旋律の小匣

作者:崎田航輝

 幾つもの小さなメロディが響く、小道があった。
 惹かれるように歩み入ると、耳朶を打つのは可愛らしくも艷やかで、金属的な色合いを含みながらも優しい音色。
 それはその道の一角に建つ──オルゴールの専門店から聞こえる旋律だった。
 煉瓦造りの店構えを持つそこは、アンティークの逸品や職人の作る美しい品が並ぶ。
 掌にも収まりきる箱に、幾つもの曲を閉じ込めたもの。蓋を開けると円盤が回転し、小さな舞台が繰り広げられるもの。
 夜空のような色彩を閉じ込めたものや、花のように鮮やかな一品──どれもが美しく、違った世界を見せてくれて。
 立ち寄るだけでも、様々な旋律と色彩の中を散歩できるようで──近隣では有名でもあるだけに、この日も少なくない人々が訪れていた。
 と──外に零れてくるその音色に、惹かれる巨躯の男が一人。
「美しい旋律は、良いものだね」
 それは金の長髪を風に揺らして悠々と歩みながら──その手に鋭い剣を握る罪人、エインヘリアル。
「ただ、何より美しいのは刃に散る命の声だろう」
 それこそが無二の旋律だよ、と。
 貌に喜色の笑みを浮かべたその罪人は、店へと入ろうとしていた人々へ剣を振るい、その命を斬り捨てていく。
 音色を叫声が塗りつぶし、血潮が風を染めてゆくと、罪人は恍惚と笑んで。後はただ只管に、絶望の声を求めて殺戮を続けていった。

「オルゴール──とても素敵ですよね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉を口にしていた。
 何でもとある街の専門店は、種々のオルゴールが揃っていてちょっとした人気なのだという。
「ただ……そんな場所に、エインヘリアルが現れる事が判ったのです」
 やってくるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人ということだろう。
「人々の命を守るために、撃破をお願いいたします」
 現場は真っ直ぐの一本道。
 小道ではあるが、戦うのに支障はないだろう。
「現場に人通りもありますが……今回は事前に避難が勧告されるので、こちらが到着する頃には人々も丁度逃げ終わっているはずです」
 こちらは到着後、敵を討つことに専念すればいいと言った。
 それによって、店の被害も抑えられるだろうから──。
「無事勝利できた暁には、皆さんもオルゴールを見ていっては如何でしょうか?」
 小さなものから大きめのもの、古いものや新しいもの。様々なメロディと細工の品が揃っているという。
 自分に合った音色やデザインの一品を探してみるのも楽しいでしょうと言った。
「そのためにも……ぜひ撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
カグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)

■リプレイ

●音の道
 その小路へ入り込めば、すぐに敵影が見えた。
 無人の空間に長い影を伸ばす罪人──エインヘリアル。
「居た……!」
 白翼を羽ばたかせて前進するリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は、唇をきゅっと引き結ぶ。
 今日はいつも頼りにしている旦那さまが居ない。けれどお守りがわりに贈り物の装備で身を固め、指輪を始めアクセも着けていた。
 そして傍には翼猫のムスターシュもいる。
「いつにも増して頼りにしてるから、いっしょにがんばろうね」
 撫で撫でしてぎゅっと抱きしめると、ムスターシュは鳴き声で応えた。だから不安はないと、リュシエンヌは迷わず敵を目指す。
 皆も続けて奔れば──程なく罪人が此方に気づいた。
「……おや。良い音色を聞かせてくれそうな人たちだ」
 丁度退屈していたところだから斬らせて貰うよ、と。剣を握りしめ好戦的な貌を見せる。
 ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は仄かにだけ瞑目した。
「音色の為にただ首を刈るだけとは。……成る程、これはエインヘリアルの戦士ではありませんね」
「ええ。全くどうしようもない方ですわ」
 ですから捨て駒に使われるのでしょう、と。
 気品ある声音に呆れを含め、カグヤ・ブリュンヒルデ(黄金の戦乙女・e60880)も軽く息をついてみせる。
 敵は微かに怒りを見せた。が、カグヤはそれより速く虹の彩に煌めく紐を放っている。
 それは『貪り食うもの』──非実在物より構成された鎖。打ち据えるように初撃を与えながら、巨体に巻き付き動きを止めていた。
 ローゼスはそこへ槍を構えて、巌の如き威容を見せる。
「その趣味は、セントールとして分からぬ事もない。貴様も斬ればさぞ美しい声を奏でるのだろう? 罪人よ」
「……」
 微かに歯噛む巨躯へ、矛先を突きつけて。
「否と言うならば選べ。戦士として武名を残すか、末期の声だけを遺すか!」
「……、どちらも厭だと言ったら」
 罪人が言い返すと、ローゼスは是非もなし、と。『Nike velos』──鎧装腰部からフレシェット弾を射出し胸部を穿った。
 その間に、曽我・小町(大空魔少女・e35148)はふわりと飛翔。ギターを爪弾いて黒白の音符を踊らせていた。
 宙で弾けたそれは音の盾を展開し後方の護りを築いていく。その音色に合わせて翼猫のグリが耀翼で風を送れば、中衛にも涼やかな加護が齎された。
「さあ、皆も今の内よ」
「了解」
 小町に応え、軽やかな靴音を響かせるのは小柳・玲央(剣扇・e26293)。
 流々と柳が戦ぐよう、靭やかに。
 けれど芯は強く、揺らがぬように。
 メロディに合わせてステップを踏み、リズムを刻むように剣舞を踊ることで、星の光を降ろして護りを広げていく。
 リュシエンヌが深緑の鎖で魔法陣を成せば、全体の防備は万全。
「攻撃はお願いするの」
「ああ」
 判ってるさ、と。
 軽く声を投げて敵へ迫るのはハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)。
 罪人が振るう剣を、切れ長の紅で素早く見切って。黒革靴を軸に横廻転すると、棍で突き上げるように顎へ一撃。
「……っ!」
「遅いな」
 敵が体勢を崩せば、さらに踏み込んで連撃。足元を薙ぎ払ってみせた。
 傾ぐ巨体も反撃を狙う。が、そこへ舞い降りるのが美しい春の色。
「桜の花々よ……」
 それはそっと手をのべる天司・桜子(桜花絢爛・e20368)が生み出す、無数の花弁──『紅蓮桜』。
「紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
 瞬間、渦巻く淡桃は焔に転じ、燃え盛る嵐へ変遷。業炎の衝撃で巨体を灼いていく。
 唸る罪人はそれでも氷の波動を返してきた、が。
「やられません……!」
 傍のカグヤをも護ってみせるよう、肥後守・鬼灯(度徳量力・e66615)は前に立って漆黒の剣を掲げていた。
 夜天が訪れたと錯覚するよう、一瞬世界が暗くなると──直後に訪れるのは星々の輝き。温かい感覚が皆を包むと、傷が癒えて魔に抗する力も深まっていく。
 その眩さは、凶行を絶対に阻止するという鬼灯の意志の顕れでもあったろう。
「悲鳴でオルゴールの音色を塗りつぶすようなことは絶対に許しません!」
「そうね。あの音色には職人さんとか、作曲家さんとか、音を愛する人達の息吹が籠められてるんだもの」
 頷く小町も店の方を見やり、視線を戻す。
「それを楽しむなら敬意をもって、静かに気楽に聴くのがマナーってものよ」
 だから──暴れる礼儀知らずは土にお還り頂かないとね、と。
 翔び上がる小町は、螺旋の軌道で頭上を取り──姿を捉えさせぬままに指先から魔弾を発射。巨躯の肩を深々と貫いた。

●撃滅
 罪人はよろめいて、壁に背を預ける。
 歪んだ相貌から零れるのは、嘆くような声音だった。
「愚かだね……僕の趣味が理解出来ないなんて……」
「刃に散る命が美しい、ってやつか」
 ハンナは肩を竦めると、何でもないように返す。
「ま、あたしとは価値観が違うな」
「オルゴールの音色には見向きもしないのに、人々の悲鳴を美しいと感じる──それはやっぱり悪趣味だね」
 桜子も言ってみせると、罪人は苦悶混じりに笑った。
「生きたものが消えゆく、その美しさこそ興味深いんだよ」
「君の並べるそれはさ、自分達が好むものを正当化するために利用する、都合のいい言葉って気がするな」
 こつ、こつ、と。拍を取って玲央は歩み寄る。
「美しい旋律と告げるその言葉に、本心は籠もっているのかい、罪人の君?」
「……」
「グラビティの為か、ただ楽しみたいだけか──結局求めるのは命。そうか、だから、罪人なのかな?」
「……蔑んでくれるじゃないか」
 罪人は反論を紡げず、ただ刃を掲げて走り込む。
 故にハンナは吐息して、跳んだ。
「まったく、芸がねぇつまらん野郎だぜ」
 ならば言葉も要らないと。撓る脚で繰り出す『紫電一閃』は残像すら美しく、それでいて鋭く躰を裂いていく。
 ふらつく巨体へ、桜子は花咲く枝を伸ばしていた。
「永劫桜花よ、敵を縛り上げなさい!」
 桜を薫らせるそれは強く締め付け罪人に挙動を許さない。玲央はそこへ花吹雪のように青の獄炎を撒いていた。
 ──釘付けにしてあげる。
 刹那、爆竹となり弾けるそれは『炎祭・彩音煙舞』。心までもを縛るよう罪人を止める。
 そこへ迫るのがローゼス。
 自由騎士とは力を持って立ち、己が信念に基づき守る者。
 故に悪戯に刃を振るう事なく、勝利をもって武勲を誇るべし、と。狙い澄ました刺突で鎧を砕いていた。
 呻きながら罪人も刃を振り下ろす。が、ハンナが防御すれば──リュシエンヌが即座に治癒の魔力を輝かせた。
 ひと時の癒しを求めてオルゴールの音色を楽しむ人たちの、静かな時を護ってあげたい。
 煌めきに、その思いを凝集させるように。
 そのために誰も傷つけさせはしないのだと、注ぐ光で傷を吹き飛ばす。
 同時、鬼灯も秘術を行使。清浄なるオーラとして巡らされたそれは『騎士は浄い手にて穢れず』──緑に耀く癒やしの業。
 傷を拭い、活力をも沸き起こさせて、前衛を万全にしながら強化した。
「カグヤさん……!」
「ええ、確かに受け取りましたわ」
 漲る力を己の内に感じながら、カグヤは翼を輝かせて宙へ滑り出す。
 そのまま打つのは稲妻を水平に走らすような、疾く眩い刺突。苛烈な衝撃で巨躯の腹部を貫いて命を削り取っていった。
 蹈鞴を踏む巨躯へ、桜花とリボンをふわんと揺らして桜子が跳んでいる。
「このハンマーで、叩き潰してあげるよー!」
 真っ直ぐに振り下ろすのは巨大な桃色の槌。花弁を散らせながら脳天へ衝撃を叩き込み、罪人を瀕死へ追い込んだ。
 滑空する小町は、そのまま足掻く暇すら与えない。
「これで最後よ。グリッター……グラインドッ!」
 翳した拳に収束させるのは光の粒子。
 その煌めきで耀く鉄拳を成すと──撃ち出すのは『―烈光の拳撃―』。回転力を伴った一撃で、巨体を抉りその命を霧散させていった。

●音の匣
 ころりころりと、店内には穏やかな音色が響いていた。
 戦闘後、番犬達が周囲を修復することで景観は元通り。逃げていた人々も戻り、一帯は元の賑わいが帰ってきている。
 そうして折角ならばと、番犬達も店に立ち寄っていた。
 洋風の趣深い内装の中、桜子は一歩一歩と歩んで品を見ていく。
「どれも、可愛いね」
 音の匣は一つ一つが芸術品。翡翠色のアンティークや、寄せ木の鮮やかな蓋など興味を惹くものは枚挙に暇ない。
 その中で桜子は、ふと足を止めた。
「あ、これ──」
 導かれたように手に取るそれは、上品な桜色。
 蓋を開けると円筒が回り、桜並木の景色のミニチュアが巡る様が見られる品だ。
 メロディも春の爽やかさを感じさせて──それにしようと決めたのだった。
「うん。やっぱりオルゴールの音色は素敵だね」
「そうね。癒やされるし……同時にインスピレーションを刺激されるみたい」
 と、隣で頷くのは小町。
 自身もいくつか試し聴きしては、その音色を楽しんでいる。
 何か可愛い物があれば買いたかったが──そこで一つ、心を惹かれた物があった。
 それは黒と白の二色が艷やかな、ゴシックな花柄の逸品。音色も良く、曲も魅力的だったのでそれを買うことにする。
「良いものが見つかってよかったわ」
 それから、もう少しだけ眺めていこう、と。音の空間をまた静かに歩み出した。

 ハンナはゆっくり店内をふらついている。
「オルゴール、か」
 平素触れる物でもないし、と、その声音は興味薄でもあった。
 一つ一つの造形はよく出来ているとは思うが、それに特別の感情を動かすでもない。だから適当に目についた物を手にとり音色を聞いて回った。
 けれど一つの、比較的シンプルな小箱を鳴らした時。
「……?」
 耳朶を打つその音色に、ハンナは釘付けになる。
 それは切なげな旋律。
 どこか静かで、どこか淋しげで。それに心を動かされたのは多分、どこかで聞いたことがあるからだという気がした。
「──」
 けれどその記憶は遠い彼方。
 本当に知っているものなのかも、判然とはせず。
「……ま、いいか」
 どうにも腑に落ちない、それでも置いて帰る気にはなれずに──ハンナはひとまずそれを購入した。
「不思議なもんだな」
 呟きながら、音色を反芻するように。
 その小匣を手に、ハンナは帰路についていった。

 玲央は様々な匣を聴き比べている。
 それは自分の中で欲しい音のイメージがあったからだ。
(「リズムが一定の曲が定番だろうけど──」)
 求むのは、途中でテンポが変わるもの。
 基本のリズムは大切で、初心も大切だってわかっている。
 ただ──。
 ──少し先に手を伸ばしてみたい。
 どんな変化にも対応できるようになるために、色々な音を知りたいと思ったのだ。
「ないかな……」
 と、呟いたその時。ふと鳴らしてみた一つの匣にはっとする。
 それは蒼が基調の精緻なオルゴールで、ワルツのように緩やかな旋律から、僅かに活発なダンスを思わせる速さに変化するメロディ。
 まるで舞踏会のように、一つの踊りから別の踊りへ変わりゆくような曲で……それでいてどの部分も軽やかだった。
「これにしよう」
 直感で決めた玲央は、後は迷わず。それを購入すると、軽い足取りで歩んでいった。

 鬼灯とカグヤは二人並んでオルゴールを眺めていく。
 清廉な白の匣や、綺羅びやかな金の匣。
 美しい細工に感心しながら──鬼灯はふと隣へ向いた。
「地球の色んなところを一緒に見て回れたら……って、いつかお話しましたよね。こんなふうに実現できて嬉しいです」
 ずっと胸に抱いていた大切なこと。
 だから今日一緒に来たかったのは、強い想いがあってのことだ。
 カグヤは微笑んだ。鬼灯がそれを覚えていてくれたことを、自分も喜んでいるから。
「わたくしも、嬉しいですわ。こうして一緒に、綺麗なオルゴールも見られて──」
 それからふと思って聞き返す。
「鬼灯さんはオルゴールが、好きなのですわよね?」
「はい」
 鬼灯はこくりと頷いた。
 好きだからこそこの店も人々も絶対に護りたくて、戦いへの意志も強かったのだ。
「心が和むんです。見ていたり、聴いたりすると」
 心を地獄化しているが故に、鬼灯は自身の心へ不安を持ってもいる。或いは、優しい心を失ってしまうことにならないか、と。
 心安らぐ音色が好きなのは、その表れでもあろう。
 ただ、まだ人の心は残ってるという安心感を抱いてもいる。カグヤがこうして隣にいてくれることを感謝し、大切にしたい気持ちがあるから。
 カグヤにも、それは伝わっていた。
 だからカグヤは一層、彼を大切にしたいと思っている。
「わたくし、そのオルゴールが気に入りましたわ。鬼灯さんにはそちらのものがお似合いですわ」
「そうですか……?」
 ええ、とカグヤが笑むと、鬼灯は表情を和らげた。
「また、一緒に色んなところを見て回りたいです」
「色々な所に一緒に参りましょう」
 カグヤも応えるから、互いに笑み合って。音の匣を買うと、並んで歩んでいく。

「あ、これ……とっても綺麗!」
 リュシエンヌはお土産探し。
 少々急ぎ足で端から見て回ると、丁度良いものを見つけていた。
 銀の装飾にアメシストを嵌め込んだ、小さな手風琴の形をしたもの。優しく、星屑を思わせる旋律を奏でるもので──すぐにこれと決める。
「うりるさん、がんばったねって褒めてくれるかな?」
 優しく手を広げ迎えてくれる、旦那さまの姿を思い浮かべ、自然に笑顔になって。
「これも気に入ってくれるといいな」
 華やぐ気持ちで、購入したそれを綺麗に包んで貰うと──大事に抱えてダッシュ。
 一刻も早く帰りを待つ人の元へ、と。
 冬風の中、リュシエンヌは踊るような駆け足で帰っていった。

 ローゼスは店内を巡り、オルゴールを見ていく。
 見目の美麗さや、単純な可憐さに惹かれることはない。ただ、頭に思い浮かべるのは雪原のコッペリアと魔法使いの人形だった。
「円盤と人形のついたオルゴールでしたか……」
 想起する音色も、以前に戦場で聞いたもの。
 深く思わずとも、自然とそれを探してしまう自分がそこにいる。
「……」
 同じものがあればと思っているわけではない。
 だが心の中にそのメロディが流れ、ローゼスはそれを求めた。
 ただの物でしかなかったのに。
 それでも自分はきっと、忘れたくなかったのだ。
 これは弱さだろうかと自嘲すら浮かぶ。
「独り戦場に立っていた頃とは違い、今の私には死がある筈ですがね」
 しかし、呟きながら──知った造形を見つけると、ローゼスはその匣を手にとった。
「これは……」
 開けると魔法使いが垣間見え、鳴らすと優しい旋律が耳を撫でる。
 同じ職人の作品か。或いは異国での旧い流行か。それは確かに探していたものだった。
「……巡り合わせでしょうか」
 それも、考えすぎであったとしても。
 ローゼスは買って帰ると決めて……それをそっと握り締めていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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