北海道フェアか。なるほどわかった。

作者:星垣えん

●北の恵みです
「お腹すいたー」
「なに食べよかー?」
 人々の喜色が、広い空間を満たしている。
 休日のショッピングモール、そのフードコートは人の坩堝と言えるほどに客でごった返していた。
 目立つのは家族連れである。だが他にもカップルだったり友人グループだったり、さまざまな客層が見られるのはさすが商業施設と言うべきだった。
 ――けれど、この盛況が本施設の平時かと言うとそうでもない。
「見て見てこのイクラの量! ヤバくない?」
「あー……じゃがバター美味っ……!」
「ソフトクリームめっちゃ濃厚やん……さすが北海道……!」
 食事を楽しむ客たちが持っているのは、海鮮丼やらほくほくジャガイモやら、あるいはこんもり巻かれたソフトクリームだったりとか。
 そう! あふれんばかりの北海道感だった!!
 何を隠そう、このフードコートでは絶賛『北海道フェア』が催されているのだ。
 新鮮な海鮮は味はもちろん量も凄まじく、濃厚なバターが絡まったジャガイモも見るだけで垂涎モノだ。ソフトクリームも驚くほどに味が濃い。
 もちろん、それらも北の大地の魅力の一端に過ぎない。
「はぁぁー……肉うめぇ!」
「なんだろう……ジンギスカンって絵面だけで昂るよなぁ」
「焼きトウモロコシはアカン」
 男たちがかっ喰らっているのは、和牛や黒豚をこれでもかとぶちこんだ肉丼だ。
 皿に乗っかっているのは焼いたばかりのジンギスカンだし、鮮やかな黄色に輝くトウモロコシはバター醤油が塗りこめられて香りだけでも凄味がある。
 美味さ人を呼び、人の多さがまた人を呼ぶ。
 てなわけで、大々的な北海道フェアのおかげでフードコートは超満員だったのである。
 しかし、だ。
 来客が多ければ、変質者が来る可能性もまた大きいわけで――。
「北海道なにするものぞ! 寒い北よりも暑い沖縄のほうがいいさぁ!」
 どこからともなく、ビルシャナさんが現れた!
 なんかアロハっぽいシャツを羽織り、頭にはシーサーを乗っけている!
 あーこれは沖縄推しですね。間違いありません。

●喰らえ北海道!
「準備、できたよ」
「手ぶらで言う台詞か」
 その両手に何も持たぬ軽やかな姿で言ってきた陽月・空(陽はまた昇る・e45009)に、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)の冴えわたるツッコミが襲いかかった。
 あれだろうか。
 胸いっぱいの気持ちさえあればいいってことなのかな? 空くん?
「大丈夫。お財布は持ってる」
「それも違う。あと財布はしまえ」
 お目目きらきらで財布を取りだした空を諫め、懐にしまわせる王子。
 そのしょうもないやりとりを見ていた猟犬たちは、確信をもって思った。
『これなんか食ってこれるやつ!』
 と。
 ザイフリート王子からもたらされた説明は、果たして一同の予想どおり。
 商業施設のフードコートで開催されている北海道フェアを、シーサーかぶった怪しい鳥さんが襲撃してくる。信者もいないし手早く撃退よろー。
 要約すればそんな感じだった。
 どうやら簡単なお仕事になることは間違いなさそうだ。
 つまり、その後の自由時間が大きく取れる。
 空はお腹をさすさすすると、ガチな目つきを浮かべた。
「鳥さんはともかく、北海道フェアは強敵だと思う。僕のお財布もつかな……」
「どれだけ食べるつもりだ」
 すかさずツッコむ王子。
 しかも相手を見もしない。ヘリオンへ歩きながら条件反射のようにツッコむとは王子もこの手の話の流れに完全に慣れてきていました。
 だから、その後に続いた北海道フェアの説明も自然だった。
「言うまでもないがフードコートには北海道の食材が溢れている。
 十勝の和牛や黒豚、ジャガイモやトウモロコシ、肉厚のホタテや山のように盛られるイクラ等々……もはや枚挙にいとまがない。浮かれてしまって食べすぎないよう気を付けることだ」
「まかせて」
「……」
 ぐっ、と握り拳を見せる空。その星空のように輝く瞳がどう見ても任せてはいけない人のそれだったので、王子はもう言葉もないよ。
「……まあ、心のままに動くと言うなら止めはしない。財布が許す限りに食べてくるがいい、ケルベロスたちよ。ビルシャナを倒すことを忘れないようにな」
「まかせて」
 王子の言葉に堂々と答えるまかせてBOT。
 かくして、猟犬たちは美味しい北海道を味わいに行くのだった。


参加者
ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)
朔望・月(桜月・e03199)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●立ってるほうが悪い
「北海道が何だと言うのだ!」
 ぷりぷりと怒りながら、アロハ鳥が歩く。
 その速足たるや競歩選手のごとし。憤怒に燃える鳥は人々ひしめくフードコートに目前まで迫っていた。
「俺が沖縄の素晴らしさを教えてやる!」
 説教をぶちかましてやる、と意気込む鳥。
 しかし今まさにフードコートに降り立とうした彼を、悲劇が襲った。
「火力ぅぅぅ!! 最だぁぁぁーーーーーいっ!!」
「グアアアアアアッ!?」
 背後から弾丸ダッシュしてきたベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)とオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)が勢いで鳥さんを吹っ飛ばしたー!
「……あれ? 今、なにかぶつかった?」
「何言ってるのオリヴン君。アタシはそんな轢き逃げみたいなことしないよ!」
「あぁぁ熱いよォォ!!」
 後ろを振り返るオリヴンに、ハハハと豪快に笑うベルベット(全身から地獄の炎)。すぐ後ろで火だるまスタントを演じてる鳥さんのことはきっと見えてない。
「おのれぇ……後ろから鳥を轢くとは何て非道な――」
「邪魔よーーー!!!」
「ぶべべっ!?」
 がばっと起き上がった鳥さんだが、すぐまた後ろから激突されて地面にキッス。
 その後頭部を華麗に踏みつけて通過してゆくのは、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)である!
「すぐそこに北海道が……私のえびふらいが待ってるんだからーーー!」
「えびふら……そんなことで鳥を轢くんじゃ」
「急ぐよアネリー! 早くテーブルを確保しないと!」
「北海道フェア……乗り遅れるわけには、いかない……!」
「あばばばばばっ!?」
 また体を起こそうとした鳥さんだけど、やっぱり後ろから走ってきたヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)とオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)に轢かれる。
 頭上を遅れて飛んでくアネリー(ボクスドラゴン)にさえスルーされた彼は、背中を丸めて地面をバンバンした。
「くそう! みんな北海道北海道って……」
「美味しい沖縄料理を持って来なかった時点で鳥さんの負けだよ」
 体を震わす鳥さんへ、淡々と敗因を告げる陽月・空(陽はまた昇る・e45009)。その目は前方のフードコートに釘付けだ。チャンプルーもソーキそばも持ってこない鳥を見る理由が彼にはなかった。
「鳥さん……好みというのは人それぞれなのです。僕も沖縄好きなので気持ちはわからないでもないですけど」
 朔望・月(桜月・e03199)が、ぽむ、と鳥さんの肩に手を置く。
「こと食べ物に関しては北海道には勝てないのですよ。南国と北国では、北国の方が味が濃くておいしかったりするのです。なんくるないではないのです……なんくるあるのです……っ」
「我が愛する沖縄が負ける……!?」
 肩を揺らして、嗚咽をこぼす鳥。
 彼の小さな小さな背中を見ながら、ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)は頭に乗っているひよこを握った。
 そして――。
「今度は沖縄フェアが始まってから来てください」
「アァァーーーッ!!!」
 黄色いひよこ(ファミリアロッド)を投げつけて爆破しといた。

●恐るべし、北
 進路上に突っ立ってた鳥類を駆除した猟犬たちは、揚々とフードコートに突撃した。
「ぷりぷりのホタテ……そしてシマエビ……最高ね! あなたもたくさん食べなさい、シュテルネ!」
「ほらほらアネリー。見て見て。ウニ、イクラ、サーモン、ホタテ……北海道の海の幸を全部乗せだよ! すごいね……写真撮っとこ!」
 新鮮な海鮮に興奮を抑えきれないのは、ローレライとヴィヴィアンだ。
 肉厚のホタテは一口噛めば、ぷりっとした身から濃厚な旨味がこぼれだす。一緒に買ったシマエビ(フライと塩ゆで)も食感と甘味が抜群で、ローレライとシュテルネ(テレビウム)の手は止まらない。
 ヴィヴィアンも豪華海鮮丼にマイ箸がフル稼働。ぷちぷち弾けるイクラと脂の乗った大ぶりサーモンを温かい白米でいただけば、表情はとろんとろんだった。アネリーも取り分けてもらったミニ丼を嬉しそうにはぐはぐしている。
「美味しい……これは美味しい~!」
「イクラと鮭の親子丼は、間違いないですね……おっきな蟹さんも食べ応えばっちりで、ホタテもウニも好きなだけ食べられちゃう……!」
 もごもご動く頬を押さえるアネリーの隣で、オリヴンも首を縦に揺らす。その手にはもちろん山盛りの海鮮丼が収まっていて、その口は詰めこんだ海の幸でいっぱいだ。
「北海道の海鮮、美味しいから油断するとすぐなくなっちゃう……ほかを食べる前にお財布がカラにならないよう気をつけないと」
 漫画やアニメみたいにぷっくら頬を膨らませているのはリス――ではなく空。
「でも、これは買っておかないと」
 存分にネタの美味さを味わいまくると、空はエビフライとカキフライを横に置いた。タルタルソースをつけて食べれば、海鮮丼とはまた違うどっしりした美味。
「サクサクの下の、とろとろぷりぷり……」
「フライかぁ……それも美味しそうだね。アタシも買えばよかったかなぁ」
「美味しそうなの多くて、目移りしてしまって大変なのです……!」
 ベルベットがイクラの山で蓋をされた海鮮丼をかっこみ、月もマグロやサーモンをぱくぱく。
「イクラかけ放題なんてロマンだよねー。これを贅沢にもバクッといっちゃうのがたまらない!」
「海鮮丼はずるいのですよ……あっ、でも僕はお肉も食べたいのです。あそこにある焼き鳥弁当に惹かれるのですー」
「何それ美味しそ……ってあっちには豚丼が! くっ、これは買うしかない!」
 ふらふらと夏雪(シャーマンズゴースト)を引き連れて月が西側へ行けば、豚丼を見つけたベルベットはビースト(ウイングキャット)を連れて東へ爆走。
 美味しい物を求めて旅立ってゆく仲間たちを、オルティアはソフトクリームを食べながら見つめていた。
「どれもこれもすごく美味しそう……けれど、お腹もお財布も限りが……」
 しょんぼり、と濃厚ソフトにはむっと口をつけるオルティア。
 もちろん美味い。だが金銭的な不自由を思うと、金欠セントールの背中はどんどん小さくなっていた。
 が、そのとき、ローレライの放った言葉が少女に光を与える。
「ええい! 蟹もサーモンもじゃがバターも十勝牛も私は食べたい! もうこうなったらシェアしましょ!」
「……シェア!」
 エビフライをサクッと噛みちぎるローレライへ、オルティアが俯けていた顔を向ける。
「なるほど……」
 紙皿を並べだすオルティア。
「そんな、手が……!」
 割り箸やスプーンを並べだすオルティア。
 これしか生きる道はない――と言わんばかりに少女の目はガチだった。
「シェア! もちろんあたしもいいよー」
「分けあったら、おいしさも2倍、ですね……」
 はーい、と手をあげて了承するヴィヴィアンとオリヴン。そのままオルティアと一緒に食器類の準備を始めたので、どうやら盛大なシェアパーティーに突入しそうである。

 一方、賑わう人混みから少し離れたところで、ぴょこぴょこ上下するウサ耳頭。
「おいもはいーもん。ウマいーもん」
『ぴー』
 頭に乗っけたイエロ―ひよこ、ピヨコたちと話すピヨリ。
 賑やかな場は少し苦手……という彼女は、仲間たちからも離れて気ままにフードコートを歩き回っていた。
 熱々のじゃがバターを、もぐっと食べながら。
「うん、これこれ。こういうのがいいんです。ピヨコたちも食べますか?」
『ぴー!』
 濃厚バターが染みたほっくほくのジャガイモに、ピヨコたちが我先にと群がる。
 結果、じゃがバターはあっという間に消えていた。
「お腹が空いてたんですか。まさか全部食べられてしまうとは。仕方ないのでもう1個買ってきましょう」
『ぴー!』
 嬉しそうに鳴くピヨコたちを再び頭に乗せて、ピヨリは踵を返すのだった。

●恐るべし、バター
 強烈に香る、肉。
 ジンギスカン鍋からラム肉と野菜をざっと箸で取ったオリヴンは、それをあむっと一口に頬張った。
「じゅうじゅう焼いたラム肉と、お野菜のハーモニー……」
「お肉、美味しい……ジンギスカン、すごい……!」
 感じ入るオリヴンと一緒に、恵みを分け与えられたオルティアが一口一口をじっくりと楽しむ。その手元にはたっぷり海鮮が入った器も見えた。
 恐らく誰よりシェアの恩恵にあずかっているオルティアは、両手を組んで天を仰いだ。
「これがシェア……このシステムは、人を幸福にする……」
「ですねー。こっちは旭川ラーメンなのですけど食べます? 厚切りのお肉が最高なのです♪」
「ありがとう、ありがとう……!」
「朔望さんも、ジンギスカン食べます……? お肉の脂と旨味がしみこんで、おいしいです、よ……」
「ありがとうございますー」
 ラーメンを分けてあげてオルティアをぺこぺこさせた月が、横から差し出されたジンギスカンを秒でくいつく。
「北海道ならジンギスカンは食べないとなのです……ではそんなオリヴンさんにはスープカレーを……」
「わっ、ありがとうございます……!」
「スープカレー……私も、できれば……!」
 月が見せたスープカレーに、すかさず小皿を伸ばすオリヴンとオルティア。
 横の席で北海道グルメをカシャカシャと撮影していたヴィヴィアンは、積極的に物々交換がなされるさまを見てくすりと笑った。
「やっぱりシェアっていいよね。色々食べてもお腹いっぱいにならないし、美味しいって気持ちを共有できるし!」
「うん、そうだね!」
 ヴィヴィアンにハッキリ頷いたベルベットが、ほくほく湯気を立てる器を置く。
 中身はとろりとバターが乗ったジャガイモだ。
「アタシの地獄で保温してたからまだホカホカだよ。切り分けたから食べて食べて。バターがとろけて香りも最高♪」
「やったーじゃがバター! いただきまーす♪」
「私も貰うわね! ベルベットさん!」
「どうぞー。アタシはビールも……あ~これは最高」
 わーい、と身を乗り出してくるヴィヴィアンとローレライにじゃがバターを勧めつつ、自身もぱくっと食すベルベット。まったりしたバターの後味へ冷たいビールを流しこんだ彼女は、ぷはーっと深い息をつくしかなかった。
「しっかしまずいなぁ……これじゃベルちゃん危ないよ。お小遣い的な意味で……」
「うん、それはすごいわかる……」
 軽くなった財布をふりふりするベルベットの向かいで、空が同じく劇的に軽量化した財布を左右に振る。いよいよ弾数は心許なくなってきたっぽい。
 しかし不安げな台詞内容とは裏腹に、空の周りにはびっしり皿が並んでいた。ジンギスカンから豚丼やステーキ丼等々……しかも両手で焼きトウモロコシをしっかりと握っている。
 塗られたバター醤油で照り輝くそれを見て、ベルベットは喉を鳴らした。
「トウモロコシ……」
「……いる? じゃがバターもらってるし、あげてもいいよ……」
「是非おねがーい!」
「焼きトウモロコシ? 絶対美味しいじゃない! 私もちょうだい!」
 皿を持って空の眼前に滑りこむベルベットに乗じ、自身もずざーっと滑りこむローレライ。まだその口にジャガイモが入っているというのに、その反応速度たるや尋常ではない。朝ごはんを抜くと人はこうもなれるんですかね。

「皆さん、賑やかに食べてますね」
 遠巻きに仲間たちを見つめ、ベンチに座るピヨリ。
 その手に握るのはトウモロコシである。ベンチの隣でピヨコたちがもう1本のトウモロコシを嘴でつつくのを見ながら、ピヨリも一口ぱくり。
 強烈なバターの香りと醤油の香ばしさに、少女はぷらぷらと脚を振る。
「バターがダブってしまいましたが、おいしいですね。匂いにつられて買ってしまいましたが、間違いはなかったようです」
『ぴー!』

●恐るべし、スイーツ
 半分に切られた、でっかいメロン。
 その中央に玉座よろしく鎮座した真っ白なアイスクリームを見つめて、オリヴンは地デジと一緒にぷるぷると震えていた。
「うわあうわあ、なんて、ぜいたく!」
 小躍りするように足踏みするオリヴン。
 カットしたメロンにすっぽり収まったソフトクリーム――そんなロマンを目の前にした甘党少年は、口に含んだそれの破壊的甘さに身もだえた。
「……おい、しい。おいしすぎる。これは神のスイーツです……」
「なんだかすごいの食べてるわね……あとで食べさせてもらおうかしら」
 夢見心地でソフトクリームを食べ続けるオリヴンを、不安げに見つめるローレライ。
 だが、手元で美しい焼きあがりを見せている濃厚チーズケーキをむぐっと頬張ると、その憂いも吹き飛んだ。
「さすが北海道、チーズケーキもなんて美味しいの!」
「海鮮もお肉も野菜もスイーツも全方位で最強とか、北海道って無敵すぎるね~」
 ぱくぱくぱく、とチーズケーキを口に運び続けるヴィヴィアン。
 ここまでさんざ食べた2人であるが、やはり甘い物は別腹。動きつづけるフォークは海鮮や肉を食べるときと同じ……どころか上回るペースである。
「ラベンダー味のソフトも美味しいし、メロンも美味しいし、今日は言うことない日だわー……」
「欲を言えば現地に行ければってところなのかな……? 今度、実際に行ってみたいね、アネリー」
 プリンのカップを前脚で持っていたアネリーが、微笑みかけたヴィヴィアンに小さく鳴いて返す。口周りをプリンで汚しちゃったさまを見るに、アネリーも北海道旅行は大歓迎のようですね。
「北海道旅行……」
 こんもりアイスを乗ったプリンパフェとしっとりチョコケーキを食べていた空が、はたと北の大地を夢想する。
 そこに行ければどれほど幸せだろう、とか思わずにはいられない。しかし北海道フェアでダメージをくらった財布にそんな余力はない……とかぶりを振って、空くんは温かいカフェオレを飲む。摂取してる糖分すごない?
 一切れのチーズケーキをぺろりしたベルベットは、思い出したように顔の炎を小さく弾けさせた。
「あ、孤児院のみんなにも買っていってあげたいな……せめて北海道感のあるものをどこかで買っていこっと」

 渦を巻くソフトクリームを、はむっ。
 北海道フェアのシメとしてソフトをいただいていたピヨリは、しかし今、立ち尽くしていた。
「どちらも、只事でない状況です」
 こてん、と首を傾げるピヨリ。
 彼女の左右では――2つの危機が発生していた。
「あーダメなのですよ夏雪! 買い占めはよくないのですー! チョコミント好きもほどほどにするのですー!」
 左には、チョコミントビスケットの爆買いを敢行せんと暴走する夏雪を止める月。
「生活費は……明日、考える……! この十勝和牛のステーキ、ください……!」
 右には、食欲に屈して明日を捨てようとしているオルティア。
 どっちもただでは済まない気がする。
 止めたほうがいいんでしょうか。そんなことを考えながら、黙ってソフトクリームをぺろりとするピヨリだった。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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