なぜだ?! 服が切り餅になった

作者:大丁

 ゴールネットを揺らしたシュートは、まだまだ勢いが足りない。
 蹴ったのも、抜かれたのも、10歳くらいの男の子だ。河原のサッカー場を借りての町内チーム。その練習風景だった。
 コーチ役の大学生が、ピッと笛を吹くと、次の子がたどたどしくドリブルを始めたのだが、注意はゴールポストよりも、高い位置に向く。
「おーい、どこ見て……ううっ!?」
「ロ、ロボだあ」
 ダモクレスによる襲撃事件のニュースは、子供たちにも周知されているので、男の子らしくロボなどと騒いでも、サッカーのゴールの後ろに現れた機械が地球の敵であると、すぐに理解された。
 寸胴のボディには頭部がなく、電子炊飯器を縦に伸ばしたような形状だった。それに比して脚部は細長く、すっきりとした円柱2本だ。合わせて、6mの全高となる。
 電気コードをより合わせたような腕部のうち、右手には剣、左手には盾を装備しているように見えた。
 大学生は、シュートとキーパーの子たちのもとへ駆けより、両手に抱えようとする。ロボのボディの天面が、フタのようにパカっと後方に開いた。
 ゴールをまたぎ越してきたロボットの中身は、あっつあつのモチ。それが、3人の上から……。
「熱い、アチチッ」
「たすけてぇ」
「うわーん!」
 ダモクレスは、家庭用電気餅つき機のなれの果てだったのだ。

 ゴウンゴウンと振動していた本体が静かになると、つき終わりの表示とブザーが鳴った。軽田・冬美(雨路出ヘリオライダー・en0247)は、予知を語り終えたあと壇上を降り、ケルベロスたちとともに、成り行きを見守る。
 代わって説明していたのが、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)だ。エプロンをして、見本用の普通の餅つき機を開ける。
「できあがりまでの時間は違いますが、このようにモチを生成して、ぶっかけてくる廃棄家電ダモクレスなのです」
 そのモチは、元の家電に残された、記憶の残滓を武装化した「白い軟体」で、近距離の1体を捕縛するという。
「はい。勘の鋭いかたは、お気付きですね? ブラックスライムの『レゾナンスグリード』に似てますです」
 続けて、テーブルの上の道具をひとつずつ使いながら、ロボの武装と能力を明かす。
「盾に見えたのは、のし板です。方形の枠にモチをのせて、のし餅にします。そして脚はこの、めん棒が変化したもの。モチを枠に押しつけて平らにします。剣の正体は包丁で、切り餅に切り分けるんですな」
 以上をもって、対象数体の服を破る、とのことだった。
 冬美が、拍手しながら壇上に戻ってくる。
「菫ちゃんの調査で、この餅つき機ロボの出現時間は正確にわかっているのぉ。現場の河原に到着したら、まずはサッカーチームの子供たちとコーチの大学生を、土手の上に避難させて大丈夫っ。その後、ゴール前に戻ったタイミングで敵が出現するから、撃破しちゃってねぇ。レッツゴー! ケルベロス!」
 実際に切り餅にするには、冷ましてからでないと作業できない。菫はちょっと、惜しそうな顔をした。
 冬美は、あらためて礼を言う。
「実演のために、本格的なエプロンまで用意してくれて、ありがとうねぇ」
「あ、これはいつものバイト先の制服です。ちょっと、ヌケてきたんで……」


参加者
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
除・神月(猛拳・e16846)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)
ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)

■リプレイ

●避難と準備
 蹴ったボールは、ぽーんと跳ねあがった。
「あっ」
 子供たちは、見上げて指さす。エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)が、光の翼を広げて、ボールをキャッチしていた。
 ビキニアーマーも輝いている。
「ち、ちじょだー」
「だから、痴女ではない!」
 河原のグラウンドに降り立つと、いちど咳払い。騎士らしく威厳をもった声で答える。
「楽しい時間を邪魔してしまったな。私たちはケルベロスだ」
 エメラルドの手から、ボールを奪うと、除・神月(猛拳・e16846)は、頭の上で、数回ボールを跳ねらせた。身に着けているのも、サッカーユニフォームっぽい、半袖に短パンだ。
「もっと見てーだロ? これができたらクラスの女子にモテモテだかんヨー♪」
 教えて、教えてと騒ぐ子供たちに、後で必ずと約束した。
 大学生のコーチには、ジルダリア・ダイアンサス(さんじゅーよんさい・e79329)が事情を明かす。
「も、餅つき機が、服をナンだって?」
 年下と会話している感じだ。ジャンパースカート風制服に黒スト。背丈も、教子らの姉ていど。
「教育には悪いものを見せちゃうかも。おめめ隠しておくように言いましょう」
 ジルダリアは神月(しぇんゆぇ)と、サッカー少年を率いて土手を登る。
「子供たちはこの寒い中でも元気だよねん。ホントホント」
 白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)は幼児の担当だ。
「つかまってるんだよん」
 光の翼で斜面に沿うように運ぶ。エメラルドもそれに続いた。
 土手の上では、ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)がこっち、こっちと帽子が浮くほど飛び跳ねている。光の翼も出していた。
 なにやら、長机が用意されていて、七輪に、海苔とか、きなことか餡子まである。
「餅をつく敵と聞いたからにはね。倒して、その餅をおいしくいただきます。もったいないから!」
 はしゃぐ声に、ブーツを点検していた空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)が、顔を上げる。
「記憶の残滓を具現化したもの、だよ。もったいないよりも……食べられない、かな」
 フィルムスーツの点検に移る。
「そうか、ブラックスライムみたいって」
 しょげるジェニファーに、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)が風呂敷包みを差し出す。
 のし板にはまった実演用のモチを持ってきていた。
「もうちょっと冷まさないと切り餅にはできないのです。かわりに頼みますよ」
「薫さんは食べないんですか?」
「私の時給がマッハでヤバいので……。早く戻らないと、この時間も欠勤扱いなんですよ」
 なにより、被害の拡大を防ぐため、速やかにロボを撃破したい。
 火之神・陽大(流離の復讐者・e67551)は中央ラインで備える。仲間も配置についた。
 上半身裸のコートでは、モチ攻撃など御免だ。
「食べるのは好きだがなー」
 ゴウンゴウンと響きが。調理、いや戦闘開始である。

●ダモクレスとの攻防
 ゴールの背後で巨大化した機械に、神月がオーバーヘッドにキックする。餅つき機ロボは傾き、のし板の盾をかざすが、無月(なづき)が破鎧衝で徐々に削っていく。
 防御にも、隙ができた。神月の蹴った胴体部に、エメラルドも稲妻突きを喰らわすと、電子表示の『できあがり時間』に狂いが生じる。
 永代(えいたい)の身体を、地獄の炎が取り巻く。
「ついてるそばから、焼きモチにするよん」
 白焔が舞う。
 本体を煤けさせながらも廃棄家電ダモクレスは、ゴールをまたいだ。菫のエプロンにおもちが垂れてくる。
「……って、あっちー!。バイト制服汚しちゃかなわんし、脱いどこ」
 下着姿に白く残るが、無事なようだ。
 セルフ服破りに陽大(ようだい)は驚く。実際は快楽回復らしい。視線をそらし、気咬弾で盾を狙う。
 ジェニファーは、さらに後ろから二丁拳銃でとにかく撃つ。『ブラストショット』は、翼の光を弾丸へとパワー載せした攻撃だ。
 戦場は、激しい音の応酬。ジルダリアは呪怨斬月でめん棒の脚を斬りつけたのち、ふと子供の様子が気になった。
 やはり怖がっている。顔を手で覆ったり、うずくまったりして、見ないようにしているようだ。
 だからというわけではないが、次にモチをぶっかけられたのは、彼女のジャンパースカートだった。
 達人の一撃で突っ込んできていた陽大は、残った冷気で救出を試みるも。
「く、らちがあかねぇな……」
「陽大さん、スチームバリアを使ってみます。離れて」
 ふたりを援護しようと、無月はフォーチュンスターを蹴り込んでいる。
「餅の、残滓。考えていたより、厄介。……あ」
 無月にむけて、釜のふたが開いた。
 シュートエリアに神月が割り込んできて、投げられた餅を、足でトラップする。
「あたし、ディフェンダーだシ!」
 そこからドリブル……とはいかない。餅は半ズボンの中まで伸び、股を開いて固定した。
「ははハ。かっこわりーゼ。子供らに見せらんネー」
 だが、好奇心の強い子もいる。
「ロ、ロボだ」
 ひとりが騒げば、おめめつぶってもない。恐怖を忘れてみんなが見た。
 コーチまでが着目する。
「被害は及ばないか。撃破優先です」
 菫はドラゴニックを噴射。フィールドを下着姿で加速する。
 後方からの支援にはさらに、ジェニファーの御業が加わり、業炎砲を放っている。
 数度目の突撃で、エメラルドは飛び上がり、天面へとロッドを差し向ける。釜は餅を直接打ち上げた。
「くう……ああ」
 ビキニアーマーにへばりつき、バランスを失って墜落する身体を、永代が間に合って抱き留める。
 バトルオーラの力を借りたのだ。
「こりゃたいへん」
 永代は躊躇なく、モチごと鎧の胸をつかむ。ダブルでふんわり感。剥がすと、ブラはそっちに貼りついた。
「ちじょのぱいぱいをださせたぞー」
「オレ知ってる。ちかんだ」
「痴女でも、痴漢でもない!」
 土手ではしゃぐ子供に、エメラルドは気力満タンで怒鳴り返した。
 立ち上がった拍子に、永代の手に、パンツも残る。
「お前さん、うまいことやるぜ」
 陽大は、ナントカはナントカ屋だとばかり、救助はメディックの永代に任せる。
「俺は、攻撃の元を断つ!」
 旋刃脚のショックが、家電をショートさせた。動作にエラーがでる。
 餅つき音が静まった。

●切り餅乱舞
 巨大なのし板、盾への集中攻撃は破壊に至らず、餅つきロボは、めん棒の脚で追うようにして、ケルベロスの前衛4人をその方形に押し込んだ。
 包丁がすばやく、切り分ける。この列攻撃の被害を、永代は測らねばならない。
「うーん、いい光景だし、さまざまなお餅が沢山だ」
 放り出された無月は、フィルムスーツを剥がされている。
 薄い胸に、永代の口元がほころぶ。
「無月ちゃんは、これからぷくっと膨らむのかねん」
 神月の股は固定されているのに、短パンと下着は切り取られていた。
「縁起モンの抜き型だよん。割れてるけど」
 すでにエプロンを脱いでいた菫は、ブラ紐とパンツを引っ張られている。
「よく伸びる餅だー。ぜひ、ぷりっといって頂きたい」
 ジルダリアが起き上がると、ジャンパースカートはもちろん、黒タイツも下着も餅に貼り付いたまま。
「ありゃま、上も下も薄味らしいけど、スチームで蒸してるから、よく見えないかー」
「おい、永代殿。子供たちは見ているようだぞ!」
 エメラルドが、鎗で土手を示した。彼女のビキニ上下は、いまだメディックの手に握られたままだ。
「あいよ。盛り付けには花びらを添えて、お色気程度にしよっか」
 忠告を受けて永代は、フローレンスフラワーを靴先から届ける。
 薄い胸を晒し、無月はもう走り出していた。桜色の突起を、桜が隠す。
 並走する陽大と、次に狙う急所を探る。
「盾を、壊してしまいたい……」
「お、おう」
 頷く陽大からは、急所のワレメもわかっている。遅れて、つぼみが添えられた。
「おっ先にナー!」
 神月が、ふたりの頭上を旋刃脚で追い越していった。花びらのマン開が、下から覗ける。
 それ以外は、サッカーユニフォームだ。
 雷刃突は防御崩しの本命。菫の神速は、陽大の蹴りに続いて穿たれる。
 パンツの後ろを、ものすごい伸ばされたままでだが。ブラ紐はちぎれて、ぷりんした。
 ジルダリアは、蒸気と花と、みずからの銀髪にも隠されている。下はやはり薄いけど。
「ガン見した子にはお仕置きですね」
 のし板に氷の吐息をお返しする。
 ミストとスチームが入り混じって、後衛からは視界が悪くなってきた。
 だが、ダモクレスの巨体と、その氷ついた盾、味方の攻勢までは見誤らない。ジェニファーは、帽子のつばをピンっとはじく。
「銃撃の聖乙女とは私の事!!」
 二丁拳銃からの素早い抜き撃ち。
 弾丸を浴びてついに、のし板はコナゴナに砕かれた。
 餅つき機ダモクレスは満身創痍。残った武器、包丁を電機コード型の腕ごと伸ばしてくる。
 撃ち尽くしたジェニファーを庇ったのは、菫だ。
 伸びきったパンツが切れて、その勢いでぶつかった相手は陽大である。
 彼もパンツ、下着とそうじゃないほうの両方を斬られて、裸コートだったから、戦況を眺めるうちにすっかり大きくされていたモノに、菫は正面からずっぽりとハマってしまった。
「菫、なんてトコに、お前、ちょっと!」
 陽大の胸板には、豊満な乳房がむにゅっと押しつけられている。菫はさらに、手足を巻き付けた。
「お餅より絡むでしょう? あと一撃。さっさと倒したいから、このまま敵めがけて、後ろ向きに飛んでください」
 首にまわした手には、日本刀があった。
「よ、よし。なんかあったら、俺が責任とる」
 本腰をいれて、根を突き上げた。たぶん、ナカで出ている。
「月光斬ー!」
 ほとばしっているであろう白いねばりの威力を借りて、サキュバスの菫は餅つき機ロボの胴体を、輪切りにしたのだった。

●子供たちの歓声
 餅つき機ロボが撃破されると、少年たちはワーワー叫びながら、元気いっぱいに土手を駆け降りてきた。
 こうなると、コーチの制止も不可能である。ジルダリアは慌てて、左右の手を胸部と股とにあてて隠す。
「まだ、ヒールかけが、残ってますから……!」
 半ズボンに取り囲まれたんでは、お仕置きしようもない。
 無月も、戦闘中は素っ裸も平気だったけれど、小さい子に両手を引っ張られてしまい、顔色が赤く変わっていた。
「こ、攻撃で、グラウンドに穴があいてる……。ゴールも治すから、待って」
 突起には花びらがくっついていたが、ピラピラしていて今にも剥がれそうだ。
 そこへ、サッカーボールを勢いよく蹴る音がバシッときまる。
「約束だったナ! モテモテ技を教えるゼ!」
 神月だった。襲撃されてない側のゴールにシュートしたのだ。一転して、子供たちはセンターラインを越えて、集合していく。
 痴女と痴漢、いやエメラルドと永代は、絶好のからかい対象だったから身構えていたけれども。
「神月殿は、お子さん達の扱いがうまいようだ」
「コートのこっち半分は、大人の時間だねん」
 永代の手から離れて落ちる、ビキニアーマー。男と女になったふたりは抱き合った。
 霧と蒸気は再び濃くなって、合わさった姿をシルエットにしていく。ジルダリアがやっと、スチームバリアで修復を始めたから。
 ガジェットを向け直すと、ふいに彼女の脚が浮いた。
「ご、ごめん。どうしてだか、ガマンができなくなって……」
 大学生が、後ろから抱え上げていたのだ。どうやらジャージのズボンは、トランクスごと膝まで降ろされているようだった。
「ええ。お仕置きはあなたにしましょうか。ガン見してましたね?」
 下から突かれる。
 こうした下半身への異変は、菫のせいだったかもしれない。サキュバスミストも出ていたからだ。エメラルドは、永代との結合部を見せつけるように尻を振り、楽しい時間をすごしていた。
 菫は、陽大からもう一回出される。
「敵倒したら離してくれないと。お店に帰れませんって」
 それを最後にエプロンを着て、本当に戻っていってしまった。
「俺もバイトしてるからな。事情はわかるぜ」
 霧の漂うグラウンドに残された彼の、コートの裾をひっぱる手がある。ジルダリアだ。
「良ければ、混じりませんか? 敵から助けてくれようと、必死になってくれて嬉しかったですし」
 コーチはすっかり発射したのか、夢見心地になっている。
「ああ。俺から搾り取るのは難しいぜ。責任はとるけどな」
 陽大の若さが、34歳にねじ込まれる。
 ピッと笛をならすと、神月はゴールポストに両手をついて、穴のあいた短パンを突きだした。
 1列に並んだ先頭の、次の番の子が、たどたどしくシュート体位をとる。
「よーシ、ゴールを良く狙うんだゼー」
 モテモテどころか、大人の階段を登らせてる。
 そんなことになっているとは、露知らずのジェニファーが、光の翼で飛んできた。
「おーい。おモチが焼けましたよおおー」
 着替えのTシャツをばら撒く。土手の長机では、無月が同じTシャツを着て、手伝っていた。
「お、あんこがいいな。おもいっきり甘いやつ」
 陽大も、お揃いの恰好になって、ジルダリアやコーチ、エメラルドに永代ともども斜面を登ってきた。
 神月に連れられた子供たちの歓声も、やっぱり止まらない。
「菫ちゃんが置いてってくれたから、みんなで食べましょう!」
 ジェニファーは、まだまだ七輪へと追加しながら、海苔をまいた焼き餅にありついた。

作者:大丁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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