中華まんじゅう大進撃!

作者:坂本ピエロギ

 止むことのない雑踏が支配する大都会。
 その片隅に佇むとある商業ビルの1階に、シャッターの降りたコンビニ跡があった。
 照明は落とされ、陳列ケースはどれも空っぽ。往時は大勢の客が訪れたであろう店内は、都会の時間から取り残されたように静まり返っている。
 そんな店の片隅に、1台の機械が放置されていた。
 保温器――中華まんを温めるための機械が。
 豚まん、あんまん、カレーまん、ピザまん……かつては休む間もなく中華まんを温め続けていたであろう機械。そこに今、小さな影が忍び寄ろうとしていた。
『キリキリッ!』
 影――ダモクレスは保温器へ滑り込み、ヒールの力で瞬く間に機械を作り変えていく。
 店内を包む金属音。立ち込める香しい湯気。
 そして。
『中華ッ! マンジュゥゥゥッ!!』
 新たな身体を得たダモクレスは、ガラスケースにほっかほっかの中華まんを詰め込んで、グラビティ・チェインを求めて街中へと飛び出して行くのだった。

「ううう、寒いっすね。こんな日は温かい中華まんが恋しいっす……」
 夕刻のヘリポート。黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は凍える寒さに身震いしながら、ケルベロスたちに口を開いた。
「心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)さんの依頼で調査してたら、中華まんの保温器がダモクレス化する予知が得られたんすよ。どうか皆さんに解決を頼みたいっす!」
「あらあら、大変ねー。詳しく教えてくれるー?」
 説明を促す括に頷きを返し、ダンテは説明を続ける。
 事件が起こるのは、ある廃ビルのコンビニ跡。店内に廃棄されていた保温器がダモクレスによってデウスエクス化し、付近の大通りに出て人々を襲おうとするようだ。
「現場に着く頃には避難も終わってるっすから、皆さんは戦いに集中できるっす!」
 ちなみにダンテ曰く、この敵の体にはほかほかの中華まんが詰まっており、食べたい中華まんを叫ぶと、出来立てをポンと投げてくれるという。保温器の残した思いが為せる業なのだろうか、興味があれば試すのも手かもしれない。
「戦いの後は皆さんお疲れでしょうし、羽休めがてら腹拵えもいいかもっすね」
 そうしてダンテの話は、現場近くにある中華まん専門店へと及んだ。
 店では数多くの中華まんが食べ放題。
 豚まん、あんまん、カレーまんなどのオーソドックスな品のほか、チョコまんやクリームまんなどの甘味、ホタテまんや海老まんなどの海鮮系も揃っている。具を包むのはもっちり歯応えの熟成生地で、ひとくち食べれば病みつきになること請け合いだ。
「こんな寒い日っすから、存分に温まって来て下さいっす。テイクアウトもOKっすよ!」
「ふふっ。子供たちにも、いいお土産が出来そうねー」
 柔和な笑顔を浮かべる括に、ダンテは頷きを返す。
「ダモクレスの撃破も、よろしく頼むっすね。それじゃ出発するっすよ!」


参加者
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●一
 二月某日、夕刻。
 ヘリオンを降下したケルベロスたちは、現場の廃ビル前へと到着した。
 コンビニの跡地はシャッターが降ろされ、物寂しい空気が澱んでいる。周辺の避難も既に終わっているのだろう、一般人の気配は感じられない。
 そんな中、内心の期待を隠しきれないように、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)はふさふさの尻尾をご機嫌で揺らす。
「ふっふっふ……中華まんのため、只今参上です!」
 美味い料理と聞いて、ミリムは元気百倍だった。肌寒いこの時期にほかほかの中華まんが食べ放題――考えただけで心が躍ってしまう。
「ああいけません、つい涎が。まずは仕事が先ですね!」
「中華まん保温器のダモクレスか。ちょっと壊すのが勿体ない気もするね」
 廃ビルの方に注意を向けながら、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は戦いの支度を黙々と進めていく。
 今日の敵はほかほかの中華まんを常備し、リクエストに応じてご馳走までしてくれる相手らしい。元が働き者の機械だったのだろうか、ふとそんなことを考える。
「戦う以上は情け無用だからね。きっちり倒させてもらおう」
「中華まん、美味しいのよねー。色や形が個性的で、見ているだけでも楽しくって」
 そう言ってふわりと微笑むのは心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)だ。
 ダモクレスに勝利した後のお楽しみ――中華まん専門店ではテイクアウトも可能だというから、家で待つ孤児たちにも良いものを買って帰ることにしよう。
「ふふっ、今から楽しみねー」
「とても楽しみ。絶対に、勝利する……!」
 オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が、万端の準備を整えて頷いた。
 彼女が脳裏に思い描くのは、湯気を立てる中華まん。ずっしり重いまんじゅうを割ると、中からは熱々の豚肉が、カレーが、あんこが、クリームが――。
(「ああ、お腹が空いた。空かせてきた、甲斐があった」)
 まずは戦いで存分に食べ、それが終わったら更にお店で食べよう。
 食べて、食べて、食べまくるのだ。
 そう固く心に誓うオルティアに、小柳・玲央(剣扇・e26293)が声をかけてきた。
「やあオルティア。今日もよろしく」
「あ、玲央。……私こそ、よろしく……」
 どこか心ここにあらずといった様子のオルティアに、玲央はふふっと微笑んで、
「これ、良ければ使う?」
 コートから取り出した保存容器を掲げて見せた。中華まんを詰め込める、密閉保温機能付の優れものだという。
「ふたつ持ってきてるんだ。思う存分、堪能できるようにね」
「とても、心強い。必要な時は、お願い、するかも……!」
 二人が中華まんの話に花を咲かせていると、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が横からそっと声をかけた。
「実ハ、こんな物も用意して参りまシタ。どうぞ宜しけれバ」
 そう言ってエトヴァが掲げたのは、中国茶の入ったタンブラー。熱い中華まんには冷たいものを、喉が詰まった時には温めのものをと、至れり尽くせりだ。
「全員の分を用意してありマス。皆様もどうぞ遠慮なク」
「ああ、いい香り……中華まんに合いそうですね」
 伊礼・慧子(花無き臺・e41144)はエトヴァからお茶をひとつ受け取ると、その芳香に頬を綻ばせる。丁寧な仕事の感じられる一杯だった。
「美味そうな茶だな。実は俺も、茶を持って来たぜ!」
 煎茶とウーロン茶を持参した柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)も胸を張って豪快に笑う。どうやら他の仲間同様、中華まんを楽しむ準備は万全らしい。
「ふふっ。楽しい時間になりそうですね」
 慧子は中華まんの味を想像して、期待に胸を弾ませる。
 過去の記憶がない慧子だが、中華風の味付けは好きだった。もしかしたら、過去の自分や故郷と関係があるのだろうか……ふとそんなことを考えてしまう。
「いっぱい動いてサポートしないといけませんね。沢山食べても平気なように」
 気を取り直して微笑む慧子の言葉に頷いた鬼太郎が、
「さて……そろそろだな」
 呟くと同時、コンビニのシャッターがぶち破られ、巨大な影が飛び出してきた。
 それは蜘蛛のような多脚型のダモクレス。胴体に据え付けられた大きな保温器にぎっしり詰まった中華まんは、どれもこれもほっかほかだ。
『中華ッ! マンジュウゥーッ!!』
「出ましたね。貴方に虐殺はさせませんよ!」
 フェアリーレイピアを抜き放つミリムを筆頭に、ケルベロスは戦闘を開始した。

●二
 開始と同時、ダモクレスは後衛に狙いを定めて、中華まんビームを一斉発射してきた。
『マンジュゥッ!!』
「もらった!」
 鬼太郎の身を挺した防御で被弾を免れたミリムは、そのままダモクレスの懐へ飛び込み、レイピアの剣戟で鋼のボディを切り刻む。
 ガギンッ、という鈍い手応えが、催眠をもたらす幻の薔薇で敵を囚えた。そこへ鬼太郎がオウガメタルで巨体を覆い、身体能力を強化する粒子を散布する。
「虎、俺に続け! 味方を回復するぜ!」
 彼に付き従うウイングキャットの虎は、鬼太郎に負けず戦意旺盛。白く小さな清浄の翼で風を送り、主人と共に前衛の仲間を回復していった。
 対するダモクレスは後方支援用の機体なのか、火力はさほど高くない。だがその暴れぶりは凄まじく、砲撃にタックルにと烈火のごとき猛攻で攻めてくる。
「なかなか粘りますね。では、こちらも――」
 ミリムはビームの乱射を掻い潜りながら、スウッと息を吸い込んで叫ぶ。
「肉まん、ピザまん、フカヒレまん! 餃子まんとチャーシューまんも下さい!」
『マンジュゥッ!?』
 ミリムの声に反応するように、ダモクレスは動きを一瞬止めると、パカッと開いた保温器の中から中華まんを次々にぽんぽんと放り投げる。
 ひとつ、ふたつ、みっつ……。飛んできた中華まんを残らずキャッチし、次々と頬張ったミリムは、その素晴らしい味わいに思わず歓喜の声を上げた。
「こ……これは紛れもない本物! とっても美味しいです!」
「中々に面白い敵のようですネ……ア、良ければこれヲ」
 エトヴァは喉を詰まらせかけたミリムに中国茶を差し出すと、中衛からゼログラビトンの光線をダモクレスへ浴びせ、その攻撃能力を封じていく。
『マンジュウゥゥッ!!』
 次なる中華まんを準備していたところへ武器封じをくらい、悲鳴をあげるダモクレス。
 括は爆破スイッチを手に取ると、必死に態勢を立て直そうとする敵へ、更なるオーダーを飛ばした。
「私もお腹が空いたわねー。激辛麻婆まんとか、あるかしらー?」
 ぽん、と音を立てて中華まんが飛んできた。
 唐辛子のように真っ赤なそれへ、一思いにかぶりつく括。口内に広がるストレートな辛さにうれしい悲鳴を漏らし、括はスイッチを起爆する。
「辛いわー! でも美味しいわー!」
 赤や黄色のスパイスを思わせる煙幕が、後衛にいる味方の背を彩った。
 続けてウイングキャットのソウが、なんとなく物欲しげな顔つきを浮かべつつ、清浄の翼で更なる癒しを後衛にもたらす。
「とってもいい味ねー。おかわりふたつ、貰えるかしらー?」
 夕空を舞う麻婆まん。ソウと一緒に出来立てを頬張り、幸せの吐息を漏らす括。
 そこへ遅れじと、鬼太郎も注文を飛ばした。
「肉だ、肉が食いたい! 豚肉も牛肉もチキンも、どんどん出してくれや!」
 東坡肉まん、キーマカレーまん、鶏そぼろまん。矢継ぎ早のオーダーにも戸惑うことなくダモクレスは中華まんを次々に取り出しては放り投げる。
 無論そうなれば、防御や回避にも多少は隙が生じるわけで――オルティアは空いたガードをこじ開けるように背蹄脚を叩き込むと、
「専門店、その前哨戦でも手は抜かぬべきと、判断」
 有無を言わさぬ迫力で、ずいっと迫った。
「オススメを1つ、お願い。好き嫌いなく、何でもいける……さぁ、さぁ」
 そうして飛んできたのは、白の中華まんだった。ズッシリとした重さに感動を覚えつつ、恭しい手つきで生地を割る。
 そうして中から現れたのは、豚肉と椎茸の肉餡――そう、豚まんであった。
「わ、わわわ、わわ」
 こぼれそうになる肉汁を慌ててすすり、おもむろにかぶりつくオルティア。
 熟成させた豚肉と、干し椎茸から滲み出る旨味が、ゴマ油の蠱惑的な芳香に乗って体中を駆け巡る。
「ああ――ずるい、ずるい」
 地球はなんと美味しいものに溢れているのか。こんな料理を食べてしまっては、次に何を頼むか迷ってしまうではないか――。
 嬉しい悩みで胸を満たしつつ、オルティアは豚まんをペロリと平らげる。
 いっぽう玲央と慧子はコンビネーションを発動すると、ダモクレス目掛けてエアシューズで滑走、更にオーダーを追加した。
「ブラックコーヒーまんが欲しいな。ミルクや砂糖で誤魔化しのないやつ」
「私はあんまんを。……ゴマの風味は少し強めで」
『マンジュゥゥッ!!』
 茜色の夕空に、中華まんが舞う。

●三
 ダモクレスは、まず玲央に1個放り投げた。
 それは艶やかな褐色をした中華まんだった。チョコやイカスミのそれとは違い、立ち上る湯気からは仄かに焦げたような香ばしい匂いがする。質の良いコーヒー豆を丁寧に煎った、シティローストの香りだ。
「それじゃあ早速……あ、美味しい」
 はむっと一口頬張ると、深いコクと微かな酸味が鼻腔をすっと抜けていく。
 全身に活力を漲らせた玲央は、扇に見立てた鉄塊剣を蹂躙形態に変形させ、さらに続けてエアシューズで加速。一方の慧子も飛んできたあんまんを頬張り、胡麻の滋味あふれる甘さに頬を綻ばせながら、玲央と共に天高く跳躍する。
「ありがとう。ご馳走様、ダモクレス」
「せめて最後は、安らかに……」
 スターゲイザーの連続攻撃を叩き込まれ、悲鳴をあげるダモクレス。それを見た黄泉は、パイルバンカーを装着しながらポツリと呟いた。
「……あ、ちょっとまずいかも」
 見れば敵の巨体の随所からはパチパチと火花が散り始めている。オーダーに気を取られたところへ攻撃を浴び続けた影響か、かなりのダメージが蓄積しているようだ。
「こうしてはいられない。わたしも楽しまないと」
 黄泉はバンカーを構え、螺旋力をジェット噴射させて突撃。きりもみ回転で肉薄しながらダモクレスへ注文を飛ばす。
「悪いけど逃がさないよ。……あと、豚まん、帆立まん、あんまんが欲しいな」
 ズシン、と地を揺さぶる衝撃が走る。
 吹き飛ぶ装甲に混じって、ポンポンと飛び出す中華まん。華麗にキャッチしたそれらを、黄泉は小さな口でもぐもぐと啄んでいく。
「いけるね。この帆立貝柱、大粒ですごく美味しい」
『マンジュゥゥゥ!』
 怒り狂ったダモクレスの突進から黄泉を庇いながら、玲央は仲間たちを振り返る。
「そろそろオーダーストップかな。エトヴァ、注文した?」
「ア……失礼、すっかり忘れていまシタ」
「大丈夫大丈夫、まだ間に合いますよ!」
 満月光球で玲央を癒すミリムに背を押されるように、エトヴァは注文を出した。
「まずピザまんは外せまセン……お味、もといお手並み拝見なのデス」
 飛んできた一品には、濃厚なチーズがトマトソースと共にたっぷり詰まっていた。
 チーズとトマトの引き出す旨味に頬を綻ばせながら、エトヴァは微かなやるせなさを心で噛み締める。
 きっとこの機械は、この中華まんで大勢の人々を幸せにしてきたに違いない。エトヴァは保温器への敬意を込めて、鋼鬼の拳をめり込ませた。
「最後にチョコまんも食べたいデス……くださいな」
『マン……ジュ……』
「感謝ヲ。……そしテ、ご馳走様でシタ」
 差し出されたチョコまんは、ちょっぴりほろ苦い。
 見れば括がブレイブマインを起爆し、前衛の支援を終えたところだった。どうやら決着が近いようだ。
「さあ、ラストスパート行くわよー?」
「よし、突撃だぜ!」
 鬼太郎が叩きつける力任せの拳を皮切りに、黄泉が、慧子が、玲央が、嵐のごとき猛攻を浴びせた。対する敵も最後の大盤振る舞いとばかり、中華まんを次々放り投げる。
 オルティアは玲央と共にそれらを残らず保温容器に詰め込むと、支援魔術を発動。追い風を背に、『蹂躙戦技:穿群蛮馬』の突撃でとどめの一撃を叩き込んだ。
「中華まんの全消費を、確認。これで、終わり……!」
『マンジュゥゥゥッ!!』
 暮れなずむビル街の夕空に、断末魔が溶けて消える。
 そうしてひと際大きな爆発の後、路上には壊れて残骸となった保温器が転がっていた。

●四
 営業開始から間もない店内は、早くも満席になりかけていた。
 修復を完了した現場から歩くこと数分、席に腰を下ろしたケルベロスたちは、おしぼりで手を拭くと、さっそく分厚いメニューを広げる。
 品物の種類は数十にも及び、オーソドックスなものから変わり種まで幅広いようだ。
「目移りするわねー。何がいいかしらー?」
「初めての味が、たくさん……さすが、専門店」
 括とオルティアはメニューに目を走らせ、注文をリストアップしていく。
 いっぽうエトヴァは、合流したホゥと共に仲間たちのオーダーをまとめつつ、自分の分を書き加えるのも忘れない。
「デザートまで揃っているとハ、有難いですネ。……ホゥ殿ハ?」
「私は豚まんを。いっぱい食べようと思います!」
 そして注文から程なく、ケルベロスの卓には大きな蒸籠がずらりと並んだ。籠の隙間から漏れる湯気からは、小麦粉で練った生地の豊潤な香りがする。
「それでは、いただきます!」
 ミリムの一言と共に、蒸籠の蓋がいっせいに取り払われた。
 大きなもの、小さなもの。半球状のもの、具材を挟んだもの……湯気の中から現れた沢山の中華まんに、ケルベロスたちは手を伸ばす。
「今日は沢山動いたから大丈夫……」
 慧子が手に取ったのは角煮まん。小ぶりの中華まんじゅうの中には、ホロホロになるまで煮込んだ角煮の塊がたっぷり詰まっている。
 一度口にしたら最後、手は止まらない。
 ひとつ、ふたつ、舌鼓の音とともに角煮まんが消えていく。
「美味しいですね……!」
「ええ本当に。あ、おかわり下さい!」
 いっぽうミリムは、玲央や黄泉と共に豚まんと格闘の真っ最中だ。
 弾力のある生地をグッと噛みしめれば、迸る肉汁とともに餡の旨味が口内へと広がった。後を引く美味しさに、会話すら忘れて中華まんを頬張るミリムとホゥ。依頼を頑張った甲斐があるというものだ。
 いっぽう玲央は豚まんを平らげ、新たな蒸籠へと手を伸ばした。
「次は中華炒め系にいこうかな、っと」
 青椒肉絲、回鍋肉、エビチリに麻婆茄子。熱々のものをひと口かじり、お茶を呷ってもう一口……気づけばどの皿もあっという間に空だ。
(「後で一通り買って帰ろうっと。特にエビチリが美味しかったな♪」)
 そんな玲央の向かいでは、エトヴァがピザまんを堪能している。
「ピリ辛ソースに、チーズがとろりと絡んデ……美味しいデス」
 店のピザまんは戦いで食べた物に比べて味が濃いが、どれだけ食べても、胃がギブアップを宣言することがない。うどんのようにモッチリした歯応えの生地が、濃い味を余すところなく受け止めているからだろう。
(「病みつきになる味デス。そういえバ、他の方々はどんなものヲ?」)
 そうして視線を向けた先では、鬼太郎が香ばしいカレーまんを酒のあてに舌鼓を打ち、括も運ばれてきたばかりの品々を頬張っている。
「ふーっ。仕事を終えた後の酒は最高だぜ!」
「美味しいわー。もっともっと堪能するわよー」
 括が注文したのは海鮮系がメインだ。いずれも少し濃いめの味付けが魚介の旨味を存分に引き出して、容赦なく味蕾を攻めてくる。
 醤油ベースの餡が染み込んだカニまんを、はむっと頬張る幸せ。噛み締めるほどに旨味が滲む帆立も最高だった。玲央が齧っている鮭まんや鮪まんも美味そうだ。
「ふふっ。家の子たちの分も沢山買って帰らないとねー」
 そんな括たちを眺めていたエトヴァもまた、新たな蒸籠へ手を伸ばす。
「海鮮にカレー……ふム、俺ももう少し挑戦しましょうカ」
 エトヴァが手に取ったのは牡蠣まん――旬の牡蠣をひと粒丸ごと入れて、タバスコで味を調えたピリ辛の一品だ。カレーまんの食欲をそそるスパイスと相まって、身体の奥が芯からじわじわ温まるのを感じる。お茶の味も格別だ。
(「これハ、帰りのお土産を運ぶのが大変そうですネ。さて次ハ?」)
 お次は甘味系。餡子にチョコにクリームにと、まるで温かいお饅頭のようだとエトヴァは和洋の味わいに頬を綻ばせた。
 その隣では、オルティアもまた甘味をメインに攻めている。
 カスタードの甘味を凝縮したクリームまん。ほっこりした素朴な食感が楽しい南瓜まん。そして餡の中にごろりと実が詰まった栗まん。ほかほかな甘さは、身にも心にも温もりをもたらしてくれる。第一ラウンドの中華まんとはまた違う美味だった。
(「海老、カレー、ピザにあんまん、皆良かった。他の人が食べてる物も、気になる」)
 未知の味への好奇心を滾らせるオルティア。それに気づいた括は微笑を浮かべ、
「オルティアちゃん、帆立まんはどうかしらー?」
「ありがとう。クリームまんも、どうぞ……!」
 そこへエトヴァと玲央も加わる。
「こちらのスイートポテトまんもお勧めデス。是非」
「ねえ、この明太子まんも美味しいよ。みんなどう?」
 仲間と共に卓を囲んで、素敵な味を楽しんで。
 ケルベロスたちの宴はまだまだ続くのだった――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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