すごく寒い人たちの前ですごく温まる依頼

作者:星垣えん

●ここから始めよう
 雪降りの空気を吸えば、冷たさで肺が凍てつく。
 そう錯覚してしまうような厳寒の雪原に、ビルシャナが立っていた。腰に手を当てた堂々とした立ち姿の後ろには、彼に付き従う男たちの姿もある。
 なお、全裸だ。
「寒いな」
「寒いっすねぇ……!」
「縮み上がりますね。ナニがとは言いませんがね!」
 落ち着き払った鳥さんの低音呟きに、信者たちが身震いしながら答える。
 雪風が素肌にダイレクトアタック――そのダメージたるや文字通り骨身に染みるって感じだったのです。
「馬鹿者め。おまえたちは鍛え方が足りんのだ」
「教祖……!」
 寒がる信者らに振り返る鳥(羽毛ふっかふか)。
「いいか。冬だからって服を着なくてはいけないことはないのだ。露出度を高めるという行為に季節は関係ない……つまり冬でも、我々はおっぴろげていいのだ」
「おっぴろげて……!」
「なんて開放的な響きなんだ……!」
 鳥の語る言葉に、感服した表情を浮かべる(裸の)男たち。
「露出できるって素晴らしいだろう。服を着る煩わしさがないからな。しかもこのスタイルがひろまれば裸のチャンネーも見放題ということになる」
「裸のチャンネー……!」
「日本、始まったな」
 一気に鼻の下を伸ばす男たち。目がギンギンでなんかもう痛々しい。
 鳥さんは彼らの期待に溢れた顔を見渡して、勝鬨をあげるかのように拳を上げた。
「冬でも誰もが露出する国に……我々が日本を変えるんだ!!」
「うおおーー!!」
「やってやるぜぇぇーー!!」
 重なり合う男たちの咆哮が、雪空へとぶちあがる。
 うん、ニッポン始まりそうですね。

●あったかくしよう
「どうしてこのようなことに……」
「違う意味で日本が始まりそうっす……」
 話をすべて聞き終えたルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)の呟きに、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はデカいため息を添える。
 全裸集団の出現。
 そんな難局に直面してしまった2人の表情は、マジ重である。
「……とゆーわけで、皆さんにはこの『冬でも脱ぐべき!』って推してるビルシャナの対処をお願いしたいっすよ」
「可及的速やかな解決が必要だと思われます!」
 ダンテとルーシィドの切実な視線に、猟犬たちは黙って首を縦に振った。
 一大事ですもんね。
 全裸の教えが世の中にひろまったら大惨事世界大戦ですものね。
「でも安心して下さいっす! ビルシャナはともかく信者たちは普通の人間、寒さに耐えられるわけがないっす……だから彼らの目の前で皆さんがあったかくしてれば、きっと目を覚ますはずっす!」
「そのための準備はここに!」
 ダンテの断言に合わせて、床に手をひろげるルーシィド。
 そこにあったのは様々なあったかアイテムだった。
 薪や台が揃った焚き火道具や、厚い布団のこたつ、電気毛布や羽毛布団がセットになった寝具類、ついでに七輪とかバーベキューコンロとか鍋とかも。
「豚汁とか作ったら美味そうっすよね!」
「炊き出しの定番ですね!」
 ふふふ、と笑いだす2人。
 なるほどつまり……適当に過ごしてたら大丈夫だな、と猟犬たちは確信した。
「さ、それじゃ出発っすよ! 荷物を積みこんで下さいっす!」
「たくさん用意したので重たいですわ……!」
 率先してヘリオンに諸々を搬入するダンテとルーシィド。
 かくして、猟犬たちは全裸の人たちの前で温まることになるのだった。


参加者
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
秦野・清嗣(白金之翼・e41590)
武蔵野・大和(大魔神・e50884)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)
白樺・学(永久不完全・e85715)

■リプレイ

●おじさんがあらわれたぞ
「今日は脱衣日和だな」
「まったくですね!」
「みんなも脱げばいいのになあ!」
 雪原に大声を響かせる、全裸の男たち。
 その10mぐらい横には、なんかわいわいしてる猟犬たちの姿があった。
「やっぱり雪は冷たいですね! 押し固めるのも大変です……あ、ローゼスさん、荷物はその辺りにお願いします」
「ここですね。暖房器具はあらかた運びましたし、あとは毛布でしょうか」
 雪の山を成形しているミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が指すところへ荷物を置き、豪脚を活かして彼方へ駆けてゆくローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)。
 設営の真っ最中であった。
 ミリムが雪で作ろうとしているのはかまくらだ。暖房器具を搬入すればだいぶ過ごしやすい空間になるだろう。
「2回も作ることになるなんて思ってなかったよ」
「広くするのは大変ですわね、リリちゃん」
「頑張りましょう! リリちゃんルーちゃん!」
「そうですよ。僕もお手伝いしますから、豪邸を作りましょう!」
 2人並んで雪をぽむぽむ固めてるリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)とルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)を、ミリムと武蔵野・大和(大魔神・e50884)が元気に応援する。
 これ絶対に楽しんでるな。
 信者たちはそう確信するよりなかった。
「満喫しとる……」
「超エンジョイ勢やないか……」
「保温シートも敷いておこう。温まるのも早くなるはずだ」
「これで電気カーペットもいかんなく力を発揮できるわね!」
 信者たちの視線の中、着々とかまくら内の暖房態勢を整えてゆく白樺・学(永久不完全・e85715)と遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)。
 学が敷いたシートの上に電気カーペットをごろーっとひろげると、篠葉はすかさずこたつを置いて神速で入りこんだ。
「温かい……」
「では僕は鍋を用意しよう」
 鍋の支度を始める学。大きな仕切り鍋をコンロにセットするさまを見つめながら、信者たちはぽつりと呟いた。
「鍋か……」
「鍋、いいよね。こんなに寒いものねぇ」
 信者たちのもとへふわりと舞い降りる秦野・清嗣(白金之翼・e41590)。寒いと言いつつ思いっきり前とかはだけてるオラトリオおじさんはそのまま彼らの輪の中に着地した。
「諸君も元気な格好してるけど、限界じゃない? いまね、皆が温かい食事とか準備してくれてるけど、どう?」
「は、はぁ……」
「でも、いきなりだとヒートショックで逝っちゃう危険性があるよね」
 怪しい人を見る目を向けてくる信者たちへ、すすっと距離を詰める清嗣。
 それから手近な者の手を取る。
 懐に引きこもうとする。
「だから先ずは人肌で温めよう?」
「や、やめろォォォ!!?」
 清嗣の手から逃れようと暴れ出す信者だが、逃げることは叶わなかった。
 むしろアラカンとは思えない白い餅肌に包みこまれてゆく!
「馬鹿な!? 強く掴まれてるわけでもないのに!」
「おじさん長く生きてるからさ。年の功ってやつ」
「年の功スゲェェェ!!」
「さぁ、おじさんに全部任せよう!」
 オラトリオの翼をばさぁっとひろげ、信者を抱擁する清嗣おじさん。まるで天国にいるかと思い違うようなフレグランスの中で信者はそっと目を閉じた。

 で、数秒後には『いや俺ストレートぉぉぉ!!』と我に返るのだった。

●腹が減っては
「うん、頑張ったんだ……良い抱き心地になるようにおじさん頑張ったんだよ……」
「――……」
 失意に崩れる清嗣の頭を、毛玉ドラゴンもとい響銅がよしよしと撫でている。
 結局誰も懐に飛び込んできてはくれなかった。
 そんな現実に清嗣は死ぬほどへこんでいました。
「しっかり準備したのに……」
「諸君、よく誘惑に負けなかったな。さすが我が同志だ」
「当たり前ですよ!」
「寒さに負ける俺たちじゃありませんぜ!」
 拍手して褒めたたえてくる鳥へ、気概を見せる信者たち。相変わらず雪原はクソ寒いのだが、彼らはまだ限界に達してはいないらしい。依然としてマッパ。
 ミリムはちょっと赤くなってる顔を逸らした。
「いや寒さ以前に、その、恥ずかしくはないのでしょうか……」
「恥ずかしい? 何を恥じる必要があるのだ」
 平然と言い返す鳥。
「我々の体は寒さに負けぬほど強いのだ。強い裸体を晒すことがなぜ恥ずかしい」
「そうだそうだ!」
「俺たちは恥じるようなボディは持ってない!」
「『わたし自信ない……』って恥ずかしがってる女は好きだがな!」
「くっ、これはもう手遅れなのでは……!」
 ぐへへ、と涎を垂らす信者の姿にもう不安しか感じないミリム。
 だがそのとき、ミリムと信者の間にルーシィドとリリエッタが割りこんだ。
「皆様よく考えて下さい。冬は……寒いんです!」
「裸になってたら風邪ひいちゃうよ。冬はあったかくしないとね」
 信者たちに訴える2人は、もっこもこだった。厚手のセーターでフォルムはまるっとしてるし、首には伸びきった猫みたいなロングマフラーが巻かれている。
 しかも1本のマフラーである。
 1本のマフラーを一緒に巻いたルーシィドとリリエッタは、なんかもう傍目から見ても温かそうだった。
「2人で1本……だと!」
「幸せを分かち合ってこそ心が満たされるのですわ。ね、リリちゃん」
「うん。一緒に巻いてるとすごくあったかいよ」
「見せつけやがって……おかげでなんか寒くなってきた!」
 リリルーが披露するほっこりシーンを見るなり、信者たちは急に風の冷たさを強烈に感じはじめる。
「ううっ、さ、寒い……!?」
 1度認識すると、寒さはいっそう増すばかりである。
 すると、だ。
 そこへ甘い匂いが流れてきた。小豆を煮たような匂いだ。
 いったいどこから、と探った信者たちの視線が行き着いたのは――かまくら。
「あー。この甘さ、たまらないわ! 何杯でも食べれちゃう!」
 こたつに半身を埋めた篠葉が、めっちゃお汁粉食ってた。
 傍らに置いた七輪でぷくーっと餅を焼き、温かなお汁粉にくぐらせて食べる。箸と口とでみょーんと餅を伸ばしているその姿は至福以外の何物でもないぜ!
「やっぱり寒いときはこたつに入ってお汁粉よ。あったかい玉露と塩昆布もあるし、雪の降ってくる外とは雲泥の差だわー」
「すーごい言ってくるよあの娘!」
「絶対確信犯だよね! 確信犯でお汁粉の匂い流してきてるよね!?」
 離れてても聞こえる篠葉の歓喜に、全裸マンたちはツッコむしかなかった。お汁粉の入った鍋が風上にあるから甘ったるさが死ぬほど流れこんできてるんすわ。
 おかげで、信者たちの腹は盛大に鳴った。
「お汁粉ぉ……」
「皆さん、お腹がすいているようですね。もしかしてお食事はまだですか?」
 腹を押さえる彼らの前に現れたのは、ローゼスだ。
 その背中に毛布を何十枚も重ねてナントカ物置みてーになってるセントールは、そのうちの1枚を取り、空いた手で別の何かを掲げた。
 カップの豚汁である!
「地球の文化には未だ疎い私ですが。無理をしても辛いだけかと。衣食足りて、初めて文化を楽しむ余裕が出来るのだと私は思います」
「おいやめろやめろォォ!!」
「豚汁を毛布で仰ぐな! お腹がすくぅぅぅ!!」
 ばっさばっさ、と動かされた毛布が豚汁の香りをがっつり流す。
 しかも、である。
「おにぎりならありますけど、食べますか?」
「なん……だと……!?」
 ニコニコと笑顔を浮かべる大和が、トレーいっぱいのおにぎりを持って近づいてきやがったのだ。
 シンプルな塩やごま塩のおむすびから、梅や鮭などの定番おにぎり、醤油や味噌を塗って七輪で焼いた香ばしい焼きおにぎり等々……。
 美味そうな匂いに、信者たちは膝から崩れる。
「反則や……!」
「豚汁と合わせたらいかんよ……いかんやつよそれ……!!」
 ノックアウトである。
 クソ寒い野外で、おにぎりと豚汁のコンボ。耐えられるわけなかったんや。
「食べたいなら服を着てくださいね。僕はパン屋ですから、衛生面には厳しいんです。毛髪や羽毛が混ざった異物入りのおにぎりを食べさせるわけにはいきません」
「おじさん温かい服用意してきたから。はいこれ」
「クッソォォォ!!」
 きっぱりと告げる大和に信者らが逆らえるはずもない。空腹の前に彼らはあっさりと教義を捨て、清嗣が配ったなんとかテック的な服をいそいそと着用する。
 その流れをかまくら内から見ていた学は、ずずっと豚汁を啜った。
「おにぎりと豚汁……美味いな」
「――」
「貴様は食いすぎだ」
 こくこくと後ろで頷いた助手(シャーマンズゴースト)へ、見もせずにツッコむ学。
 見ずともわかっていたのだ。
 助手が顔を米粒だらけにして、カラにした豚汁とお汁粉の器に囲まれているのが。

●鍋とチョコ
「簡単に流されるとはな」
「まったく呆れた奴らですよ」
 服を着て飯を食う元信者たちを、教祖とともに嘲笑う信者たち。
 数は減ったが、鳥のそばには依然としてまだ全裸マンが残っていた。
「ううむ、ビルシャナ恐るべしでしょうか。明らかに耐性が無い人々へここまで強制できるとは……」
「いやどうせ女の人の裸が見たいからじゃないの? キモいわね」
 鳥さんの力(?)に軽く戦慄してしまったローゼスに、篠葉はこたつに突っ伏したまま冷然と言い放った。ちなみに篠葉さん、今まで1度も全裸メンを見ていません。
「はーもう変態がいるってだけでサムいわ……」
「貴様ぁ! 失礼にも程が――」
「ミリムさん学さん、お鍋まだー?」
「こっちの話を聞けぇぇ!!」
 抗議してきた信者をガン無視して、ミリムたちへ向く篠葉。
 ちゃんちゃんこを羽織って仕切り鍋を真剣に見守っていたミリムは、人差し指と親指で丸を作る。
「ふっふっふ! お鍋できてますよ、篠葉さん!」
「こちらも、もう煮えたぞ」
「やった! なら早速食べましょうよ!」
 2人の返事に沸き立つ篠葉。
 仕切り鍋でくつくつ煮えているのは――キムチ鍋とすき焼きだった。学が手掛けたキムチ鍋は赤々として見るからに体が温まりそうだし、ミリムが担当したすき焼きはその姿だけでもワンチャン飯が食えそうである。
「僕の好みで野菜や茸類が多めだが、肉等もそこそこ入っている。好きにつついて食べてくれ」
「皆さんの器と、卵も用意してあります!」
「最高じゃない!」
「美味しそうだね。リリはキムチ鍋が気になるかな」
「ではわたくしはミリムさんのすき焼きを……」
 わー、と一斉に鍋をつつきはじめる篠葉、リリエッタ、ルーシィド。熱々の鍋を器に取り分けるなり、皆は揃ってはふはふと味わった。
 こたつに収まってすき焼きを食べて、ミリムはホッと息をつく。
「あー! 温かいですねー!」
「寒空の下で囲む鍋は美味しいですね! この底から温まる感じ、どうにかパンに活かせないでしょうか……」
 熱い鍋をしかと味わい、頭をぐるぐるさせるのは大和である。
 パンに人生全振りみたいになってるオウガの顔はガチだ。そのうちすき焼きパンとかキムチ鍋パンとか勤め先のパン屋に並んだりしないよね?
「卵に通した柔らかい牛肉を白いご飯と……まさに外道、じゃなくて至高。経費で落とす肉の味は最高よね!」
「うん、エリンギや葱もいい具合に煮えている。スープのほどよい辛みとよく合う……内側から温もる感覚も心地好いな」
 篠葉がすき焼きをがっつり食べれば、学もキムチ鍋に舌鼓を打つ。たっぷりの野菜を豚肉と一緒に口に入れると、旨味が染み入るようで学は深い息を吐いた。
 そのリアクションだけでわかる。絶対美味いやつだと。
 強固なスケベ心で鳥のもとに残った信者たちも、さすがに喉を鳴らす。
「くっ……なんという美味そうな鍋……!」
「お前たちも食べたいか? 分けてやれるだけの量はあるぞ。ただ食べるなら相応の格好はしておけ」
 横目に反応をうかがっていた学が、ぽいっと衣服を投げ渡す。こたつで温めていた服はぽっかぽかで、さしものエロ信者たちも抗いがたいものを感じる。
 清嗣が彼らの肩にぽんと手を乗せ、ローゼスがふぁさっと毛布をかける。
「ほら、温かい食事で内側から温まろうよ」
「肌触りの良い毛布もあります。これでふかふか温まって、鍋を食べましょう」
「鍋……毛布……」
「くっ! もう行くしかない!」
 辛抱たまらん、と服を着た信者たちが促されるままかまくらにダッシュした。
 豪快なスライディングでこたつに入っていく男たちを見て、クソデカため息をつく鳥。
「嘆かわしい。目先の欲に負けるとはな」
「まったくですね」
「見たくねえのかよ裸」
 鳥さんの両サイドで、腹心の部下っぽい空気で肩を竦める2人の信者。きっと信者たちの中でトップツーのエロさだったのだろう。
 ですがね、たぶん早く目を覚ましたほうがよかったっすよ。
「いい加減に服を着なさーい!」
「「ぐあああああああああっ!!!?」」
 ざっぱぁーーん、とミリムが豪快に氷水をぶっかけたからね。バケツ一杯のアイスウォーターによって一瞬で体温奪っちゃったからね。
「ほらこれでも裸で居たいですか?」
「やめろ変なスプレー吹きつけるなァァ!」
「寒い寒い寒い! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」
 冷却スプレー缶の二刀流で追撃するミリム。逃げようとしても素早く先回りしてくるしガチで死を予感した、とは後の信者たちの談。
「ハァァ……死ぬわコレェェ……」
「カラダ……ツベタイ……」
「むぅ、すっごく震えてるね。寒いのかな?」
 バイブ機能を搭載してしまった信者たちを訝しげに見ながら、リリエッタが両手で持った温かいマグカップに口をつける。
 入っているのはホットチョコレートだ。
「甘くて美味しいね。ありがと、ルー」
「どういたしましてですわ、リリちゃん」
 リリエッタに笑い返したルーシィドが、ミニコンロに乗せた鍋をかき混ぜる。温めた牛乳に刻んだチョコを少しずつ……そうして作ったホットチョコレートはなめらかにして濃厚な口当たり。
「ホットチョコ……」
「頼む……俺たちにもそれを……」
 温かみを求め、死にかけ状態で這ってくる信者。
 ルーシィドとリリエッタと目を合わせると、ぐっとサムズアップを交わした。
 で、困ったような表情を作るルーシィド。
「それは構いませんけれど……でも、服を着てくれない殿方には、ちょっと……」
「着ます! 超着ます!」
「何はなくとも服が着たくなってきた!」
 秒だった。
 命の危機を凌ぐために秒で服を着る信者たちだった。
 こうして全裸の男たちは雪原から消える。
 同志を失った鳥さんは白いため息を、寒々しい空気に吐いた。
「私の域に達せる者はいなかったか……」
「いやそもそもあなたは羽毛で防寒してるじゃありませんか!!」
「ヘブッシ!!」
 くるっと中空で回転した大和のあびせ蹴りが、ツッコミとともに鳥さんの鼻っ柱にぶちこまれたァァ!!

 日本を始めようとした鳥さんの野望は、そっから10分と経たずに潰えました。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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