●赤い糸
「ふっふっふ。ねえ、楽しみねえ」
くすくすと忍び笑いをした天目・なつみ(ドラゴニアンのガジェッティア・en0271)は、大きな竜の羽根を畳んで、広げて。
デウスエクスたちの利用する強襲型魔空回廊の設置地点。
――デウスエクスの侵略拠点となってしまった『ミッション』地域。
対して。
『ミッション破壊作戦』と呼ばれるケルベロス達の地域開放作戦が、幾度と無く重ねられ。
その成功により数多のミッション地域が、デウスエクスの魔の手より開放されて来た。
しかし。
人の手を一度離れてしまった地域に、再び人が戻るまでには時間が掛かるもので。
「――そこで、アタシ達の出番ってワケね!」
開放されたばかりのミッション地域――熊本県八代市に出向いて、ヒールがてらイベントをしようと言うのが今回の目的なのである。
――熊本県、第二の人口を持つ八代市。
海に隣接するこの市では田園地帯や海岸埋立地に工場が立ち並び。
温泉街が賑わいを見せる、いぐさや晩白柚の生産が盛んな地域である。
「八代市ではね、無形文化遺産にもなっているお祭りがあってね。それに現れる亀蛇――玄武の赤い尾を手に入れると、幸せになるという言い伝えがあるのよ」
毎年11月に行われるその祭りは、神輿や獅子舞、神馬、花馬――神様を模した人形等が一キロも並ぶ大きなお祭りだそうで。
小指に赤い糸を結んだなつみは、小さく首を傾げて笑った。
「今回はその赤い糸を使って、皆でアクセサリを作らせてくれるみたいよ!」
水引を模したアクセサリもきっと可愛いだろう。
タッセル、イヤリング、ネックレスにリング、ブレスレットだって。
皮や石、パーツ等、様々な素材も用意されているらしい。
「……赤い糸、って運命の人とつながっているなんて言うでしょう? ふっふっふ、バレンタインデーの贈り物にもぴったりじゃないかしら?」
きゃー、なんて、楽しげに跳ねたなつみは照れたように首を振って。
「ねえ、ねえ。アナタが素敵なのが作れたら、是非参考までに見せてほしいわ!」
と、ぴかぴかと瞳を瞬かせた。
●
かつて八代はひび割れた焦土と化していた。
「――取り戻したんだね」
呟いたあかりの薬指に揃いの指輪が輝き。
「ほら、糸を括って……『最初の共同作業』ってやつだ」
陣内の諧謔的なウィンク。
耳を揺らしたあかりは、もう、なんて。打ち付けられた釘へとハート型に糸を結ぶ。
――旧い思い出ばかり並ぶ家に、一緒に作ったものを増やしたい、と。
陣内はストリングアートを作ろうと言った。
「そうだ、下にもう二つ釘を打っても良い?」
はたと顔を上げるあかり。
「ん?」
「指輪を引っ掛けられたらなあって」
互いに身に付けられない時でも、二人の帰る場所になるかな、と。
「いいね、さすが女の子だ」
これを飾るのは寝室かな、なんて陣内は頷いた。
「八代はあたしの目を覚まさせてくれた所だから、来たかったの」
吹っ切れた笑顔のひさぎ。地獄の腕はまだ慣れぬけれど作業に没頭すれば気にならない。
「色々あったな」
出会い、別れて、再会して。敵を倒し、島へ、月へ――仇を討った彼女の腕は地獄に。
しかし。その全てに立ち会い、寄り添えた事。
「……俺は、幸運だ」
呟いた清士朗が、道標の猫へ結ぶのは真っ赤なリボン。
耳を揺らし顔を上げたひさぎは、リボンに瞬き重ね。銀に赤を合わせ、結んだ武器飾りを彼へ。
「これからも前へと進んでいけますように、ね?」
「ああ」
きみにあげよう、あげられるものは全て。
――それはきみがくれるものに比べて、ささやかなものかもしれないけれど。
パーツの立ち並ぶ机に、フィーは瞳を輝かせ。
「わー、選びたい放題じゃん!」
「壮観。故にこれは悩む」
瞳を朧に揺らした冰は、糸を手に。
「イケメンで玄人なオレに赤い糸アクセとかピッタリだよなあ」
「んー、治療杖に付ける武器飾りにしようかな……」
調子良くサイファが笑う横で、唸るフィー。
「どれも素敵ですが……僕も武器飾りにしましょうか」
「……こっちを、こう?」
カルナも糸を手に、その横でルイーゼは既に組紐を編み始め。
縁起の良い結びの端をタッセルにして、金具を付ければ。
「うむ、どうだろうか?」
「可愛い!」「白い髪に映えていいな」
ルイーゼがふかふかの髪に髪飾りを添えると。フィーとティアンが声を上げ、カルナが柔く笑んだ。
「二重叶結び……きっと効果覿面なお守りになるかと」
そして彼が結ぶのは梅結び。
「ほー、編み方で随分雰囲気が変わるモンだな」
サイファはモタモタとキーホルダー作り中。
「カルナは花に結ぶのか」
「梅結びには『人と人を繋ぐ』と言う意味があるそうですよ」
「詳しいねぇ」
ティアンが尋ねればカルナが応じ、フィーは感心した様に。
「結びは色々」
ならば、と冰は椿結び。
「結びに意味があるなら、赤い糸は縁の糸。命を繋ぎ止める糸、なんてね」
フィーはくすくす笑って。武器飾りは赤と濃赤の2色を八つ組。白花のチャームを6つ。
「縁の糸はきっと命さえ繋ぐとも」
「加護が宿りますよう」
ティアンとルイーゼも言葉重ね。
「そういえば冰は二つ作るのか」
お揃いという奴だろうかと、ティアン。
「お揃いというべきは、武器飾り」
冰は親友の刀の房飾りを模した赤いタッセルを掲げて。
「あげるのはブレスレット」
「ロマンチックだねぇ、って、ん?」
「あっ!?」
談笑に夢中で、無意識に加速していた指先。サイファの組紐は長く長く。
「……あっ、そーだ、ネックホルダーにしちゃろ!」
「途中でリカバリー出来るとはこれが医者志望の技量……」
ほう、と冰は納得した様子。
ティアンが縁を結んだ者達の色。
零れそうな程繋いだ、色鮮やかな長いビーズ。
「……足りなければいっそ伸ばして、二連造りにしてしまうか?」
「成程、それはいい」
ルイーゼの言葉に、ティアンは掌を小さく打った。
「うーん、少し難しいですわね」
手先の器用さには自信がある方だけど、カトレアは瞳を細めて。
そんな妻の横で素材とにらめっこする克己は、妻以上に難しい顔をしていた。
赤といえば彼女の色、どうせならいつも身に着けられるものが良い。
「お、これは……」
そこに、はたと目に止まったものは――。
「ふふ、克己。プレゼントですわ♪」
形よく仕上がったブレスレットを手したカトレア。
「どうぞ、これでいつでも私が傍にいる事を思い出して下さいませ!」
「……俺もあんまり上手にできなかったけど」
お返しにと克己が差し出したのは、赤薔薇の小さな硝子細工のストラップであった。
「わぁ、大事にしますわ!」
照れる夫にカトレアは花笑んだ。
俺の尾にはゴリヤクはねえぞ、なんてじゃれ合って。
紡ぐは幸せ運ぶ縁起の良い赤い糸。
シズネの唯一編める編み方、三つ編みに。
二人で選んだ橙に青にと移ろう硝子球を、幸福を願って結わえて。
完成したブレスレットを手にシズネは、ふ、とラウルに尋ねた。
「おめぇは運命の赤い糸ってやつ信じてるのか?」
「俺にとって赤い糸は、大切な人と想いを繋ぐ見えない絆だと思っているよ」
首傾ぎ答えるラウルの言葉の意味はよく理解出来なかったけれど。
視線を落とした先、二人の手には揃いのブレスレット。
「君の小指に繋がってる糸の先を辿ってみたいの?」
彼の言葉に。
シズネには不思議と小指に繋がる見えない糸の先が、――見えた気がした。
中国では神様に赤い糸で足を繋がれた二人は、幸せな夫婦になるという伝えがある。
「エルスさん、物知りですね」
幸せの夫婦の絆。目に見えなくとも確りと結んでいたい、なんて。
頬を染めるロゼは紐を編む手を止めて。
「絆の赤い糸、ですね」
編む紐を手にエルスは視線を落としてから、彼女もまた頬を朱に染め。
水晶を繋げて平安祈願の結びを、編み上げた羽織紐。
「わぁ、素敵! 御守りになりそうです!」
「うん、今度こそ、守ることができれば……と、ロゼ様は?」
「わ、私は」
エルスが覗き込めば、赤い指輪。
「素敵じゃないか!」
「こ、こういうのも可愛いかなって……」
――強く確かに結ばれていたい、なんて。
言葉には出来ないけれど。
以前のアレクサンドルならば、赤い糸なんて下らない迷信と意に介さなかっただろう。
しかし今。タッセルを作るイヴァンと並んでいると。――こういうのも悪くは無いかな、と思ってしまうのだ。
「ねぇサーシャ、俺と君とこういう赤い糸でつながってるって……思う?」
イヴァンの呟き。
アレクサンドルは、当たり前過ぎて何を言っているのだ、と瞬き一つ。
その反応にイヴァンの視線が下へと落ち、指先も震えて。
「ヴァニューシャ」
彼の声、握られた手。
「今更の当たり前過ぎ」
顔を上げれば逃れられない魔法を籠められた赤いチョーカーが、イヴァンへと巻き付いた。
「ありがとう、サーシャ」
イヴァンは、そんな魔法に花笑みを。
君が、好き。
隣に居る者に渡す訳では無いけれど、一つ宝石をあしらい指輪を作ろう。
「で。翼、なんで同じような作りになるわけ?」
「和奏こそ」
姉弟は尋ね合い。
「まあ良いけど……翼、誰に渡すの?」
「別に渡す相手がいないから作っちゃいけないって決まりはないだろ? ……そういう和奏こそ誰か渡す奴いるのかよ」
「その言葉そっくり返します、いないのに作ってるのは翼もでしょ?」
だって、あなたは。だって、お前は。
――姉弟なのだから。
「別に、良いだろ」
「そうね」
言い聞かせるように、姉弟は胸裡で言葉を重ねる。
こういう物を渡すべき相手では無い。
赤い糸で結ばれた相手では無いのだと。
これは――いつか渡せる相手が出来た日のために。
「私も赤い糸で結ばれた相手ならいますよ♪」
素敵な旦那さんなのです、なんて糸を選ぶ那岐。
「俺は全く縁がねぇけどな」
それでも繋がっている者達を見る事は楽しい事だと、マクスウェルは肩を竦めて笑って。
「僕らは恩恵を受けてる、よね?」
「そうですね」
頬を染めて尋ねる瑠璃に、沙耶はくすくすと微笑んだ。
「けれど、こういう作業はあまり自信がありませんが……」
「ん、手伝うよ」
長い間洞窟で暮らしていた沙耶が弱音を零せば、瑠璃はスッとフォローに。
ネックレスを作ろう、なんて。二人並んでビーズを数珠繋ぎ。
「今回はイヤリングを作って見ますかねー」
そんな二人の様子に瞳を細めた那岐は――木の葉に編んだ赤い糸に翠石をあしらって。
「意外に糸だけでも色んなもんが作れるんだな」
マクスウェルが完成見本のタッセルを手に呟けば、拳を握った月がコクコクと頷いた。
「本当です、色々できるのですね!」
月はけれど、と。続く言葉は少しばかり言いづらそうに。
「えっと、その……どれが一番簡単でしょうか?」
僕はあんまり器用じゃないので、と言葉ぐ月に。そういえば折り畳み傘があったな、なんて考えていたマクスウェルは瞬き一つ。
「そうな、これなんかは易しそうじゃね?」
示したのは細く編んだブレスレット。
「俺はタッセルを作るつもりだが、サクッと作れるだろうし良かったら手伝うぜ?」
「がんばります、けれど、……とっても頼もしいです!」
頷いた月は微笑み。
二人繋いだネックレスは、夫婦で交換。
――素敵な思い出ができたね、なんて。
月は夏雪と揃いのブレスレット……あともう一つは。
「ナカイさんも良かったら貰って下さい。――ナカイさんと、関わるお客様のご縁、これからもたくさん繋がりますように、なのです!」
「ん、さんく」
月の言葉に、マクスウェルはにっと笑った。
記憶を喪った。それは事実だと白はフィロヴェールへ。
「君の笑顔が……ずっと、苦しかったんだ」
それは以前の白への笑顔だと思っていた。
「けど僕も、君は君の愛してくれた僕として見てくれてるんだね」
「……気づくのが遅いわ」
肩を竦め、ぷいと横を向く彼女。
でもわたしも大切だった人を忘れてしまった、今も少ししか。
「思い出せなくたってわたしはわたし、おかあさんが愛してくれたわたし。記憶がなくたって君は君」
忘れても、重ねたものが失くなる訳じゃない。きみはわたしのだいすきな、きみ。
「……受け取ってくれますか?」
白は赤いリボンを差し出し。
「気づくのが遅いのはわたしもだから」
端を互いの指先に繋いで、笑う。
「言葉も必要?」
結び方のプリントを前に顔を突き合わせ。
「折角の赤い糸ですし、ハート型にするとか……」
自分で提案したというのに、どうにも照れてしまう。
そんなフローネにミチェーリは微笑んで。
「ふふ、今日という日にはぴったりですね」
赤い糸を繋いで結んで、ハートのキーホルダー作り。
「ハッピーバレンタインですよ。どうぞ、ミチェーリ」
「ハッピーバレンタイン、フローネ」
完成した揃いのハートを、互いに交換を重ねれば。
「……ふふ、ありがとう。お揃いですね、嬉しいな」
「……はい。ふたりの絆の証ですね」
青と紫、二人はくすくすと笑い合い。
早速ハートへと繋いだ鍵は、大切な大切な二人の合鍵。
今日という日を、繋ぐ大切な思い出。
「運命の人と繋がる赤い糸なんて、ロマンチックな話だよね」
蔦の葉を揺らすアンセルムは瞳を眇め。
「それでアクセサリーなんて素敵ですよね!」
「赤い尾の方の話は初耳でした、赤くて細いものは何かと縁起が良いのですかねー?」
朗らかに笑う竜矢に、環はふむ、と。
「まあ、僕には運命の人はまだいないのですけれどね」
糸を選別するエルムは小さく肩を竦め。
そんな皆を尻目に遊鬼は愛しき者の為、既に水引きの指輪を編み始めている。
――指輪はまだ早いか?
いいやしかし、縁を結べるなら遅いより早い方が……。
赤に白銀の糸を加え、シンプルな指輪を編み込んで。
「うーん、もう少し盛ってもいいような……」
青い宝石をあしらったブレスレットを前に唸る竜矢。
でも――運命の人なんて分からないから、水晶の欠片を少し並べておこう。
沢山編めば幸せも沢山という訳でも無いけれど、折角ならば長持ちさせたい。
アンセルムはしっかりと編み込んだ丈夫な組紐に、天然石を通して髪紐に。
「ちょっと僕には華やかすぎるかな……? ま、楽しいからいいか」
エルムは赤と白の水引に、ガーネットが咲く大きな花の髪飾り。髪に添えれば、銀が華やかに彩られ。
環は水引状に編んだ紐にタッセルをあしらい、透かし玉をころりと武器飾りへと。
幸運の加護に、皆の元へと帰るための道標にと。
――どんなに振り回しても大丈夫なように、丁寧に丁寧に。
「……で、皆は誰に贈る予定?」
品々を前に、アンセルムは悪戯げな問い。
「えっ、今はいないですねー」
竜矢は首を振り振り。
「自分用ですー」「僕も自分用ですね」
環、エルムも口々に言葉を重ね。
「俺はまぁ、自分用ではないな」
遊鬼はにんまり。
「で、アンちゃんは?」
人に聞けば尋ねられるが道理。
笑ったエルムは写真を一枚、――今日という日の、思い出に。
「ちょっと難しいですけど、アクセサリーを作るのも楽しいですね」
赤のビーズをネックレスに繋ぐバジル。
不器用にも一生懸命、彼の横で涼子はブレスレットを編んで。
「うん。それにバレンタインに赤い色なんて、なんだか素敵だね」
なんて、少し笑って。
やっぱりむむと真剣な表情。
そんな彼女が可愛くて、愛しくて。
出来上がったネックレスをバジルが差し出せば。
「どうぞ、涼子さん。頑張って作ってみましたので、良かったら身に着けて下さい」
「勿論! ボクもプレゼント。……いつまでも一緒に、ね?」
涼子だって同じ気持ち。少し照れながら、ブレスレットを差し出して。
赤い糸でずっと繋がれていたいなんて、考えてしまうのだ。
赤い糸はきっと君に繋がっている、なんて流石に言えはしないけれど。
離れていても、気持ちを傍に。
糸と革を使って、影士は炎のエンブレムを形作り。
贈るならば、彼に触れていられる近さがいい。
シンプルなループタイ、両端に揺れるみょうが結びの中心には、水晶が一つ。
「そんなに洒落た物はした事がないけれど」
「首に下げて、整えるだけだよ」
照れながらもタイを結んで貰った影士に。
最初に付ける栄誉に、玲央も少し照れ笑い。
「ありがとう、似合ってるかな」
「似合うって思うから贈るんだよ」
照れ隠しに、結びの端を突いて。
「こうして赤いと、火の玉みたいに見える気がしない?」
ね、と笑った玲央は、炎のエンブレムを揺らした。
小指が結ぶ、赤い糸。
大切な思い出に、あなたとの縁。全てがふたりの未来に繋がるよう。
あなたとの縁が途切れないよう、円にして。
ふたりの幸せを誓った指の隣に、『約束』の証の指輪を。
節くれ立った指を懸命に動かして。ヴァルカンも指輪を、指輪……。出来上がったのは赤いビースで飾ったブレスレット。それでも想いは一つだと。
「どんな時も君の傍に。例え離れることがあったとしても、この糸で編み上げた輪が俺達を繋いでくれるだろう」
「とても嬉しいわ」
何があっても、傍にいるから。
愛してる。
そうして気持ちを確かめあった二人は――。
「ね、後で温泉街にも寄っていかない?」
「ふむ、一緒に入るか?」
「……え? 一緒に!?」
彼に似合うように。
彼女に似合うように。
「……ネックレスを贈る意味って知ってる?」
問いながら頬を染める有理の事を愛しいと、冬真は思う。
「サクラソウの花言葉を知ってる?」
冬真は答えの代わりに、彼の編みあげるブレスレットの中心に飾られた蜻蛉玉に咲く花の意味を尋ねて。
彼女の小さな手を取り、赤い糸で彼女の小指と自らの小指を結び。
「長続きする愛情、だよ」
「――そっか、おんなじ気持ちだね」
嬉しいな、と笑う有理がまた愛しくて。
視線を交わして、口づけを交わして。
琥珀と金のネックレス。
サクラソウのブレスレット。
これからも、ずっと愛してるよ。
――絆がずっと続きますように、もっと深まりますように。
小指に結んだ赤い組紐はまだ結ばれぬ頃に、感謝の印と夜がくれたもの。
「どうして、わたくしに結んでくれたの?」
「さて、どうしてだろうか。君はどう思う?」
曖昧に夜闇のように掴めぬ言葉。
アイヴォリーは瞳を細めて、少し頬を膨らせて。
あの頃よりずっと器用になった指先で、彼へ梅花結びの飾り紐を結い上げる。
「……恋と識る前から、好きでした。恋と成ってから、もっと」
今も時々夢で無いかと怖くなる。
ならば檻より逃さぬよう、赤い糸で繋いで捉えて。唇を寄せて歯を立てる。
彼女の独占欲に笑う夜。
「……檻に捕らえられるべき猛獣は君の方ではない?」
彼女の横髪を梳いて梅花を飾り。
腕の檻に閉じ込めてしまおうか、なんて。
「望むところ、ですよ」
「なあ、めろ」
チヨはめろを見る。
「どこに、結んでほしい?」
首を傾げためろは、彼と自分の小指に赤い糸を巻いて。
「ふふ、聞くのは野暮だわ?」
雁字搦めに繋いだ手、これならずっと一緒。
「めろに小指をくださる?」
貴方の全てはめろのもので、めろは全て貴方のもの。何度でも聞かせて、聞きたいの。
人々行き交う声の海。赤く絡まる手を引いて彼女だけに届く内緒の声。
「勿論、あげる。そうだな……なんなら全部もらってくれ」
赤い糸。チヨは運命なんて知らないけれど、見える印は気分が良い。
指を絡め直してめろは満足げ。
「運命だろうがなかろうが、めろは、貴方を捕まえるわ」
「ああ、適わないね」
今やそれが、嬉しいなんて。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:46人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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