ミッション破壊作戦~残されたモザイク除去を

作者:なちゅい


 先日のジグラット・ウォーにおいて、ケルベロスはドリームイーターの本星シュエルジグラットを制圧することができた。
「それもあって、ドリームイーター勢力の戦力は格段に弱まった状況だね」
 ヘリポートでは、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が新たなミッション破壊作戦の状況説明を行っている。
 ジグラット・ウォーの結果、ドリームイーターのミッション地域の強襲型魔空回廊が消滅し、ミッション地域の完全開放が可能となった。
 本星を失った事で敵戦力が補充されない為、ミッション地域の制圧自体は時間の問題だが、依然として各地域には敵戦力が残っている。
 強襲型魔空回廊を失ったこの敵勢力が、自暴自棄になって周辺地域に攻撃を仕掛けてくるような事があれば、被害は免れない。
「そこで、強襲型魔空回廊を失って混乱している敵の頭上からヘリオンより降下作戦を行い、敵の首魁を撃破する作戦を行う事になったんだ」
 強襲型魔空回廊の消滅に加え、強襲により首魁を失えば、混乱した敵戦力はケルベロスの敵では無く、周囲に進撃を行うまでもなく殲滅する事が可能だ。
 危険な降下強襲作戦となるが、是非皆の参加を募りたい状況だ。


 今作戦だが、強襲型魔空回廊の破壊は完了している為、グラディウス配布と魂の叫びは不要だ。
 解放したい地域のボスを撃破し、その後、この地域の攻略に当たっているケルベロス達と共に残存勢力を叩いていく形だ。
「ただ、攻略するミッション地域は今まで通り、皆に選んでほしい」
 攻撃するミッション地域ごとに現れる敵の特色があると思うので、攻撃する場所を選ぶときの参考にするといいだろう。

「地球上からドリームイーター勢力を一掃したいところだね」
 リーゼリットは笑顔を浮かべてから、両手をぎゅっと握って力強く語る。
「どうか、今なお夢喰いに苦しめられている人達を助けてあげて欲しい」
 そんな願いに応え、参加を決めたケルベロス達はどの地域を攻略するか、話し始めるのだった。


参加者
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)
田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)
副島・二郎(不屈の破片・e56537)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ


 ヘリオンから降下してくる複数の人影。
 悪者顔というべき凶暴さを秘めたオウガの青年、グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)は華麗に着地してみせた。
 ケルベロス達がやってきたのは、秋田県の名不知と呼ばれる廃村となった集落だ。
 長らくドリームイーターに占拠されている地だが、すでに強襲型魔空回廊はこの地にもうない。
 それも、ジグラット・ウォーでドリームイーターの本星を制圧できていることが大きいと中性的な顔をした白衣の青年、タキオン・リンデンバウム(知識の探究者・e18641)は語る。
「今が、ドリームイーターの巣食う地域を解放するいい機会です」
 これまで、散々手を焼かされてきた夢喰いだが、ここで一気に殲滅しようとタキオンは意気込む。
「あと4つ……いや、3つですか。楽しいですねぇ、クソったれどもを追い詰めていくのは」
 ミステリアスなドワーフ少女、グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)は自らの宿敵が夢喰いだった為、最近のミッション連続破壊に上機嫌となっている。
「……奴らから取り戻せるものは、全て取り戻す。逃げ込む所など、残しはせん」
 体の一部を青黒い水で補う元警官、副島・二郎(不屈の破片・e56537)も鋭い視線で、目の前に展開するモザイクに覆われたワイルドスペースを見やる。
「前の戦争で聞いた話だと、ワイルドハントの外見はモザイクでできてる、だっけ」
 髪にハイビスカスの花を咲かせたオラトリオ、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)がこの状況を考察していた。
 ジュエルジグラットを失っても、特に大きな変化を見せぬワイルドスペース。
 なんでも、赤ずきんが『ケルベロスが敵に回ることへの恐怖』を抽出して志願する夢喰いに与えたとのことだが……。
「でも、このミッションが出現したのって赤ずきんを倒した寓話六塔戦争の後だったよね?」
 戦争の前から、何かの目的で準備されたのだろうかと、マヒナは唸る。
 そして、二郎が隣や前方を振り返ると、頼もしい任務仲間の姿が。
「今回も馴染みの方が多く、心強い限りじゃのぅ」
 捻くれ太く老獪な「ムフロン」の角、薄墨色の鱗の竜派ドラゴニアン、ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)は意気揚々と作戦に臨む仲間達の姿に頷く。
「前回と同じく、この地も異空間、とのことじゃのぅ」
「ワイルドスペースに残党が逃げ込んだら、厄介なことになりそうですからね」
 ゼーの言葉を受け、青い角と翼を持つ人派ドラゴニアンの女医者、田津原・マリア(ドクターよ真摯を抱け・e40514)が主観を語る。
「そこに覚悟を決めた敵の存在があるんやったら、尚更……早めに叩かせてもらいますよ」
 すでに地図と退路は確認済みであり、マリアは仲間とその共有も済ませている。
 2人と共に依頼をこなしたことも少なくない二郎。
 特に、暴走経験のあるゼーの身を彼はそれとなく気にかけ、案じていたようだった。

 ワイルドスペースへと突入していくケルベロス達。
 そこで一行が見たものは……、ケルベロスの板餅・えにかが暴走したような姿を思わせるワイルドハントだった。
「えにかに見えているのも、全部モザイクのせい……?」
 亡き親友から貰ったチョーカーを首に装着したリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は顔見知りでもあるえにかの姿をしたこの敵について考える。
「…………」
 ワイルドハントは黙したまま、構えを取る。
 周囲に配下の姿は確認できない。
 おそらくは、ミッション攻略に向かってきていた別働のケルベロス達が応戦してくれているのだろう。
「残った異空間は気になるが、まずはこの者を退けてからじゃの」
 ゼーの一言に頷くリリエッタも構えを取り、えにかと同じような構えを取る敵を注視して。
「どちらにしろ、仲間の姿で暴れられていい気はしないから、今日で解放させてもらうよ」
 この場でワイルドハントを倒すべく、リリエッタは仲間に合わせて飛びかかっていくのである。


 ケルベロス達よりも速く襲い掛かってくるワイルドハントは、オリジナルであるえにかのオリジナルグラビティまで使いこなし、襲い掛かってくる。
「………………!!」
 喋ることはできない相手だが、何かを叫ぶような仕草をしながらもくるくると舞い、こちらを翻弄しようとしてきた。
 その一撃をタキオンがカバーし、受け止めた直後、マリアが攻撃に動く。
「ワイルドハントは二度と元には戻れない、最後はモザイクの塊に……」
 この姿となるには、相当な覚悟があったのだろうとマリアは推し量る。
 だからこそ、ワイルドスペースだけではなく、本星がなくなったことで腹の決まった敵を残しておくのは危険だと彼女は判断する。
「一刻も早く倒さんと……。その可能性、打ち砕きます」
 まずはドラゴニックハンマーを担ぎ、マリアは超重の一打をワイルドハント目がけて叩きつけ、進化の可能性を奪おうとした。
 そこから、ケルベロス達はこの地のボスである「板餅・えにかのワイルドハント」討伐の為、全力を尽くして攻撃に当たる。
「ワイルドハントって、ドリームイーターにとって危険な変身なんだよね……」
 相手の事情を知ったマヒナも戦いにくそうにしていたが、被害が出る前に倒さねばならぬ相手だ。
 当事者であるえにかは不在だが、本人も自分のワイルドハントが悪さをするのはいい気分ではないだろうとマヒナは推し量って。
「エニカの為にも……いくよ、アロアロ」
 圧縮した霊弾を放って敵へと叩き込むマヒナの呼びかけに、臆病なシャーマンズゴーストのアロアロは震えながら祈りを捧げ、タキオンの傷を癒してくれていた。
「簡単に治療など、させませんよ」
 そのタキオンはチームと盾となりながらも殺神ウイルスを投擲し、ヒールグラビティを持つワイルドハントの回復阻害の一手を先に打っていた。
 アウトローなグラハも、仲間をすぐ守れるようにと身構えている。
「少し出遅れちまったがな」
 根本的には単独志向のグラハではあるが、別に仲間との連携が嫌というわけではないし、何より勝つのであればそれでいいとすら考えている。
「ここは確実にいくとするか」
 そこで、二郎はできる限り仲間達が攻撃を命中させられるようにと、オウガ粒子を飛ばしつつ回復、強化に当たる。
 すでに、癒しに立ち回るメンバーもいたことで、グラハは初撃、『悪心』という名の竜鎚を砲撃用に使用し、敵目掛けて砲弾を叩き込んでいく。
 すかさず、飛び込むのはリリエッタだ。
 普段から感情を表には出さない彼女だが、旅団の友達の姿を取るこの敵に思うことは強い。
 とりあえずは、仲間達の攻撃によって怯むワイルドハント目がけ、リリエッタは短いスカートが翻るのも気にせず蹴りかかっていく。
 痺れを覚える敵へ、今度はグーウィが手にした妖精剣から花びらの嵐を巻き起こし、ワイルドハントを包み込む。
 少しでも相手の攻撃力を削ごうと剣に力を籠めるグーウィに続き、ゼーもグラハ同様に竜鎚から轟竜砲を放つ。
 ゼーは布陣後方から老獪な古き良き武将といった風情を漂わせながらも、じっと敵を注視する。
「これしきで倒れる相手なら、苦労はせぬのう」
 いつの間にか、霧を展開していたワイルドハント。
 そいつは、声にならぬ咆哮を上げながらも、グラビティとしての効力はしっかりと発動させ、こちらのメンバーへと不安を煽ってきた。
 そこで、メンバーに属性注入での支援に当たっていたゼーの愛弟子、匣竜リィーンリィーンが身を挺して咆哮を受け止める。
「ようやったの、リィーンリィーン」
 師に褒められたものの、咆哮の効果で激情にかられた匣竜はじっと相手を睨みつけていたのだった。


 えにかのワイルドハントはキャスターとして素早く戦場を立ち回り、ケルベロス達を攻め立ててくる。
 アロアロに匣竜の癒しを任せ、マヒナは蹴りかかりながらも敵に問う。
「アナタはどうしてここにいるの?」
「…………」
 だが、ワイルドハントは答えない。いや、答える為の口すらなく、答えられないのだ。
「この飛び蹴りを、受けてみなさい!」
 タキオンもまた流星の蹴りを敵へと叩きつけていく。
 空中を吹っ飛ぶ敵を捉えたグラハ。
 元々、人の場所であったところを人の姿で延々と占拠する敵が気に入らず、交戦する彼は竜鎚で空を切ることでワイルドハントの体を引火させ、燃え上がらせる。
「…………!」
 熱さに苛まれるワイルドハント。
 増援を危惧したリリエッタがそいつをなるべく速攻撃破すべく、仕掛けて。
「ルー、力を貸して! ――いくよ、スパイク・バレット!」
 丁度ここはワイルドスペース。どこからともなく現れたルーシィドの残霊と共に、荊棘の魔力を込められた魔弾を二丁拳銃から放つ。
「暑ければ涼みたいと言い、寒ければ暖を取りたくなる。人とはわがままなものです」
 グーウィは挑発するように言い放ちながらも、やればできると信念を持った一撃で相手に切りかかって氷結の一撃を浴びせる。
「降り止まぬ雨よ」
 さらに、ゼーが相手の身体へと冷たい雨を打ち付け、その動きを止めていく。
 匣竜リィーンリィーンがこれ以上、惑わされぬようにと属性注入で耐性を張る中、二郎が光の盾を展開してメンバーの防御を固めていく。
 そんなメンバー達へと、軽やかに飛びかかってくるワイルドハントの攻撃をグラハが直接抑えにかかったところで、マリアが古代語を詠唱して。
「少しでも、敵の動きを封じられれば」
 一直線に放たれた石化光線が体を貫通し、ワイルドハンドは着実に動きを鈍らせ始めていた。

 ワイルドハントはワイルドスペース内を跳び回り、抵抗してくる。
 強襲型魔空回廊もなくなり、配下もやってこない。孤軍奮闘する敵は死力を尽くして攻撃を仕掛けてくる。
「…………」
 ワイルドハントは元となったえにかと同じように誘惑の花を使う。
 女の子を惑わすお花畑。それを語る素振りを行い、敵は自らに癒しをもたらそうとする。
 だが、リリエッタがそれを許さず、音速でオーラを纏う拳で殴り掛かってその癒しの力を打ち消していく。
「働いて返せ、ヴィゴラス!」
 グーウィが使う鹵獲術は宿敵から奪ったもの。
 金色のツルハシの切っ先を引っかけ、グーウィはワイルドハントの体を引き裂いていく。
 グーウィに切り裂かれた影の皮とでもいうべきところから、モザイクが零れ出す。
「火力となっていたら、厄介じゃったのにのう」
 そいつへとゼーが言い放ちながらも、タックルを叩きこむリィーンリィーンに合わせて混沌を纏わせた竜鎚を叩き込んでいく。
「………………!」
 敵はまた霧を展開して、大声で叫ぶ仕草をしてくる。
 二郎を狙ったものだったが、身を震わせながらもアロアロがまた祈りを捧げて正気に戻すと、マヒナはヤシの木の幻影を生み出して。
「頭上注意、だよ?」
 ワイルドハントの頭上目がけ、マヒナはココナッツを叩きつけていく。
「このドリルの腕で、穴を開けてあげましょう」
 そこに、腕をドリル状にしたタキオンが攻め込み、ワイルドハントの腹を穿つ。
 二郎もとどめが近いと判断し、回復の手を止めて攻撃に乗り出す。
「ただの武力として……いかせてもらう」
 状況はケルベロスが有利。ならばこそ、二郎も真顔のまま、自らの体を補填する青黒い混沌の水を浸かって。
「――『正しく』在れ、我が混沌」
 その混沌は仲間であれば癒しをもたらすが、敵対するワイルドハントには容赦なくその体を喰らっていく。
「…………!」
 追い込まれてきていたワイルドハントは再び、誘惑の花をそらんじる所作を行う。
 しかし、序盤の撃ち込んだタキオンの殺神ウイルスがここで効いてきており、ワイルドハントは傷を塞ぎきれない。
「逆転なんて許さへん」
 さらに、マリアが硬化した竜の爪で敵の体を抉っていく。
 大きく仰け反るワイルドハント。表情が無くてわかりづらいが、相手は相当追い込まれているのは間違いない。
「ドーシャ・アグニ・ヴァーユ。病素より、火大と風大をここに崩さん」
 黒い靄を身体、特に右腕に纏わせたグラハ。
 自らを悪霊化させ、心身共に凶暴化し、彼は薄暗い笑みを浮かべて。
「随分とまァ、長々居座ってくれたもんだ。いい加減残らず潰して終いとしようや」
 その靄を右腕に纏わせ、グラハは力の限り敵の体を殴りつけていく。
「…………」
 大きく吹っ飛ばされたワイルドハントはワイルドスペースの中へと溶けて。
 長らくこの地を巣食っていたドリームイーターは、ワイルドスペースと共にその存在を消していったのだった。


 えにかのワイルドハントが掻き消え、モザイクが晴れたその場所は元の寂れた廃村だった。
「ドリームイーターのミッション地域奪還も残り2つ……残りも気合を入れていくよ」
 また一つ、夢喰いの占領地域を解放したことで、リリエッタは士気を高めて告げる。
「残りも掃除していきましょう。来た時よりも美しく……ですね」
 グーウィはなおも戦う気満々だが、タキオンは小さく頭を振って。
「いえ、態勢を立て直す為にも、この場を一旦離れましょう」
「ミッション参加者が敵を叩いとるんやったら、そちらに加勢しましょう」
 残存勢力がどれだけ残っているか、こちらは情報に乏しいからとマリアはミッション攻略中の別動隊との合流を提案する。
「異論ないな。まだ戦える」
「まだ暴れたりねぇからな。徹底的にやってやるぜ」
 二郎、グラハもそれに応じ、撤退ルートをたどって移動を始める。
「出来れば、ワイルドスペースを調べてみたいのじゃがの」
 一体何があるのかと周囲を見回すゼーは、掃討戦に参加した後で腰を据えて調べようと考えていたようだ。
「儂らが赴いた空間と関係するかもしれぬのぅ」
 一方で、仲間達に続くマヒナは安堵と共に一抹の寂しさを覚えていて。
「これが終われば、もうワイルドハントと戦うこともないかな……」
 ともあれ、もうひと踏ん張りと、彼女もまた残る敵の掃討に参戦することにしたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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