邪神植物トソース誘引作戦~ラヴァーズ・ラヴァーズ

作者:猫鮫樹


 大阪市内の公園。
 どこか甘い空気が漂うような、独特の雰囲気があちらこちらにあった。
 街行く人は、その風景はなんら変わらないはずだけれども……、それでもどこかソワソワしてしまうような雰囲気が漂っていた。
 老いも若きも、『恋』という力には抗えないのかもしれない。
 この季節は特にそうだろう。バレンタインとは、そう胸の中にある気持ちを十分に盛り上げてくれる行事の一つ。
 バレンタインの時期で店や、公園や、そこかしこがピンク色のハートの装飾に彩られ、その中でデートをしていた2人の男女が手を繋いで、ベンチに座っていた。
 立春が過ぎたとはいえ、まだまだ寒い季節に変わりないはずなのに、繋いだ手の温もりのおかげで温かかった。
「良かったら、これ…」
 一瞬女性が手を放して、自分のカバンから綺麗にラッピングされた正方形の箱を取りだした。
 青空の下で輝くその箱は、男性のために用意されたチョコ。
 この日の為にと、きっと愛情を込めて作り上げてくれたのだろうチョコは、男性にはすごく輝いて見えたことだろう。
 高まる鼓動が鳴りやまない。熱が手に、顔に集まってくるのを感じながら男性は小さく「ありがとう」と呟いて、チョコに手を伸ばした瞬間――。
 水を差すかのように、男性の手を強く掴む物体が姿を見せたのだ。
「何を……」
 男性はその後の言葉を続けることなく、ベンチから崩れ落ちていく。
 横に並んで座り、男性に愛情込めて作ったチョコを渡すために顔を向かい合わせるように姿勢を変えていた女性は困惑の表情を浮かべていた。
 ただ温かなしぶきが自分の体に降るのを感じると、今起きたことを理解し、真っ赤に染まる手と倒れる男性へと瞳を何度も往復させ、一体どこから出ているかもわからないほどの声で叫ぶ。
 人肌の赤い雨を浴び、目の前で倒れた男性を茶色く不気味なモノ――邪神植物トソースが咀嚼する音と叫び声が広がる中、不意に女性の目の前に銀色に輝く物が落ちた。
 根元に銀色の指輪がついた指が。
「あ、あああ、あああああ……」
 漏れ出る声は言葉にならず、ただ口元を押さえ両目を見開いた女性を嘲笑うかのように茶色のソレは触手を伸ばし、嫌に湿った音を立てながら女性を食らっていく。
 一通り食事を終えた邪神植物トソースは、小刻みに震えた。
 そして8体ほどに分裂し終わると、新たな獲物を目指して去っていくのだった。


「大阪城の攻性植物に動きがあったんだよ」
 どこか緊迫した面持ちで中原・鴻(宵染める茜色のヘリオライダー・en0299)は、そう口にした。
 季節の魔力の一つ……『バレンタインの魔力』を強奪しようと、強力な攻性植物が大阪都市部を無差別に襲撃すると、鴻は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら説明をしていく。
「襲撃してくるのは『邪神植物トソース』で、バレンタインを楽しむ男女を食い殺してその季節の魔力を強奪していくんだよ」
 食い殺して、バレンタインの魔力を強奪した邪神植物トソースは分裂して数を増やし、更なる獲物を狙いに行く。
 被害者が出れば出るほど、邪神植物トソースは鼠算式に数が増え、大阪都市圏はあっという間に壊滅してしまうだろう。
「そうなる前に……」
 倒してほしいと鴻は赤い瞳を伏せて呟き、一つ間を置いて邪神植物トソースについて話し始めた。
「この邪神植物トソースはバレンタインの魔力が高まった場所に転移して襲撃を繰り返す性質のようなんだよ。だからこの性質を利用し、ケルベロスのカップルが囮となってバレンタインの魔力を高めれば邪神植物トソースを大量におびき寄せる事が出来ると思うんだよねぇ……」
 バレンタインの魔力を高めて、邪神植物トソースを大量におびき寄せれば一気に片付ける事ができるだろう。
「バレンタインの魔力を高めるのは、恋人同士でなくても大丈夫だとは思うけど……本気を出さないと、充分な効果は発揮できないからねぇ……」
 そう呟いてから今度は、分裂を繰り返した邪神植物トソースは数が厄介で、戦闘力は弱いはずだと鴻は言葉を零し、赤い瞳を何度か瞬かせてから皆の顔を見回して言葉をかけた。
「バレンタインを楽しむ人達に水を差す攻性植物を許せないよねぇ……だから、無事に撃破してくれることを願っているよ」


参加者
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
レリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
九条・カイム(漂泊の青い羽・e44637)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
ニコ・トールマン(リトルホープ・e85610)

■リプレイ

●囮
 本日の大阪は快晴で、空を泳ぐ雲はまるで魚の様だ。公園から見渡せる海は、遠くの方で空と混ざり合い、雲の魚はどこまでも泳いでいきそうな様子を見せるほどの美しい景色を見せてくれている。
 そんな空の下、公園入口の方からは「立ち入り禁止」と書かれたテープが張られて、どことなく物々しい雰囲気を漂わせていた……だが、その物々しい雰囲気を吹き飛ばすような、花を芽吹かせるような空気がゆっくりと運ばれてくる。
 ベンチに座るリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は隣にいるチェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)に、ホットココアを手渡して、ただ静かに2人寄り添って、空と海が混じる風景を眺めている。
 同じ風景を夫婦寄り添い眺めつつ、一緒に集まった仲間が視界に入る距離を保ち、攻性植物の出現を待っているわけだ。ただ、待っているだけでは敵は現れないのはヘリオライダーの話で聞いていた。
 そう『バレンタインの魔力』を高めなくてはいけないことを。
 広がる青い世界を眺めていた2人はその魔力とやらを高める為に、いいや……お互いの愛を更に深める為に行動を取る。
「ねぇ、ルーディ」
 鈴を転がすような甘い響きを唇に乗せ、チェレスタが自分の愛しい夫の名を口にする。
 リューディガーは目を細めチェレスタを見つめると、チェレスタは頬を薄っすらと赤く染めてアンティークなデザインの懐中時計を差し出した。
「これを俺に……?」
 嬉しさと驚きで見開いた瞳はどこまでも愛しさを孕んでいて、リューディガーは自分の手よりも小さなチェレスタの手を懐中時計ごと包みこんでいく。少しだけ冷えた彼女の手が自分の体温を吸い、仄かに温かくなっていくのを感じるとなおの事愛しさと幸福感が跳ね上がったように感じる。
「二人で同じ時を刻めるように、いつでも一緒にいられるように……」
 紡がれる言葉がリューディガーの胸へと優しく降り積もり、
「いつもありがとう、あなた。これからも夫婦で協力し合っていきましょうね」
 花が咲いたような笑みをチェレスタは浮かべる。
 細い指先で懐中時計の蓋を開けて、蓋の裏をチェレスタは指差して、ここに写真が入るのよと、穏やかに言ってみせた。
「ありがとう。大切にする」
 落ち着いたデザインもさることながら、チェレスタのその心遣いに、リューディガーは一層愛おし気に瞳を細めて、小さな彼女を自分の元へと抱き寄せて、端末を操作していく。
「今日の思い出を残させてくれないか」
「ええ、もちろん」
 リューディガーの言葉にチェレスタはすぐに頷いた。愛しい夫との思い出は大切に残していきたいと思っているからだろう。
 リューディガーがチェレスタの肩を優しく抱き寄せ、端末に起動させたカメラで2人を映していく。
 抱き寄せられ、大きな体に包まれる安心感と少しの恥ずかしさにチェレスタの頬は、紅を濃くさせる様子が画面に映し出されていた。

 その二人から漂う優しい愛が伺えるところから少し離れた場所では、和気あいあいとした空気が溢れていた。
 チョコレートを思わせる色合いの可愛らしい服を着こなす円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)はオルトロスの『アロン』と一緒に、白い湯気を揺らすホットココアを皆に配りながら黒い猫耳をピクピク動かしては、仲間がいるベンチから聞こえる物音を拾っていた。
 ファー付きの萌袖ニットから覗く指先をホットココアの温度で温ませながら、バレンタインというイベントごとに試される女子力が少しでも上がっていることだろうと、キアリは金色の瞳を細める。
 バレンタインとは言わば乙女の戦場と言っても過言ではないのかもしれない。
 乙女の戦場で、囮となることも重なるとなれば、お洒落にも少し本気を出そうというキアリの作戦だろう。
「じゃあ、チョコレート交換会といきましょうか」
 キアリに貰ったココアを片手に持った黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)は、少しばかり高級感溢れるチョコの箱を取り出して三人に微笑んで見せると、ボクスドラゴンの『ナハト』も嬉しそうに声を上げた。
「わぁ高そうなチョコレートですね。ボクも色々試食してきたのですけど……どれも美味しくて欲張って色々買ってきてしまいました」
 紙袋に沢山入ったチョコレートを見せてニコ・トールマン(リトルホープ・e85610)は、照れ笑いを浮かべて、買ってきたチョコの味を思い出していた。本気を出さないと囮効果は得られないということにニコはニコなりの答えを見出したのだろう。そう、チョコ交換会を全力で楽しめばいいと。
 ニコは買ってきたチョコを広げて、キアリから貰ったホットココアを口にしながらうきうきした様子を見せていれば、
「私はこちらを……」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が風で揺れる黒髪をかきあげて、シンプルなラッピングのそれを取り出した。
 中身はどうやらチョコチップクッキーのようで、刃蓙理はそれを一枚取り出して、3人の顔を見て、何かを考えるかのように瞳を細めた。
「自家製のホレ薬入りのチョコチップクッキーを作ってきました……」
「ホレ薬……!?」
 ホレ薬というワードに驚きを隠せない3人に、刃蓙理は少しだけ口角をあげて笑うと、
「私の理論が正しければ……これで本命チョコと同等の筈です……」
 目指す結果である、トソースを誘引するためのバンレンタインの魔力はきっとこれで高まるはずだということなのだろう。
「何なら食べさせてあげましょうか……」
 あーんして下さいと、刃蓙理は誰も手を伸ばそうとしないクッキーを持ってジリジリと寄っていくのであった。

「あの4人はなんか盛り上がってるっていうか、なんか迫ってる……?」
 膝に乗っているウイングキャットの『プチ』を撫でて、楽しそうな声が上がる方へ視線を向けていたレリエル・ヒューゲット(小さな星・e08713)はそう呟いた。
 それからすぐに空と海が混じる境界線へと視線を移してから、レリエルは隣に座る九条・カイム(漂泊の青い羽・e44637)に顔を向けて、にこりと笑みを浮かべる。
「なんか色んなことあったよね~」
「何だ、突然」
「えーそう思わない?」
 優しくプチを撫でて、時折吹く海風に煽られる髪を押さえてレリエルはぽつりぽつりと言葉を零していく。
 断片的に落ちる言葉をカイムは拾って、一つ一つピースをはめ込むように胸に残る記憶からレリエルへの返答を紡いでは、時折聞こえる紫織達の笑い声に意識を向ける。
「わたしは北海道の苫小牧にヒールしに行ったんだけど、カイムはどこだっけ?」
「姉さんは北海道か、俺は福島だな」
 ミッション地域の復興も兼ねてヒールで街を直したことを思い出しては言葉を交わす。
「で、その北海道ってハスカップが有名みたいなんだよう~」
 楽しそうに「はいっ」とレリエルはカイムに、北海道で作ったチョコを手渡した。それに合わせてカイムも、福島で作ってきたチョコをお返しと言わんばかりに渡したのだが、別に用意した小さめの箱も渡すかどうか一瞬悩んでしまった。
 それにレリエルが気付いたかどうかは分からなかった。だけど、次に発する彼女の言葉は少し緊張感を含んだように聞こえたのだ。
「そろそろ……て言うかもういい加減、将来の事を考えましょ?」
 レリエルは小さめの箱を取り出して、カイムに開けて見せた。
 小さな箱に鎮座していたのは1月の誕生石のガーネットが嵌った指輪。
 レリエルが嫌じゃなければと漏らして、カイムの澄んだ青色の瞳を見つめて待っていた。
 姉さんと不安を募らせる声音で小さく呼べば、レリエルは優しく微笑んで見せる。
「……こっちは、エインヘリアルもシャイターンも一人残らず何とかして、アスガルドもゲートだけじゃなく本星を消滅させるなり俺たちで占領なりしたら」
 レリエルが差し出す指輪に視線を合わせたまま、カイムは迷っていた小さな箱を握って、自分の中に渦巻く不安を吐露していくと、レリエルはきっぱりと言うのだ。
「そんなに待てない」
 カイム自身も分かってはいた。それでも拭えない不安はいつまでもある。
 だけど、レリエルはそんな不安すらもひっくるめて受け止める覚悟が出来ていた。今ある幸せと、まだ見ぬ未来を守る為に戦うことも。
 ニコと紫織が美味しいと騒ぐ声がカイムの耳に入ってくる中、いつもより真剣で覚悟を決めたような表情を浮かべるレリエルにカイムは小さく息を飲んで、言の葉を散らしていく。
「そうでもしないと安心出来ない。奴らは俺達の幸せを踏みにじる為なら、永遠の命も平気で費やすだろう。……怖いんだ、また家族や大切な人達を失うのが」
 そこまで言って、塩気混じりの空気を吸い込んだ。塩分を含んだ空気が肺に落ちていって、少しだけ気持ちを落ち着かせてくれた感覚がした。
「それでも、それでも一緒に戦ってくれるなら」
 カイムはレリエルが持つ指輪の箱を受け取り、そして迷っていた小さな箱を代わりに取り出して彼女に見せる。そこにあるのは6月の誕生石、真珠がはめ込まれた指輪だった。
「こっちは全部受け止める覚悟は出来ているつもりだよ」
 カイムの差し出した指輪を受け取ったレリエルは、全てを包み込むような優しい笑顔を浮かべる。柔らかな春の日差しの様な笑顔とレリエルの言葉にカイムは目元が熱くなるような感覚を覚え、次第に視界が滲んでいくのがわかった時だった。
「来たようです……」
 刃蓙理が現れた大群を見つめて、殺気を一気に放つ。
 冷たく鋭い空気がケルベロス達の頬を撫であげていくと、カイムは頬を伝う雫を乱暴に拭いさる。
 どうやら作戦は成功のようだと、誰もが現れたトソースに武器を構えていくのだった。

●トソース
 公園内を埋め尽くさんばかりに現れた邪神植物トソース。その数は150程か。
 蔓と思しき薄い茶色から覗く大きな目玉は、バレンタインの魔力が高まったケルベロス達を見ると、体から生える無数の枝を動かしては今か今かと狙いを定めていた。
「随分な数のお出ましなのね」
 醜悪な姿の大群に紫織とナハトは尻尾を左右に揺らして、トソースを睨みつける。上手いことこの場所におびき寄せることができたのだ、後は倒すのみ。
 海風が一瞬強く吹き抜けると、黒が舞った。
 刃蓙理が呼び出した巨大な単眼の生物が破壊光線を撃ちだして、接近してくるトソースを薙ぎ払う。木が焼けこげる匂いが潮風に混ざり嫌に鼻につくが、トソースの数は数える気がうせてしまう程まだいる。
 チェレスタから贈られた懐中時計を大事にしまったリューディガーは、ルナティックヒールを仲間に施し、攻撃力を高めていく。
「お洒落にも、戦いにも、少し本気を出すから。アロン、地獄の瘴気をお願い!」
 態勢を低くし、チェック柄のミニスカートをはためかせたキアリは、ケルベロスチェインを全本位に射出してトソースを刺し貫き、そこを狙ってアロンが大きく吠えて瘴気を解き放てば、ボロボロと崩れ落ちる木屑だけが残る。
「バレンタインの魔力を奪うなんて、外道だよう!」
「本当です、幸せな気持ちを食べてしまうものは倒さなくてはいけませんね」
 瘴気が薄れれば、今度は幸せな二つの花が踊る。全てをひっくるめて受け止める覚悟を胸に秘めているレリエルが歌い出すと、チェレスタも自身の歌声を重ね合わせた。
 その歌声に合わせるかのようにプチが翼をはためかせて仲間の耐性をあげていく。
「おやすみなさい、良い夢を♪」
 奇蹟を請願し、そして夢を見させるような二つの歌声が海へ、空へ木霊していく様子はさながら讃美歌の様で。
 そんな厳かにさせる雰囲気を割るように、何体ものトソースが不気味な目玉をぎょろりと動かして蔓を伸ばした。
「本当、おぞましー見た目ね……」
 紫織は心底嫌そうに呟いてから、大きく尻尾を揺らし伸びてくる蔓を見つめて言霊を放つ。
「大地の聖霊よ、彼の者を束縛せよ」
 地面から幾重にも砂の蔓が生えて蠢いてあっという間にトソースの蔓を絡めとると、ナハトが口を開いてブレスを吐き出せばあっという間に塵となって燃え尽きていく。
 燃え尽き潮風に流されるトソースの残骸に潜り込んでいくカイムは、虚空を薙ぐように大きく刀を振るいあげた。
 かつて斬ってきた人々、そしてカイム自身の無念の思い、それらを乗せた切っ先が空気と共にトソースを一閃すれば、
「地球にはこう言う言葉があるそうですよ? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてしまえ……と、ね!」
 人型から人馬型に戻ったニコが微笑えんでからトソースに背中を見せたかと思えば、すぐに後ろ足で強烈な蹴りを繰り出したのだ。そう、文字通り馬に蹴られたというわけだ。

「もう、だいぶ数は減りましたね……」
 トソースは分裂を繰り返したせいかそこまでの強さはなく、問題なのはその数だった。四方に散らばった蔓と残ったトソースを交互に見た刃蓙理は少しだけ乱れた息を整えていた。
 それは他のケルベロス達も同じようで、ニコは皆の傷を癒すためにヴィクトールオーラを施していく。
「無駄な抵抗はやめろ!」
 鋭い警告の声をあげたリューディガーが威嚇射撃を数発撃ちこんでやれば、トソースは一瞬怯んだように目玉を閉じる。それを見計らったかのように、チェレスタが晴れ渡る様な優しい歌声を響かせて残る敵に天罰を下し、それでも倒れないトソースにキアリが地面を蹴り上げて、
「勢いを付け、スピードを乗せ、破壊力を補助する感じで……うんっ」
 不気味な目玉を蹴り上げて倒し、アロンもキアリに合わせて神器の剣で蔓を斬り落とす。
「残り1体か……」
 公園内を埋め尽くすほどのトソースも、これだけのケルベロス達の猛攻には勝てなかったというわけか。
 目玉をひたすらにギョロギョロさせるトソースにカイムは、少しだけ息を吐いた。
「おしまいにしましょう」
 紫織は紫苑色の瞳を細め、魔導書を開いた。
 その刹那、緑色の粘液を招来させてトソースの肉体に侵食させていく。蠢く触手が空を掻いているのはきっと、悪夢でも見ているからなのかもしれない。
 最後の命をも食らいつくす悪夢に侵されたトソースは、いくつもの目玉を力なく地面に落とすと、静かに潮風に吹かれ崩れ落ちていった。

 残ったトソースの残骸を片付けて、戦いの跡が残る公園にヒールをかければ、この任務も終了になる。
 愛を深め合ったり、関係を変化させたり、仲良くチョコ交換をしたりと、様々なことが起こった公園内は少しだけ形状は変わったものの大体は元に戻った。
 チョコ交換会で色んなチョコを食べていたキアリが保温容器を取り出して、
「甘いチョコの後は、こういうしょっぱいものが欲しくなるのよね」
 と言って、温かい豚汁をカップに注ぎ込む。欲しい人いたらあげるよという声と共に、公園は平和な姿を取り戻したのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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