荒ぶる除雪機

作者:ゆうきつかさ

●長野県某所
 全国的な暖冬が災いして、スキー場には雪が無かった。
 そのため、オープンする事さえ出来ず、従業員達が雪乞いをするほど暇だった。
 そんな中、半ば放置状態にあった除雪機に、蜘蛛のような姿をした小型ダモクレスが入り込んだ。
 その影響で除雪機が機械的なヒールによって作り変えられ、家電製品っぽい雰囲気のダモクレスに変化した。
「ジョセ、ジョセ、ジョセツキィィィィィィィィィィィィィイ!」
 次の瞬間、ダモクレスが奇妙な鳴き声を響かせ、倉庫の壁を突き破ると、雪乞いをしていた一般人達に襲い掛かるのであった。

●セリカからの依頼
「モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)が危惧していた通り、長野県某所のスキー場で、ダモクレスの発生が確認されました。幸いにも、まだ被害は出ていませんが、このまま放っておけば、多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまう事でしょう。そうなってしまう前に、何としてもダモクレスを撃破してください」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 ダモクレスが現れたのは、長野県某所のスキー場。
 普段であれば、スキー客が溢れ返っているものの、今年は暖冬の影響で地面が剥き出しになっており、オープンが遅れているらしい。
 しかも、ダモクレスと化した除雪機は、ここ数年大した活躍も出来ず、埃を被っていたようだ。
「このダモクレスは地面をガリガリ削りながら、一般人に襲い掛かり、その命を奪おうとしています」
 セリカがケルベロス達に対して、ダモクレスに関する資料を配っていく。
 どうやら、ダモクレスは雪を求めて彷徨っているようだが、どこにも見当たらないため、八つ当たり気味に従業員達に襲い掛かり、グラビティ・チェインを奪っているようだ。
「とにかく、罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。何か被害が出てしまう前にダモクレスを倒してください」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、ダモクレス退治を依頼するのであった。


参加者
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)

■リプレイ

●長野県某所
「……今度は除雪機かい。ダモクレスも手当たり次第だねえ」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)は仲間達と共に、ダモクレスが確認された長野県某所にあるスキー場にやってきた。
 スキー場は暖冬の影響で、本来あるはずの雪がまばらで、あちこち地面が見えていた。
 そのため、滑る事が出来る場所が制限されており、スキー客達の数も少なく、閑古鳥が鳴いているような状態であった。
「除雪機さん……お仕事無くなっちゃって不機嫌なんでしょうかっ。雪がないとお仕事がないのは、ちょっぴりかわいそうかもですねっ」
 細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)が同情した様子で、悲しげな表情を浮かべた。
 以前まで、この辺りでは嫌と言うほど雪が降っていたため、除雪機が大活躍していたようだが、今となっては昔の話。
 暖冬が続いている事もあり、除雪機は無駄に場所を取る御荷物扱いだったようである。
「確かに、お仕事がない除雪機さんを利用するのはいけませんわね」
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が危機感を覚えつつ、スキー客に避難を呼びかけた。
 しかし、スキー客達に危機感はなく、何処か他人事のようだった。
 それでも、ちさが必死に呼びかけた事によって、少しずつではあるが、彼らの考えも変わっていき、呼びかけに応えて倉庫の傍から離れていった。
「……2月に入り、やっと天気も冬模様へと傾き始めた頃合いなので、なるべくなら……活躍の場を取り戻させてあげたいもので御座いマスガ……」
 モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)が、複雑な気持ちになった。
 だが、暖冬が続いている限り、除雪機の出番はない。
 それ故に、ダモクレスに取り込まれる事が無ければ、使われる事が無いまま倉庫に眠っていた可能性が高かった。
「本当は余分な雪を除けたりして、ただ皆さんの役に立ちたかっただけなのかもしれません……。そんな除雪機さんが、手持ち無沙汰につけこまれてダモクレス化してしまったのは可哀想ですが……」
 地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)が深い溜息を漏らしながら、警戒した様子で倉庫に近づいていった。
「困っている人がいる以上、放っておく訳にもいかないよね」
 そんな中、シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が、物思いに更けていた。
 シルディは事前にSNS等を活用して、雪の困窮具合と共に除雪機の事を調査したのだが、暖冬のせいで何処も深刻なようである。
「しかし、何と言う鳴き声だ」
 ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が、スキー客の避難誘導をしながら、殺界形成を発動させた。
「ジョ、ジョ、ジョセツキィィィィィィィィィィィイ!」
 それに気づいたダモクレスが地面をガリガリと削りながら、逃げ惑うスキー客の後を追うようにして迫ってきた。
「……まるで悲鳴のようですわね。だからと言って、このまま放っておく訳にはいきませんが……」
 ちさが複雑な気持ちになりつつ、スキー客達を守るようにして間合いを取った。
「豪雪地帯ならば引っ張りだこかもしれぬでござるが、ダモクレスと化した事で、目につく全てを除けるつもりのようでござるな? ……そうはさせぬでござる。一先ずは被害を出さぬが先決、まずは打ち砕かせてもらうでござる!」
 それに合わせて、不動峰・くくる(零の極地・e58420)が、ダモクレスの注意を引いた。
「ジョセツキィィィィィィィィィィイ!」
 その事に腹を立てたのか、ダモクレスも甲高い鳴き声を響かせ、ケルベロス達に向かってきた。
「雪が降らねえからって血の雨を降らさせる訳にはいかねえしな。来年、活躍の機会があるかも知れねえのにダモクレス化とは勿体ねえが……。とりま、ぶっ壊させて貰うぜ、修理できるかどうかは、その後だ。……俺はオウガ、柴田鬼太郎! どっからでもかかってきやがれ」
 そう言って鬼太郎が自ら名乗りを上げながら、ダモクレスの行く手を阻むようにして陣取るのであった。

●スキー場
「ジョセツキィィィィィィィィィィィィィィ!」
 それでも、ダモクレスは耳障りな機械音を響かせ、一気に距離を縮めてきた。
「天より舞い降り積もり、すべてを優しく包み込む聖霊よ。その奇跡を今ここに具現化せよ!」
 すぐさま、シルディが、ゆきの小人さん(ユキノコビトサン)を発動させ、詠唱と共に氷柱を出現させ、瞬時に気化させて雪の小人さんを登場させた。
 雪の小人さん達は楽しそうにダンスを踊りながら、大量の雪を振り撒いた。
「雪ィィィィィィィィィィィィィィィィ!」
 次の瞬間、ダモクレスが興奮した様子で、雪の小人達に迫ってきた。
 その事に気づいた雪の小人達がビクっと身体を震わせ、雪を撒き散らしながら逃げていった。
「……こちらデス!」
 続いて、モヱがフリージングブリザードを発動させ、高速回転する氷結輪から冷気の嵐を噴出させた。
「せめて僕達のグラビティで雪に触れさせてあげましょう……!」
 夏雪も冠花(カムリバナ)を発動させ、ダモクレスの周囲に、グラビティの乗った雪を展開した。
「ジョセ……ツ……キィ……」
 その雪に導かれるようにして、ダモクレスが人気のない場所まで誘導された。
「……これはキミが望んでいた事なの? 一緒に働いてきた人達の事を思い出して! みんなの悩みはキミと同じ、雪が降らない事。辛いのも、きっと同じなんだよ! 今もみんなは雪を呼ぶお祈りをしてたんだよ。いつかはきっと雪が降る。その時キミがいなかったらスキー場のみんなはきっと寂しく思うよ。今までの素敵な思い出の為にも、そしてこれからの思い出の為にも、お願い止まって!」
 それを目の当たりにしたシルディが、信じられない様子でダモクレスの前に陣取った。
「ジョセツ……キィィィィィィィィィ!」
 その言葉を聞いたのと同時に、ダモクレスが一瞬……ほんの一瞬だが、躊躇ったかのように動きを止めた。
 だが、ボディの中で激しく何かが暴れまわっているのか、悲鳴にも似た機械音を響かせ、ケルベロス達に突っ込んできた。
「……どうやら説得は無理のようですわね」
 ちさがウイングキャットのエクレアと連携を取りつつ、旋刃脚でダモクレスを牽制した。
 エクレアもキャットリングを仕掛け、ダモクレスの注意を引いた。
「その心意気は買うが、今暴走しているのは、別の何かが原因だ。まずは戦うぞ、シルディ。速やかに対象を破壊……いや、停止させる」
 ハルがシルディに声を掛けながら、スターゲイザーを仕掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りと共に、強烈な一撃をダモクレスに食らわせた。
「あなたの本来のお仕事は人々でなくっ、コレをお掃除することではっ? お掃除しなくっちゃいけないもの、思い出してくださいっ!」
 それに合わせて、つららがダモクレスに語り掛けながら、ジュデッカの刃を放ち、冥府深層の冷気を帯びた手刀で、ダモクレスを凍結させようとした。
「ジョセ、ジョセ、ジョセツキィィィィィィィィ!」
 しかし、ダモクレスは興奮した様子で、自ら攻撃を喰らうようにして突っ込んできた。
「だったら、拳と拳で語り合うしかねえだろ!」
 鬼太郎が豪快な笑い声を響かせながら、メタリックバーストを使う。
 続いてウイングキャットの虎が猫パンチを繰り出そうとして前脚を見つめ、ダモクレスを一瞥した後、仲間達の傍に近づき、清浄の翼を発動させた。
「拳と拳……ですか」
 夏雪が複雑な気持ちになりながら、プラズムキャノンを発動させ、圧縮したエクトプラズムで大きな霊弾を作って、ダモクレスにぶち当てた。
 だが、ダモクレスは止まらない。
 剥き出しになった機械部分を見せつけながら、ケルベロス達に迫ってきた。
「お主の相手は拙者でござる! 我が『轟天』『震天』の力、とくと見るが良い!」
 それを迎え撃つようにして、くくるが赤いマフラーを揺らしながら、ガジェットの巨大手甲『轟天』と『震天』を装備し、ダモクレスに突っ込んでいった。
「……その動きを止めますっ!」
 続いて、つららが氷鬼(コオリオニ)で何処からともなく1本の氷剣を出現させ、ダモクレスのボディに突き刺した。
 ダモクレスは避けるどころか、自ら氷剣に食らいつき、ダメージを受けて、沢山のパーツを撒き散らした。
「……よほど雪が恋しいのデスネ」
 モヱが色々と察した様子でミミックの収納ケースと連携を取りながら、フリージングブリザードを発動させ、高速回転する氷結輪から冷気の嵐を噴出させ、ダモクレスを凍りつかせた。
「それじゃ、語り合おうじゃねえか」
 その間に、鬼太郎がダモクレスに飛び乗り、オウガナックルを叩き込み、ボコボコにボディをヘコませた。
「『右腕『轟天』、グラビティ吸収機構稼働! お主の力、頂くでござる!』
 それに合わせて、くくるが右腕『轟天』に備えられたグラビティ吸収機構を稼働し、鉤爪でダモクレスを引き裂き、同時に相手のグラビティを吸収した。
「君には、まだ役目が残っているはずだ。それを狂わせる邪なる機構を断つ。この一撃を以て鎮まるがいい。だから、ここで……さよならだ」
 そんな中、ハルがダモクレスに語り掛けながら、レゾナンスグリードを仕掛け、ブラックスライムを捕食モードに変形すると、ダモクレスを丸呑みさせた。
 それでも、ダモクレスが必死に抵抗していたが、ブラックスライムからは逃れる事が出来ず、その機能を停止させた。
「……被害を最小限に抑える事が出来たようですわね」
 ちさが、ゆっくりと辺りを見回し、ホッとした表情を浮かべた。
 仲間達がダモクレスの注意を引いた事もあり、スキーコース自体に大きな被害は出なかった。
「雪が降り過ぎても困りものですが、全然降らないのも物悲しいですね……」
 夏雪が複雑な気持ちになりながら、ダモクレスだったモノを見下ろした。
 ダモクレスだったモノは激しい戦いによってボディが損傷し、動力部分も壊れていた。
「……どうにか再生できないでショウカ」
 それに気づいたモヱが、ダモクレスだったモノに近づいた。
 残念ながら除雪機を再生する事は困難であったが、いくつか使えそうなパーツがあった。
「倉庫にもう一台、除雪機があるようだぜ。随分前に壊れちまったようだが、このパーツ……使えるんじゃねぇか?」
 鬼太郎がパーツを手に取り、大急ぎで倉庫に走っていった。
 倉庫にあった除雪機は大量の埃を被って、あちこち錆ついていたものの、ケルベロス達の知識と、パーツを使えば修理できないレベルではなかった。
 それから、しばらくして……。
「エンジン、かかれー!」
 シルディが祈りにも似た感情を抱きつつ、除雪機のエンジンをかけた。
 その気持ちに応えるようにして、除雪機が鈍い音を響かせ、ガタガタと動き始めた。
 それはまるで産声のようでもあったため、ケルベロス達の間で安堵の溜息を漏れた。
「仕事上がりの一服は身に染みるでござる」
 そう言って、くくるが何処からかキセルを取り出し、一服してから煙を吹かせ、新たな命を得た除雪機を眺めるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。