巫女服破りの変装大作戦!

作者:大丁

 百段あると言われる石階段は、上りと下りに仕切られていた。参拝客が、ゾロゾロとすれ違う。
 参道にあがると、そこも人がひしめきあっており、拝殿まで行って帰ってくるだけの感じだ。
 途中、参道の脇にある神楽殿では、格子のむこうに巫女さんたちの姿を見ることができる。
 8人ばかりのうち、ひとりだけが、舞っていた。
 行列がゆっくり進むあいだ、参拝客はお神楽を見物していく。
 これらが当神社の、土日の風景だった。
 だが、その時は違っていた。神楽殿内に突如、巫女の背丈の倍もある偉丈夫が現れたのだ。
「きゃあああ!」
 悲鳴は、内外問わず、巻き起こる。乱入者は舞っていたひとりの肩口を掴んで持ち上げると、巫女服を剥いでしまった。
「ぎゃっははは。服がなければ、巫女ではない!」
「や、やめて!」
 裸を晒される女性に、興奮するような見物人などいない。ただただ、暴挙に対する恐怖が広がっていくのだった。

 予知の内容を語り終えた、軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、境内の見取り図などを用意してくれた、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)に、確認の笑みを送る。無月は、黙って頷いた。
 ポンチョ型のレインコートを揺らし、冬美は説明を続ける。
 出現する敵は、神社で狼藉をはたらく、罪人エインヘリアル。
 なにゆえ、このエインヘリアルが、巫女に恨みを抱いているのか。アスガルドでの巫女に準ずる予言などがあるのか、はたまた犯した罪と関係があるのか、詳しい動機は冬美にも判らなかった。
「けどねぇ。参拝で人の集まるところへ送りこめるなら、それだけ多くの恐怖と憎悪を得られるのだと、罪人とのあいだで利害が一致したのでしょう。釈放される場所が、神楽殿内の巫女さんのそばに意図されているのは、予知で確実よぉ」
 となれば、事前の避難誘導はもちろんのこと、神社側にも襲撃を知らせることはできない。
 無月がもう一度、頷いた。冬美が、ケルベロスたちに策を授ける。
 それによれば、8人の巫女はアルバイトであり、当日のシフトにケルベロスが交代ですり替われる算段がついているそうだ。
「戦闘装備や性別を偽装する手伝いもできるのぉ。もちろん、本物に近いほど、罪人エインヘリアルの注意をひくことができる。最低でもひとりは潜入しておけば、予知にある神楽舞の巫女さんに被害は出ないからね」
 敵の攻撃方法は、素手での服破り。近くの1体を狙えるところから、『破鎧衝』に近い性質をもつ。
「無月ちゃんは、破鎧衝を使えるでしょぉ? 実演してみせて」
 ポンチョを裏返すと、巫女服に偽装されていた。
「ええ。見本を示せるのなら」
 冬美は淡々と脱がされ、淡々と見物されるのであった。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)
カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)

■リプレイ

●神楽殿
 黒い長髪は、地毛のまま一本に結われて、背中に垂れる。空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は、巫女服を纏って、神楽を舞っていた。
 手には鎗をかたどった祭器を持ち、ゆっくりと身体の周りを旋回させる。
 伴奏に、歌や笛はなく、太鼓の拍子だけだ。
 込み入った振り付けではなく、一定の間隔で同じ動きを繰り返す。もっとも、ケルベロスゆえに、簡単に覚えてしまえただけかもしれないが。
 ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は、同じ姿の巫女たちの中で、板の間の奥に並んで正座していた。
 親友、無月(なづき)の舞を、無表情に見ている。
 足袋を少し、モゾモゾさせながら。
(「エインヘリアルが襲ってきたら、返り討ちにしてあげますよ……」)
 アルバイトのシフトに入りこみ、襲撃に備えている。巫女の装束には髪型も含まれるゆえ、青色の髪にまるまるカツラをかぶって黒の直毛にしていた。
 殿の中には照明は焚かれておらず、薄暗かった。
 外とは、木枠の格子で隔てられている。参拝客たちのがやがやとした声が聞こえ、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、隙間から覗いていく沢山の視線に、果たして男とバレていないか、気が気ではなかった。
(「敵の狙いが巫女なら、オレたちが巫女に扮すれば被害は最小限で済む。問題は『オレたち』って事は当然『オレ』も含まれる訳で……」)
 前述のかつらに加え、エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)に手伝ってもらった女装。日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)ともども、長身だから、舞の順番が回ってきて、立ちあがればどうなるか。
 あと、エメラルドによれば、下着は付けないのが礼儀らしい。蒼眞(そうま)は、襲撃者の破鎧衝で女性参加者が被害に遭うかもと想像するたび、中身が立たないかも心配していた。
 槍の舞が終わり、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)に交代する。
 右に歩いてはクルリと回り、左に歩いては一礼する。厳かな雰囲気に合わせて、静かな足運び。
(「ふふふー、すっごく楽しいの♪」)
 もともと御神楽が好きで、得意だった。地方の特色もあるから、習う必要はあったが、飲み込みも早い。
 他の依頼時も、巫女服を着ているくらいだが、本日は改造などではなく、皆と同じに普通のもの。
(「ふわりさん、さすがですね」)
 ベルローズ・ボールドウィン(惨劇を視る魔女・e44755)は、漆黒の髪を付け毛で伸ばしている。魔女を名乗る彼女も、一度は巫女服を着てみたかったらしい。
(「これだけ薄暗ければ、8人全員のなりすましが通せるでしょう」)
 視線を横にずらして、仲間の様子を伺おうとしたおり、ベルローズは疑問を感じた。カフェ・アンナ(突風はそよ風に乗って・e76270)が見つからない。
 居るのは、ミントよりも小柄な女性なのである。
「一人だけ、本物の巫女さん……?」
 カフェは、参拝客にまぎれていた。
 ダウンジャケットにマフラーという冬服で、人の列に並びながら、事が起こったときの誘導方法を検討していた。ジャケットの下に着ていないのは平常どおり。人混みで隠されている。
 見回ったところ、年少者の安全は確保されているようだ、混んでいるからこそ、親は子供の手をしっかり握っているし、より小さい子は肩車してやったりだ。
 神楽殿では、エメラルドの番がきて、板の間の中央に進み出た。すでに、着崩れている感じだ。
 和弓を振る役割であった。舞い始めた矢先に、彼女の襟を掴む、太い腕が出現する。
「ぎゃっははは。服がなければ、巫女ではない!」

●巫女さん襲撃
 無月は装束のまま、襲撃者へのけん制にまわる。
「なんで、巫女さ……、わたしたちを狙うのか、わからないけれど……」
 矛先を向ける。祭器の槍はゲシュタルトグレイブに変わっていた。エインヘリアルは、わずかに反応して、無月の動きを警戒する。
「だって、そうだろ! 何が神だ、何が巫女だ!」
 エメラルドの襟元を掴みながら力説する。袂が分かれて、地肌が見え始めた。それでも、囮役としてされるままになりながらも、口では抵抗する。
「この国の神職に対して、無礼千万の非道な行いだな……」
「おう、儀式などは戯言に過ぎん! おまえ、ヴァルキュリアだろ。神は戯言で俺たちをさんざん使い倒してきたじゃないか!」
 緋袴の結びが解けて、板の間にスルリと落ちた。
 ベルローズは一般人巫女が、ビクッと身を縮めたのを見る。庇って後ろに下がらせた。罪人はこっちも睨んでくる。
「そこのシャドウエルフもだ! おまえら妖精なら、俺が常々思ってることを判るだろ!」
 やつの言葉に、エメラルドとベルローズがピンときている様子はない。
 それよりも、ふわりには連想されている。ここのところ出現の続いている、なんだか主張を押し付けてくる敵が。
 ロディは、格子戸から外に声をかけた。カフェがすでに、参拝客たちの避難指示に動いていたからだ。
「みんながデウスエクスの気をひいてる。一般人たちは逃がせそうか?」
「は、はい……! 石段に急かすと危険ですから、拝殿に誘導して……ます!」
 あらかじめ、付近の調査をしていたことから、判断は適確だった。普段とは違って、大きな声が出ており、救助者に付き添うというよりは、神楽殿の前に陣取って、指示に努めている。
 攻勢に出ても、一般人の被害はない、と感じたふわりは、先ほどの舞の歩法を再び始めた。罪人はさらにいらつく。
「やめろ、やめろ! 恐れもせずに神に尽くす、おまえらの存在自体を消したいんだ!」
 その言動からミントも気付いた。襲撃者はまだ、自分たちを巫女だと信じている。ケルベロスの変装潜入だと理解していない。
「消滅すべきは、エインヘリアルさんでしょう」
 足袋からエアシューズへと変形する。
「この炎で、焼き尽くしてあげますよ」
 板の間から振り上げる靴底に、摩擦熱が宿る。
 炎をうけて敵は、片手で必死にはらう。
「ぐうう。履き物でさえも馬鹿にしやがって。もう、糸一本残らず、脱がしてやる!」
 本物の巫女は、ベルローズから蒼眞へと預けられ、神楽殿から脱出させるところだ。
 小さな肩に手をやると、蒼眞の心にはデウスエクスへの反論がふつふつと湧いてくる。
(「全裸にしてどうする。折角の巫女服。一部だけでもらしさを残してこそ、萌えるというものだろう」)
 実物に触れるうちに、妄想は捗り。
(「その方が神聖なものを穢すという背徳感もあって、股間が熱く燃えるのさ……んん?」)
 もちろん、敵の目的に、穢したり、ましてや萌えたりは入っていない。蒼眞が気にすべきは、その熱くなるはずの股間に反応が起こらない点だった。
(「こ、この巫女さんは……まさか!」)
 思考は、隔てていた格子への、カフェの降魔真拳に邪魔される。拳を突きだし、人が抜け出せる程度に破った。
「あなたは……! ち、注意してくぐってください。私のそばを離れないように!」
「はい。ありがとうございます」
「カフェ、後は頼んだぞ」
 蒼眞はバイオガスをまいて、神楽殿の内外での視線を遮断した。

●決着の行方
 ふわりは両手を前へ差し出して、ゆっくりとした所作を続ける。エインヘリアルの視線は追う。
「忌々しい! まだ、神事とやらを続けるか!」
 右に歩けば、右に。左に歩けば左に。時間をかけて回ったあと、着物の袖で、そっと顔を隠す。
 『別離の後に訪れる、愛しい君との素敵な再会(イナイ・イナイ・バア!)』の効果で、罪人の認識から、ふわりの姿が外れ、その隙に背後から抱きついた。ブラックスライムの捕食形態が。
「離れろ、この!」
 背中に手をやるうちに、巫女服の襟も乱暴に振り回し、襦袢ごと剥いだ。
 袖から抜かれたエメラルドの左手には弓が握られ、解放されたことで妖精弓へと変化している。
「ハートクエイクアローを受けるがよい!」
 豊満な乳房の前で矢を引き絞り、ヒュウと射た弦の震えに、ふくらみも揺れる。
 巫女服の下に何も着ないという俗説を信じ、剝き出しとなっていた。
 蒼眞は、『太陽機蹴落顕現(ヘリオンダイブ・リライト)』に踏み切る。
「俺の道はおっぱいダイブ……あれぇ?」
 女性へのいたずらを再現する能力なのに、残霊に担がれてダイブしてきたのは、エインヘリアルのほうだった。
 しかも、今朝の蒼眞がしたように、男の狙いは外れて裾に飛び込み、他ならぬ蒼眞の袴のなかで口に含んでしまう。
「うぎゃああ」
「おええええ」
 巫女への女装が逆転現象を生んだのか。
 袴から頭を抜いた罪人は、フラフラと身を起こすものの棒立ちだ。
 ヘリオンダイブの足止め効果かもしれないが、もはや巫女たちからも視線をそらすほど、気落ちしていた。ロディも、囮などと悠長に構える余裕がなくなる。
「オレも襲われる危険が?! 生まれ持ったダンディズムが溢れるんじゃないかと心配してたのに!」
 破鎧衝を腰布に打ち込む。現れたソレは、下を向いてフニャけている。
 エインヘリアルが興奮していなくて安心した。加えて。
「なんか、思ったより、弱いぜ」
 本当のところ、捨て駒の尖兵を相手にするには、ケルベロスの顔ぶれが強力であった。
 格子戸の外で、カフェは巫女をしっかりと抱き、守る代わりに戦闘へは復帰しない。戦力的には内部の7人で十分だからだ。
 とはいえ、バイオガスこそ晴れてはいないが、やはり本物の巫女を、罪人が追ってくる可能性も残っている。
 ダウンジャケットを脱いで、戦闘スタイルを現したカフェは、鬼神の突起を伸ばしてはいた。
 筋肉質な腕の中で、巫女がうめく。
「わたしも、不謹慎なことだと思います。まさか、神社の中で。こんなことは初めてです」
「き、きっと……すぐに終わりますからっ!」
 突いて破った穴のなかは、佳境を迎えていた。
 ベルローズは回復の魔法、『バンシィゲイル』を蒼眞に唱えようとする。ショックを受けているようだったから。
 だが、思い返せば彼は、攻撃を当てた側である。
「まあ」
 袴を持ち上げるほどに、立ってしまい、脈打つ元気さが感じられた。
「同性にされて、ああなってしまったからこそ、蒼眞さんは意気消沈しているのでしょうか」
 詠唱を禁呪に変え、ベルローズは生み出した虚無の球体を敵へとぶつけていく。
 傷つきながら罪人エインヘリアルは、なんとか奮起してミントの巫女服に手をかけた。一度は無月に庇われるものの、ふたりは髪飾りから足袋までを脱がされる。
 今度こそ、ベルローズが回復の風を送り、エメラルドはフローレンスフラワーを、妖精の舞でもって振りまく。
「やはり、私は此方の舞いの方が慣れているな」
 ヴァルキュリアは全裸で跳ねた。
 ヒールを受けたとはいえ、無月とミントも全裸のまま。
「……行こう」
「華空(ハナゾラ)……わたし達の力」
 無月が槍乱舞をしかけ、ミントが銃撃。
 星天鎗アザヤは、頭上で旋回し、無月の伸びあがった身体には、桜色の突起を有する控えめな胸と、無毛なワレメがあらわになっている。
 そのいっぽうで、青薔薇の手からは、とめどなく弾丸が撃ちだされ、ミントの細身の体型を、正面から捉えることは叶わない。
「「刻んで果てて……!」」
 親友と呼び合う裸身の影と呼吸は合わさって、一突きと一発で仕留めた。
 罪人エインヘリアルは、大それた野望の一歩も印さず、滅びる。

●奉納
「ケルベロスのみなさんは、神社を守るため、巫女のふりをしていたと伺いました」
 カフェに付き添われて、神楽殿にあがってきた一般人の巫女は、どうしたことか、髪以外の装束をすっかり脱ぎ捨ててきていた。
 その身体つきは、思っていたよりも、ずっと幼い。
 しっかりした口ぶりや、アルバイトという言葉に影響されて、高校や大学に通っている年齢だと勘違いしていたのだ。蒼眞とカフェ以外は。
「ですが、みなさんは本日の神楽を執り行う、正式な巫女なのです」
 すぐに儀式を再開し、舞を続けて欲しいのだという。なんでも、罪人エインヘリアルの言っていた、服がなければ巫女ではないという論調を覆したいらしい。
「裸で踊る? よけいな騒ぎにならないかい?」
 蒼眞が当然のことを口にした。ベルローズも続ける。
「聖域で、ふしだらなことはいけませんよ?!」
 神聖だからこそ、変に興奮するような参拝客はいないのである。そう説明されて、ベルローズはすぐに首を縦にふった。
「ふしだらでないなら、いけます」
 袴の紐を緩める。ロディと蒼眞の顔をちょっとだけ見て、そっぽを向くと小袖を脱いで下着も外す。
 ミントに無月、エメラルドの3人は、戦闘ですでに全裸だった。そのままの姿でヒールかけをしていたが、頷きあって同意する。
「着替えを用意してこなければと、考えていました。現状で構わないなら、手間が省けますね」
「ミントが……いいと言ったから。少し、恥ずかしい、けど。戦闘中は、恥ずかしくないから、それと、同じ……?」
「賊が辱めようとした行ないを、心意気でもって跳ね返すのか。気に入った。喜んでこの身を捧げよう」
「ふわりはねー。とっても楽しそうなのー。ふわりもやるのー♪」
 白いパンツを掴んで、ツルっと降ろした。赤いリボンをあしらったカワイイ下着は、たたんだ巫女服にくるまれて、皆のものも含めて、カフェに預けられる。
 参道の列も整理しなおされ、8人の巫女はふたたび、人前に出た。まあ、巫女服を着ているのは、男性の2名だけではあるが。
 ロディは、観念して舞う。
「仲間の恥ずかしい姿を、人に見せないようにしてたんだけどなぁ。また、更衣スペースが無駄になったぜ」
 でも、困っている人がいないことにも気が付いて、ここは一般人の巫女さんの意向に沿うことにする。
 境内が締まるまでの時間、いったいどれだけの人に、ハダカを見られることやら。
 真顔で優美に踏む床板に、誰のものから伝い落ちたのか、雫が光るのだった。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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