歪で完全なる白き清純の姫君

作者:ハル

●博愛姫
 純白のドレスの裾と光の束を集めたような金髪が、海風に舞っていた。
 月明かりに照らされる雪のような肌。その場にいるだけで異様なまでの存在感を醸す少女は、黄金さえ霞む魅力を惜しげもなく放っている。
「どうして皆、仲良くできないのでしょう?」
 夜空を……そこにあったはずのどこかを見上げながら、少女は小首を可愛らしく傾げ、天使のような美声で言葉を紡ぐ。
 ――ああ、何故なのでしょう。少女には認識ができない。その小さな手に持たぬものなど存在しない少女には、争い合う意味が分からない。こんなにも、世界は満たされているというのに。
 そこに優越などはなく、ただ当たり前のものとして少女はそこに在った。
 ザルバルクと接触するその時まで、そしてこれからも……。

●残党
「まず、ジグラット・ウォーにより、ドリームイーターの本星シュエルジグラットを見事制圧したという多大なる成果を労わせてください。地球側に一切の被害を齎さない上での勝利は……実に見事でした!」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、抑えきれない興奮を声に宿してケルベロス達へと頭を下げる。
「――が、毎度の事で非常に申し訳ないのですが、それに関連したご報告もございます。ドリームイーター勢力は、その勢力としては壊滅しましたが、『赤の王』『チェシャ猫』らは生き延びているようなのです。そして他の生き延びたドリームイーターを導き、魔空回廊を使って戦場から逃げ出していた事が判明しました」
 ほぼ全てのドリームイーターはジュエルジグラットと運命を共にしたため、残党は数としては多くはない。しかしポンペリポッサと同じくデスバレスの死神勢力に合流しようとしており、そんなドリームイーターを迎え入れようと下級死神の群れが派遣されている事が予知されたのだ。
「少数とはいえ、放置しておけばいずれ大事になる可能性も否定はできません。合流地点に向かい、派遣されている下級死神含め、残党のドリームイーターの撃破に向かってください!」
●白の嫉妬心
 休む間もないと苦笑しつつも、戦意を高めるケルベロス達。そんな彼らに感謝しながら、桔梗が死神とドリームイーターの合流予測地点に加え、戦力をモニターに表示させる。
「皆さんに対処をお願いしたいドリームイーターの残党は『博愛の姫君』。神奈川にあるとある海辺に隠れ潜んでいるようです。夜も深いため、人影はありません。下級死神――ザルバルクの群れが姿を現せば、デスバレスに移動するため、博愛の姫君も必ず表に出てきます。チャンスはそこです」
 戦闘開始後6ターンが経過すると、博愛の姫君はケルベロスの足止めも虚しく準備を終えた死神の助力によりデスバレスへと撤退してしまう。ザルバルクの群れは姫君撤退支援のために死力を尽くすと想定されるので、ただ戦うだけでは五分五分の確立で撤退されてしまうだろう。
「ですので、負傷を覚悟でザルバルクの存在を無視する、姫の特性を利用した言動で挑発するなどできれば、撤退を阻止しやすくなると思われます。ただ――」
 それまで淀みなかった桔梗が、急に言い淀む。
「皆さんに対処してもらう博愛の姫君に一癖あると感じるのは、その在り様にあります。彼女はその……本当の意味で純粋無垢な姫なのです」
 ドリームイーター『博愛の姫君』は、他者を羨む心を欠落している。そしてその欠落に相応しいだけの完全無欠の美少女であり、白き純粋な心の持ち主だ。しかしそれゆえ、その姿を一目見た存在は、その完全無欠の美少女ぶりに嫉妬心を刺激され、モザイクに囚われてしまう。
「厄介なのは、姫には他者を害しているという自覚がない点ですね。彼女自身に羨む心が欠如している事も含めて……。自覚なく、認識もできない。そこに悪意は僅かもありません。博愛の姫君は、常に幸福な世界に生きているのです」
 もしかするとジグラット・ウォーや、そこに至った経緯などについても、彼女は理解できていない可能性すらある。
「ゆえに彼女は目に見える形で力を振りかざす事はありません。その仕草、態度、言霊によって無自覚に皆さんをモザイクで侵食してくるでしょう」
 最後の最後まで暴力を振りかざす気配を微塵も出さず、融和と博愛をケルベロス達に対して訴え続けるに違いない。そんな博愛の姫君を守ろうとするザルバルクは、さながら姫を守る騎士のような立ち位置が、彼女から見た世界となるのかもしれない。
「改めて、ドリームイーター勢力をほぼ壊滅に導いた功績を称えさせてください。出来るならば残党と死神勢力の合流は阻止したいですが、博愛の姫君を撃破するか否か、その方法含め、全てケルベロスの皆さんに委ねたいと思います」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)
朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)

■リプレイ


「どうやら、間に合ったようね」
 植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)達ケルベロスは、その視界に博愛の姫君を捉える。彼女は夜闇に紛れて回遊する下級死神――ザルバルクに守護されながら、デスバレスとの回廊が繋がる時を海辺で待っていた。
「あら?」
「――ッ」
 緊張が高まる中、しかし姫君は危機感を垣間見せもせずに楚々と振り返る。その美貌に、碧達が息を飲む程の微笑みを湛えて。
「やっぱり、あの子の顔とかを直視するのは避けた方がよさげ……ですね」
 笑みを見た瞬間、巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)は自身の胸中に嫉妬、保護欲、その他あらゆる感情が渦巻くのを感じ、目を逸らす。
「みたいだね。しかも無自覚ときたもんだ。……これほど質の悪いものはない」
「…………?」
 豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が眉根を寄せた。事実、姫君はケルベロス達が何故警戒を強めているのかをまったく理解していない様子。
「んんーーーー、ちょっとやりにくい相手デスけど、黙って見逃すわけにはいかないのデス!」
「ええ、わたくしも同感です。見逃すわけには……参りませんね。決して」
 出方を伺う仲間の心に火をつけるように、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)がギターの弦を弾く。朝比奈・昴(狂信のクワイア・e44320)の瞳は、冷然と姫君に向けられていた。
(「満たされているから、何も要らない……。どうしてでしょう、不幸と思い込んで何も望めなかった人のことを思い出してしまいました」)
 折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)の脳裏に、両親の面影が過る。生きながらに死んでいた『誰か』。きっとその誰かと姫君は対極にいて、分かりあえる事はないだろうという確信。
「あの、皆さんはどちら様かしら?」
「どちら様か……難しい質問だね。ケルベロスと言って伝わるだろうか?」
 この期に及んでそんな問いを投げかけてくる姫君に対し、キルロイ・エルクード(ブレードランナー・e01850)は脅かさないよう、仮面の裏の表情や声色を努めて穏やかにして答える。
「ケルベロス、さん? ……あ、ああ! ここしばらくの間に、幾度か耳にした事がありますわ。ただ――」
 それに対する返答も、まるで世間話のよう。それでもさすがに良い噂ではないのか、姫君は苦笑を浮かべていた。
(「個人的にはじっくりと会話をしてみたい気持ちもあるが。皆さんに委ねた答えは……」)
 どこか間の抜けた言葉を交わしながらも、ケルベロス側の戦意は急速に高まっていた。キルロイは「やるだけやってみるか」そう小さく呟くと、ザルバルクに鋭い視線を向ける。
(「ドリームイーターは欠落に苦しんでるイメージがあるけど……あのオヒメサマは嫉妬心がないから逆に満たされてるんだね……」)
 大事な心が欠けているにも関わらず完全、超然とした雰囲気の姫君。だが、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は朧げながら理解する。心ある限り、完全な存在にはなれない事を。マヒナは孤独が嫌いだ。しかし姫君は、きっと一人でも寂しいとは感じない。完全である事は、イコール心のどこかが欠けているという証明。
「あの、何か御用――」
「さぁ、始めるデス! レッツ、ロックンロール! ケルベロスライブ、スタートデス!」
 姫君の言葉を遮るようにして、シィカがギュイーーンとギタを掻き鳴らし、音を奏でる。誰もが口を揃えて絶賛する音楽ではなくとも、シィカの音楽は勢いと熱を前衛に与える。
「同情する余地はあるかもしれない。でも、だからって死神と合流させる訳にはいかないわ」
 続いて、スノーを一撫でした碧が、後衛から順にカラフルな爆風でエンチャントを付与する。
「ありがとう、アオイ。アクアとスバルは、これも受け取って」
 マヒナのエクトプラズムが仲間の肉体を覆う。
「碧さん、マヒナさん、ありがとうございます。そして皆さんに、聖王女のご加護と恩寵がありますよう」
 昴が、姫君に向けるそれとは異なる穏やかな微笑を浮かべ告げる。
「こんな時こそ盛り上がっていくデッス!!」
 演奏しながらシィカが親指を立てたのを合図に、皆の視線が重ねり頷き合う。
 しかしすぐに意識を姫君へと向け直すと、アロアロとスノーがBS耐性を撒いた。
「……えっ、……ええ!? や、やめてください!!」
 姶玖亜が手始めに『フォーリングスター』の銃口を姫君へと向けると、ようやく彼女の顔が動揺に揺れる。その仕草、その声色は、どこにでもいるただの少女と同じように恐怖で満ちていた。しかしハート型の胸元から無意識の内に溢れ出したモザイクが言霊となり、姶玖亜達後衛の心を縛り付けようとする。
「悪いけど時間がないんだ。……やめる訳には……いかないね」
 ――さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!
 が、後衛には既にある程度エンチャントが施されており、姶玖亜は僅かの躊躇を見せただけで、トリガーを引く事に成功する。銃弾は姫君の足元へと絶え間なく打ち込まれた。
「ザ、ザルバルクさん!?」
 硝煙の匂いが立ち込める中、姫君が驚いたように声を上げる。彼女を守護するように、およそ半数のザルバルクが壁役として前に出たからだ。
「ディフェンダーの個体数は5体か。懸念していた、奴ら全てが守勢に回る状況を避けられたのは有難いが……」
「はい。作戦通り、速やかにディフェンダーを排除する方針でよさそうですね」
 キルロイと菫を中心に、把握した敵戦力を仲間全員と共有する。
「姫様、死神はお前さんを利用しようとしているだけだ!」
 Dfザルバルクに集中して弾幕を散らしながら、キルロイの声が凛と響く。
「ど、どうしてそんな、ああ、いけませんわ! でしたら話し合いを! こんな喧嘩や争いはよくないわ!」
(「くっ、そうしたいのは山々だが……!」)
 キルロイが眉根を寄せる。いくらザルバルクが下級死神であるとはいえ、現状では手を休めている暇はないのだ。
「…具現化するは魂の異形…その爪牙をもって…命の炎、戴きます……!」
 茜が手を翳す。すると、爪と牙を有した血肉なき異形の羊が顕現する。ルーンと思念を帯びた羊は、動きが鈍くなってきた前衛のザルバルクに狙いを定め、喰らい尽くす。やがてその魂を全て己が燃料とした後、羊は死神と共に霧散した。
「……!?」
 死神が消滅した事で、姫君が瞠目する。
(「やっぱり手加減している余裕なんてないっすね。とっとと叩っ斬って、残ったお魚も三枚におろさないと!」)
 ドラゴニックモップから爆発的なパワーを噴射した菫が、強烈な一撃をザルバルクに叩き込む。
 途端、中衛後衛のザルバルクもまた、反撃の為に動き出した。
「どうして、こんな事を……」
 姫君はただ、理解できないとばかりに茫然自失。その頬を透明な雫が伝い、菫の心を猛烈な罪悪感で染め上げようとするが、彼女は辛うじて視線を逸らせて回避した。
「本当に、無自覚にやることがえげつないですね。欠けた心で何も認識できずにいられたら、さぞ幸せでしょう」
 菫は紡ぐ言葉に、あえて毒を垂らす。
「姫様以外の存在が居なくなれば、争い自体起こんないから平和ですよね。あなたはそんな状況を体言するために生まれた……私はそう思っていますよ」
「そんな、酷いわっ!」
 瞬間、姫君の碧眼が悲痛な色を帯びるのが分かった。
 そんな嘆きを、昴は右から左へと聞き流す。欠落した事実への憐れみこそあれ、壊れたスピーカーから流れる音などに意味はないと感じているからだ。欠落した心が仮に戻ったとして、姫君が姫君でいられる保証などどこにもない。モザイクとは、そんな甘い物ではないのだから。
「――聖なるかな、聖なるかな。聖譚の王女を賛美せよ。その御名を讃えよ、その恩寵を讃えよ、その加護を讃えよ、その奇跡を讃えよ」
 祈りを捧げながら、昴の全身にワイルドスペースが広がる。その侵食は想像を絶する苦痛を伴うも、昴は信仰によってそれら全てを捻じ伏せ、黒く淀んだスライム状の半獣と化した。半獣の爪牙は、狂信と狂乱と共にザルバルクへと襲い掛かった。


「――きゃあ!」
 昴の煌めきと重力を帯びた飛び蹴りが、姫君の純白のドレスを血と海辺の砂で穢す。
「お店で鍛えた皿割りのテクニック、その身でしかと味わうといいですよ!」
 菫が姫君に付与されたエンチャントを一掃するため、「あんまりお皿使わせないでくださいよ? 今月ピンチなんですから」そんな軽口を叩きながら、どこからともなく取り出した皿を投げつけた。
「3分経過よ!」
 その時、碧が声を張り上げる。
「碧さんは経過報告サンキューデース! 皆さん、もっともっとボクの音楽に乗るデス!」
 シィカは炎の息を放ち、都合4体目のザルバルクを炎上させて屠る。姫君への敵意は、一見何の揺らぎもないように感じるが。
(「抵抗してこない相手を殴るのはちょーーとだけロックじゃないような気もしますが、えぇーい、それでもロックなソウルを見せつけてやるのデス!」)
 彼女は彼女なりに、ギターピックの先程度には思案を巡らせている。しかし、シィカは考える事はあまり得意ではない。妙案を思いつくことは叶わなかった。ならば、一度こうと決めた道を突き進むだけだ。
「ケルベロスさん達も、ザルバルクさん達も、喧嘩はやめましょう? ね、ね?」
 そんな中、姫君はケルベロスのみならず、彼女の味方であるはずのザルバルクにまで停戦を呼び掛けていた。姫君は敵として相対しているはずのケルベロスに対しても、傷を負ってなお平等に接しようとしている。
「博愛、ね。せめて彼女にほんの僅かでも悪意があったなら……」
 ザルバルグと、姫君の無自覚な力の前に立ちはだかりながら、碧は握りしめるドラゴニックハンマーがいつもよりも重く感じた。悪意を向けてくれたら、どんなに楽だろう。モザイクの坩堝に一時とはいえ囚われかけた事も影響しているのかもしれない。モザイクに抗う事は容易ではないと、碧は深く実感として知っているゆえに。
 竜砲弾を放つ碧に、スノーが安らぎを与えるようにヒールをかけ、言霊の制約を解いてくれる。
「でぇえやあああああああ!」
 キルロイがザルバルクに突き立てた武装からグラビティが波のように広がり、噴き上がる炎が内部から瓦解を誘発させる。
 マヒナはアロアロと協力して、支配の影響が色濃いシィカへとオーラを溜める。幸いにも、メディックを中心としたヒールによって催眠の影響は最小限に。代わりに、Dfザルバルクの討伐には少しばかり時間を要したが、
「――おっと、お姫様への攻撃は阻まれたか。でも、これでお姫様を阻む壁はもうないよ」
 姫君を庇った最後のDfザルバルクが、姶玖亜のパズルから放たれた竜を象る雷を受けて沈黙する。
「生き物は生きてるだけで何かを害してるんですよ。博愛を願うあなたも例外ではありません」
 最早姫君への攻撃を阻む存在はない。が、茜の心は姫君の発する言霊、その繰り返される停戦要請によって悲鳴を上げている。
「そんな状態でどうやって『みんな』が幸せになれるのでしょうか。教えてくださいよ」
「皆さんで手を取り合えばいいんです! 簡単な事ですわ!」
「そんな世界、私は御免ですね。羨ましいってのは悪くないと思っていますから。だってそれを持っていれば、今日よりマシな自分になれるかもしれない!」
 茜は優しき全てが満たされた世界を否定し、現実を望む。仮にそこが辛い思い出に浸されていようとも。彼女の血潮が熱く滾る限り。
「正直、ワタシはアナタを羨ましく思うよ。嫉妬で自己嫌悪に陥ったこと何度もあるから……。だけど……うん、アカネの意見にワタシも賛成。マイナスな気持ちもあってこそ、人間らしいと思うから」
 人との繋がりは、幸福だけで満たされることなどありえない。マヒナと抗う人見知りのアロアロも、きっと気持ちは同じ。
(「彼女は幸福だとしても世界には不幸が溢れてる。彼女が平和を望んだとしても、彼女の存在が死を齎す」)
 最大の皮肉は、姫君自身のモザイクが、彼女が望む優しい世界を決して許容しないという点。
(「残るのはグラビティ・チェインを貪り尽くされた亡骸だけさ……」)
 その矛盾に、姶玖亜は思った。
「死神と袂を別つべきだ。不和と破壊を望むのはお前さんの後ろの死神の方だ。……俺に君を殺させないでくれ」
「……私には分かりません。皆さんは優しい気持ちをお持ちなのに、仲良くできない理由が、私には理解できません」
 キルロイの説得虚しく、姫君の出した結論は実に彼女らしいもの。彼女の欠けた心では、ケルベロスの考えを理解する事は暗闇の中で砂粒を探すような奇跡に等しい。
「五分よ。もう……時間だわ」
 やがてソッと目を伏せつつも覚悟を決めた碧が、終幕を知らせる。僅かだが、抵抗する様子を見せない姫君を撃破するには十分な時。博愛の姫君はその特性上、本来なら戦闘力に関しても比類なき力を有している可能性は否定できないが、彼女にそれを振るうつもりは毛頭ないのだから。
「今からでも間に合うわ。仲良くしましょう?」
 姫君が白き純粋な想いと共に手を差し出す。しかしその手は彼女の自覚ないままに、モザイクに塗れていた。
「だからこそのドリームイーターなんでしょうね。私達とあなたは近いようで――」
 きっと遠い。
 加速した菫は、融和を願う姫君へとドラゴニックモップを振り上げた。


(「頃合いか。お嬢さん方はとうの昔に覚悟を決めている」)
 姫君は死神の手を離す事はなかった。彼女にとって死神とケルベロス、どちらもが愛すべき対象。ここに至れば、キルロイも覚悟を決めざる得ない。彼女が悪事に手を染める前に、バスターライフルの砲口を姫君へと定める。
「ワタシも、アナタのいう通りのセカイだったらどんなにいいかと思う……でもごめんね、世界って優しいだけじゃないから……」
 マヒナが時空凍結弾を精製する。
「こんなの、こんなのよくないわ? 皆で平等に思いやれば――」
「キミの言葉に耳は貸さないよ」
 姶玖亜が静かに銃を構え、会話を打ち切った。
「この身を苛む苦痛、苦難という試練ある限り。聖王女の御心がままに、あなたを討ちます」

 昴に迷いはない。ドリームイーターの行く末を見届けるその日まで、信仰を捧げるのみ。
「ボクには難しい事はあまり分からないデスが、それでもキミを放っておく事はできない、それだけは分かったのデス!!」
 シィカにとっては、それで十分。炎を纏い、ロックに音を奏でる。願わくば、博愛の姫君の逝く先にも、その音が届くようにと、そう願いながら。

 姫君を撃破した後、ケルベロス達は無事ザルバルクを一掃した。
 決して後味は良くない物語。それでも変わらず、夜は明ける。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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