赫焔の風

作者:崎田航輝

 朝の風は濁りが無くて透明だ。
 頬に吹き抜けると、絹地のような肌触りが温度をそのまま伝えてくれるようで。
「夜はもっと、寒くなるかな……?」
 だからまだまだ冬は続いているのだと、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は実感を胸に蒼空を見上げている。
 もしかしたら雪も降るかも知れない、そんな寒空。
 けれどこの澄んだ空気の中では、それもまた快い自然の恵みのように感じられて。木々の翠がそよぐ中を歩みながら、シルは季節の風を感じていた。
 ──と。
「……?」
 その空気に微かに交じった異変に、シルは気づく。
 始めは些細な感覚、けれど徐々にそれが冬の寒さを塗り替えるものだと理解した。
 感じたのは、肌を灼くような熱さ。
 はっとして振り返ると──シルはそこに、眩い程の焔が揺蕩うのを見る。
「まるで小さき妖精。だが、その内奥に確かに研ぎ澄まされた鋭さを感じる」
 冷静で、それでいて戦意に満ちた声音が響いた。
 そこに立っていたのは一人の男。鍛え抜かれた躰に、腕に纏う炎、そして真っ直ぐな敵意を瞳に宿す──ドラグナー。
「あなたは……」
「強きものを討ち倒し、グラビティチェインを得る。そして、只管に己を高めゆく──その相手には、これ以上無い程相応しい」
 一歩下がるシルへ、ドラグナーは言って歩み寄り。
「強者よ、俺の糧と成れ!」
 戦気を漲らせ、業炎を燃え盛らせると──地を蹴って、シルへと殺意の矛先を向けた。

「シル・ウィンディアさんがデウスエクスに襲撃されることが判りました」
 冬風に冷えるヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へと状況を説明していた。
「予知された出来事はまだ起こっていません。ただ、時間の猶予も残されていません」
 シルは既に現場にいることが判っている。
 その上でこちらから連絡は繋がらず、敵出現を防ぐことが出来ない。そのため敵と一対一で戦いが始まってしまうところまでは覆すことは出来ないという。
「それでも今から急行し、戦いに加勢することは可能です」
 合流するまでに時間の遅れは生まれてしまうだろう。それでも戦いを五分に持ち込むことは充分に可能だと言った。
「現場は林道です」
 自然の美しいところで、木々の立ち並ぶ場所。
 周囲にひとけは無く、一般人への被害については心配は要らないだろうと言った。
「敵はドラグナーである事が判っています」
 その詳細な目的など、敵については判らないこともある。ただ、シルを狙ってやってきたことは確かで、放っておけばシルの命が危険なことは事実。
「だからこそ猶予はありません。ヘリオンで到着後、急ぎ戦闘に入って下さい」
 周囲は静寂で、シルを発見すること自体は難しくないはずだ。
「シルさんを救うために──さあ、急ぎましょう」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
リゼリア・ルナロード(新米刑事・e49367)
クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)

■リプレイ

●赫と蒼
 紅蓮の拳が放たれるより一瞬疾く、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は風に乗って宙返りし間合いを取っていた。
「……っと。突然だね!」
「呼吸をし、歩み、時間を過ごす。その如何なる瞬間にも戦いは訪れるものだ」
 故に立ち合った瞬間が、即ち闘争に尤も適した時だ、と。
 眼前のドラグナー、『爆炎の』バルスは構え直して炎を燃え上がらせていた。
「なんというか、まぁ……季節を無視する感じのドラグナーさんだこと」
 シルは防御姿勢を取りながらも、小さく息を零す。
 でも、と。
 次に浮かべるのは恐れでも怯みでもなく、明朗な戦意。
 ──強い相手なら、ちょっとわくわくしちゃうねっ!
 退いても無駄だし、退く意味もない。ならば迷う理由もないのだと、シルは跳躍。
 護りの体勢とはいえ、攻撃をしないなどとは言っていない。白銀装飾の空靴で宙を滑ると、蒼風の如き鮮やかな蹴撃を叩き込んだ。
 大きく地を滑ったバルスは、それでも喜色を見せる。
「……やはり期待通りの実力だ!」
 全力を出すに相応しい、と。業炎を撒いてシルを包んだ。
 シルは風を渦巻かせて焔を払う。が、バルスは立て続けに炎撃を放ち蒼を紅で塗り潰す。
 衝撃に押されながら、シルは僅かに瞳を細めた。
(「このままだとピンチかも」)
 焔の中で、心は冷静に敵の実力を鑑みている。
 戦いを続ければ、形勢が敵に傾くことを。
「どうした、それで終わりか!」
 バルスは云いながらも、力を賭して勝負をつけようと拳を振りかぶっていた。
 それを見つめながら、しかしシルは心に諦めを抱かない。
 こんな苦境であればこそ、助けてくれる人がいるのだと信じているから。
「──私の大事な人に何の用ですか」
 丁度その時、涼風のようで、それでいて鋭い声音が耳朶を打つ。
 シルがはっと見上げたその先にいたのは──幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)。跳躍から舞い降りながら、躰を捻ってバルスへ旋風の蹴りを打ち込んでいた。
「琴ちゃん! 助けに来てくれたんだね……! ありがとっ!」
 シルが明るく笑顔を浮かべると、ひらりと着地した鳳琴はその顔を見て安堵の息をつき。
「助けるなんて当たり前です。……恋人なんですからッ」
 照れを消すように力強く言って、拳をぐっと握って固めてみせる。
 その頃には、仲間の影も次々垣間見えていた。
 機械の体躯を剛速で奔らせたマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は、素早く前に立つと振り返って。
「シル、大丈夫か?」
「うん!」
 と、シルの元気な声音が返ったと確認すれば──すぐに向き直り、踵のパイルバンカーを地に突き刺して肩のシールドを前面へ。
「SYSTEM COMBAT MODE」
 四肢を固めて己を盾とし、敵の反撃の炎を受け止めている。
 この間に、氷色の髪をふわりと揺らがせてクリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)がシルへ駆け寄っていた。
「では、今のうちにさくっと治しちゃいますー」
 細腕を伸ばすと、氷晶の燦めく冬風を喚び込む。吹き抜けるその爽やかさが、炎傷を浚うように冷やして治癒していった。
「次、お願いしますねー」
「ん、任せて」
 応えながら、流体で燿く弓を形成するのは燈家・陽葉(光響射て・e02459)。
 聖夜に降る雪の如き、澄んだ輝きを湛えたそれは──弦を弾くと生命に共鳴する音色を響かせる。
 その清らかな調べがシルの苦痛を拭い去っていくと。
「あと少しかな」
「ならこれで仕上げね」
 と、リゼリア・ルナロード(新米刑事・e49367)が艷やかに笑んでみせていた。
「あなたに快楽エネルギーを分け与えるわ」
 差し伸べた掌から、生み出すのは淡い色彩を帯びたミスト。
 そこに慈愛を込めて宝石の如き煌めきを宿すと──傷に溶け込ませることで傷口ごと痛みを消失させていく。
 ここまで僅か数呼吸の間。セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)も傍に走って、素早く妹の無事を見て取っていた。
「シルっ! 大丈夫ね?」
「うん、セレスおねーちゃん。平気だよ」
 シルは皆へもまた、助かったよ、と。屈託ない笑みを見せる。
 リゼリアは表情を和らげて応えた。
「同じケルベロスの仲間が危険とあれば、助けないわけには行かないもの」
「僕も、シルが襲われているなら行かない理由はないからね」
 陽葉も柔らかく返す。
 陽葉自身、シルの強さは知っているからきっと大丈夫だとは思っていた。けれど、助ける為に動くのは別の話。
 頷くセレスティンも、心は同じだった。これくらいでへこたれるような子じゃない、と。
 故にこそ、安堵を感じた直後には心を戦いへ切り替えて。嫋やかながら、夜の温度に冷えた瞳をそのドラグナーへ注ぐ。
「それで──うちの妹へ手を出して、何のつもりかしら?」
「強き者を求めた。その結果に過ぎん」
 バルスは番犬達を見やりながら、再び焔を湛えていた。
 あくまで濁らぬ戦意を見て、セレスティンはそう、と頷く。
「目の付け所はなかなかいいわね。褒めてやるわ」
 けれど、それが赦す理由にはなりはしないから。
「返り討ちにしてあげる」
 小さく目を伏せると、セレスティンの周囲に月色に燿く風が渦巻く。魔力を多重化する事による美しき宣戦。
 同時にマークも『遠心防御』。二つの高密度グラビティチェイン塊をコア内部で高速回転させ、抗グラビティフィールドを形成。不可視のバリアで戦いの準備を整えた。
 バルスも攻撃を仕掛けてくる、が。
「ちょっと邪魔してあげて」
 声が響くと、その眼前に飛来する影がある。
 それはリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)の傍から翔ぶ、ビハインドのアミクス。声に応じるよう、敵の射線を塞ぎながら同時に動きを縛った。
 その一瞬に、リューイン自身は翼を輝かせてバルスの横合いへ。
「本気でいくからね」
 光の軌跡を描きながら、その手に魔槍を握り締め。風を纏った刺突で焔を突き破り、膚を深々と抉った。

●拳と風
 火の粉を棚引かせながら、バルスは大きく後退している。
 ただ躰を覆う焔は一層濃く、戦意も尚鋭く。強者が居並ぶことに笑みさえ見せていた。
 そんな姿を陽葉は観察している。
「炎を使うからシャイターンかと間違えそうになるけれど……ドラグナーなんだよね、あいつ」
「拳技を使う、ドラグナー……」
 鳳琴も僅かにだけ声を含み、敵を見据えていた。
「……貴方も皇竜の弟子、竜牙拳士の一人ですか」
「だったら、どうする」
 バルスは陽炎を靡かせながら拳を突き出してみせた。
「ここで意味を成すのは、俺が強さを求める一戦士だということ、それだけだ」
「要するに戦闘好き、ですか」
 リューインは呟きながら、声音には呆れとも嘆息ともつかぬ色を交える。
「それで狙ってきたわけですね。団長に林道諸共消し飛ばされるのに……」
「そうだね。たしかに強そうだけど……炎“も”従えてるシルの敵ではない。最後に勝負がどうなるかは、見えてるのに」
 陽葉も呟くが、バルスはそれでも構えを解きはしない。
「斃れるまで戦えば、実力も自ずと判るだろう」
「たった一人で、ね。……あなたの戦い方には少し共感するし、嫌いじゃないけれど」
 と、セレスティンは静やかに声を零してから仲間を見回す。
「それでも一人では限界がある。チーム最強説、実証するいい機会だし──それを思い知らせてやるわ」
「いいですねー。勿論手伝いますよー。なんだか暑苦しそうな相手ですしー」
 アイスエルフ的に炎の敵は宿敵ですし、と。クリスタが変わらぬのんびりとした声音で言えば──鳳琴も拳を握り込んでいた。
「ええ。あくまで戦うというのなら、こちらもやることは一つ。私たちの拳で勝つっ!」
 刹那、烈風の如く疾駆した鳳琴は敵の懐へ。真っ直ぐの打突で胸板を抉り込む。
 同時にシルも空へ跳び上がっていた。
「流星の煌めき、受けてみてっ!」
 蒼空より光を描いて降りる蹴撃。鮮烈な衝撃にバルスが後方へ煽られると、陽葉は和弓の弦へ再び指をかけていた。
 瞬間、弾いて鳴らすのは『大地の弓』の調べ。鳴弦の反響が敵の直下の地面を破砕し、噴き上がる土砂で宙へ打ち上げる。
 そこへガトリングガンを向けるのがマークだった。
「TARGET LOCK」
 センサにより彼我の距離と角度、空気抵抗は把握している。
 加えて弾速と予測命中率、効果を計算に入れ、現状の最適解として射撃を選択。視野に真っ直ぐバルスの姿を収めると、機銃の輪転装置を高速駆動させた。
「──OPEN FIRE」
 マズルフラッシュが踊り、重たい発砲音が木々に響く。足元にすら震動を届ける威力で、宙を奔った弾丸は違わず敵の手足を蜂の巣にした。
 血潮と共に焔が弾けて、その力を奪う。
 地に追突したバルスは、それでも蹴りで炎波を撃ってくる、が。マークが身を以て受け止めると、直後にはクリスタが天へ手を差し伸べていた。
「キラキラの守りなんですー」
 きらり、きらり、と。
 雨よりも眩く、雪より細かく、万華鏡のように燦めくのは無数の氷の結晶。
 【クリスタル・カレイドスコープ】──美しき輝きが降り注ぐと、前衛の火傷が優しく癒やされていく。
 同時、リゼリアは地にそっと触れて、嘗ての時代の魂に呼びかけていた。
「この地に眠る死霊達よ、仲間を癒す力を分け与えよ」
 すると足元から一帯の地面が淡く、そして眩く徐々に輝き始める。俄に温かな温度を宿したそれは、次には治癒の陽炎を立ち昇らせていた。
 それが皆を癒やしきると、リューインは既に蒼穹を泳ぐように飛翔している。
「それじゃ、反撃に行くね」
 気づいたバルスが、空へも炎を撃ってくる。
 だが風を掃いて蛇行するリューインは、その全てを紙一重で避けながら肉迫。宙で素早く回転して優美に蹴り落としを見舞った。
 セレスティンは夜色を凝集した魔弾を畳み掛けながら、敵へ声を聞かせる。
「やはり、一人では苦しくなくて?」
「……一人であればこそ、実力が顕になる。真に強ければ、単騎でも集団を討つのだ」
 よろめきながらもバルスは言ってみせるが、セレスティンはそう、と呟いて惑わない。
「貴方にとってはそうなのでしょうね。けれどシルが強いのは、一人じゃないからよ。身を以て知るがいいわ」
 言いながら一歩引くと、そこへ奔り抜けるのがシル、そして鳳琴。
「琴ちゃん、合わせてっ!」
「はいっ! 私たちの双撃、見せましょうっ」
 視線を合わせた二人は枝分かれするようバルスの横へ跳び、挟撃。
「わたし達のコンビネーション、簡単に防げると思わないでっ!」
 挟み込むよう互い違いの廻し蹴りを打ち、敵の体を吹っ飛ばした。
 リゼリアはその方向へボウガンを突きつけている。
「稲妻の如き矢を、食らいなさい!」
 弾ける程に眩く燿くのはエネルギーの矢。
 放たれた『ライトニング・ボウガン』の鏃が敵の体を穿つと──そこへ陽葉も跳躍。暁の如き光を湛えたパイルバンカーで冷気の杭を発射し、傷を抉り貫いた。

●志と絆
 倒れ込むバルスへ、陽葉は斬閃を飛ばして連撃。一時焔の全てを消し去ってしまうほど、敵の体を氷に蝕んでいた。
「炎使いを氷漬けに、なんて意図はなかったんだけど、偶然偶然。いやー、偶然って怖いねー」
 着地しながら、陽葉はあっけらかんと笑んでみせる。
 対してバルスは苦悶しながらも、感嘆の様相を見せていた。
「……、底知れぬ者共よ」
 その声音は何処か、愉しげで。故にこそまだ終わらぬとばかりに立ち上がってくる、が。
「させないよ」
 踏み込んだリューインが光の刃を顕現し一閃、足元を斬り裂いていた。
 体勢を崩したバルスを逃さず、リゼリアは巨大な雷光を抱いた腕を伸ばし一撃、烈しい稲妻で打ち据える。
「さあ、今よ」
「MAXIMUM FIREPOWER──READY」
 弾音のオーケストラを奏でるのは、マークの射撃。二台のガトリングに火を吹かせて僅かの隙間もない衝撃の嵐を齎した。
 バルスは呻きながら、その中をすら這って反撃の拳を振り上げる、が。
「スノーマンさんよろしくですー」
 クリスタが氷の精を喚んで祝福を与えると、魔力の増幅されたセレスティンは三つの弾丸を発射。着弾した空間を冥界へと繋ぎ、裂け目から無数のワタリガラスを召喚していた。
「傷を刻むのはこうするのよ」
 飛び立つ『呪詛食らう烏』は、鋭い嘴で傷と呪いを抉り込む。
 そのままセレスティンが弾丸に囲われた三角形を魔法陣と成して敵を縛ると──続けて奔り込むのが鳳琴。
「これが、培った絆の一撃です──勝負だッ!」
 敵が足掻くように突き出した拳に、正面から打ち当てるように。放つ掌打は『幸家・鳳龍』──龍を成す輝きに鳳凰の如き炎翼を広げさせ、邪の炎を焼き尽くす。
 けれどそれで終わりではない。
 自分達の強さは、個人の力ではなく絆の力だから。
「拳技と魔法の融合、あの技で、決めてくださいっ!」
「うんっ! これで、仕留めて見せるっ! 強敵を打ち破ってきたこの魔法……あなたも目一杯味わってっ!」
 シルは闘気と魔力を左腕に収束させて、目も眩む程の耀きを抱いている。
 鳳琴の拳法を取り入れて完成させたそれは『黄龍六芒収束砲』。
「……一人だったら勝てなかったけど。わたし達は、一人じゃないんだっ!」
 放たれた光は黄龍の形を取って鳳龍と絡み合い、衝撃の奔流となって。バルスを風の中に消し去るように、その命を灼き払っていった。

 涼風が火の粉の残滓も流して、静かな涼しさを運ぶ。
 リューインは見回してから息をついていた。
「終わった、かな?」
「うん。勝てたね」
 陽葉は、判っていたけどね、とでも言うように武器を収める。
 鳳琴は頷きながらもシルへ駆け寄っていた。
「シルさん!」
「大丈夫でしたー??」
 クリスタも歩み寄って尋ねると、シルはうん、と朗らかに応えてみせる。
「みんなのお陰だよ。ありがとねっ!」
 言って、改めて健常な笑顔を見せていた。
 リゼリアも微笑む。
「無事そうでよかったわ」
「そうですねー。……シルさんも、林道も無事でよかったですー」
 クリスタが見やると、地面は灼け焦げている部分もあるが、景色は概ね美しいまま。皆でヒールをかければ、戦いの痕も残らなかった。
 セレスティンは最後に一度吐息する。
「それにしても、変なものに狙われたわね? 暑苦しかったわ……」
「ああ、勝手な奴だったが」
 と、マークは戦場へ一度振り返る。ドラゴン勢力の現状を思えば──。
「もはやあの男には、強さを求めること以外は残されていなかったのかもな」
 だとすれば、全力を以て当たれたことが、せめてもの餞になったろうか。
 シルは少しだけそんな事を心に抱きながら、歩を踏み出す。
「帰ろっか!」
 頬を撫でるのはひんやりとした温度。
 まだまだ冷たくて、けれど爽やかな冬の風を感じながら。シルは皆と共にゆっくりと帰り道へ歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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