夢はいずこへ

作者:廉内球

 アレス・ランディス(照柿色のヘリオライダー・en0088)はケルベロスを集めると、まずは話を切り出した。
「ジグラット・ウォーでジュエルジグラットが制圧されたな、素晴らしい戦果だと思う」
 しかしすべてのドリームイーターを殲滅したわけではないのは、誰もが知るところだ。となれば残ったドリームイーターはどこへ行くのか。
「連中はどうやらデスバレスの死神と合流しようとしているようだ。かつて、ポンペリポッサがそうしたようにな」
 アレスが予知したのは『レイシーシェルとニャーさん』と呼ばれる一体だ。ドリームイーターとしての名前はレイシーシェルで、ニャーさんと呼ばれるぬいぐるみを連れているらしい。
「このドリームイーターを死神が迎えに来る。合流地点の場所を予知したので、そこへ向かって死神との合流を阻止してもらいたい」
 敵はドリームイーターのほかにザルバルクが十体ほど現れると予知されている。
 レイシーシェルは眠たがりでなかなか移動しようとしないが、戦闘開始からおおよそ六分後には移動してしまうだろうと予知されている。またザルバルクも下級死神とはいえ彼女を逃がすために全力で戦おうとしてくるため、撤退を阻止するためにはケルベロスも全力で相手をする必要があるだろう。
 ザルバルクの戦闘方法は特に変わったところはない。レイシーシェルのほうは本人のモザイク飛ばし及びモザイクでの回復、そしてニャーさんがカギを振り回して戦う。
「迎えが来るまでは隠れているらしくてな、合流して出てきたところを襲撃してくれ」
 しかし敵の数が多い。ただ戦うだけではドリームイーターを取り逃す可能性もある。ザルバルクを全滅させれば死神の勢力を削ぐことに成功したと考えることもできるが、ドリームイーターを逃がさないためには戦い方などの工夫の必要があるだろう。
「ドリームイーターは勢力として壊滅したとはいえ、他勢力に合流されては厄介だ。なんとか、ここで決着をつけてもらいたい」
 アレスはそう言うと、ヘリオンへの搭乗を促した。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)

■リプレイ

●魔法少女部隊、見参
 現場へ向かうケルベロスたちの目に、怪魚の群れと青髪の少女が映る。
「アイツが噂に聞いた夢を奪う夢喰いか?」
 レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)はぬいぐるみを抱えた少女の姿を見とがめる。
「なぜ死神なのか……理由はわからないけど、ここで合流させて戦力を増されるわけにはいかないね」
 夢見星・璃音(災天の竜を憎むもの・e45228)にリリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が応える。
「合流されたら最悪だよ、絶対にそんなことさせないよ」
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921) はうなずくと、手元のタイマーを合わせた。使える時間はたったの六分。その間に、ドリームイーターを撃破しなくてはならない。ビハインドのアルベルトと視線を交わし、戦闘の準備を整える。
 颯爽と駆けつけたケルベロスたちに、ザルバルグが真っ先に反応を示す。牙をむき威嚇してくる下級死神たちの後ろで、レイシーシェルは眠そうに目をこすった。
「貴女楽しい夢を探しているの?」
 アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)が問いかけるも、レイシーシェルは夢うつつ。質問を聞いているのかいないのか、ドリームイーターの少女は曖昧に頷いた。
「あなたたちはだあれ……?」
 問われて、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)をはじめとする幾人かのケルベロスたちが覚悟を決める。
(「ここは、頑張らないとっ!」)
 シルはプリンセスモードを発動! 普段より多めのフリルが可愛らしい服装に。年齢より幼く見える風貌も相まって、アニメの世界から抜け出してきたかのような魔法少女がそこに現れた。
「みんなの夢をかなえるため、魔法少女、プリティ・シル、見参っ♪」
「夢喰いからみんなの夢を守るため、魔法少女リリエッタも参上だよ」
「楽園の夢への導き手、魔法少女リオン! ここに顕現! ドリームイーターも満足するほどの夢、見せてあげるね?」
「香るアロマが夢を約束、魔法少女れお! この安眠枕はいかが、今なら子守唄もつけてあげる♪」
 無表情にポーズをとるリリエッタは、チームに一人はいるクール系の魔法少女。璃音は黒のゴシック衣装で決める。一方小柳・玲央(剣扇・e26293)がレイシーシェルに安眠枕を手渡すと、ドリームイーターの少女はぬいぐるみ――ニャーさんを手放して枕を抱きしめた。手放されてしまったニャーさんは玲央を威嚇するように鍵を振り回す。
 アウレリアの流すアニメチックでポップな音楽にシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)のロックが乗る。
「レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス!」
 シィカが天穹へ至れ、竜たちの唱(ドラゴニック・ライブ・センセーション)を高らかに歌うとともに、戦いの幕が上がった。

●魔法少女の見る夢は
 魔法少女たちの攻勢は、まずは防御主体のザルバルグに向かう。そんな彼女たちの雄姿に対して、気になるレイシーシェルの反応はというと……。
「……ちょっと、目が輝いてる気がしないか?」
「微妙デス……最初よりは眠くなさそうデスが……」
 レヴィンは目をこらして観察するが、おねむなドリームイーターは興奮も顔に出にくい性質のようで、シィカたちにはなんとも判断しづらい。
「こうなったら……!」
 レヴィンはゴーグルをつけ、咳払いを一つ。ついでに発声も確認して精一杯の悪人声を作ると、大音声で叫んだ。
「ついに見つけたぞ! お前が噂に聞いた……マジカルピュアレイシーってやつだな!? フハハお前が持っている夢エナジー、オレが全部頂いちゃうぜぇ!」
 こうなったら悪役になってやると、魔法少女名も即席でつけてやって夢の遊びに巻き込みながら、轟竜砲をぶっ放す。これで効かなかったら泣くしかない。
 だが。
「……マジカルピュアレイシー」
 ドリームイーターはもう一度自分の名らしきものを唱えると、こくんと頷いた。
「ドリームエナジーは渡さない……わるものはやっつける」
 半分寝ぼけたかのような言葉だったが、それでニャーさんのファイティングスピリットには火がついたらしい。アリシスフェイルに向かって飛びかかり、鍵を振りかぶった。
 アリシスフェイルは攻撃を斬霊刀【餞刃-origo-】で受け流し、死神のうち防御を主体とする個体へ氷結輪を投げつける。
「お探しの夢、私にもあるかもしれないわね。貴女の同族に夢が甘そうって言われたことがあるくらいだもの」
 アリシスフェイルの挑発に、ニャーさんが再び攻撃の機会をうかがう。一方レイシーシェルは、枕を抱えたまま赤い瞳でアリシスフェイルを見つめた。
「……なら、マジカルピュアレイシーに頂戴」
 ここにきて、レイシーシェルは完全にケルベロスたちに興味を持ったようだった。とてもすぐには逃げ出しそうにない様子は、ケルベロスたちに密やかな安心をもたらした。
「そうこなくっちゃ! 夢見る少女さん、今宵はここで楽しく踊りましょっ!」
 相手が乗ってきたことに安堵しながら、シルは複合精霊魔法を用いる。
「わたしの全力、目一杯味わってねっ! 精霊収束砲(エレメンタルブラスト)!」
 魔法少女らしく必殺技の名前を叫びながら魔術を放つと、それは違うことなく怪魚の一体を捉え貫く。ダメ押しとばかりに魔術で編まれた翼が生え、衝撃を殺しつつ追撃を行うと、ザルバルクの一体は消滅した。
「確かザルバルクの弱点は……」
 璃音は記憶の中の同種の個体の情報を呼び起こす。そしてその弱点を突くための攻撃を、時空すらも凍てつかせる弾を撃ち出してザルバルクに浴びせかけた。
 同時に、アウレリアが流す音楽をそっとヒーリング音楽に差し替えながら、片手で【Thanatos】を抜き、ザルバルクを撃つ。二体目が消滅し、守備に長けた個体はいなくなったようだった。
 玲央はアイズフォンでアウレリアに連絡を取る。
「時間はどう?」
「ちょうど二分といったところね」
「なら……総攻撃だ」
 玲央はドラゴニックハンマーを砲撃形態へと移行させ、轟竜砲を放つ。轟音とともにドリームイーターに着弾するが、かの少女は相変わらず眠そうに立ち上がった。
 その隙を逃すまいとリリエッタはブラックスライムを捕食形態にしてレイシーシェルに襲い掛かる。
「マジカルレゾナンスグリード、やっちゃえだよ」
 魔法少女のノリに合わせて、グラビティの名にマジカルと冠してみる。技としては普段と何も変わりないが、これもレイシーシェルをこの場に繋ぎ止めるためである。
 ザルバルクたちが騒ぎ始め、ケルベロスへ攻撃を行う。どうにかしてドリームイーターを撤退させるべく、必死の攻撃を行うが、肝心のレイシーシェルが動こうとしない。攻撃に焦りのようなものを感じつつ、ケルベロスたちは戦闘を続ける。

●決戦、魔法少女マジカルピュアレイシー
 レイシーシェルを積極的にかばおうとする個体を排除したケルベロスたちは、ドリームイーターを包囲しながらの集中攻撃に移った。邪魔者だけを倒し、残りの時間をレイシーシェルへの総攻撃に充てる作戦に、死神は攻撃で以てケルベロスの妨害をするのが精いっぱいという状況に陥っている。
「どうしてあなたの夢をくれないの? わたしのモザイクも晴れるかもしれないのに……」
 レイシーシェルはアリシスフェイルに問う。幾度目かの攻撃はやはりモザイクを飛ばすそれで、ケルベロスたちの夢を喰らおうとしているようだ。白銀の銃持つビハインド・アルベルトがそれを阻む。しかし、モザイクに包まれたアルベルトは銃口を下ろし、その引き金を引くべき相手を迷っているように見えた。
「何度やっても無駄デスよ!」
 その様子に気づいたシィカがビハインドに魔術切開とショック打撃を施すと、アルベルトの姿が消える。再び現れた場所はレイシーシェルの背後。
「そんなに眠りたいのであれば死神の元へ行く必要などないわ」
 アウレリアが冷徹にも告げる。レイシーシェルの正面と背後、アルベルトの銀銃とアウレリアの【Thanatos】がデウスエクスの弱点をぴたりと狙った。
「弱点は……そこね。遠慮なく突かせてもらうわ」
 二つの銃声は重なり合って一つとなり、ドリームイーターを穿つ。だが彼女を襲う弾丸はその二つだけにとどまらない。
「これで足を止めるよ! フリージング・バレット!」
 凍リ付ク冷気ノ弾丸(フリージング・バレット)は魔法少女リリエッタの必殺技。レイシーシェルとニャーさんの足元に氷が広がり、動きを阻害していく。
 そこに、玲央が接近。普段のそれとは違うはずのステップもどこか剣舞のようでいて、エアシューズに炎を纏い、華やかに、しかし鋭くレイシーシェルに蹴りを浴びせる。よろめくレイシーシェルが玲央を見る目は、少し羨ましそうにも見えた。
「素敵な動き……魔法少女ならそんな風にできないとだめ……?」
 首をかしげる少女に、璃音はまるで相談に乗るかのようにうーんと唸る。
「そうかもね、あとは技の名前を声に出してみるとか」
 言いながら、息を大きく吸い集中力を研ぎ澄ませていく璃音。あくまで警戒させずに大技を仕掛ける心づもりだ。
「こんな風に……この手に宿すは星の魂……蹂躙され続けてきた、地球の思い! 開け、新世界の扉! ステラーっ、グラディオー!」
 実演して見せるは実に八つもの属性を束ねた複合精霊魔法。それは巨大な光の剣となり、圧倒的なエネルギーでデウスエクスを襲う。レイシーシェルは間一髪で回避行動をとることに成功したが、それでも軽傷では済まない威力を持っている。さらに。
「まだだよ!」
 日本刀程度の大きさの剣による斬撃が、再びレイシーシェルに襲い掛かる。
「一気に行かせてもらうからっ!」
 畳みかけるようにシルが急所を狙う。その速さは電光石火。【白銀戦靴『シルフィード・シューズ』】の翼の意匠が風に乗り、鋭さを増してグラビティが叩き込まれる。
 蹴りによる猛攻は一方向だけではない。影が落ちたことにレイシーシェルが気が付くが、見上げたその時にはもう遅く。
「レヴィン!」
 スターゲイザーを放ちながら、アリシスフェイルは戦友の名を呼ぶ。このドリームイーターについて多くの情報をもたらした彼が、決着をつけるべきだと思うから。
 レヴィンの手首で、ブレスレット【黒猫の願い】が淡く輝く。放っておけない黒猫さんの、勝利の願いが籠った品だ。ゴーグル越しに見るその光に安堵を覚えながら、その光がドリームイーターをも包み込んでいくのを見守る。
 それが、噂に聞いたドリームイーターの少女とレヴィンとの、因縁の最後だった。

●夢喰い少女は夢と消え
「ごめんねニャーさん、死神さん。なんだか、とっても眠いの……」
 最後まで寝ぼけまなこだったドリームイーターの少女は、そう言い残して、ニャーさん共々光となって消えていく。璃音は聞き出せる情報があればと声を上げるが、その答えは返ることなく、レイシーシェルとニャーさんは完全に消滅した。
 あとは、掃討戦だ。ケルベロスたちは難なくザルバルグの群れを撃破すると、周辺のヒールに移る。
「悪ぃ、ヒールよろしく頼む」
 ゴーグルを上げたレヴィンは少しばつが悪そうに、破壊された周辺を見て言った。
「上手くつられてくれてよかったよ」
 玲央は炎架・吸毒飛蝶(リムーヴレシピ)によって蝶を生み出し、それらが止まった場所を修復していく。
 そんな中、リリエッタは璃音の顔が少し赤いことに気が付き首をかしげる。
(「意外とあの名乗り口上、恥ずかしかったな……」)
 戦闘中は興奮により忘れていても、いざ終わって振り返るとなんだか恥ずかしい。そんな璃音の感情とは対照的に、リリエッタは何事もなかったかのように後片付けの手伝いを始める。
「皆、良い演技だったわよ。子供達に見せてあげれば喜ぶのではないかしら」
 アウレリアにそう言われて、シルは満足げに微笑んだ。その左手薬指に、大切な人と交わしたリングが光る。
 アウレリアはふと、レイシーシェルとニャーさんの消滅と同時に止めたアラームアプリに意識を向ける。残り一分ほどを示したそれは、作戦の的確さの証左となるだろう。
「まだまだ、後片付けまでがロックデスよ!」
 シィカもギターをかき鳴らし、「ブラッドスター」の歌声で周辺一帯へのヒールに励む。シィカの歌は特別に上手いものではないかもしれない。けれどロックにかける情熱は誰にも劣ってはいない。
 アリシスフェイルはふと思う。もしレイシーシェルとニャーさんが、人に害をなすことがなければ。だがそれも、もしもの話に過ぎない。ジュエルジグラットを失ったドリームイーターたちは定命化の道を選ばず、死神勢力に合流しようとした。ならば、止めねばならなかったのだ。
 やがてヒールが終わると、幻想に補われた一帯からケルベロスたちが去っていく。
 あとは、最初からすべて夢だったかのように。静寂だけが、そこに残されたのだった。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。