ヒーリングバレンタイン2020~星空と恋する一夜

作者:塩田多弾砲

 北海道、苫小牧市。
 かつてケルベロス達が、ミッション破壊作戦で解放した、ミッション地域の一つ。
「皆さん、皆さんのおかげで、これまでミッション地域となっていた複数の地域の奪還に成功しました」
 セリカが、君たちに言葉をかける。
「これも、皆さんのおかげです。そこで……一つ提案なんですが……」
 こほんと、咳ばらいを一つしたセリカは、
「奪還した地域の復興も兼ねて、バレンタインのチョコレートを作ってみませんか?」
 そう述べた。

 セリカの提案、それは、
『地域復興を兼ねた、バレンタインのチョコレートの製作』
 セリカが言うには、この提案は、ある一つの計画の実行も兼ねているという。
 解放したミッション地域は、基本住民はいない。
 しかし、引っ越しを予定している者が下見に来ていた梨、ミッション地域の周辺の住民が、見学に着たりする事はある。
 なので、一般人でも参加可能なイベントを行えば、解放したミッション地域の『イメージアップ』にもなるだろう……というわけだ。
 北海道は苫小牧市も、その解放されたミッション地域の一つ。
 今回、そこでバレンタインのチョコレートを製作し、人々に振る舞ったり、人々を楽しませたり、そういった事をできればと計画が立案されたわけだ。

「それで、苫小牧市に関してですが」
 苫小牧市とは、北海道における工業都市で港湾都市。市街地は東西に広がっているが、近郊には勇払平野や活火山の樽前山、ウトナイ湖といった自然が残され、国立公園の区域も含まれている。
 この市街地、旭町の一角に、『苫小牧市科学センター』がある。二階建ての建物二棟で構成されており、それぞれ『本館』と『ミール展示館』。
 本館に展示されているのは、一階は『航空原理およびグライダーや航空計器、エンジンなどの展示物』に、アマチュア無線局。
 二階は、プラネタリウムの他、球の公転、星座、望遠鏡や宇宙開拓歴史、スペースシャトルの模型などが展示。子供の遊ぶスペースもある。
『ミール展示館』の方には、過去に市に寄贈された、旧ソ連の宇宙ステーション『ミール』の貴重な実物予備機が収蔵されている。
 かつては、宇宙や科学に興味を持った老若男女でにぎわっていたが……ミッション地域となってしまい、完全にではなくとも破壊を免れなかった。
 しかし、解放された今。ここをヒールする事で、地域復興、ひいては宇宙科学に関しての復興も見込めるのでは……と、イベントを計画。
 名付けて、

『星空と恋する一夜~宇宙ステーション『ミール』と一緒にバレンタイン』

 ここでバレンタインのチョコレートを作り配布、同時に星空や宇宙に関する事も絡める事で、新たな科学や宇宙のファンも増やし、復興とともに賑わいを取り戻そう。……と、そういう狙いだ。
 宇宙に関する科学館なので、
『星座や星空、宇宙船やロケットなどを象ったチョコの製作』
『星占い師による、星座を絡めた占い』
『ロケットなど、宇宙開発史の講義や体験イベント』
『夜間の天体観察、および星空の下での告白イベント』
 ……と、様々なイベントを予定しているとのこと。

「皆さんには、まず会場のヒールの他、『道具や材料の搬入』『イベントの進行、参加者のお世話』をお願いします。そして……」
 それらの仕事をこなしつつ、皆は『自分の相手に送るプレゼントも作る』ことも行わねばならない。
「私と一緒に、天現寺・麗奈さんも向かう予定です。皆さんも、もしよかったら……宇宙開発に想いを馳せたり、星空を見上げて天体観測したり、星空の下でバレンタインのチョコレートを贈ったり、してみませんか?」


■リプレイ

●キラキラ光る、ヤバげで素敵な天の川
「それではみなさん……、
『星空と恋する一夜~宇宙ステーション「ミール」と一緒にバレンタイン』
 開始します!」
 セリカの一声が『苫小牧市科学センター』の特設会場に響き、
 恋人たちのイベントが始まった。
 既に、ケルベロス全員でのヒールは済んでいた。
 これからは、皆で楽しむ時間。
 科学センター側からは、マスコットキャラ、『サイくん』『エンくん』『スーちゃん』の三体の着ぐるみの姿も。
 ケルベロスの主催者側、スタッフ側には、セリカの他、天現寺・麗奈(地球人の妖剣士・en0313)と、弓月・永凛(サキュバスのウィッチドクター・e26019)の姿もある。いつもは裸の永凛だが、流石に衆人環視の中では色々よろしくないため、コートを羽織っていた。
「……麗奈さん……」
 永凛は、麗奈へと目を向けていた。何事もないように振る舞っていたが、
(「……頑張っているのはわかるけど、どこか……痛々しいわね」)
 永凛の目には、そう映っていた。
「ようこそ! 星座、好きなんですか? 好きなんですね! 私もです!」
 見られているのを知ってか知らずか、麗奈は忙しく動き回っている。
「館内の特設会場では、『チョコレート作り』が行われます。ぜひ皆様、ご参加を!」
 セリカが来客たちを、科学センター館内へと誘った。

『科学センター』は、西館とミール館の二棟で構成されている。
 奥側にあるのは、宇宙ステーション『ミール』の予備機が常設展示されている、『ミール展示館』。
 手前側、北東へ伸びる大きな建物は『西館』。
 壁に設置された壁画『芽の出る音』に見守られつつ中に入ると、すぐに一階の展示室。
 展示室中央には二階への階段があり、上ると、『プラネタリウム』が隣接する、二階展示室に。
 その二階展示室の奥へ進むと、第一および第二『実験室』のフロアに辿り着く。
 チョコレート製作の特設会場は、それら二階の実験室二部屋に設置されていた。
 第一実験室会場では。三人のケルベロスが『作る側』で参加中。
「そ、それでは……よろしくお願いします、ね?」
 赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)が、メイド二人に教えを乞う。
「『ブラウニー』や『ガトーショコラ』も良いですが……」
 メイドの片方、胸元がV字に開いたメイド服を着た方の、秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)と、
「今日は、基本かつ簡単に作れる、『トリュフチョコ』を作りましょう!」
 メイドのもう片方、胸元がいつもより多く見えるメイド服を着た方の、翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)が提案し、それを実行。湯煎にかけるチョコレートを、細かく刻み始めていた。
 第二実験室会場では、
「ね、どんなチョコを作るです?」
 叢雲・紗綾(無邪気な兇弾・e05565)が、
「ふっふっふ、後でのお楽しみなのだよ!」
 叢雲・蓮(無常迅速・e00144)とともに、同じくチョコレートを湯煎で溶かしていた。

 その頃、
「ふう、それでは……って、あれ? お姉ちゃんは?」
 草薙・桜依(見習い巫女・e61789)が、屋外にてヒール後に、
「桜依よ、ちょっと向こうをヒールしに行くぞよ。あやつなら大丈夫じゃろう」
 草薙・大神(草薙神社の主神・e39759)に連れられていた。
 しかし、
「だめですよ! きっと……あの人に騙されて、一緒にデートさせられてるにちがいありません!」
 などと確信する桜依。
 その予想通り、
「この、南の夜空の三つの星……小犬座プロキオン、大犬座シリウス、そして、オリオン座ベテルギウス。これらが……『冬の大三角』と呼ばれているのよ」
 湯上・伊織(ゆがみちゃんは歪みない・e24969)。美少女にしか見えない彼が、二階に常設展示されている『大型星座早見盤』を用い、草薙・美珠(退魔巫女・e33570)に説明していた。
「そうなんですか。冬の夜空を見上げた時……星座を意識した事はありませんでした」
 そう言う美珠に、伊織は星を指し示す。
「ほら、この三つ並んだ星。これがオリオン座。この周りにあるのが……双子座に牡牛座、そして御者座。さっきのプロキオンとシリウスに加えて、ふたご座のポルックス、御者座のカペラ、牡牛座アルデバラン、そしてオリオン座のリゲルって星を順に並べていくと……」
 早見盤の夜空に、巨大な六角形が浮かび上がった。
「……これが『冬のダイヤモンド』と呼ばれてるのよ」
「へぇ……伊織さん、星や星座に詳しいんですね。私、そういうものには疎くて」
「実物を見たら、きっと気に入ると思うわよ。丁度……プラネタリウムで説明するようだから、一緒に見ましょう?」
「ええ。でも……はぐれてしまった桜依ちゃんや神様は……」
「大丈夫、きっと二人は二人で楽しんでるわよ」
 プラネタリウムへ、美珠を連れて入る伊織。
 その様子は、
(「くふふ、狛犬にカメラ持たせて盗撮……じゃなく、見守りしてたら、案の定じゃ。伊織よ、そのまま襲ってもよいのじゃぞ?」)
 美しい星や星座とは真逆の、神の邪念を受けたサーヴァントにより撮影されていた。

●今日のチョコは、クバント(量子)のように小さく溶けて流れる
 第一実験室会場。
「……うん、いい味!」
 結乃が、指先に溶けたチョコを付けて味見。
(「ふふっ、完成したチョコを、いちごお嬢様と結乃さんが、互いに贈られたら……きっときっと、お二人とも喜んで、あんなことやこんなことを……」)
 水咲もそれを見て、つい顔が緩む。
「お嬢様、とっても甘いですよ」
 指先にちょっとついたチョコを、
「れろっ……本当だ、美味しいデスっ」
 じゃあ、私のも……と、いちごが同様にしようとしたら、
「あ、お嬢様。口元についてますよ」
 先刻にワザと結乃が付けたチョコが、いちごの口元を汚していた。
 そのまま「ほぼキスするかのように」……結乃は自身の口を近づけ、ぺろっと舐めとる。
「ふえっ!? ふええ……」
 その様子は、
「って、結乃さん!?」
 水咲もしっかり見ていた。そして反射的に彼女は、いちごの、結乃が舐めた口元の反対側に、
「ぺろっ……」
 舌を這わせ、チョコの汚れも無いのに舐めとった。
 そして、いちごは、
「……え、えと……じゃ、私も……」
 赤面しつつ、水咲の大きく開いた胸元へ、顔を近づける。
「ええっ!? お嬢様何を……ひゃあんっ!」
 水咲の胸の、露わになった谷間。そこにいつの間にかこぼれた、溶けたチョコ。いちごはそれを舐めとっていく。
「……いちごさん、水咲さん、こぼしちゃったー!」
 と、結乃もワザとらしく口に出してみるが、
「……あの、スイマセン。そういう事はちょっと……」
 と、主催者側から注意されるのだった。

 同じ頃。第二実験室会場では。
「……できたですっ」
 紗綾と、
「こっちも、できたのだよ」
 蓮とが、自身のチョコを完成させていた。
「紗綾姉は、どんな感じのチョコレートなのかな?」
「じゃあ、一緒に見せるです」
 いっせーの、せっ……で、二人は互いのチョコを……、
 互いへと、贈り合った。
「……蓮くんのチョコは、ロケットに、スペースシャトルに……UFOに、これは?」
「グレー色の宇宙人だよ。紗綾姉のは……星形に、三日月形か。きれいにできてるんだよ」
「はい、あーん」
 紗綾は一つつまむと、それを蓮の口元に持って行く。
「じゃあ、こっちも……あーん」
 蓮も同じように、アダムスキー型UFO型チョコをつまみ、紗綾の口元へ。
 互いのチョコの甘い味が、互いの口中いっぱいに広がり……、
「……おいしい!」
 全く同じ内容の感想を、互いへと述べるのだった。
 ……口中のみならず、胸中にも甘さを覚えつつ。

「神様っ!」
 ミール館内では、
「いけませんっ、あの伊織さんは間違いなく肉食獣! お姉ちゃんなんかころっとだまされて、その毒牙にかけられてしまいますっ!」
 慌てふためく桜依に対し、大神は。
「野暮なことはするでない。ほれ、『ミール』でも見ようではないか。この説明によると、86年二月に打ち上げられ、三月から宇宙飛行士が滞在するようになったそうじゃ。ミールは六つのモジュールで構成され、ここに展示されてるのは基幹モジュール『ミール』と、天体物理観測モジュール『クバント』だそうじゃぞ?」
 と、あからさまにゴマかそうとする。
 桜依は、
「……へえ、ミールは『平和』、クバントは『量子』という意味なんですか。96年まで使われて、廃棄が決定後の2001年3月に、ニュージーランド沖に落下したんですね……」
 と、ゴマかされそうになったものの、
「……って、神様っ!? なんで邪魔をするんですかっ!? まさか豚妖魔みたく、伊織さんにお姉ちゃんを襲わせるおつもりですかっ!?」
「ちっ、ばれたか。桜依よ、悪いが邪魔させるわけにはいかんのじゃっ! 妾の『女子大生巫女と男の娘の淫らな夜』の撮影のためになっ!」
 などと、『アンタ本当に神様かい』と周囲から突っ込まれる発言しつつ、大神は身構えるが、
「そんなことはさせません! たとえ神様でも、容赦しません!」
 と、桜依も半ばマジモード。
 かくして数分後。
「ぐっ……桜依め、いつの間にか、強く……」
 偶然通りかかった女子大生の太ももをガン見してる隙を突かれ、大神は敗北。
 しかし、桜依の放った退魔術は、展示されてたミールに直撃し大破。
 再びヒールする羽目になったのは、言うまでもない。

●ギリシャ神話のヒーローたちが、見下ろす地球の恋人たち
 とかなんとかあって、夜。
 連と紗綾は、外で天体観測。二人で寄り添い望遠鏡をのぞいていた。
 寒さの中、紗綾は、
「あっ、見つけた! 双子座! カストルと、ポルックス。カストルの方が二等星で、ちょっと暗いんですね。それに……」
 双子座の神話を語る、紗綾。
 カストルとポルックスの双子は、それぞれ馬術と拳闘の天才。しかし兄のカストルが戦争で落命した後、二人は神の手により星座となって、永遠に一緒にいられるようになった、という。
「そうなんだね。夜空で、ずっと一緒なんて……ちょっと、羨ましいんだよ」
 蓮の言葉に、
「うん……きゃっ」
 紗綾は相槌を打ち、そして……ちょっと驚いた。
 蓮が、後ろから……ぎゅっと抱きしめてきたのだ。
「……もう、紗綾よりおっきくなったんですね」
 そっと、抱きしめる腕に、手を添える。
「……紗綾姉」
「……ふふっ、すっかり男らしくなって。素敵、です……♪」
 空を仰ぐと、そこには……双子座の二つの星が。
 双子たちのように、二人も、
 互いに互いの、そのぬくもりを感じ取る。寒さの中、二人はそのまま、星に見守られつつ、一つになっていた。

 そこからあまり離れていない場所でも、天体望遠鏡を覗く、カップルが一組。
「わ、わ、本当に星が三つ並んでます! あれがオリオン座なんですね! とっても……」
 綺麗です。美珠は興奮を隠さず、伊織に言う。
「……? 伊織さん、どうされました?」
 返答せず、自分をじっと見つめる伊織に、美珠は問いかけると、
「いや……星空より、美珠ちゃんの方が、綺麗だなって。そんな綺麗な美珠ちゃんのこと……私、好きよー?」
 やや軽めの口調で、しかし真剣なまなざしで、伊織は答えた。
「? 私も伊織さんのこと好きですし、伊織さんの方が綺麗ですよ?」
 美珠が、疑問符とともに伊織の言葉に答えると、
「ふふっ。美珠ちゃんだったらそう言うと思った。じゃあさ……」
「? あっ……」
 今度は、言葉ではなく、行動で気持ちを伝えようと、
 伊織は、美珠を抱き寄せた。
「あ、あのっ……」
 このような行動を取られて、色恋を連想できないほど、美珠は鈍くも初心でもない。なにせ、既に望まない形ではあるが、肌を重ねる事は何度も経験しているのだから。
「……目、閉じて?」
 伊織に言われるがままに、瞼を閉じる。
 美珠の唇に、唇が重ねられる感触が。更に、自分の胸に、ささやかな膨らみに、伊織の手が当たり、さわさわ……と撫でまわされ、服の上から揉まれるのを知った。
「……あっ」
「ふふっ……この続きは……」
 ホテル、でね? 耳元で囁かれ、美珠は、
 自分の耳が、熱くなるのを感じていた。

「……麗奈ちゃん」
「……あ、お姉さま。フォローありがとうございました。おかげで、助かりましたよ」
 永凛らも、一休みを。本館内の従業員の休憩室。そこで二人は、休んでいた。
「その、最近はどう? ええと、お家の事、とか……」
 永凛の問いに、
「大丈夫ですよ、実家の事は、ご心配なく。麗美姉さまの治療費や税金、お屋敷の管理、メイドさんたちのお給金などは、お父様の会社の専属弁護士さんがして下さってます。お父様の昔からの親友で、私や麗美姉さまとも、よく遊んで頂きました」
 あえて明るい口調で、麗奈は答えた。
「……もし、麗美姉さまが元に戻らなかったら……私が成人した時に、全て引き継ぐことになります。もし……戻らなかったら……」
 その明るい口調は、すぐに落ち込んだそれに。
「ごめんなさい。嫌な事を聞いてしまったわね」
「いいえ、大丈夫ですよ。そ、それよりも。お姉様こそ珍しいですね、いつもハダカなのに」
 無理を感じさせつつ、麗奈は口調を明るく戻す。
「……もう一つ、聞きたい事があるの。いいかしら?」
 ここは人の気配が多い。だから……、
 永凛は麗奈の手を取り、外へ、そして離れた場所へ、彼女を連れ出した。

●無限大に広がる、宇宙の片隅で……
「伊織さんーっ、なにお姉ちゃんをホテルに連れ込もうとしてるんですかーっ!」
 ラブなホテルの前にて、
「桜依ちゃん?」
「ありゃ、見つかっちゃったかー。てへっ」
 美珠を連れた伊織は、悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「てへっ、じゃないです! お姉ちゃんも! 伊織さんに豚妖魔みたいな事されたいんですかーっ!」
 桜依の追及に、
「な、何言ってるんですか! あんな気持ちいい……じゃなくて、おぞましい事、されたくないです!」
 大慌てする美珠。
「まあまあ。じゃ、桜依ちゃんも一緒に、ね?」
 にやり……とする伊織に、
「一緒に? ……お姉ちゃんは、私が守ります!」
 決意し、ホテル内に一緒に入る桜依と、
「? 桜依ちゃんも、一緒ですか? ではお泊り会ですね。皆でマクラ投げ、とかいう遊びをしましょう」
 と、どこか分かってない様子。
「……のう伊織よ。美珠、わかってない様子じゃのー? えっちの経験は結構あるんじゃが」
 そんな美珠へ、いつの間にか現れほくそ笑む大神に、
「ですねー。でも、そこを色々と調教……もとい、自分色に染めていくのも、なかなかオツなもんですよ?」
 同じくほくそ笑む伊織であった。
 かくして、四人で一部屋を取り、
 本当に枕投げして、体力が尽きて眠り込んだ桜依と大神に毛布を掛けた後。
「……伊織、さん」
 恥ずかしげに、美珠は……、
「初めてなので……優しく、お願いしますね?」
 伊織に対し、羞恥の表情とともに……向かっていった。

 同じホテルの、別の一室。
 プラネタリウムのように、星々が天井に投影されている部屋では。
「……永凛、お姉様……」
「麗奈ちゃん、見ての通り……私は、『サキュバス』です」
 永凛がいつもの裸体を、麗奈へと見せていた。角と尻尾、翼を出し、見せつけている。
「サキュバスとして、私は欲望に忠実に従い、今日までずっと快楽エネルギーを貪り続けてきました。あなたと初めて、肌を重ねた時も……欲望に従っての事です」
「…………」
 黙ったままの麗奈に、永凛は更に言葉を続ける。
「これが、私です。こんな私には、麗奈ちゃんの求める愛を、与えられないかもしれない。いいえ、それどころか……私の愛は、今までの麗奈ちゃんを壊してしまうかもしれない」
 それでも……と、永凛は両手を広げ、目を閉じた。
「それでも、私の愛を受け入れてくれますか……?」
 自分なりに、『誠実』であろうと努めた。後は……麗奈の返答を待つのみ。
 しばらくの、沈黙ののち、
「……なんとなく、気付いてました。永凛お姉さまが、サキュバスだって事は」
 永凛は、自分に抱きつく、麗奈の感触を知った。
「初めての時、ちょっと無理やりでしたけど……あの時、お姉様の事……この世で一番綺麗だと思いました。きっと、あの時から私は……お姉様に恋してたんだと思います」
 そのまま麗奈は、永凛の両胸に顔を埋める。
「私も、お姉様が欲しい。だから……身も心も、私は、天現寺麗奈は……永凛お姉様のものだという『証』を……私に下さい。お姉様の愛を、受け止めさせてください。その『証』さえあれば……」
 私は、「安心」できる。不安に思う未来を切り開ける『強さ』が得られる、そう思います。
 そう言って、麗奈は視線を、永凛に向けた。
「……わかったわ。それじゃあ……」
 永凛は、小さなチョコレートを口にくわえ、口移しで……。麗奈の口へ含ませた。
「んっ? ……お、お姉様。このチョコ……」
 入っていた媚薬は、即効性。早速効き始めたようだ。
 麗奈の服を、丁寧に脱がせ……永凛はベッドに、ともに横たわる。
「今、だけは……」
 今だけは、すべての悲しい気持ちを、忘れられるように……。
 麗奈へ快感を、快楽を与えんと。永凛は愛しさを込めつつ、愛撫し始める。
 愛し合う者たちを見守るかのように、星々は煌めき続けていた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:10人
結果:成功!
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