ヒーリングバレンタイン2020~君に千の花束を

作者:秋月諒

●君に花束を
 薔薇の花を束ねて君に送ろう。
 ひっそりと添える花を。抱えるほどの花束を。
 10の花を。50の花を。
 千の花を君に送ろう。
 花束は、君を笑顔にすることもできるのだから。
 送るひとを、贈られたひとを。
 ーーだからどうか笑って。

●ヒーリングバレンタイン2020
「君に千の花束をーーというのが、その街のキャッチコピーらしいんだよね」
 集まったケルベロスたちを前に、一枚のカードを見せたのは三芝・千鷲(ラディウス・en0113)であった。
「バレンタインシーズンの。チョコレートと一緒に花を渡しましょう、って話らしいよ」
「もっと言えば、お花のチョコを作るんですよ」
 ひょっこり、と顔を見せたのはレイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)だ。ゆるり、と狐の尾を揺らした娘はケルベロス達に笑みを見せた。
「皆様の活躍で、これまでミッション地域となっていた複数の地域の奪還されました」
 そこに、生きる人々がいて住う人々がいたのだ。取り戻した地域の復興も必要となってくる。
「そこで、折角バレンタインの季節なので地域の復興も兼ねて……ということでちょっとしたイベントが開催されるんです」
 広島県、福山市。薔薇で有名な地でもある。
「今の状況では、基本的に住んでいる人もいないけれど帰ってこようという人も、引越しを考えている人もいるからね」
 下見に来る人たちにも楽しんでもらえるようなイベントのしよう、とショコラティエ達と花屋が協力して行うイベントが、このチョコレートフラワーなのだ。
「贈り物には花束を。チョコレートに花束を添えてって話になってね」
 作るのはボンボンショコラだ。
 折角だから本格的なチョコレート、とショコラティエたちが手伝ってくれるのだという。
「テンパリングをとってくれるみたいだから、こっちは型に入れたりする感じになるみたいだよ」
 宝石のような半円の型に、チョコレートはルビーとショコラの二種類。
 手伝ってくれる分、失敗は無いだろう。
「それで、チョコができたら花を選ぼうって話でね。お花屋さんも今日は近くに来ているみたいだよ」
 今日という日だけの為に、街の人々が広場に作ったちょっとしたキッチンスペース。グランピングのようなものだ。
「君を笑顔にする為の花を、ってことらしいよ。まぁ確かに、チョコレートと一緒に誰かに花を贈るのも良いのかもしれないね」
 日頃の感謝や、思いを。
 伝えるのにバレンタインはきっと良い日だから。
「破壊されてしまった街の通りや広場も、ヒールをすればきっと、また出歩けるような場所になるだろうからね」
 そう言って、千鷲は集まったケルベロス達を見た。
「チョコレート作りに花を添えて、折角だから思いを伝える日に何か作ってみるのもどうかな?」
 なにせチョコはショコラティエの手伝いつき。
 自分で食べても、誰かと食べてもきっと美味しくて素敵な時間になるだろうから!


■リプレイ

●今までとこれから
 淡い光が通りを抜けていく。地面にあいた穴が消え、血の名残が去る。軋んだ鉄の匂いだけが残る場所を見送るように真幸は息をついた。多くの教え子が巣立って行った先、その一つがここだったのだ。
「……」
「真幸さん?」
 手元に残った愛おしいものを大切にするように抱きしめれば、珍しいと笑う彼女の唇から懐かしい音が耳に届いた。
「先せ……睨まないで! 怖いから!」
 不機嫌顔で睨む男の、妻に先生と呼ばれたくはないという想いは果たして通じたか。懐かしさから秋子が口にした言葉が風に揺れ、ふいにした甘い香りに目を開く。そこにあったのは虹色とドット柄の薔薇で。
「この品種は元々あるの? 君を忘れないと無限の可能性かー」
「さあ? やれるか試してみた」
 そうとだけ返した人をもう一度見上げて、手を取る。
「チョコ作りに行こ。今日こそは美味しいチョコ食べさせてあげる」
 何せバレンタインの為に。今日この街は、甘い香りに包まれるのだから。

●ショコラの魔法
 さぁ大切な日のチョコレートを。甘いものからビターなものまで。会場を満たす甘い香りに、仄かに混じる薔薇の香り。
「チョコも添えられるなら、更にハートを鷲掴みにできるかな?」
 君に花を。そしてチョコを。冗談っぽく告げたウリルにリュシエンヌの笑みが返る。
「とっくに鷲掴まれ済みなの!」
 あっつく返る言葉。キラキラと輝く瞳にウリルは笑った。
 そうなれば後はチョコ作りなのだがーー……。
「良かった。無事、球体になってくれたか」
 君と俺、という意味を込めて。ルビーとショコラで丸いチョコを。
 お互い助け合い、支えたり補い合って円になる。夫婦というのはそういうものなのだと、思ったのだ。リュシエンヌと過ごしていく日々の中で。
「えっと、ルビーチョコは小さな花びらの形に……」
 宝石の形を、リュシエンヌが選んだのは大切に煌く想いを伝えたいから。きりっとビターなショコラを丁寧に流して、甘いピンクのチョコで作った花をひらり、と咲かせた。

 交換するにはビターチョコは難易度が高いか。そういや酒入れちまったなあーと、態とらしく響いた言葉にティアンは眉を寄せた。
「確かにティアンは甘いのすきだが、苦いのも克服を目指しているんだぞ。お酒だって五年は待たない、一年ちょっとだ」
 18歳を舐めてはいけない。5月が来れば、19歳にだってなるのだから。
「一体サイガの中でティアンは幾つなのか、記憶が改まっていないんじゃないか」
 不服を隠すことなく息をついて、にしても、とティアンは眉を寄せた。
「そんなに苦いのどうするんだ、誰かにあげるのか?」
「かもね。そういう日らしいからな」
 雑に頷けば「なら」とティアンの声が耳に届く。
「花もちゃんと選ぶといい」
「花、ねえ。センパイの知見をお借りしてえとこだが?」
 上機嫌のピコリと動く長耳。
「いいぞ」
 それならと始まるお話に、サイガは小さく笑みを溢した。
(「コイツこそ誰へ贈るのやら」)
 『記録からえらく様変わりした』少女が拙くも仕上げたプレゼントに、ひとつニヤついた。

「気に入りの物を詰め合わせたら宝箱みたいだろう? だから私の好きなモチーフ、好きな物だけを詰めるんだ」
 きらきらな宝箱に、カームは目を奪われていた。綺麗、と零れ落ちた言葉ひとつ、私も素敵なものを、とチョコとセロファンと向き合う。オーロラのセロファンで作った花芯に、花びらの型に切っておいたソフトチュールに重ねていくのだ。
「色は薄水色から濃い青で……」
 造花用の葉と茎と合わせチョコの青薔薇にしたものが出来上がる。ショコラは三種だ。
「カスミソウ代わりの小さな蕾状の白薔薇数本と合わせて束ねれば……ここは後でお花屋さんに相談ね」
 羽鳥さんは? と視線を向ければ、仕上がったチョコと箱を見据えている紺の姿があった。
「……これだとシンプルすぎでしょうか?」
 心配そうな彼女に、もしかしなくても、とカームは思う。
(「特別品の作成?」)
(「……かも?」)
 カームと玲央がそれとなく視線で会話をするのに今日ばかりは気がつかないまま、紺はチョコと箱を見ていた。二人には秘密だが、これは大切な人への贈り物で。
「玲央さんは、好きな物をなんですね。カームさんのもオシャレで……」
 大切な贈り物の為、試行錯誤する彼女を見守るように二人は微笑んだ。

「自炊はしてるが菓子作りとか日常的にはしねーからなぁ。ま、でもオレなら出来るさ」
 鍋もボウルも知らない仲じゃない。なにせ今日は頼りになる先生もいるのだ。
 よし、とレンカはチョコを手に金粉や銀粉を使って模様を描く。表面が固まれば、先に一度、チョコを型から出すのだと言うスウの動きをなぞるようにして作っていけば、キラキラが残るチョコができていく。何せスマートな大人の男に渡すのだから。
(「キヒヒ、あとはそうだな。魔女らしく魔法も込めよう」)
 この魔法が効くかはお前次第。
「……」
 上機嫌に楽しげにチョコレートを仕上げていくレンカを見ながらスウは小さく笑った。テーブルには上げていない、先に花屋で選んできたのは花束用の赤い薔薇。
 今あるこの感情は花言葉に任せよう。
(「さて、これからどんな華になって楽しませてくれるだろうね、この可憐な魔女さんは」)
 出来た、と型を手にした彼女が笑うのを見て、暖かな想いが胸に宿った。

「薔薇の街って素敵にゃね♪ 良いバレンタインにするのにゃ」
 セレネーの横、クロはキラキラと瞳を輝かせた。この地で作れるのは、ボンボンショコラだ。予定していたガトーショコラは作れないが、羽の形を再現するように飾りを選んでいく。だってこれはプレゼントなのだから。
「私は、中に溶けたキャラメルが詰まったボンボンショコラを作ってみたいのだけど、大丈夫?」
 ショコラティエと相談しながら、セレーネはボンボンショコラ作りを初めていく。とろり、甘い香りに知らず笑みが溢れた。大きめのものを一つに小さめを四つで猫の肉球風だ。
「さ、どうぞ、クロさん」
 添える花は白薔薇。相思相愛を告げる。一輪を貴方に。
「セレネーお姉ちゃん、ハッピーバレンタインなのにゃ♪」
 クロは笑ってピンクと黄色のガーベラを添えてチョコを渡した。

 どうせならば、と天音は金粉を手にチョコレートと向き合っていた。目指すはカッコいいドラゴンのデザインともう一つ。
「可愛い花のデザインで作ってみようかな……」
 二色を綺麗な色合いで作るように、まずは最初のブラックを型に流し込んでいく。
「……っ」
 指先にかかったチョコに眉を寄せる。緊張して妙にミスをしてしまう。それでも、深呼吸ひとつして天音はチョコレートと向き合う。大事な人のことを思いながら。
「綺麗に、作れるといいな……」
 これは貴方に渡すチョコだから。

 ダリアが預かってきたタッパーから姿を見せたのはコーンスターチに埋まったお酒のボンボン。
「色でお酒が分かるよ。そっと掘り出して刷いて型を取ったチョコに埋めれば良いみたい?」
「ボンボン……ウィスキーボンボンか! 酒入りのやつだな~うまそうだな~」
 ぱっと顔を上げたルヴィルが笑みを浮かべる横、ほう、と保は息をついた。
「朱砂にーはん、さすが器用やなぁ。うん、お酒入り、やってみよう」
 とっておきのボンボンと一緒に、3人はチョコレート作りを進めていく。
「見本のきらきらは銀粉? 筆で型に塗るんだよね」
 丁寧にノンアルコールでダリアはチョコを作っていく。固まるまでの待ち時間に二人を見ていた。
「ううん、ショコラに半円かな? こう、作ってるともう食べていいんじゃって気がしてくるな~」
 レシピを見ながら進めるルヴィルがそっと型を持ち上がる。その正面では、保が抹茶リキュールのボンボンをチョコに入れていた。
「ボンボンの中に、ボンボン……これですえ」
 チョコで蓋をしたら固まるのを待って出来上がりだ。
 薬膳屋の店主の力を借りながら仕上げられたチョコがテーブルに並んだ。試食タイムはこれから。とびっきりのチョコをみんなで食べるのだ。

●君に花束を
 キッチンスペースから外に出れば、花屋が多く姿を見せていた。
「キャッチコピーの千の花束は、「一万年の愛」を意味するそうだね」
 他は思い出せない、と眉を寄せるロコにメイザースは笑みを溢した。悩む姿を微笑ましく見守りながら、自らも薔薇を選ぶ。
「そうだな……やっぱり」
 これを、とメイザースが手にしたのは青の薔薇を11本。花言葉には奇跡や夢叶うというものがある。
「そちらは決まったかい、シアン?」
「これを」
 それは11本の赤薔薇。どれも君の眼の色に似てーーけれど。
「緋色、紅色、其々の赤が違った意味を持つみたいだ」
 二人、偶然のように本数が被ればその意味も気になってくる。
「ねぇ、この数の意味は?」
「ん、本数の意味? ……いや、秘密にしておこう」
 口元、笑みを浮かべた人にロコは眉を寄せた。
「……言うと思った」
「ふふ、気になるかい? 後でチョコでも食べながら調べてみるといい」
 秘密好きめ、と眉を下げ差し出すのは花束とチョコ。花のかんばせに乗せて。
「ーーありがとう」
 微笑んで、メイザースもシアンへと花束を渡した。君の夢を叶えるとっておきのまじないを込めて。

 結局の所、花を見るのは好きだが選ぶとなるとサッパリだったのだ。
 やっぱりお伺いを立てるしか、と人の良さそうな店主へとキソラが目をやれば、にっこりと笑った青年が何をお探しですか? と問う。
「……念の為で聞くケド食べれるのってある? あったらソレの花束で即決なんだケド」
「はい。ありますよ。花としては少し小ぶりになるんですが……」
 花束のタイプとかご希望ありますか? と問う店主に、キソラは少しばかり考える。あまり可愛らしくは無い方だ。派手っぽいの、と思えば色は強い方が良いだろうか。
「……花を贈って喜ぶかってぇとアレだが。キレイっつうのは一緒に楽しみたいし」
 笑ってくれたら嬉しいじゃんね。
 しゅるり、と巻かれるリボンを見送ってキソラは笑った。

「あのね、僕は白い薔薇を探してるんだけど、アークはどの白い薔薇がいいとおもう?」
「白い薔薇か……俺はこのほんのり黄色がかったやつ綺麗だな」
 優しい印象というか、ちょっとクリームっぽい感じで美味しそうに見えるな。
「いろんな種類があるんだね……。確かに綺麗…なら、この薔薇にするね」
 吐息を溢すようにしてやわく、笑った彼を見送って、さてとアクレッサスも花を選ぶ。チョコの色もピンク系だったし薔薇もやっぱりピンクが良いだろうか。
「なぁ、ブラッドリー。ブラッドリーはピンク色ならどんな感じの色が好きかな?」
「このね、淡いピンク色がいいなぁ……みて、ひらひら、綺麗」
「あぁ。確かに綺麗だな」
 小さく笑って、これを。と頼む頃には、ブラッドリーの花束も出来上がっているようだった。
「アーク」
 あのね、と声は落ちた声は静かに。手にされたのは9本の白い薔薇。
「……僕の、気持ちだよ」
「ブラッドリー」
 息を飲む音は響いただろうか。そっと受け止めて、彼にも花束を渡す。11本の薔薇を。どうか、幸せでありますようにと。

「プロポーズしたんだ。……いや、まあさすがに今すぐって話じゃなくて何年か先の約束だけど」
 気まずいような照れ臭いような気持ちになりながら、陣内は額の毛並みを弄っていた。
「他人へ報告したのは今日が初めてだ。笑うだろ。指輪を渡した後、肝心なことを言うのに10分くらいかかった」
 この俺が、と落ちた言葉に、ふうんとイサギは息をつく。驚きは無かった。未だだったのか、と思う心はあるが。ーーただ、照れ臭そうにする連れの横顔を眺めているのは面白かった。
「いらっしゃいませ。薔薇をお探しですか?」
 微笑んだ店主に案内されるがまま、出会ったのは色彩鮮やかな薔薇達だった。凛とした佇まいの一輪を見つけ、これを、とイサギは口を開く。
「色はピンクと黄色で」
 あふれるほどの花束を。
 黄色の花言葉は知っているけれど、彼女にはこの色が一番よく似合う。
 お客様は? と店主の声を受けた陣内は赤い薔薇を見ていた。
「……」
『彼女が心から望む未来が来るならそれでいい。妹と兄であれば、縁は繋がり続けるからね』
 イサギが楽しみなのは彼女ーー義妹の成長だ。
 静かに告げた男を思い出しながら陣内は視線を上げる。手には彼女の髪と同じ赤。辿るように選び取った色彩、その一輪を選んで大事に抱えた。あと一つはそこの堕天使に投げる為に。

「お客さん、花をお探しですか?」
「……ずっと一緒に居たい相手に贈るなら色と本数はどう選べばいいのか……」
 やや恥ずかしい気持ちを振り払い、蓮は花を眺める。バレンタインだ。チョコも用意したとなれば、だ。
「恋人さんですか? あ、言えないでも大丈夫ですよ。でもそうですね、ずっと一緒に居たいであれば……12本の薔薇とかどうです?」
 ダズンフラワー。プロポーズで有名な、古くヨーロッパに伝わるものだ。
「愛情や感謝、希望って言うのもあるんですけど。12本の薔薇を恋人に贈ると幸せになれるってのがあって。プロポーズでなくても幸せになれるって良いかなぁと」
「幸せ……」
 なぞるように言葉を落とす。想うのはただ一人。彼女の笑う姿に、その薔薇がよく似合う気がした。

「ということで……はい、環。環は去年一年、色んな事があって大変だったから」
 4本のピンクの薔薇と5本のオレンジの薔薇の花束を手渡して、アンセルムは環を見た。
「今年はキミにとって良い一年であってほしくて。前も言ったけど……ボクは環の笑っている顔が、本当に好きなんだ」
「ホント、友達が笑い事じゃないことになる展開が続いたときは焦りましたー」
 間延びした声と一緒に、軽く肩を竦めてーーふ、と環は笑った。
「アンちゃんにそう言わせるってことは、相当笑えてなかったんでしょうねぇ」
「冗談じゃなくて、本気でそう思っているからね」
 眉を寄せて、アンセルムは息をつく。
「だから環、笑って。少しだけでもいいから」
 祈るように、願うように寄せた言葉。受け取るようにして環は一度伏せた瞳を開く。
「今はこうして笑えるのは、アンちゃんにいっぱい支えてもらったから」
 だから……、と告げる瞳と出会う。
「ありがとう」
 ああ、と吐息を溢すようにアンセルムは笑った。そういう顔だ、と。
「ありがとう、環」
「ふふっ、アンちゃんの言葉はちょっとくすぐったいや」
 はい、どうぞ、と環は花束を差し出す。白薔薇を1本、4本の赤薔薇で囲った花束。
「ねぇ、アンちゃん。これからも笑った顔を見せれるくらい近くにいてくださいね?」
 微笑んでーー告げた。

 薔薇だけを扱う花屋も多いのだろう。色取り取りの花に、目移りし通しだ。悩むように足を止め、ウルズラは視線を上げた。
「三芝さんは、どんな花が気になりました?」
「そうだな……花もそうだけど、こんなに色があるとは思わなかったかな」
 赤系と白しかないと思っていたんだけど、と三芝・千鷲(ラディウス・en0113)は小さく瞬く。
「色々あるものだね。青い薔薇も気になったけど」
「薔薇って、色だけでなく束ねる本数にも花言葉? があるのですってね」
 これだけ種類があるんだもの、とウルズラは小さく微笑んだ。
「様々な想いを重ねたくなるのは、少しわかる気がするわ」
 とはいえ、贈る予定も決めていないから、気楽に好きなものを選んでいく。淡い黄色をメインに春らしい花束が出来上がった。

「折角だし、疎影にでも日頃の感謝、って名目で贈るか……ユリウスもどうだ? ノるか?」
「それいいね。サプライズ、だね♪」
 聞こえないようにヒソヒソと、話す二人にヒコは息をついた。
「おい、こら。企み聞こえてんぞ」
 眉を寄せた男の、髪が揺れる。驚る白梅が淡く薫ったか。
「勝手飾んのは構わねえが『取り敢えず……』のノリで寄越すなって」
 花はいいぞ、と口元美しい笑みを浮かべたヒコに流石ねぇと、ユリウスは笑った。
 友人達を茶化しながら、ヒコが選んだのは6本の紅の薔薇だった。
「……」
 さり気なく彩れる小ぶりの花々を前に、ヒコは目を細めた。手にした花の形に潜ませた僅かばかりの執着心。
(「――さあて、奴は『コレ』に気付くかね?」)
 此処には居ない贈り先を想い、ひとり忍び笑う。
「……」
 ユリウスが手にしたのはオレンジの薔薇。一本、二本と手にとって花弁を視線で撫でた。
「本数は8本……かなぁ」
 これで、受け取ってもらえなかったら……ねぇ。
 ほう、と落とした息ひとつ、金の瞳は思案に揺れーーふいに、長身が手にした花に気がつく。黄色の薔薇。
「あれ、確か……愛の告白って聞いたよ?」
 ふぁいと。とぐ、っと作るユリウスにつかさは苦笑した。
「……深い意味はないぞ? ウチの女性陣は胡乱な目で見て来るか、エンリョするかのどっちかってだけだから」
 独り身の寂しさに息をつくつかさになんだ、終わったのかい? と緩く笑うヒコの声がかかった。その手には薔薇の花束。
「え、疎影ったら……好い人いたんだ?」
「へぇ」
 にまにまと笑うユリウスに、ふ、とつかさが笑う。友人たちの生暖かい視線に、さてと男は笑ったか。あと二輪、合わせてとるのは二人へ。友情の花束を。
 想いと願いと祈りを込めて。甘い香りの踊る街にーー幸せな明日がやってくる。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月13日
難度:易しい
参加:31人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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