケルベロス!」


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
叢雲・紗綾(無邪気な兇弾・e05565)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
除・神月(猛拳・e16846)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)

■リプレイ

●現地集合
 高い背もたれも、暗い照明も、こういう事をするためにある喫茶店なのだ。
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は、全裸を満喫していた。他の客からは一応見えないし、店員もめったにこない。
 素っ裸でソファに座り、コーヒーカップに口をつける。
 その隣には、除・神月(猛拳・e16846)もいて、彼女はチョコレートの包みをいくつも出しながら、やはり服も脱ぎだしてハダカになった。
 大股開きでふんぞり返り、片手をシフカの肩へとまわす。そのまま、抱き寄せると、耳元で囁かれた。
「除(すー)さん。皆の危険に対処するために、イチャイチャするというのはなんだか不思議な気分です」
「まあまア。バレンタインだっつーシ、方々回って探し出した面白チョコで、気分を盛り上げていこーゼ♪」
 恰好以外は、普通の女カップルといった風情だった。
「いらっしゃいませ」
 叢雲・蓮(無常迅速・e00144)と叢雲・紗綾(無邪気な兇弾・e05565)は、腕を組んで入店した。これで、現場にケルベロスが揃ったことになる。
 案内した従業員は、こっそりと店外へ脱出する手はずだ。
「紗綾姉、イスが片側にしかないなんて、やっぱり変なところだね?」
「ふふ、本当なら蓮くんにはちょっと早いお店ですけど……♪」
 二人とも、軍服のようなジャケットを身に着けているが、弟の蓮(れん)は前を開けていて、中はTシャツだ。姉の紗綾(さあや)はネクタイまでキッチリ締めていた。
 その紗綾が、むぎゅと蓮に抱きつき、座面で跳ねるほどの勢いで身体を投げ出す。
「はう。イチャイチャするなら横に居る方がやり易い……ってワケか」
 蓮のほうが、女の子のような声をあげた。並んで座り直すと、紗綾はリボンのかかった箱を見せてくっつく。
「あーんして」
 中身のチョコは、ひとつずつ口に放り込まれたが、やがて口移しになり、夢中で唇まで吸い合った。
  ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)は、チョコフォンデュの鍋を、ミニコンロにかけている。肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)に、ご馳走するため用意したのだ。
 苺やキウィ、パインにオレンジなんかのフルーツや、マシュマロやウェハースといったお菓子を添えている。
「肥後守(ひごのかみ)さん。ビターチョコにホワイトチョコ、苺チョコのフォンデュでいろんな味を楽しんでください」
「ありがとう、ベルローズさん。……えと、こちらの濃い色のは?」
 鬼灯(ほおずき)が、たずねたのは、口直しの珈琲味とのことだった。
 甘くて目移りしそうにカラフルななかで、ちょっと苦い。
 かすかに、心揺さぶられるものがある。
 別の席のテーブルの上には、開封されたプレゼント包みがあり、バレンタインとバースデーの両方を祝うメッセージが添えらえている。
 白と赤のワンピースドレスで腰掛けているのは、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)だ。いつもの、ビキニアーマーではない。
「自分で、湯煎して作ったのだが、どうだろうか?」
 白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)を膝マクラにし、一口サイズのチョコを食べさせていた。
「美味しいし、嬉しいのねん。ありがとー」
「そ、そうか。ハ、ハート型なのに意味はないぞ! これしか型が無かったのだ!」
 照れるエメラルドの隙をついて、永代(えいたい)は膝マクラの仰向けから、ひっくり返って下腹部に顔をうずめる。
「これは作戦。だからもっと大胆になっても良いのよん……チュウウ」
 布越しに吸い始めた。
「永代殿は、そんなところが好き、なのか……ああん!」
 そう、すべては邪神植物の注意をひく、作戦なのだ。

●潜む視線
 神月(しぇんゆぇ)の持参した箱のひとつを開けると、精巧な男型のチョコだった。
 隆々とした状態に、シフカは最初とまどい、次に神月の頬にキスをした。
「コレを、シェンユェのモノと思って……ということですね」
 恋人ならば、名前で呼び合うだろう、という芝居である。咥えて、舐め溶かすと中からホワイトチョコソースが出てくる忠実さ。
「んじャ、コイツはどーダ?」
 チョコレートのローション。互いに塗り広げるうちに、身体のあちこちに指が入ってしまい、芝居とは言えない喘ぎがでる。
 ついには、チョコまみれで、ふたりしてソファの上に登って立ち、シフカは背もたれに手をかけ、神月はその後ろから腰を押さえた。
 両方に、男性が模した商品を、刺して継ぐ。面白チョコではなくて、これは樹脂製だ。
「ああ、スグにイってしまいそう。シェンユェ、素敵です!」
「おほおオッ! シフカ、思いッ切り、ヤってやんヨ!」
 カクカクとソファが揺れる。
 前後の席は空いていて、他のケルベロスの組みも離れて配置してあった。
「あああああっ!」
「ほおおおオッ!」
 絶頂に達した姿を、蔓の先の眼球が覗く。
 軍服の紗綾は、テーブルをいっぱいまで、背中で押し下げた。床に跪く。
 その前で浅く腰掛けている蓮は、背もたれに身を預けて息を弾ませた。
「……はぅ、やん……」
「かわいい。女の子みたいな声です。むちゅ」
 Tシャツの裾から、剝き出しの茎が跳ねあがった。ズボンは履いてない。紗綾が脱がせたのだ。
 自分もネクタイを解いて、胸元をはだけると、大きな胸のあいだに挟んだり、手でしごいたり、はたまた口に含んだりして、気持ちよくさせる。
「ううぅっ……」
 そのたびに蓮からは、出てしまうのだ。
「雰囲気かな……、いつもより沢山な感じ」
 弟の出したものを、すべて口で受止めた姉は、ゴクリと喉を鳴らしながら頷いた。
 ふたりは、着ていたものをすべてテーブルの上に放り出し、対面になって座る位置になった。
「次はボクが可愛い声をあげさせる番♪」
 すでに、天井には何かが蠢いている気配。
(「……ふふ、紗綾姉が誰の牝か示さないと。いっぱい突き上げてあげる♪」)
 見物は増えていく。聞かせるかのように、紗綾は喜悦し、何度も注ぎ込まれる。
 膝マクラからのチュウチュウで、すっかり溶かされたエメラルドは、ワンピースもすっぽりと抜かれた。
 下着を外された胸に、永代はチョコのようなものを塗ってくる。
「一度、やってみたかったんだよねん。……うん、白い肌に映えて良い!」
「な、舐めようと言うのか?!」
 ちょっと待っていてと、永代は立ちあがり、自分の衣服に手をかけた。
 通路に裸で出てしまうのは、本来はルール違反なのだろうが、この場では咎められない。
 永代は、ソファのわきに屈んで、背もたれとテーブルに手をつき、腰を落としていった。
 そこには、頭を奥にして横たわったエメラルドの裸体が、そしてソファの通路側のふちにのせた尻、膝を立てて開いた股がある。
「ああ、入って。永代殿が入ってくりゅ……アンッ!」
 天井を見るエメラルドの視界には、永代のやさしい表情のほかに、無数の目玉が映り込んでいる。
「ひょっとして、軽くイッちゃったのねん?」
「うん……。構わない、続けてくれ」
 チョコに偽装したメタルを塗られ、超感覚が、見られる興奮をも増やしていた。
 ベルローズたちは、まるで激しくない。
「苺チョコに苺……甘酸っぱくて、これが初恋の味でしょうか」
 友だち以上、恋人未満が、目指すところだからだ。
「え? イヤ、その……どうかな?」
 鬼灯にとっては、その距離感こそが掴み辛かった。頬にチョコのかけらをつけたままで、うーむと唸る。
「ほら、ついてますよ」
 ベルローズは指を延ばしてきて、ほっぺから拭っていった、その指を舐めてみたりする。
 そうした仕草に、いちいちドギマギしてしまうのだ。
「あら、今度は私が……」
 ベルローズのドレスの、開いた胸元にチョコソースが垂れる。
(「お、お返しに僕がとか、やらなきゃダメなのか?!」)
 期待をこめて、こっちを見ている気がする。
「め、目が本気なのです!」
 ところが、彼女は素知らぬ様子で、自らお手拭きをあてただけだった。
「ふー……」
 ため息をつきつつ、こんなことでトソースが来るのか、と鬼灯は思う。
 心配には及ばなかった。まさにその心臓の高鳴りこそが、奴らの欲しがる魔力なのである。

●貪るものの始末
 蓮と紗綾のソファから、遠退けられていたテーブルに、ドスンと固まりが落ちてきた。
 数が増えて、いよいよ天井に掴まっていられなくなった攻性植物がヘマをしたのである。
 奴らは奴らで、隠れて覗いているつもりだったらしい。1体の姿が、テーブル上にうねって露呈すると、もはやこれまでと恋人たちを捕食にきた。
 姉を対面座の位置に載せたまま、蓮はケルベロスチェインを全方位に射出して、複数体を刺し貫いた。
「紗綾姉が一緒に居る時のボクは強いのだよ!!」
 前後の空席から、背もたれ越しに目玉を延ばしていた奴らも、ウゾウゾとフロアを這いよって来る。
 エメラルドは、ソファに横になったまま、氷結輪を高速回転させた。
「ノゾキの代償は、高くつくぞ!」
 フリージングブリザードに、植物は床に凍りついてしまう。
「この数のきしょい敵に囲まれると、色々とあれだよねん」
 永代は前後に腰を動かしながら、爆破スイッチを押し、動けなくなった敵をエスケープマインで処理していった。
「でもま、楽しい役得の時間をサンキュー」
 メタリックバーストを塗り込んだ、エメラルドの超感覚も効いているようだ。凍らせる敵の、目玉は最後まで残してやっている。
 周囲に詰めかける、堂々とした目玉の群れと、その視線。
 エメラルドのナカの、くちゅくちゅと濡れて締まる感触も、永代は味わう。
 邪神植物チョコレイ=トソースが垂れた蔓を、ベルローズはかわした。鬼灯と過ごしたチョコフォンデュ、その鍋に、目玉の蔓はどっぷりと浸かる。
 陶器が割れて、黒く飛び散ったのは、ビターテイストではない。暗黒縛鎖、ベルローズのエゴを具現化した魔法が張り巡らされたのだ。
 捕縛された植物敵に混じって、緑のオーラが店内に漂い始めた。『騎士は浄い手にて穢れず』、鬼灯のグラビティだ。
 自身の攻撃力を強化し、永代のスイッチと、蓮のチェインを輝かせた。
 弟の肩を支えに紗綾も、オーラを帯びたバスターライフルを構える。
 制圧射撃で、目前の敵を一掃していく。
 トソース1体につき、何個の目玉を持つのか判然としない。仮に5、6個だとしたら、奴らは店内に200体いることになる。
「イチャイチャして出歯亀野郎共をおびき寄せる作戦、大成功です」
 オーラ付きの咆哮、ハウリングを響かせる神月。
「雑草を刈るにャ、やっぱ一斉にやんねーとナ」
 固まりかけたチョコローションが、パキパキと割れて剥がれた。
 弧を描くような太刀筋で、日本刀「廃命白刃『Bluと願グ』」を振るい、邪神植物にトドメを刺すシフカの口には、神月のバストから型取りされた、チョコの一片が咥えられている。
 ケルベロスたちは、敵列への攻撃を主にして、トソースを駆除していった。
 神月のリボルバー銃からは、店内全域に向けて制圧射撃がなされ、最後の10体が動かなくなるまで、弾丸がバラ撒かれた。

●通常営業
 ソファの背もたれの上に片足をかけて、リボルバー銃を振り回しているうちから、神月の裸の下半身には、シフカが顔をうずめていた。
 舌を這わせて、チョコをとりつつ、奥にも差し入れる。
 ピクっとした反応から、シフカは弱いところを把握したようだった。
 周囲から見えるような行為は、やはり禁止のはずだ。通常営業ならば。
 ケルベロスの依頼としても、用事は済んでいるのだが、シフカも神月もこのままでは帰れない。
「徐さん、続きをしてもいいですか」
「はハ、もうしてんじゃねーカ♪」
 残りのチョコを舐めあう。
 ケルベロスチェインとバスターライフル。武器を放り出した蓮と紗綾は、再びぎゅっと抱き合った。
 最初に落ちてきた攻性植物の、眼球がいくつも潰れてテーブルの上にあり、その下には脱いだジャケットがドロドロに汚れて敷かれていた。
 下着なども、同様である。
「紗綾姉、どうしたらいいかな……」
「裸で帰るしかありませんね。大阪の歓楽街を通って」
 弟の驚いた顔に、姉はクスクスと笑った。
「冗談ですよ、蓮くん。アルゴルに着替えをとりに行ってもらいました」
「なーんだ。……帰ってくるまでに、もう一突きしなきゃ♪」
 また、キスから始める。
 エメラルドと永代が、デウスエクスの全滅を確認していたかは、定かではない。
 ソファに寝転んだところでの挿入は攻撃の前だったし、抜かぬまま戦い、現在も打ち付けあっていた。
「やれやれ、永代殿は、何度出せば気が済むのだ……あんっ!」
「また、イッたのねん。ふたりが満足しきるまで、サービスタイムは続くのよん。それに……ウッ」
 根元まで刺したままで固定された信管は、ドクドクと奥を満たす。
「ハァ、ハァ。綺麗だよ。エメラルドちゃん♪」
「こら。演技はもういらないはずだぞ……」
 任務が終わってもスルことがある。爆破スイッチの仕掛けとは、そういうものである。
「肥後守さん、たっぷり引きつけて、一網打尽にできましたね」
 ベルローズは、座席のボックスから出ると寄り添った。彼にも、怪我をした様子はない。
 けれども、鬼灯は浄い手を発動する。
「ほら、元通りですよ」
 割れたチョコフォンデュの鍋が、つなぎ直されている。ベルローズは、感謝にぎゅっと手を握った。
「そ、それにしても、気持ち悪い敵だったですね……」
 照れて視線をそらすと、店を見回した。シルエットでしかないが、ぐったりした植物の固まりが、方々に積み重なっているようだ。床などは、ぬるぬるしてそう。
「水拭きがいるかな? 掃除と片付けをすれば、今からでもお客さんがバレンタインデーを楽しみに来てくれますよね」
 鬼灯の言葉に、ベルローズがヒールかけで手伝おうと、通路の先を覗けば。
 激しく見え隠れする、永代の尻と思われるものがあった。
「「……!?」」
 そういう事をする店とは、今の今まで気が付かなかったのだ。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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