苦しみが、悲しみが、恐怖が、絶望的に繰り返される

作者:ほむらもやし

●序
 ドリームイーターの本星「ジュエルジグラット」を制圧したジグラット・ウォーからひと月、『赤の王様』『チェシャ猫』に導かれて脱出に成功したドリームイーターはいまも逃走を続けている。

「ほしい……ちょうだい、ちょうだい?」
 露出度の高い漆黒のドレスから白い肌を覗かせた少女が両腕を男の首の後ろに回して顔を近づけた。
 男はゾクッとする感覚に歓喜の表情を見せる。
「このすきものめ――ギャッ痛っ! ひっ、やめろ放せ! ぎゃああああ……」
 すぐに異変に気づく。
 発動する魔法陣の文様が離れようとする男の動きを拘束する。
 次いで少女がモザイクとともに手先を横に薙ぐと。
 瞬間、男の頭頂骨が毛髪もろとも切断されて、パックリと中身が露わになる。
「はんぐ……んんう……っ」
 びぎっくちゃっ。
 ドリームイーター「欲望・幻」の潜むショッピングセンター廃墟に湿った音が響いた。
(「それは君にとって、大事なことなのかい?」)
 そう声がしたような気がするほうに目線を向けると、黒い巨大魚のような形の下級死神(ザルバルク)の群れが宙を泳いでいる。
「やっと……来たの」

●依頼
「ジグラット・ウォー、激しい戦いだったね。お疲れ様でした。――で。本当は休んでいたい気持ちなのだけど、そうも言ってられなくなった」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は「ジュエルジグラット」から逃走したドリームイーター勢力が、ポンペリポッサと同じく、デスバレスの死神勢力に合流しようとしている状況を告げた。
「皆には、このドリームイーターのひとり、ドリームイーター「欲望・幻」と迎えに現れる下級死神(ザルバルク)の撃破をお願いしたい」
 現在、欲望・幻は閉店により廃墟化したショッピングセンターに潜伏していて、ザルバルクが迎えに来るのを待っている。
 なおこの廃墟は住宅地の中にあり、直近のひと月の間に行方不明者が複数出ている。
 もし欲望・幻が関与しているなら、かなり大胆な行動と言えるが、これは予知の網からは外れているため我々の預かり知らぬこと。
「欲望・幻とザルバルクは間も無く合流する。阻止するチャンスは一度限り。今しか無い。合流からドリームイーターの撤退までの猶予は6ターン。時間内に倒せなければ、ドリームイーターは撤退を終える」
 起こってしまったことはどうにもならないけれど、これから起こることは変えられる。
「下級死神(ザルバルク)の数は10体。ドリームイーター欲望・幻を逃がすことを最優先に動くから、そのつもりで動いて下さい」
 ザルバルクの戦闘力は高くなく、基本的に体当たりやかみつき、時々ブレスや毒の息を吐き出すような攻撃をする。ドリームイーター欲望・幻の方は、モザイクを飛ばして頭脳を奪おうとしたり、抱きつきからの斬撃、魔法陣を駆使する。
 戦場となるのは、廃墟化したショッピングセンター。ドリームイーターとザルバルクのいる1階の他、地下1階や屋上の駐車場も同じ戦場として扱う。
「今なら各個撃破が可能なドリームイーターの残党も再集結すれば、それ自体がかなりの脅威となるばかりか、死神勢力の大幅な戦力アップに繋がるから、阻止したい――頼まれてくれるかな?」
 ドリームイーターとの戦いはまだ終わっていない。
 新たな悲劇を起こさないためにも、今度こそ、皆の手で決着をつけて欲しい。


参加者
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
朧・遊鬼(火車・e36891)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)
八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)

■リプレイ

●戦い
 安海・藤子(終端の夢・e36211)が発見した、ドリームイーター「欲望・幻」は両手で抱えたモザイクに覆われた何かを口元に押し当てているように見えた。
 頭にはつばの広い黒帽、各所を覆うだけの布きれのような黒いドレスを纏った少女の周囲には黒い巨大魚――ザルバルクの群れがぬらぬらと漂っている。その中心から果実を潰すような水っぽい音が聞こえてくる。
「あのラボの……もしかして、爆破し損なっていたということなの?」
「おばさん、だれ?」
 幻の顔も手も血に塗れたような色をしていて、処女雪の如き白肌がその色を一層強調している。
 此処には敗残兵の後始末に来たつもりだったが、何かと似たような外見をしているのが、無性に気になった。
「安海様、冷静に。戦いに勝ってから、好きにすれば良いでしょう」
 八刻・白黒(星屑で円舞る翼・e60916)は何をするよりも早く、ライトニングロッドを藤子の方に向けると、生命を賦活する電気ショックを飛ばした。
「――それもそうね。ま、バラシてしまえばわかるか」
 細かく思案するよりも先に、藤子は身体が軽くなった気がした。瞬間、圧倒的な速度で狙い定めて虚無魔法を発動させる。だが、幻を狙ったはずの攻撃はザルバルクの一体を消滅させた。
「なるほどね。これは厄介ね」
 続くオルトロス『クロス』の攻撃までもが阻まれるのを目にして、ザルバルクの撃破が必須と知る。
「ならばこれはどうかな?」
 アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)は身体の内に宿る血脈の力を呼び醒ます。
 淡く発光する冷気が、ザルバルクの群れを覆う。体表に析出した霜によって黒から白と変わった巨大魚の身体が固まったように動かなくなる、かに見えた次の瞬間、霜は霧散して、それらは元の通りに動き出す。
「最低でも制限時間の6ターン目までに、あの夢喰いを撃破できれば、いいんだよね」
「さて、術式開始だ」
 時間稼ぎをする気満々のザルバルクの布陣と挙動を見て、戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)は唐揚げの匂いを口から漂わせながら言うと、ライトニングロッドを振り上げ、前列に光の壁を展開する。
「しかし、毎度毎度、ロクでもねえ相手ばっかじゃねえか」
 味方前衛はサーヴァントを含めて4。減衰は起こらない。
 次の瞬間、ザルバルクの何体かが次々と吐き出した、毒息が霧のように漂い始める。
 四辻・樒(黒の背反・e03880)は元より不用意に肌を露出することは無かったが、それでも頬や耳、毒に触れた皮膚が焼けるように熱くなる。
 BS耐性は行動開始時にキュアを発動させる仕様であるため、バッドステータスに掛かり難くなるわけではない。
(「状況は悪いな。――さて、それでは頑張るとするか」)
 樒は身につけた相方の人形の手触りを確かめる。そして敵群に狙いを定めると同時、ひと呼吸で肺を腐らせる毒息のバッドステータスは発動した耐性によって消し去られた。
「雑魚の数が多すぎる。早めに減らしていきたい所だが――」
 藤子が一撃でザルバルグを撃破した。火力で勝る樒なら同様の戦果は出せるだろう。しかし一体ずつ倒していれば早い順目での勝利は難しくなる。刹那に思考を巡らせて、樒は減衰が発生しても広くダメージを与えた方が良いと判じた。
 願いを捧げる様に掲げ持った惨殺ナイフの切っ先が輝き、底冷えのする雹混じりの下降気流を呼び起こす。
 間も無くそれらは無数の刀剣の形を成して、真上からザルバルグの群れに襲いかかる。
 突き刺さる剣もあれば、外れたものもあったが、戦果は上々に見えた。
「それって、だめ、わかってる……うぅ、ああああ」
 幻はポカンと開けていた唇を噛みしめて、絞り出すような声でぼそぼそと呟きながら、胸に刻まれた呪紋を爪でなぞる。血の滲みが魔法陣を描くと同時に発動した癒術がザルバルグの傷を塞いで行く。
 守りを固める敵の動きに、ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)の表情が厳しくなる。
 制限時間は6ターン。
 普通に考えれば3~5ターン程度、それ以上掛けるのは危険だ。
「結構ぎりぎりな戦いになりそうだね」
 ここまでで、倒せたザルバルクは1体。
 ディフェンダーのポジション効果があるとしても、少し物足りない戦果だ。
 現在、手早く倒せそうな個体は見いだせない。味方の火力の底上げを意図して、ラグエルはブレイブマインを発動し、朧・遊鬼(火車・e36891)は、攻撃の切れ目を作らぬように、群れへの牽制の為に、惑星レギオンレイドを照らす「黒太陽」を具現化、その絶望の黒光を浴びせ掛けた。
 ダメージ減衰は想定内、足止めは、イメージしたよりもよく掛かった。しかし火力が足りなく感じる。
 ナノナノ『ルーナ』にはバリアを展開させたが、攻撃を手伝って欲しい気もした。
「この程度の敵に手間取っている場合では無いのだが」
 浮遊するザルバルクの群れと吐き出される毒息の色が混じり合って、幻の姿を見失いそうになる。
「ザルバルクは『欲望・幻』を逃がそうとしているようですが、逃がしませんよ!!」
 そんなタイミングで、リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)の声が響き渡る。
 ブレイブマインの効果に背中を押されたミミックがばら撒く偽りの黄金の輝きが広がる中、満を持して、射放った心貫くエネルギーの矢は、射線に割り込んできたザルバルクに阻まれた。
「ひどいもんだね。幻、お前の中身を見せてくれよ」
 藤子は毒息に冒された肺の痛みに耐えながら声を吐き出した。
「見たい? どうして? 欲しい?」
 幻のポジションがメディックであることは間違いないだろう。
 群れを構成するザルバルクの9割がディフェンダー、そこにごく少数のジャマーが混じっているようだ。
「その姿、既視感が強いからな、それとも、そんなに欲しいのなら俺の中身を奪ってみるか?」
 罵るように言い放ち、藤子は目にも止まらぬ手の動きガネーシャパズルを繰った。
 竜を象った稲妻が煌めき、幻の前方を浮遊する護衛ザルバルクが悲鳴を上げる間も無く塵となって消える。
「いつまでも逃げ切れると、思っているのか?」
「時間はあります。逃がしはしません」
 白黒は藤子を気遣って声を掛けると、深い藍の瞳を掲げた電撃杖の先に向け意識を集中させた。
 杖先から樹枝状に広がる雷光となって飛び抜ける。直後、墨を流したように漂っていた毒息が霧散した。
「その程度の攻撃で落とせると思うなよ?」
 突っ込んできたザルバルクの巨体の衝撃に耐えて、踏みとどまった久遠は薄ら笑いを浮かべる。
「それから、面倒臭ぇからさ、そろそろ潰れてくれねぇかな?」
 受け止めた肩と腕の痛みをものともせずに、久遠は衝撃を受け止めた身体のバネを解き放つように力を移動させると、抜き身の一閃でザルバルクを両断した。
 血を流すことなく塵となって消滅する巨体。
 次いで消滅のタイミングを見計らった様に駆け出した、樒がゲシュタルトグレイブを手に前に出ようとしたアルシエルを押し留める。
「任せろ。私が何とかする――」
 前衛を担うザルバルクの数を見て、アルシエルは樒の意図を察して踏みとどまる。
 次の瞬間、必ず仕留める、決意と共に樒の薙いだ斬撃がザルバルクの横腹の傷を深々と斬り広げる。
 燃え散る灰の如くに消滅する巨体。
 その消滅のタイミングに機を合わせて、アルシエルは敵群の中に突っ込む。
「そろそろ勝手に泳ぎ回るのは、遠慮してもらいたいんだよね」
 踏み込んだ足先の一点に力を込めて、回転のステップを踏むアルシエル。頭上に掲げたゲシュタルトグレイブを回転羽根の如くに振り回すと、周囲に漂うザルバルクの胴に横筋の傷が刻まれる。
 力を失ったように腹を上に向けて、同時に2体のザルバルクが消滅した。

●終わりの始まり
 半数のザルバルグが撃破されて、幻は天を仰ぐ。
 残る個体も傷ついていて、放置すれば早晩全滅してしまいそうだ。
「まだ、まだなの? こまる」
 自分を護って消えていったザルバルクには何の感情も持ち合わせていない様子だ。ただ倒されれば自分に攻撃が及ぶからという理由から、幻は傷ついたザルバルクに癒術を掛ける。
 ザルバルクの傷が塞がってゆく様子を見て、ラグエルは雪の精を召喚する。
 残るザルバルクは5体。うち4体がディフェンダーと想定すれば仕留めるには準備が足りない気がした。
「これで落とせなきゃ、嘘だな」
 片手で持った大鎌を限界まで後ろに引いた構えから、遊鬼は全身のバネを使う回転から投げ放つ。
 目にも止まらぬ速さで回転する大鎌はゆっくりとした飛翔であったが、吸い込まれる様にしてザルバルクに突き刺さり、だが回転は止まること無く、その巨体をザックリと裂いて飛び抜けて行った。
 2つに裂かれた巨体は他の個体と同じ様に塵なって消滅して、何も残さない。
 射線が開けた先に見える幻の姿は、災害から逃げ延びたが、だれの助けも得られずに餓えている少女であるかのように見えた。
 ミミックの作り出した武器の一振りがザルバルクの尾ビレに弾かれて、再び射線が開ける。
「あなたは人の脳を奪うなんて、酷いことをしますね……」
 満を持して精製した時空凍結弾を、リュセフィーは手早く撃ち放った。
 しかし弾丸は向きを変えたザルバルクの腹に当たって、澄んだ音を立てて砕け散る。圧縮されていた冷気が爆ぜて黒の巨体が白い霜で覆われる。動きを止めた巨体は、膨らみ始め、直後爆発して消滅した。
「氷の扱いなら負けねぇぜ?」
 残るザルバルクは3体。
 内2体のディフェンダーがアルシエルの冷気の前に倒され、最後のザルバルクが樒の刃の前に消えるのも間もなくだった。
「もう逃がさない」
 幻の間近に踏み込んだ藤子は惨殺ナイフを握り絞め、心の内に溜め込んだ思いを解き放つ様に薙いだ。
 禍々しい形の刃は受け止めようと差し出された手の、指先を切断すると、そのままの速度で、ドレスもろとも胸の辺りを切り裂いた。傷口からモザイクにも血液ににも見える赤が噴き上がる。
 ドレスが切り裂かれたことで、裸体に描かれた文様の形状が露わになると、藤子の目の色が変わる。
「やっぱりか、中身より外身を奪うってか。その陣よこせや」
 その言葉に応じること無く幻は横に跳んで間合いを広げる。次いで荒い息を整える間も無く、指先を失った手を突き出して無数のモザイクを噴射する。
 赤い体液混じりのモザイクが藤子に纏わり付き、その精神を蝕み始めた正にその時、白黒の持つタイマーが4分経過のアラームを響かせる。
「心配ありません。安海様」
 同時に様々なことが起こる状況でも、起こっていることを一つずつ把握して、漏らさずに手当をして行けば何とかなる。白黒は傷ついた藤子を癒し、少しでも良い状態で思いを遂げさせたいと望む。
「そう、急くなよ。今まで独りの間も随分楽しんでいたみたいだな。活きのいい脳もまだ沢山あるんだ。楽しもうじゃないか?」
 ただ切り裂くことだけに心血を注ぎ、そしれ編み出した至高の斬撃が幻の体力を一挙に削り取る。
「幕引きが近いな。花道を通る準備は出来てるか藤子?」
 久遠が仕掛けようとした時、幻は今にも崩れ落ちそうに見えた。
 ラグエルの投擲したカプセルが、その頭部を直撃して爆ぜ、仕込まれていたウイルスを撒き散らす。
「そろそろ終わらせたいところだけど……ね」
「無いな」
 ラグエルの声にアリシエルは顔も向けないままに応じると、頭上の掲げた槍を腰の高さに構え直して藤子の方を見遣る。
 今、攻撃して幻を倒すことは容易かったが、それは自分が率先してやるべきことでないと感じていた。
「ここで逃せば、事態が悪化する。この目論見は此処で絶対に潰さねばならんが」
 戦いの中で、藤子と幻の間にある因縁めいたものは遊鬼にも理解出来た。
「大丈夫です。安海様を信じましょう」
 白黒の声に気がついたリュセフィーも攻撃を繰り出そうとしていた手を止める。
 直後、二度目のアラームが鳴り響いた。
 刹那、呼吸の音が聞こえるほどの静寂が場を支配する。
「……あ、こいつ生み出したの俺か」
 飽くなき好奇心の果てに、見いだした魔性の生き物――正確にはそんな生き物の馴れの果て。
 幻が本当に自分と繋がりがあるのか、無いのかも、本当はもう分からなくなっていた。
 分かるのは既視感のある外見と、暴いた肌に刻まれた見覚えのある魔法陣。
「私の現身なのかもね。先にあの世で待っててよ」
「え? なに、どうするの?」
 残念だが、その魔法陣を剥ぎ取り、術を解く時間はもう無かった。
 突き放す様に間合いを広げる藤子。
「我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは静かなる冴の化身。全てを誘い、静謐の檻へ閉ざせ。その憂い晴れるその時まで……」
 詠唱に胸の内にある万感を乗せ、呼び出した氷に龍の姿を与える。古の夜の如き闇が広がり、極寒の冷気に閉ざされた幻の小さな身体が爪と牙の煌めきに呆気なく引き裂かれる。
 パックリと開いた傷から赤いモザイクが噴き出す。つるりとした少女らしい胸も丸みを帯びた腹も太ももも、描かれた魔法陣を塗り消す様モザイクの赤で覆われて行く。
 血生臭い、それでいて果実が腐ったような甘い香りが戦場を満たす中、何かを掴もうと腕を伸ばした姿勢のまま幻は事切れて、その身体は赤い燐光の粒を散らす様にして消えて行った。

「そうそう安海。うっかりしていたが、これは相方からクロスに預かりものだ」
「ありがとう。で、折角のところ、申し訳ないのだけど、行かなきゃいけないところできたから、今から行ってくるわ」
「そうか、それではまた今度な――さて私も先に良いかな? 土産を買って帰らないと行けないんでな」
「アンタも色々、なんて言うか大変だな……」
 アルシエルは何かを思い出したように走り出した藤子と慌ただしい様子で立ち去って行く樒を見送ると、軽く周囲の片付けをしておこうと思い、大きく崩れた床の窪みを確認する。
「なんだこれは……」
「どうした具合でも悪いのか? よし俺に見せてみな」
 急に様子がおかしくなったので、気になった久遠はアルシエルの方に近寄って行く。
 崩れた床の下には死体が幾つも積み重なっていた。しかも死体はどれも顔が断ち切られて半分になっている。
「嫌な予感はしたんだけどね。想像以上に非道かったね」
「ヒールでどこまで直せるでしょうか? せめて見られるくらいに綺麗にしましょう」
 ラグエルの言葉に白黒は抑揚の少ない声で応じると、歯車のついた杖をかざしてヒールを掛け始める。
 ――死者のために捧げた賛歌が生者を救う花束となる。
 発見した遺体は全部で八人分。
 それらは異常なまでに白く美しくて、それ故に残酷さが強調されてもの悲しく見えた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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