スイートフェスタの日

作者:崎田航輝

 アーケードを甘い香りが吹き抜けてゆく。
 そこに交じるのは沢山の笑顔と賑わいだった。
 真っ直ぐに伸びる商店街。その一帯はこの日、平素以上の活気に溢れている。それは一日限りのイベント──チョコレートフェスと銘打たれたフェアが開かれているからだ。
 ショコラトリーは美しい造形の一口チョコを揃え、カフェではケーキにパフェに、限定のチョコレートメニューが並ぶ。
 他にもマカロンやチョコクレープと、店々にチョコレートの品々が勢揃いし、正に祭典の様相。
 人々は一年に一度の日に甘味を存分に味わい、土産も買って帰ろうと──愉しげに店を回っていた。
 けれどそんな賑やかさに、誘われて歩み入る咎人が一人。
「なんとも、甘い薫りが漂っているじゃないか」
 ゆるりと見回しながら、提げた剣を握り締めるそれは──巨躯の罪人、エインヘリアル。
「けれどもっと甘美なものが、此処には沢山ある」
 優男の相貌に、言葉と共に歪んだ嗤いを浮かべると。罪人は踏み込んで刃を振るい、人々を切り裂き始める。
 血潮が飛び散れば、それこそが求めるものだというように。哄笑を上げながら、エインヘリアルは虐殺を続けていった。

「本日はエインヘリアルの出現が予知されました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
 とある市街にてチョコレートフェスと銘打たれた催しが開かれているのだが──敵はその只中に侵入してくるようだ。
 芳野・花音(花のメロディ・e56483)は話を聞いて頷く。
「警戒をしておいて、正解だったようですね」
「ええ。花音さんの調査のお陰で、こうして危機を察知することも出来ましたから──凶行を未然に防ぎ、街とイベントを守りましょう」
 イマジネイターが言うと、花音は淑やかに勿論です、と応えていた。
 現れる敵は、アスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれるという、その新たな一人だろう。
「敵は道を真っ直ぐに歩んで現れるでしょう」
 人々のいる場所ではあるが……今回は警察や消防が避難を行ってくれる。こちらが到着する頃には、人々は皆逃げ終わっていることだろう。
「私達は、戦いに集中すればいいんですね」
「はい。街並みに被害を出さずに終えることも出来るでしょう」
 花音に応えつつ、ですので、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できた暁には、皆さんもイベントに寄っていっては如何でしょうか?」
 一口サイズのショコラにチョコケーキ等、様々なお土産がショコラトリーやデパートで手に入る。カフェでもザッハトルテやパフェなど、限定メニューが揃うという。様々な形で、チョコを楽しめるはずだ。
 花音は頷く。
「そのためにも、しっかりと敵を倒さねばなりませんね」
「皆さんならば勝利を掴めるはずです。是非、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
クロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)
芳野・花音(花のメロディ・e56483)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●甘空
 冬の爽風に幸福な薫りが混じる。
 その甘やかさに、碧翼で道へ降り立ったカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)は瞳を仄かに輝かせていた。
「チョコフェスタ、良いですよね。どこ見ても甘い匂いがして華やかで……」
 見回せば、無人の中にも明るい雰囲気が残っていて後の楽しみに期待を抱かせる。
 だからこそ、と。
「その前にお邪魔する方には退場願わないとですね」
 翡翠の眼を一点に向け──道の先に、一人の巨躯を見つけていた。
 それは刃を握り獲物を探す罪人。深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)はその姿を見て、俄に鋭く瞳を細める。
「イベントに不釣り合いな臭いがすると思えば……エインヘリアル、ですか」
「甘い香りに誘われて、お呼びでない者までいらしたようですね」
 清楚に吐息を零しながら、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)はこつりと前へ歩む。
 芳野・花音(花のメロディ・e56483)も続きながら、薔薇形の杖を少しだけ握り締めた。
 自身が危惧していた敵が現実に顕れた、故にこそ。
「私が自ら──凶行を阻止してみせましょう」
 瞬間、翼を明滅させて戦いの間合いに入りながら、紺は薔薇色の輝きを顕現。
「エクトプラズムよ、仲間を護る力を与えて下さい」
 花を咲かすように煌めきを広げると、それを皆へ纏わせ防護を齎していく。
 それが美しき開戦の狼煙。直後にはカルナが風を切って翔び上がり、宙から光を蹴り下ろして弾ける衝撃を与えた。
 此方に気づいた罪人は、僅かに眉を顰めながら──それでも喜色を見せる。
「……番犬、か。予想より良い獲物を見つけたようだ」
 甘美な味が楽しめそうだよ、と。
 剣を翳すと躊躇いなく刃風を放ってきた。
 が、その風圧を抑えるよう、煌めく光が舞う。
「甘美か、随分と笑わせてくれるよな」
 こっちはその悪趣味に付き合うつもりはない、と。
 宵の声音で呟くのはノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)。手繰る流体から、夜の風を生み出していた。
 夜空を喚び込むそれは星屑を踊らせて、仲間を守りながら傷をも癒やしていく。
 その耀きの優しさと裏腹に、双彩の瞳で敵を見つめる視線はどこまでも冷たくて。
「顔がよくても、その性格じゃあな」
 僕もあまり人のことは言えないけど、と。
 挑発の声を投げれば、罪人は俄に怒って走り込んでくる。が、そこは既に包囲の只中だ。
「ああ、お前にくれてやる甘美な物など無い」
 真横から声を継ぐルティエが、疾駆。
 星下を奔る狼の如く、眩さの残滓の中を一息に肉迫して一撃。
「──どうしてもと言うなら死をくれてやる」
 真っ直ぐの打突で巨躯の腹を深々と穿った。
 血飛沫を口から零しながらも、罪人は刃を上段に持ち上げる。だがそれを阻害したのは、己自身の恐怖だった。
「無駄です。あなたは、もう求む物を得られない」
 そっと声を紡ぐのは紺。『まつろう怪談』──咎人自身の心から、恐れる未来を闇として具現することで体を縛っていた。
「玲央さん、お願いできますか」
「任せて」
 道に屋根に、空に反響するのは小柳・玲央(剣扇・e26293)の靴音が奏でるリズム。
 扇をしゃなりと振るうかのように、刃をあでやかに踊らせて。軽やかさを内包したステップで剣舞を成していた。
 すると空が魅了されたかのように、星の涙を零して加護を齎し仲間の防護を十全にする。
「それじゃあ、どんどん攻撃いくよー!」
 直後にくるんと宙で回転し、朗らかにクロミエ・リディエル(ハイテンションガール・e54376)が飛翔すれば──同時に頷くのはオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)だった。
「……ん、手伝う」
 言いながら、オルティアはそのまま地を力一杯に蹴り上げて加速。
 罪人は突撃を見越して剣で受け止めようとするが──オルティアの狙いは突進ではない。ひらりと躰を返すと、刃を掻い潜るように脚を撓らせて。
「避けさせない」
 瞬間、風が奔るような鋭い蹴撃を叩き込んでいく。
「今、行ける」
「ありがとー! 土の中に潜む竜よ、その姿を現せ!」
 吹っ飛ぶ巨体へ、クロミエは滑空。速度をつけて零の術を地面に撃ち込み、土竜の形を成したオーラに地中を猛進させた。
 次の一瞬に巨体の直下で爆発するそれは『土竜帰り』。突き上げる威力に、罪人は大きく投げ飛ばされて地へ墜ちた。

●決着
 すぐに立ち上がりながらも、罪人は苦悶の息を零していた。
 カルナはその姿を見て顎に指を当てている。
「折角のフェスタなのに、このまま美味しいチョコを味わえないんですね。それは少し可愛そうかも?」
「……食物など要らないさ」
 笑うように、罪人は首を振っていた。
「欲しいのは消えゆく命と、血潮。その甘美さが解らないか」
「そんな感覚、私は理解できない。……したくも、ない」
 オルティアは小さな声で、鋭い眼光を返す。
 そうですね、とカルナも柔く頷いた。
「そちらがそのつもりなら、こちらも長々とお付き合いする時間は有りませんね」
 この後に待っているフェスタがあるのだから、と。
 クロミエも心同じく首を縦に振る。
「私も甘いものは好きだし。是非とも無事に開催されるようにしておきたいからね。全力で、行くよ」
「ええ」
 そっと応えて、紺は掌に暗色の風を収束させていた。冥い耀きを抱くそれは、いつしか小さくも鋭利な弾丸となって。
「人の幸せを壊そうとする者には、相応の報いを」
 伸ばした指先が示す巨躯の腹部を、苛烈なまでの撃力で撃ち貫く。
 血煙を上げながら、それでも罪人は斃れず踏み寄ろうとした、が。
「竜砲弾よ、敵の動きを止めちゃって!」
 クロミエが旋回しながら槌を突き出し砲撃。横合いからの爆炎で巨躯を傾がせた。
 側方に宙返りして勢いをつけた玲央は、高く跳び上がりその頭上へ。宙で踊るように旋転して、痛烈な蹴り落としを叩き込む。
「さあ、今だよ」
「……ん、ありがとう」
 返したオルティアは、蹄へと全霊の魔力を集中。一時的に異常強化・異常発達を遂げさせ──『蹂躙戦技:逸走単撲』。
 爆音を伴う踏み込みで、己の制御すら越えた速度を得て疾駆。巨躯の脚を轢き潰し、踏み潰す。
 悲鳴を上げる罪人へ、カルナは『絶零氷剣』。次元圧縮により冷却した大気を、八本の刃と成して牙獣の如くけしかけた。
 躰を削がれて呻く罪人は、足掻くように刃の風を撒く。
 だがノチユは軍靴で地を鳴らし、癒やしの花吹雪を降らせていた。甘い香りをかき消す血の匂いも、きよい花弁を振りまいて鎮めるように。
 けれどこの役目が自分よりも似合う人がいるのだと、隣を見れば──巫山・幽子が合図に頷くよう、治癒の光を重ねて盾役を癒やす。
 同時に花音も、紅花伴う薫風を吹かせていた。
「癒しの風よ、皆の傷を治してあげてね」
 肌を撫で、傷を浚う治癒の業は──不調も余さず消し去って皆を万全とする。
 憂いがなくなれば、ルティエは間隙を作らず敵へ接近。
 匣竜の紅蓮に焔を放たせると、自身は黒鉄の斬閃に氷塵を交え、刻んだ痕から氷の藤蔓を伸ばしていた。
 氷華を咲かせるその一撃は『紅月牙狼・雪藤』。膚を凍らせて激痛を与えながら巨体を縛り上げていく。
「後は頼む」
「ええ、行きましょう」
 花音が杖を突き出せば、頷き空へ昇るのがクロミエ。
「さぁ、突撃だよー!」
 翼を眩く発光させて、体ごと金に煌めく粒子へ変遷すると加速。槍の如き光風となって巨体を貫いた。
 そこへ魔力の針雨を顕現するのが花音。
「全てを痺れさせる針の嵐よ、飛んでいきなさい!」
 降り注ぐ『パラライズニードル』は慈悲無く巨体を蜂の巣にしていく。
「終わろうか」
 同時に奔った玲央は、終止記号を刻むように──拳の一撃。巨体を打ち砕き、その命を消滅させた。

●甘い祭
「これで、元通りだね」
 平和なアーケードの景色を玲央は見遣っている。
 戦闘後、玲央はフェアを楽しみに気が急きながらも……皆と共に現場を修復。警察や消防の者達へも礼を伝えつつ、人々を呼び戻していた。
 今や道は賑やかで、皆が催しを楽しんでいる。
「では、私達も寄っていきましょうか?」
 と、紺が言えば番犬達も頷き、それぞれに歩み出した。
 玲央も早速ショコラトリーを探して散策。一緒に歩む紺も、店々に視線を巡らせている。
「色々なお店がありますね。玲央さんは何をお探しですか?」
「私は、こんな機会だし──」
 応えつつ、玲央が寄ったのはシックな店。眺めるのはお酒入りの一口チョコだ。
「普段は苦手な味わいのものでも、チョコと一緒だと甘さのおかげで楽しめるからね♪」
 どうせならば種類を揃えて後で食べ比べをしたい、と。
 色とりどりのシャンパントリュフに、上品なパッケージが目を引くウィスキーのボンボンを買い込んでゆく。
 更に、造形に拘ったショコラの中に、炎を象ったものがあれば──。
「全色買っていこう」
 迷わずそれも包んでもらう。
 紺も一口チョコを購入しながら、そんな隣を見つめていた。チョコの誘惑が多いイベントだ、玲央がこういうのに弱いとは判っていたから。
「買い過ぎ、食べ過ぎには注意ですよ?」
「うん。でも、いい買い物が出来たよ」
 玲央はそれでも嬉しげに荷物を手に提げて──次はカフェへ。
 紺もカフェには寄りたいと思っていたところ。だから同道して、テラス席につくと──メニューはすぐに決めた。
 限定という言葉には、どうしても抗えないから。
「少し奮発してパフェをいただきましょう」
「いいね。私もパフェで」
 対面の席で玲央も同じものを注文。
 やってきたのは、艷やかなチョコクリームに、濃厚なチョコがかかったワッフルとフルーツ、チョコアイスや蕩けるガナッシュがふんだんに入った逸品だ。
 早速掬って食べると──。
「ん、美味しい」
「……ええ、本当に」
 クリームは口溶けが良く、チョコソースはカカオの香りが芳醇。ガナッシュはミルクの風味が効いていて、多彩な味を楽しめた。
 外を見れば、フェスを愉しむ人々がいて。
「もう一品、別にいただいてもいいですか?」
「……ふふ、食べ過ぎ注意じゃなかったの?」
「これはきっと、常識の範囲です」
 そんな笑いを交わしつつ。二人はチョコの香りに包まれる至福のひと時を堪能していった。

 明るく賑やかなフェスの中を、ルティエは歩んでいく。
「どれもこれも良い香りで美味しそうで……目移りしちゃうな」
 チョコクレープ片手に、紅蓮と一緒に食べながら。次はどこに寄ろうかと迷い中だ。
 と、そこで一人歩む幽子を見つけた。
 丁度カフェも傍にあったので、声をかける。
「幽子さん、ガトーショコラ……食べていきませんか?」
「深緋さん……ご一緒して良ければ……」
 幽子が応えて頷くので、早速二人と一匹で店内へ。二人分と、紅蓮にミニサイズも注文して食べ始めた。
 焼き目の食感は軽く、中は濃厚なガナッシュがとろりと蕩ける。ホイップもたっぷり乗っていて、ルティエは微笑んだ。
「ふふ、美味しいですね」
「はい、とても……」
 幽子もあむあむ食べて仄かに嬉しげ。
 そんな姿を見つつルティエもまた、笑んで。
「ぁ、これ美味しそう……。そんなに大きくもないし……クレーエと食べようかな」
 メニューを見て、旦那さまと一緒に食べる用に良さそう、と。フォンダンショコラをお土産に包んで貰うことにして……暫しゆったりと食事を楽しんでいった。

「よし、チョコいっぱい楽しみますよ!」
 瞳を仄かに輝かせ、カルナはアーケードを行く。
 右にも左にも甘い薫りがして、暫し視線を迷わせつつ。それでも可愛らしい店を見つけて入ると品を選び始めた。
 ガナッシュに拘りを持つそのチョコは、見目も可憐。
 キャラメルナッツのチョコはコーティングが艷やかで、フルーツソースを含んだものは宝石のように彩りが美しい。
「どのチョコも美味しそうで目移りしちゃいます──」
 全部買って帰りたいのを我慢して選ぶのが、難しいやら楽しいやら。
 悩ましげに見つめつつ、それでも二つを数種類ずつセットで買って……次の店へ。
 ケーキ店で買ったのはガトーショコラ。濃厚なチョコやミルクが強めの層が何段にも重なったもので、粉砂糖が雪のように美しかった。
 同じくチョコクリームがたっぷり挟まったマカロンを買えば、お土産はばっちり、幸せいっぱい。
 最後にカフェに寄ってパフェを頼めば。
「うん、最高です……!」
 クリームとチョコアイスの甘みに、思わず頬に手を当てて。カルナは最後までチョコを満喫していった。

 ノチユは幽子を誘ってショコラトリーへ。
 花飾りが美しい店内で、隣り合って品を眺めていた。
 宝石型や花の模様。一口チョコは小さいながらどれも細かくて。
(「……女の人って、大変だな」)
 そこそこの値段にも、ノチユは驚きつつ……隣へ向く。
「幽子さんはどれがいい?」
「私は……花の形のものが……」
 そっか、と頷くと、ノチユはひとつふたつと幽子の選んだものを買ってあげた。
 そうして礼を言う幽子と共に外へ出ると──暫し並んで歩む。
 甘味あふれる道を行く程に、ほのかに嬉しそうな表情と仕草が目に入って。
 ──誰かに、チョコとかあげるんだろうか。
 だとしたら、羨ましい気持ちは、そりゃあ、あるけれど。
 ノチユは思いながら、緩く首を振った。それはそれとして、自分が一番、彼女にたらふく食べさせたいから。
「マカロンがあるよ」
 見つけたそれを奢ってあげる。
 はむはむとそれを食べる幽子を見つつ、さらに別の店を見つければ──。
「チョコクレープも、食べてこうか」
「良いのですか……?」
 幽子が仄かにそわそわとする姿に、ノチユは頷いた。
「こういう時の呪文は 頑張った自分へのご褒美、でしょ」
 言って、一緒に買って渡してあげると、幽子は柔らかい微笑みを浮かべてかぷりと食べていく。
 ──この後誘うカフェも、気に入ってくれるといいけど。
 ノチユはそこに少しの緊張をいだきながら……また共に歩み出していった。

「さあ、スイートフェスタですよ」
 花音は声音に満開の花を咲かせたように、柔和な笑みで賑わいを見回していた。
「ここまで甘い薫りが漂ってくるようですね」
「うん、お腹減ってきちゃったよ!」
 と、楽しげな色を爛漫な表情に浮かべるのはクロミエ。スイーツ店にショコラトリー、土産物店と、垣間見える店々に既に心惹かれているようだ。
 頷く花音も、色々と目移りしつつ──早速歩を進め出す。
「私はカフェに寄ろうと思いますが、ご一緒にどうですか?」
「いいね、行こう!」
 クロミエがぐっと拳を突き上げると、花音は楚々と笑んで──共に店に入った。
 穏やかなピアノが流れるそのカフェは、座っているだけでも鼻先をカカオの良い香りが撫でてくるようで。
 メニューを開いたクロミエは瞳をくるくる動かしている。
「チョコケーキに、パフェに……あー、食べたい物がいっぱいあって困っちゃうな!」
「まずは一品、頼みましょうか?」
 食べたくなったら後でまた頼めますから、と。
 花音が紅茶とパフェに決めれば、クロミエも同じくパフェを注文。綺麗な器にクリームやアイス、ワッフルにフルーツが盛られたものがやってきた。
「わあ、美味しそう……!」
「では頂きましょうか」
 そうして花音が一口掬うと、クロミエも共に実食。
 まずは滑らかな舌触りのクリームを楽しんで、ひんやりとした甘みのアイスも口に運んでいく。
「ん、美味しいですね」
「下の方のチョコも美味しいよ」
 下層の方は柔らかいガナッシュになっており、そこにフルーツやクッキーを付けて食べるとまた味が変わって楽しい。
 クロミエは更にチョコケーキを注文。花音とシェアし、濃厚なチョコの層と生クリームの相性を味わった。
「次は、お土産を探しにいきましょうか」
「そうだね!」
 笑み合った二人はお会計の後、外へ歩み出し──また散策を続けていく。

「これが……チョコレートフェス……!」
 彩り豊かな店々に、垣間見えるチョコレートの数々。オルティアはそれをぐるりと見回して、胸の高鳴りを覚えないではいられない。
 チョコと言えば普段から惹かれるのに。
 限定──そんな言葉が付いたとなれば一層心は踊る。
「今日は……ううん」
 今日“も”、我慢すべきでないと判断。早速ショコラトリーに寄って一口チョコを選ぶことにした。
「どれも、美味しそう……」
 迷うけれど、ガナッシュが濃密なシンプルな品から、果実のピールを加えた色彩豊かなものまでを次々購入。店内の席で頂き、蕩ける甘みを楽しんだ。
 さらに薔薇型や桜型が美しい造形美のチョコを味わって──お土産も買いつつ次の店へ。
「次は、次は……品数、多い……こんなの、迷う……!」
 そこはザッハトルテにガトーショコラ、マカロンまで揃いぶみで悩ましく……どれもおすすめなのだと店員に言われれば。
「そう……なら――全種、買うしかない」
 日持ちしないものは今食べる、他は明日食べる、これで解決だ、と。
 テラス席で早速ケーキを頂き、ぱりっとほどける外側のチョコと、中の柔らかいチョコクリームのコントラストを楽しんだ。
「お金も、まだ大丈夫……なんとかなる……。大丈夫……」
 と、零す声は少々震えていたけれど。
 それでもあくまで攻めの姿勢を崩さずに、オルティアはカフェでパフェを注文。フェスを余さず愉しむよう、チョコに舌鼓を打っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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