怠惰の夢喰いと死神怪魚

作者:坂本ピエロギ

●千里の道を飛べたなら
『あーあ、面倒くさいなぁ』
 ひんやりと冷たい石畳に腰を落とし、大鍵を抱えた女の夢喰いは呟いた。
 ジュエルジグラットの崩壊から逃げ延びた後、静かな古城に身を隠してはや一ヶ月。一向にやって来ない死神勢力の迎えもどこ吹く風で、女は呑気に欠伸を噛み殺す。
 ぽかぽかの陽気、青空を漂う雲。これで手頃な獲物がいれば言うことはないのだが。
『お魚さんたち、まだ来ないかな? 退屈だなぁ……』
 予定では、そろそろ『迎え』が来てもいい頃だ。だが探すのは面倒くさい。
 もうしばらくこの陽気を楽しもうと、大鍵を枕に女がのんびりと空を仰いだ、その時。
『……あ、来た来た。おーい、死神さーん』
 空を泳いでやって来たザルバルクの群れに手を振って、女はのそりと歩き出す。その足元に、七色に輝くモザイクを残しながら――。

●ヘリポートにて
「ジグラット・ウォーの勝利おめでとう。お前たちの戦いによって、ジュエルジグラットは制圧された。ドラゴンに続きドリームイーターにも勝利するとはな……まこと素晴らしい」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロスの奮闘を称えると、早速ですまないがと本題を切り出した。
「本星とゲートを失い、すでにドリームイーターの勢力は事実上壊滅している。だが、先の戦争で生き残った『赤の王』と『チェシャ猫』が、生き延びた残党を導いて戦場から逃げ出していたことが判明した」
 ドリームイーターの多くはジュエルジグラットの崩壊と運命を共にしたため、残党の数自体は多くない。だが、この残党たちはデスバレスの死神勢力と合流を目論んでおり、彼らを迎えるために下級死神ザルバルクの群れが派遣される予知が得られたという。
「災いの萌芽は早急に摘まねばならぬ。これよりお前たちは敵の合流地点へと向かい、死神とドリームイーター残党の撃破を頼みたい」
 王子は予知を記した書類をめくり、作戦の概要をケルベロスへと伝える。

「敵の合流ポイントは、風光明媚な古城にある無人の広場だ。ここで待ち伏せを行えば、直に死神の迎えと、それに気づいたドリームイーターが現れるだろう」
 そうして王子は、夢喰いと思しき女性の姿をヘリオンのモニターに映す。
「標的は『怠惰なミザリー』。この女は『努力』が欠損したドリームイーターで、モザイクや鍵を駆使した攻撃は、対象となった者の『やる気』や『意欲』を奪う力がある」
 王子によれば、ミザリーは疲れた者を狙って息抜きへと誘い、やる気を取り戻したところを攻撃してドリームエナジーを奪う……という手口を繰り返していたらしい。妨害の力に優れ、戦闘ではあの手この手でケルベロスのやる気を奪ってくるだろう。
「ミザリーをそのまま放置した場合、戦闘開始から6分が過ぎると撤退してしまう。戦場ではザルバルクの群れとも戦う必要があるゆえ、どの相手をどう倒すかは、事前に相談で決めておいた方が良かろう」
 もしも逃亡を許した場合はザルバルクを全滅させれば作戦成功となるが、ミザリーの撃破を狙う場合は、序盤からの集中攻撃や挑発など、相応の対策が必要だと王子は言った。
「ジュエルジグラットを逃げ延びた者たちは、放置すれば必ず地球に牙を剥くだろう。確実に撃破してもらいたい、頼んだぞ!」


参加者
ティアン・バ(とまれ・e00040)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
フィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
レンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
鉄・冬真(雪狼・e23499)
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)

■リプレイ

●一
 春の暖かい風が、敷石で舗装された広場を吹き抜けていく。
 森の中にひっそり建つ風光明媚な古城、その広場に面した物陰に、いまケルベロスたちはひっそりと身を隠していた。
「とても素敵なお城ですね、ザラキ」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)は、そびえ立つ洋風建築の古城を眺めながら、相棒のミミックに向かって呟く。
「空気も綺麗で、息抜きには最適。デウスエクスの潜伏場所には勿体ないですね」
「息抜きか。ま、たまの羽休めはいいモンだろうけどな」
 シャドウエルフの魔女たるレンカ・ブライトナー(黒き森のウェネーフィカ・e09465)はキヒヒと悪戯っぽく笑い、今も城のどこかに潜む敵のことを考える。
 『怠惰なミザリー』。努力が欠損した、夢喰いの女を。
「努力できねー、か。つまり未来に夢や希望が持てねーってコトかな」
「ん? そりゃどういう意味だ?」
 ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)が、レンカの言葉に首を傾げる。
 やんちゃで元気なドラゴニアンの少年。そして旅団仲間でもある彼に、レンカは真っ赤な瞳をキラリと輝かせて言う。
「だって努力ってのは、自分の未来を輝かせる為にするコトだろ?」
 そう考えると、ミザリーも少し哀れかもな――同情するような気配もなく、かるい口調で言ってのけるレンカに、ラルバは「確かにな」と八重歯を覗かせて笑った。
「みんなの頑張りは奪わせねえ。必ず仕留めるぜ」
 6分という時間、10体を超える相手。激戦になることは想像に難くない。
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は顔の戦化粧を指でなぞり、望むところだと闘志を燃やす。
「やる気がなければ、前には進めないのです。夢喰いには渡さないのですよ」
 私が、何もかも守れる盾になってみせる――今も昔も変わらぬ決意を静かに燃やす真理。
 そこへエンジンを温めていたプライド・ワンが、黄色いヘッドライトで警戒を促す。
 広場を照らす日向を見れば、そこにぽつぽつと魚影が差し始めていた。
「あらあらー。死神さんたちのー、ご到着ですわねー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はおっとりとした微笑を浮かべ、広場の様子を凝視する。
 すでにミザリーも、死神の到着は感知しているはず。間もなく姿を現すだろう。
「お城をお騒がせするのは忍びありませんがー、見過ごす訳には参りませんのでー」
 鉄塊剣『野干吼』を手に取るフラッタリーの横では、鉄・冬真(雪狼・e23499)が友人のフィー・フリューア(歩く救急箱・e05301)を振り返った。
「フィー、準備はいいかな?」
「大丈夫。いつでも行ける」
 そう頷くフィーの笑顔は、少しぎこちない。
 病める患者たちを食い物にした夢喰いが、ついに討つこと叶わなかったあの敵が、いま目の前に現れる――静かに息を整えるフィーに、冬真は励ましの笑みを送った。
「大丈夫、僕たちが協力するよ。ここで終わらせよう」
 その言葉に、同じく友であるティアン・バ(とまれ・e00040)も頷く。
「フィーの敵だというならティアンの敵だ。力になろう」
「ありがとう。二人とも」
 フィーの声から緊張が解けた、その時だった。
『来た来た。おーい、死神さーん』
 ふらりと広場に現れた女が、死神に向かって手を振っている。
 足跡には虹色のモザイク。手には剣のように大きな鍵。ミザリーに間違いない。
『ドリームエナジーが欲しいなぁ。楽な獲物がいそうな場所、知らない?』
 それを聞いた瞬間、フィーは駆け出していた。
「ミザリー!!」
 振り返る夢喰い。身構えるザルバルク。
 ケルベロスの群れが、デウスエクスの群れめがけて一斉に飛び掛かっていく。

●二
『あー、ケルベロス? 面倒だなぁ』
 襲撃を察知したミザリーは気怠そうに鍵を構え、抵抗の構えを見せる。
 それと同時に、宙を舞っていたザルバルクが殺気をまとい、次々にケルベロスの隊列へと襲い掛かってきた。
『やっちゃっていいよ、死神さん。面倒くさいから』
「雑魚は無視です、プライド・ワン! 狙うはミザリーひとりですよ!」
 真理は固定砲台を展開、FAWキャノンの砲撃で攻撃開始の狼煙を上げる。
 正式名『フォートレス・アンチデウスエクス・キャノン』。治癒の阻害効果を持つ砲弾でミザリーを捉える真理に続いて、プライド・ワンが全速力で加速。全身を炎に包んでの体当たりで夢喰いに突っ込んだ。
 ミザリーを集中攻撃し、撤退前に撃破――。
 予め定めた作戦に従い、ティアンが、フラッタリーが、食らいつく死神の群れをかき分けながら被弾覚悟の全力攻撃を仕掛けていく。
『ねえケルベロスさん、少しの間だけ息抜きしない?』
「はは。あいにくだが、お前とはお断りだな」
 ティアンの胸元から零れ落ちた地獄炎は、たちまち巨大な炎へと育ち、業火の海となって標的のミザリーを飲み込んだ。
「掲ゲ摩セウ、煌々ト。種子ヨリ紡ギ出シtAル絢爛ニテ、全テgA解カレ綻ビマスヨウ」
 額の弾痕に地獄炎を迸らせて狂笑を浮かべながら、フラッタリーは足を止めたミザリーの懐に飛び込み、炎を宿した鉄塊剣を荒れ狂う爆炎とともに叩きつける。
「紗ァ、貴方ヘ業火ノ花束ヲ!!」
 古城は瞬く間に戦場と化した。轟音が響き、炎に包まれた広場で、しかしミザリーは平然と欠伸を漏らしながらケルベロスの猛攻を凌ぐ。
『死神さん、先に攻撃してて。少し休んだら本気出すから』
 言い終えるや、すべてのザルバルクが一斉に宙を遊泳し、見る者を眠りへといざなう舞いがケルベロスの隊列に降り注ぐ。イッパイアッテナは仲間のディフェンダーと協力して攻撃を防ぎながら、瞼がみるみる重くなるのを感じた。
「ああ……いけません、眠気が……」
 心地よい睡魔が、そろそろと忍び寄ってくる。
 このまま眠ってしまいたい。熟睡とは言わない、せめて5分でいいから――。
「……ハッ! ダ、ダメです! ザラキ、喰らいついてやりなさい!」
 イッパイアッテナはミミックにガブリングを命じると、気合の掛け声を上げながら戦斧を勢いよく地面へと叩きつけた。
「大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 イッパイアッテナが掘り当てた『龍穴』から湧き出る清浄な力で、冬真の眠気がみるみる覚めていく。冬真は今が好機とばかり眼鏡を外し、眉間を揉んで呟いた。
「よし、目が覚めてきた。これで頑張れそうだ」
 頑張る意欲はミザリーが求めるもの。果たして彼女はぴたりと足を止め、虹色のモザイクを冬真のいる前衛へと降らせてきた。
「そうはいくか……っ! チャンスだ、いけ!」
「ああ。奴は絶対逃がさない」
 モザイクを庇ったラルバの横から跳躍し、マインドソードで斬りつける冬真。
 一方ラルバは、強烈な倦怠感を吹き飛ばすように、フローレスフラワーズの舞踏で前衛を包み込んでいく。
「まだ頑張れるぜ! オレのやる気、そう簡単に奪えると思うな!」
 お前たちの攻撃など全部防いで癒してみせる――竜の尾をピンと立て、己を鼓舞しながらラルバは胸を張る。レンカはその背後からバスターライフルを構えると、照準の中に収めたミザリーめがけトリガーを引いた。
「キヒヒ! もらったぜ、夢喰い?」
 青白い光を放つ凍結光線は、ミザリーを分厚い氷で包み込んだ。
 キヒヒと笑うレンカ。なおも執拗に食らいついてくるザルバルクに向かって、若い魔女は挑発の視線を投げ返す。
「焦んなって。お前らの相手は後でたっぷりしてやるよ、お魚ちゃん達」
 自分たちが狙うのは、あくまで本命。邪道の魚に用はない。
 とはいえ10を数える死神の攻撃は、着実にケルベロスの体力を削り取っている。攻撃を庇うディフェンダー陣のダメージは、特に大きい。真理などは体中に噛み傷をこさえ、襲い来る睡魔に舟をこぎ始めている。
「ま……まだまだ、ですよ……」
「待っててね。いま回復するから」
 フィーは傷ついた前衛を癒すため、『幻想のオーケストラ』を奏で始めた。
「想い描く結末は――もうその掌の中に」
 ウサギが、クマが、シカが、森に住む可愛らしい動物たちが、大勢の楽団となって賑やかなオーケストラを演じ、前衛の味方を包み込む。その調べで夢喰いのモザイクがもたらした倦怠感を除去すると、フィーは胸を張って告げた。
「やぁ久しぶり。やっと出てきたねぇ、ミザリー」
『誰だっけ……面倒くさいな、思い出すの』
 ミザリーは欠伸を噛み殺し、フィーの言葉に首を傾げた。
 適当に相手をして、さっさと退散したい――そんな表情を隠そうともしないミザリーに、フィーは纏ったバトルオーラを弾けんばかりに滾らせて笑う。
「患者さん達の邪魔したの、忘れてないからね? 今度は僕が邪魔してあげる」
『煩いなぁ。きみ、嫌い』
 もう一人も犠牲者は出させない。揺るがぬ決意を胸に、癒しの手を振るうフィー。
 戦闘開始から、3分が過ぎようとしていた。

●三
 意欲を挫く攻撃に耐えながら、ケルベロスはなおも戦いを続行する。
 対するミザリーも負けじと攻撃を繰り出すが、序盤からの集中攻撃を浴び続けたことで、負ったダメージは無視できないものへとなりつつあった。
『んー。戦うの面倒くさくなってきたなぁ』
 そろそろ潮時とばかり、面倒くさそうに撤退しようとするミザリー。そこへフィーの支援で眠気を払った真理が、大きく伸びをして見せた。
「ふあ……眠いなんて言ってられないです。頑張らなきゃですよね」
 反射的に足を止める夢喰いへ、すかさず真理が改造チェーンソー剣の刃を叩き込む。
 ミザリーは燃え上がるジグザグの傷口を癒すように、取り出した飴玉を口に含んだ。妨害の力を上昇させる回復グラビティだ。
『ふう……疲れたから、これで一休み』
(「まずい……!」)
 イッパイアッテナはバトルオーラで両手を覆った。戦闘開始からじきに4分、ここで態勢を立て直されるわけにはいかない。
「受けなさい!」
 裂帛の気合を込めて放つ超音速の拳は、しかし妨害の力をブレイクするには至らない。
『しつこいなぁ。面倒くさいし、そろそろ終わりにしようよぉ』
「やれやれ……どっかの誰かと同じよーな事ばっかり言いやがって」
 億劫そうに欠伸をするミザリーの言葉に、レンカは肩をすくめて苦笑すると、一枚の銀貨を懐から取り出した。
「おい夢喰い。こいつはな、捻くれたオッサンからの授かりモンだ」
 強化の力を削ぎ落す、不思議な銀貨。
 『面倒くさい』が口癖で、その実努力することが大好きな、レンカの師匠から授かった、魔女の叡智がもたらす破呪の力。
「Du bist ein Idiot――遠慮なく受け取りな!」
 『慈心に降る星の銀』。その一撃がミザリーの保護を完全に剥ぎ取った。
 ティアンの流星蹴りが降り注ぐ。真理は反撃で飛んでくる大鍵からフラッタリーを庇いながら、ミザリーが弱り始めた手応えを感じ取る。
 戦闘開始からじきに5分。のんびりしている時間はない。真理は棒のように固くなった足を叱咤して、仲間たちへ攻撃を促した。
 今こそケルベロスの頑張りを、あの夢喰いに見せてやるのだ。
「皆さん、チャンスなのですよ!」
 真理が言い終えるや、鉄塊剣を勢い良く振りかぶったフラッタリーが、金色の瞳に殺意を漲らせて飛んだ。叩きつけるは、地獄炎を帯びた野干吼のブレイズクラッシュだ。
『面倒……邪魔、しないで……』
「終わりと行こうぜ、夢喰い!」
 炎に包まれるミザリー。ラルバは広げた両掌に、力を収束させる。
 風を司る御業。降魔拳士の力。そして自身のグラビティ・チェイン。
 そして――ありったけのやる気と努力、そして意思を込めて。
「宿れ神風、轟き吹き抜け切り刻め!」
 勢いよく放たれた『降駆・風神掌』の一撃は、ミザリーの体を深く抉り、ジグザグの傷跡を刻み込んだ。
 今や傷だらけとなったミザリーは、なおもふらりふらりとした足取りで、最後の悪あがきとも言える一撃を、冬真めがけて浴びせにかかる。
『ねえ、息抜きしない……?』
 甘い猛毒を含んだ、夢喰いの囁き。
 その誘いがもたらす傷は、虹色に輝く癒しの七色によって、すぐに塞がれた。
『え? どうして……』
「僕はね、決めてたんだ」
 呆然と口を開けるミザリー。その目を真正面から見据えて、『にじいろこんぺいとう』で気力溜めを飛ばしたフィーが口を開く。
 今度は誰も、犠牲にしない。
 全員無事で、一緒に帰る。
 それこそ魔医フィー・フリューアにとって、最善の勝利なのだと。
『そん、な……』
「冬真。とどめお願い」
 フィーの言葉に頷き、冬真が跳ぶ。狙うはひとつ、夢喰いの心臓だ。
「さあ、もう終わりにしようか――終焉を、」
 黒塗りの短刀『哭切』が放った、刀身の冷たい光。
 それが、夢喰い『怠惰なミザリー』が最後に見たものとなった。
『ああ……どれもこれも、面倒、くさい……』
 心臓にグラビティを撃ち込まれたミザリーは、全身を光に包まれ消滅していく。
 戦闘開始から丁度6分目の決着に、額の汗を拭う冬真。だが安堵するにはまだ早い。
「さあ、残るはザルバルクだ」
「一気に畳みかけるです。100倍返しで行くですよ!」
 真理のFAWキャノンが、イッパイアッテナのスターゲイザーが、サーヴァントの攻撃もろともに中衛の2体を粉砕した。それを皮切りに、ケルベロスの刃が、魔法が、濁流となって後衛のザルバルクめがけて押し寄せる。
 瞬時に蹴散らされる魚群のとどめに飛来するのは、フラッタリーのファイアーボール。
「華ハ散RI、野干wA貪リ。炎ワ塵二、禽獣ハ嗤U」
 断末魔も上げずに灰燼に帰していく死神を見上げて嗤うフラッタリー。その狂える笑い声がふと途絶えるのと同時、古城は再び平穏を取り戻す。
 そこに、倒れた仲間は一人もいなかった。

●四
「いやー疲れたー! みんな、お疲れ!」
 再び静寂を取り戻した古城で、伸びをしたラルバは言った。
 すでに広場は修復も終わり、僅かに残る石畳の幻想だけが、激闘の痕跡を物語っている。ここで斃れた夢喰いの存在も、遠からず忘れ去られることだろう。
「いやー、頑張って疲れたな……良さげなとこで一眠りしてこっかな」
 大きく広げた竜翼に春風を浴びながら、ラルバはのんびりと帰り支度を始める。仲間の命と、そして笑顔。大事なものを守るため、頑張った事への達成感を胸に抱きながら。
 いっぽう冬真は、長い戦いに終止符を打ったフィーの傍にいた。
「お疲れ様。決着がつけられて何よりだよ」
「ありがとう。ティアンもね、助かったよ」
「お安い御用だ、このくらい。さてどうする? 一息つくか?」
 ティアンの叩いた軽口に、しんみりした空気もすっかり吹き飛んだ。
 フィーもまた、堪えきれずに笑いを漏らし、
(「いい天気。この後久しぶりに、お見舞いに行ってみても良いかもねぇ」)
 そんなことを考えながら、晴れ渡った空を仰ぎ見る。
 暖かい春が、もうそこまで来ていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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