マシュマロなんて許せない!

作者:baron

『こんな物は要らーん!』
 お菓子が載ってるテーブルがひっくり返された。
 そこには様々な菓子が置いてあり、特に色々なマシュマロが積まれていたはずだ。
 大きなものもあれば、中にナニカを入れて包んだ物もあったはず。
 だがそれらは今や無残に転がり、剥き出しのサンプルは食べることもできず、開封されていなものも箱がへこんでいたりと売り物にはできそうもなかった。
『マシュマロなんか歯応えもないし、かといってゼリーの様に柔らかくもないじゃないか! 他のお菓子の材料にも使いにくい!』
『そうだそうだ。こんな物は不要だ!』
 こんなひどいことをやったのは、ビルシャナに率いられた信者たちだった。
 そいつらは何が気に入らないのか、お菓子売り場を荒らした後、特にマシュマロを踏みつけていったのである。


「相変わらずよく分からない教義なのです。マシュマロが嫌い?」
「せやねえ。いずれにせよ、このままビルシャナを放置していては大変な事になりますわ。マシュマロ嫌いが起こすこの襲撃に対する対処をお願いしますえ」
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)の言葉に頷きながらユエ・シャンティエが説明を始めた。

「聞いての通り、このビルシャナ一味はマシュマロが嫌いなんですわ。ビルシャナ本人は大して強うないんですが、信者が守るのは色々な意味で面倒を起こします。とはいえ、対策がないわけではないのですけれど」
「かなり無理筋の教義だもんね。洗脳されてるに違いなーい」
「まあいつもの如く、インパクトのある説得でも掛ければいいんだな?」
 ユエの説明に戦い慣れたというか、ビルシャナのことをよく知ってるケルベロス達が呆れながら付け加える。
 信者がビルシャナを庇うので、間違って殺してしまうかもしれない。
 それが厄介なところだが、これだけ無理やりな教義を信じている方が少ないだろう。
 つまり洗脳の結果であり、相手以上に強烈なインパクトがあれば信者の一部を減らすことができる。
 あとはそれを繰り返すなり、数人で筋の通った説明をしていき、最後まで残っている者が居れば気絶させればだろう。
「ゆうわけで、ビルシャナご一行を何とかしておくれやす。まあ戦闘の方はあんま気にせんでええでしょう。面倒な相手ですけれど、よろしうお願いしますえ」
「おやつを買い出しに行くついでにパパっと片付けるのです」
 ユエがそう言って出発の準備に向かうと、マロンたちケルベロス達は現地情報を元に相談を始めるのであった。


参加者
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
白樺・学(永久不完全・e85715)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)
 

■リプレイ


 大型スーパーの横断幕が入れ替えられていた。
 バレンタインからホワイトデーへの移行が行われていたのだ。
「チョコレート以外の菓子もこの時期にやり取りされるのだね」
 感心したようにディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)がテーブルに目を向けた。
 そこにはチョコレート以外のお菓子が色々と山積みなっている。
「確かバレンタインでチョコもらったら、お返しという理由でお菓子をどうぞって理由だったと思うよ~」
「なるほど。しかしより良くあろうとする心が織りなす多種多様な文化は心地よいものだ」
 颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)が肩をすくめて解説しつつ、キャリバーのちふゆを駐輪場に止める。
 そんな話に頷きながらディミックはマシュマロやキャンディーを眺めた。
「チョコレートは元は神殿などで興奮するため飲み物だった。世界中に広まると時代が下って媚薬として使われた時代もあるそうだが、マッチしているのかもしれんな」
 白樺・学(永久不完全・e85715)も熱心に棚を覗き込む。
 その姿はウインドウ・ショッピングというよりは、もはや研究というべきかもしれない。
「興味は募るところだが……そうもいっていられないようだな!」
 学は研究用にチョコレートに関するパンフをもらうと、シャーマンズゴーストの助手に渡しながら駐車場に向き直った。

 視点は再び駐車場の外へ。パンフレットは流れるようにゴミ箱へ。
 ケルベロス達が入ってきた入り口から、鳥人間とその取り巻きが現れた。
『こんな物は要らーん!』
 そいつらは躊躇なくテーブルに近き、上に乗っていたお菓子を強引に振り払った。
 試食品はもちろんのこと、一部の商品は包装紙が破れて売り物にならなくなってしまう。
「速攻で接近する当たり、別にアレルギーがあるからダメという訳でも無さそうですね~」
 相手の動きにセレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)は苦笑してしまう。
 本質的に嫌っているならばもう少し躊躇いそうなものだ。
 面倒なことになりそうだと、予め用意しておいた小道具を用意しに行く。
「要らないものはスルーして、欲しいものだけと関わる方が人生は豊かだと思うのだが……」
 余程のことがあったのだろうとディミックは同情した。
 人間の文明は良い物だ。それを否定するのだから悲しいという他はない。
 とはいえ説得するには、こちらもそれなりの用意が必要だろうと杏仁豆腐やフルーツケーキを入れた箱を確かめる。
『マシュマロなんか歯応えもないし、かといってゼリーの様に柔らかくもないじゃないか! 他のお菓子の材料にも使い難い!』
『そうだそうだ。こんな物は不要だ!』
 そういって踏みにじり始めるのだが、暴論も暴論な上にそのやり方がとにかく酷い。
 何か恨みでもあったのではないかと疑いたくなる。
「ええー、マシュマロにはマシュマロの食感があるよ? ゼリーとかとはそりゃ違うけど、比べられてもなぁ……」
 ちはるはいくら何でもひどい暴論だと思うのだ。
 もはやマシュマロを嫌いだから理屈をつけているように見える。
「管理も楽ですから、お土産にはちょうど良いのですけどね」
 友人の所に赴くと、重宝されるのにとエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)は苦笑した。
 子供たちは扱いが乱暴なので形が崩れないマシュマロは程よいお菓子なのだ。
「嫌い過ぎてビルシャナになったならある意味酷いアレルギーですねっ」
 そんな意見に頷きつつ、セレネテアルは用意した秘密道具に大きな蓋をしてビルシャナの方へと向かった。


「異議がある。まずは我々の話を聞いてもらおうか!」
『なんだお前たちは!』
 学の静止の声が乱暴狼藉を働くビルシャナに掛けられた。
「ちはるちゃん達はケルベロスだよー。みんなーちょっと待っててねー」
 その間にケルベロスたちはお客を誘導していく。
「他の菓子の材料になれば良いのなら、これはどうだ? マシュマロのクリームだ」
『マシュマロのクリームだと?』
 お菓子を落とされて何もないテーブルに、ゴトンと大きな瓶を置いた。
 そこには日本では珍しいマシュマロ・クリームがある。
「アメリカなどでは割りとポピュラーだと聞いたが、クリーム状ゆえケーキやらタルトやらのトッピングにも使える他。焼き菓子の類ならば、塗ってから焼き上げるのも良いな」
 もちろんそのままクラッカーあたりにつけて齧るも有りだろう。
 使い勝手は悪くないと、学は目の前でやって見せる。試しに食べてみろという気なのだろう。
「どうしてこんなことが可能なのか、私の方から説明しよう。まずは杏仁豆腐にアイスクリームだ、どうぞ召し上がれ」
『な……に』
 彼が料理に使えないという言葉を否定した後、今度はディミックが杏仁豆腐やアイスを取り出した。
 小皿に盛り合わせる姿は、むしろ研究を思わせる。
「マシュマロは『使い難い』、これは確かだが……砂糖と水飴、コーンスターチ、あとはゼラチンなんかで出来ているね。実は原料レベルにおいては甘味が強く粘性のあるメニューと共通しているんだ」
『馬鹿な。これだけ甘さや感触が違うのに、同じものだと!?』
 静かに語り掛けるディミックの言葉に信者たちが唸った。
 食べ物の食材や成分というのは、大抵そんなものだ。しかし面と向かって指摘されると驚きの方が強い。
 そして次なる一言に驚愕すら覚える。
「同じ完成品という部類でも、ケーキやマカロンに比べればはるかに優秀な材料だよ。お菓子に利用しなくとも、カレーやオムレツの味を調えるのにも使えるしね」
『なんだってー!?』
 カレーにコーヒーやチョコなどは聞いたことがあるが、まさかマシュマロとは……。
 驚く彼らに、ディミックは砂糖や蜂蜜よりも淡くて、失敗し難いそうだよ。と補足した。

 まずは料理の材料には成り難いという見地を崩していった。
 次は普通とは違った食べ方を提示してみる。
「実は知らないだけで、食べ方によって自分に合った食べ方が見つかったりするかもですよ~!」
 セレネテアルはワゴンの上に鍋を幾つかとコンロを載せていた。
 仲間たちが説明している間に湯煎で温めていたのだ。
「例えばこんなのはどうでしょうかっ。まずは有名なチョコフォンデュから……超ウマですっ!」
 セレネテアルは鍋に漬けたマシュマロを、小皿でこぼさないようにお口にポイ。
 自ら味見して、ん~これは美味しい。と食レポだ!
「次は抹茶フォンデュです~! これは変わり種でマシュマロが意外と絡むんですよ~! はい、あ~ん♪」
「え、っと。はい。あ~んっです」
 次なる鍋を開けてみると、深い緑の色が飛び出した。
 抹茶には砂糖で味が付けてあるのか、それとも苦いままでマシュマロの甘さを引き立てに掛かったのか。その姿だけでは判らないが、幾つかの可能性を伺わせる。
「あ、これは……お抹茶だけなんですね。でも意外と癖になる味ですね」
「ですよね~♪ これはマシュマロの甘さと、必要以上のディップソースを落とせる固さが重要なんです」
 エレスの言葉によると甘くはないが、だからこそセレネテアルの言う通り甘さが引き立つらしい。
 他にもチョコや甘酢っぱいフルーツなどで、切り口を変えながら食べられるそうだ。
「そして、合うかすら分からないこのコーンスープフォンデュ……。マシュマロなら他の具材より気軽に試せるので、こういう闇鍋的な楽しみ方もできますっ。食べてみたい人ー、居たらあーんですよ!」
『チーズ……いやスープフォンデュの一種か。まあ試すには……』
 最後の一つはちょっと変わり種だ。
 面白いことは面白いが、スープとしてのコーンの甘さとマシュマロは微妙だろう。
 だが試みとしては面白く、もしかしたら合うのではないか……と信者の気持ちを揺るがせる。
『騙されるな。マシュマロが使い難い、触感や柔らさが微妙と言うのも変わりはない!』
「そっかなー? ちはるちゃんは面白いと思うけど……。じゃあまぁ、気に入らないのならちょっと食感変えてみよっか」
 ビルシャナの怒号にちはるが立ち向かう。
「食パンに乗せてー……こんがり焼いてー……マシュマロトースト!」
「ふむ。そういうことか」
 ちはるがお約束に合わせて『知っているのかな?』と尋ねると、学はド真面目に頷いた。
「アメリカンな食べ方だな。聞けばバーベキューにも使うという」
「そーそー。ザックリサクサクなトーストに熱が通ってトロットロになったマシュマロがじわっと絡んで……。ほんっとおいしいから、もう……とりあえず食べて食べて!」
 学はさっき言った言葉通り、マシュマロクリームでもできるとフォローしようとした。
 しかし重々しい口調が告げるよりも先に、ちはるがマシンガントークでキャッキャうふふと信者たちの間を飛び回っている。
「どうどう? これね、甘いの好きならもうちょっと味を乗せるのもいいんだよ、ジャムやハチミツ、シロップにチョコ……あ、そうだチョコ」
 てててー!
 っとちはるは右から左にすっ飛び、元の位置に鍋を取りに行く。
 そこにはセレネテアルと似たような香りで、ドロリとした飲み物の中に白い塊が幾つか浮いていた。
「ホットチョコにマシュマロ溶かしておいたんだった。これも飲んで飲んで、ほろ苦甘でいい感じにしといたよー♪」
 ちはるは明るく楽しくさえずる様に飛び回ったかと思うと、『え、口移しが良い? やだーえっちー。あーん』とか冗談交じりに賑やかだった。

「最後にマシュマロならではの使い道を告げましょう。固いチョコや柔らかすぎるゼリーでは不可能な事です」
『……マシュマロでしかできない事でもあるというのか!? そんなものがあるはずが……』
 エレスの言葉を否定しようとしたビルシャナだったが、思わず絶句した。
 なんと胸元からマシュマロを取り出したのである。
「て、てんどんだー! にかいめー」
「相手が違うのでノーカンです!」
 ちはるは前に一度見たことのある技を見て抗議した。
 ヒーローの必殺技は一回、悪役がお約束を破るのも一回までだと。
「ゴホン! 例えばですが、飛んできたマシュマロをお口でキャッチする楽しみ方はテレビや運動会で見た事があるのではないでしょうか? いきますよ!」
「どんと来てー! この三倍あってもいいよー」
 エレスが投げるマシュマロをセレネテアルが口でキャッチした。
 アドリブだったがケルベロスの速度ならばなんとか大丈夫!
「あれは豆みたいに硬すぎると顔や歯に当たった時に痛いですし、綿飴や液体などの物でも上手く投げられません。マシュマロのあの絶妙な柔らかさはそれに適しているのですよ。次は誰がチャレンジしますか?」
『ええ!?』
『へー~?』
 エレスの言葉に男性信者は顔を赤らめ、女性信者は額に青筋を立てた。
 何しろ胸元から取り出したマシュマロだよ!
 甘酸っぱい青春の味でもしそうだが、そもそも口にしていいの? と恥ずかしがったり怒ったりしているのである!


「居ないみたいだねー。じゃあタッチ交代~」
「お願いします。キャッチして見せますよ!」
 驚いている間に攻守が交代し、セレネテアルが投げたマシュマロをエレスが飛び跳ねてキャッチするという羨まけしからんことになっていた。
「どうでしょう? マシュマロの味が苦手な人でも、見ているだけで何だか楽しくなってきませんか?」
『いい加減にしろ!』
 ポカーンとしていたビルシャナが、さすがに我に返った。
 真っ赤になって激おこプンプン状態である。
「あー。だめかー。信者くらいは行けると思ったんだけどなー」
「女性信者はむしろ決意を固めて……は、ないか。あれは元もとだね」
 ちはるが頭をポリポリとかきながら信者の後ろに移動し、ディミックは身構えて回復に備えることにした。
 数名の信者がまだ残っており、闘う意思を見せたからだ。
 とはいえボインボインを見たからといって、胸の薄い女性信者が戻って来たり、セクハラしたい男性信者が戦うことはない。
 あくまでマシュマロ嫌いな者だけが残っているようである。
「どうやら気を取られているようだ。今の内だね」
「強敵ではないが、庇いはサボるなよ。いいか、サボるなよ」
 ディミックも信者に向かい始めると、学は助手に回復役を任せて残った信者を気絶させに向かった。
 なお賢いシャーマンズゴーストは、ビルシャナがエレス達に気を取られて動いていないのを良いことに、様子を見ていたのである(何もしていないとも言う)。

『話にならん。消え失せるがいい!』
「ちふゆちゃ~ん。いくよー」
 ちはるは呼び寄せておいた、キャリバーのちふゆと一緒にビルシャナの攻撃を防ぎにかかった。
 炎を防ぎとめ、仲間たちのカバーに成功する。
「やりましたねー。炎には炎。私の蹴りは危険ですよ~?」
 セレネテアルは足に炎の気をまとい、ビルシャナに蹴りつけることで相手の内部に移した。
 だがそれで彼女の動きは止まらない!
「私には真似できない、貴女の力をお借りします!」
「はいはーい! アンコ-ルだねー」
 エレスは同時には扱い難い、生まれ持った力と志の力を束ねるため……幻影によって仲間の姿を借りる。
 そして二人の掌底に集中させることで、一気に発動させたのである。

 二つの力は二人の力となって……いいや、そこからは他の仲間たちも協力する。
 みんなの力でビルシャナを打ち倒したのである。
「後片つけも、みなでやれば早いですね」
 手別けしてのヒールを終えて、ディミックは一息ついた。
「さて! 軽い運動も終わりましたし、そろそろ本格的に食べ始めましょうか~!」
「居るのか? そういえば確か念を入れて、2つ持ってきたはずだが、おい助手、貴様何か知……」
 まだ食べるらしいセレネテアルに差し入れようと、学は荷物を漁り始めた。
「おい待て丸々消費するつもりか貴様ァァ!!」
 しかし助手がビンを抱えて脱兎のごとく逃げ出したので追いかけ始める。
「さあ、エレスさん! まだ時間もありますし、色んなマシュマロを食べて回りましょう~!」
「え? セレネさん説得で食べていたのにまだ食べる気ですか?」
 お土産ではないかと思わずエレスは訝しんだ。
 一同の中でも彼女はフォンデュをパクパクやってたのである。
「あー、疲れた体にマシュマロトーストが染み渡るー……。味乗せのリキュールもっと追加しようかなー」
 ちはるはそんなカオスの中でお酒に逃げることにした。
「あ、ちふゆちゃんも疲れた? よしよし、運転してもらわないといけないもんね。じゃあ一緒にスイーツ味わおっか。はい、エンジンオイル!」
 アルコールを飲む以上は自分では運転できぬ。
 代行運転の代金として、テンションアップを目論みオイルを用意するのであった。
「何事も程ほどが良いと思うのだがね」
 とは一同の面倒を診たディミックの言葉であったという。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月22日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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