道行は昏く、墓の中にありて

作者:波多蜜花

●その魔女に信頼はなく
 冬の寒空の下、そのドリームイーターは表情一つ動かさずに眼下に広がる街の灯りを見下ろしていた。ケルベロス達の猛攻により、ドリームイーターの本星であるジュエルジグラットは制圧され、帰る場所を失くしたも同然だ。
 けれど、ドリームイーターの女――墓土の魔女ヘレナは動揺するでもなく、ただ待っていた。
「身を寄せる先が何であろうと、独りは独りだ」
 独りで生き、独りで死ね――そう呟くと、満ちようとする月を隠すように現れた巨大な深海魚型の死神、熾炎の硬魚の異名を持つザルバルクを迎え入れるように片手を伸ばした。
 行きつく先が、死出の旅路であろうとも墓土の魔女である自分には相応しい。

●ヘリポートにて
「まずは先のジグラット・ウォーでも戦い、お疲れ様やったね!」
 信濃・撫子(撫子繚乱のヘリオライダー・en0223)が集まったケルベロス達にそう声を掛けた。ジュエルジグラットゲートの破壊、そしてジグラット・ハートの撃破、内部に残っていた仲間の救出と、完全勝利と言っても過言ではないだろう。
 これにより、ドリームイーターは勢力としては壊滅したのだが、全てのドリームイーターを倒せたわけではない。今回ケルベロス達がヘリポートに呼ばれたのもそれである。
「まず、戦争で生き延びた赤の王様とチェシャ猫によって戦場から逃げ出すことに成功したドリームイーターがおることがわかったんよ」
 この残党はポンペリポッサと同じように、デスバレスの死神勢力と合流しようとしており、各地で彼らを迎える為に下級の死神の群れが出現することも多く予知されている。
「ドリームイーターと下級の死神が落ち合うポイントに向かって、これを倒すんが今回の作戦や」
 ドリームイーターも纏まって迎えを待っているわけではなく、今回の作戦では残党一体と複数の死神が相手となるだろう。
「まぁ厄介なことにな? ドリームイーターは迎えが来るまで隠れとるよってに、この迎えが来る瞬間が唯一倒すチャンスなんよ」
 更に、迎えに来た下級の死神はドリームイーターの撤退を全力で支援する為、ただ戦うだけでは半分の確率でドリームイーターは撤退に成功してしまうのだという。
「皆にお願いするんは、墓土の魔女ヘレナっていうドリームイーターや」
 この魔女の特徴としては、他者の一切を頼らぬ動きをすることだと撫子が言う。恐らく、下級死神との連携などは行わないだろう。
「逆を言うたら、逃げの一手を打つ可能性もあるってことなんやけどな。それとネックになることが一つあるんよ」
 ドリームイーターは戦闘が開始して六分が経過すると、デスバレスへの逃亡を開始する。そうなると取り逃がす可能性が非常に高くなるのだ。
「これについては、よお作戦を考える必要があると思うんよ」
 下級死神は戦闘力こそ低いものの数が多くて厄介、ドリームイーターは催眠やトラウマ、自身へのヒールを行うらしく、逃げ延びる可能性は充分にある。
「残党とはいえ、死神に与してよからんことを考えるかもしれへんしな、できるだけ阻止したいところやね。一息つく暇もないけど、皆やったら大丈夫! 頑張ってきてな!」
 そして彼の地に潜む魔女に終焉を。そう言って、撫子はケルベロス達を送り出す為にヘリオンへと向かった。


参加者
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
シエラ・ヒース(旅人・e28490)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)
狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●月夜の下で会いましょう
 寂れた廃ビルの屋上に向かって、ケルベロス達が階段を駆け上がる。
「何を企んでいるんでしょうか……」
 死神は。
 そう小さな声で死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が言う。破れたドリームイーターを取り込んで、戦力を増やそうとしているのか、はたまた何かに利用しようとしているのか。
「わかりませんが……良からぬことになる前に、その芽を摘んでしまうのが最善でしょう」
 その為に、予知に従いこの場に駆け付けたのだとカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)が言えば、ファミリアである白梟のネレイドが彼の肩に乗ったまま、頷くように翼を羽ばたかせた。
 上階に近付くにつれ、警戒するように誰もが口を閉じる。緊張が走る中、屋上へと繋がる扉の前で仲間達と目を合わせると、ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)がドアノブを握ってゆっくりと回す。開いた扉の先には、薄い雲にその半分を覆われた月の下、白い髪をビル風に靡かせた魔女と月光りをも弾く硬い鱗を持った巨大な空を泳ぐ魚――墓土の魔女ヘレナと熾炎の硬魚とも呼ばれる下級死神ザルバルクの姿があった。
「ケルベロス共か……随分と鼻が利く」
 冥府の渡し守が持つ櫂のような鍵杖に座り、宙に浮いたヘレナはザルバルクを従えているようにも見える。
「ハ、そういうテメェは死んだ魚と戯れてんのかよ」
 狼炎・ジグ(恨み貪る者・e83604)がそう言い返せば、ヘレナの眉間に僅かに皺が寄った。
「これはただの迎えだ……私からすれば替えの利く有象無象に過ぎない」
 ヘレナが答える間にも、巨大魚の群れはヘレナを護るように陣形を形成していく。
「それでも、その迎えを待っていたのは、あなただ」
 それまでの間、見つからぬように周到に隠れてまで。半人半馬の妖精種族であるオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が指摘するように言い放つ。
「……それが何だというんだ、有象無象がいようがいまいが変わらない」
 独りは独りだ。
 忌々し気にヘレナが言い捨て、近付こうとするケルベロス達から距離を取るように後方へ下がる。それとは対照的に、ザルバルクが前へとその身を躍らせた。
「これ以上の問答は不要ってことみたいだね」
 ジグラット・ウォーで逃げ出したドリームイーターを殲滅するこの好機を逃さぬように、と元永・倭(仮面を纏う剣士・e66861)がアラーム付きの腕時計に軽く視線を落とす。時間の経過を間違いなく計る為に、ヴィヴィアンやカルナもそれぞれ持参したタイマーに指を掛ける。
「独り、ね」
 そういう生き方もあるだろう。けれど、と巨大なハンマーを構えたシエラ・ヒース(旅人・e28490)は呟く。どんな足跡であったって、ほんの僅かにでも残したのならば、それは誰かに伝わるのだ。善であれ、悪であれ。
 ヘレナが信頼する心を失った経緯は分からずとも、それが地球に生きる者の尺度で考えればどれだけ生きづらいであろうかとアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)は思う。失った部分のモザイクを晴らそうとするのがドリームイーターなのであれば、目の前の女もそうなのだろう。なんともやるせない話だと、胸の内で溜息を吐いてアジサイが黙したまま杖を構えた。
 満ちた月に掛かっていた薄い雲が晴れる。戦場が月明かりに照らされたのを合図としたように、熾炎の硬魚が牙を剥いた。

●月下に舞う
「あなたを死神と共には進ませない!」
 これ以上悪夢を見せられるのも、誰かが悪夢を見るのもたくさんだと、ヴィヴィアンが握り締めた槌をザルバルクに向かって加速した勢いのまま振り抜く。バランスを崩したそれに追撃を仕掛けるように、ヴィヴィアンのボクスドラゴンであるアネリーがブレスを吐いた。
「合流はさせませんよ」
 瀕死のザルバルクを巻き込むように、カルナが翳したローブの袖口から巨大魚の群れを撃ち抜く光弾が放たれる。僅かに敵が動きを止めたその隙に、アジサイが扇を片手に精神を集中させた。
「法円に満ちるは破魔の力」
 後衛である自身とオルティア、倭の位置を見定めて破魔の力を付与していく。
 目の前の魔女に個人的な因縁はないが、ドリームイーターと失伝者には因縁がある。胸の内でそう呟き、刃蓙理は夜空に浮かぶ巨大魚に目を細めた。刃蓙理の右手と左手に持ったオーブが赤と紫の光を放つと、ネクロ・アニマビーストが召喚される。
「喰らい尽くしてしまいなさい……」
 キマイラ、そう称するに相応しい合成獣の牙が巨大魚を噛み砕き飲み込むとオーブの光りが消えると共に姿を消した。
「いきます」
 短く告げたオルティアが巨大ハンマーを砲撃形態に変えると、竜の力を秘めた砲撃を放つ。その光は巨大魚の間隙を縫って、ヘレナへと命中する。
「忌々しい……」
 吐き捨てるように言うとヘレナが鍵杖をオルティア目掛けて振るい、無数の斬撃がオルティアとその近くに居たアジサイと倭を襲う。それを皮切りに巨大魚も群れを成して突っ込んでくるが、ほとんどの攻撃はケルベロス達に通らず牽制するに留まっていた。
「お望み通り独りであの世に送ってやるよ、行くぞぉぉぉ!」
 ザルバルクの攻撃を避け、骸音・【死神熱破】を肩に担ぐようにしてジグがヘレナに向かって駆け抜ける。
「ドリームイーターだろうがなんだろうが、生物である以上独りになるってのは実質的に不可能なんだよ!」
 ヘレナの姿を眼前にし、躊躇することなくジグが熱を帯びたような刀を振り下ろす。
「ええ、世界に残した足跡は、世界との関わりとなるわ」
 シエラがそう頷いて、カルナの攻撃で弱った一匹の急所に目掛けて鋭い手刀を放ち沈めると、倭が後方より黒い鎖を同じように弱った敵に向けて放った。
「さぁ、これで動きを封じてあげるよ」
 言葉通り鎖で締め上げられたザルバルクが藻掻くように跳ねると、そのまま力尽きる。
「あれ、封じるどころか倒してしまったみたいだね」
「この調子でいくよ!」
 間髪容れずにヴィヴィアンが手にしたナイフで巨大魚を切り裂き、それをアネリーが封印箱に入ったまま体当たりをして地に落とすと、カルナが詠唱と共に魔力で編み上げた光りの弾丸を邪魔な位置にいるザルバルクへ放つ。
「支援する、雷よ」
 アジサイが救雷をくるりと回すと、魔力で編んだ雷の壁がジグを護るかのように構築された。
「呪いよ……」
 刃蓙理の呟きに合わせ、オーブが鈍く輝く。その輝きは斬撃のように硬い鱗を切り裂いて、また一匹とザルバルクを地に落としていく。
「王に触れんと欲すれば、手は凄惨に拉げ落ち。覇に挑まんと欲すれば、足は無惨に捩じ折れる」
 ヘレナをその場に足止めするべく、オルティアが己の蹄に全霊の魔力を注ぎ込む。
「――誰も、誰も届かせる、ものか!」
 蹂躙戦技:逸走単撲、その踏み込みはヘレナへ一直線に放たれ、回避を許さない。
「く……っ」
 ヘレナの大きな魔女帽子から覗くオーブが昏く輝きを放つと、ヘレナのモザイクが大きく動いて傷を補修していく。半分に減った巨大魚は、それでもケルベロス達の邪魔をするように黒い呪いの塊を吐いてヘレナを護るように動いていた。
「邪魔だ! 魚の死骸が!」
 巨大魚の牽制を掻い潜りジグがヘレナに蹴りを放ち、シエラがジグの背を狙った巨大魚を砲撃で撃ち落とす。
「確実に仕留めたいからね」
 腰を低く落とし、抜刀の構えを取った倭が霊剣【綻火】の柄に手を掛ける。それは目にも留まらぬ早業で斬撃を放った衝撃によって敵を切り伏せる、倭の居合術――切り札の剣舞の構え。また一匹、ヘレナを守っていたザルバルクが塵へと消えた。
「二分経過だよ!」
 倭がそう仲間に声を掛ける。
 ケルベロスに残された時間は、残り四分――。

●月光に満ちる
 倭の知らせと共に残り時間を知らせるタイマーの振動を感じていたヴィヴィアンが、先陣を切って攻撃対象をザルバルクからヘレナへと切り替える。
 ひしめく様に泳ぎ回っていたザルバルクの群れも残り四体、ヘレナへ集中攻撃を仕掛けるにあたって強行突破も可能な数だ。迷わずにヘレナに向けて火の粉が舞い散る苛烈な蹴りを繰り出すと、アネリーがサポートするように巨大魚にブレスを吐く。ブレスが止まぬうちにカルナの指先が空間をなぞる。
「僕も一応魔法使いですから、魔女には負けられません。舞え、霧氷の剣よ」
 カルナがなぞった何もなかった場所から八本の凍てつく刃、絶零氷剣が現れるとヘレナに向かってその氷牙を突き立てた。
「雷よ、今一度その加護を……!」
 アジサイの振るう杖がヴィヴィアンと刃蓙理に向け、雷の帳を下ろす。その加護を感じながら、刃蓙理がどこからともなく舞い上げた塵をオーブへと集めていく。
「死灰復然……もう2度と、燃え上がりませぬように……」
 オーブの力を纏った塵がその姿を小さな刃へと変じ、ヘレナを切り裂いた。その後方からオルティアがバスターライフルを構え、狙いを違えることなく魔力の籠もった粒子を束ねてヘレナを狙撃する。
「鬱陶しい……っ」
 死神も、ケルベロスも。口には出さずとも、ヘレナの瞳は雄弁に語っている。
「疾く墓土に眠れ……」
 ヘレナが鍵杖を振り子を揺らすかのように振るうと、刃蓙理に向かってモザイクが襲い掛かる。
「させないわ」
 モザイクが刃蓙理に届く寸前、シエラがガントレットを嵌めた腕で受け止め、体勢を崩すことなく襲い来るザルバルクの攻撃を受け止め、躱す。シエラが敵の攻撃を一手に引き受けている隙にジグが魂を喰らい尽くすかのような一撃をヘレナに放ち、後方からの攻撃を通す為に素早くバックステップを踏んで弾道から身を引く。それをフォローするようにシエラがエレナの急所を狙い穿つと、仲間が開いた弾道を倭が外すはずもなく、練り上げていたオーラを撃ち込んだ。
 残り時間で必ずヘレナを倒すという気概で攻撃に出るケルベロスと、ヘレナと彼女を逃がす為に動く死神達の戦いは熾烈を極めていた。刻一刻と迫るタイムリミットの中、それでもケルベロス達は攻撃の手を緩めずヘレナへと向かう。
「残り、二分だよ!」
 ヴィヴィアンが声を張ると同時にヘレナにナイフを向けてその鋭い切っ先で切り裂くと、アネリーが体当たりを決めて巨大魚を落とす。
「頼んだよ、ネレイド」
 カルナが白梟のネレイドに魔力を籠めると、月の光を受けたネレイドがまるで銀の弾丸のようにヘレナに向かっていく。
「傷を癒そう、少しビリっとするかもしれないが、我慢だ」
 アジサイがシエラの傷を癒す為、救雷の先から癒しの雷を飛ばす。
「大丈夫です、ありがとうございます!」
 シエラがアジサイに答える横から刃蓙理の灰伽羅散牙がヘレナを襲い、オルティアが今一度と蹂躙戦技:逸走単撲を放った。傷を負ったヘレナが顔を歪ませ吐き捨てる。
「所詮有象無象は有象無象にすぎない……独りで生き、独りで」
 死ねばいい、お前達も。月明かりも届かぬ昏い瞳が、ケルベロス達を射た。
「墓標を刻め!」
 ヘレナの攻撃が刃蓙理とジグに迫るのをヴィヴィアンとシエラが前に出て弾くように受け止めると、ジグが前へと飛び出し拳を構える。
「墓に刻む名前は決まったか?」
 ジグの右腕を覆うように赤い獣が見える、それは家族を奪われた恨みの念を解放した姿、絶廻方向(リング・ワ・ンデルング)――。
「不可能を知らずに『自分独りで生きていける』ってやつは、本格的なクズが言うことだぜ。じゃあなクズ! お別れだ!」
 獰猛な獣が、ヘレナを喰らうように吠えた。
「あなたを倒すけれど、それを忘れたりはしないわ」
 誰かの心に残るのであれば、それは独りだと言えるのだろうか。シエラが手にした槌を最大限の力で振り被り、オーラの弾丸をヘレナに飛ばす。
「あんまり時間もないみたいだし」
 倭が巨大魚を仕留めた動きをヘレナに向けて行う。腰を低く落とした、抜刀の構え。
「奥の手を使わせてもらうね。これで仕留めてあげるよ」
 切り札の剣舞、倭の居合切りから放たれる衝撃波がヘレナの内部を壊していく。
 誰かのアラームが鳴り響く。誰も何も言わずとも、残り時間は一分だと誰もが把握していた。

●道行を照らす
「独りで生きる……そう言えるあなたは、とても強いんだね。でもあたしには無理、あたしはね、死ぬときは大切な人に看取られてって決めてるんだから!」
 ヴィヴィアンの身体が眩い光を纏う。
「あなたの運命もここまで! 覚悟しなさい!」
 正確無比な一撃、煌討ちをヴィヴィアンが放つと、カルナが再び空間を撫でた。
「あなたをその矛盾ごと、ここで討ち取ります」
 八本の凍てつく刃を展開し、カルナが無慈悲なまでに青く煌く絶対零度の氷牙でヘレナを穿つ。続くように、メディックとして動いていたアジサイが強く拳を握る。
「逃がすわけにはいかないのでな」
 何かを想えど語る言葉はなく、ただアジサイはその拳を振るう。
「墜ちろ!」
 アジサイが拳を打ち下すと、宿った竜が走る。飛竜ノ鉄槌がヘレナを捉えると、刃蓙理が膝を付いた魔女の前へ出た。
「貴女は逃がされたのですから……独りでは無い……と思いますよ……」
 見知らぬドリームイーターへ、そう声を掛けて刃蓙理は両の手に持つオーブを昏く輝かせる。
「一つ聞きたいのですが……死神は貴女達を使って何をしようとしてるんです……?」
 刃蓙理の持つ瞳の装飾がなされたネクロオーブと似た物を持つ魔女は唇を歪ませたまま答えない。
「そう……ならばおやすみなさい……」
 個人的な因縁も何もない、覚えもない。瞳を持つ者へ、刃蓙理が召喚した合成獣が牙を剥き、その身を喰らい滅ぼした。
「独りは、独り……そう言われても、どうしたって」
 言い訳がましく聞こえる、身を寄せるなんて独りからは遠い言葉を出した時点で、それは。自分とは違うのだとは思う、けれど。問い掛ける相手は既になく、オルティアは残っている巨大魚に砲撃を放つ。護る魔女を失くした巨大魚はケルベロス達の放つ攻撃で跡形もなく消えていった。
「終わったな」
 アジサイが傷を負った者を癒し、シエラがいくら廃ビルといえど放っておいては危険であろう箇所を直す為に唇を震わせる。
「いつか荒野に還るあなたの詩を、風は遊び歌う。悠久に埋もれたあなたの詞を歌うでしょう」
 癒しの歌声、祖霊守護が風に乗って月明かりの下で響く。

 遥かな過去から、遥かな未来から、現在のあなたの隣に寄り添い、歌うだろう。
 あなたを励まし、導くだろう。

 それはまるで、独りだと言った魔女への鎮魂歌のようでもあった。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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