ヒーリングバレンタイン2020~転生ジュエリー

作者:質種剰

●チョコもリンカネーション
「皆さんのご活躍により、2019年のバレンタインから今までにも、前はミッション地域となっていた多くの地域の奪還に成功しているてあります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、うきうきと嬉しそうに説明を始める。
「ですので、今年もこれらの取り戻した地域の復興も兼ねて、バレンタインのプレゼントを一緒に作りませんか?」
 解放したミッション地域には住民がまず居ないのだが、引越しを考えている人などが下見に来ていたり、ミッション地域周辺の住民が見学に来る事は充分あるという。
「そんな一般の方にもご参加頂けるようなイベントにすれば、解放したミッション地域のイメージアップにもなるかと思うでありますよ♪」
 かけらは笑顔で補足した。
「皆さんにヒールして頂きたい場所は、埼玉県は狭山市の住宅地やビジネス街であります♪」
 狭山市では、ずっとダモクレス『リンカネーション・トラックン』が文字通りの暴走を繰り返していたせいで、地域住民は奴らの恐怖に脅かされ、避難を余儀なくされてきた。
「ですので、狭山市が無事に解放された事を記念して、皆で『宝石チョコ』を作りましょう~チョコを宝石へ生まれ変わらせるのであります♪」
 宝石チョコとは、その名の通り、宝石の形をしたチョコという事らしい。
 宝石チョコにも色々あるが、様々なカッティングのルース(裸石)を模した型へ土台のチョコを流し込んでから、周りにアラザンなどを好きにデコって冷やし固めるのが簡単だろう。
 拘る場合は、クッキーで立て爪の指輪やブローチ台を作ってから宝石チョコを嵌めこんでも良いし、最近人気の切子細工よろしく、チョコの塊へノミを入れて綺麗に模様をつけたり成形したら大層美しくなるだろう。
「流行りのルビーチョコやブロンドチョコで宝石チョコを作ったらとても綺麗でありましょうね。きっとお客さんもいっぱい来て下さいますよ♪」
 自信を持って請け負うかけら。
「皆さんには、住宅地やビジネス街などをヒールで修復して頂いた後に、特設イベント会場にて宝石チョコ作りを楽しんで頂けたらと思います」
 宝石チョコ作りのモデルとして使える本物のジュエリーや宝飾品カタログも、イベント会場に沢山用意してあるそうだ。
 勿論、バレンタイン用のチョコならば、宝石チョコ以外でも好きに作って構わない。
「それでは、皆さんのご参加を楽しみにお待ち致しております。素敵なバレンタインのプレゼントができますように♪」
 注意事項は未成年者とドワーフの飲酒喫煙の禁止のみである。


■リプレイ


「マリー、眉間に皺が寄っていますよ」
「ああ、ごめん。宝石チョコ、思った以上に難しそうだと思って」
 真理とマルレーネは、互いへ贈るための宝石チョコを作っていた。
「何度もやり直せますから、気楽にいきましょう」
「うん、そうだね」
 そう恋人を励ます真理は、マルレーネの瞳を思わせる赤のルビーチョコを縦長に冷やし固めて、丁寧にオーバルカットを施す。
 ブローチの土台にはカカオ含有量多めのビターチョコを選び、縁へサキュバスの角と尻尾を思わせる飾りを浮き彫りにした。
 その周りへマルレーネの銀髪をイメージした小さなアラザンを散りばめればできあがり。
 一方。
 パキッ!
「あっ」
 マルレーネは、飴細工で宝石を支える立て爪を作ろうとしたが、いざ成形しても爪が折れたり指輪のアームが折れたりと散々。
 次にホワイトチョコのブロックをブリリアントカットに削っていくも、何せ手作りチョコの経験が無いせいか、何度も何度も失敗していた。
「でも、なんとしてでも一つは……意地でも完成させる!」
 それでも根気よく作り直して、ようやく薄い銀色のドラジェでホワイトチョコをコーティング、糖衣状にするまで辿り着いた。
 これを立て爪にセットすれば、ダイヤモンドチョコの完成である。
「後はチョコを渡すのですけど……あそこにしませんか?」
「うん、あそこね」
 以心伝心で頷きあう2人。
 彼女らが思い浮かべたのは、先程の修復作業——お揃いで使っていた黄金の果実による偶然の産物だ。
 幻想化によって異常成長した太い樹木である。
 その深く枝分かれした幹がハート型にくるんと折れ曲がっていて、成人2人なら余裕で入れる大きさは、まるでフォトスポットのようと2人は感心したものだ。
「ハッピーバレンタイン、なのです」
「真理の誕生日は4月だから、誕生石のダイヤモンドにしてみたよ」
 真理とマルレーネは向かい合って枝の作る斜面へ腰を下ろし、交換したチョコを嬉しそうに見つめる。
 小悪魔イメージのルビーブローチもキラキラドラジェのダイヤリングも、どちらも本物に勝るとも劣らない存在感を放っていた。
「これからも隣にいてね、真理」
「……大好きですよ、マリー。これからも、ずっと一緒なのです……」
 どちらからともなく互いの背中へ腕が回り、自然と唇も重なった。

「頑張ってヒールをしてバレンタインを楽しみましょう♪」
「そうですね、ヒールが終わったらバレンタインを満喫しましょう」
 と、仲睦まじい様子で街の修復に励んでいたのは蒼香とカイム。
「宝石チョコって素敵ですね、どんなのにしようか悩みます」
 それが終わって調理場へやってくると、蒼香は彩り鮮やかな宝石チョコのサンプルを前にして、楽しそうに迷い始めた。
「私の方はなんとなくの構想は立ててるので、あとは作れるかですね」
 カイムも頷き、綺麗な色味のブルーベリーチョコを湯煎にかける。
 どうやら蒼香の誕生石のラピスラズリをイメージして、青いブルーベリーチョコを選んだようだ。
「ひとまずエメラルドのペンダント風に仕上げてみましょうか」
 蒼香はすぐ心が決まったらしく、溶かした抹茶チョコをクッキーの台座へ流し込み、周りに金のアラザンを飾りつけた。
 2種類のチョコが冷蔵庫の中で固まるのを待つ間。
「エメラルドカットってどんな形でしたか」
 カイムは宝石カタログを取りに行こうとして、うっかり蒼香と正面衝突、押し倒してしまう。
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくても大丈夫です♪」
 屈託無い蒼香の笑顔を直視できず、カイムは半ば照れ隠しで彼女の胸へ顔を埋める。
 口では謝りながらも弾力ある胸の感触を一度知ってしまうと離れられなくて、両手で存分に揉みしだいた。
 だがチョコが固まれば、真面目にエメラルドカットを施し、一緒に冷やしていた装飾用抹茶チョコも小さなエメラルドを模して削るカイム。
 蒼香も、こちらはかなり大きめの抹茶チョコをペンダントに見えるようゴリゴリと小刀を振るっていた。
「わたしの胸元に合わせたらけっこう大きくできましたね……食べごたえがあると思えばいいでしょうか?」
 ちなみに本人曰く、蒼香の爆乳は顔より大きい、まさにメロンのごとき117cmのQカップだそうな。
 確かに並大抵のペンダントトップでは胸の存在感の前に霞んでしまうだろう。
「蒼香さん、お口に合うと良いのですが」
 それでも、カイムの華やかなブルーベリーチョコを受け取り、覚悟を決めて、
「ありがとうございます。ではわたしからも、ハッピーバレンタインです♪」
 蒼香は立派なエメラルドカットの抹茶チョコを差し出す。
「ありがとうございます。蒼香さんの手作り、よく味わって食べますね」
 飽かずに胸を堪能し尽くした彼なら、チョコだって完食してくれるはずだと。


「ふむ、宝石か。確かに輝く宝石の如き屈強さを秘めたチョコ……目指さずにはいられないな!」
 絶華は相変わらず味覚の破壊者としての暴走開始。
「金剛石の如き圧倒的なパワーを秘めた物を作らねば!」
 と、誰も望まないだろう濃度1000%チョコをカカオ豆から丁寧に作り始めた。
 しかも冬虫夏草やら補中益気湯、ローヤルゼリー、マカと滋養強壮ばかりに拘って味の考慮を度外視した生薬などを混ぜ合わせ、極限まで圧縮させる。
 それを見た時点でガイバーンは逃げ出そうとしたが、絶華にむんずと肩を掴まれて引き戻された。
 そんなこんなで完成したチョコは、まさにブラックダイヤの如き黒さと硬さを誇る代物。
 中に色々混ぜすぎたせいかチョコらしい照りは皆無で一切光を反射しないが、凄まじい負のオーラを放っている。
「戦争で色々と消耗は激しいだろう。我がチョコの圧倒的なパワーで回復するがいい!」
 お前達は宇宙を感じ取るだろう!
 そう意気揚々とほざく絶華は、ガイバーンだけでなく他のケルベロスや一般人の小檻にまでブラックダイヤチョコを振る舞おうとした。
 しかし、ガイバーンが必死に説得して、彼1人が人身御供になる形で決着。
「いただきま……うぐっ!?」
 哀れガイバーンはブラックダイヤチョコを一口食べるなり目を白黒させ、泡を噴いて倒れてしまった。

(「……調査隊に志願したのは、モザイクを晴らす方法を知りたかったからで」)
 マヒナはいつになく思いつめた表情のまま、カボションカットの型へ小さなチョコの欠片を丁寧に敷き詰めていた。
(「ジュエルジグラットのモザイクを晴らせれば、モザイクに苦しむドリームイーターも救えるかもしれないって思ってたんだけど……」)
 抹茶やイチゴ、マンゴー、バナナなど色とりどりのチョコが型の中で並ぶ様は実に賑やかである。
(「……結局ジュエルジグラットのモザイクを晴らすことはできなかった、から」)
 最後にホワイトチョコを流し入れて冷蔵庫で固めれば完成だ。
(「ワタシなりのけじめというか……悔しさを忘れないために」)
 そう述懐するマヒナが作っていたのは、ジュエルジグラットのモザイクを模したチョコ。
 だが、その仕上がりはオパールによく似た美しさであった。
 ホワイトチョコの内側からうっすらと見える七彩のチョコが、見る角度によって様々な色味に輝くオパールへそっくりなのだ。
「……といっても、色んな味のチョコ入れちゃったから味はどうかなぁ……」
 マヒナはモザイクチョコの並んだパットをまじまじと眺めて、
「カケラ、よかったら味見してくれる?」
 と友人を呼んだ。
「いただきまーす……うん、複雑な味わいと抹茶の苦味が美味しいであります」
「マハロ」
「マヒナ殿はてっきり最高級のルビーをお作りになるかと……はっ、2つ並べたら紅白でおめでたいかも」
「コウハク?」

「1年ぶりでしょうか? かけらさんお誘いありがとうございます。またご一緒できて嬉しいです」
「もうそんなになりますか。ご無沙汰いたしております」
 奏星は小檻と仲良く話しながら、宝石チョコ作りを開始。
 奏星が使うのは赤いルビーチョコや緑の抹茶チョコだ。
 どうやら小檻の誕生石であるルビーとクリソプレーズを作るつもりらしい。
「綺麗にできるといいのですが」
 真剣な表情で小刀を使い、慎重にチョコの塊を削っていく奏星。
 相変わらず手先の器用な彼が小檻へ披露した完成品は、やはり見事な仕上がりであった。
「いつもこういったイベント事にお誘いありがとうございます。また今年もよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします……綺麗、本物の宝石みたい」
 瞳を輝かせて宝石チョコを見入る小檻。
 すると、奏星はわざと手を滑らせて宝石チョコを食べるためのピックを落とし、あろうことか小檻の胸の谷間へ入り込ませてしまう。
「おっと」
「きゃっ」
 ピックを取るふりをして、小檻の胸元から服の中へ手指を侵入させる奏星。
「ふふ、柔らかくて気持ちいいですね」
 両手で双丘を揉みながらのたまう奏星へ、赤面する小檻。
「そんなとこ触りながら言わないで……やぁんっ、パンツの中は幾らなんでも……」
「愛してますよ、かけらさん」
「それも断ってるし、今のタイミングで言うことじゃなーい!!!」

「見る影もないとは正にこの事なのです……」
「素敵な街が粉々なんて……しょんぼりなのよ……」
 オイナスとローレライは、トラックンの爆走による被害を目の当たりにして、避難せざるを得なかった住民の無念さを思いやっていた。
「せっかくの甘い日が悲しい日になるのはとてもつらいのよ……シックでまた明るい街になーれ!」
 彼らが早く街へ戻れるようにと一所懸命修復活動へ励むローレライ。
 バレンタインを楽しんでほしいという願いのこもったヒールだから、本当にチョコ色のシックな建物が増えそうである。
「また暮らしやすい街になるといいなぁ」
 自分も丁寧にヒールを続けながら、オイナスは思った。
 その後、イベント会場の調理台へ移った2人。
(「べ、別に男から作って渡してもいいですよね?」)
 いざ恋人への本命チョコを作るとなると——元々作ったり買ったりする機会の乏しい男子なら尚更か——緊張するオイナス。
(「どんなチョコにしましょうかね」)
 しばらく悩んだ結果、緑鮮やかなピスタチオチョコへ甘酸っぱくてチョコの色も損なわないキウイの果汁を混ぜ込むことにした。
(「一口サイズで好きな時につまめるような、シンプルなやつで勝負なのです」)
 そんなオイナスの拘りは、チョコのバゲットカットや箱やリボンの色彩センス、綺麗なラッピングへも表れている。
 一方、ローレライは必死で焼き上げたブローチの土台型クッキーの周りへ小粒石イメージのカラフルな宝石チョコを埋め込んでいく。
(「……オイナスさん喜んでくれるかしら」)
 そして、中央部へは、水色や青が清涼感を醸し出しているソーダチョコやブルーベリーチョコをカッティングして並べ、上から金箔も散りばめてステンドグラス風クッキーに仕上げた。
「キラキラにできたかな?」
 ローレライ自身は心配そうだが、その実、青と金が爽やかなステンドグラスクッキーは、高級感と可愛らしさを兼ね備えた完成度の高い逸品となっていた。
「お、オイナスさん。このチョコを受け取ってくれるかしら」
「もちろんですよ。ありがとう、ロー」
 ボクからもお返しなのです、と差し出されたピスタチオチョコの箱を恭しく両手で包んで、ローレライは安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう、オイナスさん」
「えへへ、とっても嬉しいのです。食べるのがもったいなくなっちゃうのです」
 オイナスはオイナスでステンドグラスチョコを嬉しそうに眺めている。
「……いっそ家宝に……?」
「あわわわ、上手くできてるか心配だから、遠慮なく食べてほしいのよ!!」


「カラフルなチョコレートで作る切子細工! まさに食の宝石箱やでぇ……!」
 マリオンは元々可愛いものが好きなこともあって、調理台に用意されていた色とりどりのサンプルを見ただけで嬌声をあげていた。
 早速、土台となる裸石にホワイトチョコを選んでその上から湯煎したブロンドチョコやルビーチョコを被せて一旦冷蔵庫へ。
 薄く覆うチョコが均等に固まってから、最外殻としてシンプルなミルクチョコを被せて冷やしていく。
 一方。
「……ブロンドチョコって初耳やと思ったら、ホワイトチョコを炉に入れたままうっかり放置して出来上がった、奇跡の産物だったんやなー」
 ルイスは海外ブランドチョコのカタログをパラパラ捲って、最初こそ素直に感心していたが。
「キャラ付け出来ない出来ない嘆いていた姐さんも、ライトニングロッドをうっかり放置して出来上がった釘バットのお陰で、今やポリスメンにも一目置かれる地元の名士ですもんね!」
 そこは姉弟漫才のボケ役、すぐさま滔々と不穏な褒め言葉を並べ立てた。
 ちなみにロッドを釘バットに仕立て上げた犯人は勿論ルイスである。
「冷蔵庫できっちり固めて、最後に表面をそっと削れば……」
 マリオンは敢えてルイスを無視して宝石チョコの仕上げに取りかかる。
「まさに瓢箪から駒! よっ、名物オラトリオ!」
 スルーも意に介さず囃し立てるルイス。マリオンの振るう小刀がやたらと力強く感じるのは気のせいだろう。
「はい、チョコ切子の出来上がり!」
 ともあれ、明るい茶色の外皮の中へ金色や赤、白い小花模様の繊細に描かれたチョコが完成。
「それでこれは何ですか? 原点回帰で、またカカオを資金源に? ボロい商売だって言ってましたもんね!」
 可愛い切子細工を前にしてもルイスの口はやっぱり減らない。
「……マリオン、バレンタイン商戦に手を出していたんじゃろうか?」
「さぁ……でも帝王様、確かに宝石チョコがよくお似合いでありますよ」
 ほらアタッシュケースにいっぱい詰めて、それこそ何かの資金源とか。
 などと、ガイバーンと小檻もいつも通りヒソヒソさざめきあっている。
「わぁ! まさに食べる芸術品ですね!」
 それも無視してニコッ☆ と笑顔を見せるマリオンだったが。
「タピオカも良いシノギだったんですけどねぇ……こうも競争相手が多くなっちまうとなぁ……」
「…………」
 ルイスからの度重なる暗黒街の帝王扱いに、とうとう堪忍袋の尾が切れた。
「さっきから後ろでゴチャゴチャうるっせぇんじゃこのクソキノコが!」
 ついにマリオンは青筋立ててブチ切れると、愛用の釘バットをダンッと床へ振り下ろす。
「何が失敗って、ゴミ捨て場からうっかりお前を拾って来ちまったことが、私の人生最大の大失敗だよ! やり直せるなら前……」
 憤怒の表情でぜんぜんぜんぜん連呼するマリオンは傍から見ても鬼気迫るものがある。
「……前世くらいからやり直したいわ!」
「はい」
 ぺちん。
「………………!!!!!」
 そんな姉の額目掛けて、ルイスは緑の抹茶チョコへ百合の花を刻んだ翡翠チョコを投げつけ、ますます怒らせるのだった。

「今年のバレンタインは一味違うわよ」
 さて、街並みの修復の時から既に気合充分だったのはカナネ。
(「もちろん建物の修復も大事だけど、だってチョコを作りながらデートなんだもの」)
 とは本人の弁。それだけドルフィンとのデートが楽しみなのだろう。
「それは楽しみじゃのう」
 チョコの試食に付き合って欲しいと誘われてついてきたドルフィンも、積極的に協力してヒールを早々に終わらせた。
 何せ、本人が一切口に出さずともヒールするカナネの浮き立つような張り切り方だけで、デートしたい気持ちが丸見えだったから。
 けれども、ふた回り以上大人のドルフィンはそんな野暮なことなどおくびにも出さず、にこにこ笑顔で寄り添っている。
「それにしても宝石チョコかー……チョコって言うと茶色とか黒のイメージだけど、思ってたよりカラフルなのがあるのね」
「しかし最近はカラフルなチョコが多いものじゃのう」
 どれを使おうかと色とりどりの板チョコを見比べるカナネにつられて、ドルフィンもその種類の多さに感心している。
「へー、このルビーチョコっていうの? なんかイチゴ味っぽい色合いだけど元々こういう色なの」
 面白そうだしこれにしましょ! カナネの決断は早かった。
 その勢いのまま試しにひとかけ味見して、
(「……あ、これは恋人っぽいことするチャンスかも」)
 ふと気づいたカナネは、半分に割った板チョコの一方をドルフィンへ差し出した。
「ドルフィン君も食べてみて。はい、あーん」
「あーん」
 かぷっ。
 ドルフィンが調子に乗って指まで咥えるものだから、反射的に手を引っ込めるカナネ。
「もう、びっくりした……おいしい?」
「すまんすまん、不可抗力じゃ。うむ、旨いのう」
 恋人の微かに赤い頬を見られれば、手が離れていっても惜しくはないとドルフィンは満足そうだ。
 ともあれ、クッキーで作ったブローチの土台へプリンセスカットに削ったルビーチョコを乗せて、
「うんうん、上出来!」
 ひときわ大きなルビーチョコが目を惹く花の形のブローチクッキー『フラワリング・ルビー』の完成だ。
「さぁドルフィン君おまたせ、出来たてを召し上がれ!」
「さすがはカナネじゃ! 素晴らしいのう!」
 ドルフィンはカナネの器用さへ驚き、心からの賛辞を贈った。
「こんなに綺麗じゃと、食べるのが勿体ないぐらいじゃ」
 もちろん溶ける前に食べるがのう、と屈託無く笑う優しい恋人へつられて、カナネも温かい気持ちになって照れ笑いした。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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