強そうな服は実際強いのであります!

作者:久澄零太

 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は脱いでいた。

 ……いや、わけがわからないとは思うが俺にも分からないんだ、最後まで話を聞いてくれ。
「この冷たい空気……やはり全裸は冬の夜のビルの上に限りますね」
 ごめん、聞いてもわからなかった。
「しかしこの凍て刺すような空気……冷え込むだけではありませんね。そうでしょう?」
 誰もいないはずの夜闇に問えば、物陰から姿を見せたのは軍服に身を包んだビルシャナ。
「ならぬ、なりませぬぞそこの御仁!」
 怒りに打ち震えるビルシャナは白手袋をはめた手羽先を握りしめ、突如新たな軍服を構える。
「女子たるもの身に纏うべきは軍服一択! しかし貴女はどうだ、軍服を着ていないどころか全裸ですと!? そのような姿が許されようかいやありますまい!!」
「ならば、どうしますか?」
 返答を聞くまでもないと、蛇のように脚から這い上がる鎖を両腕に巻いて、シスカが微笑めば。
「無論、軍服を着て頂くであります。たとえ御身の命に代えようとも……!」

「みんな変態だよ! ヴェルランドさんと連絡がつかないの!!」
 とりあえず緊急事態なのは確からしいが、ナニを見たのか大神・ユキ(鉄拳制裁のヘリオライダー・en0168)はとんでもないタイミングで言い間違えるが気づかない。
「あ、ごめんね、実はヴェルランドさんが軍服女子こそ至高ってビルシャナに襲撃されるって分かったんだけど、連絡がつかなくて……すぐに飛んで欲しいの!」
 その話を聞いた時点で、ヘリポートに向かう番犬たちの横を走りながらユキが続けるには。
「敵は接近戦が得意で、真正面から殴り合うのは危ないんだけど、離れたら離れたで隠し持ってた拳銃で速くて正確な射撃をしてくるの。女の子相手になんとしても軍服を着せようとするなんかネタっぽいビルシャナだけど、強敵だから気をつけて!」
「強者との戦いと聞いてな、今回は私も同行しよう」
 ヘリポートには既にブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)が待機しており、ヘリオンは飛行準備を完了済。乗り込んでいく番犬達へユキが続けたのは。
「相手はビルシャナだから教義に反する事……軍服以外の格好の良さを語ると意識を引けるみたい。盾役の人はこれを使って!」
 ヘリオン内にはズラリと並ぶ衣装カート。戦場が時折強い風の服ビルの屋上である事まで考えて服を選ぶ必要があるだろう。
「みんな、準備はいい!? 着替える人は転ばないように気をつけてね!!」
 ヘリオライダーの口早な注意と共に、番犬を乗せた輸送機が夜空へと舞い上がる。


参加者
日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ


「ありのままに話すよ……」
 太陽機の中で、エヴァリーナ・ノーチェ(泡にはならない人魚姫・e20455)はその胸中を語る。
「ユキちゃんの招集って聞いて大急ぎで美味しいモノ食べに太陽機飛び乗ったら、全裸とか強制お着換えとか変態なお話になってた……何を言っているのか」
 ブツッ、彼女の記録はここで途切れている。
「エヴァ、誤解を招く事を口にするものではないわ」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)に窘められ、エヴァリーナはむくれて半眼に。
「だってぇ…… あ、ユキちゃん、お仕事あがりにいいお店は?」
「ないよ!?」
「じゃあこれで我慢するしかないか……」
 エヴァリーナがユキのお弁当バッグを開けてみると、ストロベリータルトが。
「え、なにこれすごい……苺が輝いてる……」
「それ私のオヤツ!」
「そうなの?」もぐぅ。
 口内に広がる爽やかな酸味の後に、それを追いかける強い甘味。刺激的な果実の香りを表面に塗られたシロップがマイルドに仕立ててサクサクのタルト生地に塗られたカスタードが滑らかな舌触りを生む。
「おかわり!」
「それ一個しかないのに……」
 すっかり意気消沈したユキの肩を、アウレリアがぽむん。
「エヴァが迷惑をお掛けしてごめんなさいね。お詫びに私のおやつをお分けするわ」
「わーありがとー」
 真っ赤な刺激物を前に遠い目をするユキへ、リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)がガサリ。
「おやつのお徳用チョコイチゴ味は渡さない……ちょっとなら、わけたげるけど」
 ユキに同情したリティが大袋を開けた瞬間。
「いただきまーす!!」
「って、ごっそりモシャアされた」
 横からエヴァリーナがかっさらう。無表情ながら不機嫌そうなリティは……。
「新しい袋出そう」
 まだあるんかい!
「わーいおかわりー!!」
「これは私の、絶対に譲れない」
 リティとエヴァリーナの攻防が始まった所で、ユキがにゃまり。エヴァリーナが腕を伸ばした瞬間、下に潜り込んで背負い投げると、受け身をとらせる形で尻から落とし、片手でエヴァリーナの両手首を押さえこむ。
「お腹空いてるんだよね?」
「あ、待ってユキちゃんそれはダメ、本当にダメ……」
 ユキがにっこりと構えたのは、さっき貰った赤い菓子。
「はい、あーん♪」
「いやぁ!?」

 ▼エヴァは力尽きた!

「って、そろそろ降下地点だよ!」
 現在地に気づいたユキに、日柳・蒼眞(うにうにマスター・e00793)がダイブ!
「うにゃー!?」
「悪いな大神、今日の俺は一味違う!」
 反射的に蹴りを放つユキだが、直撃した瞬間に依頼用に着てきた蒼眞の武者鎧がパァン!更に蒼眞を射出して平面(意味深)に飛び込み。
「うん、フルフラット!」
「この……」
 喉を抉る膝蹴りが蒼眞を浮かす!
「ド変態ー!!」
「あばばばば!?」
 バラけた鎧を蹴り飛ばして最後に本人をシューッ!
「……ここまでなら、いつも通りなんですけどね」
 ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は口から白煙を上げて気絶したエヴァリーナに半眼を向けつつ、落下した蒼眞を見送ると胸の前で拳を握り、頬を寄せてきたナメビスの喉元を撫でる。
「嫌な予感がします……気を引き締めていきましょう」


「うぅむ……命は惜しいですが、着る物を強制されるのは嫌ですね……どうしたものかなぁ」
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)はビルの屋上で手すりを足場にアクロバット。レールの上を転がる大車輪人形のように迫る軍服を躱していた。
「一度着ればこの強みが分かるはずであります!」
 息を荒げる鳥オバケと、内心焦るシフカ。
(咄嗟に構えたせいで、活性が一部狂いましたね……)
 初手で動きを封じる鎖を伸ばそうとして、違う物を構えたと気づくが時既に遅し。せめて外套の一枚でも羽織っておけば違っただろうか……見やった衣服の向こう、物陰で虚ろ目を向ける者がいる。
「また、シフカが、全裸で……?」
「あ、救援ですか?割と死ぬか否かの瀬戸際なので手を貸して頂けると幸いです」
「精神的にくる感じじゃなく、本当にピンチなわけね。OKOK。思いっきり敵をぶっ飛ばせばいいわけだな」
 セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)の姿を見て胸を撫で揺らすシフカに、セルリアンは四肢に雷を纏う。しかし全裸のシフカを見てこの反応、全裸を見慣れるくらいには苦労してるんだな……。
「全員無事に帰ることを目標に頑張るかね」
 蒼雷による電磁浮遊で滑り、セルリアンは鳥オバケの懐に潜り込むが、伸ばした拳は翼で弾かれて。
「野郎に用はない」
「悪いね、こっちにはあるんだ」
 拳をいなされその慣性のままにバックハンド。しかし裏拳を肘に翼を当てる事で止められ、関節技に移行しようとする異形へその翼を支点にして跳ね上がり、頭上から霹靂のトーキック。咄嗟にセルリアンの体を投げて緊急回避する異形と雷撃を纏った青年が睨みあい……視線を遮る様に一枚の花弁が舞い降りる。
「桜……?」
 薄紅の花弁に異形が目を細めれば、はらり。ビル風に舞い上がられた桜の花弁が周囲に舞って、冬とは思えぬ熱を運ぶ。
「桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ」
「!」
 それは無機物の塔の隙間を駆ける風の声か、業火の熱か。瞬く間に燃え盛る無数の花弁の中、羽毛を焦がした鳥オバケの前で天司・桜子(桜花絢爛・e20368)はその身を桜吹雪で包み狙いを定めていた。
「軍服だから強い、かぁ。何とも単純な考えだね。そんな恰好で強くなれるのなら、誰も苦労しないよ」
「ならば貴殿も着てみればいいのであります……!」
「この寒空の下で着替えさせたら風邪をひく。お色直しはご遠慮願おうか!」
 再びセルリアンと鳥オバケの拳の往来が始まった所で、空から降って来たのは、奴。
「あばっ!?」
 顔面から落下した蒼眞の上に、甲冑がゴツゴツ、エヴァリーナがドーン。
「何あれ!?全然見えないんだけど……!」
 セルリアンとビルシャナの動きについていけないエヴァリーナは両手を重ねる。
「星の雫を纏いて生命を歌う、風と光に舞う薄羽、小さき友よ。水面に落ちる花弁の様に祝福のキスを降らして……」
 ポタリ。一滴の魔力が零れ、コンクリートの上を滑り、輝ける魔法円を描き無数の光を巻き上げた。小妖精を思わせるそれは、羽ばたくように舞い踊り、部隊前衛へとその身を降ろす。
(……何故かしら、敵の方が常識的な存在に見えてしまうわ)
 内心そんな事を思うアウレリアはそっと腕を組み。
「軍服は基本的に平常勤務と儀礼に用いられるもので戦闘用ではないわ。戦う時には戦闘服や鎧装が相応しいのではなくて?」
「はぁ?」
 異形の意識がアウレリアに向いた瞬間、セルリアンが大きく踏み込み打ち上げようとするが、異形は身を捻って躱し、伸びた彼の胴体へ掌底を叩きこみ、屋上へのドアにぶつけて瓦礫の中に沈めてしまう。
「戦意を奮わせるのであれば己の心が望むものが相応しく、私の戦闘服は常に黒いドレスだけれど、これは死に分かたれる事なく死を分かつて共に在ると誓った夫への愛の証……何より私の意思を奮い立たせる装束よ」
 アルベルトがアウレリアの肩に手を乗せて、その指先にアウレリアが自分のそれを重ねる。死した者と機械人形。温もりが通う事はないけれど、アウレリアの胸中には確かに燃え盛るモノがあった。
「それに軍服はそもそも特定の軍隊の所属と階級を示す為の物よ。所属等ないビルシャナが軍服だけ纏った所で、コスチュームプレイでしかないのではないかしら」
 それを口にした瞬間、アウレリアの体は横に吹っ飛ばされていた。倒れ込み、顔を上げれば自分を突き飛ばした夫が、胸を異形の翼に打ち抜かれて消えていく。
「貴殿も軍服嫁になれば分かるであります……!」
「一撃……!?」
 リティしか盾にならない事を察したビスマスは白い大型貝の装甲を緊急展開。
「リティさん、申し訳ありませんが、時間稼ぎをお願いします!」
「任されたわ」
 ナース服で参戦したリティはチェーンソーのエンジンをかけて。
「一目で優しい癒し系とわかるナース服こそ至高。優しいだけじゃなく、おいたする患者さんにはお仕置きだ」
 ウィンクするリティだが、無表情なせいで謎のミスマッチ。でも鳥さんはプッツン。
「衛生兵なら軍服でありましょうが!!」
「永劫桜花よ、敵を絡み取ってあげなさい!」
 リティに意識が向いた隙に桜子に応えて床を割り、桜の根が伸びて異形を絡めとるが、床ごと桜を抉り抜いた異形は桜子を見据える。
「邪魔でありまぁす!!」
 捕縛の為に伸ばした桜の根と巻き込んだ建材の塊を振るい、桜子を叩き潰そうとするビルシャナを前にリティが飛び込み、受け止めるものの。
「さすがに、重い……!」
 下の階へ叩き落とされてしまった。
「火力が洒落にならないわね……」
 眉を潜め、アウレリアが発砲。弾丸が手羽先を穿ち、怯んだ事で瓦礫塊が枷となってその身を戒めるが、まだ足りない。
「邪魔をするでありますか……!」
「おっとそいつは置いておいてもらおうか!」
 翼に蒼眞が刀を投擲、突き刺さった柄を蹴り飛ばして瓦礫塊を縫いとめて、抜き取りながらすり抜けて反撃を許さない。
「クソ野郎が……!」
 反転しようとした異形の翼を、シフカの鎖が絡めとり。
「逆に、あなたも脱いでみればいいのでは?」
 ゴキリ、圧が翼の骨をへし折った。


「女子が軍服を脱ぐなぞ……!」
 あらぬ動きをする翼を桜の拘束から引き抜いた異形へ、セルリアンが瓦礫を吹き飛ばして肉薄。
「ならば軍服のまま倒れればいい」
「貴様が軍服を語るな小童!」
 同時に振るわれた拳だが、雷撃より先に翼撃が番犬の体を捉え、屋上の手すりに叩き付けると銃を抜いた。
「目障りなハエめ、死ね」
「なみゅー!」
 乾いた銃声に血飛沫が上がり、弁当箱竜が腹に穴を開けて消えていく。
「ごめんなさい、ナメビスくん……!」
 相棒の消滅を確認したビスマスだが、まだだ。せめて一撃でも耐える為に、その身を殻で包み込む。
「正直、厳しいわね」
 雷鞭を伸ばし、屋上へ復帰したリティだが回路が一部ショートしているのか、皮膚がスパーク。
「リティさん生きてる!?」
「ギリギリね……」
 エヴァリーナが駆け寄り容体を見るや否や、内部機関まで破損が及んでいる事を察して緊急施術。
「中身が義姉さんと一緒だといいんだけど……!」
 不安と共に疑似皮膚を裂くが、筋肉がモーター、血管が重力鎖伝達回路、神経が配線に代わっているだけで人間とそう変わらない。破砕された回路を取り除いて自身の重力鎖で編んだワイヤーを繋ぎ、循環を再開させて皮膚を閉じる。
「一応戦えるけど、応急処置だから無理はしないでね!」
「その指示は守れそうにないわ」
 エヴァリーナを下がらせたリティの前で、跳ね起き、異形に殴りかかるセルリアンだが、その拳をいなして手首を掴み、ブン投げた異形。リティは飛来するセルリアンを避けるどころか雷鞭で絡めとって投げ返す暴挙に出た。
「これならどうだ……!」
 リティの雷の鞭から受けた電流を脚に集中、その身を青い稲妻の鏃に変えて飛来。セルリアンの突撃に、異形が片翼を焦がし、肉が爛れる焦血臭と黒煙を上げながらも彼の脚を掴むと床に叩き付ける。
「カハッ……!」
 脱力した四肢から雷を霧散させるセルリアンを捨て置いて、異形はリティへ狙い。
「何故ナース服なぞと貧弱なものを選ぶでありますか!」
「戦士とて、医療現場でくらい戦場を忘れたいのよ」
 迫る異形を前に取り落としていた駆動刃を蹴り上げるリティ。振り下ろした刃を、異形は肩で受けて。
「モロに受けた……?」
「時には捨て身になる事も必須。軍服とは、その覚悟の顕れであります!」
 回転する刃に肉を抉られながら、異形の拳がリティの体を吹き飛ばして落下防止の手すりを変形させながら、彼女の全身に電流を走らせる。
「今ので制御系が逝ったか……でも、まだ戦え……」
「終わりであります」
 リティの顔面に異形の拳が叩き込まれ、金属柵諸共ビルの下へ。遥か遠くで人体が潰れる音を聞きながら、桜子は桜の幹に竜の頭を象らせて。
「終わるのはあなたの方だよ!」
 確かに片翼は折れ、その肩からは血が垂れ流しだが、その目はまだ死んでいない。
「このハンマーで、叩き潰してあげるよ!」
 振りかぶった瞬間には既に異形は桜子の前に。
「軍服であればもっと速かったでありましょうに」
 竜鎚が振るわれるより先に、桜子の胴体を異形の拳が打ち抜いてその意識を吹き飛ばしてしまった。
(単純火力系ね……)
 敵の攻撃特性を見やり、アウレリアはそっと瞳を閉じる。
「じゃあ、次に繋ぐとしましょうか」
 盾役に従属持ちが入った時点で、即死は覚悟していた。
「アルベルト……」
 小さく呟き、見せる歩法は見せぬ足取り。音も無く、気配もさせずに異形の側面に回り込んだアウレリアは、その手を伸ばす。
「しまっ……」
 何をするでもない。ただ純粋に傷を抉れば、激痛に異形が吠えた。拷問と変わらぬその苦痛に、怒りと殺意を宿した目がアウレリアを捉えて、その胸を刺し穿つ。
「まぁ、そうよね……」
 確実に当てる為に、踏み込み過ぎた。遠のいていく意識の中でアウレリアが見たのは……。
「軍服を拒むなら、死刑であります……!」
「そらみろ軍服じゃあ身を守れない!」
「なにぃ!?」
 アウレリアにトドメを刺そうとした殺意が、蒼眞に向いた。
「戦うなら軍服よりも鎧だろう。弾丸を弾いたり打撃を防いだりと……どうした?悔しかったらかかって来いよ!」
「上等だこのクソ虫が……!」
 瞬く間に迫る異形が蒼眞の腹に掌底を叩きこむ。刀で受けてなお、貫通する衝撃が甲冑を打ち砕き、喉から鉄臭い液体がせり上がる。崩れ落ちた彼に唾棄して、異形は再びアウレリアを殺害しようとするが。
「女の子の軍服なら……セーラー服で良いんじゃないか?あれだって……元は水兵服なんだしな……」
「汚い手を放せゴミ野郎……!」
 脚を掴んだ蒼眞目がけて異形が逆脚を振り上げるが、踏み砕いたのは無機物のみ。
「無茶をするものだ」
 ブリジットがかっさらった蒼眞をエヴァリーナに預けると、槍を構える。
「後は任せたぞ」
 言い残し、蹄鉄を鳴らし突っ込むブリジットへ異形は吼えた。
「騎士鎧なんかより軍服の方が……!」
「黙れ!!」
 拳と槍が、交差する。
「……ガハッ」
「小癪な真似を……!」
 右脇腹を翼で貫通され、吐血と共に崩れ落ちるブリジットだが、異形もまた槍で腹を刺し貫かれた事で、身動きが取れない。
「もはや後はありませんね……一気に片付けてしまいましょう」
 シフカが伸ばした鎖が異形の傷を抉り、肉体を貫通。その身を内外から絡めとると、シフカは倒れたセルリアンに目を向けた。
「あなたの力、お借りしますね」
 バヂィ!突如異形の全身が青白く発光し、焦げた異臭を放つ。
「どうですか、彼の雷は?」
 一撃一撃は決して重くなかったが、セルリアンの雷撃はジワジワと異形の体内に帯電していき、それがシフカの鎖によって引きずり出されて全身を焼く。槍が倒れ、自由になった異形がシフカを見据えて。
「電気椅子の拷問めいた一撃……貴殿には拷問官の軍服……!」
「まだ諦めてないんですか!?」
 拳と軍服を掲げた異形を止めたのは、幾重にも重ねたホタテ貝の盾を構えたビスマス。一撃で何枚もの盾が砕け散っていくが、量産した盾をすぐさま補填。
「邪魔をするな……!」
「服は脱いでこそ至高。経典にもそう書いてあります」
「シフカさん、今のうちに!」
 異形が振るう拳を五枚重ねの貝盾で受け、破砕させてダメージを最小限に抑え、次の盾を構えるビスマスの声にシフカの鎖が飛ぶ。
「まさかこのような形で役に立つとは」
「グッ!?」
 伸びた鎖が異形の首に絡み付き、屋上を引きずり回しながら加速。やがて頭上でぶん回し始めたシフカは右へ左へ、異形の体を叩き付ける。
「今すぐ此処で死に絶えろ……!」
 異形の体を叩き付ける度に、血飛沫と青い稲光が散る。血中の水分が電圧を受け、蒸発し、少しずつ雲を呼んだ。
「殺技肆式――」
 最後に鎖を伸ばしてビル屋上に備えられた避雷針へと絡めれば、天上にて終幕を告げる唸りが響く。
「鎖拘・Ge劉ぎャ!!」
 蒼雷は導かれるように異形へ落ち、その身を炭化させてしまうのだった。


「なんでこんなところで懲りずにまた全裸になってたの?」
 セルリアンさんや、蘇生後の第一声がそれでいいのかね?
「海だけじゃ満足できなかったの?ていうかそろそろちゃんと服着よう?」
「人は何故服を着ると思いますか?」
 一応服を着直したシフカはドヤァ。
「服を求めるからです。つまり、全裸を望む私は服を着なくていい!」
「どういう理論かな!?」
 あぁ、この人はツッコミとして苦労するんだろうな……。
「食べに行く余裕はありませんが……」
 番犬の治療にあたるエヴァリーナにビスマスが何かを差し出すのだが、説明前に皿が空に。
「美味しい!お代わり!!」
「もう食べてる!?」
 鯵のタタキをフライにした物を用意していたビスマスだが、速攻で食われて追加を要求されては語る隙もない。それはそれとして。
「あっつ!?」
 治療中に揚げもの食うんじゃねぇよ、弾けた衣が蒼眞に当たって跳ね起きただろうが。
「ほら、この美味しさで皆が起きたと思えば?」
 ほんとこいつは……!

作者:久澄零太 重傷:日柳・蒼眞(落ちる男・e00793) ブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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