嘩路村礼子は死神に指立てる

作者:のずみりん

「ジグラット・ウォーにより、ドリームイーターの本星シュエルジグラットは制圧を完了した。後は『赤の王様』や『チェシャ猫』と逃げた残党を追うだけだ」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちを労いつつ、少々問題が発生していると告げる。
「この残党勢力だが、ポンペリポッサと同様に冥府の海(デスバレス)……死神勢力の元へ合流しようとしているようだ。首都近郊の埠頭でザルバルク、下級死神の出現が予知されている」
 前例通り、ドリームイーター残党とと死神の合流は厄介な結果を招く可能性が高い。
 死神たちの勢力を削ぐためにも見逃すことはできない状況だ。
「死神勢力に合流しようとしているドリームイーターは『嘩路村・礼子』。これより現地に飛ぶ、皆は彼女と迎えに現れるザルバルクの群れを撃破してほしい」

 リリエの調査によれば『嘩路村・礼子』はドリームイーターとの決戦を逃れた後、首都近郊の埠頭周辺に潜伏していたらしい。
『礼儀』を欠損した彼女は自分勝手で礼節を弁えない。
 その彼女が死神の迎えに黙っていられるはずもなく、現場付近であればすぐに発見することができるだろう。
「……逆に言えば、彼女を倒せるチャンスは死神の迎えが現れてから撤退するまでのおよそ六分だけだ。その間で撃破できなければ、礼子をはデスバレスへと撤退してしまうだろう」
 もちろん、礼子をを迎えに来た下級死神は彼女を逃すために全力を尽くしてくる。
 普通に戦っていては撤退までに倒せるかどうかは五分五分……分の悪い賭けだとリリエは警告する。
「考えられる対策はザルバルクを後回しに礼子を優先して撃破するか、あるいは礼子の性格を踏まえた挑発……後は因縁の類か」
 ドリームイーターは自分の欠損した部位を求める。
 礼子であれば礼儀を守る人や礼儀の為に何かを我慢する……節制の心や行動を示すことで注意を引きつける事が可能だろう。
「また礼子はモザイクを帯びた暴言や罵詈雑言を駆使した精神攻撃で対峙する相手を惑わしてくる。ザルバルクたちの攻撃力と合わされば侮りがたい相手だ。引き留めた後も油断せず当たってくれ」

 彼女は死神がザルバルクを遣わせて逃亡を助けたいほどのドリームイーターだ。
 撃破できればドリームイーターの残党討伐は勿論、死神勢力への牽制にもなるだろう。
 頼むぞ、ケルベロスと話を締め、リリエはヘリオンへ向かい立ち上がった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)
ルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
カタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●そのレディ、凶悪につき
 ケルベロスと死神、目標を共通とする二者が埠頭に辿り着いたのはほぼ同時だった。
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が降り立ったコンクリート敷の地面には方陣じみた奇怪な光の紋様が走り、舞い踊る下級死神ザルバルクと共に輝きを増しだしている。
「……って、なんだ、今回、俺以外、敵も味方も女性だけってか?」
「なんじゃ、色気付きおったか?」
「いやいや俺はまぁ、もう心に決めた人がいるから、なんとも思わないが、な」
 メタリックバーストの光を輝かせたルティアーナ・アキツモリ(秋津守之神薙・e05342)に耳ざとく突っ込まれた鬼人は『インディゴブルーのハット』の鍔を傾け、構えた目元をそっと遮る。
「……まぁ、我としては『アレ』と同類にはされたくないがの」
「あぁン? そりゃテメェ、あたしに言ってンのか?」
 そう言い示す先はザルバルクの群れの中心。モザイクをもってしても隠し切れぬ下品さが両腕と口からあふれている。
 リボンのほどけた胸元は雑に色気すらなく、迎えにすら罵声を唾とばす『嘩路村・礼子』。
「自覚できる知性はあるようね」
「ドリームイーターの出自が判明した今、モザイクを晴らすことが出来れば欠損を無くせるのですが……」
 冷たい皮肉で返すリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)に対し、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の毅然とした佇まいが僅かに曇る。
 知性はあるということは、十分なドリームエナジーが集められれば穏当な解決もできたのかもしれないと。
 だがそれは今ここでは叶わぬ願い。ザルバルクの噛み付く意志を、紫水晶の盾は【トゥルー・ヴァイオレット】の光学障壁で拒絶する。
「……穏当に解決されては、彼らも困ることでしょうね」
 リティに頷くフローネに迷いはない。せめて、ほんの少しでも礼儀がどのような者か取り戻してくれたらと願いつつ。
「とはいえ、死神との合流を果たした先に待っているのは、文字通りの地獄だけ……どう足掻こうと、貴様に逃げ道はない」
「誰がいつてめーにケツまくったってか? このタマなし金髪野郎!」
「た、た……マママママッ!?」
 しかし、このドリームイーターに世間の目というものは感じてないのだろうか?
 礼子のあまりに直球なカタリーナ・シュナイダー(断罪者の痕・e20661)への返しに、ライドキャリバー『プライド・ワン』の照明が写す機理原・真理(フォートレスガール・e08508)の顔が紅潮する。
「おーおー、ウブだねぇ。いい子ぶりっこってんじゃねぇぞアバズラァ!」
「措置なしですね、これは……目標捕捉。オープンコンバット」
 モザイクを帯びて突き刺さる罵詈雑言がミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)の心をささくれだたせ、『バスターフレイム』の炎を地面に迸らせる。
 方陣ごと切り裂かれ、飛び出してくるザルバルクたちを、羽丘・結衣菜(マジシャンズセレクト・e04954)のシャーマンズゴースト『まんごうちゃん』は身をもって受け止めた。
「やるしかないね。いこう、まんごうちゃん」
「いってやるですよ……!」
 押し込まれる『カラフルパレット』に爆炎が上がり、力を増した神霊撃がザルバルクを切り裂く。
 開け戦線めがけ、真理を載せたプライド・ワンが極彩色のブレイブマインより飛び出した。

●舌戦、口撃戦
 跳ね回るザルバルクをデットヒートドライブで跳ね飛ばし、真理は一気に礼子を狙う。
「っひゅーっ、もっとでっけぇケツ見せやがって」
 モザイクが覆う礼子の右手がナタじみた鍵を投げつける……突き抜ける。
「……あ?」
『私は此処にいるです』
『こっち、向くですよ……!』
 左に、右に、乱戦の戦場に無数の真理が踊る。それが『デコイドローン』の群れと気づいた時には、礼子はドローンの十字砲火に撃ち抜かれていた。
「ざっけんな……てめぇ! この無表情のアバズレ人形がラインダンスってかよぉ!」
「……何か、とても不愉快ですね」
 礼儀を失したモザイクの声にミオリは座った眼でグラインドファイアを蹴り込んでいく。仰け反りにかわされ、ザルバルクの撒く爆炎に包まれて、少女は怒りに支配された自分に気づく。
「人形みたいに整ってるっていう誉め言葉だね。なかなか礼儀正しいことだ」
 赤熱する【巌鋼】の鎧に、危ないところを踏みとどまらせたのは、リティの声と共にチクリと刺してくる『メディカルドローン』の無針注射。
「これより適切な医療術式及び薬剤投与に関する技術・物資支援を行う。ドローン各機、精神安定剤を処方」
「っ、ありがとうございます……照準、調整」
 燃え上がる熱が醒めていく。手にした『シロガネ』の握りを直し、今こそと殺到するザルバルクを間一髪に受け止めた。
「ちっ、チビのマナ板が」
「一部には熱狂的な需要がある。真冬に半袖ミニスカなどという定型的な量産型とは違うのだよ」
 凄まじい目を向けられながらも礼子の矛先がリティから外れたのは、前方に『アメジスト・プロテクション』を展開したフローネによるだけではないだろう。
「どのように攻めようと、傷つける言葉でも、護り抜きます」
「こンの……!」
 ザルバルクたちはともかく、礼子の攻撃はあからさまに彼女たちを避けていた。
「わかってるんじゃないのか、身の程ってヤツを」
「興味を失われ過ぎても困るがな……いや、問題はないか」
 気咬弾とフロストレーザー、鬼人とカタリーナは背中合わせでザルバルクを狩りながら語り合う。
 礼子は二人に対して興味を失っていた……ケルベロスたちの大半を苦手と自覚したといってもいい。
 それでも彼女が戦場から撤退を選ばなかったのは、執着する『お気に入り』がいるから。
「目を付けられたようじゃの……だがこの炎は命導く光、死の闇ではそうそう潰せぬぞっ!」
「あまり、嬉しくはありませんが!」
『催眠魔眼』によって混乱した戦場をルティアーナは紅蓮大車輪をもって分断する。ザルバルクと、真理をつけ狙う礼子とをだ。
「釣れないこと言うなよなーぁ、もっと動けよ、腰振れ、ケツ振れってよぉ!」
「誰が振ってますか!」
 真理が『スラスター型脚部装甲』の推力で逃れようとするのを、礼子の心を抉る暴言が絡めとる。
 生真面目に反論してくれる彼女は礼子の格好の玩具であった。だが意識させられた彼女自身も、マクロ的にはケルベロスたちの作戦に絡めとられたということ。
 彼女は方陣からは大きく飛び出しており、冥府の海の帰還はままならない。
「……今のうちだね」
「あぁ、片付けるとしようぜ。ブースト頼む」
 エレキブーストを爆ぜさせた鬼人の『santa muerte』がザルバルクの一体を撃ち抜いた。
 残りおよそ半数、礼子の気が変わる前に一気に仕留めるのみだ。

●ザルバルク掃討戦
 方陣を泳ぎ回るザルバルクだが、撃ち抜かれた光はけして消えない。祈るように打ち込まれた、優しき骸骨の聖母の祝福を受けた弾丸は死神にさえも安らかに絶対の死を約束する。
「死の聖母に抱かれて、眠りな」
「やっちゃって!」
 鬼人に応える結衣菜。まんごうちゃんのワイルドファイアが吹き付けられ、そのザルバルクは骨すら残らず燃え尽きた。
 結衣菜もまた即座に向き直り、共生するするオウガメタル『ルナイクリプス』に絶望の黒光を叩きつけて足……もといヒレを奪う。
「くそ、情けねぇなぁ!」
「それが迎えに聞く口ですか……」
 劣勢を察したのか、礼子もモザイクをザルバルクの傷にかぶせようとするが、ミオリの火力はそれを許さなかった。
「出力臨界。コアブラスター……照射」
 展開された胸部から放たれる閃光は生半可な癒しなどものともせず、深海魚の死神を光の中へと消し去っていく。
「まったく、よくもまぁそう罵りの種が尽きぬものよ……」
「ですが、もはや逃げ場はありません」
 覚悟頂く……と、フローネのアメジスト・シールドがルティアーナへの爆炎を受け止め、絡めとれば『GEM-027AM』の相転移装甲には傷一つ残らない。
 倍返しと打ち込まれる気咬弾が戦列を乱し、フローネの肩からルティアーナが『金剛杖 -断無明破魔軍-』を振るって飛び込んでいく。
「よぅもまあそこまで罵倒を吐けるものだが、多目にみてやるわ。まとめて始末してくれるだけじゃからのう!」
「このっ、クソガキがぁ……っ!」
「聞く耳もたぬわ。大元帥が御名を借りて命ず。疾くこの現世より去りて己があるべき拠へと還れ! 行此儀断無明破魔軍!」
 ここまでくれば怒りに抗う必要もそうないと、分かたれた調伏呪儀 荒魂の光矢が降り注ぐ。
 『神來儀 荒魂鎮 紗散華』が現出させた光の雨がザルバルクを撃ち抜く中、真理は再び礼子と対峙する。
「聞く耳もたぬ、ですよ……!」
「猿真似かぁ? ダッセーな!」
 自らに言い聞かせる真理を礼子は早速に罵り、モザイクを飛ばしてくる。
 それでも何とか体に平静を保たせ、『神州技研製アームドフォート』の砲を肩部へ展開。横っ飛びにフォトレスキャノンを斉射する。
「大丈夫だ、効いている」
 よろめく体を援護するカタリーナが支えてくれる。抱えもったガトリングの連射が、不幸にも割って入ってしまったザルバルクを吹き飛ばした。
「もし貴様が我々に負けたのなら、最大限の敬意を払ってもらう。それが負け犬が辿る道だ。それでもいやなら……」
 礼子の返事は吐き捨てられた唾液。
 ことここまで追い込まれなお負ける気もないとは度し難いと、カタリーナは偽翼にモザイクを受ける。
 ドリームイーターの威勢は、今や陰りが見え始めていた。
「お前の無礼も今回限り。精々囀ってるといい」
 包囲するリティの『強行偵察型アームドフォート』のレドームは、完全にこのドリームイーターを捕えた。

●因縁の消える時
「どいつもこいつも気に入らねぇんだよッ!」
「だからと当たり散らすのは、筋違いもいいところですよ」
 リティの『ヒールドローン』を随行させ、真理は罵声のモザイクを掻い潜って突進した。
 右の手甲から伸びた仕込みナイフがライドキャリバー『プライド・ワン』の突進力を載せ、礼子の鍵剣を跳ね飛ばす。
「るぁぁーっ!」
「っ!」
 露出した『インナーフィルムスーツ』の線維型演算回路が裂かれ、礼子もまたモザイクの腕を幾分と抉られる。
 人目もはばからぬ大上段の蹴りがライドキャリバーを突き飛ばし、硬い港の地面にバウンドさせた。
「状況が危険です。リカバリーに回ります……あと少しですが。生体構成要素解析、修復実行」
「十分、感謝ですよ!」
 双方て負いだが、復帰の早さはケルベロスが上回った。
 結衣菜から『翠緑の恵み』の援護を受け、ミオリの展開した『ナノ・リカバリー』は距離を置いても存分にその力を見せつけた。
 未だ傷口を塞げぬ礼子とは対照的に。
「何か因縁があるなら、さっさと吐き出す方がいいぜ。碌な因縁じゃ無さそうだが……」
 ちゃんと因果を明かさなきゃ報われないわな、と鬼人は祈るように『santa muerte』の傷口を繋ぐように絶空斬で裂き広げる。
 あられもなく破れた衣服ごしの傷口はもはやアンチヒールに固定された。
「がぁっ……さぁなぁ、覚えてたかもしんねーが、今忘れちまったよ!」
「そう、ですか」
 罵声のモザイクを伸びた『紫心棍』が打ち落とし、そのままの流れで突き飛ばす。
「……任せますよ」
「いいのですか?」
 ミオリの確認に、真理は小さくうなずく。
 このドリームイーターには調子を崩されてばかりだ。因縁などさっさと終わらせてしまいたいという気持ちは少なからずあった。
「向こうからして答える気もなし、か」
『Taurus Raging Bull Model 500』ライフルの銃爪を何度目か、鬼人は引く。
「クソが……っ」
 銃撃をスポットに放たれたミオリのコアブラスターがドリームイーターを飲み込み、モザイクごと消滅せしめた。

「理解の気は……なさそうだったな」
「えぇ……いえ、私たちももしかしたら」
 礼儀とは、敬意とは何か何処からくるものなのか。勝利にも浮かないフローネの横顔に、カタリーナは考えすぎない方がいいと呟いた。
「少なくともヤツのはそうではなかろ……あー、違う意味で耳が痛めつけられたわぇ。一つ安らげる店で打ち上げなぞどうじゃ?」
「あぁ、そうだな。なんかどっと疲れたわ……って」
「高級な方のは無理ですよ!?」
 ルティアーナの提案に乗りかけ、ふと気づいた鬼人と真理が慌てて突っ込み、混ぜ返される。
 夜の埠頭に気の置けない笑いが響いていった。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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